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  • 2015⁄01⁄05(Mon)
  • 23:16

工作員709号活動記録


どうしようもなく、ドキドキする。
目の前の粗末なベッドの上には、薄手のシャツとトランクスのみを身にまとった少年が無防備な姿で横たわっている。
部屋の中にいるのは私と少年の、2人っきり。
そう、自分は今、目の前の少年を好きなように弄ぶことのできる立場にあるのだ。
口の中が乾く。
実に静かだ。
耳に入ってくるのは少年の可愛らしい寝息の音と、次第に激しさを増す自分の心音だけだ。
私はガチ党直属のスパイ組織の一員だ。
普段は「工作員709号」と呼ばれている。
仕事の内容は諜報活動、破壊工作、暗殺…などなど。
そう、危険と隣り合わせの任務を隠密裏に遂行していく、闇の世界の住人なのさ…
などと言えば聞こえは良いが、実際のところ、私のスパイとしての腕前はあまり人に自慢できるようなものではない。
ヘマばかりしては同僚の足を引っ張っている。
「貴様は自分の感情に正直すぎる。努めて冷静であれ」
私のボスは、事あるごとにそう説教してくださる。
いささか悔しいが、おっしゃる通り。
私なんぞがどうして今まで生き残ってこれたのか、そしてどうして今の職場をクビにならないのか、自分でも不思議に思う。
私、及び私の同僚たちに「地球に降り、リガ・ミリティアの新型モビルスーツ・通称『ヴィクトリー』のメインパイロットを拉致せよ」という命令が下ったのは、つい数日前のことだ。
全く、お偉いさんたちはいつもこうだ。
極めて困難な任務を、極めてサラッと押しつけてくれやがる。
現場の苦労を顧みない上層部への呪詛を(もちろん、彼らには聞こえないような場所で)つぶやきながら、渋々仕事を始める…
それが私のいつものパターンだ。
が、今回だけは上の連中に感謝せねばなるまい。
ボスから配られたターゲットの資料を見ていて、私は2回ほど仰天した。
1度目は、ターゲットの年齢を知った時。
クロノクル中尉の報告書によれば、ヴィクトリーのパイロットは若干13歳の少年だと言う。
べスパの歴戦のツワモノたちが、そんな子どもに煮え湯を飲まされつづけているのだ。
それほどの大手柄を立てる子どもとは、一体どういう人間なのか…
軍の人間ならずとも、実際に会って確かめたくなるというものだ。
そして2度目は、ターゲットの顔写真を見たとき。
理由は…言うまでもないだろう?
それ以来、私の頭の中は「この子を抱きしめたい!」という邪念に占拠されたままだ。

私の組織は、仕事のアドバイスなんかはしてくれない。
「任務達成への方策は各自で自由に考えよ。結果さえ出せればどのような方策を用いても構わない」
それが我が組織のモットーだ。
珍しく仕事への意欲が旺盛になった私は、まず仕事をするためのパートナーを探した。
ところが、心優しい同僚たちはどいつもこいつも口を揃えて
「お前とは組みたくない。やるなら1人で動いてくれ」と仰せになる。
まあ、リガ・ミリティアと言えば数ある反ザンスカール勢力の中でも特に厄介な奴らだ。
今度の任務はかなり骨が折れるものになるだろう。
私のような少々ドジなお荷物を抱えたくないと考えるのは、当然のことだ。
仕方ない。
たった1人で虎口に飛び込み、仲良くチームを組んで仕事をしている他の同僚どもを出し抜かねばならない。
ターゲットに魅入られた私は足りない知恵を振り絞り、計画を練った。
ああ、練りに練ったさ。
結果、非常に壮大で、しかも非常に危険な作戦ができ上がった。
「こんな作戦、本当に実行できるのか?」と思いながらも、地球に降り立ってからの私は死に物狂いで頑張った。
ああ、頑張りまくったさ!
地球に降り立った後、私はまるでコンピューターの回路図のごとく複雑な手順を一歩一歩正確に踏んでいった。
何度も何度もギリギリの綱渡りを演じた。
時には大きな壁に立ちふさがれ、因果な仕事をしている自分の身の上を呪うこともあった。
またある時には大いなる幸運に助けられ、喜びの余り自分がこの世に生まれたことを神に感謝した。
そして…
自分でも驚くほどの大活躍の末、私はついにターゲットを捕まえることに成功したのである!
私が見事に任務をやり遂げたと知ったときのボスの驚き様は、それはそれは壮絶なものだった。
複雑な顔で「ご苦労だった、休んでいい」と言うボスの言葉をさえぎり、私はターゲットへの尋問を自分にやらせてくれるよう頼みこんだ。
「何故だね?尋問の技術に長けた人間は他にいくらでもいる。貴様に任せる理由など思いつかないのだが…」
「自分は今まで尋問らしい尋問をしたことがありません。一度ぐらいは経験しておくのもいいかな、なんて…」
「ふうむ…まあ、人生何事も経験だしな。いいだろう、貴様に任せる」
「あ、ありがとうございます!」
私は小躍りしながら、ターゲットの待つ尋問室へと向かった。

目の前の少年…ウッソ・エヴィン君は実に気持ちよさそうに眠っている。
「まだ薬の効果が残っているのかな…」
だが、これ以上はやる心を抑えることなどできない。
可哀想だが、そろそろ目覚めてもらわねば。
「ウッソ君、起きたまえ、ウッソ君!」
叫びながら、ウッソ君の頬を軽く叩く。
「んんんん…」
軽くうめいた後、ウッソ君は瞼を開いた。

「ん…え?ええええ!?」
枕に頭をつけたままキョロキョロと辺りを見渡した後、ウッソ君は目を丸くして私に問いかけた。
「ここは一体…それに…あなたは…」
「ここはべスパのラゲーン基地。そして私は、君を拉致した張本人だ。いやー、君をここまで連れてくるのにはだいぶ苦労したよ」
「えええっ!それじゃあ、僕は…」
「そう、捕虜になっちまったってわけだ」
「そんな…そんなぁ…」
信じられない、という面持ちである。
「言っておくが今の状況は夢でもなんでもない、現実だ。きちんと受け入れるように。
 …ところで、我々が普段捕虜というものをどのように扱っているか…知っているかい」
「拷問するとか…自白剤で頭をダメにしちゃうとか…」
「ほほう、よくご存知で」
私は意地悪な笑みを浮かべた。
「あとは…そうそう、ギロチンにかけたりすることもあるかなあ」
「ああ…」
ウッソ君の顔から一気に血の気が引いた。
「ハハハ、そんなに緊張しなくてもいいよ。私の質問にきちんと答えてくれれば、そんなにひどいことはしないさ」
「質問って…何です?」
不安そうな声。
「そうだな…若干13歳の君がモビルスーツの扱いに長けている理由…
 手始めにそいつから聞かせてもらおうか」
「それは…小さいときから自分で操縦法を勉強していたんです」
「自分で?リガ・ミリティアで訓練を受けたんじゃあないのか?」
「違いますよ!僕はもともとリガ・ミリティアとは関係の無い民間人で、モビルスーツに乗るようになったのは成り行きで…」
「なりゆきぃ?そもそも、戦争とは無縁な民間人、しかもまだ13歳の子どもがなんでモビルスーツの操縦法なんぞを勉強する必要があるんだ?
 たまたまモビルスーツを動かせる子どもが、たまたまリガ・ミリティアみたいなゲリラ組織に入って、大人を脅かす大活躍…
 ふん、ずいぶんと面白い作り話だねえ」
「ほ、本当なんですよ!」
ウッソ君は必死に訴えかけるが、そんな話、信じられるわけがない。
「やれやれ、それじゃあ他のことを聞かせてもらおうか」
「他のこと?」
「ああ、リガ・ミリティアの本拠地の位置、ジン・ジャハナムの正体、それにヴィクトリータイプの製作経路…聞きたいことは山ほどある」
エースとは言え、ウッソ君はパイロットの1人に過ぎない。
彼がそんなトップシークレットを知っている可能性は極めて低いだろう。
だが、そんなことはどうでもいい。
とにかく、ウッソ君の体をいじりまわす口実が得られればよいのだ。
「だからっ!僕はリガ・ミリティアの人間じゃあないって言ってるでしょっ!」
「やあれやれ、そんな態度をとるなら拷問で無理矢理聞き出さざるを得ないなあ」
「本当に知らないんだっ!」
そう叫んで、ウッソ君は体を震わせ始めた。
恐らく上体を起こし、私に掴みかかりたいと思っているのだろう。
「あれ、なんで…?」
「どうしたのかな?もしかして、体に力が入らなくて起き上がれないのかな?」
「なんで…どうして…」
「ふふふ、君の身体能力はかなりのものらしいからねえ。
 下手に暴れられると困るんで、眠っている間に筋肉を一時的に衰えさせる薬を注射させてもらったよ」
「く、くそっ!」
「さあて、君が素直ないい子になってくれるように…拷問を始めさせてもらうぞ!」
「言うことを聞かない人間を、暴力で脅して従わせようと言うのっ! おかしいよ、おかしいですよそんなの!」
一瞬、ウッソ君の体からものすごい気迫が立ち昇った。
「うっ…」
真っ直ぐな怒りに圧倒され、私は体を強張らせた。
ウッソ君は鬼のような形相で私をにらみつけている。
「お前たちなんかに負けるものか!」という強い意思がこもった彼の視線が、たまらなく痛い。
そして、たまらなく恐ろしい。
(馬鹿な、何を怖がっているんだ俺は? 落ちつけ、相手は体の自由がきかない状態の子どもなんだぞ? 有利な立場にあるのは俺のほうだ)
平静を装いながら、私は口を開いた。
「ま、まあまあ、そんなにおっかない顔をするなよ。一口に拷問と言っても色々あってだな、痛い拷問もあれば気持ちのいい拷問もある」
「…」
ウッソ君は黙ったまま、なおも私をにらみ続けている。
もうちょっといいムードで拷問を開始したかったが、仕方ない。
こうなりゃ実力行使だ。
「気持ちいい拷問…どんなものなのか気になるだろう? これからたっぷりと教えてやるよ」
そう言いつつ、私はウッソ君のシャツをまくり上げた。
「わっ!」
ウッソ君の驚きを無視し、じっくりとその体を鑑賞する。
均整の取れたボディーライン、引き締まった腹筋、透けて見えるあばら骨、それに薄桃色の乳首…
予想以上の見事な体つきに、思わずため息がもれる。
私は今まで、数多くの色街をめぐり、数多くの春をひさぐ少年たちと会ってきた。
流石に色気を商売にしているだけあって、彼らの多くは素晴らしいプロポーションの持ち主だった。
しかし、ウッソ君に勝るほど美しく、かつ淫靡な体つきの少年は・・・皆無だ。
(さて、まずは…)
無垢の存在を蹂躙できる喜びに震える右手を、ウッソ君のわき腹に触れさせる。
「何、何する気!?」
「くすぐるのさ」
5本の指をせわしなく動かす。
「わ、わわわわわっ…」
ウッソ君の体がビクン、と揺れた。
そして次の瞬間…
「ははは、あははははは、はははは!」
「ずいぶんと敏感だねえ。そんなにくすぐったいのかい?」
「ははは、くすぐった、ひひひ、くすぐ、あははははは!」
「そうかい、それはよかった」
練り絹のような肌の触感を楽しみつつ、私は右手を下腹から胸の方向へと滑らせていった。
みずみずしい色艶の乳輪に沿って人差し指を動かし、ウッソ君の胸の上に小さな円を描く。
「あはは、あひはは…や、やめて、ははは…」
(ううむ、こういう反応ばかりじゃつまらんなあ…「性的に」感じてくれないと、こちらとしても気分がでない)
しかしウッソ君はノンケの男だし、体もまだ未成熟だ。
同性の人間がふつうに愛撫しているだけでは、くすぐったがってはくれても海綿体を刺激することはできないだろう。
(しかたない、秘密兵器を使うか)
私はウッソ君の体から指を離すと、上着のポケットから数枚の写真を取り出した。
「はひひひ…はぁ、はぁ、はぁ…」
ようやく解放され、ぐったりとするウッソ君。
くすぐりの余韻がまだ残っているのか、目がトロンとしている。
「くすぐり地獄によく耐えたねえ。偉い偉い! その根性に敬意を表して、いいものを見せてあげよう」
ウッソ君の前に写真をかざす。
「あっ!」
虚ろだったウッソ君の目が、一瞬にして正気を取り戻した。
それもそのはず、写真の被写体は…
「カ、カテジナさん!」
「そう、君の大好きな人だ」
「どうして、あなたがカテジナさんの写真なんかを…」
「どうでもいいだろう、そんなこと」
「どうでもよくなんか…ああああっ!」
ウッソ君が文句を言い終わる前に、別の写真を差し出す。
そこには、下着姿のカテジナ=ルースが写っていた。
「あ、あ、あ…」
「これは…どうやらカテジナさんが着替えをしているところのようだねえ。どうだ、嬉しいかい?」
カテジナは今、クロノクルのゲストとしてこの基地に滞在している。
私は昨日のうちに彼女にあてがわれた部屋に忍び込み、部屋のあちこちに隠しカメラを仕掛けたておいた。
今日ウッソ君に見せているのは、その戦果である。
「ほら、こんなのもあるよ」
今度はシャワーを浴びている真っ最中の写真。
ふくよかな乳房がバッチリと写っている。
「…」
ウッソ君は無言で写真を見つめている。
「君のためにわざわざ用意したんだ。少しは感謝してもらいたいものだな」
「…」
駄目だ、完全に写真に魅入られてしまっている。
確かに、この女はなかなかの美人だ。
気品もある。
ウッソ君のような純朴な少年が憧れるのも無理は無い。
だが、私には分かる。
この高慢そうな顔を見ているだけで分かるのだ。
(そう、こいつは典型的なファム・ファタール!)
ウッソ君にはあまりこの女のことを意識して欲しくないところだが…
(いささか不愉快だが、今回だけはウッソ君を気持ち良くする道具として役立ってもらうぞ…)
ウッソ君の下半身にちらりと目を向ける。
果たして、トランクスには立派なテントが張られていた。
(よし、これからが本番だ…なあに、こんな女のことなんかすぐ忘れさせてやるさ)
「おやおや、きれいなお姉さんの裸を見て、ずいぶんと興奮しちゃったようだねえ」
見せつけていた写真をひっこめる。
「え?…あ…」
「ようやく我に返ってくれたね。ところで、おちんちんが大変なことになっているみたいだけど…大丈夫かい?」
「う…ぐ…」
「いやいや、そんなに真っ赤になって恥ずかしがらなくてもいいんだよ。君が健康で元気な男の子だってことの証拠だからな。
 そら、お次はもっとすごいのを見せてやるよ」
「やめてください!」
ウッソ君は私が取り出した新しい一枚から視線をそらし、そのまま目をつぶってしまった。
「遠慮するなよ」
「うるさいっ、見たくなんかないっ!」
「正直になれって…そうそう、君が使っていたノートパソコン、覗かせてもらったよ」
「…!」
「何か面白いデータが入っているんじゃないかと思って見てみたんだけど…いやあ、別の意味で興味深かったよ。
 なにしろ、いたるところにカテジナさんの画像がベタベタ…」
「う…う…」
きつく瞼を閉じ、身を小刻みに震わせながら、ウッソ君は今、どんな気持ちでいるのだろう。
(恥ずかしさ、怒り、情けなさがゴッチャになった、実に絶望的な気分なんだろうな)
しかし、そんな状況下であっても、トランクスの膨らみはいまだに健在である。
いくら目を閉じても、脳裏に焼き付いた愛しい人のイメージはそう簡単に消えるものではない。
ましてそれが裸体であったら…
「私の言うことを聞いてくれるんだったら、この写真は全部君にプレゼントするぜ」
「欲しくなんか…ないですよ…」
さっきまでの威勢はどこへやら、まるでミュートをかけたみたいにかぼそい声だ。
「そうか…そんなに意地を張るんなら…拷問再開だ」
ゴクリと唾を飲み込むと、私はウッソ君のトランクスをずり下げた。
「ああっ、そんな!」
最も見られたくない部分を突然さらけ出され、ウッソ君は悲痛な叫びをあげた。
「すごい…とってもかわいいよ、君の」
めまいと動機に襲われながら、私はウッソ君の下半身に手をのばした。
「い、いやだ…いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだっ!」
身をよじってのがれようとするウッソ君をおさえつけ、発達途上のペニスをぎゅっと握り締める。
「うあっ!」
「いつも…カテジナさんの画像をみながら…彼女のことを思いながら…自分で自分を慰めているのかい?」
握る手に力をこめる。
「ううっ…くっ…」
「今日は、私が君を慰めてあげるよ」
小さな乳首に吸いつき、やさしく舌で転がす。
「ふああ…」
先ほどとは明かに違う反応だ。
白い肌の表面に、汗がしっとりと滲みはじめている。
(よしよし、感じてくれているな…)
乳首から口を離し、今度はペニスに顔を向ける。
包皮の間からは薔薇色の先端が顔を出し、ほのかな雄の匂いをただよわせている。
その鈴口に舌先をつけ、ペロリと一舐め。
すると…
「ひああああああっ!」
嬉しい事にひときわ高い声で叫び、雷に打たれたかのごとく体をのけぞらせてくれた。
(いいよ、すごくいい反応だ)
サオの部分を握ったまま、睾丸にむしゃぶりつく。
ちゅぱちゅぱと下品な音をたてながら、上質のマシュマロのように柔らかな外皮と、その中のコリコリした球を味わう。
「いやだいやだいやだ…や…だ…もう…やめてください…」
「やめられないよ…ウッソ君の…すごくおいしいんだもの…もっといっぱい舐めさせてくれよ」
「だめぇ…これ以上…そんなことされたら…僕…」
「さあ、次はここだ」
サオ本体を真上から口に含み、じゅるじゅると吸う。
「うああああっ!」
舌を絡める。
「ああああ、本当に…もうっ! やめて…やめないと…本当に…あ、う、あ、あ…ううううっ!」
私の口の中で、何かがはじけた。
熱く濃い液体が、どくどくと流れ込んでくる。
「はああっ…だめだって…いやだって…はあっ…言ったのに…はあっ…はあっ…」
(お疲れ様…でも、まだ終わりじゃないぞ。唇も…いただいておくか)
「はあ…ふう…」
落ちついた頃合を見て、半開きになっていたウッソ君の唇に自分の唇を重ね合わせる。
「ぐっ!」
ウッソ君の目が大きく見開かれる。
唇を引き離そうと動くウッソ君の頭をおさえ、口の中に蓄えておいた彼の白濁液を、彼自身の中に注ぎ込む。
「んー!んー!」
舌を使って白濁液とウッソ君の唾液を混ぜ、再び吸い上げると、私は顔を離した。
「んげっ、げほっ!げほっ、げほっ、げほっ、ひどい、げほほっ…」
激しく咳き込みながら、ウッソ君は私のことをうらめしそうに睨んだ。
甘いカクテルをゆっくりと飲み込み、私は言った。
「自分の出したモノの味はいかがだったかな?」
「いかがって…最悪に決まってるじゃあないですか!こんな、こんな気持ちの悪いことを…!」
「気持ち悪い?あんなに気持ちよさそうに喘いでいたくせに…」
「喘いでたなんて、そんなこと…ないですよ」
「どうだかねえ?まあ、君が素直に喋る気にさえなれば、私もこんなことをせずに済むんだがなあ」
「何度も言ってるじゃあないですか、知らないものは知らないんですよ!」
期待通りの答えに、ニヤニヤ笑いを禁じえない。
「喋れないんだったら、お仕置きを続けるしかないなあ…」
「う…こ、このっ…このおっ!」
「だ、だから、そんな顔をするなって」
怒ったウッソ君と目が合わないようにしながら、彼の体をごろんと転がし、うつ伏せにさせる。。
浮き出た肩甲骨が艶かしい。
「今度はどんな悪ふざけをするつもりなんです?」
皮肉めいた問いかけに答える代わりに、ウッソ君の白いお尻をわし掴みにする。
「ひゃっ…」
小指を割れ目の内側にひっかけ、白く柔らかな丸みを撫でまわす。
そのままお尻から太もも、太ももからふくらはぎへと、愛撫を進めていく。
「脚をいじられるのも、意外と感じるもんだろ?」
「ん…」
否定とも肯定ともとれない返事。
「イイならイイって言ってくれて構わないんだぜ?」
お尻に顔をうずめる。
ほどよい弾力を持つふくらみに、思いっきり頬ずりする。
(ああ、こうしていると実に癒されるなあ…)
「んふ…」
むっちりとした触感を頬に焼き付けた後、今度は割れ目に沿って舌を滑らせる。
「ううん!ふあ…」
そうしながら手をベッドとウッソ君の体の間に差し込み、ペニスの状態を確認してみる。
「また…固くなってるね」
どうやら、ウッソ君の体は「弄ばれる悦び」を知ってしまったようだ。
(それなら、こういう刺激でも感じてくれるよな)
割れ目の一番上…谷間の底にあるすぼまった部分を親指で剥き出しにし、息をふきかける。
「…くうっ!」
穴の周りに寄ったシワが、ピクピクと蠢いた。
「無理に声を出すのを我慢しなくてもいいんだよ…気持ちいいならもっと大きな声で鳴いてくれよ」
「んうう…うう…そんなところ、いけないのに…そんなところ」
「君のかわいいところ…もっとよく見せてもらうよ」
腰をぐっと浮かせ、お尻をこちらに突き出させる。
膝を突かせ、アヌスがよく見える位置にお尻を固定する。
「こうすると、すごくいい眺めだねえ…」
「…」
「どうした、恥ずかしくてもう声をあげることもできないのかい?」
アヌスに舌を付け、舐め上げる。
「んはあああっ!」
「なんだ、まだまだ元気じゃないか」
お尻の肉をつまんだり、股の間からぶらさがっている睾丸を軽く握ったりしながら、唇と舌でアヌスを責め立てる。
「そんな…はん…やだ…そんなところは…そんなところお…!」
子犬が甘えるときに出すような声が、ウッソ君の口の端から漏れる。
ウッソ君の先端には露がにじみ始めている。
「ふふふ、こんなところ…だからこそ、気持ちいいんじゃないか…う!」
突如、私の下半身がズキン、としびれた。
狭いところに閉じ込められたまま膨張を続けていた私のペニスが、限界に達したらしい。
(おお、よしよし)
愛撫を一旦中断し、ガチャガチャとベルトをゆるめ、ズボンとパンツを一気に脱ぎ捨てる。
だが、気難し屋の「私自身」は、広い空間に飛び出してもまだご機嫌ななめらしい。
まるで「早く獲物をよこせ」と訴えるかのように、なおもズキズキと痛みを訴える。
(わかったよ、しょうがないなあ。…唾液でたっぷり濡らしたことだし、もう入れても大丈夫だよな)
ペニスに手を添え、ウッソ君の入り口まで導く。
それだけで、心臓が爆発しそうになる。
(ついに、ついにウッソ君を征服できるぞ…くうう、こんなに緊張するなんて、組織の入団試験の時依頼だなあ…)
後ろにぶつかる固いモノが気になったのか、ウッソ君はこちらを振り向いた。
「ひっ!なななな、何をしているんですか!」
「見ての通りだよっ!」
私は先端に体重をかけ、一気にウッソ君を貫こうとした。
しかし…
「無理です、入るわけないよっ!」
残念、ウッソ君の言う通り。
ウッソ君の狭き門は私をこばみ、どうしても侵入を許そうとはしない。
「あれ?おかしいな…この、このっ」
焦れば焦るほどツルツルと滑り、狙いが定まらなくなってしまう。
(くそ、色町の子どもたちとは勝手が違うということか!)
よく考えれば(いや、よく考えなくとも)、受け入れる準備など何もしていない素人の少年に、そう易々と挿入できるわけがない。
(何を1人で舞い上がっているんだ、俺は…)
一度舌打ちした後、人差し指を口にくわえ、たっぷりと唾液をつける。
「しょうがない、まずは指からはじめようか」
「何を言ってるんですか、いいかげんに…!」
とまどうウッソ君を例によって無視し、人差し指をねじこんでみる。
「あうっ!」
「ぬおっ!?」
私とウッソ君が叫んだのはほぼ同時だった。
指一本入れただけなのに、ものすごい締め付けである。
「いてててて!こ、こら、そんなに力むな!力を抜くんだ!」
「ぐぐぐぐ…」
駄目だ、キツすぎる。
しかたなく、ほとんど奥にいけないまま指を引き抜いた。
(こりゃ…ナニが入るようになるまでは…だいぶ時間がかかるな…)
しかし、私の欲望ゲージはすでに頂点に達している。
一刻も早く射精したい、もはやそのことで頭がいっぱいだ。
(…いっそのこと、口でしてもらおうか?いや、噛み付かれでもしたら一大事だ。
 弛緩剤で手足の力を弱めている今、手コキにも期待はできない。ええい、他に使える部分はないのか?)
ウッソ君の体を改めて観察する。
頭、腕、背中、腰、太もも…
(太もも?そうだ!)
太ももと太ももの間にペニスを指し込み、横から押して内股をピッチリ閉じさせる。
(そう言えば、素股ってのはまだやったことがなかったな)
挟み込まれたペニスに、ウッソ君の体温がじわじわと伝わってくる。
「ちょっ…何を…」
「少しの辛抱だ」
軽く動いてみる。
汗で湿った柔肌がまとわりつき、しなやかな筋肉が圧迫してくる。
「うあっ」
思わず歓喜の声が漏れる。
下手なアナルよりも、よっぽど具合がいい。
(さ、最高だ…)
こうなれば、もう止まらない。
私は無我夢中で腰を振った。
「うああ、あ…ウ、ウッソ君…」
手を前の方にのばし、ウッソ君のペニスを再び握る。
しぼみかけていた細い茎が、私の手の中でムクムクと成長をはじめる。
腰の動きに合わせて、ウッソ君のモノを前後に擦り上げる。
「はううっ、ふうっ」
「うくっ、くうっ!」
もはや会話をする余裕も無い。
私もウッソ君も、ただただ吐息とうめきの混ざり合った声をあげるだけだ。
「あ…また出ちゃ…あ…ふああっ!」
ウッソ君の体が揺れ、私の指に精液が絡みつく。
「ウッソ君っ!ウッ…くっ、ううっ!」
少し遅れて、私も果てた。
「はあああ…」
しばらく余韻を楽しみ、長く嘆息した後で、私は体をウッソ君から離した。
これまで感じたことがないほどの、それはそれは大きな充実感が湧きあがってくる。
(生きてて良かった…)
心の底から、そう思えた。
だが、そんな私とは裏腹に、ウッソ君の表情は暗い。
「はあっ、はあっ…うう…うええええ…ひどい…」
ベットリと汚れた内股を見て、ウッソ君は眉をしかめた。
「今、拭いてやるよ」
ベッドのわきに無造作に脱ぎ捨てておいたズボンを拾い、ポケットティッシュを出す。
「ひどいよ…こんなの…」
きれいにしてあげた後も、ウッソ君は涙をたたえた眼で私を睨み続けた。
「ふん、ムチでひっぱたいたり、ペンチで指の爪をはがすような拷問よりはマシだと思うがね」
「ひどいですよ充分。そうですよ、あなたのやってることは…ひどすぎますっ!」
「ほほう、心優しい私に向かって、ずいぶんと言ってくれるねえ。
 だが、君はどうなんだ?
 君が白いモビルスーツをオモチャ代わりにして遊んでいるおかげで、 たくさんの人が死んでるんだぞ?
 そういう悪い子ちゃんにお仕置きするのは、当然…」
ここまで言ったところで、ウッソ君の顔つきが突然フッ、と変わった。
「好きで…戦ってるんじゃ…ないのに…僕は…」
「…?」
先ほどまでのウッソ君の顔には、戦士としての気高さが感じられた。
責めたてられ、屈しそうになっても、ギリギリのところでは踏みとどまっていた。
だが、目にあふれんばかりの涙をため、肩を震わせている今のウッソ君の顔は…
過酷な運命に翻弄され、無残に傷つき、どうすればいいのか分からなくっている…
無力な13歳の子どもの顔だ。
「僕は…本当は嫌なのに…それなのに…」
「あ…ウッソ君?」
罪悪感のトゲが、チクチクと胸に刺さる。
「悪かった、ええと…その…すまない…」
「僕…ぼ…僕は…」
「わ、悪かった!」
たまらなくなり、私はウッソ君の頭を抱きかかえた。
一瞬の静寂。
そして、私の腕の中から、けたたましい泣き声が聞こえてきた。
「うわあああああああああああああああ!」
「ウッソ君…」
「お前たちが来たから!ぐすっ、お前たちがいるから僕らはみんなっ! 怖い目に、すごく怖い目に会わされて、それで…僕も、すごく嫌なのに…
 人なんか、殺したくないのにいっ! ううう…あああん、わあああああああああああ!」
堰を切ったように感情を爆発させるウッソ君。
「ごめん、ごめんよ…」
慰めの言葉も見つからないまま、私はウッソ君の顔を自分の胸にギュッと押しつけ、背中をさすった。
「わあああ!うわああああああん…」
ウッソ君の泣き声が、ガンガンと私の鼓膜を打ちつける。
いたたまれない気持ちになりながら、私は自分の少年時代を思い返していた。
友達と1日中遊びまわり、ヘトヘトになってから家に帰る。
そこには父母が、家族が、自分を待ってくれている人がいた。
世の中も今よりはずっと平和だった。
私の家は貧しく、暮らしぶりは決して楽なものではなかったが、それでも13歳の時は毎日が楽しかった。
辛い記憶など一つも思い出せない。
(でも、ウッソ君は…ああ、俺はずいぶんとひどいことを…おや?)
ふと、ウッソ君が静かになっていることに気付く。
「あれ、ウッソ君?」
「すう、すう…」
私が過去を反芻しているうちに、いつのまにかウッソ君は眠ってしまっていた。
今まで火のついたように泣き喚いていたのが嘘だったかのように、穏やかな寝息を立てている。
(すごく疲れていたんだろうな)
その寝顔を見ているうち、私の体にもドッと疲れが押し寄せてきた。
(眠いな…今日のうちに供述調書をまとめて提出しなきゃならないんだが…まあいいや、ちょっとぐらい休んでもバチはあたるまい…)
ウッソ君を抱いたまま横になると、私は目を閉じた。
「ジリリリリン!ジリリリリン!」
(…はっ!)
鳴り響く電話の音が、私を眠りから呼び覚ました。
(うるせえなあ…何だよ)
「ジリリリリン!ジリリリリン!」
ウッソ君は、私の腕の中で眠ったままだ。
(こんなにうるさいのに、まだ起きないなんて…よっぽど…)
私はウッソ君の頭を枕の上に置き、ベッドから降りた。
「ジリリリリン!ジリリリリン!」
(はいはい、今出ますよ)
目をこすりながら受話器を取る。
「はい、こちら尋問室…」
「何をしているんだね、709号」
「あっ、ボ、ボス!」
たるんでいた気持ちが、一気に引き締まる。
「貴様に尋問を任せてから大分時間が経つが…報告はまだかね?」
口調は静かだが、その声には明らかに怒気がこもっている。
腕時計を見てみると、確かに針は信じられない時刻を指していた。
(しまった!こんなに何時間も寝てしまうとは…30分ぐらいの仮眠のつもりだったのに)
「どうした?報告はまだかと聞いているのだ」
「あっ、はい!ええと、その、こいつ、子どものくせに強情なやつでして…
 口を開かせるまでにずいぶんと…」
「苦労自慢を聞かせろ、とは言っていないぞ?」
「えっ…は、はい!それでは、結論から述べます。この少年はたいした情報は持っていません。
 ええと…そうそう、モビルスーツの操縦はリガ・ミリティアではなく父親から習ったそうです」
「父親だと?ほう、民間人のくせに自分の息子にモビルスーツの技術を仕込むとは、ずいぶんと物好きな父親もいたものだな」
「全くで…それでまあ、いくら優秀なパイロットといえどしょせんは子ども、
 リガ・ミリティアの重要な機密については何も知らされてはいないようです。
 詳しくは報告書にまとめ、後ほど…」
「ふう…」
ここまで必死に口を動かしたところで、ボスは大きなため息をついた。
「やれやれ、だな」
「あの、何か?」
「捕虜に対して情が移ったのか?709号よ」
「な…!!」
流石は組織を束ねる男だ、実に鋭い。
「いいかね709号、相手が何者であろうと、我々は非情に徹しなくてはならん。
 これはいつも言っていることだが、工作員たるもの、感情に流されことがあっては…」
「私が職務を怠ったと?」
「少々キツめに責めるか、あるいは自白剤を使えばすぐに結果を出せたはずだ」
「…確かに、私は荒っぽい手段をとることができませんでした。
 しかし、相手はまだ子どもなんですよ?そのような…」
「何を甘いことを言っている?いいか、そいつはただの子どもではない。
 我々の同志を次々と葬り、ザンスカールの理想を潰えさせんとする…小悪魔だ」
「リガ・ミリティアという組織にとって、彼はチェスのコマの1つにすぎません。
 重要機密を知っている可能性はゼロに近いと思われますが」
ついさっきまでの邪念はどこへやら。
私の胸は「ウッソ君を一刻も早く自由にしたい!」という思いで満たされていた。
「可能性が低いだと…いいや、逆だ。
 彼はリガ・ミリティアの中枢と大いに関わりがあると見るべきだ」
「なぜですっ!」
「やれやれ…ハンゲルグ・エヴィンの名は知っているな?」
「ハンゲルグ?…ああ、確かリガ・ミリティアの設立に関わったという…」
「そうだ。我々の追及を逃れ、今では見事に姿をくらませておるがね」
「そのハンゲルグが何か?」
「まだ気付かないのか?貴様の取り調べた少年の名は、何だ?」
「それは…ウッソ・エヴィ…あっ!」
名字が、同じだ。
「ようやく理解したか。このぐらいのことはとっくに気付いているものと思っていたがな。
 ふぅ…全く、貴様というやつは有能なのか無能なのか判然とせんな」
「た、単なる偶然ということも…」
「いいかげんにしろっ!」
一喝。
耳がキーンとなる。
「わ…申し訳ありません」
「…ふぅ、ふぅ…最近は高血圧気味でな、あんまり怒らせんでくれ。
 …すでに代わりの者をそちらに向かわせてある」
「は?」
「今回の任務における貴様の働き、見事だった。特別ボーナスをはずもう。
 望むなら、短期休暇をやってもよい」
「あの…私は…」
「貴様は尋問には向いてない。これ以上時間を無駄にしたくはない。
 もう一度言う、貴様はもう下がってよい。代理の者と交代しろ」
「ボス!」
「話は以上だ」
通話が切れた。
(なんてことだ)
指でまぶたの上をおさえる。
(このままではウッソ君が…どうしようか…)
「ドンドンッ!」
今度は部屋のドアを叩く音がした。
「ドンドンッ!」
まるで、私に余計なことを考えさせまいとしているかのような、乱暴な叩き方だ。
(やばいっ)
急いでズボンを履き、上着を羽織る。
さらに、いまだ眠り続けるウッソ君の下着をもとの位置にもどしてから、私はドアを開けた。
「いよう、今回はお手柄だったなあ。
 まさかお前がリガ・ミリティアの鼻をあかして見せるとはなあ」
そこに立っていたのは、組織の同僚である710号だった。
手には大きめのスーツケースを下げている。
「私の代理が…よりによってお前とは!」
「よりによって、とは失礼だな。お前の尻拭いのためにわざわざ出向いてやったんだぞ?近い内にディナーを奢ってもらうからな」
710号の拷問の手腕は、それはそれは見事なものらしい。
どんな屈強な男であっても、彼の手にかかれば1時間で泣いて許しを乞うようになり、全ての秘密を吐き出した後で…廃人に追いこまれる。
そういう噂は、しょっちゅう耳にしている。
「その子は何も知らんぞ。私がいくら聞いても…」
「ふん、ガキってのはな、お前が思っている以上にしたたかで、強情な生き物なんだよ。
 …問答している時間はない、俺はボスの命令でここに来たんだ。さあ、そいつを起こせ」
「ぬう…しょうがないな…」
ウッソ君の肩をつかみ、揺さぶる。
「さあ、起きるんだ」
「うーん…んんんんん…シャクティ、あと5分間だけでいいから…」
「すまない、ウッソ君…今度は痛い方の拷問をしなくちゃいけない…」
「どけ、709号」
710号は私を押しのけると、ウッソ君の前に立ち、腕を大きくふりあげた。
「寝ぼけてるんじゃねえぞっっ!」
ウッソ君の頬に、710号の平手打ちが飛んだ。
「痛っ!」
「目が覚めたか?」
「な、何っ?何ですかあなたはっ!」
「誰でもいいだろうが」
さらに、もう一発。
「あうっ!」
「お、おい、710号…」
「お前は黙っていろ」
私には一瞥もくれず、710号はスーツケースを開けた。
ハンマー、ムチ、ペンチ、ドリル、ライター、鎖…
ケースの中には、見ているだけで痛くなりそうな道具がギッシリと詰まっている。
710号はその中からロープを取り出すと、ウッソ君の上に覆いかぶさった。
「何するのっ!?」
「拷問だ。俺はそこにいる腰抜けの兄ちゃんと違って、ガキ相手でも容赦はしないからな」
「やだっ!やめろやめろやめろっ!」
どうやら弛緩剤の効果はもう切れているらしい。
ウッソ君は思いっきり手足をばたつかせ、710号を引き離そうとしている。
だが、さすがはプロと言うべきか、710号はウッソ君の抵抗を難なくさばくと、鮮やかな手つきでウッソ君の手首と足首を縛り上げてしまった。
「なあ710号、あんまり手荒なことは…」
「まだいたのか?とっとと消えろ」
「今度フルコースを奢るよ。だから頼む」
「ふざけたこと言ってるんじゃねえ!そんなんだからお前はいつまでたってもグズのままなんだよ!
 …しょうがないな、そこで見学していろ。俺のやり方を見て、非情の精神を学べ」
今度はスタンガンが取り出された。
「さっきもそっちの人に言ったけど、僕は何も知らないっ!
 いくら痛めつけても無駄ですよっ!」
「ガタガタ騒ぐな!」
ウッソ君の足の裏に、電極が押しつけられる。
「ぐあああっ!」
「どうだ?気絶しない程度に電圧は抑えてあるが…結構ビリッときただろ?
 お前は俺に逆らえる立場じゃないんだよ」
「うううう…」
「まだそういう反抗的な目つきをするのか?」
「…」
「どうしようもない馬鹿だな、お前。ところで、足の裏ってのは人間の体の中で最も皮膚が厚い部分らしいなあ。
 その足の裏ですらあんなにビリビリくるんだから、最も皮の薄い場所に電気を流せば…。それはそれは大変なことになるだろうねえ」
710号の手が、ウッソ君のトランクスにかかる。
「じゃあ、最も皮の薄い場所とはどこか?それは…」
スッ、とトランクスを脱がす。
「ひっ…」
「亀頭、つまりチンチンの先っぽだよ」
「710号!」
私の静止の声も、709号を止めることはできない。
「…おおっと、これは失礼、まだ剥けてなかったか。じゃ、俺が一足先に大人にしてやろう」
包皮がずり下げられ、先端が顔を出す。
「…っ!」
「無理に剥かれて痛かったか?…黙ったままだと、もっと痛い目に会うことになるぜ」
「う…う…」
「怖いか?決して俺に逆らわないと約束するなら、やめてやってもいいぞ」
「知らない…知らないんだよ…」
全身をガクガクと震わせながら、ウッソ君はようやくそれだけの言葉を絞り出した。
「そうかい。じゃあ、脳みそがぶっ壊れるまで痺れてもらおうか」
710号はスタンガンを構えた。
(ウッソ君…)
しぼみきった突起に、スタンガンが近づいていく。
ウッソ君は覚悟を決めたのか、目をギュッとつむり、唇を噛みしめている。
(このままじゃ…そうだ、このままじゃ駄目だ!こんなことっ)
「見ていられるかあっ!」
私は懐から銃を取り出すと710号に踊りかかった。
「この野郎っ!」
「…!お前、何を…!?」
銃の柄の部分で、後頭部を力いっぱい殴りつける。
「ごげっ」
珍妙なうめきと共に、710号は床に崩れ落ちた。
「あ…」
事の後で、私はこの上ないほどの後悔に襲われた。
(しまった…つい…)
「これは…?」
恐る恐る目を開けたウッソ君は、何が起こったのか分からずキョトンとしている。
(参ったな…これは立派な…反逆行為だ…どうしよう)
「えっ…どうして」
倒れている710号を、不思議そうに眺めている。
(いつも俺はこうだ…冷静さが足りなくて、すぐ頭がカッとなって…
 くそっ、スパイ失格だ…どうしようか…ボスにはどう言い訳したら…本当に…)
「すみません、あの、これは一体?」
「ん…ああ…」
ウッソ君にあいまいな返事をしてから、私はさらに考え続けた。
(スパイ失格…そうだ…失格でも、結構じゃないか…。もともと、俺にはこんな仕事は向いてはいなかったんだ。
 このまま処罰されるのを待つよりは…いっそのこと…よしっ!)
私はウッソ君のロープをほどいた。
「助けて…くれるんですか?」
部屋の隅にたたんでおいたウッソ君のジャンパーとズボンを拾い上げ、ベッドの上に置く。
「すぐに着ろ。逃げるぞ」
「逃げる?」
「そうだ。私はこれから、君と一緒にこの基地から脱出するつもりでいる」
「ええっ!?」
「ザンスカールを裏切ろうと言うんだよっ!さあ、服を着なさい」
「あ…はいっ」
とまどいと嬉しさの入り混じった、複雑な表情を浮かべるウッソ君。
(とは言うものの、どうやって逃げるべきか……とりあえず、こいつは処分しておかねばな。)
「あのう…その人、倒れたまんまだけど…死んじゃったんですか?」
「いや、気絶しているだけだろう。だから、完全に息の根を…」
私は710号に銃口を向けた。
「あっ!駄目ですよっ!」
引き鉄を引く直前、ウッソ君が私に体当たりをしてきた。
「おわっ」
狙いが外れ、床に穴が空く。
「何のつもりだ?」
「別に殺さなくてもっ!」
「こいつを生かしておくと後々ヤバいんだよっ!俺が裏切ったことをチクられたら、一巻の終わりだ!」
「だからって…」
「…」
私は再び銃を構えた。
(お前の教えてくれた非情の精神とやら、早速実行に移させてもらうぞ。710号!)
しっかりと狙いをつける。
「ああ…」
ふと、ウッソ君の顔を見る。
実に悲しそうに目を潤ませ、私のことをじっと見つめている。
(ずるいよなあ、そういう目…)
自然と、手から力が抜けていく。
(あーあ、結局は感情に流されちまうんだよなあ)
銃をしまい、代わりにウッソ君を縛っていたロープを手にする。
「そんな世界の終わりみたいな顔しないでくれよ…分かったよ、目の前で人が死ぬところを見たくないんだろ?」
「ええ…そうです…」
710号の手首と足首をガッチリと縛る。
(他に使えるものは…)
スーツケースの中にガムテープを見つけたので、それを使って口も塞ぐ。
仕上げに体を転がし、ベッドと床の間の隙間に押し込んだ。
「これでいいか?」
「は、はいっ!ありがとうございます!」
はじめて見る、ウッソ君の明るい表情。
(こういう子には笑顔が一番良く似合うよな、やっぱり)
つられて、私も顔をほころばせた。
(が、いつまでもニコニコしてはいられないんだよなあ)
ウッソ君を連れたまま外に出るのは、至難の業なのだ。
「僕は用意ができました。いつでも出られます」
「よしっ。…しかし、うまく脱出できるかどうかは…運を天に任せるしかないな」
「僕の姿を、基地の他の人に見られたら…」
「ああ、全てオジャンだ。もちろん、なるべく見つからない様に動くつもりではあるが。
 だが、もし…見つかっちまったら、強行突破するしかないな。覚悟しておいて…」
「そういうことなら、あれ、使えませんか?」
ウッソ君は710号のスーツケースを指差した。
「ほおう。なるほど、な」
私はウッソ君の機転に舌を巻いた。
710号のスーツケースを手にし、私は部屋から出た。
なるべく人の通らなさそうな通路を選び、早足で駆けていく。
途中、同僚たちやべスパ兵とすれ違うことも何度かあり、その度に私は肝を冷やしたが、
別段呼びとめられることもなく、なんとか無事に建物の外に出ることができた。
(ううう、寿命が縮むっ!)
そのまま、モビルスーツ倉庫へと向かう。
倉庫の中では、数多くの整備員たちが忙しそうに動き回っている。
「君、ちょっといいかい?」
「はあ、自分スか?」
私はダンボール箱を抱えてウロウロしていた整備員を捕まえ、身分証を見せた。
「私はこういう者なのだが…」
「へえ、諜報部の人で。何の用っスか?」
「ちょっとしたお使いに出かけなくてはならなくなってね。
 すまないが、使えるモビルスーツがあったら一機貸してくれないか?」
「はああ?そんな話は聞いてませんよ?」
「急に決まったことでね。あ、上層部の承認はすでに得ているよ」
「マジっスか?でも…」
「階級的に…私と君ではどちらが上かね?」
「…っかりましたよ」
「急いでるんだ。なるべく足の速い機体をまわしてくれるとありがたい」
「へいへい。でも、今は各地で作戦展開中っス。今使えるのは…あそこにあるゾロぐらいなもんスね」
「ゾロ?…まあいい、上出来だ」
「じゃ、今すぐ用意するっス…おーい!」
彼は他の整備員に声をかけ、すぐに発進の準備を整えてくれた。
「ついさっきまでジョイント部分の検査をやってたもんで、ハナっから合体形態ですが・・・」
「構わないさ」
「…それにしても、ずいぶんと大きなカバンっスね。何が入ってるんです?」
「そいつは軍事機密だ。教えられないよ」
「うへえ、そいつあ失礼したっス…どうかお気をつけて」
「ああ、ありがとう」
(うわあ、なんてラッキーなんだ俺は!五体満足のまま脱出できるなんて!)
口笛を吹きながらコクピットハッチを開ける。
だが、いい気になっていられるのもそこまでだった。
「709号っ!待てっ!」
突如、後ろから怒声が聞こえた。
「何ぃ!」
「どこに行くつもりだこの野郎っ!」
710号だ。
「待ちやがれ!…おい、お前ら!そいつは反逆者だ、行かせるなあっ!」
銃を乱射しながら、ものすごい勢いでこちらに向かってくる!
(もう抜け出してきやがったのか?いかん、急がねば…)
スーツケースをコクピットに投げ入れ、自分も中に乗り込もうとする。
奴はゾロのすぐ下まで迫って来ていた。
「逃がさん!くらえ!」
「ぐあ!」
710号の撃った弾丸が、私の左肩を撃ち抜いた。
「畜生っ!」
コクピットに転がり込む。
「ぐ…ぬああああっ!」
肩の痛みをこらえ、操縦桿を握る。
「行くぞうっ!」
倉庫の天井をぶち破り、私は大空めがけて上昇していった。
ある程度の高度に達したところで自動操縦に切り替え、上着の内ポケットから携帯用の止血スプレーを取り出す。
腐ってもスパイ、こういう道具の用意だけはきちんとしているのだ。
傷口にたっぷりとスプレーをかけ、ハンカチで血を拭った後、私は足元のスーツケースを開けた。
中からウッソ君が顔を出す。
「ぷはあ!」
「ごめんな、この中で丸まってるのは窮屈だっただろ?」
「いえ、このぐらい平気です。…あっ!」
ウッソ君の視線が、私の左肩に注がれる。
「体、柔らかいんだな。うらやましいよ」
「それより、肩…どうしたんです?大丈夫ですか?」
「たいしたケガじゃあない。ちょいとズキズキするがな。…おっと」
機体がガタンと揺れた。
「わああ…」
「ととと、なんだ、バランサーの調子がおかしいのか?安定させねば」
再び操縦桿を手に取る。
しかし…
「くそっ、力が入らない…」
なかなかうまくいかない。
「操縦、僕が代わりましょうか?」
「君が?」
「このモビルスーツ、なんて名前なんですか?」
「ん…ゾロ、だが」
「ゾロタイプ!じゃあ、大丈夫です。前にも一度操縦したことがあります」
「はあ?」
「失礼します」
問答無用、ウッソ君は私の膝の上にちょこんと座った。
「おいおい…本当に大丈夫なのか?」
私の心配は、まったくの杞憂だった。
ウッソ君は慣れた手つきでパネルを操作し、操縦桿を操って見事に機体のバランスを取り戻してくれた。
「噂には聞いていたが…なるほど、すごいもんだな」
「行ったでしょ?小さいときから練習してたって」
「ああ、信じるよ」
夕陽が西の果てに落ちようとしている。
膝の上に可愛い少年を乗せ、茜色に染まる空を悠悠とフライト…
(なんか、いいよなあ、こういうの…)
非常時ではあるが、こういうシチュエーションだと、悪い気持ちはしない。
(このまま、ギュウっと抱きしめて…)
悪い考えが鎌首を持ち上げはじめたところで、ウッソ君が口を開いた。
「ところで…あなたのお名前、まだ聞いてませんでしたよね」
慌てて手をひっこめる。
「え、私の名?そうだなあ、『ナナヒャクキュー』とでも呼んでくれ」
「ナナヒャッキューさん?珍しいお名前ですね…どうして僕を逃がしてくれる気になったんです?」
「んー…ザンスカールの冷酷なやり方に我慢できなくなった…そんなところだな。私も君にはひどいことをしてしまった…本当にすまない」
「あ、いや…気にはしてません。むしろ、助けていただいて感謝しています」
言葉とは裏腹に、ウッソ君の表情に一瞬翳りが見えた。
またしても罪悪感に囚われる。
「…これからどこへ向かうんですか?」
「君が所属している部隊はジブラルタルに向かっているらしいな。
 我々もそこに行こう」
「了解です。あと、もう一つだけ聞きたいんですが…」
「何だい?」
「さっき見せてくれたカテジナさんの写真なんですが…」
「欲しいのか?」
「わっ、わっ、違いますよ!…ええと、もしかしたらカテジナさんは…」
「そうだ、今はラゲーン基地にいる。彼女も助け出したかったが、そんな余裕はなかった」
もちろん嘘である。
もし助けるチャンスがあったとしても、私は彼女を無視していただろう。
「そう…ですか」
「安心しろ、彼女はクロノクル中尉の保護のもと、手厚い待遇を受けている。怖い目にはあってはいないさ」
「それなら、いいんですが…」
「あの写真も、すぐ処分するよ」
「…」
そのままウッソ君は口をつぐんでしまった。
沈黙が、続く。
「なあウッソ君、よければ…」
静けさに耐えられなくなった私が話題を振ろうとしたその時…
レーダーに反応があった。
「…敵!」
「追手か?3…いや、4機も来ている!」
「振り切れるかっ?」
「出力、上げます!」
だが、敵との距離は縮まる一方だ。
「あれは…トムリヤットか!ぬうう、新型を差し向けるとは…分が悪すぎる!」
「駄目です、逃げ切れません!」
ウッソ君は機体をUターンさせた。
「おい、まさか…」
「戦わなきゃ、やられます!」
「無茶言うなよ!相手は新型、しかも4機もいやがる…勝てるわけないぞ!」
「とにかく、やらなきゃならないんですよ!…僕のこと、しっかり支えていてください」
「ったく…はあ…」
ため息をつき、シートベルト代わりの右腕をウッソ君の体にまわす。
(これまでもなんとかなったんだ…今回もなんとかなりますように…)
望んでいたのとは違う形でウッソ君を抱きしめながら、私は神に祈った。
4機のトムリアットが、私たちを取り囲んだ。
だが、攻撃してくる素振りはまだ見えない。
(なんだ?)
いぶかしく思っていると、通信機から声が聞こえてきた。
「今ならまだ間に合う。戻れ」
710号の声だ。
「わざわざモビルスーツを借りてまで追ってくるとは…ずいぶんと執念深いな」
「当たり前だろうが!おい、一体何のつもりだ?どこに行くつもりなんだ?」
「ウッソ君をリガ・ミリティアに送り帰す。私の目的はそれだけだ」
「ああ?頭がぶっ壊れてるのか?せっかく苦労して連れてきた獲物を、もとの場所に戻してやるだと?なんなんだよテメエ!そんな馬鹿な話が…」
「お前には何を言っても分からんだろうな」
「そうか…そんなにその子が可愛いのか。本当にいい奴だよなあテメエは…
 逃げ出すときにも俺を殺さずにおいてくれたしなあ…本当、その慈悲深さにゃ涙が出ちまうぜ」
「殺そうと思えば殺せた。私に感謝しているのなら、黙って行かせてくれ」
「ふざけんな!その甘さが命取りだって行ってるんだよっ!」
ウッソ君の体に、一瞬震えが走った。
「この俺を縛って転がしておいたぐらいで安心するとは…間抜けの極みだなあ。
 お前の縛り方はちっともなってない。目が覚めてから1分もかからずに抜け出せたぜ」
「ほおう、流石はロープ以外にお友達のいないサド野郎だけのことはあるなあ。たいしたもんだ」
できる限りの虚勢を張ってはいるが、私の手はすでに冷汗でびしょびしょだ。
「何を今さら強がってやがるんだ?いいか、俺には3人もお供がいるんだぞ?勝てるわけがない。さあ、グダグダ言ってないでさっさと降参しろ。
 大人しくするなら命までは取らない。ボスにもとりなしてやる。…一発殴り返させてはもらうがな」
「俺はもうザンスカールのために働く気はない。殴られるのもご免だ」
「ぬぐぐ…上等だ…この…大馬鹿野郎が!救いようの無いキチガイがっ!大事な王子様もろとも今すぐふっ飛ばして…」
私は通信機のスイッチを切った。
「ごめんなさい…僕が余計なことを言ったせいで…」
ウッソ君は申し訳なさそうにうつむいた。
「いいんだよ、君は間違ってはいない。でも、こうなったら…しかたがない」
敵機が一斉に銃を構えた。
(この子となら…心中したって悔いはない)
私はウッソ君の耳元で囁いた。
「やるしかない、と言ったのは君なんだ…やれるな?」
「は、はい!」
グッと顔を上げ、ピンと背筋を伸ばすと、ウッソ君は機体を急降下させた。
敵の射撃が頭上をかすめていく。
(かわせたか。だが、次からは…)
相手はなおもこちらに銃口を向けている。
「行くぞお!」
ウッソ君は銃弾をかいくぐりながら、再び敵機の輪に踊り込んで行った。
「うおおお!」
「負けるかあっ!」
ウッソ君が吠えるたび、敵が1機、また1機と撃墜されていく。
彼の死に物狂いの抵抗が、生き残ろうとする強い意思の力が、場を完全に圧倒していた。
(何なんだよこの動きは…信じられん)
いかにウッソ君が凄腕のパイロットとは言え、数に勝る敵の攻撃を全てかわし切ることはできない。
まして、機体性能は敵の方が上なのだ。
すでに右脚を切断され、センサーにも異常が出ている。
だが…致命傷に至るようなダメージは、受けてはいない。
(相手の狙いをギリギリのところで回避している…敵の動きを予知できるのか、この子は?)
鳥肌が立つ。
膝の上の存在が、とても大きく、かつ厳かなものに感じられた。
自分と同じ人間だとは、とても思えない。
「こいつっ!終わりだあっ!」
最後の1機が落ちた。
10分足らずの戦闘の間、私は一言も発することができなかった。
「いやあ…ははは、まさか本当に勝てるとは…ははは、はははは…」
「はあ、はあ…ふうう、なんとか、なりました…」
額の汗を拭い、私の胸にぐったりと頭を預けるウッソ君。
張り詰めていたコクピット内の空気が、やわらいだ。
緊張がとけると同時に、命を永らえたことへの喜びが湧きあがってくる。
「すごい、なんつーかもう…いやー、言葉が見つからない、本当にすごいよ!」
「ありがとうございます。でも…」
「うはははは、天才だよ君は!もしかして伝説のニュータイプってやつか?いやーすごいすごい!ははははは!」
愉快な気分に浮かされ、私は大声で笑いながらウッソ君の肩を叩いた。
「…」
しかし、ウッソ君は返事をしてくれない。
ふと横顔をうかがうと、その瞳には疲労と悲しみの色がありありとうかんでいた。
「うはははは、はは、ははは…あ…」
ひとしきり笑ってから、私は自分の迂闊さに気付いた。
「あ…すまない、また調子に乗りすぎた。そうだよな、戦いなんて…別に面白いことじゃないよな」
ウッソ君は、また人を殺してしまったのだ。
「ご、ごめんな」
「…」
「本当に…」
「…ビームローターの出力が低下しています。ダメージを受けすぎたようです。残念ですが、これ以上の飛行はできそうにありません」
「えっ?あ、ああ…」
いつのまにか、機体の高度がぐんぐんと下がってきている。
「どうするんだ?」
「しょうがない…あの山の上に不時着しますね」

不時着してから約1時間。
静かで薄暗い森の中をウロウロしているうちに、我々は一軒の山小屋を見つけることができた。
「家だ…誰か住んでるのかな?」
玄関のあたりには薪が積んである。
小屋の裏手には井戸があり、その横にはワッパが止めてある。
窓が閉じているため、中に明かりが灯っているのかどうかは分からないが、誰かがここで生活していることは間違い無いだろう。
「もう日が暮れる。腹も減った。かと言って、こんなところで野宿はしたくない。天の助けだ、あそこに泊めてもら…ぐっ!」
 戦闘の興奮で忘れていた肩の傷の痛みが、またぶり返してきた。
「痛むんですか?」
「ん…ああ。幸い弾は貫通しているが、ちょっとばかり、な。とにかく、あの家に行ってみよう」
私は木製のドアをノックした。
「すみませーん!どなたかいらっしゃいますか?」
「誰だね、あんたは?」
中からは、しわがれた老人の声が聞こえてきた。
「ええと…た、旅の者です。道に迷ってしまって…」
「こんな何もない山の中を旅行しているだと?馬鹿も休み休み言え」
「あっ…その…」
「あからさまに怪しい人間と会話する口は持っとらんでね。帰ってくれ」
「ええと、少し休ませてはいただ…」
「か・え・れ」
「ちっ…」
頑固な年寄りというのは、実に腹立たしい存在だ。
傷口のズキズキとした痛みが、イライラをさらに募らせてくれる。
(しかたない。ちょっと良心がとがめるが、銃で脅してでも…)
私は懐に手を入れた。
「頼むから開けてください。さもないと…」
「すいません!僕たち、もう行く場所がないんです!」
私が短気を起こしかけているのを察したのか、ウッソ君が横から助け船を出してくれた。
「今、ドアの前にいる人は肩にひどい傷を負っているんです!せめて傷の手当てだけでも…」
「子どもの声?子どもが、いるのか?」
少しだけドアが開いた。
その隙間から小屋の主らしき老人が顔を出し、私たちの姿を上から下まで眺めまわした。
「ふうむ、ケガ人に子どもか…事情は中で聞く。あがれ」
ドアが開け放たれた。
「わあ、ありがとうございます!お邪魔します!」
ペコリと頭を下げ、ウッソ君は中に入っていった。
「ほれ、お前さんも入れ」
「あっ、どうもです…」
私は遠慮がちに足を踏み入れた。
老人は消毒薬と真新しい包帯を提供してくれたばかりか、夕食までご馳走してくれた。
塩気の強すぎる豆のスープは、決して誉められるような味ではなかったが、今の我々は贅沢を言えるような身分ではない。
「と、とってもおいしかったです。ご馳走様でした」
ぎこちない笑顔で礼を述べるウッソ君。
(『空腹は最良のソース』という言葉があるが、ありゃ嘘だな…)
私もスプーンを置き、老人に向かって一礼した。
「うむ、お粗末様だったの。ところで…」
食卓の上に肘をつき、老人は我々の顔をじっと見つめた。
「お前さんたち、こんな山奥で何を…いや、その前に名前を聞こうか」
「はい、私は…ナナヒャクキューと言います」
「ほう、ずいぶんと面白い名前だな。で、そこの坊主は」
「僕はウッ…」
「おっと、皆まで言わんでいい。ウッソ・エヴィン君じゃろ?」
「えっ!確かにそうですが…」
「やはりな…君の活躍は色々と聞いているよ。色々とな」
「なな、何で僕のことを…」
思いもがけなかった老人の発言に、ウッソ君と私は目を丸くした。
「それはな…おや?」
老人が言葉を続けようとした時、ドアをノックする音が聞こえた。
「ドンドン!」
「今日はお客が多いようだな。どちらさんかね?」
「私はべスパの者だ!少しばかり聞きたいことがある」
外から聞こえる声を聞いた瞬間、私の心臓は止まりそうになった。
(追手か…まずい!)
「ナナヒャッキューさん…!」
ウッソ君は椅子を蹴って立ちあがった。
「しっ!静かに」
老人は玄関の前に行くと、招かれざる客と会話を始めた。
「べスパ?ほうほう、べスパの方ですか?一体何の御用でしょう?」
「つい先ほど、この山にモビルスーツが不時着したのだが…」
「へえ、そいつあ知らなんだ」
「我々はそのモビルスーツに乗っていた脱走者を追っている」
「はあ、どんな奴なんで?」
「2人連れでな…片方は大人の男だ。肩に傷を負っているらしい。もう1人は子ども…まだ13歳の少年だ。こいつらを見なかったか?」
老人は私たちのほうを振り向くと、ニヤリと笑った。
「はいはい、そういう2人連れなら見ましたよ…と言うか、ウチを尋ねてきましたよ」
「なっ…!」
絶望と怒りが込み上げてくる。
(このジジイ!親切そうな顔して…俺たちを売るつもりだったのか!)
銃を取りだし、構える。
だが、老人はニヤニヤ笑いを浮かべたまま、動じることなく応答を続けた。
「と言っても、来たのはもう1時間以上前のことになりますがね。泣きそうなツラで『休ませてくださあい』とか何とか言ってましたが…
 ワシは見ず知らずの人間は家に入れない主義でね。追い返してやりましたよ。今ごろは森の中をフラフラさまよっているんじゃないですかねえ」
私は胸を撫で下ろした。
(脅かしやがる…だから年寄りは嫌なんだ)
ウッソ君は床に座り込んでしまった。
だが、危機が完全に去ったわけではない。
「そうか…よく分かった。だが、一応この家の中を調べさせてほしい」
老人は私に目配せすると、食卓の下を指差した。
(この下に…何かあるのか?)
よく見ると、小さな取っ手のついた床板が一枚ある。
「は?先ほど言ったことが聞こえなかったんで?ワシは見ず知らずの人間は家に入れない、と言ったんですよ?たとえべスパの人だろうと…」
「いいから開けろ!」
取っ手をつかみ、床板を引き上げると、その下には小さな部屋があった。
ハムやワインが置いてある。
私はウッソ君は縄梯子を伝い、急いで地下室へと降りていった。
上からは言い争う声が聞こえる。
「やれやれ、べスパの人は強引で困る…それが他人の家を尋ねる態度ですかねえ・・・」
「手荒なことはしたくない。開けろと言ったら開けるんだ!」
「しょうがないですなあ…」
ガッガッ、という乱暴な足音が響いてきた。
暗闇の中、息をひそめて嵐が通りすぎるのを待つ。
「どうやら、あんた以外誰もいないようだな」
「当然じゃよ」
「こんな辺鄙なところで1人暮らしをしているのか?」
「街のごみごみした生活は性に合いませんでな。それに、ここは先祖伝来の土地なんでしょ
 わしゃ、誰にも煩わされることなく、この静かな小屋で余生を送りたいと思っているんじゃ」
「…悪かったな。もう帰るよ」
「そうしてくだされ」
「例の2人組、また見かけたら連絡してくれよ」
「はいはい」
足音が遠ざかっていく。
「ふう…」
ウッソ君が安堵のため息をついた。
「行ってくれたか…生きた心地がしなかったな」
しばらくしてから、老人が床板を開けてくれた。
「もう大丈夫だ。上がって来い」
縄梯子を登り、床の上に出る。
「かくまっていただいて、ありがとうございました」
「本当、助かりましたよ。…一時はどうなることかと思いましたが」
「なんのなんの。リガ・ミリティアのエースパイロットを見殺しにはできんからなあ」
老人は目を細め、ウッソ君の頭の上に手を置いた。
「どうして僕のことをご存知なんですか?」
「決まっておる、わしがリガ・ミリティアのメンバーだからじゃよ」
「えっ!」
「えっ!」
私とウッソ君の驚き声がハモった。
「わしの役目はラゲーン基地の動向を探ること。
 べスパの奴らも、基地のこんな近くにリガ・ミリティアの人間がいるとは夢にも思わんじゃろうて、はっはっは!」
老人は愉快そうに笑った。
「君が敵のスパイにさらわれたと聞いて、心配しておったよ。助けるにゃどうしたらいいか、頭を悩ませておったところだが…
 自力で逃げ出してくるとはたいしたもんだ。ロメロたちの言う通り、実にスペシャルな坊やじゃのう」
「逃げ出せたのは…ナナヒャッキューさんのおかげです」
ウッソ君は私の顔を見上げた。
「ふうん…のう、ナナヒャッキューさんとやら、あんたもリガ・ミリティアなのかい?」
「あ、いや、私は…あの…」
「そうですよ!ナナヒャッキューさんもリガ・ミリティアの人で、それであの基地に捕まっていたんです」
「あ…ああ、そうそう、そうだったね。私はウッソ君とは別の部隊にいたんですが、
 ちょっとドジを踏んでしまいまして…ウッソ君と同じ部屋に閉じ込められていたんですが、2人で協力してなんとか脱出できたんです」
ウッソ君のナイスフォローに感謝しつつ、私は口裏を合わせた。
「そうかい。それは大変じゃったなあ。
 ま、とにかく無事に逃げ出せて何よりじゃ。さてと…」
老人は壁にかけてあったコートを外し、身にまとった。
「あの、どこかに行かれるんですか?」
「この山のふもとにちょっとした洞穴があってな、そこがわしらのアジトになってるんじゃよ。
 これから、仲間たちに君たちの無事を伝えに行く。君たちをもとの場所に送り返すための算段も、話し合わなくちゃならんしな」
「わざわざ山を降りるんですか?通信機とかは無いんですか?」
「敵に傍受されたら困る。直接出向くのが一番確実なんじゃ」
「じゃあ、僕も一緒に行きます。ナナヒャッキューさんは?」
「ああ、お供しよう」
「待て待て。本来ならすぐにアジトまで来てもらいたいところじゃが…
 お前さんたち、ヘトヘトに疲れてるじゃろ?ふもとまで行くには結構時間がかかる。今日のところは、ここでゆっくり休んでおれ」
「僕なら大丈夫ですよ!」
そうは言うものの、ウッソ君の顔には深い疲労の色が浮き出ている。
「無理するな。眠そうな目をしおって…いいか、夜の山道は危険じゃ。まして、今はべスパの連中が山狩りをしている真っ最中。
 フラフラの状態でついてこられては、かえって足手まといなんじゃよ」
「でも、おじいさん1人じゃ…」
「わしはずっと昔からこの辺に住んでおる。このあたりはわしの庭みたいなもんじゃ。
 それに、わし1人だけなら、見つかったところでいくらでも言い逃れができる。
 『街の酒場まで一杯引っかけに行くところなんです』とでも言えば、怪しまれまい」
老人の言うことはもっともだ。
それに、今日は色々と苦労しすぎた。
正直なところ、私の体力と気力は限界に達している。
「分かりました。お言葉に甘えさせていただきます。
 いいよな、ウッソ君?」
「はい…」
「それがええ。だが、奴らがまた来るかもしれんでな、この部屋の明かりは消して行く。
 ランプと布団を貸してやるから、お前さんたちは地下で大人しくしているんじゃ」
「あの…すみません、できればタオルとバケツも貸していただきたいんですが?」
ウッソ君の奇妙な注文に、老人は首をかしげた。
「タオルとバケツ?何に使うんじゃ、そんなもん」
「えっと、だいぶ汗をかいたんで、寝る前に体をふいておきたいと思って…あっ、駄目なら別にいいですけど…」
「ほうほう、綺麗好きなんじゃな。感心なこった。いいよ、今すぐ水を汲んできてやろう」

ランプとバケツを手にし、私たちは再び地下へ降りた。
部屋の中を照らしてみる。
天井までの高さは2.5メートルぐらいで、広さは10メートル四方程度。
ハムやワインが置いてある棚の他には何もない、狭くて殺風景な部屋だ。
「ほれっ」
老人のかけ声とともに、上から敷き布団と毛布が落ちてきた。
どちらも1枚しかない。
「わしは1人暮らしなもんでな、寝具はそれしかないんじゃよ。すまんが、それで我慢してくれい」
「とんでもないです、色々とありがとうございます」
「明日の朝、迎えにくる。ぐっすり寝ておけよ」
「了解です」
「はい。どうぞお気をつけて」
「うむ。行ってくる」
床板が閉まった。
「おじいさん…大丈夫かなあ」
「彼もリガ・ミリティアの一員なんだ。大丈夫に決まってるよ」
「…そうですよね。ふわあ…」
大きなあくび。
「もう、寝ようか」
「はい。でも、その前に…失礼します」
おもむろにシャツを脱ぐウッソ君。
「わわわっ…!」
「ごめんなさい、体がべトついたままだとなんか落ちつかなくて…体、拭かせてもらいますね」
「いや、もちろん構わないけど…」
無邪気すぎる行動にドギマギする私の様子など気にも留めず、ウッソ君はバケツの中に手を入れた。
「あっ、タオルが2枚入ってる。…ナナヒャッキューさんも使いますか?すごくサッパリしますよ」
「ん、ああ…ありがとう」
よく絞られたタオルを受け取り、上着を脱ぐ。
ひんやりした空気が肌に心地よい。
(それにしても…イイ体しているよなあ…)
静かに体を拭き続けるウッソ君の姿に、私の目は釘付けになった。
(ううううう、わきの下からわき腹にかけてのラインなんか…もう)
ランプのかぼそい光に照らされ、闇の中に浮かび上がる成長期真っ盛りの肉体…
なかなか幻想的な趣きである。
「な、なんでそんなにじっと見ているんですか…どうかしたんですか?」
私の粘っこい視線に気付いたウッソ君が、心配そうに声をかけてきた。
「体、拭かれないんですか?」
「あっ…!っと、いや、ちょっと肌寒くてね。ははは、今拭こうと思ってたところだよ」
私は慌ててタオルを体に当てた。
「ちょっと恥ずかしいんで…ランプ、いったん消しますね」
「えっ…ああ、分かった」
何も見えなくなる。
「傷の具合は、いかがですか?」
「まだちょっとズキズキするが…大丈夫だよ」
「そうですか…」
「…」
「…」
「なあ、ウッソ君、もしよければ…」
私は、ゾロのコクピットで言いそびれていたことを喋ろうと思った。
「何ですか?」
「リガ・ミリティアに戻るの…やめないか?」
「え?」
「戦うのは嫌なんだろう?私も、君みたいな子どもが辛い思いをするのを見ていたくはない。なあ、どこか戦火の届かないところに逃げないか?」
「…」
「戦争なんて、やりたい奴らに任せておけばいいのさ。だから…」
「そりゃあ、できることなら戦いたくなんてないけど…でも」
「でも?」
「みんな僕のことを心配していると思うし…それに、戦争を終わらせるために僕の力が少しでも役に立つんだったら…
 やっぱり、ちゃんと戻らないと…いけないんです」
「そうか…」
「…」
「…」
「…」
「ウッソ君、私はもう拭き終わったよ」
「僕もです。じゃ、もう一度ランプをつけます」
再び明かりがつくと、ウッソ君はすでにシャツを着てしまっていた。
(ちぇっ…いやいや、これでいいんだ。ずっと裸を見せられていたら、理性がもたない)
私は床の真ん中に布団を広げた。
「さあ、もう寝ようか。横になりなよ」
「はい」
布団の上に横たわったウッソ君に、毛布をかけてやる。
「じゃ、おやすみ」
ランプを消し、布団の横に置く。
私はそのまま部屋の隅に行き、うずくまった。
「あれ?どうしたんですか?」
「布団も毛布も1つしかない。君が使いなさい」
「そりゃあ、それほど大きな布団じゃないけど…ナナヒャッキューさんが寝そべるぐらいのスペースならありますよ」
「男と一緒の布団に寝るなんて、ゾッとしないだろ?いいんだよ、私はここで充分だ」
「そんな、駄目ですよ!風邪ひいちゃいますよ」
「私はどこでも寝られることが自慢なんだ」
「あなたは怪我をしているんですよ?そんなところで寝てちゃあ…」
「平気だって」
「じゃあ、僕がそこに寝ます。布団はナナヒャッキューさんが使ってください」
「おいおい…大人の言うことは素直に聞くものだぜ?私のことなんか気にせず、ゆっくり休みなさい」
「そんな言われても…気になっちゃいますよっ!」
「こら、大声を出すなよ。とにかく…私は君と一緒に寝ることはできない」
「どうしてなんですか?」
「あのな、ウッソ君…もし私が君のそばに寄ったら…多分、私はまた君にひどいことをしてしまうだろう」
「ひどい…こと?」
「ああ、基地でやったような、恥知らずなことだよ」
「…あなたはもうザンスカールの人間ではないんでしょう?今さらどうしてそんなことを…」
「それは…もういいだろう、とにかく私には君と一緒に寝る資格なんかないんだ」
「…」
ウッソ君は無言でランプをつけた。
(なんだよ…)
布団から起き上がり、こちらに向かって歩いてくる。
(よせよ、来ないでくれよ…)
私の前まで来ると、ウッソ君はかがみこんだ。
「ナナヒャッキューさん…基地でのことなら、僕は気にしてません」
「ありがとう…その優しい言葉だけで充分だよ。…布団に戻りなさい」
「本当に、風邪をひいちゃいますよ?そうしたら、逃げるどころじゃないでしょう?」
「君を、これ以上傷つけたくないんだ…」
ウッソ君は微笑みながら、こちらに手を差し出した。
「さあ…」
「…ウッ…ソ君…!」
体が、自然に動く。
「ちょ…ナナヒャッ…」
気が付くと、私の腕はウッソ君を抱いていた。
「うおおっ!」
こうなればもう止まらない。
私はウッソ君を抱きかかえたまま、布団の上に倒れ込んだ。
「あ痛っ!」
「くそ、くそっ…畜生、そんなに優しくされたら…くそっ!」
「ナナヒャッキューさん…?」
「君は…綺麗な女の人を見ると、幸せな気持ちになるだろう?そうだろう?」
「え…ま、まあ…」
「俺の場合はな、君のような可愛い男の子を見ると…幸せな気分になる。
 何かこう、甘酸っぱくて…切なくて…とにかく、いてもたってもいられなく…なるんだ…ううっ」
私は喉を詰まらせた。
同時に、視界がぼやけてくる。
涙を流すなんて、一体何年ぶりのことだろう。
「そうだよ…基地の尋問室で君にやったこと…あれは拷問なんかじゃない。
 あれは…あれは…自分の欲望のままにふるまった…ただそれだけのことなんだ」
「な、何を言ってるんですか、一体…」
「俺は…年頃の女よりも君ぐらいの男の子のほうが好きな…そういう人種なんだよ」
「ええっ…!」
「驚いたか?いや、それ以上に気色が悪いだろう?どうしようもないゲス野郎だと思うだろう?おかしいんだよ、俺はっ…!」
腕に伝わる体温が、ぐんぐんと上昇している。
「おかしくなんて…旧世紀時代のローマにも、そういう趣味の皇帝がいたって言うし…別に世の中にはそういう人がいても…」
「趣味とか酔狂とかそういうレベルじゃないんだ…俺は、君が、大好きなんだ…心の底から…好きで好きで…ううう…仕方ない…」
「…!」
ウッソ君は息を飲んだ。
「そんなこと…」
「嫌だろう?野郎に好かれるなんてさ…まして、俺は君を欲望を満たすための道具として利用した男なんだ。
 そして、これからまた…君の体を貪ろうとしているっ!すごく恥知らずなことをしようとしているんだ…
 でも、抑えようと思っても…止まらないんだよ…もう… 自分で自分を制御できないんだ…どうだ、すごくムカつくだろう!
 さあ、殴るなる蹴るなりして、早く俺を引き離してくれよっ!」
「そんな…」
「早くっ!」
だが、ウッソ君は無抵抗のままだ。
「このままじゃ…俺…本当に…」
ウッソ君を愛しく思う気持ちが泉のごとくあふれてきて、収集がつかない。
相手の気持ちを無視した自分勝手な行動だということは分かっているが、それでもウッソ君から離れることができない。
(どうしよう…どうすれば…)
私はウッソ君の顔を自分の胸に押し当て、力いっぱい抱きしめた。
「ごめんなさい…」
ぽつりと、ウッソ君がつぶやいた。
「何だって…?」
「ごめんなさい、ナナヒャッキューさん。僕…本当はもう一度こうして欲しかったんです」
意外な言葉に、思わず腕の力が弱まる。
「な…」
「体をいじられるのは…すごく嫌で… 基地にいたときは…恥ずかしいことをされていた時は、あなたが憎くてしかたなかった…
 でも、とっても悲しくなって、泣いちゃった時…あなたにこうやって抱かれていた時だけは…
 すごく心が安らいだんです。なんか、すごく、暖かい感じがしたんです」
「…」
「僕…父さんと母さんがいなくなってからは、ずっと1人でした。リガ・ミリティアに入ってからは、色んな人と知り合うことができたけど…
 すごいと言って誉めてくれる人はいても、こういう風に抱きしめてくれる人はいなくて…
 僕、本当は不安で不安でしょうがないのに…父さんにも母さんにも会えないまま、死んじゃうかもしれないのに…」
「…」
言葉が出ない。
「あなたは、悪い人じゃない…こうして抱いてもらってると、それがよく分かります。
 そりゃ、あなたが僕のことをそんな…僕がカテジナさんを見るような目で見ていたってことには驚いたけど…
 それでも、こうしていてもらうと…落ちつくんです」
「ずるいよ、君は…」
擦れた声で、ようやくそれだけの言葉を絞り出す。
「怒りました…よね。僕のほうでも、あなたを利用しようとしていたんですから…でも、僕、まさか男の人に好かれるなんて…思いもしなかったんで…」
「怒るわけなんかないだろうっ!君を抱いていられるなんて…こんな幸せなことあるもんか!…朝までこうしていて…いいのかい?」
「はい…お願いします」
私は改めて腕に力をこめ直した。
そのまま、しばらくの時間が過ぎた。
気持ちがだんだん落ちついてくる。
(こうしてウッソ君と抱き合っているだけでも、充分幸せだよな。でも…)
一度燃えあがった情欲の炎を消し去ることは、やはり難しい。
(ええい、何を考えてるんだ俺は。せっかくウッソ君と良い関係になれたんだ。それをぶち壊すようなことは…でもでも…)
ウッソ君の吐息が胸をくすぐる。
(人肌の温もりを求めているのはお互い様だ…わ、悪いことじゃあないよな)
理性と欲望の間に強引に折り合いをつけ、私は口を開いた。
「ねえ…まだ起きてるかい?」
「ええ…」
「そうかい、じゃあ…」
ウッソ君の首筋にキスをする。
「んんっ!」
「やっぱり…ずるい子にはお仕置きしなきゃな…」
身を強張らせるウッソ君。
「ナナヒャッキューさん…」
「ごめんね、ウッソ君。抑え切れないんだ…どうしても」
「…痛いこと、しないんだったら…」
潤んだ瞳で私を見上げるウッソ君。
「もちろんだよ。痛くなんて…そんなことは絶対に」
私はウッソ君の前髪を人差し指に巻きつけ、ニッコリと笑った。
「男の子の体にはね、気持ちいいところがいっぱいあるんだ。それを教えてあげるよ」
手を取り、肩、上腕、ひじ、手首の順にキスをしていく。
(この小さな腕で…モビルスーツを動かしているなんて…)
「ひっ…」
ウッソ君の硬直の度合いが、増した。
「あの…ナナヒャッキューさん、僕、やっぱり…」
「気色悪いか?」
「その…そ、そうじゃなくて…なんか、すごくいけないことをしているような気がして…」
「確かにこれは正しいことじゃあない。でも、寂しいときに体を暖めあうことは…間違ったことでもないよ」
半ばウッソ君に、半ば自分自身にそう言い聞かせながら、おもむろにお互いの唇を重ね合わせる。
「…っ!」
閉じた前歯を、舌でノックする。
「んぐ…」
少しの躊躇の後、ウッソ君は口を開けてくれた。
そろそろと舌を差し入れ、ウッソ君の舌と絡ませる。
そのままの態勢でシャツをまくり上げ、爪の先で乳首の先端を軽くひっかく。
「ぐ…んぐぐ…!…ぐ…」
もう片方の手をトランクスの中に滑らせ、滑らかなお尻を撫でまわす。
「…んん…」
ウッソ君の体から、次第に力が抜けていく。
(落ちついた…かな?)
頃合を見て唾液の交換をストップし、唇を離した。
(この口で、サオをしゃぶってもらえたら…)
そんな考えが、頭をかすめる。
(いや、流石に酷すぎるぞ、そりゃ。気持ち悪がるに決まっている。…そうだとも、乱暴なことは絶対だめだ。とにかく優しくしてあげなくちゃ…)
私はウッソ君のシャツの裾に手をかけた。
「あ、ああ…僕…」
シャツを脱がせた後、トランクスも剥ぎ取る。
「やっ…」
(何度見ても、何度触れても…飽きない体だ)
自らも全裸になり、肌と肌を直接触れ合わせる。
(こんなにも…白くて…すべすべしてて…暖かくて…)
「ウッソ君…」
息を荒くしながら自分のペニスをウッソ君のそれにおしつけ、愛撫を再開する。
「わ…」
「とっても幸せだよ、俺…」
太ももをさする。
うなじを人差し指でなぞる。
へその穴に浅く小指を入れ、軽くくすぐる。
「はん…あ…」
私の手が肌に触れるたび、小さな肩が切なげに震える。
「あふっ…!」
すでにはちきれんばかりの状態にある私と競い合うかのように、ウッソ君のモノがぐんぐんと大きく、そして熱くなっていく。
「ウッソ君の…ドクドク言ってる」
「ナ、ナナヒャッキューさんだって…」
怒ったような声を出しつつも、ウッソ君は私の背中をギュッと掴んで離さない。
「感じるようなところは、あらかた触り尽くした。残ってるのは…」
お尻の割れ目に指を割り込ませる。
「あ…!」
「…あとは、ここだけだ」
「そこは…」
「ここが一番気持ちいいところなんだよ」
「でもっ…あ、あんなこと…お尻に、入れるなんて…無理です!」
尋問室の恐怖が蘇ったのか、ウッソ君は声をうわずらせた。
「分かってるよ…まあ、最初はちょっと嫌な感じがするかもしれないけど…
 指ぐらいなら、いいだろ?」
「…」
うつむくウッソ君の背中を、ぽんぽんと叩く。
「大丈夫、俺を信用してくれ」
ウッソ君の抱擁からいったん逃れ、体を下のほうにずらすと、私はウッソ君の脚の間に顔を割り込ませた。
「わあっ…!」
睾丸を押し上げ、小さな穴をよく見える状態にする。
「は、恥ずかしいですよう…」
「俺も、すごくドキドキしているよ…さあ、まずは滑りをよくしないと…」
そっと、舌を這わせる。
「ううっ!」
ウッソ君の両ももの筋肉がキュッと引き締まり、私の頭を強く挟みこんだ。
素股の感触が思い出され、意識が飛びかける。
「こら、そんなに力むな」
「だってぇ…」
「だんだんいい感じになってくるからさ」
「…そこ、汚いし…怖いよ…」
「大丈夫、大丈夫だから…」
「ごめんなさい…やっぱり許してください…」
「信用してくれよ。さあ、深呼吸して、ね?」
「う…すうう…」
恨みがましい目をしながらも、大きく息を吸い込むウッソ君。
(本当、いい子だよなあ…ごめんよ、すぐに気持ち良くしてあげるからね)
罪の意識と幸福感がないまぜになった状態で、私は意地汚くウッソ君のアヌスを舐め続けた。
舐めながら、時々舌先を中に忍びこませる。
「…ううん…ん…」
「どうだい?悪くはないだろ?」
ウッソ君のペニスの先から、じわじわと露が滲み出してきた。
(…よし、入り口はほぐれてきたな。これなら…)
唾液まみれの門に、人差し指を挿し込む。
「んぐっ!」
突然の衝撃に、ウッソ君は大きくのけぞった。
「楽にしているんだ、いいね」
とりあえず、爪が隠れるぐらいの位置で留めておく。
「はあっ…やだ…痛いことしないって…はんっ!…言ったじゃ、ないですか…」
「少しの間だけでいいんだ、こらえてくれ…」
「…ふ…はああ…」
ウッソ君は長々と息を吐いた。
侵入者を排除しようとする力が、だんだん弱まっていく。
私は前進を開始した。
「う、う、う…」
ウッソ君はシーツをわし掴みにし、低く唸り続けている。
「もうちょっと…だから…」
親指で会陰部を撫でながら、ゆっくりと奥へ侵入して行く。
なんとか、人差し指全体を中に収めることができた。
(よしっ!)
モゾモゾと指を動かし、内壁を擦ってみる。
「く、うう…」
ウッソ君は複雑な表情を浮かべた。
「今…どんな気分だい?」
「すごく…うう…重苦しくて…はあ…あ…」
親指に力をこめ、会陰部をグッと圧迫してみる。
「あうあっ!」
「どう?」
「ん…重苦しいのに…ああん…なんだか…や、やだ…」
「俺が言ったこと、本当だっただろ?」
親指と人差し指を激しく動かし、前立腺へ刺激を送り続ける。
「あっ!…ああああああっ!」
ウッソ君の穂先から零れ落ちる液体の量が、一気に増した。
(この感触…もう一本ぐらいなら…)
中指を入り口にあてがう。
「…駄目、んは、あ、駄目ぇ」
「何が、駄目なんだい?」
わずかな隙間から中指を潜り込ませ、柔軟な括約筋を押し広げる。
「駄目だよお…あ、あ、そんなに広げたら…ひゃっ!」
中指が、奥まで届いた。
2本の指を使って、グリグリと中をかきまわす。
「うああああ!ああああああ!」
ウッソ君の甲高い叫びが鼓膜を直撃し、脳を揺さぶる。
心が、乱れ始めた。
(2本も指が入るんなら、アソコだって…いや待て待て待て、これ以上乱暴なことは…)
指が、ものすごい勢いで締め付けられる。
(これ以上、ウッソ君の優しさに甘えるわけには…)
虚ろな目で天井を見つめ、口の端から涎の糸を垂らしながら、ウッソ君は喘ぎ続けている。
(せっかく心を開いてくれたのに…今度こそ、本気で怒らせちまうぞ)
頭が良くて、礼儀正しくて、いつも凛とした雰囲気を漂わせている少年が、今、私の目の前で我を忘れて乱れている。
生まれて初めて味わう快楽に、悶え狂っている!
(でもなあ…でも…まあ…畜生っ…やっぱり俺って…!)
襲い来る眩暈と動悸に耐えられない。
(…地獄に落ちても…いいや…もう…)
フッ、と自嘲の笑みを浮かべ、ズルリと指を引き抜く。
「うっ!」
刺激を与えるのをやめても、ウッソ君の腹は依然として気ぜわしく上下に動き続けている。
ペニスの硬度も衰えてはいない。
「はあ、はあ、はあ、はあ…」
「ふふふ…良かっただろう?」
「はあ、はあ、はあ、はあ…」
手の甲を額に当て、肩で息をしながら恍惚の表情を浮かべるウッソ君。
その媚態が、獣欲を一層かきたてる。
「ねえウッソ君、指でこんなに気持ち良くなれるんだから…もうちょっと太いモノを入れたら…」
「はあ…はあ…何…?」
ウッソ君の股を大きく開かせる。
「はあ…まさか…はあ…」
「お、俺のことも…気持ち良くさせて…」
「駄目…それは…本当に…指だけだって言うから…」
「分かってるよっ!だけど…」
「…やめて…お願いっ…!」
頭を振りながら、弱々しくも必死の請願をするウッソ君。
だが、パンパンに膨張した私の勢いを止めることはできない。
「ごめん…ごめん…」
「やだやだやだ…」
先端を、あてがう。
(俺、今日だけで何回『ごめん』って言ったんだろう…)
貫く。
「あううっ!」
メリメリと音を立てながら、ペニスが飲み込まれて行く。
「くっ、お、おおおお…」
ウッソ君の頬を、幾筋もの涙が伝う。
「ぐぐ…うううううっ!」
強烈に締め付けられる根本と、柔らく暖かなヒダに包まれる先端。
絶妙のコントラストがもたらす悦楽の前に、理性が吹き飛ぶ。
「おうっ、イイ…すごく…うっ!…イイよ、良すぎるよっ!」
少しでも多くの快楽を貪ろうと、必死に腰を動かす。
「うううっ!やだあっ!やだようっ…うくっ…うっ…うああああああ!」
「ウッソく…う、おお…うう」
頭の中に火花が散り、何も言えなくなる。
「やだっ…こんな…ああああ!」
真っ直ぐに伸びているウッソ君のペニスに、手を添える。
「やっ、あっ、あっ、あはあ…んんんっ!」
指の腹で、裏筋とカリを何度か擦り上げる。
「…ひいっ!」
快感がすでに限界まで達していたのだろう。
ウッソ君はあっけなく白濁液を吹きだし、腹や胸の上に小さな水たまりを作った。
「っ…」
私は腰の動きをさらに早めた。
「は…ふ…」
射精した後、ウッソ君はほとんど声を出さなくなった。
呆けたような顔で、私のするがままに任せている。
(終わらせ…ないと…)
「んっ…んっ…」
「うお、おおう!」
ひたすら前後運動を繰り返すうちに、絶頂の波が押し寄せてきた。
「ふおっ!」
一気にペニスを引き抜く。
「あんっ…」
「ぐっ!」
私の放出した液体がウッソ君の体に降り注ぎ、先に出来ていた水たまりと交じり合う。
「ナナヒャッキュー…さん…」
疲れ切った声。
「はあっ、はあっ…」
何か言わねばならない。
が、頭の中はまだ真っ白なままだ。
言葉が見つからない。
息を切らしながらバケツを引き寄せ、タオルを取り出す。
「うっ、うっ…ナナヒャッキューさん…」
「!」
体を拭いている途中、ウッソ君が体を起こして突然しがみついてきた。
「ひどいよ…」
「…」
「約束…守ってくれるよね…」
タオルを放り、黙ったまま抱き返す。
(絶対死なせられないな…この子は…)
ウッソ君の顔を胸板に乗せ、私は静かに横たわった。

(…はっ)
上から聞こえるドタドタという足音に反応し、私は飛び起きた。
(やばいっ!)
周りに散乱している服をかき集め、私とウッソ君の間のスペースのつめこむ。
そして毛布をかぶり、服の小山も私たちの裸も見えない様にする。
「おーい、起きろー!」
小屋の主である老人が、上からひょっこりと顔を出した。
「あ、はい、すぐ行きます」
「うむ。すぐ上がって来い。朝メシも用意しているでな」
床板が閉じた。
「ふう、危なかった…」
「…よいしょ、っと」
ウッソ君が起き上がった。
「おはよう」
「…おはようございます。迎え…来たんですね」
「ああ。急いで服を着るんだ」
「はあい。…んんー!」
大きく伸びをした後、ウッソ君はスルスルと服をまとい始めた。
私も自分の服を手にし、身につけた。
「体、なんともないか?」
「…大丈夫です。でも、お尻がまだちょっと、変な感じかな…」
「そ、そうか…」
申し訳なくて、ウッソ君の顔をまともに見ることができない。
「あ、でも…すごく痛いって感じじゃないし、全然平気ですよ」
明るい声でフォローされると、まずます罪悪感がつのる。
「そちらこそ、肩の具合はいかがですか?」
「うん、私も平気だよ」
まだ痛みはあるが、強がってガッツポーズをとってみせる。
「さて、上に行こうか」
縄梯子に手をかける。
「あの…ナナヒャッキューさん」
ウッソ君はなかなか立ちあがらない。
「どうしたんだい?」
「この山を降りてからは、どうなさるおつもりなんですか?」
「ん?」
「よければ…僕たちのところに来てくれませんか?色々と手伝っていただけるとありがたいのですが…」
ウッソ君は期待に満ちた顔で返事を待っている。
だが…
「悪いけど、君と一緒には行けないよ」
「えっ…」
ウッソ君の顔色が曇る。
「私は長年の間、ザンスカールの飼い犬として働いてきた身だ。今さら…」
「大丈夫ですよ、あなたが悪い人じゃないってことは、僕がみんなに説明します!」
「私は下っ端だから、軍についての詳しい情報は持っていない。モビルスーツの扱いも下手だ。
 君の部隊に参加したところで、何の役に立たない」
「そんなことないですよ!子どもの僕だって働いているんですし」
「君は特別なんだよ」
「…ザンスカールが嫌いになったんでしょう?だったら協力してくれても…」
「私には私の仕事があるんだよ」
私はウッソ君の肩に手を置いた。
「べスパの奴らは、まだ私たちを探しているはずだ。普通に山を降りたのでは、途中で見つかる可能性が高い。そこで…」
「そこで?」
「私がおとりになる。私が敵の目をひきつけている間に、君はおじいさんと一緒に逃げるんだ」
「何ですって!?」
「君を生き延びさせること…それが、私にできる精一杯の手伝いなんだ」
「1人じゃ危険過ぎます!ケガもしてるのに…」
「こういう任務には慣れてるんでね」
「他の方法を考えましょうよ」
「時間がないんだ。ボヤボヤしてたらそれこそ…」
「昨日のことだったら、本当に気にしてませんからっ!!」
小柄な体に似合わぬ、実に大きな声。
「はあ…」
私はため息をついた。
「ねえ、ウッソ君…」
顔を近づけ、上には聞こえないようにひそひそ声で問いかける。
「私のこと、好きかい」
「!!」
3秒ほどの、間。
「す…好きですよ…」
「そうか…ありがとう、嬉しいよ」
声のボリュームを下げたまま、会話を続ける。
「でも、よく考えてみるんだ。その『好き』ってのは、カテジナさんとかに感じる気持ちとは…ちょっと違うだろ?」
「それは…」
ウッソ君は私から目を逸らした。
「それでいいんだ。昨日のことは全て私が悪いんだ。君が引け目に感じることなんて、ひとつもないんだ」
「でも、僕は…」
「君は人の温もりが欲しかっただけなんだろう?抱いてさえくれれば、相手は誰でもよかったんだろう?
 私は、そんな君の寂しさにつけこんで、悪魔のような振る舞いをしてしまった男だぞ?私のことなんか、気にするんじゃない」
「そんなこと言われたって…」
「さあ、もう分かっただろ!」
大声で怒鳴って会話を打ちきり、勢いよく立ちあがる。
「行くぞっ!」
私はスタスタと縄梯子を昇って行った。
「…」
釈然としない面持ちのまま、ウッソ君が私の後に続く。
「お前さんの想像通り、べスパの連中はしつっこくウロウロしてやがるよ…」
床の上に出るや否や、老人が口を開いた。
「私たちの会話、聞いていたんですね」
「…この年になっても耳だけには自信があってな、嫌なことでも色々聞こえちまうんだよ」
老人は肩をすくめた。
「山の上を探して見つからんとなると、今度はこの辺り一帯が丸ごと捜査区域になるじゃろう。
 そうなりゃますます逃げづらくなる。若い者にゃなるべく危険な役目を押し付けたくないんじゃが… 急がねばならん。頼めるか?」
「敵を遠くまでおびき寄せるのには、少し時間がかかります。
 そうですね…1時間経ったら出発してください」
「大丈夫なんじゃろうな?」
「こういう任務には慣れています」
厄介な仕事の依頼を、胸を張って引きうけるなんて、生まれて初めてだ。
「そうじゃったな…ほれ、朝メシじゃ。粗末なものですまんが」
老人は私にリンゴを手渡した。
「どうも。歩きながら食べますよ。それでは、ウッソ君を頼みます」
玄関のドアに手をかける。
「…駄目ですよ」
今まで黙っていたウッソ君が、ぽつりとつぶやいた。
「元気でな、ウッソ君」
「行っちゃ駄目ですっ!」
ウッソ君は私の上着の裾を掴んだ。
「相手は大勢なんでしょ?無理です!」
「あのなあ、私は別に戦いに行くわけでは…」
「死んじゃ駄目です…ナナヒャッキューさん…」
そのまま離してくれない。
「ご老人、すみませんが…」
老人の顔に視線を送る。
「うむ…ほれ、ウッソ君…」
「行かせちゃいけないんだあっ!」
「うおっ!?」
引き離しにかかった老人を払いのけ、ウッソ君は私にすがりついた。
「そりゃ、少しは怖い思いをさせられたけど…でも、僕はあなたに死んで欲しくないんです!」
ウッソ君の目に涙が浮かんだ。
「やめてくれよ、そんな…」
「お願いです…うう…お願いですから…」
「私も君を死なせたくないんだ…やめてくれ」
「…僕のこと…ひっく…好きだって…」
握り拳を震わせながらうつむき、ポロポロと涙を落とすウッソ君。
(ずるすぎるんだよ、そういう訴え方は…しかし、今回ばかりは…)
「…聞いてくれ、ウッソ君」
「償いなんて求めてません!僕は…ううっ…僕のこと…分かってくれる人を…」
「聞くんだ!…俺は今までずっと、感情に流されるまま生きてきた。
 すぐカッとなって、冷静な判断ができなくなり、何度も何度も失敗を犯してきた。
 たくさんの人に迷惑をかけた。挙句の果てには、君みたいな子どもまで…
 こんなことはもう…終わりにしなきゃならないんだ」
「…ううう…」
「君とずっと一緒にいられたら、どんなにか幸せだろうと思う。本当は、君と一緒に行きたくてしかたないんだ。
 だからと言って、このまま君の優しさにすがってばかりいたんじゃ、俺…もう…なんて言うか…
 とにかく、そんなんじゃいけないんだよっ!…だから、さ…」
「うっ、うっ…」
ウッソ君はまだしゃくり上げている。
「…ウッソ君。もしかして、君のお父さんの名前はハンゲルグ・エヴィンと言うんじゃないのかい」
「え…!」
「そうなんだね?」
ウッソ君は私を見上げた。
「父をご存知なんですか?」
「どこにいるかまでは分からない。だが、彼が反ザンスカール活動をしているという噂は、
 ちょくちょく聞いている。多分…いや、間違いない、君のお父さんは生きているよ」
「本当ですか?」
「ああ。お父さんはきっと、君が会いに来るのを待っているはず…
 だから、君はこんなところで止まっていてはいけないんだ」
シワの寄ったハンカチを取りだし、ウッソ君の涙を拭き取る。
「けじめはキッチリつけないとな。行かせてくれるね?」
ウッソ君はコクンと頷いた。
「何があったかは知らんが…ずいぶんとなつかれたもんじゃのう」
「この子だけは、絶対生き延びさせてあげてください」
「当然じゃ!約束する。だから、お前さんも…死ぬなよ」
「当然ですよ!…ご老人、お世話になりました。それに、ウッソ君」
ウッソ君を抱きしめ、その温もりを手に覚え込ませる。
「もう一度だけ言わせてくれ…ごめん」
「…どうかご無事で…」
「ありがとう。それじゃ…」
私はドアを開けた。
「またな」
「ええと、あの…」
ウッソ君が何か言いかけたが、最後まで聞かずに外に出る。
朝日の光が、うっとうしい。
小屋から充分離れたところで、空に向かって信号弾を打ち上げる。
べスパが使用しているのと同じタイプだ。
腐ってもスパイ、こういう道具の用意は…
(ま、基本だな)
光と音に驚いた鳥たちが、一斉に木々から飛び立った。
「さて…」
近くの茂みの中に潜み、老人がくれたリンゴをかじる。
甘くておいしい。
(子どものころは…よくこんなふうにして、かくれんぼをして遊んだっけ)
悪ガキ仲間と連れ立って、森の中ではしゃぎまわっていた日々をぼんやりと回想する。
しかし、追憶にひたっていられる時間はわずかだった。
「おかしいな、誰もいないぞ?」
「信号弾が上がったのはこのあたりだったと思うが…」
2人組のべスパ兵が、近づいてくる。
(来やがったな…)
目の前の枝を揺らし、ガサガサと音を立てる。
「なっ…誰かいるのかっ!」
べスパ兵たちは私のいる方向を向いた。
懐から銃を抜き、構える。
あれほどしっかりと手に焼き付けたはずのウッソ君の感触が、銃の重さと冷たさによっていとも簡単に打ち消されて行く。
(…なあに、生きていれば、また会えるさ)
緩んだ涙腺を引き締め、わざと慌てた声で叫ぶ。
「しまった、見つかった!逃げろウッソ君!」
「何だとお!?」
素早く茂みから飛び出し、2人に銃を向ける。
「わわわ、貴様っ…!」
相手が構えかけた銃をはじきとばし、再び茂みの中に逃げこむ。
「そのまま行くんだ!ウッソ君!」
そう叫びながら、ふと、ウッソ君の笑顔を思い出す。
暗がりの中でうずくまる私に手を差し伸べてくれた時の、とても暖かな笑顔…
(彼だったら、子どもが子どもらしく遊べる世の中を…きっと…)
小屋とは反対の方角に向かって走り出す。
「待てっ!こん畜生っ!」
「こ、こちらD班、こちらD班!ターゲットを発見した!子どもも一緒だ!
 山の北側の方だっ!全班、至急応援に来られたしっ!」
後ろから耳障りな喚き声が聞こえてくる。
(貴様らなんぞにウッソ君は渡さん!決してな!…さあ、追って来い!)
スリル満点の鬼ごっこが、始まった。
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  • 2015⁄01⁄07(Wed)
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