- 2014⁄02⁄21(Fri)
- 00:34
生まれて初めて男の子のおちんちんを見たのは小学6年生の秋だった
生まれて初めて男の子のおちんちんを見たのは小学6年生の秋だった。
それまでも小さな男の子が公園で裸になっている姿を見たり、
テレビに映ってしまったおちんちんを見たことはあったので、正確に
はそのときが初めてというわけではないけれど、固く勃起して天を
向いているおちんちんを見たのは、私にはあのときが初めてだった。
その光景があまりに衝撃的だったので、男の子のおちんちんが単に
股の間についているおしっこをする場所ではなくて、間違いなく性器
なのだということを意識するようになったのは、あの日からだと思う。
それまでも小さな男の子が公園で裸になっている姿を見たり、
テレビに映ってしまったおちんちんを見たことはあったので、正確に
はそのときが初めてというわけではないけれど、固く勃起して天を
向いているおちんちんを見たのは、私にはあのときが初めてだった。
その光景があまりに衝撃的だったので、男の子のおちんちんが単に
股の間についているおしっこをする場所ではなくて、間違いなく性器
なのだということを意識するようになったのは、あの日からだと思う。
その男の子の名前は、サカモトユウダイくんという。
その年の春からわたしたちのクラスに入ってきた転校生だった。
わたしたちのクラスは四年生のときからクラス換えもなくずっと
同じで、初めて受け入れる転校生にみんな、興味津々だった。
ユウダイくんは、それまでクラスで一番背の低かった子よりも
さらに小さくて、女の子のようにとてもかわいい顔をしていた。
同級生というよりも並んで歩いていると弟にしか見えない子
だった。
でも、ユウダイくんはとても頭が良くて、テストがあるたびに
それまでクラスで一番の秀才くんとほぼ同じか、ときにはそれを
上回るような成績を残した。それに、運動神経が抜群で、学年
で一番足の速かった子の記録を軽々と塗り替え、幅跳びや跳び箱
といった小柄な子に有利な競技はもちろん、サッカーや野球も
誰よりもうまかった。
明るくて元気でちょっと訛りのあるしゃべりかたをして、
ひょうきんなところもあって、
みんながユウダイくんと友達になりたがった。ところで、わたしたちのクラスで、ユウダイくんが転校してくる
まで一番小さかったのが、ミヤタシンっていう男の子だった。
先生たちは、彼のことを「最後のガキ大将」と呼んでいた。
体は小さいのに、ケンカがやたらと強くて、クラスの男の子は
もう中学生くらいの体格になっている子でさえ、シンには
逆らえなかった。
勉強はあまりできなかったけど球技が得意で、休み時間に遊ぶ
にしても、クラスで何かの団体競技をするにしても、シンが
仕切らないと、何も始まらないクラスだった。
面倒見のいいところもあるけれど、気が短くてすぐ顔を真っ赤に
して怒るので、男の子たちはどこか腫れ物に触るような感じで
シンと接していたように思う。
ただ、一人だけ、ユウダイくんだけは違った。学級会でシンが
何かを発言すると、それに反対する意見を堂々と言ったし、
休み時間にシンがサッカーやろうぜ、と言っても、男の子たちの
中でただ一人、おれはやらない、と言えた。
そのサッカーだって、いままではシュートするのは全部、シンの
専売特許だったのに、ユウダイくんは平気でシュートしちゃって
しかもちゃんと得点を重ねていた。
あいつ、転校生だからな
どこか言い訳するような口調で、口癖のようにシンが言うようになった
のは二学期も始まったころだった。
先生が怪我をして、一日中、自習が続いた日、二人はとうとう
衝突した。それまでも小競り合いはたびたびあったけれど、
二人とも正面からの衝突はどこか避けようとしている様子で
大きな衝突にまで発展したことはなかった。
それなのに、その日は、いったい何がきっかけでそうなったの
だろう。教室の後ろのほうで大きな物音がして、何かと思って
振り返ったら机が倒れていた。シンが真っ赤な顔をして何か
を叫んでいて、その目の前にユウダイくんが同じように赤い顔
をして立っていた。
どうしたの?
隣の男の子に訪ねたら、さあ、と曖昧な返事が返ってきた。
「てめえ、いい加減にしろよ」
シンはそう言ってユウダイくんのTシャツの胸ぐらをつかむ。
「おまえが悪いんだろ」
ユウダイくんも負けないほどの大きな声で言い返した。
おまえ、だって。
わたしはびっくりして耳を疑った。
今まで、シンのことを呼び捨てにした子は誰もいない。
シンちゃん、シンちゃん、とみんなは呼んでいた。
ましてや、おまえ、なんて。誰も口にできない言葉だった。
もう、だめだ。
そのとき、わたしは思った。
この二人の争いを、もう、誰も止められないと。
シンはユウダイくんの体を押し倒し、馬乗りになろうとした。
ユウダイくんはスルリと身をかわし立ち上がると、平手で
シンの頬を叩いた。
パン
と乾いた音が響いて、わたしは思わず両手で顔を覆った。
ユウダイくんはさらに二度、三度とシンの顔をはたいたあと、
脇の下で頭を挟んで、そのまま腰を落とした。シンが真っ赤な
顔で苦しそうに声をあげた。
もしかしたら、シン、やられちゃうかも
そのときは本気でそう思った。こんなふうに泣きそうにゆがんだ
シンの顔を見るのははじめてだった。
でも、そんな簡単にやられちゃうシンではなかった。
シンは苦し紛れに伸ばした手で、ユウダイくんの顔を
かきむしった。指が目に入ったらしくて、ユウダイくんは脇に
挟んでいたシンの頭を離し、手で顔を覆った。
すかさず立ち上がったシンが思い切りユウダイくんの顔を蹴った。
わっ、と声がして、ユウダイくんが手で顔を押さえたまま
うずくまると、今度はお腹の部分を蹴り始めた。
ドス、ドスと鈍い音がして、ユウダイくんの苦しそうな声が聞こえた。
卑怯だ、と思った。
でも、シンはそんなことは気にしないのだろう。
いつまでも蹴り続けていたら、ユウダイくんはお腹を抱えて、エビの
ように体を丸めて苦しそうにうめき声をあげた。
「これ以上やったら、もう、やばいよ」
タイチという子がポツリとそういったら、シンは真っ赤な顔のまま
声の主をにらみつけて、背伸びしないと届かないような高さにある
タイチの顔を殴りつけた。
ヒィーッと声がして、タイチは手で顔を覆いながら泣き始めた。
「テンドウ、こいつ、立ち上がらせろ」
シンはまだハアハアと肩で息をしながら、先生よりも体の大きな
テンドウという子を指名した。はじかれたようにテンドウが前に
出て、うずくまっているユウダイくんの両脇をつかみ、抱えあげた。
苦しそうに目を閉じているユウダイくんは、それでも泣いていな
かった。
「みんなの前で泣かせてやるから」
シンは顔に息がかかるほどユウダイくんに近づいてそう言った。
ユウダイくんがうっすらと目を開けて、プイと横を向いた。
その顔をパシッとはたいた後、シンは言った。
「黒板の前へ連れて行け」
三人がかりで押さえられたユウダイくんが黒板の前に立たされると
シンは先生の机の上のペン立てから大きなハサミを抜いた。
なにする気なんだろう?
わたしは隣の席の男の子と顔を見合わせた。イソガイという名前の
痩せて弱っちそうなこの男の子は、わたしの顔をちらちらと
見ながら、自分が何かされるかのようにおびえている。
テレビのヒーローは弱いものの味方だけど、現実の男の子はみんな
強いほうの味方だ。
恐怖の前には、あこがれもカッコよさも何もかもすべてが吹き飛んで
ただ、自分に火の粉が飛んでこないように、身を守るので精一杯だ。
シンはようやくうっすらと顔を笑みを浮かべる余裕ができたようで
、ハサミをユウダイくんの頬に押し当ててニヤニヤと笑った。
ユウダイくんは目を丸くしてこわばった顔でハサミを見つめていた。
まさか、刺したりしないよね。
どきどきしながらわたしもシンの持つハサミをじっとにらみつけた。
もうやめてっ。
女の子の誰かが叫ぶ。シンは振り返りもせずに、ユウダイくんの
Tシャツの裾をつかんだ。
「やめろよぉ」
ユウダイくんが叫んだ。少しだけ追い詰められたような声だった。
シンのハサミはジョキジョキと規則正しい音を立てて、ユウダイ
くんのTシャツを切り裂き始めていた。
よかった。服を切るだけなんだ。
それを見ていたわたしはなぜかホッとした。
シンは怒りのあまりユウダイくんの体を傷つけると思って
いたからだ。
でも、すぐに、あんなことしちゃって、いいのかな、と
思った。
おへそのあたりからまっすぐにTシャツを切り裂いたハサミ
は、胸のあたりで両腕のほうへ曲がり、肩のあたりまでを
切ると、シンはハサミを投げ捨てて、自分の手でTシャツを
引きちぎった。布切れと化したTシャツを引っ張ると、
シャツを着ていなかったユウダイくんの裸の上半身が現れた。
とっさに乳首に目が行ってしまうのは女の子の性なのだろうか。
ユウダイくんの乳首は、わたしのそれよりも少し小さくて、
でも女の子のように綺麗なピンク色をしていた。
まだ夏の日焼け後が残る褐色のお腹には小さな小さな動物の口の
ようなおへその穴が見えた。
こんなときに、残酷で不謹慎なのかもしれないけど、ぞくっと
するほどかわいいおへそだった。「やめろよ。はなせよ」
ユウダイくんは大声をあげて、必死に抵抗し始めた。
体の大きなテンドウも、手足めちゃくちゃに振り回しながら
もがくユウダイくんを抱え切れなくて、困った顔をして
シンのほうを見た。
「おまえら、足、押さえろ」
シンがドスのきいた声で教室の前にいた二人の男の子に声を
かける。男の子たちは飛び上がるように立ち上がり、黒板
の前まで出ると、ユウダイくんの足を一本ずつつかみ、体重
をかけて無理やり押さえつけた。
三人がかりで手足を押さえられたユウダイくんはそれでも肩
と腰を必死にくねらせてもがき続ける。その様子がなんとも
エロくて、わたしはとり付かれたように、その姿に見入って
いた。
「みんな、ちゃんとこっち見ろよ」
シンは勝ち誇ったようにそう言うと、ユウダイくんの半ズボ
ンに手をかけた。
「やめろよ、やめろぉ」
ユウダイくんが狂ったように叫び続ける。シンはゆっくりと
半スボンのボタンを外し、チャックに手をかける。
ジーと微かな音を立ててチャックが下ろされると、中から白
いパンツがチラッと見えた。
「白いパンツなんかはいていやがんの。おまえ、何年生だ?」
シンはユウダイくんの顔に噛み付きそうな勢いでそう言うと
軽く開かれたユウダイくんの両脚の間にしゃがんだ。
「おまえ、絶対殺すからな。ぶっ殺してやるからな」
首すじから鎖骨のあたりまで、鮮やかなピンク色に染めたまま
ユウダイくんは目を大きく開けてシンをにらみつけた。
「そんなこと言っていられるのも今のうちさ」
シンはへらへらと笑いながら、ユウダイくんの半ズボンをつかみ
ゆっくりと下ろしていった。
ユウダイくんの半ズボンを膝まで下ろしたシンは、一度立ち上がって
二、三歩後ろに下がった。思ったよりもずっと子供っぽい白いブリー
フがみんなの前にあらわになった。
真っ赤な顔をしたユウダイくんの顔がはっきりと見えて、一瞬、目が
合ったような気がした。
あきらかにうろたえて、少しおびえたような表情は、いままで一度も
みたことのなかったユウダイくんの顔だった。それでも精一杯、
強がって、シンの顔をにらみつける姿にわたしは少し感動した。
「いい眺めだなぁ」
シンは腕を組みながらそう言うと、ちらっとわたしたちの方を
振り返った。
「このあと、どうしようか」
ユウダイくんの耳たぶは、もうまっかっかだ。おへそのあたり
までうっすらとピンク色に染まっている。
「後で覚えてろよ。一人じゃ何にもできないくせに」
叫ぶように言ったユウダイくんの声は誰が聞いてもわかるほど
震えていた。
「はいはい。弱い犬ほどよく吼えるんだよなぁ」
シンは再び近づいて、半ズボンをつかむと、一気に足首まで
引き摺り下ろした。後は足首を押さえている男の子が二人
がかりで、必死に抵抗するユウダイくんの足首から半ズボン
を脱がせ、シンに手渡した。
シンはそれをつかむと、並んで座っているわたしたちの間を
歩いていく。何人かの女の子の顔に、ぶら下げた半ズボンが
触れて、そのたびにキャッと声があがった。
最後に教室の一番後ろにたどり着いたシンは、それから窓際
のほうへ歩いてゆき、窓を開けた。
「や、やめろぉ」
ユウダイくんが叫んだ。さっきよりも、少しだけ情けない声
に変わっていた。
「はい、さよならね」
シンはユウダイくんのほうを見ながらそう言って、勢いよく
半ズボンを窓の外へ放り投げた。
シンはとうとうパンツ一枚だけの姿になったユウダイくん
のところへ戻ると、パンツのゴムの部分をつかんで引っ張
った。
「あーあ。こうなるとさすがのサカモトくんも、情けない
姿だねぇ」
シンはそういいながら手を離す。パチン、と音はしなかっ
たけど、そのくらい勢いよくパンツのゴムがユウダイくん
の赤く染まったお腹へぶつかった。
「やめろぉ、やめろよぉ」
ユウダイくんは、もう、ほかになんて言ったらいいか、
わからない様子だった。
ごめんね。ユウダイくん。
本当は、シンに頭が上がらない男の子たちよりも、
わたしのほうが100倍も卑怯で卑劣な人間なのかも
しれないね。
その姿を見ながら、わたしは確かに興奮していた。
そして、その最後の一枚が脱がされる瞬間を待ち望ん
でいた。
シンはパンツのゴムを引っ張って離す動作を何度も
繰り返しながら、ニヤニヤ笑ってユウダイくんの顔
を眺めていた。どうせなら、すぐに脱がせてあげた
ほうが楽なのかもしれない。ユウダイくんの顔は
だんだんとシンをにらみつける気力を失っていった。
「許してくださいって、泣いて謝ったら、ここで
やめてやるよ」
パンツのゴムがだめになっちゃうんじゃないかと
思うほど、何度も何度も引っ張っては離したあと
シンは大きな声でゆっくりとそう言った。
「どうする?」
ユウダイくんはギュッと唇をかんで目を閉じた。
お願い。許してなんて言わないで。
シンに謝ったりしないで。
わたしは願った。
勝手すぎるお願いかもしれない。
でも、わたしは、ユウダイくんが簡単に屈服する
ところなんて見たくなかった。
「さあ、どうする?」
シンが今度はユウダイくんの胸を撫でながら再び
言った。ユウダイくんがプイッと顔を横に背けた。
「バカだなあ、おまえは」
少し哀れむようにシンが言った。次の瞬間
シンはユウダイくんの白いパンツをつかんで
一気に足首まで引きずり下ろしていた。
「わあっ、わあっ」
ユウダイくんの声が教室に響き渡る。
ほんの一瞬、ユウダイくんの股の線がくっきり
と見えた。
足を押さえている二人とシンの三人がかりで
両足を持ち上げられ、パンツを抜き取られてい
るユウダイくんは、まるでずっと幼い子供の
ようだった。
「わっ、小せえな。おまえ、ほんとに男なのか?」
パンツを手につかんだままのシンがそういいながら
後ろに下がった。
「みんな、よーく見てみろよ」
ワアッ、と女の子の悲鳴があがった。
素っ裸の男の子が一人、そこに立たされていた。
ユウダイくんのおちんちんは、その小さな体に
ふさわしく、わたしの小指くらいの大きさで
頼りなく、ちょこんと股の間についていた。
恥ずかしそうにユウダイくんが腰を振ると、皮
にすっぽりと包まれた先っぽが、そこだけ生き
ているようにぴょこぴょことはずむ。
いつもの颯爽とした姿からは想像もできないほど
かわいらしい姿だった。
「みろよ。サカモトの脱がしたてパンツ」
シンはそういいながら、さっきと同じように、
いや、さっきよりももっと高々と、剥ぎ取ったパンツ
を掲げて教室の中を歩き回り、最後には同じように
開け放った窓からそれを放り投げた。
「どれどれ」
再びユウダイくんの前に戻ったシンはそう言って、
おちんちんの目の前にしゃがんだ。
「ユウダイくんのおちんちん、じっくり見せてもらうぜ」
シンは真っ赤な顔をうつむいているユウダイくんを見上げ
ながらそう言った。
チキショウと、ユウダイくんが小さな声でつぶやいた。
「ちいせぇな。低学年なみだなこりゃあ」
シンはそういいながら、一番前の席の男の子から、定規を
借りて、ユウダイくんのおちんちんにあてがった。
「シミズさん、読んで」
「え?」
定規を差し出した子の隣に座っていたシミズさんという女
の子は、いきなり指名されて、驚いて声もでない様子だった。
「さあ、目盛り、読んでよ」
「で、でも・・・」
「おちんちんの先っぽ、何センチになってる?読んでよ」
シミズさんはしばらく黙ったあと、消えそうな声で目盛りを
読んだ。
3センチ5ミリくらい。
そう聞こえた。
「三センチしかないんだってさ。どうする?もう男やめたほうがいいな」
シンが大声でそう言うと、下を向いていたユウダイくんが真っ赤な顔を
あげてシンをにらみつけた。気のせいか少しだけ目が潤んでいるように
見えた。
ユウダイくんの泣くところは見たくなかった。
いつも明るく楽しくて、それでいて凛々しく男らしいユウダイくんが好き
だったから、ユウダイくんはどんなことがあっても泣かない男の子で
いてほしかった。
「さてと、ところでさ、みんなケータイ持ってきてるよな」
祈るような気持ちで眺めていたら、突然シンがわたしたちのほうを振り向
いて言った。田舎にあるわたしたちの学校は家から遠いこともあって、
低学年でも学校公認でケータイを持たされている。だからシンのいう
とおり全員が自分のケータイを持っていた。
「おまえら、全員、自分のケータイを机の上に出してみろ」
わたしたちの机の間を歩きながらシンが言った。もう誰もシンを止められ
る子はいなかった。ガチャガチャとカバンの中からケータイを取り出す音
が聞こえて、一つ、二つと机の上に色とりどりのケータイが置かれていく。
「早くしろ。おまえも持ってるだろ」
呆然としているわたしを見つけて、つかつかと近寄ってきたシンがわたし
の肩を突いた。
「ケータイなんて、どうするの?」
「いいから、早くしろ」
「でも・・・」
「いいから」
気の短いシンは、自分でわたしのカバンを開け始めた。
「やめてよ」
「おまえが自分でやらないから悪いんだ」
シンはわたしのカバンの中へ手を入れて、ごそごそと探した後、ケータイ
をつかんで机の上にドンと置いた。ケータイ壊れちゃうんじゃないかと
思った。
「よし、できたか。そしたら、カンザキとシマダとオオノと、それから
イシダ。おまえらでこいつらのケータイ全部集めて持って来い」
指名された四人の女の子たちは、互いに顔を見合わせてキョトンとした顔
をする。四人ともクラスの中ではおとなしい子で、最初に呼ばれたカンザ
キさんなんかは、もう泣きそうな顔になって耳たぶが真っ赤になっていた。
「さあ、早く」
シンは四人のうちのイシダさんとオオノさんが並んで座っているあたりへ
言って、大声を出した。四人の女の子が一人、また一人と立ち上がって
いった。女の子たちは教室の中を歩いて、一人8個くらいずつケータイを
集めると、シンに言われるまま、教室の一番前の二つの席にそれ
を置いた。
「おー、こんだけ集まるとスゲーな」
シンは上機嫌でそう言った。
「じゃあ、写真撮影会始めようか。おまえら一人ひとつずつケー
タイもって、ここへ並べ」
シンに言われた女の子たちは山のようにケータイの盛られた机
の前で、困ったように立ちすくんだ。
「ケータイで写真撮るなんて、簡単だろ?早くしろよ」
次第にいらいらしはじめたシンを見て、カンザキさんがまずケー
タイを手にする。つづいて他の子もケータイを手にした。
「ここへ並んで」
シンは立たされているユウダイくんの前に女の子を四人、並ばせ
ると、そのうちのカンザキさんとオオノさんを一歩前に出させ、
しゃがませた。二人のすぐ目の前に、晒されているユウダイくん
のおちんちんは、気のせいか、さっきよりさらに少し小さく縮ん
だように見えた。
「さあ、行くぞ。せーので撮影開始ね」
シンがユウダイくんの顔を見ながらゆっくりと言った。
「やめろよぉ、やめろぉ」
少しうわずった声でユウダイくんが言った。
「いいか、セーノ」
シンの掛け声とともに四つのフラッシュが一斉に光る。
どれどれ、と言ってシンがカンザキさんの持っていた
ケータイをつかんだ。
「スゲー。ユウダイくんのおちんちん、ドアップで
ばっちり映ってるぞ」
シンはそう言うと、自分の見ていたケータイをユウダイ
くんの顔の前へ持っていく。ユウダイくんは真っ赤な
顔のまま、ちらっと一瞬ケータイを見て、顔をそむけ
前歯でギュッと下の唇をかんだ。
「このケータイ誰のだ?」
シンが持っていたケータイを高く掲げると、一番、後ろの席
のオオヤマくんという太った子が立ち上がった。
「ほら、返すぞ。写真、削除すんなよ。今度はおまえがこういう
目にあうからな」
シンはそう言いながら、ケータイをオオヤマくんに投げ返した。
同じように他の三人が持っていたケータイを取り上げて映ってい
る写真を確認すると、シンは一つずつ持ち主に投げ返してから
、次の撮影、行ってみようか、と言った。
四人の女の子が継ぎのケータイを一つずつ持って、また一斉に
写真を撮った。シンがそれを確認して、持ち主に投げ返す。
同じことを三回やったあと、四回目のケータイを手にした女の子
たちをシンは、ちょっと待て、と制した。
「同じもんばかり撮っても面白くないか」
シンはニヤニヤと笑ってずっと下を向いているユウダイくんの顔
を手でつかみ、無理やり上げさせた。ユウダイくんは最初のように
シンをにらみつけることはせず、ただ恥ずかしそうに視線を床に
落とした。
「こんなことしたら、どうなるかな」
シンはユウダイくんの顔を見つめたまま、ユウダイくんのおちんちん
を手のひらでつかんだ。
「わっ、やめろぉ」
ユウダイくんの目が大きく開かれて、とても驚いたような顔になった。
わたしもびっくりした。おちんちん、触っちゃうなんて。まさかそんな
ことはしないだろうと思っていた。
「おれの手のひらにすっぽり入っちゃうぜ」
シンはニヤニヤ笑いながらそう言った。決して大きくはない手がユウダイ
くんのおちんちんをもみしだきはじめた。
「わっ、わっ、わっ」
ユウダイくんは驚きのあまり、まともな言葉が出てこない様子で、とぎれ
とぎれに声を漏らした。
「どうだ?気持ちいいだろ?」
「あっ、あっ、あっ、やっ、やめっ」
「え?なに?」
「やっ、やめてっ」
「ほんとにやめていいのかな?おれのこの手、離しちゃってもいいのか?」
シンの言っていることの意味がわたしにはわからなかった。ユウダイくん
は困ったような顔をした。
「なあ、手、離していいのか?」
「だ、だめっ、だめっ」
うろたえながら、女の子のようにそう言うユウダイくんはもう今までの男
らしいユウダイくんではなかった。
胸の中でずっと大切にしてきた何かが、ガラガラと音を立てて崩れていく
ような気がした。ぽっかりと大きな穴が胸の真ん中に開いて、そしてその
空隙を埋めるように、説明のできない激しい気持ちがわたしの体の奥の
ほうか湧き上がってきた。
あのときは、ただ戸惑うばかりだった。でも、今なら、そのときの激しい
ものがなんだったのかわかる。
友達やクラスメイトとの間で作り上げてきた信頼や、そこまで確固とした
ものではないただの温かい時間や、それよりも、もっともっと淡い
居心地のいい空気なんかさえ、すべて吹き飛ばすほど、激しく尖った欲望。
それがわたしがはじめて覚えた性欲だった。「なに、聞こえないよ。もっと大きな声で言ってみろ」
勝ち誇ったようにシンが言った。
「手、離さないで」
目を閉じたまま恥ずかしそうにユウダイくんが大声を
あげた。
「エロいな、ユウダイくんは。もっと触ってほしいってさ」
「ち、ちがうよ」
「でもさ、おれ、手、離しちゃうもんね」
「や、やめっ」
シンはユウダイくんに最後まで言わせずに、手を離すと
二、三歩後ろに下がった。
え?
わたしは目を見張った。
ユウダイくんのおちんちんは、さっきの倍くらいの大きさ
になって、ピンと上を向いていた。
おへその下にくっつくほど立ち上がって、ぴくぴくと震えて
いるおちんちんを、わたしは生まれて初めて見た。
こんなふうになっちゃうものなんだ。
「うわあっ、みるなよぉ、みるなぁ」
ユウダイくんの叫び声が遠くに聞こえるような気がした。
胸がどきどきして、じっとしていられないほど興奮した。
恥ずかしくて目を反らせたいのに、視線はずっとユウダイ
くんのおちんちんに釘付けになっていた。
「エロぃなぁ、勃起してんの。もうビンビンだな」
もう完全に戦意喪失しているユウダイくんに対して、
シンはますます残酷になっていく。
「やるときは、徹底的にしないとな。もう二度と逆らう気
を起こせないようにさ」
シンはゲームセンターのコントローラーかなんかを操作する
みたいな手つきで、ユウダイくんのおちんちんを乱暴に
握って動かした。
「や、やめてっ、もう、やめて」
ユウダイくんの声が悲鳴に近くなった。
「さあ、何やってんだよ。撮影会、続けるぞ」
シンは何も聞こえなかったかのように、ケータイを持ったまま
立ちすくんでいる女の子に向かってそう言った。
再び、女の子たちが並んでユウダイくんの固く立ち上がった
おちんちんを撮影し始めた。
「やだあっ、やだあっ」
ユウダイくんの顔はもう泣き顔に近かった。
みんなのケータイは撮影が終わるごとに返されていったが、
わたしのはなかなか返ってこない。
でも、そのときはそんなことは忘れて、体中をピンク色に
染めたまま恥ずかしそうに写真を撮られているユウダイくん
をわたしはじっと見つめていた。
「よーし、そろそろ次の写真いこうか」
それぞれの女の子たちが二、三回撮影を終わると、シンは
教室内を見回してそう言った。
「じゃあね、おまえらの机、ちょっと貸して」
シンは前のほうに座っている人たちに声をかけ、机を四つ
動かして黒板の前に持ってくると、ぴったりくっつくあわせた。
「お立ち台、作ってやったから」
シンはうつむいているユウダイくんの顔をのぞきこんで言うと
体を押さえているテンドウに向かって、この上に乗せろ、と
命じた。
テンドウが小さな子を抱き上げるようにユウダイくんの両脚を
抱え持ち上げる。ユウダイくんは足をばたばたさせて抵抗し
たけれど、テンドウに抱えられたユウダイくんはとても
無力で幼い子供のように見えた。
シンは一足早く机を合わせて作った台の上に乗り、テンドウ
から差し出されたユウダイくんの体をまるで荷物でも受け取
るように両手で抱えると、そのまま机の上におろした。
ユウダイくんが体を起こして逃げようとする。シンはその顔
をピシャッと叩いた。ユウダイくんが顔を抑えている隙に、シンはユウダイ
くんの腰のあたりをつかみ、クルッとひっくり返した。
まるでレスリングの試合でも見ているかのように鮮や
かにひっくり返したユウダイくんの背中の上に馬乗り
になっていると、テンドウが上がってきて、肩のあた
りに体重をかけぐいっと押した。
ユウダイくんの体はわたしたちのほうに足を向ける
格好でうつぶせになっている。おしりのふくらみが
机の上できれいな曲線を描いているのが少しだけ
見えた。
「あと、二、三人上がって来い」
シンはユウダイくんの体から降りると、下に向かって
そう言った。ユウダイくんの足を押さえていた二人が
あわてて机の上に上った。
どうするつもりなんだろう。
わたしの胸は、心臓の鼓動がとなりの席の男の子に
聞こえちゃうくらい激しく鳴っていた。
「よし、四つんばいにさせろ」
シンは上がってきた二人とテンドウに向かって短く
指示したあと、こう付け加えた。
「尻の穴、女の子たちに見せてやろうぜ」
見せてやろうぜ」
シンは三人がかりで四つんばいの格好にさせられたユウダイくんの横に
シンはぴたっとくっついて、両脚を広げさせる。股の間に見える
後ろ姿のおちんちんのたまは、まるで犬かネコのそれに見えた。
「エロい子はお仕置きしないとな」
シンはユウダイくんのわき腹を抱えて、ピシャッと平手でお尻を
叩いた。ものすごい音が教室の中に響いて、ユウダイくんのお尻
は手の後がピンク色の残った。
「どうだ、みんな。いい眺めだろ?」
シンは一度顔をあげてそう言ったあと、再びピシャ、ピシャッと
お尻を叩いていく。
見る間に、ユウダイくんのお尻全体が鮮やかなピンク色に染まっ
ていった。
「やあっ、やめてっ、お願い」
顔は見えないけれど、ユウダイくんの声はもう完全に泣き声に
なっていた。
いま、どんな顔しているんだろう。
さっきまでずっと、ユウダイくんの泣くところなんて見たくない
と思っていたのに、残酷はわたしの心はいつの間にか、いつも
颯爽としているユウダイくんの泣き崩れる姿を求めていたように
思う。
「さあ、そろそろいいか。写真撮ってやれよ」
自分の手が痛くなるんじゃないかと思うほど、シンは何度もお尻
を叩いた後、机の下の女の子たちに向かってそう言った。
顔を見合わせたあと、遠慮がちに女の子たちが机に近づいてくる。
シンはユウダイくんのお尻をグイッと鷲づかみにして、大きく
開かせた。クラス全員が見つめる中で、ピンク色のきれいなお尻の
穴があらわになった。
「やだあっ、もう、やだあっ。やだあーっ」
ユウダイくんはそう叫ぶと、ヒイーッと泣き声をあげた。
その瞬間を待っていたかのように、女の子たちのケータイのフラッシ
ュが一斉に光った。
しばらくそのまま撮影がつづき、最後のケータイを四人の女の子が
一人ひとつずつ持つようになった。わたしのケータイはまだ返されず
に最後まで残ったようだった。
「よーし、最後に残ったケータイでこいつの泣き顔、撮ってやるか」
シンはテンドウに目配せして、ユウダイくんの体を四つんばいのまま
横向きにさせた。
「ちよっと、まて。もう一つ、いい事思いついちゃった」
シンはそこでユウダイくんの体を動かすのをやめさせて、下にいる
男の子にバケツもってこい、と命じた。男の子たちが教室の後ろの
ロッカーから銀色のバケツを持ってくると、それをつかんで掲げ、
これ、誰か持っててくれないかな、と言った。
教室の中はシンと静まり返って誰も返事をしない。シンはバケツを
持ったまま教室の中をとことこと歩き、わたしの席の前でピタッと
止まった。
「おまえ、やってくんない?」
わたしは魔法でもかけられたみたいにこっくりとうなずいて立ち上
がりバケツを持つと、シンの後についてユウダイくんが乗せられて
いる机の前に行った。
「しっかり持ってろよ」
シンはそう言って、わたしを置いたまま机の上に再び上がり、
ユウダイくんのお尻のすぐ後ろあたりにしゃがんだ。
「おい、サカモト。片足上げてみろ」
シンがまるでユウダイくんのお尻に話しかけるようにそう言った。
ユウダイくんはしゃくりあげるばかりで、返事もできない。
「あげろって言ってんだよ」
シンはそう言って、すでに真っ赤に染まったユウダイくんのお尻を
ひっぱたいた。ユウダイくんの背中がびくんと動く。
シンはユウダイくんの両脚を開かせて、股の間に手を入れると、膝
をつかんでゆっくりとあげていった。バランスを崩しそうになった
ユウダイくんの体をテンドウがしっかりと支える。水平近くまで
膝が上げられると、再び小さくなったおちんちんがわたしの目の前に
現れた。まるで体の中に埋没してしまうかのように小さく縮んで、
水浴びをした後の幼児のようなおちんちんに見えた。
シンはさらに高くユウダイくんのひざをあげていく。とうとう、おしっこ
するときの犬のような格好になったとき、最後の宣告のようにシンが
静かに言った。
「この格好で、あのバケツに向かってしょんべんしてみろ。そうしたら
許してやるから」
「そ、そんなこと、できないよ」
ユウダイくんはポタポタとこぼれる涙を拭くこともできないまま
しゃくりあげながらようやくそう言った。
「じゃあ、いつまでもこのまま晒し者だぜ」
シンは片方の手でユウダイくんの片足を高くあげさせたまま、もう
片方の手で、ユウダイくんのお尻をペチペチと叩いた。
「もう許して。お願い」
とうとうユウダイくんの完全降伏だった。でも、シンは降伏した相手
にさえ、どこまでも追い討ちをかけるような男の子だ。だからこそ、
クラスの男の子たちを支配し、小さな体で最後のガキ大将として君臨
しつづけてきた。
「だから、あのバケツに向かって、犬みたいにチーってやったら、許
してやるって言ってるだろ」
シンは上げさせたユウダイくんの片膝をテンドウに持たせると、大きく
開かれた股の間から手を入れて、ユウダイくんのおちんちんをつかんだ。
まるで牛のお乳をしぼるような手つきだった。
「さあ、ちんちん持ってやるから、チーってしてみろよ」
シンが言うと、男の子たちがドッと笑った。わたしは飛んでくるかも
しれないおしっこを確実にバケツの中に受けるために、じっとユウダイ
くんのおちんちんを見つめた。
後にも先にも、こんなに真剣に、じっと男の子のおちんちんを見つめた
ことはなかったように思う。
「いやだぁ。やだあっ」
ユウダイくんは真っ赤な顔をして下を向いたままそう言った。
机の下にいた男の子がその顔をつかみ、わたしの方へ無理やり向けさせる。
涙をいっぱい溜めたユウダイくんと目が会った。
シンの手の中で、ユウダイくんの小さなおちんちんの先っぽが少し膨らんだ。
シンがおちんちんの皮をキュッと下へ引っ張ると、ピンク色の中身が現れる
よりも先に、透明なおしっこがピューッと飛んできた。
「わあっ、わあーっ」
ユウダイくんが泣きながら叫び声をあげ、まわりの男の子や女の子たちの
驚く声が聞こえた。
おしっこは、夏の日の水鉄砲みたいに、放物線を描いてわたしのほうへと
飛んできた。わたしはあわててバケツを構える。ユウダイくんの体から
いま出たばかりの液体がバケツの底を打つ音が聞こえた。
「写真撮れ」
シンの非常な声に、ケータイを持った女の子たちがためらいながら
シャッターをきる。
永遠に続くかと思われるほどおしっこは長く続き、最後にバケツから
少しこぼれて床に落ちた。ケータイを向けていた女の子たちがキャッ
と悲鳴を上げて飛びのいた。
「おー。ほんとうに犬みたいだったな」
シンはニヤニヤと笑いながら、ユウダイくんの顔をのぞきこんだ。
「ひどいよ。ひどいよぉ」
ユウダイくんそう言ったまま、再び大声を出して泣きじゃくった。
それでようやく女の子たちは席に戻り、残りのケータイも返された。
わたしはおしっこの入ったバケツを持って教室の隣にあるトイレに
行き、便器の中へそれを流した。寒い中で裸にされていたせいか、
ユウダイくんのおしっこは、水のように透明で、わたしのとは少し
違うどこか甘いような不思議な匂いがした。
わたしがバケツを洗って戻ってきたとき、まだユウダイくんは素っ
裸で、並べられた机の上に腰掛けたまま、泣き続けていた。
わずか10分ほどの間に、ユウダイくんは5歳ほどの幼くなったよう
に見えた。
「ねえ、みどりのケータイは、何代目?」
新しく買ったケータイの話をずっとしていたサヤカが、唐突にわたしのほうを振り向いていった。
「ケータイ?」
「そう。みんな小学生のときに最初のケータイ持たされたでしょ? いま、持っているのは、
それから何代目のケータイなの?」
「いま持ってるの?あのときのケータイのままだよ」
「うそぉ、8年も前のだよ。あんなのまだ使えるの?」
サヤカが大きな目をいっそう見開いて大げさに笑った。
彼女と話をしたのは、何年ぶりだろう。この子、今はこんなふうに笑うんだ、と思った。
成人式の会場で久しぶりに再開した小学校時代の仲間たちと、夜、再び小さな居酒屋に集っていた。
ものすごく懐かしい子もいれば、高校生になってからもずっと友達のままだった子もいる。
おとなしかった子がおしゃべりになっていたり、コロコロと太っていた子が見違えるほどの美人に
なっていたり。たった8年なのに、あのころが遠い昔に思えた。
「どうして代えないのよ」
「べつに理由なんてないけど。ケータイなんて興味なかったし」
なれないお酒を飲みながらいい加減な受け答えをしていたら、オオノさんがするっと横に割り込んできた。
「ってことはさ、あの写真もまだそのままなの?」
「あの写真って?」
「とぼけないの。わたしらが撮影したユウダイくんの写真だよ」
クラスの中ではおとなしくて、いつも聞こえないような小さな声で話していたオオノさんは、
なぜか誰よりも早く結婚して、明るく社交的なお姉さんに変身していた。
「ねえ、持ってるんでしょ?」オオノさんはその話がしたくてたまらない様子だ。
「ま、まあね」
「見たいな」
やだあ、エロい、と周りの子たちが口々に言う。それでも恥ずかしがる様子もなく、
オオノさんは自分のケータイを取り出した。
「わたしね、いまでも持ってるよ。ユウダイくんのおちんちんがばっちり映ってる写真。
ケータイ代えてもさ、写真も移し換えちゃうから」
「どうして?」
「衝撃的だったもんね。ユウダイくんのおちんちん、わたしの目の前にあったんだよ。
手を伸ばしたらさわれちゃうくらい近くに。そこで何枚もケータイで写真撮らされてさ。
しばらくの間、おちんちんが夢にまで出てきた」
周りの子たちがどっと笑い。わたしもつられてアハハっと笑った。
実はわたしも、ユウダイくんのおちんちん写真を今でもケータイに保存したままだ。
あれからユウダイくんは小学校卒業とともにまた引っ越して行った。
いっしょに過ごした時間は、ほんとうに短かったから、顔なんかもう忘れちゃって、
ほんとうにそんな子がいたんだろうか、と、思うこともある。だから、忘れないように、
犬のような格好でおしっこを飛ばしているユウダイくんの写真をときどきこっそりと眺めてきた。
「実はわたしも」
「わたしもー」
女の子たちは口々にそう言いはじめた。ケータイを取り出して、画像を見せ始める子もいる。
なーんだ、みんなユウダイくんの写真、削除できなかったんだ。
わたしはこっそりとポケットに入れたケータイに触れてみる。
みんなに見せたら驚くだろうな。
わたしは一人でそう思ってニヤニヤと口の端に笑みをうかべた。わたしのケータイには、
ユウダイくんのほかにもう一人、最後のガキ大将のおちんちんの写真までが保存してあるからだ。「おれさ、みんなと一緒の中学に行けないんだ」
いまはもう取り壊されてなくなった小学校の旧体育館で、ユウダイくんは白い息
を吐きながら、もうすぐ転校することをわたしに告げた。
誰もいない、冬の夕方の体育館だった。
「おれ、みんなの思い出の中にしか残れないから・・・・」
わたしはちらちらと、ユウダイくんのはいている白く短い体操着の半ズボンに
視線を落とした。腿のあたりに鳥肌が立っていて、どこかでつけた白いひっかき
傷が細く長い線を描いている。
「だから、このままじゃいやなんだ」
ユウダイくんは静かにそう言った。
あんなことをされて、ユウダイくんは、もう二度と学校に来ないんじゃないか
とわたしは思っていた。
しかし、ユウダイくんは、何事もなかったかのように、次の日も学校にやってきて
それまでと同じように明るい顔で笑っていた。
ただ、今までのようにシンに対してあからさまに楯突くことはしなくなり、
シンが近づいてくると、スーッとどこかへ行ってしまう。おそらく、シンの
ことを避けていたんだろうと思う。
秋が過ぎて、冬休みが終わった放課後のある日、わたしたちはもうすぐ解体
される旧体育館の掃除を頼まれた。
わたしとユウダイくんが倉庫をかたずけている間に、他の連中はさっさと帰
ってしまい、広い体育館に二人だけが残された。
もうすぐ、ここへシンがやってくる。
わたしもユウダイくんもそのことを知っていた。
シンもまた、体育館の掃除を頼まれていて、漢字の居残りテストが終わったら
帰りがけにここへ寄ることになっていたからだ。
「おれ、生まれて初めてだった」
ユウダイくんはまっすぐ前をみたままで少し恥ずかしそうに言った。
「女の子にちんちん見られたのも、女の子の前で泣いたのも」
生まれてはじめてだった」
わたしとユウダイくんはボロボロになった8段の跳び箱の上に並んで座り
足をぶらぶらさせていた。
コツン・コツン・コツン
上履きのかかとが、跳び箱の板にぶつかって規則正しい音を立てていた。
「わりぃ。遅くなったぁ」
体育館の中に大きな声が響いた。
ガラガラと派手な音を立てて開けられた入口を見ると、ペチャンコになった
ランドセルを片方の肩に引っ掛けたシンが、体操着のままの姿で立っていた。
「なんだ、おまらしかいないの?」
シンは怪訝そうな顔をして、わたしのほうを見た。ユウダイくんはチラッと
シンの顔を見て、ためらうように下を向いた。
「わたしらが倉庫の片付けをしている間に、みんな帰っちゃった」
「きったねぇ。おれも来なければよかった」
そういいながらもシンはゴミでも捨てるかのように、ランドセルを入口の
近くの床に投げ捨てて、跳び箱の近くへと歩いてきた。
「あのさー」
顔をあげたユウダイくんは、短くそう言うと、わたしを置いたまま、
跳び箱から勢いよく飛び降りた。まぶしいものでもみるように、シンは
目をパチパチさせて意外そうな顔をした。
「お願いがあるんだ」
「なんだよ」
「もう一回やらせて」
「はぁ?また裸にされて、犬みたいにしょんべんさせられたいのか?」
「ちがうよ。おまえと勝負したい」
シンはわたしとユウダイくんの顔を交互に見比べながら、ニヤニヤと
笑った。
「ムリだって。おまえはおれには勝てっこないよ」
どうして?
そのとき、わたしは思った。
そういいながらも、シンがとても嬉しそうに見えたからだ。
「でも、このままじゃ、ダメなんだ」
ユウダイくんは真っ赤な顔になって、そう言った。
「おれ、卒業したら、また転校だから」
ユウダイくんがそう言ってわたしのほうを向くと、シンも
わたしの顔を見た。
二人の視線がどうしてこっちに集まってくるのか、わからず
わたしは戸惑いながら、足元も上履きばかりを見つめていた。
「いいよ。リベンジさせてやるよ。まあ、返り討ち間違いなし
だけどな」
こいつって、こんないいやつだった?
思わずそう思ってしまうくらい、爽やかな声でシンはそう言った。
「とっちかが泣くか、ギブアップしたらおしまいってことで
いいか?」
シンが提案すると、ユウダイくんは短くうなずいた。
「よし、こい」
シンは腰を低くして両手をあげた。
わあっ、と大きな声をあげて、ユウダイくんがシンに
飛びかかると、二人は取っ組み合ったまま、跳び箱の横に
敷かれたマットに倒れこんだ。
元の色がわからなくなったくらい汚れて変色したマットから
カビくさい匂いとほこりがぱあっと巻き上がる。
ユウダイくんは横たわるシンの上に馬乗りになって、シンの
頬をパシンパシンと叩いた。ガランとした体育館に痛々しい
音が響き渡った。
シンがユウダイくんの体を突き飛ばし、起き上がって頭を脇
に抱えようとしたところを、ユウダイくんが脇をつかんで投
げ飛ばす。
二人はマットの上でもつれ合いながら、上になったり、下に
なったりしながら、何度も相手の頬をひっぱたきあっていた。
やがてユウダイくんをうつぶせにさせて、その上に乗った
シンがユウダイくんの両手を背中のほうへ回し、押さえつけた。
ユウダイくんが苦しそうに顔をあげた。足をばたばたさせて
もがいたけれど、シンはびくともしなかった。
「勝負あったな。ギプアップしろ」
シンはハアハアと息を切らせながら、とぎれとぎれにそう言った。
ユウダイくんは顔を真っ赤にしてもがいたけれど、もうどうにも
ならなかった。シンはユウダイくんの両手に体重をかけて、締め
上げていく。
「腕、折れちゃうぞ。もうあきらめろ」
少しずつ、余裕を取り戻しながらシンが言った。
「いやだぁ」
声を震わせながらユウダイくんが叫んだ。
「しょうがねぇな。また泣かせるしかないか」
シンは両脚でユウダイくんの腰のあたりをはさむと、
背中に手を回されたままのユウダイくんの上半身に
抱きつくように、両腕を回した。そのままシンが床
にお尻をつけるように座ると、ユウダイくんの体も
起き上がる。その姿勢のまま、シンは片手でユウダ
イくんのお腹を何度か殴りつけた。
ユウダイくんは泣きそうな顔になって、必死で唇を
噛んだ。
シンは容赦なく何度もユウダイくんの体を殴り続け
たあと、半そでの体操着の裾をつかんだ。
「また、裸にしてやるよ」
シンがユウダイくんの耳元でそう言った。
ユウダイくんが真っ赤な顔をしてわたしのほうを
見上げた。
シンはユウダイくんの体操着を両手で脱がせていく。
小さく窪んだおへそが現れて、乳首がちらっと見えたとき、
ユウダイくんが背中に回されていた両手を二人の体の隙間
から引き抜くように前に出して、脱がされかけていた体操着
をつかんで、必死に押さえた。
ユウダイくんは、シンが服をぬがせにかかるとは予想して
いなかったようで、体操着を押さえることに気をとられていた。
その隙にシンがレスリングの試合のようにすばやく体を入れ
替えた。
何が起こったかわからないほど一瞬のことだった。
気が付いたら、ユウダイくんは仰向けに寝かされていて、
シンは自分の両脚でユウダイくんの両手を押さえていた。
開かれたシンの両足の間に、ユウダイくんの真っ赤な顔が
あって、シンは自分の両手で体操着がめくりあがったまま
のユウダイくんの裸の腰のあたりをがっしりとつかんでいた。
テレビのプロレスで見たことのあるエビ固めの体勢だった。
「ちきしょう。はなせよー」
ユウダイくんは苦しそうにそう言った。
「バーカ、誰が離すかよ」
シンは余裕の表情で言うと、ユウダイくんの半ズボンに手を
かけた。
「やめろぉ。やめろよぉ」
ユウダイくんは顔が破裂しちゃうんじゃないかと思うほど
真っ赤な顔になって叫ぶ。
「どうだ?ギプアップするか?」
お兄ちゃんが小さな弟に言い聞かせような言い方で、シンが
静かに尋ねた。
ユウダイくんが返事をしないでもがき続けると、シンは手に
つかんだ半ズボンをパンツと一緒にゆっくりと脱がせていった。
股の線が少し見えて、おちんちんの根元まで来たとき、再び
手を止めてもう一度尋ねた。
「どうする?またちんちん見られちゃうぞ。いいのか?」
「やめろよぉ」
「もうよしとけよ。降参しろ」
「はなせよぉー。はなせー」
「ほんとうにいいのか?」
おまえさー、 シンは自分の股の間にあるユウダイくんの顔を
見下ろして言った。
「こいつのこと、好きなんだろ?」
シンがそう言ってわたしのほうを向いても、わたしは自分のこと
を言われているとは気づかなかった。
ムリをして飲み込んだ苦い薬が少しずつ効いてくるように、その
言葉は少しずつわたしの中へしみこんでいったように思う。
わたしは跳び箱の上でぶらぶらさせていた足を止め、凍りついた
ように身動きもせず、じっと二人を見つめていた。
「好きな子の前でリベンジしたかったんだろ?」
三年間、同じクラスで過ごしてきて、いままで一度も見たことも
聞いたこともないような、やさしい口調でシンがそう言った。
「うるさーい。だまれー、だまれぇー」
ユウダイくんは声がかすれるほどの大声で叫んだ。
「しかたないか」
シンはぽつりと言うと、体の向きを少し変えて、わたしと向き合う
位置に直した。シンの顔のすぐ下に逆さまになったユウダイくんの
股間が正面に見える。
「とどめ刺してやろうぜ。ばっちり見てやれよ」
シンは顔をあげてわたしの方を見ながらそう言うと、ライチっていう
果物の皮を剥くみたいに、スルッとユウダイくん半ズボンとパンツ
を脱がせた。
「わあっ。だめぇ」
ユウダイくんが恥ずかしそうに叫んだ。
二度目だったから、そんなに驚かないはずだったけど、息が白く
なるほど寒い体育館の中で、逆さまになったユウダイくんの
おちんちんは小さく小さく縮んでいて、一瞬、おちんちんがなくな
っちゃったのかと思った。
驚いたわたしの顔を見て、シンは満足そうにうなずくと、もがい
ているユウダイくんの両脚の膝のあたりをつかんで、大きく開か
せた。
「おまえもバカだなぁ。またこんな姿、見られちゃってさ」
露になったユウダイくんのおちんちんに息を吹きかけるようシンが
言った。
「やめろよぉ、はなせよぉ」
ユウダイくんの声はしだいに力を失って、泣きそうな声へと変わって
いった。
「このまえより、もっとすごいもの、みせてやるよ」
シンはわたしの顔を見上げながら、微笑むと、いったん膝から手を
離して、ユウダイくんのおちんちんを鷲づかみにすると、すごい勢い
で、もみしだいていった。
見ているだけで顔が火照ってくるほど、エッチな手つきだった。
ユウダイくんのおちんちんはすぐに大きくなっていき、窮屈な体勢で
逆さまにされてため、固く勃起したおちんちんがおへそに突き刺さる
ように見える。
ユウダイくんの体はおへそから肩にかけて鮮やかなピンク色に変わ
っていった。
「やめろぉ、はなせよぉー」
ユウダイくんは力なく叫びつづけたが、シンはなかなか手を離そうと
しない。
「わっ、わっ、だめだってぇ」
どうしてそうなるのかはわからないけど、ユウダイくんの声がなんとなく
女の子みたいに変わっていくように聞こえた。
「どうだ?ギプアップするか?」
「や、やだあっ」
「このまま好きな女の子の目の前で射精させちゃうぞ」
「わあっ、だめだって」
ユウダイくんの声がうろたえた。
射精っていう言葉は、もう授業で習っていたから知っていたけど、具体
的にどういうことが起こるのか、そのときのわたしにはわかっていな
かった。
「おまえさ、もう射精したことあるか?」
シンは親しい友達に内緒話を打ち明けるときのように、声を落として
尋ねた。ユウダイくんは何も答えることができない。
「こんな赤ちゃんみたいなちんちんじゃ、まだなんだろう?」
「うるさい。もうやめろぉー」
「実はねー、おれもまだなんだ。どんなふうになるのか、見てみたくって
さ」
なお、おまえも見たいだろ?シンはわたしの方を見上げてそう尋ねた。
「やめろよぉ、やめろぉ」
苦しそうな声でユウダイくんは叫びつづけたけれど、どんなにもがいてもシンは
ビクともしない。シンがユウダイくんのおちんちんの先っぽを剥きだしにすると、
ピンク色の先端から透明な液がツーッと落ちていって、ユウダイくんの胸のあたり
に溜まっていった。
「おっ、もうすぐいきそうだな」
シンは嬉しそうにつぶやいて、ユウダイくんの顔を見下ろした。
シンの手もユウダイくんのおちんちんから出た透明な液で濡れて光っていた。
「わっ、うわあっ」
ユウダイくんの叫び声が体育館の中に響き渡った。
わたしはその声を人に聞かれはしないかと、思わず周りを見回す。
どうしてだろう。ユウダイくんのこの声とこの姿、ほかの誰にも見られたくなかった。
「わあっ、わあっ、だめぇ」
その瞬間、ユウダイくんのおちんちんから突然、白い体液がピュッと飛び出した。
初めてみた射精の瞬間に、わたしは驚いて凍りついたようにユウダイくんの股間
を見つめていた。。
人間の体から、こんなものがこんなふうに飛び出してくるなんて。
水鉄砲のように勢いよく二度、三度と飛び出す精液を、わたしには呆然とながめて
いた。
「うわぁ、すげえ」
わたし以上にびっくりしたのは、シンのようだった。
シンは驚いてつかんでいたおちんちんを離すと、そういったきり、しばらく口もきかずに、
黙ってユウダイくんを見下ろしていた。
「ああ、ああっ」
ユウダイくんは言葉にならない、あえぐような声をあげている。
「いまのみた?」
シンはようやく我に返ったように顔をあげると、わたしのほうを見た。
わたしは黙ってうなずいた。
「すげえな。こんなの出て来るんだ」
わたしは恐る恐る、ユウダイくんの顔に目を落とした。真っ赤な顔をして、恥ずかしそうに
目をパチパチしているユウダイくんもショックを受けているみたいだった。もしかして、
泣いているかと思ったけれど、小さな口をキュッと閉じたその顔は泣いてはいなかった。
もう離してあげればいいのに。
わたしはそう思ったけれど、シンはいつまでもユウダイくんの体をしっかりと抱きしめていて
離そうとしなかった。そのうちに、ゆっくりとユウダイくんのおちんちんが小さくなっていった。
びくんびくんと震えながら、少しずつ小さくなっていくおちんちんの先っぽからは、まだ中に
残っていた精液が零れ落ちていった。
「どうだった?気持ちよかったか?」
シンは微笑みながらユウダイくんの顔をのぞきこむ。ユウダイくんは返事をすることが
できなかった。
すっかりもとの大きさに戻ったおちんちんを、シンは手のひらで何度か撫でたあと、
ゆっくりと顔を近づけていった。
えっ?
射精の瞬間をみたときよりも、わたしはずっとずっと驚いた。
シンがパクッとユウダイくんおちんちんを口に含んだからだ。
「わあっ、なにすんだよぉ」
ユウダイくんは明らかにうろたえた声をあげた。わたしは信じられないようなこの光景
をただ、ぽかんと口を開けて眺めていた。
小さくなったユウダイくんのおちんちんがすっぽりとシンの口の中に含まれてしまうと、
体をくねらせていたユウダイくんの動きがピタッと止まった。
ユウダイくんの顔は、ちょっとだけ気持ちよさそうにみえた。
おむつを取り替えてもらっているときの赤ちゃんのように。
どうしてシンはあんなことをしたのだろう。
あのときのことを思い出すたびに、何度も同じことを考える。
男の子が男の子にどんな感情を抱くものなのか、わたしにはわからないけれど、
もしかしたら
もしかしたら、だけど。
ほんとうはシンだって、ユウダイくんと友達になりたかったのかもしれないとわたしは思う。
ユウダイくんのおちんちんを口に含みながら、ちらちらとわたしのほうを見るシンの頬
は真っ赤に染まっていて、ユウダイくんよりもずっとずっと恥ずかしそうな顔をしていた。
ずいぶん長い間、シンはユウダイくんのおちんちんを口に含んでいたように思う。
その間、ずっと時間が止まっていたような気がした。
「わっ、やばいよ。はなせよ」
突然、ユウダイくんが大声をあげた。
シンは少しびっくりしたように顔をあげた。
「やばいって。でちゃうよ。でちゃうよ」
シンはゆっくりとおちんちんから口を離した。
シンの唾液できらきらと光るおちんちんが現れて、先っぽがピクッと先っぽが動いた
と思ったら、次の瞬間、透明なおしっこが勢いよく噴出した。
「わっ、わっ、わっ」
シンが驚いて両手を離した。男の子のおしっこの匂いが、ぱあっと広がった。
壊れた水道のようにいつまでも止まらないおしっこは、ユウダイくんの胸や顔に降り注ぎ、
少し長いその髪を濡らせた。
ユウダイくんは眉毛をへの字にまげて、泣きそうな顔になった。
シンはユウダイくんの体をマットの上に横たわらせて、起き上がると着ていた体操着を
スルッと脱いだ。上半身裸になったシンは、思ったよりも小柄で肩やお腹のあたりの
ふくらみがとても子供っぽく見えた。
「しょうがないなぁ」
シンはそう言って、ユウダイくんの上半身を抱き起こすと、おしっこや精液でびちょびちょ
になった体を、自分の体操着で拭き始めた。ユウダイくんは自分が何をされているのか
よくわからない様子で、不思議なものを見るような目でシンの顔を見つめていた。「服、汚れちゃうよ」
しばらくして、ユウダイくんがかすれた声でぽつりと言った。
「いいよ」
シンは短くそう答えたあと、真っ赤な顔をして恥ずかしそうにこう付け加えた。
「おまえのちんちん、しょっぱかった」
シンが自分の体操着でユウダイくんの体を拭くと、あたりにはいっそう強くおしっこの
匂いが広がった。シンは濡れてぐちょぐちょになった自分の体操着を床の上に放り
投げると、立ち上がった。
「ほら、たてよ」
そういいながら差し伸べられた手につかまらずに、ユウダイくんは床に膝をついて
起き上がり、ちらっとわたしの方を見た。
「おれさー」
「なに?」
ユウダイくんを見下ろしてシンが短くたずねたとき、ユウダイくんは突然手を伸ばして
シンの体操着の半ズボンをつかんで、一気に膝の下まで引き摺り下ろした。
一瞬、シンの裸の下半身が見えた。
「わあっ」
シンがあわてて股間を押さえてしゃがんだ。ユウダイくんはすばやく立ち上がり、
足で引き摺り下ろしたシンの半ズボンとパンツを踏みつけると、両手でシンの
手首をつかんだ。
「おれ、まだギブアップしてないぜ」
立ち上がったユウダイくんはそう言ってシンを見下ろした。
「やめろよぉ」
シンは真っ赤な顔をしてうずくまった。
「ほら、立ってみろよ」
ユウダイくんも真っ赤な顔をしてつかんだシンの手を、股間から引き離そうとする。
見ているほうがどきどきするような二人の力くらべだった。
「やめろってば」
「おまえも道連れにしてやるよ」
ユウダイくんが渾身の力をこめてシンの手を少しだけ股間から引き離すと、
シンも体が震えるほどの力をこめて、再び手を元へ戻してしまう。
そんな攻防が長いことつづいた。
じっと見ていられなくなったわたしは、跳び箱を飛び降りて、二人の側へ近づいた。
二人が驚いたようにわたしの顔を見上げた。
とっさにわたしはしゃがんでいるシンの前に屈むと、手を伸ばしてシンの裸の脇
をくすぐった。
「わっ」
シンの手がピクッと上がる。その瞬間、ユウダイくんがシンの手を力いっぱい
引き離すと、バンザイをさせるように上げさせた。
「えっ?」
わたしは声をあげていた。
わたしの目の前に現れたシンのおちんちんは、わたしの親指の先っぽくらいの
大きさで、ピーナッツのような形をしていた。たまたまは体の中にもぐりこんでいて
どこにあるのかわからない。ずっと前に見たことのある赤ちゃんのおちんちんに
そっくりだった。
「うそぉ」
わたしは驚いてしゃがんだままシンの顔を見上げた。真っ赤な顔のまま下を
見下ろしたシンとその肩越しにこっちをみているユウダイくんの顔が見えた。
「わあっ、見るなぁ。見ちゃダメぇ」
シンがびっくりするほど大きな声で叫んだ。ユウダイくんはシンの背中に立ったまま脇の下へ手を入れて、その手をシンの後頭部へ
持って行く。シンの両手がガッチリと固められて、シンは腰を屈めて必死に股間を隠そう
としていた。
わたしもユウダイくんもびっくりして、しばらくの間、ただ呆然とシンのおちんちんを眺めて
いた。
「ケータイで写真、撮って」
思い出したように、ユウダイくんが言うと、わたしはポケットからケータイを取り出して、
目の前に晒されているシンの小さなおちんちんを撮影した。
「ばかぁ。やめろよぉ。やめろぉ」
シンは今まで見たこともなかったような恥ずかしそうな顔をして叫び続けた。
「どうする?ギブアップするか?」
ユウダイくんは予想外の事態に少し戸惑った様子で、そうたずねた。
「きたねぇぞ。二人がかりなんて」
「おまえだって、このまえ他のやつら使っておれの裸、写真に撮っただろ?」
「ちっきしょう。離せよぉ」
シンの顔が少しずつゆがんでいく。
くやしいのか恥ずかしいのか目に涙がたまってぃった。
「なあ、ギブアップしろよ」
頼み込むようにユウダイくんが言った。
なんとかしなきゃ。
わたしはそう思った。でもそれがどうしてあんな行動につながったのか、いまのわたしには
わからない。
わたしはしゃがんだまま、シンのおちんちんに手を伸ばしていた。
生まれてはじめて触ったおちんちんは、とてもやわらかく、引っ張ったら取れてしまいそうなほど
頼りない感じがした。
「わ、わっ、なにすんだよぉ」
シンはわたしを見下ろしながら、震える声でそう言った。
わたしは手のひらに包み込むようにシンのおちんちんを触っていた。思ったよりもすべすべしていて
赤ちゃんのころよく遊んだおもちゃみたいだった。
「やめろよぉ、お願いだよぉ」
シンは泣きそうな声でそう言った。
わたしはシンのおちんちんが温かくなるまで、手のひらで包み続けた。シンのおちんちんはいくら
触っても決して大きくなることはなく、わたしの手の中で眠り続けているように見えた。
「もうかんべんしてくれぇ」
シンがポツリとそう言ったとき、目からポロポロッってこぼれるように涙が落ちて、わたしの手に
あたった。初めて見た最後のガキ大将の涙だった。
ユウダイくんはシンの涙を見て、手を離した。シンは股間を押さえて、ペタンと床に座って、泣きなが
らユウダイくんの顔を見上げた。
「お願い。他のやつらには黙ってて」
しゃくりあげながら、シンがそう言った。
夜もふけてお開きとなり、居酒屋を出ると、外は雪になっていた。
「成人式の日ってさ、いつも雪だよね」
小学生のころ、一番仲のよかったケイコが寒そうに肩をすぼめながらそう言った。
仲間が散り散りとなり、わたしはケイコと二人きりで夜のバス通りを歩いた。
私立の中学生へ進学したケイコとは、小学校卒業後は疎遠になっていたから、
久しぶりに近況を伝え合いながら話がはずんだ。気が付くと、それぞれの家とは
全く違う方向へと歩いていたわたしたちは、大きな交差点に差し掛かっていた。
「ここ、ミヤタくんが事故で亡くなったところだよね」
信号待ちの間に、ケイコがぽつりと言った。歩道橋の階段の端にいまでも白い
花がいくつか置かれている。その中にはわたし自身が残した花もあった。
「ケイコ、知ってたんだ」
「もちろん。ミヤタくん。同級生の中で、一番先に天国へ行っちゃったね」
小学校を卒業したシンは、それから急に体が大きくなり、中学を卒業すると地元の
暴走族の、総長だか頭だか知らないが、そういう人になった。そして、昨年の夏、
この場所で暴走中にトラックと衝突し、あっけなく帰らぬ人となってしまったのだ。
同級生の中で、一番先に。
ケイコのその言葉を聞いたとき、わたしの体は突然その場に立ち止まったまま、
動かなくなった。
懐かしさ、なのだろうか。なにかとても強い感情がどっと一気に押し寄せてきて、
どうにもならない。
「ごめん。電話かかってきちゃった。先、行ってて」
わたしはとっさに嘘をついて、ポケットからケータイを取り出す。ケイコは笑って手を
あげると、横断歩道を渡っていった。
わたしは取り出したケータイを開けて、写真を眺めた。犬のように足を上げさせられ
て、おしっこをしているユウダイくんの写真だ。小さなおちんちんの先っぽから、飛ん
でくるおしっこがフラッシュでキラキラと光っていて、ユウダイくんの泣き顔がこっち
を見ている。
「そろそろ、消してあげようね」
わたしは独り言を言いながら、その写真を削除した。
次にわたしは、わたし自身が何枚も撮ったシンの裸の写真を一つずつ眺めた。
ユウダイくんに両手を押さえられ、真っ赤な顔をしているシンの顔。わたしの目の前に
突き出された小さな小さなおちんちんのアップ。体育館の床にペタンと座って泣き出
したシンの姿。どれもこれも忘れられないあのときの写真だ。
ユウダイくんが引っ越す二、三日前、わたしはユウダイくんの家へ行った。
「わたしのケータイで撮ったミヤタシンの写真、送るからさ。ユウダイくんのメアド教えて」
わたしがそう言うと、ユウダイくんは微笑みながら、首を横に振った。
「どうして?せっかくの戦利品なんだから、引越し先まで持って行ったら?」
本当は違った。わたしはユウダイくんが引っ越しても、彼と何かつながりを持っていたかった。
住所教えて、なんて言い出せなかったから、メールアドレスを聞き出そうとしたんだ。
「いいよ。おれは写真なんていらないから。もう削除していいよ」
「でも、シンだって、ユウダイくんの裸の写真、女の子たちにいっぱい撮らせてたじゃない」
「もういいんだ。」
ユウダイくんはそう笑うだけで、結局、メールアドレスを教えてはくれなかった。その代わり、
最後にわたしにこう言い残した。
「あいつのこと、みんなには内緒にしてやれよ」
「これで心置きなく、成仏してね」
わたしはつぶやきながら、シンの裸の写真を一つ一つ、眺めては消していった。
最後に一枚、はだかんぼのユウダイくんとシンが二人並んで立っている写真が残った。
あのとき、最後にわたしがお願いして撮らせてもらった写真だ。
こいつとならぶの絶対、いやだ。
シンは真っ赤な顔をしてそう言っていた。
ユウダイくんとおちんちんの大きさを比べられてしまうのがいやだったようだ。
二人とも、どんぐりみたいなかわいいおちんちんなんだから、これこそまさにどんぐりの背くらべ
で、気にするほどのことでもないのに。
むきになって抵抗するシンを、クラスのみんなに赤ちゃんみたいなおちんちんのことも、泣いたこと
も全部、ばらしちゃうよ、と言って、最後は無理やり、ユウダイくんの横に立たせた。
写真の中で、シンは恥ずかしそうにうつむき、ユウダイくんは真っ赤な顔で、それでも少しだけ微笑
んでいるように見える。
「かわいいナァ」
わたしの独り言は、白い息とともにせわしなく行き交う車の騒音にかき消されていった。
小柄な二人の体も、子供っぽいおへそのくぼみも、ポチッとついているおちんちんも、かわいい。
やっぱり、シンのおちんちんはユウダイくんのよりもさらに小さく、半分くらいしかなくて・・・・・
あっ、ごめん。やっぱり比べちゃったね。
でも、それだけじゃない。あのときの二人の憤りとか、闘争心とか、複雑な友情とか、羞恥心とか。
写真には写っていないものも含めて、全部全部がかわいくて、いとおしくてたまらない。
「ごめんね。この写真だけは、消せないナァ」
わたしはケータイをしまうと、道端の白い花を見つめた。大きなユリの花の上にうっすらと雪が
つもりはじめていた。
おわり
その年の春からわたしたちのクラスに入ってきた転校生だった。
わたしたちのクラスは四年生のときからクラス換えもなくずっと
同じで、初めて受け入れる転校生にみんな、興味津々だった。
ユウダイくんは、それまでクラスで一番背の低かった子よりも
さらに小さくて、女の子のようにとてもかわいい顔をしていた。
同級生というよりも並んで歩いていると弟にしか見えない子
だった。
でも、ユウダイくんはとても頭が良くて、テストがあるたびに
それまでクラスで一番の秀才くんとほぼ同じか、ときにはそれを
上回るような成績を残した。それに、運動神経が抜群で、学年
で一番足の速かった子の記録を軽々と塗り替え、幅跳びや跳び箱
といった小柄な子に有利な競技はもちろん、サッカーや野球も
誰よりもうまかった。
明るくて元気でちょっと訛りのあるしゃべりかたをして、
ひょうきんなところもあって、
みんながユウダイくんと友達になりたがった。ところで、わたしたちのクラスで、ユウダイくんが転校してくる
まで一番小さかったのが、ミヤタシンっていう男の子だった。
先生たちは、彼のことを「最後のガキ大将」と呼んでいた。
体は小さいのに、ケンカがやたらと強くて、クラスの男の子は
もう中学生くらいの体格になっている子でさえ、シンには
逆らえなかった。
勉強はあまりできなかったけど球技が得意で、休み時間に遊ぶ
にしても、クラスで何かの団体競技をするにしても、シンが
仕切らないと、何も始まらないクラスだった。
面倒見のいいところもあるけれど、気が短くてすぐ顔を真っ赤に
して怒るので、男の子たちはどこか腫れ物に触るような感じで
シンと接していたように思う。
ただ、一人だけ、ユウダイくんだけは違った。学級会でシンが
何かを発言すると、それに反対する意見を堂々と言ったし、
休み時間にシンがサッカーやろうぜ、と言っても、男の子たちの
中でただ一人、おれはやらない、と言えた。
そのサッカーだって、いままではシュートするのは全部、シンの
専売特許だったのに、ユウダイくんは平気でシュートしちゃって
しかもちゃんと得点を重ねていた。
あいつ、転校生だからな
どこか言い訳するような口調で、口癖のようにシンが言うようになった
のは二学期も始まったころだった。
先生が怪我をして、一日中、自習が続いた日、二人はとうとう
衝突した。それまでも小競り合いはたびたびあったけれど、
二人とも正面からの衝突はどこか避けようとしている様子で
大きな衝突にまで発展したことはなかった。
それなのに、その日は、いったい何がきっかけでそうなったの
だろう。教室の後ろのほうで大きな物音がして、何かと思って
振り返ったら机が倒れていた。シンが真っ赤な顔をして何か
を叫んでいて、その目の前にユウダイくんが同じように赤い顔
をして立っていた。
どうしたの?
隣の男の子に訪ねたら、さあ、と曖昧な返事が返ってきた。
「てめえ、いい加減にしろよ」
シンはそう言ってユウダイくんのTシャツの胸ぐらをつかむ。
「おまえが悪いんだろ」
ユウダイくんも負けないほどの大きな声で言い返した。
おまえ、だって。
わたしはびっくりして耳を疑った。
今まで、シンのことを呼び捨てにした子は誰もいない。
シンちゃん、シンちゃん、とみんなは呼んでいた。
ましてや、おまえ、なんて。誰も口にできない言葉だった。
もう、だめだ。
そのとき、わたしは思った。
この二人の争いを、もう、誰も止められないと。
シンはユウダイくんの体を押し倒し、馬乗りになろうとした。
ユウダイくんはスルリと身をかわし立ち上がると、平手で
シンの頬を叩いた。
パン
と乾いた音が響いて、わたしは思わず両手で顔を覆った。
ユウダイくんはさらに二度、三度とシンの顔をはたいたあと、
脇の下で頭を挟んで、そのまま腰を落とした。シンが真っ赤な
顔で苦しそうに声をあげた。
もしかしたら、シン、やられちゃうかも
そのときは本気でそう思った。こんなふうに泣きそうにゆがんだ
シンの顔を見るのははじめてだった。
でも、そんな簡単にやられちゃうシンではなかった。
シンは苦し紛れに伸ばした手で、ユウダイくんの顔を
かきむしった。指が目に入ったらしくて、ユウダイくんは脇に
挟んでいたシンの頭を離し、手で顔を覆った。
すかさず立ち上がったシンが思い切りユウダイくんの顔を蹴った。
わっ、と声がして、ユウダイくんが手で顔を押さえたまま
うずくまると、今度はお腹の部分を蹴り始めた。
ドス、ドスと鈍い音がして、ユウダイくんの苦しそうな声が聞こえた。
卑怯だ、と思った。
でも、シンはそんなことは気にしないのだろう。
いつまでも蹴り続けていたら、ユウダイくんはお腹を抱えて、エビの
ように体を丸めて苦しそうにうめき声をあげた。
「これ以上やったら、もう、やばいよ」
タイチという子がポツリとそういったら、シンは真っ赤な顔のまま
声の主をにらみつけて、背伸びしないと届かないような高さにある
タイチの顔を殴りつけた。
ヒィーッと声がして、タイチは手で顔を覆いながら泣き始めた。
「テンドウ、こいつ、立ち上がらせろ」
シンはまだハアハアと肩で息をしながら、先生よりも体の大きな
テンドウという子を指名した。はじかれたようにテンドウが前に
出て、うずくまっているユウダイくんの両脇をつかみ、抱えあげた。
苦しそうに目を閉じているユウダイくんは、それでも泣いていな
かった。
「みんなの前で泣かせてやるから」
シンは顔に息がかかるほどユウダイくんに近づいてそう言った。
ユウダイくんがうっすらと目を開けて、プイと横を向いた。
その顔をパシッとはたいた後、シンは言った。
「黒板の前へ連れて行け」
三人がかりで押さえられたユウダイくんが黒板の前に立たされると
シンは先生の机の上のペン立てから大きなハサミを抜いた。
なにする気なんだろう?
わたしは隣の席の男の子と顔を見合わせた。イソガイという名前の
痩せて弱っちそうなこの男の子は、わたしの顔をちらちらと
見ながら、自分が何かされるかのようにおびえている。
テレビのヒーローは弱いものの味方だけど、現実の男の子はみんな
強いほうの味方だ。
恐怖の前には、あこがれもカッコよさも何もかもすべてが吹き飛んで
ただ、自分に火の粉が飛んでこないように、身を守るので精一杯だ。
シンはようやくうっすらと顔を笑みを浮かべる余裕ができたようで
、ハサミをユウダイくんの頬に押し当ててニヤニヤと笑った。
ユウダイくんは目を丸くしてこわばった顔でハサミを見つめていた。
まさか、刺したりしないよね。
どきどきしながらわたしもシンの持つハサミをじっとにらみつけた。
もうやめてっ。
女の子の誰かが叫ぶ。シンは振り返りもせずに、ユウダイくんの
Tシャツの裾をつかんだ。
「やめろよぉ」
ユウダイくんが叫んだ。少しだけ追い詰められたような声だった。
シンのハサミはジョキジョキと規則正しい音を立てて、ユウダイ
くんのTシャツを切り裂き始めていた。
よかった。服を切るだけなんだ。
それを見ていたわたしはなぜかホッとした。
シンは怒りのあまりユウダイくんの体を傷つけると思って
いたからだ。
でも、すぐに、あんなことしちゃって、いいのかな、と
思った。
おへそのあたりからまっすぐにTシャツを切り裂いたハサミ
は、胸のあたりで両腕のほうへ曲がり、肩のあたりまでを
切ると、シンはハサミを投げ捨てて、自分の手でTシャツを
引きちぎった。布切れと化したTシャツを引っ張ると、
シャツを着ていなかったユウダイくんの裸の上半身が現れた。
とっさに乳首に目が行ってしまうのは女の子の性なのだろうか。
ユウダイくんの乳首は、わたしのそれよりも少し小さくて、
でも女の子のように綺麗なピンク色をしていた。
まだ夏の日焼け後が残る褐色のお腹には小さな小さな動物の口の
ようなおへその穴が見えた。
こんなときに、残酷で不謹慎なのかもしれないけど、ぞくっと
するほどかわいいおへそだった。「やめろよ。はなせよ」
ユウダイくんは大声をあげて、必死に抵抗し始めた。
体の大きなテンドウも、手足めちゃくちゃに振り回しながら
もがくユウダイくんを抱え切れなくて、困った顔をして
シンのほうを見た。
「おまえら、足、押さえろ」
シンがドスのきいた声で教室の前にいた二人の男の子に声を
かける。男の子たちは飛び上がるように立ち上がり、黒板
の前まで出ると、ユウダイくんの足を一本ずつつかみ、体重
をかけて無理やり押さえつけた。
三人がかりで手足を押さえられたユウダイくんはそれでも肩
と腰を必死にくねらせてもがき続ける。その様子がなんとも
エロくて、わたしはとり付かれたように、その姿に見入って
いた。
「みんな、ちゃんとこっち見ろよ」
シンは勝ち誇ったようにそう言うと、ユウダイくんの半ズボ
ンに手をかけた。
「やめろよ、やめろぉ」
ユウダイくんが狂ったように叫び続ける。シンはゆっくりと
半スボンのボタンを外し、チャックに手をかける。
ジーと微かな音を立ててチャックが下ろされると、中から白
いパンツがチラッと見えた。
「白いパンツなんかはいていやがんの。おまえ、何年生だ?」
シンはユウダイくんの顔に噛み付きそうな勢いでそう言うと
軽く開かれたユウダイくんの両脚の間にしゃがんだ。
「おまえ、絶対殺すからな。ぶっ殺してやるからな」
首すじから鎖骨のあたりまで、鮮やかなピンク色に染めたまま
ユウダイくんは目を大きく開けてシンをにらみつけた。
「そんなこと言っていられるのも今のうちさ」
シンはへらへらと笑いながら、ユウダイくんの半ズボンをつかみ
ゆっくりと下ろしていった。
ユウダイくんの半ズボンを膝まで下ろしたシンは、一度立ち上がって
二、三歩後ろに下がった。思ったよりもずっと子供っぽい白いブリー
フがみんなの前にあらわになった。
真っ赤な顔をしたユウダイくんの顔がはっきりと見えて、一瞬、目が
合ったような気がした。
あきらかにうろたえて、少しおびえたような表情は、いままで一度も
みたことのなかったユウダイくんの顔だった。それでも精一杯、
強がって、シンの顔をにらみつける姿にわたしは少し感動した。
「いい眺めだなぁ」
シンは腕を組みながらそう言うと、ちらっとわたしたちの方を
振り返った。
「このあと、どうしようか」
ユウダイくんの耳たぶは、もうまっかっかだ。おへそのあたり
までうっすらとピンク色に染まっている。
「後で覚えてろよ。一人じゃ何にもできないくせに」
叫ぶように言ったユウダイくんの声は誰が聞いてもわかるほど
震えていた。
「はいはい。弱い犬ほどよく吼えるんだよなぁ」
シンは再び近づいて、半ズボンをつかむと、一気に足首まで
引き摺り下ろした。後は足首を押さえている男の子が二人
がかりで、必死に抵抗するユウダイくんの足首から半ズボン
を脱がせ、シンに手渡した。
シンはそれをつかむと、並んで座っているわたしたちの間を
歩いていく。何人かの女の子の顔に、ぶら下げた半ズボンが
触れて、そのたびにキャッと声があがった。
最後に教室の一番後ろにたどり着いたシンは、それから窓際
のほうへ歩いてゆき、窓を開けた。
「や、やめろぉ」
ユウダイくんが叫んだ。さっきよりも、少しだけ情けない声
に変わっていた。
「はい、さよならね」
シンはユウダイくんのほうを見ながらそう言って、勢いよく
半ズボンを窓の外へ放り投げた。
シンはとうとうパンツ一枚だけの姿になったユウダイくん
のところへ戻ると、パンツのゴムの部分をつかんで引っ張
った。
「あーあ。こうなるとさすがのサカモトくんも、情けない
姿だねぇ」
シンはそういいながら手を離す。パチン、と音はしなかっ
たけど、そのくらい勢いよくパンツのゴムがユウダイくん
の赤く染まったお腹へぶつかった。
「やめろぉ、やめろよぉ」
ユウダイくんは、もう、ほかになんて言ったらいいか、
わからない様子だった。
ごめんね。ユウダイくん。
本当は、シンに頭が上がらない男の子たちよりも、
わたしのほうが100倍も卑怯で卑劣な人間なのかも
しれないね。
その姿を見ながら、わたしは確かに興奮していた。
そして、その最後の一枚が脱がされる瞬間を待ち望ん
でいた。
シンはパンツのゴムを引っ張って離す動作を何度も
繰り返しながら、ニヤニヤ笑ってユウダイくんの顔
を眺めていた。どうせなら、すぐに脱がせてあげた
ほうが楽なのかもしれない。ユウダイくんの顔は
だんだんとシンをにらみつける気力を失っていった。
「許してくださいって、泣いて謝ったら、ここで
やめてやるよ」
パンツのゴムがだめになっちゃうんじゃないかと
思うほど、何度も何度も引っ張っては離したあと
シンは大きな声でゆっくりとそう言った。
「どうする?」
ユウダイくんはギュッと唇をかんで目を閉じた。
お願い。許してなんて言わないで。
シンに謝ったりしないで。
わたしは願った。
勝手すぎるお願いかもしれない。
でも、わたしは、ユウダイくんが簡単に屈服する
ところなんて見たくなかった。
「さあ、どうする?」
シンが今度はユウダイくんの胸を撫でながら再び
言った。ユウダイくんがプイッと顔を横に背けた。
「バカだなあ、おまえは」
少し哀れむようにシンが言った。次の瞬間
シンはユウダイくんの白いパンツをつかんで
一気に足首まで引きずり下ろしていた。
「わあっ、わあっ」
ユウダイくんの声が教室に響き渡る。
ほんの一瞬、ユウダイくんの股の線がくっきり
と見えた。
足を押さえている二人とシンの三人がかりで
両足を持ち上げられ、パンツを抜き取られてい
るユウダイくんは、まるでずっと幼い子供の
ようだった。
「わっ、小せえな。おまえ、ほんとに男なのか?」
パンツを手につかんだままのシンがそういいながら
後ろに下がった。
「みんな、よーく見てみろよ」
ワアッ、と女の子の悲鳴があがった。
素っ裸の男の子が一人、そこに立たされていた。
ユウダイくんのおちんちんは、その小さな体に
ふさわしく、わたしの小指くらいの大きさで
頼りなく、ちょこんと股の間についていた。
恥ずかしそうにユウダイくんが腰を振ると、皮
にすっぽりと包まれた先っぽが、そこだけ生き
ているようにぴょこぴょことはずむ。
いつもの颯爽とした姿からは想像もできないほど
かわいらしい姿だった。
「みろよ。サカモトの脱がしたてパンツ」
シンはそういいながら、さっきと同じように、
いや、さっきよりももっと高々と、剥ぎ取ったパンツ
を掲げて教室の中を歩き回り、最後には同じように
開け放った窓からそれを放り投げた。
「どれどれ」
再びユウダイくんの前に戻ったシンはそう言って、
おちんちんの目の前にしゃがんだ。
「ユウダイくんのおちんちん、じっくり見せてもらうぜ」
シンは真っ赤な顔をうつむいているユウダイくんを見上げ
ながらそう言った。
チキショウと、ユウダイくんが小さな声でつぶやいた。
「ちいせぇな。低学年なみだなこりゃあ」
シンはそういいながら、一番前の席の男の子から、定規を
借りて、ユウダイくんのおちんちんにあてがった。
「シミズさん、読んで」
「え?」
定規を差し出した子の隣に座っていたシミズさんという女
の子は、いきなり指名されて、驚いて声もでない様子だった。
「さあ、目盛り、読んでよ」
「で、でも・・・」
「おちんちんの先っぽ、何センチになってる?読んでよ」
シミズさんはしばらく黙ったあと、消えそうな声で目盛りを
読んだ。
3センチ5ミリくらい。
そう聞こえた。
「三センチしかないんだってさ。どうする?もう男やめたほうがいいな」
シンが大声でそう言うと、下を向いていたユウダイくんが真っ赤な顔を
あげてシンをにらみつけた。気のせいか少しだけ目が潤んでいるように
見えた。
ユウダイくんの泣くところは見たくなかった。
いつも明るく楽しくて、それでいて凛々しく男らしいユウダイくんが好き
だったから、ユウダイくんはどんなことがあっても泣かない男の子で
いてほしかった。
「さてと、ところでさ、みんなケータイ持ってきてるよな」
祈るような気持ちで眺めていたら、突然シンがわたしたちのほうを振り向
いて言った。田舎にあるわたしたちの学校は家から遠いこともあって、
低学年でも学校公認でケータイを持たされている。だからシンのいう
とおり全員が自分のケータイを持っていた。
「おまえら、全員、自分のケータイを机の上に出してみろ」
わたしたちの机の間を歩きながらシンが言った。もう誰もシンを止められ
る子はいなかった。ガチャガチャとカバンの中からケータイを取り出す音
が聞こえて、一つ、二つと机の上に色とりどりのケータイが置かれていく。
「早くしろ。おまえも持ってるだろ」
呆然としているわたしを見つけて、つかつかと近寄ってきたシンがわたし
の肩を突いた。
「ケータイなんて、どうするの?」
「いいから、早くしろ」
「でも・・・」
「いいから」
気の短いシンは、自分でわたしのカバンを開け始めた。
「やめてよ」
「おまえが自分でやらないから悪いんだ」
シンはわたしのカバンの中へ手を入れて、ごそごそと探した後、ケータイ
をつかんで机の上にドンと置いた。ケータイ壊れちゃうんじゃないかと
思った。
「よし、できたか。そしたら、カンザキとシマダとオオノと、それから
イシダ。おまえらでこいつらのケータイ全部集めて持って来い」
指名された四人の女の子たちは、互いに顔を見合わせてキョトンとした顔
をする。四人ともクラスの中ではおとなしい子で、最初に呼ばれたカンザ
キさんなんかは、もう泣きそうな顔になって耳たぶが真っ赤になっていた。
「さあ、早く」
シンは四人のうちのイシダさんとオオノさんが並んで座っているあたりへ
言って、大声を出した。四人の女の子が一人、また一人と立ち上がって
いった。女の子たちは教室の中を歩いて、一人8個くらいずつケータイを
集めると、シンに言われるまま、教室の一番前の二つの席にそれ
を置いた。
「おー、こんだけ集まるとスゲーな」
シンは上機嫌でそう言った。
「じゃあ、写真撮影会始めようか。おまえら一人ひとつずつケー
タイもって、ここへ並べ」
シンに言われた女の子たちは山のようにケータイの盛られた机
の前で、困ったように立ちすくんだ。
「ケータイで写真撮るなんて、簡単だろ?早くしろよ」
次第にいらいらしはじめたシンを見て、カンザキさんがまずケー
タイを手にする。つづいて他の子もケータイを手にした。
「ここへ並んで」
シンは立たされているユウダイくんの前に女の子を四人、並ばせ
ると、そのうちのカンザキさんとオオノさんを一歩前に出させ、
しゃがませた。二人のすぐ目の前に、晒されているユウダイくん
のおちんちんは、気のせいか、さっきよりさらに少し小さく縮ん
だように見えた。
「さあ、行くぞ。せーので撮影開始ね」
シンがユウダイくんの顔を見ながらゆっくりと言った。
「やめろよぉ、やめろぉ」
少しうわずった声でユウダイくんが言った。
「いいか、セーノ」
シンの掛け声とともに四つのフラッシュが一斉に光る。
どれどれ、と言ってシンがカンザキさんの持っていた
ケータイをつかんだ。
「スゲー。ユウダイくんのおちんちん、ドアップで
ばっちり映ってるぞ」
シンはそう言うと、自分の見ていたケータイをユウダイ
くんの顔の前へ持っていく。ユウダイくんは真っ赤な
顔のまま、ちらっと一瞬ケータイを見て、顔をそむけ
前歯でギュッと下の唇をかんだ。
「このケータイ誰のだ?」
シンが持っていたケータイを高く掲げると、一番、後ろの席
のオオヤマくんという太った子が立ち上がった。
「ほら、返すぞ。写真、削除すんなよ。今度はおまえがこういう
目にあうからな」
シンはそう言いながら、ケータイをオオヤマくんに投げ返した。
同じように他の三人が持っていたケータイを取り上げて映ってい
る写真を確認すると、シンは一つずつ持ち主に投げ返してから
、次の撮影、行ってみようか、と言った。
四人の女の子が継ぎのケータイを一つずつ持って、また一斉に
写真を撮った。シンがそれを確認して、持ち主に投げ返す。
同じことを三回やったあと、四回目のケータイを手にした女の子
たちをシンは、ちょっと待て、と制した。
「同じもんばかり撮っても面白くないか」
シンはニヤニヤと笑ってずっと下を向いているユウダイくんの顔
を手でつかみ、無理やり上げさせた。ユウダイくんは最初のように
シンをにらみつけることはせず、ただ恥ずかしそうに視線を床に
落とした。
「こんなことしたら、どうなるかな」
シンはユウダイくんの顔を見つめたまま、ユウダイくんのおちんちん
を手のひらでつかんだ。
「わっ、やめろぉ」
ユウダイくんの目が大きく開かれて、とても驚いたような顔になった。
わたしもびっくりした。おちんちん、触っちゃうなんて。まさかそんな
ことはしないだろうと思っていた。
「おれの手のひらにすっぽり入っちゃうぜ」
シンはニヤニヤ笑いながらそう言った。決して大きくはない手がユウダイ
くんのおちんちんをもみしだきはじめた。
「わっ、わっ、わっ」
ユウダイくんは驚きのあまり、まともな言葉が出てこない様子で、とぎれ
とぎれに声を漏らした。
「どうだ?気持ちいいだろ?」
「あっ、あっ、あっ、やっ、やめっ」
「え?なに?」
「やっ、やめてっ」
「ほんとにやめていいのかな?おれのこの手、離しちゃってもいいのか?」
シンの言っていることの意味がわたしにはわからなかった。ユウダイくん
は困ったような顔をした。
「なあ、手、離していいのか?」
「だ、だめっ、だめっ」
うろたえながら、女の子のようにそう言うユウダイくんはもう今までの男
らしいユウダイくんではなかった。
胸の中でずっと大切にしてきた何かが、ガラガラと音を立てて崩れていく
ような気がした。ぽっかりと大きな穴が胸の真ん中に開いて、そしてその
空隙を埋めるように、説明のできない激しい気持ちがわたしの体の奥の
ほうか湧き上がってきた。
あのときは、ただ戸惑うばかりだった。でも、今なら、そのときの激しい
ものがなんだったのかわかる。
友達やクラスメイトとの間で作り上げてきた信頼や、そこまで確固とした
ものではないただの温かい時間や、それよりも、もっともっと淡い
居心地のいい空気なんかさえ、すべて吹き飛ばすほど、激しく尖った欲望。
それがわたしがはじめて覚えた性欲だった。「なに、聞こえないよ。もっと大きな声で言ってみろ」
勝ち誇ったようにシンが言った。
「手、離さないで」
目を閉じたまま恥ずかしそうにユウダイくんが大声を
あげた。
「エロいな、ユウダイくんは。もっと触ってほしいってさ」
「ち、ちがうよ」
「でもさ、おれ、手、離しちゃうもんね」
「や、やめっ」
シンはユウダイくんに最後まで言わせずに、手を離すと
二、三歩後ろに下がった。
え?
わたしは目を見張った。
ユウダイくんのおちんちんは、さっきの倍くらいの大きさ
になって、ピンと上を向いていた。
おへその下にくっつくほど立ち上がって、ぴくぴくと震えて
いるおちんちんを、わたしは生まれて初めて見た。
こんなふうになっちゃうものなんだ。
「うわあっ、みるなよぉ、みるなぁ」
ユウダイくんの叫び声が遠くに聞こえるような気がした。
胸がどきどきして、じっとしていられないほど興奮した。
恥ずかしくて目を反らせたいのに、視線はずっとユウダイ
くんのおちんちんに釘付けになっていた。
「エロぃなぁ、勃起してんの。もうビンビンだな」
もう完全に戦意喪失しているユウダイくんに対して、
シンはますます残酷になっていく。
「やるときは、徹底的にしないとな。もう二度と逆らう気
を起こせないようにさ」
シンはゲームセンターのコントローラーかなんかを操作する
みたいな手つきで、ユウダイくんのおちんちんを乱暴に
握って動かした。
「や、やめてっ、もう、やめて」
ユウダイくんの声が悲鳴に近くなった。
「さあ、何やってんだよ。撮影会、続けるぞ」
シンは何も聞こえなかったかのように、ケータイを持ったまま
立ちすくんでいる女の子に向かってそう言った。
再び、女の子たちが並んでユウダイくんの固く立ち上がった
おちんちんを撮影し始めた。
「やだあっ、やだあっ」
ユウダイくんの顔はもう泣き顔に近かった。
みんなのケータイは撮影が終わるごとに返されていったが、
わたしのはなかなか返ってこない。
でも、そのときはそんなことは忘れて、体中をピンク色に
染めたまま恥ずかしそうに写真を撮られているユウダイくん
をわたしはじっと見つめていた。
「よーし、そろそろ次の写真いこうか」
それぞれの女の子たちが二、三回撮影を終わると、シンは
教室内を見回してそう言った。
「じゃあね、おまえらの机、ちょっと貸して」
シンは前のほうに座っている人たちに声をかけ、机を四つ
動かして黒板の前に持ってくると、ぴったりくっつくあわせた。
「お立ち台、作ってやったから」
シンはうつむいているユウダイくんの顔をのぞきこんで言うと
体を押さえているテンドウに向かって、この上に乗せろ、と
命じた。
テンドウが小さな子を抱き上げるようにユウダイくんの両脚を
抱え持ち上げる。ユウダイくんは足をばたばたさせて抵抗し
たけれど、テンドウに抱えられたユウダイくんはとても
無力で幼い子供のように見えた。
シンは一足早く机を合わせて作った台の上に乗り、テンドウ
から差し出されたユウダイくんの体をまるで荷物でも受け取
るように両手で抱えると、そのまま机の上におろした。
ユウダイくんが体を起こして逃げようとする。シンはその顔
をピシャッと叩いた。ユウダイくんが顔を抑えている隙に、シンはユウダイ
くんの腰のあたりをつかみ、クルッとひっくり返した。
まるでレスリングの試合でも見ているかのように鮮や
かにひっくり返したユウダイくんの背中の上に馬乗り
になっていると、テンドウが上がってきて、肩のあた
りに体重をかけぐいっと押した。
ユウダイくんの体はわたしたちのほうに足を向ける
格好でうつぶせになっている。おしりのふくらみが
机の上できれいな曲線を描いているのが少しだけ
見えた。
「あと、二、三人上がって来い」
シンはユウダイくんの体から降りると、下に向かって
そう言った。ユウダイくんの足を押さえていた二人が
あわてて机の上に上った。
どうするつもりなんだろう。
わたしの胸は、心臓の鼓動がとなりの席の男の子に
聞こえちゃうくらい激しく鳴っていた。
「よし、四つんばいにさせろ」
シンは上がってきた二人とテンドウに向かって短く
指示したあと、こう付け加えた。
「尻の穴、女の子たちに見せてやろうぜ」
見せてやろうぜ」
シンは三人がかりで四つんばいの格好にさせられたユウダイくんの横に
シンはぴたっとくっついて、両脚を広げさせる。股の間に見える
後ろ姿のおちんちんのたまは、まるで犬かネコのそれに見えた。
「エロい子はお仕置きしないとな」
シンはユウダイくんのわき腹を抱えて、ピシャッと平手でお尻を
叩いた。ものすごい音が教室の中に響いて、ユウダイくんのお尻
は手の後がピンク色の残った。
「どうだ、みんな。いい眺めだろ?」
シンは一度顔をあげてそう言ったあと、再びピシャ、ピシャッと
お尻を叩いていく。
見る間に、ユウダイくんのお尻全体が鮮やかなピンク色に染まっ
ていった。
「やあっ、やめてっ、お願い」
顔は見えないけれど、ユウダイくんの声はもう完全に泣き声に
なっていた。
いま、どんな顔しているんだろう。
さっきまでずっと、ユウダイくんの泣くところなんて見たくない
と思っていたのに、残酷はわたしの心はいつの間にか、いつも
颯爽としているユウダイくんの泣き崩れる姿を求めていたように
思う。
「さあ、そろそろいいか。写真撮ってやれよ」
自分の手が痛くなるんじゃないかと思うほど、シンは何度もお尻
を叩いた後、机の下の女の子たちに向かってそう言った。
顔を見合わせたあと、遠慮がちに女の子たちが机に近づいてくる。
シンはユウダイくんのお尻をグイッと鷲づかみにして、大きく
開かせた。クラス全員が見つめる中で、ピンク色のきれいなお尻の
穴があらわになった。
「やだあっ、もう、やだあっ。やだあーっ」
ユウダイくんはそう叫ぶと、ヒイーッと泣き声をあげた。
その瞬間を待っていたかのように、女の子たちのケータイのフラッシ
ュが一斉に光った。
しばらくそのまま撮影がつづき、最後のケータイを四人の女の子が
一人ひとつずつ持つようになった。わたしのケータイはまだ返されず
に最後まで残ったようだった。
「よーし、最後に残ったケータイでこいつの泣き顔、撮ってやるか」
シンはテンドウに目配せして、ユウダイくんの体を四つんばいのまま
横向きにさせた。
「ちよっと、まて。もう一つ、いい事思いついちゃった」
シンはそこでユウダイくんの体を動かすのをやめさせて、下にいる
男の子にバケツもってこい、と命じた。男の子たちが教室の後ろの
ロッカーから銀色のバケツを持ってくると、それをつかんで掲げ、
これ、誰か持っててくれないかな、と言った。
教室の中はシンと静まり返って誰も返事をしない。シンはバケツを
持ったまま教室の中をとことこと歩き、わたしの席の前でピタッと
止まった。
「おまえ、やってくんない?」
わたしは魔法でもかけられたみたいにこっくりとうなずいて立ち上
がりバケツを持つと、シンの後についてユウダイくんが乗せられて
いる机の前に行った。
「しっかり持ってろよ」
シンはそう言って、わたしを置いたまま机の上に再び上がり、
ユウダイくんのお尻のすぐ後ろあたりにしゃがんだ。
「おい、サカモト。片足上げてみろ」
シンがまるでユウダイくんのお尻に話しかけるようにそう言った。
ユウダイくんはしゃくりあげるばかりで、返事もできない。
「あげろって言ってんだよ」
シンはそう言って、すでに真っ赤に染まったユウダイくんのお尻を
ひっぱたいた。ユウダイくんの背中がびくんと動く。
シンはユウダイくんの両脚を開かせて、股の間に手を入れると、膝
をつかんでゆっくりとあげていった。バランスを崩しそうになった
ユウダイくんの体をテンドウがしっかりと支える。水平近くまで
膝が上げられると、再び小さくなったおちんちんがわたしの目の前に
現れた。まるで体の中に埋没してしまうかのように小さく縮んで、
水浴びをした後の幼児のようなおちんちんに見えた。
シンはさらに高くユウダイくんのひざをあげていく。とうとう、おしっこ
するときの犬のような格好になったとき、最後の宣告のようにシンが
静かに言った。
「この格好で、あのバケツに向かってしょんべんしてみろ。そうしたら
許してやるから」
「そ、そんなこと、できないよ」
ユウダイくんはポタポタとこぼれる涙を拭くこともできないまま
しゃくりあげながらようやくそう言った。
「じゃあ、いつまでもこのまま晒し者だぜ」
シンは片方の手でユウダイくんの片足を高くあげさせたまま、もう
片方の手で、ユウダイくんのお尻をペチペチと叩いた。
「もう許して。お願い」
とうとうユウダイくんの完全降伏だった。でも、シンは降伏した相手
にさえ、どこまでも追い討ちをかけるような男の子だ。だからこそ、
クラスの男の子たちを支配し、小さな体で最後のガキ大将として君臨
しつづけてきた。
「だから、あのバケツに向かって、犬みたいにチーってやったら、許
してやるって言ってるだろ」
シンは上げさせたユウダイくんの片膝をテンドウに持たせると、大きく
開かれた股の間から手を入れて、ユウダイくんのおちんちんをつかんだ。
まるで牛のお乳をしぼるような手つきだった。
「さあ、ちんちん持ってやるから、チーってしてみろよ」
シンが言うと、男の子たちがドッと笑った。わたしは飛んでくるかも
しれないおしっこを確実にバケツの中に受けるために、じっとユウダイ
くんのおちんちんを見つめた。
後にも先にも、こんなに真剣に、じっと男の子のおちんちんを見つめた
ことはなかったように思う。
「いやだぁ。やだあっ」
ユウダイくんは真っ赤な顔をして下を向いたままそう言った。
机の下にいた男の子がその顔をつかみ、わたしの方へ無理やり向けさせる。
涙をいっぱい溜めたユウダイくんと目が会った。
シンの手の中で、ユウダイくんの小さなおちんちんの先っぽが少し膨らんだ。
シンがおちんちんの皮をキュッと下へ引っ張ると、ピンク色の中身が現れる
よりも先に、透明なおしっこがピューッと飛んできた。
「わあっ、わあーっ」
ユウダイくんが泣きながら叫び声をあげ、まわりの男の子や女の子たちの
驚く声が聞こえた。
おしっこは、夏の日の水鉄砲みたいに、放物線を描いてわたしのほうへと
飛んできた。わたしはあわててバケツを構える。ユウダイくんの体から
いま出たばかりの液体がバケツの底を打つ音が聞こえた。
「写真撮れ」
シンの非常な声に、ケータイを持った女の子たちがためらいながら
シャッターをきる。
永遠に続くかと思われるほどおしっこは長く続き、最後にバケツから
少しこぼれて床に落ちた。ケータイを向けていた女の子たちがキャッ
と悲鳴を上げて飛びのいた。
「おー。ほんとうに犬みたいだったな」
シンはニヤニヤと笑いながら、ユウダイくんの顔をのぞきこんだ。
「ひどいよ。ひどいよぉ」
ユウダイくんそう言ったまま、再び大声を出して泣きじゃくった。
それでようやく女の子たちは席に戻り、残りのケータイも返された。
わたしはおしっこの入ったバケツを持って教室の隣にあるトイレに
行き、便器の中へそれを流した。寒い中で裸にされていたせいか、
ユウダイくんのおしっこは、水のように透明で、わたしのとは少し
違うどこか甘いような不思議な匂いがした。
わたしがバケツを洗って戻ってきたとき、まだユウダイくんは素っ
裸で、並べられた机の上に腰掛けたまま、泣き続けていた。
わずか10分ほどの間に、ユウダイくんは5歳ほどの幼くなったよう
に見えた。
「ねえ、みどりのケータイは、何代目?」
新しく買ったケータイの話をずっとしていたサヤカが、唐突にわたしのほうを振り向いていった。
「ケータイ?」
「そう。みんな小学生のときに最初のケータイ持たされたでしょ? いま、持っているのは、
それから何代目のケータイなの?」
「いま持ってるの?あのときのケータイのままだよ」
「うそぉ、8年も前のだよ。あんなのまだ使えるの?」
サヤカが大きな目をいっそう見開いて大げさに笑った。
彼女と話をしたのは、何年ぶりだろう。この子、今はこんなふうに笑うんだ、と思った。
成人式の会場で久しぶりに再開した小学校時代の仲間たちと、夜、再び小さな居酒屋に集っていた。
ものすごく懐かしい子もいれば、高校生になってからもずっと友達のままだった子もいる。
おとなしかった子がおしゃべりになっていたり、コロコロと太っていた子が見違えるほどの美人に
なっていたり。たった8年なのに、あのころが遠い昔に思えた。
「どうして代えないのよ」
「べつに理由なんてないけど。ケータイなんて興味なかったし」
なれないお酒を飲みながらいい加減な受け答えをしていたら、オオノさんがするっと横に割り込んできた。
「ってことはさ、あの写真もまだそのままなの?」
「あの写真って?」
「とぼけないの。わたしらが撮影したユウダイくんの写真だよ」
クラスの中ではおとなしくて、いつも聞こえないような小さな声で話していたオオノさんは、
なぜか誰よりも早く結婚して、明るく社交的なお姉さんに変身していた。
「ねえ、持ってるんでしょ?」オオノさんはその話がしたくてたまらない様子だ。
「ま、まあね」
「見たいな」
やだあ、エロい、と周りの子たちが口々に言う。それでも恥ずかしがる様子もなく、
オオノさんは自分のケータイを取り出した。
「わたしね、いまでも持ってるよ。ユウダイくんのおちんちんがばっちり映ってる写真。
ケータイ代えてもさ、写真も移し換えちゃうから」
「どうして?」
「衝撃的だったもんね。ユウダイくんのおちんちん、わたしの目の前にあったんだよ。
手を伸ばしたらさわれちゃうくらい近くに。そこで何枚もケータイで写真撮らされてさ。
しばらくの間、おちんちんが夢にまで出てきた」
周りの子たちがどっと笑い。わたしもつられてアハハっと笑った。
実はわたしも、ユウダイくんのおちんちん写真を今でもケータイに保存したままだ。
あれからユウダイくんは小学校卒業とともにまた引っ越して行った。
いっしょに過ごした時間は、ほんとうに短かったから、顔なんかもう忘れちゃって、
ほんとうにそんな子がいたんだろうか、と、思うこともある。だから、忘れないように、
犬のような格好でおしっこを飛ばしているユウダイくんの写真をときどきこっそりと眺めてきた。
「実はわたしも」
「わたしもー」
女の子たちは口々にそう言いはじめた。ケータイを取り出して、画像を見せ始める子もいる。
なーんだ、みんなユウダイくんの写真、削除できなかったんだ。
わたしはこっそりとポケットに入れたケータイに触れてみる。
みんなに見せたら驚くだろうな。
わたしは一人でそう思ってニヤニヤと口の端に笑みをうかべた。わたしのケータイには、
ユウダイくんのほかにもう一人、最後のガキ大将のおちんちんの写真までが保存してあるからだ。「おれさ、みんなと一緒の中学に行けないんだ」
いまはもう取り壊されてなくなった小学校の旧体育館で、ユウダイくんは白い息
を吐きながら、もうすぐ転校することをわたしに告げた。
誰もいない、冬の夕方の体育館だった。
「おれ、みんなの思い出の中にしか残れないから・・・・」
わたしはちらちらと、ユウダイくんのはいている白く短い体操着の半ズボンに
視線を落とした。腿のあたりに鳥肌が立っていて、どこかでつけた白いひっかき
傷が細く長い線を描いている。
「だから、このままじゃいやなんだ」
ユウダイくんは静かにそう言った。
あんなことをされて、ユウダイくんは、もう二度と学校に来ないんじゃないか
とわたしは思っていた。
しかし、ユウダイくんは、何事もなかったかのように、次の日も学校にやってきて
それまでと同じように明るい顔で笑っていた。
ただ、今までのようにシンに対してあからさまに楯突くことはしなくなり、
シンが近づいてくると、スーッとどこかへ行ってしまう。おそらく、シンの
ことを避けていたんだろうと思う。
秋が過ぎて、冬休みが終わった放課後のある日、わたしたちはもうすぐ解体
される旧体育館の掃除を頼まれた。
わたしとユウダイくんが倉庫をかたずけている間に、他の連中はさっさと帰
ってしまい、広い体育館に二人だけが残された。
もうすぐ、ここへシンがやってくる。
わたしもユウダイくんもそのことを知っていた。
シンもまた、体育館の掃除を頼まれていて、漢字の居残りテストが終わったら
帰りがけにここへ寄ることになっていたからだ。
「おれ、生まれて初めてだった」
ユウダイくんはまっすぐ前をみたままで少し恥ずかしそうに言った。
「女の子にちんちん見られたのも、女の子の前で泣いたのも」
生まれてはじめてだった」
わたしとユウダイくんはボロボロになった8段の跳び箱の上に並んで座り
足をぶらぶらさせていた。
コツン・コツン・コツン
上履きのかかとが、跳び箱の板にぶつかって規則正しい音を立てていた。
「わりぃ。遅くなったぁ」
体育館の中に大きな声が響いた。
ガラガラと派手な音を立てて開けられた入口を見ると、ペチャンコになった
ランドセルを片方の肩に引っ掛けたシンが、体操着のままの姿で立っていた。
「なんだ、おまらしかいないの?」
シンは怪訝そうな顔をして、わたしのほうを見た。ユウダイくんはチラッと
シンの顔を見て、ためらうように下を向いた。
「わたしらが倉庫の片付けをしている間に、みんな帰っちゃった」
「きったねぇ。おれも来なければよかった」
そういいながらもシンはゴミでも捨てるかのように、ランドセルを入口の
近くの床に投げ捨てて、跳び箱の近くへと歩いてきた。
「あのさー」
顔をあげたユウダイくんは、短くそう言うと、わたしを置いたまま、
跳び箱から勢いよく飛び降りた。まぶしいものでもみるように、シンは
目をパチパチさせて意外そうな顔をした。
「お願いがあるんだ」
「なんだよ」
「もう一回やらせて」
「はぁ?また裸にされて、犬みたいにしょんべんさせられたいのか?」
「ちがうよ。おまえと勝負したい」
シンはわたしとユウダイくんの顔を交互に見比べながら、ニヤニヤと
笑った。
「ムリだって。おまえはおれには勝てっこないよ」
どうして?
そのとき、わたしは思った。
そういいながらも、シンがとても嬉しそうに見えたからだ。
「でも、このままじゃ、ダメなんだ」
ユウダイくんは真っ赤な顔になって、そう言った。
「おれ、卒業したら、また転校だから」
ユウダイくんがそう言ってわたしのほうを向くと、シンも
わたしの顔を見た。
二人の視線がどうしてこっちに集まってくるのか、わからず
わたしは戸惑いながら、足元も上履きばかりを見つめていた。
「いいよ。リベンジさせてやるよ。まあ、返り討ち間違いなし
だけどな」
こいつって、こんないいやつだった?
思わずそう思ってしまうくらい、爽やかな声でシンはそう言った。
「とっちかが泣くか、ギブアップしたらおしまいってことで
いいか?」
シンが提案すると、ユウダイくんは短くうなずいた。
「よし、こい」
シンは腰を低くして両手をあげた。
わあっ、と大きな声をあげて、ユウダイくんがシンに
飛びかかると、二人は取っ組み合ったまま、跳び箱の横に
敷かれたマットに倒れこんだ。
元の色がわからなくなったくらい汚れて変色したマットから
カビくさい匂いとほこりがぱあっと巻き上がる。
ユウダイくんは横たわるシンの上に馬乗りになって、シンの
頬をパシンパシンと叩いた。ガランとした体育館に痛々しい
音が響き渡った。
シンがユウダイくんの体を突き飛ばし、起き上がって頭を脇
に抱えようとしたところを、ユウダイくんが脇をつかんで投
げ飛ばす。
二人はマットの上でもつれ合いながら、上になったり、下に
なったりしながら、何度も相手の頬をひっぱたきあっていた。
やがてユウダイくんをうつぶせにさせて、その上に乗った
シンがユウダイくんの両手を背中のほうへ回し、押さえつけた。
ユウダイくんが苦しそうに顔をあげた。足をばたばたさせて
もがいたけれど、シンはびくともしなかった。
「勝負あったな。ギプアップしろ」
シンはハアハアと息を切らせながら、とぎれとぎれにそう言った。
ユウダイくんは顔を真っ赤にしてもがいたけれど、もうどうにも
ならなかった。シンはユウダイくんの両手に体重をかけて、締め
上げていく。
「腕、折れちゃうぞ。もうあきらめろ」
少しずつ、余裕を取り戻しながらシンが言った。
「いやだぁ」
声を震わせながらユウダイくんが叫んだ。
「しょうがねぇな。また泣かせるしかないか」
シンは両脚でユウダイくんの腰のあたりをはさむと、
背中に手を回されたままのユウダイくんの上半身に
抱きつくように、両腕を回した。そのままシンが床
にお尻をつけるように座ると、ユウダイくんの体も
起き上がる。その姿勢のまま、シンは片手でユウダ
イくんのお腹を何度か殴りつけた。
ユウダイくんは泣きそうな顔になって、必死で唇を
噛んだ。
シンは容赦なく何度もユウダイくんの体を殴り続け
たあと、半そでの体操着の裾をつかんだ。
「また、裸にしてやるよ」
シンがユウダイくんの耳元でそう言った。
ユウダイくんが真っ赤な顔をしてわたしのほうを
見上げた。
シンはユウダイくんの体操着を両手で脱がせていく。
小さく窪んだおへそが現れて、乳首がちらっと見えたとき、
ユウダイくんが背中に回されていた両手を二人の体の隙間
から引き抜くように前に出して、脱がされかけていた体操着
をつかんで、必死に押さえた。
ユウダイくんは、シンが服をぬがせにかかるとは予想して
いなかったようで、体操着を押さえることに気をとられていた。
その隙にシンがレスリングの試合のようにすばやく体を入れ
替えた。
何が起こったかわからないほど一瞬のことだった。
気が付いたら、ユウダイくんは仰向けに寝かされていて、
シンは自分の両脚でユウダイくんの両手を押さえていた。
開かれたシンの両足の間に、ユウダイくんの真っ赤な顔が
あって、シンは自分の両手で体操着がめくりあがったまま
のユウダイくんの裸の腰のあたりをがっしりとつかんでいた。
テレビのプロレスで見たことのあるエビ固めの体勢だった。
「ちきしょう。はなせよー」
ユウダイくんは苦しそうにそう言った。
「バーカ、誰が離すかよ」
シンは余裕の表情で言うと、ユウダイくんの半ズボンに手を
かけた。
「やめろぉ。やめろよぉ」
ユウダイくんは顔が破裂しちゃうんじゃないかと思うほど
真っ赤な顔になって叫ぶ。
「どうだ?ギプアップするか?」
お兄ちゃんが小さな弟に言い聞かせような言い方で、シンが
静かに尋ねた。
ユウダイくんが返事をしないでもがき続けると、シンは手に
つかんだ半ズボンをパンツと一緒にゆっくりと脱がせていった。
股の線が少し見えて、おちんちんの根元まで来たとき、再び
手を止めてもう一度尋ねた。
「どうする?またちんちん見られちゃうぞ。いいのか?」
「やめろよぉ」
「もうよしとけよ。降参しろ」
「はなせよぉー。はなせー」
「ほんとうにいいのか?」
おまえさー、 シンは自分の股の間にあるユウダイくんの顔を
見下ろして言った。
「こいつのこと、好きなんだろ?」
シンがそう言ってわたしのほうを向いても、わたしは自分のこと
を言われているとは気づかなかった。
ムリをして飲み込んだ苦い薬が少しずつ効いてくるように、その
言葉は少しずつわたしの中へしみこんでいったように思う。
わたしは跳び箱の上でぶらぶらさせていた足を止め、凍りついた
ように身動きもせず、じっと二人を見つめていた。
「好きな子の前でリベンジしたかったんだろ?」
三年間、同じクラスで過ごしてきて、いままで一度も見たことも
聞いたこともないような、やさしい口調でシンがそう言った。
「うるさーい。だまれー、だまれぇー」
ユウダイくんは声がかすれるほどの大声で叫んだ。
「しかたないか」
シンはぽつりと言うと、体の向きを少し変えて、わたしと向き合う
位置に直した。シンの顔のすぐ下に逆さまになったユウダイくんの
股間が正面に見える。
「とどめ刺してやろうぜ。ばっちり見てやれよ」
シンは顔をあげてわたしの方を見ながらそう言うと、ライチっていう
果物の皮を剥くみたいに、スルッとユウダイくん半ズボンとパンツ
を脱がせた。
「わあっ。だめぇ」
ユウダイくんが恥ずかしそうに叫んだ。
二度目だったから、そんなに驚かないはずだったけど、息が白く
なるほど寒い体育館の中で、逆さまになったユウダイくんの
おちんちんは小さく小さく縮んでいて、一瞬、おちんちんがなくな
っちゃったのかと思った。
驚いたわたしの顔を見て、シンは満足そうにうなずくと、もがい
ているユウダイくんの両脚の膝のあたりをつかんで、大きく開か
せた。
「おまえもバカだなぁ。またこんな姿、見られちゃってさ」
露になったユウダイくんのおちんちんに息を吹きかけるようシンが
言った。
「やめろよぉ、はなせよぉ」
ユウダイくんの声はしだいに力を失って、泣きそうな声へと変わって
いった。
「このまえより、もっとすごいもの、みせてやるよ」
シンはわたしの顔を見上げながら、微笑むと、いったん膝から手を
離して、ユウダイくんのおちんちんを鷲づかみにすると、すごい勢い
で、もみしだいていった。
見ているだけで顔が火照ってくるほど、エッチな手つきだった。
ユウダイくんのおちんちんはすぐに大きくなっていき、窮屈な体勢で
逆さまにされてため、固く勃起したおちんちんがおへそに突き刺さる
ように見える。
ユウダイくんの体はおへそから肩にかけて鮮やかなピンク色に変わ
っていった。
「やめろぉ、はなせよぉー」
ユウダイくんは力なく叫びつづけたが、シンはなかなか手を離そうと
しない。
「わっ、わっ、だめだってぇ」
どうしてそうなるのかはわからないけど、ユウダイくんの声がなんとなく
女の子みたいに変わっていくように聞こえた。
「どうだ?ギプアップするか?」
「や、やだあっ」
「このまま好きな女の子の目の前で射精させちゃうぞ」
「わあっ、だめだって」
ユウダイくんの声がうろたえた。
射精っていう言葉は、もう授業で習っていたから知っていたけど、具体
的にどういうことが起こるのか、そのときのわたしにはわかっていな
かった。
「おまえさ、もう射精したことあるか?」
シンは親しい友達に内緒話を打ち明けるときのように、声を落として
尋ねた。ユウダイくんは何も答えることができない。
「こんな赤ちゃんみたいなちんちんじゃ、まだなんだろう?」
「うるさい。もうやめろぉー」
「実はねー、おれもまだなんだ。どんなふうになるのか、見てみたくって
さ」
なお、おまえも見たいだろ?シンはわたしの方を見上げてそう尋ねた。
「やめろよぉ、やめろぉ」
苦しそうな声でユウダイくんは叫びつづけたけれど、どんなにもがいてもシンは
ビクともしない。シンがユウダイくんのおちんちんの先っぽを剥きだしにすると、
ピンク色の先端から透明な液がツーッと落ちていって、ユウダイくんの胸のあたり
に溜まっていった。
「おっ、もうすぐいきそうだな」
シンは嬉しそうにつぶやいて、ユウダイくんの顔を見下ろした。
シンの手もユウダイくんのおちんちんから出た透明な液で濡れて光っていた。
「わっ、うわあっ」
ユウダイくんの叫び声が体育館の中に響き渡った。
わたしはその声を人に聞かれはしないかと、思わず周りを見回す。
どうしてだろう。ユウダイくんのこの声とこの姿、ほかの誰にも見られたくなかった。
「わあっ、わあっ、だめぇ」
その瞬間、ユウダイくんのおちんちんから突然、白い体液がピュッと飛び出した。
初めてみた射精の瞬間に、わたしは驚いて凍りついたようにユウダイくんの股間
を見つめていた。。
人間の体から、こんなものがこんなふうに飛び出してくるなんて。
水鉄砲のように勢いよく二度、三度と飛び出す精液を、わたしには呆然とながめて
いた。
「うわぁ、すげえ」
わたし以上にびっくりしたのは、シンのようだった。
シンは驚いてつかんでいたおちんちんを離すと、そういったきり、しばらく口もきかずに、
黙ってユウダイくんを見下ろしていた。
「ああ、ああっ」
ユウダイくんは言葉にならない、あえぐような声をあげている。
「いまのみた?」
シンはようやく我に返ったように顔をあげると、わたしのほうを見た。
わたしは黙ってうなずいた。
「すげえな。こんなの出て来るんだ」
わたしは恐る恐る、ユウダイくんの顔に目を落とした。真っ赤な顔をして、恥ずかしそうに
目をパチパチしているユウダイくんもショックを受けているみたいだった。もしかして、
泣いているかと思ったけれど、小さな口をキュッと閉じたその顔は泣いてはいなかった。
もう離してあげればいいのに。
わたしはそう思ったけれど、シンはいつまでもユウダイくんの体をしっかりと抱きしめていて
離そうとしなかった。そのうちに、ゆっくりとユウダイくんのおちんちんが小さくなっていった。
びくんびくんと震えながら、少しずつ小さくなっていくおちんちんの先っぽからは、まだ中に
残っていた精液が零れ落ちていった。
「どうだった?気持ちよかったか?」
シンは微笑みながらユウダイくんの顔をのぞきこむ。ユウダイくんは返事をすることが
できなかった。
すっかりもとの大きさに戻ったおちんちんを、シンは手のひらで何度か撫でたあと、
ゆっくりと顔を近づけていった。
えっ?
射精の瞬間をみたときよりも、わたしはずっとずっと驚いた。
シンがパクッとユウダイくんおちんちんを口に含んだからだ。
「わあっ、なにすんだよぉ」
ユウダイくんは明らかにうろたえた声をあげた。わたしは信じられないようなこの光景
をただ、ぽかんと口を開けて眺めていた。
小さくなったユウダイくんのおちんちんがすっぽりとシンの口の中に含まれてしまうと、
体をくねらせていたユウダイくんの動きがピタッと止まった。
ユウダイくんの顔は、ちょっとだけ気持ちよさそうにみえた。
おむつを取り替えてもらっているときの赤ちゃんのように。
どうしてシンはあんなことをしたのだろう。
あのときのことを思い出すたびに、何度も同じことを考える。
男の子が男の子にどんな感情を抱くものなのか、わたしにはわからないけれど、
もしかしたら
もしかしたら、だけど。
ほんとうはシンだって、ユウダイくんと友達になりたかったのかもしれないとわたしは思う。
ユウダイくんのおちんちんを口に含みながら、ちらちらとわたしのほうを見るシンの頬
は真っ赤に染まっていて、ユウダイくんよりもずっとずっと恥ずかしそうな顔をしていた。
ずいぶん長い間、シンはユウダイくんのおちんちんを口に含んでいたように思う。
その間、ずっと時間が止まっていたような気がした。
「わっ、やばいよ。はなせよ」
突然、ユウダイくんが大声をあげた。
シンは少しびっくりしたように顔をあげた。
「やばいって。でちゃうよ。でちゃうよ」
シンはゆっくりとおちんちんから口を離した。
シンの唾液できらきらと光るおちんちんが現れて、先っぽがピクッと先っぽが動いた
と思ったら、次の瞬間、透明なおしっこが勢いよく噴出した。
「わっ、わっ、わっ」
シンが驚いて両手を離した。男の子のおしっこの匂いが、ぱあっと広がった。
壊れた水道のようにいつまでも止まらないおしっこは、ユウダイくんの胸や顔に降り注ぎ、
少し長いその髪を濡らせた。
ユウダイくんは眉毛をへの字にまげて、泣きそうな顔になった。
シンはユウダイくんの体をマットの上に横たわらせて、起き上がると着ていた体操着を
スルッと脱いだ。上半身裸になったシンは、思ったよりも小柄で肩やお腹のあたりの
ふくらみがとても子供っぽく見えた。
「しょうがないなぁ」
シンはそう言って、ユウダイくんの上半身を抱き起こすと、おしっこや精液でびちょびちょ
になった体を、自分の体操着で拭き始めた。ユウダイくんは自分が何をされているのか
よくわからない様子で、不思議なものを見るような目でシンの顔を見つめていた。「服、汚れちゃうよ」
しばらくして、ユウダイくんがかすれた声でぽつりと言った。
「いいよ」
シンは短くそう答えたあと、真っ赤な顔をして恥ずかしそうにこう付け加えた。
「おまえのちんちん、しょっぱかった」
シンが自分の体操着でユウダイくんの体を拭くと、あたりにはいっそう強くおしっこの
匂いが広がった。シンは濡れてぐちょぐちょになった自分の体操着を床の上に放り
投げると、立ち上がった。
「ほら、たてよ」
そういいながら差し伸べられた手につかまらずに、ユウダイくんは床に膝をついて
起き上がり、ちらっとわたしの方を見た。
「おれさー」
「なに?」
ユウダイくんを見下ろしてシンが短くたずねたとき、ユウダイくんは突然手を伸ばして
シンの体操着の半ズボンをつかんで、一気に膝の下まで引き摺り下ろした。
一瞬、シンの裸の下半身が見えた。
「わあっ」
シンがあわてて股間を押さえてしゃがんだ。ユウダイくんはすばやく立ち上がり、
足で引き摺り下ろしたシンの半ズボンとパンツを踏みつけると、両手でシンの
手首をつかんだ。
「おれ、まだギブアップしてないぜ」
立ち上がったユウダイくんはそう言ってシンを見下ろした。
「やめろよぉ」
シンは真っ赤な顔をしてうずくまった。
「ほら、立ってみろよ」
ユウダイくんも真っ赤な顔をしてつかんだシンの手を、股間から引き離そうとする。
見ているほうがどきどきするような二人の力くらべだった。
「やめろってば」
「おまえも道連れにしてやるよ」
ユウダイくんが渾身の力をこめてシンの手を少しだけ股間から引き離すと、
シンも体が震えるほどの力をこめて、再び手を元へ戻してしまう。
そんな攻防が長いことつづいた。
じっと見ていられなくなったわたしは、跳び箱を飛び降りて、二人の側へ近づいた。
二人が驚いたようにわたしの顔を見上げた。
とっさにわたしはしゃがんでいるシンの前に屈むと、手を伸ばしてシンの裸の脇
をくすぐった。
「わっ」
シンの手がピクッと上がる。その瞬間、ユウダイくんがシンの手を力いっぱい
引き離すと、バンザイをさせるように上げさせた。
「えっ?」
わたしは声をあげていた。
わたしの目の前に現れたシンのおちんちんは、わたしの親指の先っぽくらいの
大きさで、ピーナッツのような形をしていた。たまたまは体の中にもぐりこんでいて
どこにあるのかわからない。ずっと前に見たことのある赤ちゃんのおちんちんに
そっくりだった。
「うそぉ」
わたしは驚いてしゃがんだままシンの顔を見上げた。真っ赤な顔のまま下を
見下ろしたシンとその肩越しにこっちをみているユウダイくんの顔が見えた。
「わあっ、見るなぁ。見ちゃダメぇ」
シンがびっくりするほど大きな声で叫んだ。ユウダイくんはシンの背中に立ったまま脇の下へ手を入れて、その手をシンの後頭部へ
持って行く。シンの両手がガッチリと固められて、シンは腰を屈めて必死に股間を隠そう
としていた。
わたしもユウダイくんもびっくりして、しばらくの間、ただ呆然とシンのおちんちんを眺めて
いた。
「ケータイで写真、撮って」
思い出したように、ユウダイくんが言うと、わたしはポケットからケータイを取り出して、
目の前に晒されているシンの小さなおちんちんを撮影した。
「ばかぁ。やめろよぉ。やめろぉ」
シンは今まで見たこともなかったような恥ずかしそうな顔をして叫び続けた。
「どうする?ギブアップするか?」
ユウダイくんは予想外の事態に少し戸惑った様子で、そうたずねた。
「きたねぇぞ。二人がかりなんて」
「おまえだって、このまえ他のやつら使っておれの裸、写真に撮っただろ?」
「ちっきしょう。離せよぉ」
シンの顔が少しずつゆがんでいく。
くやしいのか恥ずかしいのか目に涙がたまってぃった。
「なあ、ギブアップしろよ」
頼み込むようにユウダイくんが言った。
なんとかしなきゃ。
わたしはそう思った。でもそれがどうしてあんな行動につながったのか、いまのわたしには
わからない。
わたしはしゃがんだまま、シンのおちんちんに手を伸ばしていた。
生まれてはじめて触ったおちんちんは、とてもやわらかく、引っ張ったら取れてしまいそうなほど
頼りない感じがした。
「わ、わっ、なにすんだよぉ」
シンはわたしを見下ろしながら、震える声でそう言った。
わたしは手のひらに包み込むようにシンのおちんちんを触っていた。思ったよりもすべすべしていて
赤ちゃんのころよく遊んだおもちゃみたいだった。
「やめろよぉ、お願いだよぉ」
シンは泣きそうな声でそう言った。
わたしはシンのおちんちんが温かくなるまで、手のひらで包み続けた。シンのおちんちんはいくら
触っても決して大きくなることはなく、わたしの手の中で眠り続けているように見えた。
「もうかんべんしてくれぇ」
シンがポツリとそう言ったとき、目からポロポロッってこぼれるように涙が落ちて、わたしの手に
あたった。初めて見た最後のガキ大将の涙だった。
ユウダイくんはシンの涙を見て、手を離した。シンは股間を押さえて、ペタンと床に座って、泣きなが
らユウダイくんの顔を見上げた。
「お願い。他のやつらには黙ってて」
しゃくりあげながら、シンがそう言った。
夜もふけてお開きとなり、居酒屋を出ると、外は雪になっていた。
「成人式の日ってさ、いつも雪だよね」
小学生のころ、一番仲のよかったケイコが寒そうに肩をすぼめながらそう言った。
仲間が散り散りとなり、わたしはケイコと二人きりで夜のバス通りを歩いた。
私立の中学生へ進学したケイコとは、小学校卒業後は疎遠になっていたから、
久しぶりに近況を伝え合いながら話がはずんだ。気が付くと、それぞれの家とは
全く違う方向へと歩いていたわたしたちは、大きな交差点に差し掛かっていた。
「ここ、ミヤタくんが事故で亡くなったところだよね」
信号待ちの間に、ケイコがぽつりと言った。歩道橋の階段の端にいまでも白い
花がいくつか置かれている。その中にはわたし自身が残した花もあった。
「ケイコ、知ってたんだ」
「もちろん。ミヤタくん。同級生の中で、一番先に天国へ行っちゃったね」
小学校を卒業したシンは、それから急に体が大きくなり、中学を卒業すると地元の
暴走族の、総長だか頭だか知らないが、そういう人になった。そして、昨年の夏、
この場所で暴走中にトラックと衝突し、あっけなく帰らぬ人となってしまったのだ。
同級生の中で、一番先に。
ケイコのその言葉を聞いたとき、わたしの体は突然その場に立ち止まったまま、
動かなくなった。
懐かしさ、なのだろうか。なにかとても強い感情がどっと一気に押し寄せてきて、
どうにもならない。
「ごめん。電話かかってきちゃった。先、行ってて」
わたしはとっさに嘘をついて、ポケットからケータイを取り出す。ケイコは笑って手を
あげると、横断歩道を渡っていった。
わたしは取り出したケータイを開けて、写真を眺めた。犬のように足を上げさせられ
て、おしっこをしているユウダイくんの写真だ。小さなおちんちんの先っぽから、飛ん
でくるおしっこがフラッシュでキラキラと光っていて、ユウダイくんの泣き顔がこっち
を見ている。
「そろそろ、消してあげようね」
わたしは独り言を言いながら、その写真を削除した。
次にわたしは、わたし自身が何枚も撮ったシンの裸の写真を一つずつ眺めた。
ユウダイくんに両手を押さえられ、真っ赤な顔をしているシンの顔。わたしの目の前に
突き出された小さな小さなおちんちんのアップ。体育館の床にペタンと座って泣き出
したシンの姿。どれもこれも忘れられないあのときの写真だ。
ユウダイくんが引っ越す二、三日前、わたしはユウダイくんの家へ行った。
「わたしのケータイで撮ったミヤタシンの写真、送るからさ。ユウダイくんのメアド教えて」
わたしがそう言うと、ユウダイくんは微笑みながら、首を横に振った。
「どうして?せっかくの戦利品なんだから、引越し先まで持って行ったら?」
本当は違った。わたしはユウダイくんが引っ越しても、彼と何かつながりを持っていたかった。
住所教えて、なんて言い出せなかったから、メールアドレスを聞き出そうとしたんだ。
「いいよ。おれは写真なんていらないから。もう削除していいよ」
「でも、シンだって、ユウダイくんの裸の写真、女の子たちにいっぱい撮らせてたじゃない」
「もういいんだ。」
ユウダイくんはそう笑うだけで、結局、メールアドレスを教えてはくれなかった。その代わり、
最後にわたしにこう言い残した。
「あいつのこと、みんなには内緒にしてやれよ」
「これで心置きなく、成仏してね」
わたしはつぶやきながら、シンの裸の写真を一つ一つ、眺めては消していった。
最後に一枚、はだかんぼのユウダイくんとシンが二人並んで立っている写真が残った。
あのとき、最後にわたしがお願いして撮らせてもらった写真だ。
こいつとならぶの絶対、いやだ。
シンは真っ赤な顔をしてそう言っていた。
ユウダイくんとおちんちんの大きさを比べられてしまうのがいやだったようだ。
二人とも、どんぐりみたいなかわいいおちんちんなんだから、これこそまさにどんぐりの背くらべ
で、気にするほどのことでもないのに。
むきになって抵抗するシンを、クラスのみんなに赤ちゃんみたいなおちんちんのことも、泣いたこと
も全部、ばらしちゃうよ、と言って、最後は無理やり、ユウダイくんの横に立たせた。
写真の中で、シンは恥ずかしそうにうつむき、ユウダイくんは真っ赤な顔で、それでも少しだけ微笑
んでいるように見える。
「かわいいナァ」
わたしの独り言は、白い息とともにせわしなく行き交う車の騒音にかき消されていった。
小柄な二人の体も、子供っぽいおへそのくぼみも、ポチッとついているおちんちんも、かわいい。
やっぱり、シンのおちんちんはユウダイくんのよりもさらに小さく、半分くらいしかなくて・・・・・
あっ、ごめん。やっぱり比べちゃったね。
でも、それだけじゃない。あのときの二人の憤りとか、闘争心とか、複雑な友情とか、羞恥心とか。
写真には写っていないものも含めて、全部全部がかわいくて、いとおしくてたまらない。
「ごめんね。この写真だけは、消せないナァ」
わたしはケータイをしまうと、道端の白い花を見つめた。大きなユリの花の上にうっすらと雪が
つもりはじめていた。
おわり
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