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  • 2013⁄03⁄11(Mon)
  • 05:54

俺がウーイッグに赴任してから、

俺がウーイッグに赴任してから、今日でちょうど2週間になる。
俺に与えられた任務は、街の治安維持と、マンハンターの補助。
だが今のところ仕事らしい仕事はしていない。
おそらく、この先も俺が活躍する機会はほとんどないだろう。
なぜなら・・・この街が至って平和だからだ。
もともと、金持ちで上品な連中ばかりが暮らす街だ。
強盗だの殺人だのといった物騒な事件の話は、全く聞かない。
もうマンハンターの手伝い・・・つまり不法滞在者の摘発の方も、
サボっていたところで文句を言う者はいない。
街の中には、外部から来た不法滞在者がいつでもウロウロしている。
しかし、街の人間はそいつらに対して実に寛容だ。
「いいんですか?奴らの跋扈を見逃していても・・・」
そう、上司であるマンハンターに聞いてみたことがある。
だが、返ってきた答えは、
「この街は昔からこうなんだよ。まあ、気にしなさんな」
ここでは、誰も彼もが穏やかすぎる。
ここで暮らしていると、べスパが世界各地で暴れまわってることなど、忘れてしまいそうになる。
(まあ、安月給に見合った業務内容ではあるな)
そんなことを考えながら、今日も派出所の中で欠伸をする。
ハイソな街だけあって、派出所の設備もそれなりに豪華だ。
仮眠室にあるベッドは上等なものだったし、シャワールームも結構広い。
下宿に帰らなくても、充分生活できる。
今まで赴任してきたどこの土地よりも、恵まれた待遇だった。
「さあって、と・・・」
立ち上がり、軽く伸びをしてから、パトロールに出かける。
まあ、パトロールと言っても、実際は気晴らしの散歩のようなものだが。
ぶらぶらと通りを歩く。
「ご苦労様です、駐在さん」
犬の散歩をしている老婦人が、声をかけてきた。
「こんにちは。かわいいワンちゃんですねえ」
はっきり言って、俺は地球上に存在する生き物の大半が嫌いだ。
特に、犬も婆さんは大嫌いだ。
それでも、市民に対しては愛想を装わねばならない。
それが警察官の義務というものだ。
「いい毛並でしょ?毎日しっかりと手入れしてますのよ」
「はあ・・・」
「名前はバーゼニーって言いますの。頭もいいんですよ。この前なんか・・・」
やれやれ、愛犬自慢大会が始まってしまった。
「へえ・・・そりゃあすごいですねえ・・・」
適当に相槌を打つ。
「やっぱりそう思うでしょ?それなのに、うちの主人はバーゼニーのすごさを
 全然理解してくれませんの。そうよ、うちの人ったら本当にひどい人で、いつも・・・」
犬コロ話の次は、家庭内不和の愚痴大会か・・・。
「お察ししますよ・・・ええ・・・ええ・・・ん?」
老婦人の50メートルほど背後にある建物の陰から、一人の少年が顔を出した。
俺たちのいる路地を、キョロキョロと見渡している。
(何だ、あいつは?)
俺の視線と少年の視線が、ぶつかった。
少年は一瞬「まずい!」という表情をした後、顔をひっこめた。
あからさまに怪しい。
「あら?・・・どうなさいましたの?」
「いや、ちょっと・・・失礼!」
俺は老婦人の横を通り過ぎ、少年を追った。
(この街での初仕事になるかな・・・)
狭い路地裏に入る。
少し先に少年の後ろ姿が見えた。停めてあるワッパに乗ろうとしている。
「君っ!」
少年はビクッと肩を震わせた後、こちらを振り向いた。
「僕・・・ですか?」
「君以外に誰がいる?ちょっとこっちに来い」
「はい・・・」
少年はワッパから離れ、渋々と歩み寄ってきた。
近くで見ると、かなり端正な顔立ちの少年であることが分かる。
俺は地球上に存在するほとんどの生き物が嫌いだが・・・美少年だけは別だ。
気持ちの高揚を隠し、事務的な口調で問いかける。
「逃げずに来たな?感心なことだ」
「逃げなきゃならないようなことは、してませんよ」
「ふん、どうだかなあ・・・俺の顔を見て、一度は逃げようとしただろ?」
一見良家のお坊ちゃんのように見えるが、着ているものは安物だ。
街の外に住む不法滞在者に間違いない。
手には、年代もののカメラを持っている。
「そんなことは・・・」
「そのカメラはなんだ?何を撮っているんだ?」
「え・・・えーと・・・・・・ま、街の風景です。ウーイッグは綺麗な街だから・・・」
「ふーん。写真が趣味なのか?」
「ええ。・・・あの、これから買い物に行かなきゃならないんで・・・
 もう行ってもいいですか?」
「ああ、君がこの街の人間ならな」
「それ・・・どういう意味ですか?」
「君は不法滞在者だろう?だから取り調べる必要がある、ということだ」
少年は目を丸くした。
「えっ!?」
「警官が法に触れている人間を捕まえるのは、当たり前のことだろう?」
「そんな馬鹿なっ!」
「何が馬鹿なもんか。異議があるなら、住民登録票を見せてみろ」
「・・・」
「どうした?」
「確かに、僕は不法滞在者です。でも、取り調べなんて、今まで一度も・・・」
少年はうつむいた。
「ウーイッグは今までずっと僕らを受け入れてくれたのに・・・どうして急に・・・」
「今までが甘すぎただけだ。さあ、派出所まで来てもらおうか」
俺はワッパの後ろに乗り込んだ。
「道は案内する。運転しろ」
「・・・はい・・・」
腰の拳銃の上に手を置く。
「もし逃げようとしたら、容赦はしない」
少年は一瞬何かを言いかけたが、結局口をつぐんだまま運転席に座った。

少年は俺の指示どおりにワッパを走らせた。
派出所には10分もかからずに到着した。
「僕・・・どこかのコロニーに強制移住させられちゃうんですか?」
「それは、これからの取り調べ内容によるな・・・さあ、中に入れ」
俺は少年の肩を押した。
「・・・」
少年は無言で玄関をくぐった。
「ほら、忘れ物だぞ」
少年が運転席に置いたカメラを手に、俺も後に続く。
「あ、すみま・・・せん・・・」
少年はソワソワと落ち着かない様子だ。
「別にとって食おうと言うんじゃないんだ。少しは落ち着けよ」
玄関に鍵をかけ、さらに窓という窓のカーテンを閉じる。
日光がさえぎられ、部屋の中が暗くなる。「あの・・・」
「取り調べの様子を、第三者に見られたくはないだろう?
 不法滞在者とは言え、プライバシーは大切だからな」
「あ・・・ご配慮ありがとうございます」
少年はペコリと頭を下げた。
その律儀な様子に、一段と感情が高ぶる。
(俺の本当の目的も知らずに・・・かわいいもんだ)
顔のニヤつきをこらえながら、電灯のスイッチを入れる。
「そこに座るんだ」
「はい」
机を挟んで、お互い向かい合う。
「さて・・・君の名前は?」
「ウッソ・エヴィンです」
「ふむ。ウッソちゃん、ね」
少年・・・ウッソは、馴れ馴れしく名前を呼ばれたことを不快に思ったのか、
ムッとした表情を浮かべた。
「どこに住んでいる?」
「カサレリアです」
「なるほど、カサレリア、と・・・」
調書を広げ、その上にカリカリとペンを走らせる。
「あそこは不法滞在者の溜まり場らしいなあ」
「僕以外の人も、捕まえるつもりですか?」
「余計なことは言わなくてよろしい。質問にだけ答えろ」
「す、すみません・・・」
「いつから住んでいる?」
「生まれた時から・・・です」
「家族構成は?」
「父親と母親がいましたが・・・今は一人暮らしをしています。兄弟はいません」
「両親は、亡くなったのか?」
「いいえ、僕のことを置いて・・・どこかに行ってしまって・・・ずっと帰ってこないんです」
ウッソは目を伏せた。
「そうか・・・」
子どもを養いきれなくなった親が、家庭を捨ててそのまま蒸発してしまう。
ちょいとばかし哀れだが・・・よくある話だ。
「悪いことを聞いちまったかな?」
「いいんです。もう、慣れましたから・・・」
薄く笑って見せるウッソ。
その健気な笑顔が、俺の中に眠る獣を揺り起こす。
(実にいい子だなあオイ・・・楽しい・・・楽しくなってきやがった)
その他、どうでもいいことを一応細々と聞いた後、俺は調書を閉じた。
「取り調べは、これで終わりですか?」
「ほとんど終わりだ。だが、もう1つだけ調べなきゃならないことがある。
 そう、とても重要なことだ」
俺は深刻そうな口ぶりで言った。
「・・・なんでしょう?」
ウッソは身構えた。
「不法滞在者ってのは、大概において貧しい生活を強いられているものだ。
 君も、辛い現実から目をそむけたくなることがあるだろう?」
「ま、まあ・・・」
「それでだな、現実逃避のために・・・麻薬に手を出す不法滞在者が多いんだよ、最近」
「はあ・・・」
「君が麻薬を所持していないかどうか、調べさせてもらう」
「なぁんだ・・・そんなことですか」
ウッソはふうっ、と息をついた
「そんなこと、だと?君の今後を左右する大きな問題なんだぞ」
「あ・・・ごめんなさい」
「分かればよろしい。さあ、立って・・服を脱げ」
「え・・・?」
「服の中を調べる。ボディチェックもしなければならない」
(続く)「脱ぐ・・・んですか?」
「何か問題があるのか?」
「・・・いいえ」
とにかく、怪しまれてはいけないと思ったのだろう。
ウッソは大人しくジャンパーとズボンを脱ぎ、机の上に置いた。
受け取った服はどちらも糊がきいており、清潔感があった。
「不法滞在者の子どもには不精な奴が多いが・・・君はきちんと洗濯しているな。偉いぞ」
ジャンパーのポケットをまさぐる。
出てきたのは数枚の紙幣とワッパのキー、後は多少の塵。
ズボンの方に入っていたのはハンカチだけだった。
「おかしな物は入ってないな」
「そりゃあ・・・」
ウッソの目が、「僕が麻薬なんて持っているわけないでしょ?」と語っている。
(なんだよ、生意気な・・・)
真面目に検査している俺のことを、滑稽な思いで見ているに違いない。
昏い感情が膨れ上がる。
(思いっきりいたぶってやるからな)
俺は立ち上がると、下着姿のウッソの目前に迫った。
滑らかな肩のラインと、透き通るように白い肌。
今すぐにでも押し倒したくなるが・・・
「今度はボディーチェックだ。両腕を挙げろ」
「はい」
存分に楽しむためには、順序というものが大切だ。
まず、脇の下に手を入れる。
脇、胸、腹・・・じっくり体をなぞっていく。
緊張状態が続いたせいか、シャツは汗でしっとりと湿っている。
(なかなかよく締まっていて・・・いじり甲斐のありそうな体だ・・・)
シャツの上からでも、肌の弾力は充分伝わってくる。
「・・・どうですか?」
「よし、OKだ」
「はぁ・・・良かった・・・」
服に手を伸ばしかけたウッソを、制する。
「言っておくが、まだ終わりじゃないぞ?上半身はOKでも、下半身はどうかな?」
「えっ?」
トランクスのゴム部分に手をかけ、そのまま前に引っ張る。
「ちょっ・・・」
今まで余裕の色を浮かべていたウッソの顔が、一変した。
「どおれどれ?」
ニヤニヤが抑えきれない。
上から中身を覗き込む。
「ちょっとっ!そんなところっ・・・!」
そこには、少年らしい小ぢんまりしたものが、すっぽりと皮に包まれた状態でかしこまっていた。
邪魔な毛はほとんど生えていないため、よく観察することができる。
「ほう・・・」
その愛くるしい姿に、俺は思わず見とれてしまった。
「も、もういいでしょうっ!」
ウッソの手が、なかなか動こうとしない俺の手首を掴んだ。
「僕の体のどこを探したって、何にも出てきません!分かってもらえましたよねっ!」
まるで熱湯で茹でられているかのような、真っ赤な顔に必死な声・・・
「ああ、よおく分かった」
俺は手を離した。
ゴムの張力でトランクスが勢いよく戻り、パチンという音を立てて下腹に当たる。
「あいたっ!」
「ああ、よく分かったよ。前には・・・そう、前には何も隠してない。だが・・・」
「前には、って?・・・まさか・・・・・・」
「後ろも、調べないとな」
左手をウッソの後ろにまわし、トランクスと尻の間にすべりこませる。
「わあっ!」尻の肉をわし掴みにする。
すべすべした柔らかな皮膚の上に、うぶ毛の微かな感触。
手の平に幸福感が広がる。
「そそ、そんなところに・・・隠すわけ・・・」
「下着の中に隠すってのは、よく使われる手口なんだよ」
手を股の間に伸ばす。
「何も・・・見つからないでしょう?」
「・・・」
黙って内股をまさぐる。
「う・・・いい加減にしてください!そこには何も・・・」
「なぜ、そんなに必死になって否定するんだ?」
「え・・・?」
「怪しいなあ・・・もしかして、この辺りに何か隠しているんじゃないか?」
会陰部に中指をあてがい、力をこめながら尻の割れ目に滑らせていく。
「うっ!?」
「ブツをコンドームに包んで・・・」
「な・・・な・・・」
中指で熱っぽい窄まりを抑える。
「ここの中に隠しておくってのも・・・」
「な・・・なななななななな」
「結構ありがちなパターンだよなあっ!」
一気に、挿れる。
「んえっ!?」
・・・熱い。
「あ・・・あっ・・・」
ウッソがまず見せたのは、驚きの顔。
突然襲ってきた衝撃が一体何なのか、分からないようだ。
いや、体で分かっていても、頭では認めたくないのか。
「あ・・・え・・・?・・・何・・・・・・しているんですかぁ?」
分かりきった質問である。
俺は侵入を続けながら、ウッソの耳のすぐそばに口を寄せ、囁いてやった。
「直腸検査、だ・・・」
「!!」
目の前の男の指が、自分の胎内をかき回している。
そう実感した瞬間・・・ウッソは苦悶の大声を出し、背中をのけぞらせた。
「ぐあああっ!痛い、痛いぃぃぃっ!」
指を締め付ける力が、一段と増す。
(そうだ、痛がれ・・・痛がるんだ)
負けじと、狭まり行く肉壁をこじ開ける。
「痛たたっ!ぐうっ、痛ぁっ!」
両手で俺の左腕をつかみ、トランクスの中から抜こうと抵抗する。
「やめてっ!やあああっ!」
子どもだと思って侮っていたが、なかなかの力だ。
「む?」
せっかく挿入した指が、ずるずると出口に向けて引きずられていく。
「むう・・・抵抗するなっ!」
右腕を使い、ウッソの両腕を抑えにかかる。
「ないんだっ!何も入ってなんかいないっ!」
ぶんぶんと頭を振りながら、ウッソはなおも抵抗し続ける。
これでは、思うように「検査」を続けることができない。
しかたなく、指を引き抜く。
「んあっ!」
抜くと同時に、ウッソはその場に崩れ落ちた。
尻をおさえながら低くうなり続けている。
「まったく・・・少しぐらいじっとしていられないのか」
「うう・・・だって・・・」
涙目で、鋭く睨まれる。
「だって?」
「いきなりこんなことされたら、誰だって・・・」
「そうか、『いきなり』がまずかったか。それなら・・・」
俺はかかとを揃え、敬礼の姿勢をとった。「あなたには麻薬所持の疑いがあります。法律の定めるところにより、
 本官にはあなたの腸内を検査する義務があります。ご協力願います!」
我ながら阿呆なセリフだ。
表現は格式ばっているが、つまりは「ケツを覗かせろ」と言っているのだから。
ウッソは本気で面食らっている。
「・・・え・・・」
「さあ、やるべきことをきちんと伝えたぞ。これなら、いいか?」
「よ・・・よくありません!なんで2回も、こ、こ、こんなところを調べられなきゃならないんですかっ!」
「さっきは奥まで指がとどかなかった。検査は厳密に行わなければならない」
「僕は法律に触れる物なんて持っていません!」
「それが本当か嘘か、これから調べようというんじゃないか」
「お願いだから・・・信じてください・・・」
形のいい眉をひそめ、懇願するウッソ。
ともすれば泣きそうになるのを、懸命にこらえているようだ。
(すごく必死な顔・・・可愛いな)
そんなウッソの表情に、俺は「美」を感じていた。
(こういう子のこういう顔が見られるんだから・・・警察官という職も悪くはないよな)
だが、この程度の絶望感を与えただけでは、まだまだ満足できない。
少年の美が最も映えるとき、それは・・・
恥辱と苦痛に顔を歪ませ、我も無く泣き叫ぶときだ。
「君はまだ子どもだし、指による検査だけで済ませてあげようと思っていたが・・・」
「どうしても・・・信じてもらえないんですか?」 
「その態度が気に食わない。形式通り、ガラスの棒を突っ込んで調べさせてもらう」
「ガラス・・・?」
「棒の太さは・・・3センチぐらいはあるのかなあ?
 とっても太くて、冷たくて、かなり気持ち悪いだろうが・・・」
「そ、そんなのって・・・」
予想通り、ウッソは体を震えさせ始めた。
「君は潔白なんだろう?それなら、検査にも耐えられるよな?」
「・・・い、嫌です。そんなの耐えられないよ・・・」
首を横に振るウッソを睨み、冷酷に言い放つ。
「検査再開だ。パンツを下ろし、尻を出せ」
「・・・!」
ウッソは恐怖に満ちた目で俺を見た。
少年からこういう目で見られると、背筋がゾクゾクしてくる。
しかし、これはウッソに真の恐怖を味あわせるための、
そして俺が真の恍惚を得るための前戯に過ぎない。
(第一段階はこんなものでいいか・・・)
俺は目じりを下げると、おどけた調子で言った。
「・・・なあんて、な」
優しく頭を撫でてやる。
「ちょっとした冗談のつもりだったんだが・・・怖がらせすぎちゃったか?」
「・・・え?」
「俺も警官生活が長くてな・・相手が悪い奴かどうかは、カンで分かる。
 君は悪い奴じゃあない。むしろ・・・いい子だ」
「えっ?えっ?」
「つまり・・・もう検査なんてしない、ってことさ」
「それ・・・本当ですかっ!」
「本当だよ」
「あう・・・よかったぁ・・・」
張りつめていた気持ちが急に解きほぐされた時、人はホッとすると同時に涙腺が緩む。
ウッソもまた例外ではなかった。
「ぐす・・・・・・すごく・・・怖かった・・・」
「ハハハ、なにも泣くことはないだろう?」
「なんだか・・・自分のことがすごく惨めに思えて・・・不法滞在者だからって、
 普通の人とは違う扱いを受けていると思うと・・・・・・すごく・・・すごく・・・」
俺はウッソの肩に手を置いた。
(これからは、もっともっと惨めな思いをすることになるぜ)内心そう思いながら、二枚舌を使う。
「すまなかったな。俺だって尻なんていじりたくはないんだが、これも職務のうちでな」
「お気になさらないでください。僕は大丈夫ですから」
ウッソの大人びた態度に、俺は改めて驚いた。
並の不法滞在者のガキなら、ここで「何が職務だ、ふざけやがって!」などと
食ってかかってくるところだ。
「こんなところに連れ込んで、変なことしてしまって、本当に悪かったと思う。
 それというのも、上から『不法滞在者の取締りを強化するように』という急な命令があってだな・・・」
「なんで今さら・・・?」
「偉い人たちの考えることなんか分からんさ。それでも、俺たちは命令には従わなければならない」
「じゃあ、やっぱり強制移住・・・ですか・・・」
「なるべく、そうはならないようにしてあげるよ」
「?」
「職務上、君のことは本署に報告せねばならない。しかし、君はまだ子どもだ。
 特に前科も身よりもないということを訴えれば、目こぼししてもらえるはず」
「家に・・・カサレリアに帰れるんですか?」
「大人しくしていれば、な」
「うわあ、ありがとうございます!」
ウッソは俺の手をとり、嬉しそうに笑った。
「こら、はしゃぐな。まだ話は終わってない。今すぐ帰すわけにはいかないんだ」
「え?」
「2つほどお願いしたいことがあるんだが、いいか?」
「・・・何でしょう?」
「たいしたことではない。まず、君が着てきたジャンパーとズボンを預かりたい。
 本署の鑑識に持っていって、麻薬の反応が出ないかどうか調べてもらう」
「僕、本当に麻薬なんて・・・」
「分かってるって。でも、形式上やらなきゃならないんだ」
「・・・分かりました。もう1つは、なんですか?」
「この派出所の地下には独房がある。今日1日、そこに入っていてくれないか?」
「独房って・・・牢屋ですか?」
「なあに、これも形式上のこと・・・一時的な拘置にすぎない。
 明日になって、服の鑑定が終わったらすぐに出してあげるよ」
「でも・・・」
「俺は君を信じた。君も、俺を信じてくれ」
ウッソの瞳を、まっすぐ見つめる。
それに応え、ウッソはうなづいた。
「はい・・・」
この街に来てから2週間、俺はようやく上質の玩具を手に入れることができた。
(今日は久々に燃えられそうだ・・・)
今俺たちがいるオフィスの奥には、仮眠室と給湯室、トイレとシャワールーム、
そして地下への階段がある。
「少し、待っていてくれ」
ウッソを階段のところで待たせ、俺は仮眠室へ向かった。
クローゼットから毛布とシーツを引っ張り出す。
「よし、行こうか」
寝具を抱え、ウッソを伴って地下に降りる。
4つある独房のうち、1つを開ける。
俺がここに誰かを入れるのは、2度目のことだ。
赴任してきた初日に、羽目をはずし過ぎて歩けなくなった酔っ払いを収容して以来、
地下には全く足を踏み入れていない。
聞くところによると、俺の前任者の代にも、独房が使われることはほとんどなかったらしい。
(警察の世話になるような人間がいない・・・実にいいことだ)
お陰で、俺は誰にも見られることなく欲望を満たすことができる。
この街の美風に感謝せねばなるまい。
「埃っぽいところで、すまないが・・・」
「・・・」
ウッソは黙って独房の中に入った。
ベッド以外は何もない、狭い部屋。「寒くはないか?」
「ええ、ちょっと」
それほど寒い季節ではないが、今のウッソは下着と靴しか身につけていない。
「風邪でもひかれたら、始末が悪いからな」
ベッドの上の埃を手で払い、シーツを敷き、毛布を置く。
「ここで、毛布にくるまっているといい」
「ありがとうございます・・・」
ウッソはベッドにちょこんと腰掛けると、毛布を肩にかけた。
「何か飲み物はいるか?」
「いえ、どうぞお構いなく」
「遠慮するな。紅茶とコーヒー、どっちがいい?」
「それじゃあ・・・紅茶をお願いします」
「よし」
上に登り、給湯室でインスタントの紅茶を淹れる。
(充分に『優しいおまわりさん』って奴を演じておかないとな・・・・・・お、そうだ!)
オフィスに行き、棚から薬箱を出す。
(これ、そのうち使ってみたいと思っていたんだ)
白い粉薬の包みを1つ手に取り、その中身を紅茶に溶かす。
(あの凛々しい顔がどう歪むか、見物だな)
一人でクックッと笑った後、俺は再び地下へと戻った。
「ほら、紅茶だ」
ティーカップから立ち登る湯気と香りが、独房のひんやりした空気を和やかなものに変える。
「すみません・・・いただきます」
紅茶を一口すすった後、ウッソは明るい笑みを浮かべた。
「ふぅ・・・とっても美味しいです」
「安物なんだがな」
「でも、体が暖まります」
「そうか。喜んでもらえたなら何よりだ」
俺も笑顔を返す。「ゆっくり飲んでいてくれ。俺はこれからパトロールに行ってくる」
独房の外に出る。
「あ、はい・・・」
扉を閉め、鍵をかける。
地下全体に、ガチャンという非情な音が響いた。
ウッソの顔が、少しだけ悲しみで曇ったように見えた。
「飲み終わったら、カップはそこら辺に置いておいてくれ」
「はい・・・お気をつけて」
「ああ、行ってく・・・」
「あ、あっ!」
ウッソが突然大声を出した。
(まさか、もう薬が効いてきたってんじゃないだろうな?)
「すみません、待ってください」
引き止めるウッソの方を、振り向く。
「お聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」
「なんだ?」
「えっと、僕のカメラのことなんですけど・・・」
「カメラ?・・・ああ、そんなことか。あれなら上に置いてある。
 君がここから出るときに、きちんと返してあげるよ」
「それなら、いいんですけど・・・でも・・・」
「何を心配しているんだ?」
「いや、もしかして、あれの中身も調べるのかなあ、と思って・・・」
ウッソの声には、切羽詰ったものが感じられる。
(街の風景以外にも・・・何か他人に見られたくないものを撮っているのか?)
ふと興味が湧いてきたが、俺はあくまでも『優しいおまわりさん』の役を続けることにした。
「さっきも言ったが・・・俺は、個人のプライバシーは大切にしなくてはならないと考えている
 君の趣味についてまで、追求するつもりはないよ」
「そうですか・・・そ、そうですよね!
 つまんないこと聞いちゃって、ごめんなさい」
「ふふ、俺は君の味方だよ・・・じゃあ、また後で」
ウッソを残し、俺は派出所の外に出た。
・・・もちろん、ウッソのカメラを携えて。
(今時ポラロイドのカメラとはねぇ。デジタル式のやつなら、すぐに画像を取り出せたものを)

日が沈みかけ、空にはもう星の光が見え始めている。
俺は足早に商店街の方へと向かった。
(あれ?確かこっちのほうだったような・・・いや、逆か?)
悔しいことに、俺にはあまり土地感というものがない。
(パトロールの途中、いつもこのあたりで写真屋の看板を見かけていたような気がするんだが・・・
 くそっ、もっと真面目に街の把握に努めねえと・・・)
ウロウロと通りを探しているうち、なんとか目当ての店を見つけることができた。
入り口に近づく。
「警察の人が、何の用だい?」
店の中から、でっぷりと太った老人が出てきた。
「用と言うか、ちょっと相談したいことが・・・」
「今日はもう店は終わりだよ。明日にしてくれ」
老人は入り口のドアにかかっていた札を、『OPEN』から『CLOSED』に裏返した。
なんという愛想の無さ!
「待ってくださいよ!この街の治安に関わることなんです」
「自分で言うのもなんだが、俺は善良な市民だ。
 警察の厄介になるようなことをした覚えはないぞ」
「そうではなくて・・・」
俺はウッソのカメラを見せた。
「ほう・・・こりゃ・・・ちょい、貸してみい!」
老人の目の色を変えると、俺の手からカメラを奪い取った。
「いやいやいや・・・・・・」
しげしげとカメラを眺めている。「ちょっとした値打ち物だぞ、こりゃ。あんたのカメラか?」
「いいえ。実は、今ちょっとした事件を追ってまして・・・その容疑者の持ち物です。
 捜査上、この中身を確かめる必要があるのです」
「ずいぶんと趣味のいい容疑者さんだな。・・・で、わしに現像をしろと?」
「はい。お願いできますか?」
「なぜ、民間人のわしに頼む?」
老人の機嫌がよくなるよう、言葉を選びながら答える。
「お恥ずかしい話なんですが・・・今のウーイッグ警察には、
 こういう古き良きタイプのカメラを綺麗に現像できる人間がいないのです」
「古き良き、か・・・よく分かってるな、あんた」
「餅は餅屋、写真は写真屋の方にお任せするのが最適と思いまして・・・」
「うむ、任せておけ!今日のうちに、最高の画質で現像してやる」
「ありがとうございます!」
「礼なんていらん。警察に協力するのは、善良な市民の義務だからなあ」
俺は地球上に存在する生き物のほとんどが嫌いだ。
こいつのように、コロコロと態度を変える人間は特に不愉快だ。
「どうか、この事は他言無用に願います」
「守秘義務ってやつだな。分かっとる。明日の朝、もう一度おいで」
「では、よろしくお願いします!」
苦々しい思いを噛み潰しながら、俺は頭を下げた。
(そろそろ薬がまわるころだ。帰ってストレス解消と洒落込もう・・・)

俺は飛ぶようにして派出所に戻った。
(さあ、ショータイムだ)
私物がゴチャゴチャと入れているオフィスの机の中から、
ハンディサイズのビデオカメラを取り出す。
それを手に、ウキウキした気分でウッソのもとへ降りる。
「ああっ!・・・や、やっと戻ってきて・・・くれたんですね・・・」
予想通り、ベッドの上のウッソは実に苦しげな様子だ。
「おや、どうしたんだ?気分でも悪いのか?」
「トイレ・・・トイレに、行きたいんです・・・」
「トイレ?」
俺が先ほど紅茶の中に混ぜたのは、即効性の利尿剤である。
ウッソは今、襲い来る尿意と必死に戦っているのだ。
「そうです・・・あの、すぐに済ませるんで、ちょっとだけここから出してくれませんか・・・」
ウッソは俺の方に寄って来ると、ガッと鉄格子を掴んだ。
「ず、ず、ずっと我慢していて、も、も、もう、漏れちゃいそうなんです!」
内股を擦りあわせ、荒い息を吐きながらモジモジと身悶えするウッソ。
その切なげな表情は、あまりにも・・・
「可愛いすぎる・・・」
俺は率直な感想をつぶやくと、ビデオカメラをウッソに向けた。
「え?」
カメラを覗くと、驚愕の面持ちのウッソが見えた。
「何?何を撮っているんですか?」
「君が独房の中で大人しくしている様子だよ。君がいい子だってことを、
 警察の他の人にも見せなくてはならないからね」
「そ・・・そんなのは後でもいいじゃあないですか!僕は今、本当に・・・」
「残念だけど、君を外に出すことはできない」
「なんですって?」
「一度ここに入った者は、容疑が完全に晴れるまで出ることはできない・・・規則なんだ」
「うええええっ!?」
ウッソの顔が、ものすごい勢いで紅潮していく。
「な・・・漏れちゃう、漏れちゃうんですよっ!」
「そこにティーカップがあるだろ?
 小便がしたいんだったら、そこにでもすればいいんじゃないか?」
俺はベッドの下に置いてあるティーカップを指差し、こともなげにそう言い放った。
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