- 2011⁄04⁄11(Mon)
- 23:45
小太郎 グラグラカカ
昔々、あるところにお爺さんとお婆さんがいました。お爺さんは山へシメジ狩りに、お婆さんは
川でサクラマスを獲っていました。
お婆さんがマスを2匹捕まえ、さて河原に上がるとどうでしょう、上流の方から大きな西瓜が、どん
ぶらこ、どんぶらこと流れてくるではありませんか。
「あんれま、こりゃ西瓜だべ」
お婆さんはスイカを大玉のように転がし、家へと持ち帰りました。
「こりゃ、西瓜だ」
「違いねえ」
二人はそれを台所まで運びました。
「デザートだ」
「んだ」
お爺さんは西瓜がまな板に乗りそうもないので、床の上で切ることにします。お婆さんは西瓜が
転がらないように横で押さえていました。
「あんれま」
お爺さんは包丁を3寸ばかり入れたところで言いました。
「どしただ?」
「んにゃ、なんだって、こりゃ中がスカスカだ」
お爺さんは包丁を抜き取り、お婆さんに覗いて見るように言います。お婆さんは疑った顔でその
隙間に顔を近づけました。
「お爺さんや、お爺さん! こりゃおったまげた! なんかいますだ!」
今度はお爺さんが覗き込みます。
「あんれ、こりゃ女の子じゃ」
二人はその女の子を傷つけないよう慎重に、皮を外していきました。するとどうでしょう、中か
ら裸の小さな子供が出てきたのです。歳は十歳前後といったところでありましょうか。子供は西瓜
の皮にもたれて、すやすやと眠っていました。
「お爺さんや、お爺さん。ここのところを見て下せえだ。こりゃ、男の子だば」
「あんれま、本当だず。こりゃ、まあ、ずいぶんと小さなおちんちんじゃのう」
お爺さんとお婆さんは男の子を布団へと運びました。
お爺さんとお婆さんはその男の子を「小太郎」と名付けました。おちんちんが小さかったので
小太郎です。
小太郎が来て1年が過ぎようとしていた春のころです。小太郎は改まった様子でお爺さんとお
婆さんに話しました。
「隣村の子供もいなくなりました。今年に入って三件目です。ボクは――ボクはどうしても、山
の魔女が許せません。だから、みんなを助けに行かなければならないのです」
「そうは言ってもじゃ、小太郎や。おまえはまだ小さいだ。それに、おめえ、ここに来て一年、
一寸たりとも成長してねえだか。そんなんで行っても魔女に捕まっておしめえだべ」
しかし、お爺さんとお婆さんの説得も、正義感の強い小太郎を止めることはできません。二人
とも已む無く承諾したのでした。
翌日の日出頃、小太郎はお婆さんが新調した褌と羽織を着て、戸口の前に立ちました。
「気を付けるんだよ、小太郎さ」
お婆さんはそう言うと今にも泣き崩れそうです。
「小太郎や、これを持ってお行き。いざとなったら食べてみるがよいだ」
小太郎はお爺さんからわらび餅をもらうと、お礼を言い、それを腰にしまいました。
「行ってまいります」
小太郎が銀杏並木を歩いていると、チャボが寄って来ました。
「おちびさん。どちらへお出かけ?」
「魔女の山さ。捕まった子供たちを助けるんだ」
「そりゃまあ、やめた方がいいかもよ」
「どうしてだい?」
「君は男の子だろう? 一応? あそこの魔女は可愛い男の子に眼がないのさ。捕まったら最後、
何をさせられるやら。クックッ」
チャボはそう言うと、小太郎の腰に付けたわらび餅に気が付きます。
「で、でもね。私が付いていれば大丈夫かもよ」
「どうしてだい?」
「チャボだからさ。クックッ。そのわらび餅を少し分けてくれたら、仲間になってもいいんだ
けどね」
小太郎はどうしてチャボが一緒だと大丈夫なのかがわかりません。でも、独りで行くのも少
し心細かったので、わらじ餅を分けてあげました。
「クックッ。さあ、これで私も仲間だね」
小太郎とチャボは魔女の館へと続く山路を歩いていました。柏の木がトンネルを作るように大空を隠し、足元
は暗くてよく見えません。
「わっ」
小太郎は何かに足を取られ、躓きました。
「どうしたね?」
「何かが足に――」
小太郎の足に引っ掛かった物を、チャボが口ばしで摘まみ上げます。
「これは褌だね」
二人が眼を凝らし山路を見ると、あっちにも、こっちにも、至る所に褌が落ちているではありませんか。一つ
は枯れ葉に半分埋もれて、もう一つは木の根に絡まっています。枝から短冊のように垂れているものもありまし
た。
「どうしてこんなに褌が――」
「こりゃ、魔女の仕業さ。捕まった男の子達はここで裸にされたのかもしれないね」
チャボがそう言うと、小太郎は不思議そうな顔をします。というのも、なぜ魔女は子供たちを裸にしたのかが
分からなかったからです。
「君も褌には気をつけた方がいいね」
二人が魔女の館に着いた頃、陽の大部分は山の隙間に呑みこまれていました。辺り一帯、草木が刈り取られ、
その中心に草の蔓(つる)で覆われた西洋風の建物がひっそりと鎮座しています。
二人が建物に近づくにつれ、ポーチの吊り椅子に誰かが腰掛けているのが見えてきました。どうやら子供の
ようですが、後ろ姿でよく分かりません。小太郎は勇気を振り絞り、声をかけました。
「あ、あの――」
その子は眠っていたようで、小太郎の声に気がつき体を起こします。
「え?」
「あの――」
「あら、あなたはどなた?」
振り向いた子供は小太郎とそれほど年差のない、小さな女の子でした。
女の子は肩ほどまでの黒い髪に、直青(ひたあお)の大きな眼をしています。まだ夢でも見ているよ
うに小太郎を眺め、言いました。
「あなた、何か御用かしら?」
小太郎はその女の子のあまりの美しさに、ひと時言葉を失ってしまったのです。すると、チャボが小
太郎の白妙(しろたえ)の裾を突きました。「しっかりしろ」とでも言いたいようです。
「あ、ええと、その――」
小太郎がどぎまぎしていると、女の子は大きな眼で小太郎を観察するように眺め、言いました。
「あなた、男の子?」
「え、あ、はい」
「あら、やだわ。私、最初は女の子かと思ったの。でもその格好だから――」
小太郎は少し侮辱された気持ちになって、むすっと女の子を見返します。
「ぼ、僕は――僕はこの屋敷に魔女がいると聞いて来たのです」
女の子は首を傾げ、何か可笑しなものを見るように小太郎を見つめました。その仕草がこれまたあ
まりに可憐で、小太郎は再び顔を背けてしまうのでした。
「それで、魔女にあって何をしたいのかしら?」
「そ、それは――もちろん、魔女をやっつけて、捕まった子供たちを助けるのです」
女の子は椅子からピョンと立ち上がり、それからポーチの階段に腰掛けます。女の子は小太郎が見
たことのない、鮮やかな桃色の服を着ています。
「そう。じゃあ、子供たちは解放してあげるわ」
小太郎はそのさらりと女の子の口から出た台詞の意味が、しばらくの間呑みこめずにいました。と
いうのも、まさかこの女の子が子供たちを捕まえていたなんて、思いも寄らなかったからです。小太
郎は一瞬チャボと眼を合わせ、それから小さく口を開きます。
「そ、それじゃあ――君が――」
「そうよ。私があなたの言う魔女よ」
女の子はあどけない笑みを口元に浮かべ、言いました。
「私、あなたが気に入ちゃったのよ。その女の子のようなお下げ髪、くりくりっとしたお目目。手も
足も、体のすべてのパーツが小さくキュってまとまって。子供のくせに幼児体型っていうのがたまら
ないわ」
小さな魔女は言いました。
「は、はあ――」
小太郎はどうやら誉められているということは分かりましたが、理由が理由、手放しには喜べませ
ん。チャボは我関せずといった様子で白爪草を突いています。食事の時間です。
「そ、それで――子供達は」
「だから解放してあげるわよ。ただし、私の言う条件を受け入れるのならね」
「条件ですか」
「そう、条件。いいでしょ、それで結果的には魔女を倒したときと同じだわ。それにこんなに可愛い
女の子を傷つけたくはないでしょ?」
女の子は立ち上がると階段をひとつ、またひとつ、両足をそろえて飛び降りました。その度に桃色
のワンピースが風に揺れます。庭に降り立つと大きな一歩を進めて小太郎と向かい合いました。
「ねぇ」
小太郎と並ぶと、女の子の眼線がほとんど水平にぶつかります。女の子もとっても小さな身体つき
をしていました。顔を近づけると、小太郎はたまらず下を向いてしまいます。
「ほ、本当ですね――本当に」
「本当よ。魔女は嘘をつかないわ」
「わかりました。それで――それで一体その条件というのは何なのです?」
小太郎は捕まっている子供たちのため、覚悟を決めて言いました。すると、女の子は小太郎の右の
頬、ちょうど小さな泣きぼくろがふたつあるところからそっと指先を滑らせます。
「な、なんです」
小太郎の顔はみるみるうちに赤みを帯びていきます。
「あなた、お年はおいくつ?」
「と、年ですか」
「そう。年よ」
「それが――よくわからないのです」
「よくわからないって、自分の年よ」
「そうなのですが――で、でも、干支を三分の二ほどは過ぎると思います。御婆さまが僕の体格から
してそのように――」
そう言って、小太郎は再び顔を伏せました。自分で自身の小柄を認めてしまったことに、なんとも
言えぬ情けなさを感じたのです。内心、自分ではもう少し年長なのだと考えていました。
「まあ、いいわ。見ればだいたいわかるもの」
女の子はそう言うと、いそいそポーチの階段を上り始めました。
「ほら、早く。ついてきなさい」
「あの――何を見ればわかるのでしょうか」
小太郎は不安げに女の子の後に続き、階段を上がりながら言います。しかしその問いに対し、女の
子はちらりと振り向き、ふふっと意味深長な笑みを口元に浮かべるだけでした。
屋敷の広間は外観ほど異国を思わせるようなものではありませんでした。何処かアメリカ西部の酒
屋を匂わせ、肌木造りの階段の先には、宿のような個室の扉が五つ、六つと並んでいます。
「ちょっと、あの一番右端の部屋で待っていてくれる? 準備があるの」
「準備ですか」
小太郎が小さく肯き階段の手すりを掴むと、玄関の方からバサバサ、と大きな書物を落としたよう
な羽音が鳴りました。
「チャボさん!」
チャボはポーチの階段を上るのに苦心して、やっとのことで家内に辿りついたのです。
「あら、この鶏はあなたのお友達?」
個室の中は八畳ほどの広さで、ちょうど真ん中に大きなベッドが一つ置かれているだけという、
とても閑散とした様子でした。しかし、その真上にはあまりに不釣り合いの大きなシャンデリア
が吊るされています。どうやってこの部屋に持ってきたのか、小太郎は不思議でなりません。
チャボは女の子に「鶏」呼わりされたことに、一時は憤然とし、あわや飛びかかろうというと
ころでしたが、女の子の差し出すチョコレートに心奪われ、ただの追従者。のこのこと短い羽を
広げながら女の子の後について行ったのでした。
小太郎はベッドの端にちょこんと腰を下ろし、シャンデリアを見上げます。
「みんなが助けられるといいんだけど――」
どれほどの時間がたったでしょう、東に面した窓の外は漆黒に包まれていました。その時です。
突如、部屋がまばゆい光に包まれます。
「まぶし――」
天井のシャンデリアが灯されたのでした。どんなものも透かして見えてしまいそうなほどの明
るさです。
「おまたせ」
女の子はバスケットを片手に持って部屋に入ってきました。
「さてと。そろそろ始めましょうか」
「始めるって何を――」
小太郎は立ち上がり、ベッドの縁に沿って後退し、女の子から少し距離をとると、
「決まってるじゃない。まずは服を脱いで」
「え?」
「え、じゃなくて。早くその袴を脱いじゃって」
小太郎はその唐突な、予想もしなかった、不思議な展開に呆然です。
「脱ぐ?」
「そうよ。脱ぐの」
「条件に従わない限り、子供達は助からないわよ。だから早く脱ぎなさい」
女の子はそう言いながら扉の鍵を閉め、再び向き直ります。
「そ、それが条件ですか――」
小太郎は不安げに眉に薄らと皺を寄せ、言いました。
「違うわよ。そんな簡単な条件ですむなら、物語が終わっちゃうわ」
「そ、それじゃあ、それ以外にも何か――」
「いいから、早く脱ぎなさい」
女の子は切り捨てるように言います。小太郎は女の子の冷たい口調に、初めて彼女が魔女で
あることを実感したのでした。かたかたと小さく震える手を腰の帯びに伸ばします。
「本当に――本当に」
女の子はちらちら小太郎の様子を窺いながら、何やらバスケットの中をごそごそと漁り、腰
丈ほどの三脚と小さな箱を取り出しました。
「本当よ。みんな助かるんだから。頑張って」
それを聞き小太郎も僅かな勇気を振り絞ります。帯を外すと白い羽織の隙間から、これまた
白い小太郎のおへそが覗かせました。
「そ、その道具は何です――」
「あら、真っ白なお腹ね」
女の子は小太郎の質問を隙間風のごとく流し、着々とその三脚の頭に小さな箱を固定してい
きます。
「早くそれもとっぱらっちゃいなさい」
そう催促され、小太郎はしぶしぶ羽織を投げ捨てます。恥ずかしそうに片肘に手を添え俯い
ています。
「ほら、手は横。そうそう。あらま、可愛い乳首ね」
「も、もう――」
「いいから、ほら、次は袴よ」
川でサクラマスを獲っていました。
お婆さんがマスを2匹捕まえ、さて河原に上がるとどうでしょう、上流の方から大きな西瓜が、どん
ぶらこ、どんぶらこと流れてくるではありませんか。
「あんれま、こりゃ西瓜だべ」
お婆さんはスイカを大玉のように転がし、家へと持ち帰りました。
「こりゃ、西瓜だ」
「違いねえ」
二人はそれを台所まで運びました。
「デザートだ」
「んだ」
お爺さんは西瓜がまな板に乗りそうもないので、床の上で切ることにします。お婆さんは西瓜が
転がらないように横で押さえていました。
「あんれま」
お爺さんは包丁を3寸ばかり入れたところで言いました。
「どしただ?」
「んにゃ、なんだって、こりゃ中がスカスカだ」
お爺さんは包丁を抜き取り、お婆さんに覗いて見るように言います。お婆さんは疑った顔でその
隙間に顔を近づけました。
「お爺さんや、お爺さん! こりゃおったまげた! なんかいますだ!」
今度はお爺さんが覗き込みます。
「あんれ、こりゃ女の子じゃ」
二人はその女の子を傷つけないよう慎重に、皮を外していきました。するとどうでしょう、中か
ら裸の小さな子供が出てきたのです。歳は十歳前後といったところでありましょうか。子供は西瓜
の皮にもたれて、すやすやと眠っていました。
「お爺さんや、お爺さん。ここのところを見て下せえだ。こりゃ、男の子だば」
「あんれま、本当だず。こりゃ、まあ、ずいぶんと小さなおちんちんじゃのう」
お爺さんとお婆さんは男の子を布団へと運びました。
お爺さんとお婆さんはその男の子を「小太郎」と名付けました。おちんちんが小さかったので
小太郎です。
小太郎が来て1年が過ぎようとしていた春のころです。小太郎は改まった様子でお爺さんとお
婆さんに話しました。
「隣村の子供もいなくなりました。今年に入って三件目です。ボクは――ボクはどうしても、山
の魔女が許せません。だから、みんなを助けに行かなければならないのです」
「そうは言ってもじゃ、小太郎や。おまえはまだ小さいだ。それに、おめえ、ここに来て一年、
一寸たりとも成長してねえだか。そんなんで行っても魔女に捕まっておしめえだべ」
しかし、お爺さんとお婆さんの説得も、正義感の強い小太郎を止めることはできません。二人
とも已む無く承諾したのでした。
翌日の日出頃、小太郎はお婆さんが新調した褌と羽織を着て、戸口の前に立ちました。
「気を付けるんだよ、小太郎さ」
お婆さんはそう言うと今にも泣き崩れそうです。
「小太郎や、これを持ってお行き。いざとなったら食べてみるがよいだ」
小太郎はお爺さんからわらび餅をもらうと、お礼を言い、それを腰にしまいました。
「行ってまいります」
小太郎が銀杏並木を歩いていると、チャボが寄って来ました。
「おちびさん。どちらへお出かけ?」
「魔女の山さ。捕まった子供たちを助けるんだ」
「そりゃまあ、やめた方がいいかもよ」
「どうしてだい?」
「君は男の子だろう? 一応? あそこの魔女は可愛い男の子に眼がないのさ。捕まったら最後、
何をさせられるやら。クックッ」
チャボはそう言うと、小太郎の腰に付けたわらび餅に気が付きます。
「で、でもね。私が付いていれば大丈夫かもよ」
「どうしてだい?」
「チャボだからさ。クックッ。そのわらび餅を少し分けてくれたら、仲間になってもいいんだ
けどね」
小太郎はどうしてチャボが一緒だと大丈夫なのかがわかりません。でも、独りで行くのも少
し心細かったので、わらじ餅を分けてあげました。
「クックッ。さあ、これで私も仲間だね」
小太郎とチャボは魔女の館へと続く山路を歩いていました。柏の木がトンネルを作るように大空を隠し、足元
は暗くてよく見えません。
「わっ」
小太郎は何かに足を取られ、躓きました。
「どうしたね?」
「何かが足に――」
小太郎の足に引っ掛かった物を、チャボが口ばしで摘まみ上げます。
「これは褌だね」
二人が眼を凝らし山路を見ると、あっちにも、こっちにも、至る所に褌が落ちているではありませんか。一つ
は枯れ葉に半分埋もれて、もう一つは木の根に絡まっています。枝から短冊のように垂れているものもありまし
た。
「どうしてこんなに褌が――」
「こりゃ、魔女の仕業さ。捕まった男の子達はここで裸にされたのかもしれないね」
チャボがそう言うと、小太郎は不思議そうな顔をします。というのも、なぜ魔女は子供たちを裸にしたのかが
分からなかったからです。
「君も褌には気をつけた方がいいね」
二人が魔女の館に着いた頃、陽の大部分は山の隙間に呑みこまれていました。辺り一帯、草木が刈り取られ、
その中心に草の蔓(つる)で覆われた西洋風の建物がひっそりと鎮座しています。
二人が建物に近づくにつれ、ポーチの吊り椅子に誰かが腰掛けているのが見えてきました。どうやら子供の
ようですが、後ろ姿でよく分かりません。小太郎は勇気を振り絞り、声をかけました。
「あ、あの――」
その子は眠っていたようで、小太郎の声に気がつき体を起こします。
「え?」
「あの――」
「あら、あなたはどなた?」
振り向いた子供は小太郎とそれほど年差のない、小さな女の子でした。
女の子は肩ほどまでの黒い髪に、直青(ひたあお)の大きな眼をしています。まだ夢でも見ているよ
うに小太郎を眺め、言いました。
「あなた、何か御用かしら?」
小太郎はその女の子のあまりの美しさに、ひと時言葉を失ってしまったのです。すると、チャボが小
太郎の白妙(しろたえ)の裾を突きました。「しっかりしろ」とでも言いたいようです。
「あ、ええと、その――」
小太郎がどぎまぎしていると、女の子は大きな眼で小太郎を観察するように眺め、言いました。
「あなた、男の子?」
「え、あ、はい」
「あら、やだわ。私、最初は女の子かと思ったの。でもその格好だから――」
小太郎は少し侮辱された気持ちになって、むすっと女の子を見返します。
「ぼ、僕は――僕はこの屋敷に魔女がいると聞いて来たのです」
女の子は首を傾げ、何か可笑しなものを見るように小太郎を見つめました。その仕草がこれまたあ
まりに可憐で、小太郎は再び顔を背けてしまうのでした。
「それで、魔女にあって何をしたいのかしら?」
「そ、それは――もちろん、魔女をやっつけて、捕まった子供たちを助けるのです」
女の子は椅子からピョンと立ち上がり、それからポーチの階段に腰掛けます。女の子は小太郎が見
たことのない、鮮やかな桃色の服を着ています。
「そう。じゃあ、子供たちは解放してあげるわ」
小太郎はそのさらりと女の子の口から出た台詞の意味が、しばらくの間呑みこめずにいました。と
いうのも、まさかこの女の子が子供たちを捕まえていたなんて、思いも寄らなかったからです。小太
郎は一瞬チャボと眼を合わせ、それから小さく口を開きます。
「そ、それじゃあ――君が――」
「そうよ。私があなたの言う魔女よ」
女の子はあどけない笑みを口元に浮かべ、言いました。
「私、あなたが気に入ちゃったのよ。その女の子のようなお下げ髪、くりくりっとしたお目目。手も
足も、体のすべてのパーツが小さくキュってまとまって。子供のくせに幼児体型っていうのがたまら
ないわ」
小さな魔女は言いました。
「は、はあ――」
小太郎はどうやら誉められているということは分かりましたが、理由が理由、手放しには喜べませ
ん。チャボは我関せずといった様子で白爪草を突いています。食事の時間です。
「そ、それで――子供達は」
「だから解放してあげるわよ。ただし、私の言う条件を受け入れるのならね」
「条件ですか」
「そう、条件。いいでしょ、それで結果的には魔女を倒したときと同じだわ。それにこんなに可愛い
女の子を傷つけたくはないでしょ?」
女の子は立ち上がると階段をひとつ、またひとつ、両足をそろえて飛び降りました。その度に桃色
のワンピースが風に揺れます。庭に降り立つと大きな一歩を進めて小太郎と向かい合いました。
「ねぇ」
小太郎と並ぶと、女の子の眼線がほとんど水平にぶつかります。女の子もとっても小さな身体つき
をしていました。顔を近づけると、小太郎はたまらず下を向いてしまいます。
「ほ、本当ですね――本当に」
「本当よ。魔女は嘘をつかないわ」
「わかりました。それで――それで一体その条件というのは何なのです?」
小太郎は捕まっている子供たちのため、覚悟を決めて言いました。すると、女の子は小太郎の右の
頬、ちょうど小さな泣きぼくろがふたつあるところからそっと指先を滑らせます。
「な、なんです」
小太郎の顔はみるみるうちに赤みを帯びていきます。
「あなた、お年はおいくつ?」
「と、年ですか」
「そう。年よ」
「それが――よくわからないのです」
「よくわからないって、自分の年よ」
「そうなのですが――で、でも、干支を三分の二ほどは過ぎると思います。御婆さまが僕の体格から
してそのように――」
そう言って、小太郎は再び顔を伏せました。自分で自身の小柄を認めてしまったことに、なんとも
言えぬ情けなさを感じたのです。内心、自分ではもう少し年長なのだと考えていました。
「まあ、いいわ。見ればだいたいわかるもの」
女の子はそう言うと、いそいそポーチの階段を上り始めました。
「ほら、早く。ついてきなさい」
「あの――何を見ればわかるのでしょうか」
小太郎は不安げに女の子の後に続き、階段を上がりながら言います。しかしその問いに対し、女の
子はちらりと振り向き、ふふっと意味深長な笑みを口元に浮かべるだけでした。
屋敷の広間は外観ほど異国を思わせるようなものではありませんでした。何処かアメリカ西部の酒
屋を匂わせ、肌木造りの階段の先には、宿のような個室の扉が五つ、六つと並んでいます。
「ちょっと、あの一番右端の部屋で待っていてくれる? 準備があるの」
「準備ですか」
小太郎が小さく肯き階段の手すりを掴むと、玄関の方からバサバサ、と大きな書物を落としたよう
な羽音が鳴りました。
「チャボさん!」
チャボはポーチの階段を上るのに苦心して、やっとのことで家内に辿りついたのです。
「あら、この鶏はあなたのお友達?」
個室の中は八畳ほどの広さで、ちょうど真ん中に大きなベッドが一つ置かれているだけという、
とても閑散とした様子でした。しかし、その真上にはあまりに不釣り合いの大きなシャンデリア
が吊るされています。どうやってこの部屋に持ってきたのか、小太郎は不思議でなりません。
チャボは女の子に「鶏」呼わりされたことに、一時は憤然とし、あわや飛びかかろうというと
ころでしたが、女の子の差し出すチョコレートに心奪われ、ただの追従者。のこのこと短い羽を
広げながら女の子の後について行ったのでした。
小太郎はベッドの端にちょこんと腰を下ろし、シャンデリアを見上げます。
「みんなが助けられるといいんだけど――」
どれほどの時間がたったでしょう、東に面した窓の外は漆黒に包まれていました。その時です。
突如、部屋がまばゆい光に包まれます。
「まぶし――」
天井のシャンデリアが灯されたのでした。どんなものも透かして見えてしまいそうなほどの明
るさです。
「おまたせ」
女の子はバスケットを片手に持って部屋に入ってきました。
「さてと。そろそろ始めましょうか」
「始めるって何を――」
小太郎は立ち上がり、ベッドの縁に沿って後退し、女の子から少し距離をとると、
「決まってるじゃない。まずは服を脱いで」
「え?」
「え、じゃなくて。早くその袴を脱いじゃって」
小太郎はその唐突な、予想もしなかった、不思議な展開に呆然です。
「脱ぐ?」
「そうよ。脱ぐの」
「条件に従わない限り、子供達は助からないわよ。だから早く脱ぎなさい」
女の子はそう言いながら扉の鍵を閉め、再び向き直ります。
「そ、それが条件ですか――」
小太郎は不安げに眉に薄らと皺を寄せ、言いました。
「違うわよ。そんな簡単な条件ですむなら、物語が終わっちゃうわ」
「そ、それじゃあ、それ以外にも何か――」
「いいから、早く脱ぎなさい」
女の子は切り捨てるように言います。小太郎は女の子の冷たい口調に、初めて彼女が魔女で
あることを実感したのでした。かたかたと小さく震える手を腰の帯びに伸ばします。
「本当に――本当に」
女の子はちらちら小太郎の様子を窺いながら、何やらバスケットの中をごそごそと漁り、腰
丈ほどの三脚と小さな箱を取り出しました。
「本当よ。みんな助かるんだから。頑張って」
それを聞き小太郎も僅かな勇気を振り絞ります。帯を外すと白い羽織の隙間から、これまた
白い小太郎のおへそが覗かせました。
「そ、その道具は何です――」
「あら、真っ白なお腹ね」
女の子は小太郎の質問を隙間風のごとく流し、着々とその三脚の頭に小さな箱を固定してい
きます。
「早くそれもとっぱらっちゃいなさい」
そう催促され、小太郎はしぶしぶ羽織を投げ捨てます。恥ずかしそうに片肘に手を添え俯い
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