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  • 2015⁄10⁄17(Sat)
  • 22:39

格好悪い竜太君

普通は女子校といえば、女子だけが通うことの出来る学校で、男子はどうやっても通うことは出来ません。ですが、この世界では女子校なのに男子の入学を、特別に認めるケースが増えているのです。

それは、男子の中でも特別な”第三の性別”とも呼ばれる美少年だからこそ認められることでしたが、学校によっては、より積極的に美少年を受け入れようとする所もありました。

このお話の舞台となる女子中学校も、最近美少年を受け入れ始めたばかりで、まだ全校で11人しか美少年がいません。その中で一番の上級生で、唯一の二年生、『滝田竜太(たきだ・りゅうた)』君が、このお話の主人公でした。


「僕の名前は滝田竜太です!皆さん、よろしくお願いします!」

竜太君は、一年前に、この学校が初めて受け入れる美少年として、たった一人で試験的に入学し、女子校での学校生活に問題があるかどうか、様々な記録を取ることに協力させられました。

女子の集団の中に美少年が一人ということで、からかいやイジメはありましたが、竜太君は美少年の中でも心が強いことで評判だっただけあって、一年間無事に頑張り抜いてきたのです。

そして竜太君が頑張ったおかげで、学校も美少年の受け入れを増やし、今年は十人の美少年が入学してくることになりました。

「みんな不安そうだなあ。よーし、僕は先輩なんだからリーダーになって、みんなを引っ張ってあげなくちゃ」

入学式で大勢の女子の中に、ぽつんと混ざって不安そうな新入生達を見て、もっと寂しい思いをしてきた竜太君は、自分が不安だったからこそ、新入生には早く慣れてほしいと思って、張り切っています。

リーダーとして、新入生達にいろいろ教えてあげても、先輩ぶるようなことはしません。”先にこの学校で一年間過ごしただけの友達”のような気持ちで、自分の事も「竜太君」と、友達のように呼んでほしいと、みんなに言いました。

新入生達も、始めこそ緊張していましたが、女子校での生活は何も知らない自分達の不安を助けてもらっているうちに、優しくて頼れる、格好良い友達として、すぐに「竜太君」と素直な気持ちで呼べるようになるのです。


こうしてすぐに新入生達と仲良しになった竜太君は、みんながずっと仲良くいられるために、一緒になって運動が出来る事をやろうと考えて、クラブ活動をすることに決めたのです。

「そうだ、全員で11人いるから、サッカー部にしようよ」

少人数でも、予算も無しにみんなが一緒に楽しめるスポーツはそんなにありません。でも、サッカーなら例え試合は出来なくても、様々な形でルールに縛られずに遊び、楽しむことが出来ます。

竜太君が先頭に立って学校にお願いすると、学校は場所も道具も用意できないと、男子のサッカー部を作ることに反対をしました。

しかし、竜太君はみんなで一緒に楽しめる活動の場として、男子サッカー部という存在を認めてほしいというだけで、それさえ認めてくれれば、道具も場所も要らないという熱意に、学校も女子の邪魔をしないという条件で、男子サッカー部の存在を認めてくれました。

「みんな、これが僕たち男子サッカー部のボールなんだ。大切に使おうね」

みんなで少しずつ出し合ったお小遣いで買った、サッカーボール一個さえあれば、ゴールやグラウンドが無くたって、ボールを蹴り合ってるだけで、みんな仲良く楽しかったのです。

竜太君達は、授業が終わると毎日グラウンドの隅っこでボールを蹴ったりして遊んでいました。ここでもリーダーになるのは竜太君です。

竜太君以外は、とてもサッカーが上手いとは言えませんが、美少年だけのクラブだからこそ、下手でも仲良く、仲間外れが出ずに楽しむ事が出来るのでした。

ただ、そんな竜太君達を快く思わない女子も、少なからずいます。それは、男子サッカー部にグラウンドの隅っこを使われている、女子サッカー部の部員達でした。


女子サッカー部は、学校にも期待されているクラブで、大会でも良い成績を収めています。それだけに練習にも力が入っているせいか、グラウンドの隅っこを竜太君達に使われるだけでも邪魔だと感じるようです。

「まったく、あんな所で幼稚園みたいなお遊びばっかされてたら、凄い目障りなんだけど」

竜太君達の姿が、サッカーをしているというよりは、サッカーボールで遊んでいるだけにしか見えない上級生の女子は、自分達の側でそんな光景を見せられることによって、みんなのやる気が出なくなってしまうのを怒っているようです。

「あんまりウチらの邪魔、しないでよね」

女子サッカー部のキャプテン、『若尾園美(わかお・そのみ)』さんは、度々竜太君達に注意していますが、蹴ったボールが女子サッカー部のグラウンドに入ってしまったりといった失敗は、なかなか防げるものではありません。

「すいませーん、ボール取らしてくださーい」

今日もまた、男子サッカー部の蹴ったボールが、女子サッカー部のグラウンドに入ってしまいました。何度も注意しているのに繰り返される失敗に、とうとう若尾さんもカンカンになって怒りました。

「もー!何度言ったら分かるんだよ!お前達ほんと邪魔だからさー、ウチらのグラウンド使うの止めてくれる?てゆーか男子サッカー部なんて、いらねーよ!」

背が高くて目つきの鋭い若尾さんに凄まれて、ボールを取りに来た美少年は呆然として、動けなくなってしまいます。そこに竜太君が駆けつけて、もう一度謝りますが、若尾さんの怒りは治まりません。

竜太君達の背が低いのを差し引いても、大柄な若尾さんと竜太君では迫力が全然違います。まるで大人が子供の叱っているかのように、若尾さんは常に竜太君を圧倒していますが、それでも竜太君はクラブを解散しろという命令には必死で抵抗しています。

「はぁ!?お前達に断る権利なんてねーんだよ。…じゃあいいや、勝負しよう、勝負。ウチらとお前らでサッカーの試合して、勝ったらグラウンド使わしてやるよ。そのかわり負けたら解散ね、解散」

竜太君達が、女子サッカー部と試合をしたらどうなるか、結果は分かり切っています。竜太君はそんな理不尽な勝負は出来ないと断りますが、美少年が女子に逆らうのは無駄なことなのです。

結局、誰も味方がいないまま、学校にも「自分達の力で何とかしなさい」と言われて、試合を避けることは出来なくなってしまいました。まともにサッカーの試合をしたことがない一年生の美少年達は不安がっていますが、竜太君はみんなを必死に元気づけます。

「仕方がないよ。こうなったら、みんなで一生懸命試合をしよう。負けるかもしれないけど、一生懸命頑張れば、誰か分かってくれる人もいるよ、きっと」

一週間後の試合に向けて、女子サッカー部はグラウンドを半分貸してくれました。初めてサッカーらしい練習が出来るようになったことで、美少年達はだんだんやる気も出て来たようです。

でも、女子サッカー部はそれを見て無駄な努力だと笑っていました。そして、美少年達にどんな恥ずかしい思いをさせようかと、そればかり考えていたのです。

竜太君がそれを知ったのは、試合もあと数日に迫ってきた頃でした。一年生の子がクラスで恐ろしい噂を聞かされたというのです。

「女子が勝ったら、二度と僕たちが逆らえないようにボールから何から全部取り上げて『処刑』してやるって…。処刑って何?って聞いたら、みんなの前で裸にしてやるんだって言うんだ…」

竜太君達は知りませんでしたが、処刑とは、悪い女子達の間で流行っているイジメのことです。みんなの前に美少年を立たせて、ズボンとパンツを一気に下ろし、美少年のオチンチンを丸出しにしてしまうイジメですが、やり方には色々あるようです。

処刑という言葉の響き通り、突然後ろからズボンを下ろすようなイタズラとは違い、人を大勢集めて、儀式的に行う所に特徴があり、美少年が受ける恥ずかしさは、ただオチンチンを見られる事よりも、ずっと大きくなります。

もしかしたら、この学校の女子達は、美少年が入学してきたことで、とうとう処刑が出来ることを喜んでいたのかもしれません。男子サッカー部は、それの切っ掛けにしか過ぎなかったのでしょうか。
「負けたら、僕たちオチンチン見られちゃうの?」

女子サッカー部との試合に向けて、頑張ろうという気になってきた一年生達は、『処刑』の噂を聞いて、とても不安になって、練習にも身が入らなくなってしまいます。

もともと自分達が女子サッカー部に勝てるとは思っていなかった一年生達は、どうせ負けるにしても、一生懸命頑張れば自分達を認めてくれるかもしれないし、もしかしたら奇跡が起きて勝つかもしれないと、甘い考えを持っていました。

しかし、そこに処刑という恐ろしい罰の噂を聞かされると、イジメが恐い一年生達は、負けた時のことばかりを考えるようになってしまって、試合どころではなくなってしまうのです。

「…大丈夫、ただの噂だよ。僕達を怖がらせようとしてるだけなんだ。だから、こうなったら勝とうよ。勝てば向こうはなんにも出来ないんだから」

そう言って、竜太君は一年生達の前で強がって見せましたが、竜太君自身も少なからず不安を感じているのですから、普段よりも心なしか言葉に明るさがありません。

竜太君が一人ぼっちの一年生だった頃は、女子のイジメもからかい程度で、持ち前の明るさでなんとか乗り切ってはきましたが、うっかりオチンチンを見られてしまうかもしれないという不安は、ずっと付きまとっていました。

オシッコをしにトイレに行けば、平気な顔をして男子トイレについてきた女子が、竜太君のオチンチンを覗き込もうとしてきたり、歩いている時にコッソリ後ろから近付いてきた女子に、いきなりズボンを下ろされそうになるなど、危ない場面が何回もありました。

もっとも恐いのは身体検査の時で、女子は体操着で整列しているのに、竜太君だけはブリーフのパンツ一枚の格好で並ばされてしまうのですから、検査が終わるまで一瞬たりとも気を抜くことが出来ません。

竜太君は女子のイジメを強く乗り切ってきましたが、一年生達は頑張っていけるかどうか分かりません。だからこそ、女子にイジメられないようにするために、サッカーの試合を頑張ろうと決意するのです。

放課後のクラブ活動が終わってからも、竜太君は自分の家の庭で、一人で一生懸命練習をしました。奇跡を起こすために、誰よりも自分が頑張らなければいけないと、何度もシュートを繰り返していました。


そして、とうとう試合の日がやってきました。いつの間にか学校の行事になっていた、男子サッカー部と女子サッカー部の試合には、とても大勢の女子が集まっていて、それだけで男子サッカー部の美少年達は圧倒されそうになっています。

「みんな、緊張しないでいこう。周りなんて気にしないで、練習したことを一生懸命頑張れば良いんだ」

まずは相手をしっかりマークして、点を取られないように守り、反撃する機会を待とうという作戦を、竜太君はみんなに伝えます。

一生懸命ボールを追いかければ、相手もなかなかシュートを打てない筈です。たった一週間では、とても女子サッカー部のレベルに追いつけないと判断した竜太君は、とにかく体を張って守りを固めることで、希望を繋ごうと考えました。

しかし、その希望は試合が始まってすぐに壊されてしまったいました。キックオフの直後、ボールを受けた若尾さんがグラウンドの中央からいきなりシュートを打つと、竜太君達は意表を突かれて、キーパーもシュートを止めることが出来ずに、あっという間に一点を取られてしまったのです。

情けない失点に、観客の女子達も大笑いをして竜太君達を馬鹿にします。「まだまだ、勝負はこれからだよ」と竜太君はみんなを励まして気を取り直しますが、それは悪い意味で本当になってしまいました。

まだ、竜太君達の絶望は始まったばかりです。これからもっと竜太君達は惨めな思いをし続けなければいけないのです。

小柄な美少年に、サッカーのグラウンドは広すぎます。毎日厳しい練習を続けていた女子なら平気で走り回ることは出来ても、子供のように遊びを楽しんでいた美少年には、ボールを追いかけるだけでも大変なことでした。

体格も女子と美少年では全然差があり、ボールを持った女子をマークしに向かっても、女子は美少年をかわそうともせず、美少年のタックルを真正面から弾き飛ばしてしまうのです。

女子にあっという間にゴールまで攻められ、キーパーも一生懸命守ろうとしますが、ここでも美少年の小柄さでは、ゴール全体を守りきることが出来ません。飛び付いてもボールに届かず、正面にきたシュートですら、恐くてつい顔を背けてしまい、ゴールを許してしまう有様です。

始めのうちは、男子サッカー部が点を決められる度に囃し立て、笑っていた観客の女子達も、余りに一方的な試合にさすがに飽きて、後は試合が終わって処刑が始まるまで、関係ないお喋りを始めだすぐらい、とにかく酷い試合でした。

疲れ切り、ボロボロになって前半が終わると、男子サッカー部は既に20点近くも得点を決められていて、完全に絶望的な状況です。

「どうしよう…もう絶対勝てないよ…。僕たちオチンチン見られちゃう…」

一年生達は、あまりの得点差に呆然として、完全に諦めてしまっています。そして、負けた後の処刑のことばかり考えてしまって早くもベソをかいている子までいるぐらいです。

「まだ、後半があるんだ…諦めたら駄目だよ。…きっと、何とかなる…何とかなるから…」

さすがにこの状態では、竜太君も元気良くみんなを励ませるはずがありません。どうにかしようと思っても、どうにもできないまま後半が始まり、足取りが重くなった一年生達をなんとかグラウンドに向かわせようとすることしかできません。

「行こう…後半が始まるよ。つらいけど、やらなくちゃいけないんだ。…頑張ろう、みんな頑張ろうよ」

後半が始まっても、男子サッカー部はほとんどボールを持つことが出来ません。それどころか、もうグラウンドに立っていることも恐くて、攻めてくる女子から逃げようとしてしまいます。

ボールに向かって走るのは竜太君だけで、これではどんなに竜太君が頑張っても、どうすることも出来ません。女子もすっかり余裕を感じて、諦めずにボールを取りに来る竜太君をからかおうと、わざと攻め込まずに待ちかまえて遊ぼうとしています。

「ちょっと、何やってんの?ボールを取ったらすぐに攻め込んで!ふざけたプレーしてんじゃねーよ」

竜太君をからかう女子に、若尾さんは怒りました。美少年をイジメることは楽しくても、試合をふざけることは許さないという、若尾さんなりの信念なのかもしれません。

ちょっとしたプレーでからかうのではなく、圧倒的な点差によって力の差という現実を叩きつけることで、美少年を心の底から屈服させるまで、若尾さんはみんなに点を取ることを止めさせませんでした。
若尾さんの指示で、ふざけることなく男子サッカー部のゴールに向かって、攻め込み続ける女子サッカー部の前に、竜太君達は為す術もありませんでした。

一年生達はほとんどの子がベソをかいている状態で、既に涙を溢れさせている子も多く、女子が攻め込んできてもボールを追いかけるどころではありません。

逆に、戦意を喪失している一年生達に向かってワザと正面からぶつかってくる女子に驚き、ボールを避けてしまうぐらいで、それはとてもサッカーの試合と呼べるものではなくなってきていました。

「みんな、諦めないで!最後までボールを追いかけよう!」

どんなに竜太君が頑張っても、一人ではどうすることも出来ません。女子の蹴るボールに追いつくことも出来ず、一年生達が次々と体当たりで弾き飛ばされ、呆気なくゴールを決められてしまうのを、何度も何度も見せつけられるしかないのです。

「みんな立って!僕たちの攻撃だよ!早く試合を再開しよう!」

ゴールを決められた後は、男子サッカー部にボールが与えられますが、その度に一年生達を元気付け、試合を続けさせるのにも一苦労です。それでも、ボールを蹴り出した瞬間には女子が猛然とボールを奪いに来るのですから、男子サッカー部の攻撃は、あってないようなものでした。


後半も終わりが近付き、気が付けば女子サッカー部の得点は40点を超えていました。誰が見ても、男子サッカー部には絶対に勝ち目がありません。それでも、竜太君は最後まで戦う意志を捨てようとはしませんでした。

竜太君は、これが最後になるかもしれないキックオフの前に、一年生達を集合させました。みんな泣いています。圧倒的な点差に、試合が終わった後の処刑というイジメ。誰もが自分達の無様すぎる無力さに、悲しくて仕方がないことでしょう。

「みんな、今まで良く頑張ってくれたね」

一年生達を集めた竜太君の最初の言葉は、意外にもみんなを褒める言葉でした。誰もが不甲斐ない自分達を責めるかと思っていたのに、竜太君は逆にみんなを褒めてくれたのです。

「こんなに点を取られているのに、みんな逃げ出したりしないでちゃんと試合を続けてくれて、凄く良かったよ。僕たちは最後まで必死に戦ったんだ。最後まで頑張ったんだよ」

そうです。竜太君だけではなく、一年生達も決して試合を放棄したりはしなかったのです。どんなに泣きベソをかいても、女子の蹴ったボールの勢いが恐くて背を向けてしまっても、グラウンドから逃げ出したり、座り込んでしまうことだけはありませんでした。

「もう僕達は負けちゃうかもしれない。でも、まだ試合が終わるまでは負けじゃないんだ。残り時間、みんなで一生懸命攻めてみようよ。結果なんていいんだ、一点を取るために、みんなで戦ってみたいんだ」

みんなで力を合わせて、一点を取ってみたい。竜太君の言葉に、一年生達は最後の力が胸の底から沸き上がってくるのを感じて、目から大粒の涙をボロボロとこぼしながら勇気を振り絞りました。

自分達が負けるということばかり考えて、サッカーが出来なくなっていた一年生達は、竜太君の言葉で、最後までサッカーを楽しもうとする心を取り戻したのです。


「よーし!」 「やるぞー!」 「一点取るんだー!」

涙を拭った美少年達は、それぞれのポジションに分かれると、みんな思い思いの声を叫んで最後の力を振り絞り、頑張って元気を出そうとしています。

この状況で一点を取ろうと元気を出す美少年達に、女子サッカー部の選手は呆れた顔をしていますが、若尾さんだけはちょっと違うようです。鼻で笑いながら、チームのみんなに何かの指示を送りました。

「ハッ、しょうがねーな」

試合が再開し、竜太君がボールを受け取った瞬間、若尾さんは竜太君のボールを奪いに駆け出します。もう何度も若尾さんにボールを取られている竜太君は、いつもここでパスをしようとするのですが、最後の最後に一対一で勝負をしようと決意したのです。

そして、竜太君は奇跡を起こしました。竜太君が必死に練習してきたフェイントで、若尾さんを見事にかわして、初めてドリブルで女子を抜き去ったのです。

自分よりもはるかに大きな女子を抜き去った、竜太君の格好良い姿に、一年生達はとても勇気づけられました。男子サッカー部はこの試合で初めてとも言える力強い攻撃を見せて、女子サッカー部のエリアへ果敢に突進していきました。

まるで今までの試合の流れが嘘のように思えるぐらい、男子サッカー部のみんなが、ゴールに向かって止まることなく走っていきます。

決して上手くはなくても、気持ちの籠もったパスは、女子にカットされることなく味方に渡り、大柄な女子に追いかけられながらも、すぐにみんなでカバーし合うことによって、ボールを奪われずに攻め続けています。

とうとうゴールまであと少しの所に来た男子サッカー部。竜太君は守備の選手をかわして、ついにキーパーと一対一になりました。後はサイドラインでボールを受け取った一年生がセンタリングを上げるだけです。

「早く!センタリングだ!」

竜太君目掛けてサイドの一年生が蹴ったボールは、とてもセンタリングとは呼べない、ボテボテにバウンドしているボールでした。それでも、ボールは女子の誰にも邪魔されずに、竜太君に向かって跳ねていきました。

「決めてー!竜太くーん!」

一年生達みんなが、竜太君に叫んでいます。みんなで一生懸命ゴール前まで運んだボールをシュートするのは、竜太君しかいないと思っているからです。

みんなを勇気づけ、ここまでチームを引っぱってきてくれた竜太君に、シュートを決めてほしいと、一年生達はみんながそう思っていました。

この試合に負けることになっても、もう良いのです。強い女子相手に頑張って、みんなで一点を取った。その喜びのために、最後の力を振り絞って走ってきたのですから。

(僕が決めるんだ。このシュートは絶対に決めてみせる!)

みんなの熱い思いを受けて、竜太君の気持ちもどんどん熱くなり、このボールを絶対に女子サッカー部のゴールに叩き込んでやろうと、体に力が籠もっていきます。

「でやぁーっ!」

いまこそ、竜太君が家でずっと練習していたボレーシュートを決めるチャンスです。竜太君はありったけの力を込めて、跳ねてきたボールに合わせて思いきり右足を振り抜きました。

「……あっ!?」

歯を食いしばり、目をつぶって、思い切り右足を振り抜いた竜太君。しかし、竜太君の足には、ボールが当たったという感触がまるでありません。その事に竜太君が気が付いたときには、全てが終わってしまいました。

軸足を滑らせて、思い切り転んでしまった竜太君。一年生達も、女子サッカー部の選手達も、観客の女子達も、誰もが呆気に取られて言葉を失い、グラウンドは静まり返ってしまいました。

尻餅をついて大きく転び、頭を打った竜太君から遠ざかるように、ボールは転がっていきます。竜太君は、シュートを空振りしてしまったのです。みんなで作った得点のチャンスを、台無しにしてしまったのです。

あまりの失敗に、竜太君自身も呆然として動けなくなってしまいました。そして、そのまま試合終了の笛を聞くことになってしまったのです。

とても強かった女子サッカー部から、とうとう得点を取れるかもしれないと思わせた、男子サッカー部の最後の頑張りは、竜太君のシュートの空振りという、あまりにも呆気ない結果に終わってしまいました。

試合終了の笛が鳴った瞬間、一年生達はみんな呆然とその場に立ち尽くしたままで、声も出ません。もちろん竜太君も頭の中が真っ白になってしまい、尻餅をついたまま起き上がろうともしません。

竜太君は、自分の後ろに転がっているボールをじっと見つめていました。本当だったら相手のゴールに入っていたはずのボールが、シュートの空振りという一番みっともない失敗によって、一年生達の頑張りすら無駄にしてしまったのですから、ショックも大きかったことでしょう。

そんな竜太君を見ていた女子達も、始めこそ言葉を失ってしまったものの、それはすぐに恥ずかしいプレーをしてしまった竜太君への笑いに変わっていきました。

「あっははははは!見た今の?空振りして思いっきりズッコケてんの!ダッサー」
「超ウケる!マジでコケてたよ!スゲー尻打ってた!ぎゃっはははは!」

竜太君達があまりにも真剣で必死だっただけに、無様に空振りをした姿は余計に可笑しくなってしまうのです。もともと竜太君達を馬鹿にしていた女子達は、可哀想と思うどころか、ここぞとばかりにみんなで大笑いしています。

女子サッカー部の選手も、ポカンと口を開けたまま立ち尽くす一年生達の顔を見て、誰もが笑いを止めることが出来ませんでしたが、ただ一人、若尾さんだけは笑っていませんでした。

「はぁ!?何やってんの!?」

男子サッカー部を完全に負かしたのに、何故か怒っている若尾さんは、グラウンドに座ったままの竜太君の所へ近寄り、冷たい目で竜太君を見下します。

「お前さぁ、人がせっかくお情けで一点取らせてやろうとしたのに、なに空振りしてんだよ。下手糞なくせに格好付けてボレーなんて狙うなって!…ほんと、ダサ過ぎるよ、お前」

竜太君は、若尾さんの言葉で初めて気が付きました。自分達が最後に攻め込むことが出来たのは、若尾さんの指示で女子サッカー部の選手達が手加減してくれていたのだということを。

それを自分達の力で起こした奇跡だと信じ込んでいた竜太君は、必死になる余りに前しか見えなくなって、自分の所にボールが来たときには、周囲に誰もいないことを確認する余裕なんてありませんでした。

あのセンタリングを一度トラップしていれば、シュートはちゃんと打てていたかもしれません。そうすれば少なくとも、一つだけ良い思い出が作れていたことでしょう。

竜太君には格好付ける気なんてありませんでしたが、難しいシュートの選択をして、格好悪い空振りをしてしまった事実は消えません。この空振りは、誰が見ても格好悪すぎる空振りだと、竜太君自身も思ってしまうぐらいです。

(僕の責任だ…、僕が何もかも駄目にしてしまったんだ…。僕は先輩なのに…、みんなを引っ張っていくなんて言っておきながら…、空振りなんかしちゃって…!)

一年生達の前で格好悪い姿を見せてしまった上に、女子のみんなに笑われて、しかも美少年を馬鹿にしていても対戦相手への礼儀を守ろうとした若尾さんの情けを裏切り、失望されてしまったのですから、竜太君の心の傷はとても深くなってしまいました。

「う…、うっうぅ……ううぅぅ……!」

竜太君の目がどんどん潤んでいくと、それはあっという間に溢れ、いくつもの大粒の涙となって、ボロボロとこぼれ落ちていきます。

たった一人で、意地悪な女子だらけの環境の中で元気に振る舞っていた、一年間の辛さ。そして、か弱い美少年の身でありながら、先に入学したという義務感だけで十人の新入生達を守ってあげようと、懸命に背伸びをしていた大変さ。

それが全て、この試合によってぶち壊しにされてしまいました。竜太君は今、この学校の中で一番格好悪い存在に落ちぶれてしまったのです。

「うぅぅわああぁぁぁぁぁぁ…!もぅぅ嫌だぁぁ…嫌だよぅ…!うぅぅわぁぁあぁぁぁあぁあぁあぁぁ…!」

これがあの元気だった竜太君の声なのでしょうか。竜太君はグラウンドにしゃがみ込んだまま、突然情けない大声を上げて泣き出してしまったのです。


「どうして…、僕だっで一生懸命頑張ってぎだのにぃぃ…!どうしでみんなで僕ばっがイジメるんだよぅぅ…!嫌だぁぁぁ!もう嫌だぁぁぁぁぁっ!」

強気なフリをしていた竜太君の心は、一瞬にして砕け散ってしまいました。今の竜太君は、人一倍臆病で泣き虫な、イジメられっ子の美少年という本当の姿に戻ってしまったのです。

溢れる涙を拭うこともせず、顔をクシャクシャにして泣きじゃくる竜太君の姿は、女子達にとっては更なる笑いの種でした。それどころか、もっと竜太君を泣かそうと、みんなで寄ってたかって悪口を言い、囃し立てていました。

竜太君をイジメるのが楽しいのは分かりますが、このまま騒がれていては肝心の『処刑』が始められません。若尾さんは部員達に命令して、グラウンドの中央に美少年達を一列に並ばせようとしました。

「ほら、お前達が負けたら処刑するって決まってんだから、とっとと立てよ。…ウザイなー、いつまで泣いてんだよー!」

そう言って若尾さんが竜太君の手を掴もうとすると、泣きじゃくったままの竜太君は激しい抵抗を見せて、若尾さんの手を振りほどこうとします。

「嫌ぁぁだぁぁっ!そんなの嫌だぁっ!嫌だったらぁぁぁっ!」

もはや竜太君には恥も外聞もありませんでした。駄々っ子のワガママのように泣きわめき、あまりに激しく抵抗するので、若尾さんも一人では手が付けられずに、部員達の手を借りて竜太君の両手両足を掴み、暴れられなくしてから引き摺っていくしかありませんでした。

「嫌だぁぁぁぁっ!嫌だ嫌だ嫌だぁぁっ!行きたくなぁいぃぃっ!行きたくないよぅぅっ!」

4人がかりで引き摺られていく竜太君に比べて、一年生達は目に涙こそ浮かべているものの、女子に命令されると大人しくグラウンドの中央に集まっていきました。

女子サッカー部に負けて、もう処刑から逃げられないと悟ってはいますが、それよりも自分達が頼りにしていた竜太君が、誰よりもみっともなく泣き叫んでいる姿を見てしまったショックが大きかったのです。

心の支えだった竜太君が、女子にあそこまで泣かされてしまった姿は、一年生達にとって、とても悲しい現実でした。もう女子に逆らうことは出来ないんだという、諦めの気持ちが芽生えてしまうのも仕方がありません。

若尾さんが呼んでおいた写真部の女子が、カメラを持ってグラウンドに入ってきました。いよいよ竜太君達への処刑が行われようとしているのです。
観客の女子達がゾロゾロとグラウンドの中央に集まっていきます。そして、美少年達も女子サッカー部に連れられて、そこに集められました。

いよいよ自分達のオチンチンが見られてしまうかもしれないと怯える一年生達は、まるで本物の処刑場に連れて行かれる奴隷のように、一歩ずつ足を進める度に恐怖で心臓が痛くなってきます。

無理もありません。か弱い美少年にとって、オチンチンや肛門は女性の貞操のようなものなのですから、このような形で悪い女子に無理矢理オチンチンを見られてしまうというのは、女性が見ず知らずの男に処女を奪われてしまうのと同じぐらいショックなのです。

友達同士でフルチン姿になって遊んだり、近所のお姉さんやお母さんに裸を見られてしまうことは"微笑ましい"で片付けられても、悪意の視線に晒されてしまうのはまったく別物です。

ここで竜太君達が、これだけ大勢の女子にオチンチンを見られてしまったら、それはもう竜太君達の人生が、ここで終わりを迎えてしまったと言っても過言ではありません。

「嫌だ…!嫌だってばぁっ!」

一年生達が観念するなか、、竜太君だけはいまだに抵抗を続けていますが、女子に両手両足を掴まれた状態では、暴れようにも暴れられずに、ズルズルとグラウンド中央に引き摺られていくばかりです。

もう中学二年生にもなる男子が、泣き喚きながら4人の女子に引き摺られていく姿は、あまりにも無様で格好悪く、グラウンドに集まった女子達もみんな面白がっています。

女子の笑い声を聞いた竜太君は、この恥ずかしい格好から何とか逃れようと、さらに大声を上げて体をジタバタとさせるのですが、その姿を余計に女子に笑われるという悪循環になってしまいます。

「ほんとカッコわりーなー、コイツ。一年はみんな大人しくしてるのにさー、恥ずかしくない?」

若尾さんに何と言われようと、女子にどれだけ笑われようと、竜太君はオチンチンを見られてしまう事を、何よりも恥ずかしがっているのかもしれません。

美少年達を横一列に並べ、いよいよ処刑を始めようという時になっても、竜太君だけは並ぶのを拒み、大人しくしようとしません。

美少年が観念しなければ始められないという、処刑の欠点を竜太君が知っていたのかどうかは分かりませんが、とにかく竜太君は大人しくしないことで処刑を免れようと必死になっています。

しかし、竜太君の抵抗は大勢の女子達、特に若尾さんには往生際が悪いと受け止められるだけで、処刑を諦めるどころか、余計に苛立ちを募らせるだけでした。

若尾さんは、女子に羽交い締めにされている竜太君に早足で近付くと、竜太君の頬を手で思いっきり叩きました。さらに二発、三発と何度もビンタを続けると、竜太君はまたしても大泣きしてしまうのです。

「甘えてんじゃねーよ!泣けば済むと思ってんのか?あ!?なんでお前はそんなにウゼーんだよ!あ!?オラ、どうした?泣き止まねーなら、いくらでもビンタしてやるよ!」

頭に血が上った若尾さんは、竜太君が大人しくなるまで、何度も往復ビンタを打ち続けます。泣きっぱなしだった竜太君があっという間に泣き止んでしまうぐらい、若尾さんの迫力は恐ろしいものがありました。

若尾さんの怒りはなかなか治まらず、竜太君が泣くのをやめても、まだビンタを続けています。ビンタの痛みと恐怖で完全に怯えきった竜太君は、目からボロボロと涙を流しながら、思わず「ご免なさい」と口にしてしまいました。

竜太君はなにも悪くないのに、悪いのは竜太君達を理不尽にイジメる若尾さんなのに、竜太君はイタズラを叱られた子供のように「自分が悪い」と謝ってしまったのです。

「あ!?聞こえねーよ!もっとハッキリ言ってみろよ。言うことを聞かなくてご免なさいって、ちゃんと謝ってみろよ」

本当に聞こえないわけではありません。若尾さんはワザと竜太君に何度も謝らせているのです。これはもう、竜太君を徹底的に屈服させようとしているとしか考えられません。

美少年は女子に逆らってはいけない。それが女子によるイジメであっても、従わなければ美少年が悪い。若尾さんは、自分のやり方をビンタによって竜太君に分からせようとしているのです。竜太君は、若尾さんの言う通りに謝るしかありませんでした。


竜太君が大人しく一番端に並んだところで、ようやく処刑が始まり、竜太君の反対側から順に、一人、また一人と、次々にオチンチンが丸出しにされていきます。

焦らしたりすることは一切ありません。若尾さんの合図によって、それぞれの美少年達の背後に控えた女子が、容赦なく順番に、短パンとブリーフを一気に下ろしてしまうのです。

美少年達は両腕を後ろで縛られているので、短パンを上げるどころか、オチンチンを隠すことすら出来ずに、大騒ぎする女子達の前で耐え続けなければいけません。さらに、写真部の女子にオチンチンを撮影までされているのですから、何一つ救いはありません。

あと四人、あと三人。竜太君が処刑されてしまう順番が、だんだん近付いてきます。竜太君の脚はブルブルと震えていました。相当緊張しているのでしょう、呼吸もうまく出来ず、涙まで止まってしまうぐらい、心が焦っているのです。

他の女子は、みんな一年生達の小さすぎるオチンチンを見ることに夢中ですが、若尾さんだけは、一年生のオチンチンよりも竜太君の焦っている姿に興味があるようです。

いまだに心の整理が出来ずに慌てて、追い詰められているのが面白いぐらいに顔に出ている竜太君の姿は、美少年の運命を理解し、諦めの早かった一年生達と比べて、あまりにも無様です。

弱いくせに強気に振る舞って女子に逆らい、いざ勝負に負けたら大人しくするどころか泣き喚いて逃れようとする、典型的なイジメられっ子のような行動は、若尾さんが本気で頭に来るぐらいでした。

竜太君があまりにも格好悪すぎるせいで、若尾さんはあれだけ竜太君にビンタをしたのに、まだ物足りなさを感じているのです。

もっとビンタしてやりたい、もっと泣かしてやりたい。顔を見るだけで頭に来るぐらい若尾さんは本気で竜太君のことが嫌いなのに、それと同時に、竜太君をイジメることに楽しみを感じているのかもしれません。

「よーし。じゃ、ラストー!」

とうとう竜太君のオチンチンが丸出しにされてしまう順番が来ました。後ろにいる女子に短パンをグッと掴まれたのを感じると、竜太君は思わず「待って」と声を出してしまいますが、当然待ってくれるはずなどありません。

竜太君もまた、一年生達と同じように大勢の女子達の前で、容赦なく短パンとブリーフを下ろされて、オチンチンを丸出しにされてしまったのです。
「うはっ、何アレ?スゲー小さいじゃん!」
「ダッセー!先輩のくせに一番チンチン小さかったりしてー!」

竜太君のオチンチンが、とうとう丸出しにされてしまいました。その時の女子の騒ぎは、これまでとは比較にならないぐらい大きなものです。

まだ入学して間もない上に、大人しく観念した一年生達のオチンチンを丸出しにするよりも、今までずっと女子に逆らってきた、竜太君のオチンチンを丸出しにする方が楽しいのは当然のことでしょう。

これまで竜太君が、女子と対等な立場のつもりで健気にも頑張ってきたのを、呆気なく心まで打ち砕いて大泣きさせてしまったのです。初めから女子の言いなりだった美少年よりも、自分にプライドを持っている美少年をボロボロにするのが、イジメッ子な女子の快感なのですから。

女子は、みんなで竜太君のオチンチンの小ささを囃し立て、大騒ぎしています。本当は一年生達とのオチンチンの大きさに差があるわけではなく、美少年なら必ずオチンチンは小さいものなのに、竜太君をとことんまで恥ずかしがらせようとして、小ささを強調しているのです。

恥ずかしさが頂点に達した竜太君は、もう暴れるだけの気力もなく、ただ泣き続けることしかできません。今の竜太君は、オチンチンを見られてしまったショックよりも「先輩のくせに」という言葉が何よりも辛かったのです。

先輩という責任感が強かったからこそ、今の無様な自分の姿が悲しいのですし、「オチンチンが小さい」という、本当かどうかも分からない言葉ですら、心を強く痛めてしまうのです。

「良かったねー、一年。お前んちの先輩、大したこと無くて。一年の方がよっぽど優秀じゃないの?」

竜太君の心の傷を抉るかのように、女子達は竜太君が一年生達よりも劣るかのような悪口を言い続けます。その言葉に追い詰められていく竜太君は、恐くて一年生達の方に振り向くこともできません。

一年生が自分に失望しているかもしれない。冷たい目で見られていたらどうしよう。それとも、もう完全に馬鹿にされているかもしれない。

自分は先輩なのに格好悪いから、きっと一年生に笑われているんだ。女子にイジメられて、一年生には馬鹿にされて、僕はもう駄目なんだ。

一度弱気になってしまうと、もう立ち直れません。竜太君は、何を考えても悪い方に捉えるようになってしまいました。


「これで男子サッカー部は解散。もうお前達は今後一切グラウンドを使うんじゃねーぞ。約束を破ったら、また処刑だからな」

処刑の記念撮影も終わり、これで男子サッカー部の解散は決定になったと、若尾さんが宣言します。若尾さんに権限があるわけではありませんが、ここまでされてまだ部活を続けようという気力が、竜太君に残っているわけがありません。

飽きるほど美少年のオチンチンを見て、観客の女子達もすっかり満足したのでしょう。もう処刑の儀式も終わりだと思って、一斉に帰り始めます。

しかし、処刑は終わりましたが、竜太君達はまだ解放してもらえません。若尾さんと女子サッカー部員もグラウンドに残っています。若尾さんには、まだ竜太君達にやらせたいことがあるのです。

「お前達、最後に一人ずつ順番に挨拶をしていきな。『今日は僕達の相手をしてくれて有難うございます』って。そうしたら帰してやるよ」

無理やり試合をさせられて、散々な目に遭わされたのに、「有難うございます」とお礼をしなくてはいけないなんて、辛すぎるにも程があります。それでも挨拶をしなければ、さらにイジメられるかもしれません。

一年生達は、これでイジメから解放されるのだと自分に言い聞かせて、泣く泣く挨拶をしていきます。そして縛られた両腕をようやく自由にしてもらうと、急いでブリーフと短パンを穿き直して、オチンチンを隠します。

挨拶を終えた一年生は、若尾さんに「早く消えろ」と言われて、追い出されるようにグラウンドから出て行きました。そして最後に竜太君の番になりましたが、まだ泣き続けている竜太君は口籠もるばかりで、なかなか声を出すことができません。

「あ?聞こえねーよ!もっとはっきり声を出せよ!お前キャプテンだろ?チームのキャプテンが声出さねーで、どーすんだって!情けねーなー!」

あれだけ「先輩のくせに」と言われた上に、今度は「キャプテンのくせに」です。泣きすぎてすっかり卑屈になってしまった竜太君は、辛さのあまり、ついふて腐れてしまいました。

「だっで…僕なんで、どうぜキャプデン無理だもん…。もういいよ…キャプデンなんでやりたぐないじ…」

竜太君の言い訳を聞いて、若尾さんはそこまで竜太君を卑屈にさせた自分のイジメのことは棚に上げて、竜太君を怒り、罵ります。

「はぁー!?何ふて腐ってんだよ!お前が男子サッカー部なんて作ったんだろ!?だったら最後までちゃんとしろよ!何いつまでも泣いてんだよ」

何も言い返せない竜太君に、若尾さんはビンタをします。足下まで短パンとブリーフを脱がされ、両腕も縛られたままの竜太君は、頬を思いっきり叩かれてバランスを失い、オチンチンが丸出しのままで転んでしまいました。

「ふぐぅぅぅ……、うわあぁぁぁぁぁぁぁん!わぁぁぁぁっ!わぁぁぁぁぁっ!うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」

竜太君は、またしても幼い子供のように大声で泣き叫んでしまいました。その大きな声は、グラウンド全体どころか校舎にまで響き、帰宅しようとしていた女子が、何事かとグラウンドを覗きに来るぐらいでした。

さすがにここまで泣かれると、サッカー部の女子達も既に呆れ顔です。面白がるよりは、もう付き合っていられないといった様子でした。若尾さんも、さすがにウンザリしてきました。

「最低だな、こいつ。救いようがねーよ…」
誰かが助けてくれるわけでもないのに、泣いてどうにかなるわけでもないのに、竜太君はいつまでも大声を上げて泣き続けていました。

大人しく若尾さんに挨拶をすれば、この場から帰してもらえるのです。それなのに竜太君は、どうやっても若尾さんに勝てるはずがないのに、子供のようにふて腐れて泣いているだけなのですから、若尾さんが呆れてしまうのも当然でした。

「もういいよ、こいつ!このまま放っておいて帰っちまおう!オラ、一年もとっとと帰れよ!放っておけばいいんだ、こんな奴」

グラウンドの中央で、オチンチンも丸出しのまま、わんわんと泣き続ける竜太君に呆れた若尾さんは、グラウンドに残っていた部員達に竜太君を見捨てて帰るように指示すると、遠くから心配そうに様子を窺っていた一年生の美少年達にも、すぐに帰るように命令します。

若尾さんに命令されても、一年生達はなかなか竜太君を見捨てて帰ることができませんでしたが、イライラしている若尾さんにグズグズしているのを怒鳴られると、さすがに校舎の外へ逃げるしかありませんでした。


グラウンドで一人ぼっちになった竜太君は、しばらくの間ずっと泣き続けていましたが、ようやく泣き疲れると大人しくなりました。

それでも竜太君の心の中は、まだ悲しい気持ちで一杯でした。立ち上がって帰る気力もありません。地面に座り込んだまま、今日の自分の格好悪い姿を思い出して、どうにもならない思いで、いつまた涙が溢れて来てもおかしくありませんでした。

圧倒的な点差で負けたサッカーの試合。恥ずかしい最後の空振り。大笑いする女子達。ガッカリした一年生達。キャプテンとして何一つ良いところを見せられなかった自分。そして、失望した若尾さんに見捨てられた事。全てが格好悪すぎます。

一年間、竜太君はなんのために孤独に耐えて頑張ってきたのでしょうか。強気に頑張ってきたことが、余計に今の竜太君の格好悪さを際立たせるだけだったのです。

これから竜太君は、どんな学校生活を送る事になるのでしょう。もう強気な竜太君の印象は跡形もありません。残ったのは、弱虫で泣き虫なイジメられっ子という現実だけなのです。

きっと毎日女子達にからかわれ、イジメられることでしょう。若尾さんには特に目を付けられるかもしれません。またビンタをされてしまうのでしょうか。

今日のことは、すぐ学校全体に知れ渡ってしまうでしょう。そうすると、竜太君は二年生なのに、一年生からも馬鹿にされてしまうに違いありません。しかも女子だけではなく、自分が守ろうとしていた一年生の美少年達からも、見下されてしまうかもしれないのです。

(もう嫌だ…。僕なんか、どうなっちゃってもいいんだ。もう何もしたくないよ…)

何もかも嫌になってしまった竜太君は、もう泣き止んでいるのにグラウンドから帰ろうともせず、ポツンと座り込んだまま自分の格好悪さを嘆いていました。

その姿は、一人で家に帰ることが寂しくて、公園でいつまでも母親が迎えにくるのを待ち続けている子供のようです。きっと竜太君は、自分を嘆いているフリをして、誰かが手を差し伸べてくれるのを待っているのかもしれません。

グラウンドの中央で、いかにも誰かにイジメられたような姿で悲しんでいれば、きっと誰かが同情して助けに来てくれる。イジメられて久しぶりに泣いたことで、竜太君の心はすっかり子供に返ってしまったのでしょう。

でも、もう竜太君は中学二年生なのです。母親が迎えに来てくれたり、泣いていれば誰かが手を差し伸べてくれるわけでもありません。美少年であっても、それは変わらないのです。

その現実に目を向けたくない竜太君が、いつまでもグラウンドに座り続けていると、やがて遠くから誰かが近付いてくる足音が聞こえてきました。

「誰かが助けに来てくれたのかもしれない」と竜太君は思いましたが、もしかしたらそうじゃないかもしれないとも思い、足音のする方を見ないようにしていると、やっぱり足音は竜太君の方に近付いてきています。

(きっと心配して声を掛けに来てくれたんだ。もう帰ろうって、言ってくれるかもしれない)

まだ学校に自分を心配してくれる人がいるのかもしれないと、期待しながら竜太君が近付いてきた人を見上げると、その人は竜太君が一番会いたくなかった若尾さんでした。

「お前まだいるのかよ!馬鹿か?ウザイからもう、とっとと帰っちまえよ!」

まさか若尾さんがまた来るとは思っていなかった竜太君は、若尾さんに睨まれると恐怖のあまり、思わずお尻で後退りしてしまいました。しかも竜太君は短パンとブリーフをまだ穿き直していなかったので、小さなオチンチンが若尾さんの前で呆気なく丸出しになってしまったのです。

「はぁ!?何でまだチンチン丸出しなんだよー!…お前さー、アタシが短パン穿けとか帰れとか言ってやらないと、何もできないの?なー!」

再び怒った若尾さんが、今にもビンタをしそうな勢いで竜太君に詰め寄り、脅すように罵ります。竜太君は大慌てで短パンとブリーフを穿きながら、「ご免なさい」と何度も謝っています。

竜太君はもう、若尾さんに対して恐怖しか感じることが出来ません。若尾さんが何を言っても、ただひたすら謝るばかりで、若尾さんが一歩近付けば、竜太君も一歩離れようとする状態でした。

「ご免なさい、ご免なさい!許してください、もう許してください!」

”ビンタをされたくない”という一心で、訳も分からず謝り続ける竜太君の姿に、若尾さんは心底呆れ果てて、物も言えなくなってしまいました。

「分かった、もういいから帰れよ、帰れ!」

グラウンドから追い払うように竜太君を帰らせると、若尾さんは大きな溜息をつきます。竜太君をあそこまで追い詰めた原因が自分のイジメだというのに、若尾さんは、まるで竜太君が人として駄目な、生きている価値のない人間だと決めつけてしまうのです。

相手にもしたくない。イジメる気もなくなるぐらい竜太君を最低の人間だと決めつけたのに、今度は竜太君があまりにも最低すぎるから、またイジメたくなるという身勝手な気持ちになっていました。

「あー!ムカツク!もっとビンタしてやれば良かった」

結局若尾さんは、竜太君をイジメることを止めないのです。もう理由はないのでしょう。竜太君だから、イジメたくなるのです。
女子サッカー部との試合に負け、処刑の儀式によってみんなの前でオチンチンを丸出しにされてしまった上に、中学二年生とは思えないような大泣きまでしてしまった竜太君は、あっという間に学校の有名人になってしまいました。

竜太君自身もすっかり元気がなくなってしまったことで、女子もより一層竜太君をからかうようになり、竜太君もそれにオドオドするばかりで、毎日イジメに怯えながら学校に通わなければいけないのです。

仮に女子のイジメが無くても、あれだけ格好悪い姿を晒してしまえば、それがトラウマになるのは当然で、本当は朝、学校に行くだけでも辛いのです。

でも、美少年はみんな生真面目なので、どんなに学校が恐くても、学校に通わないという”良くないこと”は出来ません。女子達はそれを本能的に見抜いているから、イジメを止めないのです。

救いなのは、イジメが小学生のような程度で済んでいる事でしょうけど、イジメられる竜太君達にとっては、それでも辛いことに変わりはないのです。


酷いことに美少年へのイジメは、学校も黙認どころか公認しているようなもので、新聞部が作成している学校新聞の特集に、『男子サッカー部の歴史』という題で、処刑をされてオチンチンが丸出しになった、竜太君達の集合写真が堂々と載せられているにもかかわらず、学校はそれを止めなかったのです。

しかも11人全員の顔写真と、オチンチンがアップになった写真が一緒に並べられているのは、もはや悪趣味としか言いようがないのに、『美少年のフルチンとオチンチンは猥褻にはならない』という暗黙の了解のせいで、許されてしまうのです。

(僕がサッカー部なんて作ったせいで、みんなのオチンチンまで写真に撮られちゃったんだ。きっとみんな、僕を恨んでるんだろうな。僕がみんなを守ろうなんて、思わなければ良かったのに…)

自分がイジメられるだけならまだしも、一年生達までオチンチンの写真を公開されてしまうイジメに巻き込んでしまったことは、自分が受けるイジメ以上に、とても辛いことでした。

本当はみんなに謝りたいけど、恨まれたり軽蔑されたりしているかもしれないと思うと、恐くて会いに行くことも出来ません。むしろ、学年が違うおかげで一年生達と顔を合わせることがなくて、幸いだったのかもしれません。

廊下でうっかり一年生の女子とすれ違うだけで、必ずクスクスと笑われてしまう竜太君は、今や一年生よりも低い立場の中で、常にコソコソ隠れて行動しているのです。

二年生の女子にイジメられるのは避けようがありませんが、三年生はみんな若尾さんのように恐い人に見えてくるから会いたくありませんし、一年生にヒソヒソと馬鹿にされるのも悲しいので、やっぱり会いたくありません。

放課後も、いつも竜太君は逃げるようにして、誰よりも早く下校していました。自分と同じように帰宅部になっている、一年生の美少年達とは一緒になりたくなくて、校舎の入口から校門を出るまでは、常に走っていたのです。


それからしばらく経ったある日、竜太君は掃除当番の日だったのですが、何故か教室を一人で掃除していました。

他の当番の女子が、掃除を竜太君に押しつけて帰ってしまったので、竜太君が仕方なく一人でやっていたのですが、掃除のせいで時間が遅れることで、かえって一年生達と下校が一緒にならなくても済むと思えば、一人での掃除はそれほど苦になりませんでした。

なるべく時間を遅らせて掃除を終えると、竜太君は下駄箱に向かいます。もう一年生達もみんな帰っているだろうと思ってゆっくりと歩き、靴を履くと、入口から出ていこうとします。

「竜太君」

その時、竜太君は突然後ろから自分の名前を呼ばれて、驚きながら後ろを振り返ると、そこには一年生の美少年達が全員揃っていたので、さらに驚きました。

10人の一年生達は、どうやらみんなで竜太君を待っていたようです。どうして自分を待っていたのか、その理由が分からなくて竜太君は不安になります。

竜太君を恨んでいるかのような表情ではありませんが、みんなを酷い目に遭わせてしまった自分が、嫌われていてもおかしくないと思っている竜太君は、まだ不安な気持ちを拭うことが出来ません。

不安げな表情を隠せず、すっかり弱気になっている竜太君ですが、一年生達は竜太君の前で横一列に並ぶと、「せーの」の合図で、一斉に竜太君へ頭を下げたのです。

『竜太君、この前は僕達のせいで試合に負けてしまって、ご免なさい』

きっと一年生達は、この時のために全員で謝る打ち合わせをしていたのでしょう。全員が声を揃えて、竜太君に心からの謝罪の言葉を贈っています。

予想外の出来事に、竜太君はどう反応していいか分からず、戸惑っているばかりでした。それでも一年生達は自分達の気持ちを伝えようと、一生懸命みんなで声を出します。

『でも、みんなで一緒にサッカーをやって、とても楽しかったです。これからも、竜太君と一緒に遊びたいです』

その必死な声に嘘はありません。一年生達は、竜太君を恨んでなんかいませんでした。それどころか、また竜太君と一緒に遊びたいと言ってくれたのです。

本当なら、とても嬉しいことでした。でも、今の竜太君の弱気な心は、それをすぐに受け入れることが出来ないのです。

「…でも、僕といると、みんなもイジメられちゃうかもしれないし、僕なんかじゃ、みんなの役には立たないから…」

一年先輩なのに、格好悪い自分。先輩なのに、みんなを守る力が無い自分。先輩なのに、泣き虫な自分。先輩なのに、誰よりもイジメられている自分。すっかり自信を失った竜太君は、みんなと以前のように楽しく遊べるとは思えなかったのです。

それでも、一年生達は諦めませんでした。竜太君がこのまま一人ぼっちになってしまうなんて、とても辛いからです。竜太君が一年生達を守れなくて辛かったように、一年生達も、自分を必死に守ってくれた竜太君が酷い目に遭うのがとても辛かったのですから。

『入学して不安だった僕達は、竜太君に助けてもらえて、とても嬉しかったです。たった一人で僕達を守ってくれた竜太君を、僕達はとても格好良いと思いました』

美少年は、誰もがみんな弱くて泣き虫で、イジメられっ子な格好悪い存在なのです。それなのに、弱くても、泣き虫でも、必死にみんなを守ろうとした竜太君は、一年生達にとって、とても格好良かったのです。

自分の弱さを知りながら、友達を守りたくて強くなろうとする美少年は大勢います。でも、相手が本気になったら女子にも勝てないのが、美少年の強さの現実です。

だからといって、その美少年を格好悪いと思う美少年はいません。自分を守ろうとしてくれる、その気持ちが嬉しいのですから。だからこそ一年生達は竜太君を慕い、そして、自信を失った竜太君の支えになりたかったのです。

『僕達は、竜太君のことが大好きです!』

竜太君は、目に涙を浮かべながら一年生達に、何度も「有難う」と言いました。一年生達も、それを聞いてみんな笑顔になります。

みんなが弱い存在だから、美少年達は誰もがみんなで支え合っていこうという気持ちが、自然と生まれてくるのです。そこには先輩も後輩もありません。みんながみんな、同じ『美少年の友達』だったのです。

どんなにイジメられても、どんなに恥ずかしい目にあっても、美少年は友達さえ側にいてくれれば、それだけで幸せを感じることが出来ました。きっと竜太君達も、これからの学校生活を頑張っていけるに違いありません。
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