2ntブログ
  • 2014⁄01⁄11(Sat)
  • 12:44

我は海の子

(粗筋・キャッチなど)
舞台は、名の知れた中高一貫校の臨海学校。運動はさして得意でないながら、親に押し付けられ、助手見習いとして参加した中学生Yと、一つ年上の高校体育会少年Iが、臨海学校での協働の内、同性ながらも、互いに恋心を抱く様になる。5日余りの合宿の二日目にして、熱い抱擁を交わすにいたる。寮棟がお互い違っていても、折々密会を重ねた。 中日過ぎには、もはや彼らのお互いを求め合う激情は、途方も無いものとなっていた。しかし、思わぬ厄がやってくる・・・。
第一章 「夏の匂い」
今年の夏は妙に、暑さが厳しいようだ。夏季用の制服を着ていても心底熱い。俺自身は、体育会系などとは正反対の文化系人間で、そんな暑がりでもないはずなのにだ。
そんな炎天下の元、教室の窓際の席にこうして座っていると、眼下に激しく体を動かしてサッカーをしている同級生達がある。サッカー部の連中などは、サッカーのシャツなどを着こなし、爽やかだ。制服姿で、今時風にシャツの裾を出しているものも、どこか清々しいものがある。
彼らを見つめる俺の目には、彼らに対する淡い性欲がはらまれていた。 どうしてそうなったのかは説明がつかないのだが、何かいかにも体育会系という思春期ぐらいの男に、俺は性欲をはらんだ憧れを感じてしまうのだ。
今中学3年の6月にある俺は、純文化系とはいえども、せんずりに溺れている訳だが、その折々に、インターネットをフルに活用している。で、「オカズ」にするのは、大概スポーツ画像掲示板(無論男の)内の物という有様だ。そう、中学生にして、俺は正にゲイになってしまったのである
さて、今六月頃になると、我が校毎夏恒例の臨海学校の生徒申し込みがある。昨年まで中1〜中3までが水泳訓練に自由に参加できたのだが、人手不足からか、今年中3は助手見習いとして、むしろ教える立場に、参加した場合は置かれる。俺の家には、学校が主催する事柄については、内容によらず参加させるというなかなか厳しい親がいる。俺は、今まで2回、この臨海学校に参加させられてきた。
今年も、申し込み用紙が配布された翌日に、担当教師に持って行かされるという有様となった。前にも述べたとおり、俺は運動が全くできないわけではないが、好きな訳でもない。こんな行事も、俺の考え方からすれば参加したくは無かったのである。しかし、我に利あらず、申し込みは完了し、正式に登録されてしまった・・・。
助手見習いとなれば、遊泳中は下級生の横について泳ぎ、いざという時は救助の一端を負わなければならない。そして、適宜指導をもしなければならない。という訳で、我が校の体育教師の監督の下、助手見習い訓練が、七月の半ばに6度も行われた。昼から夕刻まで、慣れぬ激しい運動をしなければならなかった。
ところで、助手見習いとして参加する同級生には、案外真面目な感じで、俺とも親交のある様な奴等(俺は、自分が一番好きなタイプの運動熱中型とは気が合わないでいる。)が多かった。こんな時こそ、浅黒く日焼けし、筋肉質で、格好良い顔立ちで、俺ともよく気が合う人がいればなぁと、どうしても思ってしまうのだった。
さて、俺の学校の水着に当たるのは、臨海学校のある学校にはつきものの、赤いふんどしである。これは、チン毛がはみ出やすい上、ほどけるという事態も起こるから、気恥ずかしい中学生には不評だった。案の定、そういった事態が訓練中起きて、皆の笑いの種となる奴が出た。そういうところで笑い転げてしまうのは、体育系と文化系の共通する所の様だった。
練習が終わってプールから外へ出るたびに、じめっとした嫌な暑さが襲ってきたが、臨海学校当日に近づくにつれ、それは酷くなっていく様だった。そんな中を、頭をほのかに湿らせ、かつプール独特の塩素臭を漂わせて、俺も皆も家路をたどるのだった。
                                                                                                        第二章 「浜の潮風」
さて、終業式が終わった翌日、早くも臨海学校へ出発する日になった。T駅の中央改札に俺達は集合した。そこから急行列車に乗って、S地方の海岸にある、我が校の遊泳施設に行くのである。先に述べたとおり、俺と気が合う奴も多かったので、電車内での会話は弾み、あっという間に最寄りの駅に着いた。そして更にバスに揺られ、ようやっと目的地に着いたのだ。昨年来た時はオンボロに近い寮棟が多かったのだが、改修した様で、小奇麗になっていた。開校式を、俺達も含めて参加生徒全員で行った。校長から、俺達を、「君たちを指導してくれる我が校の先輩たちです。」と紹介され、少々誇らしかった。 ところで、今回助手見習いの更に上に立つ助手として、高1〜の数十人がいた。こちらは一転、浅黒くて身長も高い青年が多く、俺は心躍った。中には、去年中3であって、よくみかけた先輩の姿も見受けられた。そのうちの一人を見て、俺はふと思った。「あ、あの先輩、やに親しげに話しかけてきた人だったなあ。」そういえばそうだった。去年、俺と同じ班で、4泊5日の間の水泳訓練を共にしていた人。俺が休憩時間中に、気の会う奴と歴史系の話をしているとその先輩が、「お前、やに詳しいな。歴史が好きなのか?」と尋ねてきたり、4日目にある長距離泳の前に「お互いがんばろうぜ。」と声をかけてくれたりしていたのだ。当時俺は、今以上に内気で、先輩達とはろくに話したことも無かったためにどもってしまい、満足な対応ができなかったのが悔やまれたものであった。そんなことを思っている内、開校式並びに昼食は終わり、午睡(昼寝)を経て午後の遊泳となり、広場(施設敷地内で、砂地。)集合となった。あらかじめ、俺たちは担当する班を決められていたので、その班ごとの場所に散った。俺の班は、下から2番目の下級班だったので、内心安心した。なぜかといえば、泳ぐのは浜に近めで、大して泳ぎはしないし、また、平泳ぎ等以外には、あまりやらないからだ。 俺達中3の助手見習いの上には、高1〜の助手が一班何人もついた。いやぁ、しかし、立派な肉体に感動せざるを得なかった。皆俺の理想体型通りで、その上に、これまた俺のフェティシズムになっている、競泳用スパッツ水着がのっかっているという、俺にとっては天国絵図の様な光景だった。だが、何よりも驚いたのは、その中に何とも奇遇な事に、例の先輩(以降彼と略称)が居た事である。彼の肉体も、高2以上に負けず劣らず、真っ黒で腹筋の割れた筋肉質だった事は、言うまでも無いかもしれない。
初日の遊泳中は、大学生ぐらいの人たちに、正に「教え方」を教わりながら、下級生の泳ぎを見た。俺始め、中3助手見習いは、なかなか生徒に声をかけられなかった。すると、怖い先輩たちが、「お前ら、何のためにいんだか分かんないだろうが!」と怒鳴りつけて来るので、いつしか皆積極的に、教えた。俺とて、かの助手見習い訓練中にコツは聞いているし、何より体に入っているから、別に差し支えは無かった。それにしても、今年のS地方の海は寒いものだ。入ると足元から、ひんやりした感覚が全身に伝わり歯をがたがた言わせるという状態であった。なので、下級班は1時間30分余りで浜に上がって、帰っていった。程なく他の上級班も上がって来て、帰っていった。しかし、俺達中3は帰れない。水泳訓練には、監視・救助等用の手漕ぎ舟が何艘も使われるので、それらを浜にあげねばならない。船が接岸する度に、俺達始め助手が走っていき、引き上げていくのだった。俺が船に走って来た後、例の先輩もやってきた。そして何と、俺の手の上から、自分の手を重ね合わせて来たのだ。俺は思わず、「へっ?」と声を出してしまい、たじろいたが、何せすぐに船を上げるので、ひとまず気にしないこととした。 片付けの関係から、その後例の先輩と離れたが、寮棟に下がって必要なものを取ってから行った浴場で、また会った。
「おう、今日は着いて早々疲れたんじゃない?」と例にもよって向こうから声をかけてきた。今度こそ、まともな言葉を返そうと思って、「はい、先輩もお疲れ様でした。」と答えた。風呂で体を洗う間に、いろいろ話したことによれば、例の先輩の名は、Iと言うそうだ。その後も、湯につかりながら話した。I先輩:「お前部活やってる?」俺:「あ、はい
、史学部に。」I先輩:「やっぱりな。覚えてるぞ。去年お前それ系の話ししてたもんな。」
俺:「ええ、よくお覚えで。先輩は何部に入っていらっしゃるんですか?」I先輩:「キツいけど野球部さ。でも正直、水泳の方が好きだけどな。ぎゃははは。」俺:「はっはっは。でもさすがに、いい体格していらっしゃいますね。僕なんて貧弱なもんですね。」I先輩:「まあ、そりゃ仕方ない事だな。でもじゃあ、なんでこの遊泳に助手見習いになって来たの?」俺:「いや、親がですね。行け行けとうるさいものですから。」I先輩:「ああなるほど。厳しいんだな、お前の親は。よし、そろそろ上がろうぜ。」I先輩が湯から上がる折、その肉体を俺は下から思わずのぞきこんでしまった。何と、I先輩の股間が丸見えだ。そのチンコは、ズル剥けで黒くなっていて、しかも長い。俺は、激しい興奮で、思わず下半身のほうが勃起してきてしまった。I先輩はそれに期待していたかの様に振り返った。その顔は、ほほえんでいた。
「おいおい、何考えてたんだよ!」俺:「いやいや、ふとした拍子に・・・。」俺は一瞬で顔が蛸のように赤くなってしまった。I先輩:「男だから、いつたっても仕方ねぇな、恥ずかしがんなくていいぜ。」と言い、風呂場を出て行った。俺の足は、おのずとI先輩のあとに続いた。
(二章続き)
脱衣場で着替えて、俺とI先輩は外に出た。夏の日は長いもので、ようやく暮れかけて来ているだけだった。時折海から吹いてくる潮風が、心地よく涼しかった。二人で寮棟のあるほうに向かっていたが、沈黙が続いた。それを俺が破った。「先輩、何でさっき俺の手に先輩の手をずっと重ね合わせたんですが?」I先輩:「・・・いや、それはな・・・・・。あっ、やばい、俺先生に呼び出されてたんだ!悪い、ここでじゃあな。」と、逃げるかのごとくI先輩は行ってしまった。I先輩は、何かおおっぴらに言えない事を考えていたのだと、俺には薄々分かっていた。仕方ないので、俺は一人で中学生寮棟に帰って、ふんどしやらを干すなどした。級友と話したり、皆で夏の宿題を一緒に解いたりして、夕食の頃になった。夕食の席では級友と話が弾んで、I先輩を気にすることは無かった。後片付けの後も、さっさと引き上げてきてしまった。そして、あっという間に寮棟ごとのミーティングをして後寝る時間になり、皆も疲れていたせいか、あっという間に寝た。
第三章 「夜這い」
 夜中、いきなり目を覚ました。周りは寝静まっているが、誰かが俺を揺り動かしたようだ。「おい、Y、起きたか?」ふと外を見ると、上はノースリーブで、下は短パン姿のI先輩が居た。俺:「一体こんな夜中に何事ですか?」I先輩:「いや、俺今日日焼け止め塗らなかったからさぁ、背中が痛くて寝らねぇんだよ。だからちょっと話そうぜ。嫌か?」正直、疲れて眠いのを叩き起こして、話し相手をしろというから憤りを覚えたが、これでも先輩の言うことだから付き合うことにした。サンダルを履いて、外に出た。寮棟は浜辺に近く、通用門を抜ければ海岸だった。敷地内には、電灯がついている上に、寮棟等が密接していて、更に先生たちの見回りもある。なので、その通用門を抜けて、ひとまず浜辺に出ることにした。I先輩:「しまった、門のかぎ閉まってたな。仕方ねぇ、乗り越えるぞ。」俺:「ちょっとそんな。高くて乗り越えられませんよ。」I先輩:「男なら、これぐらい乗り越えられるだろ?」と言い、先輩は門によじ登って、向こう側に飛び降りてしまった。俺もやってみたが、何分体力が無いものだから、もがくばかりだ。I先輩は見かね、「ったく、手を貸せ。」と言い、またよじ登って俺を引き上げてくれた。先輩に今度は手をきつく握られ、心臓がバクバクと音を立てるまでになった。ゲイだから当然かもしれないが、何かそれ以上のものが、俺の心中に漂い始めているらしかった。
 浜辺に出ると、月明かりが田舎なのでやたら明るいものだと感じられた。防潮堤が階段状になっているので、そこに二人で腰を下ろした。 しかし、沈黙がひどく続いた。俺自身からは、何を辛口にしたら良いのか分からなかった。今度口火を切ったのは、I先輩だった。「なあ、人間が自分の手を人の手に重ね合わせる時、普通そいつはその相手にどういう感情を持ってると思う?」 あまりにも率直過ぎた内容の質問だった。答えなどは、決まっている。しかしそれを、俺は恥ずかしくて言えなかった。I先輩:「愛だよ、愛・・・。大概、恋人に対する・・・。」 ここまできて、俺は思わず切り返した。「先輩、今日の船上げの時の事と重ね合わせていらっしゃるんですか?俺は男ですよ、男。そんな男の俺に・・・。」I先輩:「そうだ、そうだよ!俺はお前が好きになっちまったんだよ!!おかしいことか、悪いことか!!!」というなり、俺のことをきつく抱きしめた。本当に突然のことで、その時は驚くだけだった。俺の「中途半端」な体は、先輩の筋肉質の肉体とぴったりくっついて、俺の体には先輩の、やわらかみのない雄々しい肉体の感触が感じられる。こうして抱かれているうち、俺にはある思いが浮かんだ。あちらはどうも本気で、「俺」という存在を心底欲しているようだ。しかし、俺には本気で男を、普通で言えば妻に対するもののように、深く愛することまではさすがにできないし、そこまでするのもおかしな事だ、と。かといって、ここで先輩を拒絶するのも難だ。しかし、「肉体的快楽」をこの性欲盛んな俺は得られるなら得たい。だったら、ひとまず受け入れて、やれるだけ性的な関係を持とう、そう俺は決めた。 「先輩、実は俺、去年から先輩のことが気になっていました。そして今年再会して、いよいよ恋になったんです。俺も先輩のこと、大好きです!」
I先輩:「やったぜ、ありがとよ。」と返してきた。去年、そして今年の夏と見てきた中で、最もうれしそうな先輩の笑顔が月明かりにほのかに照らし出されていた。そして、また一段と強く、俺を抱いてきた。「なあ、キスしてもいいだろ?」と言ってきた。俺が引き受けないわけは無く、受け入れた。俺が目を閉じていると、先輩の暖かく柔らかい唇が、俺の唇にそっと重ね合わせられた。俺にとっての、ファーストキスだった。自慢ではないが、俺だって小さい頃、女の子に頬にキスをされたこと位はある。しかし口にされたのは初めてだった。ふと目をあけると、先輩は目を閉じていた。先輩の顔を近くから見ると、まだそこには高1なだけあって、あどけない感じがあった。しかし、いかにも野球部系といった風の、引き締まって浅黒い顔だった。大体想像がつくかと思う。 やがて先輩はキスをやめ、こう言った。「さて、明日も早いから、そろそろ寝よう。」俺:「えっ、寝る?」I先輩:「お前、文化系なのに結構エロいな。じゃなくて、お互いの寮棟に戻ってって事。」俺:「そうですよね。はっはっは。」I先輩:「しっ!あんまりうるせぇ声出すと先生にばれるぞ!さ、また引き上げてやるから。」と、また先輩の助けを借りて門を超えて寮棟への道を進んだ。そして途中で別れた。声は出すとおっかないので、無言で。 サンダルを脱いで部屋へ戻ると、もう1時30分だった。皆も相変わらず寝静まっていた。俺は布団に入り、いろいろ考えていて2時ぐらいまで起きていたが、やがて深い眠りに落ちていった。
翌朝は、窓から差し込む朝日で目が覚めた。何といっても昨晩は2時まで起きていたから、さすがに眠かった。サンダルを履いて外に出ると、I先輩の姿があった。どうやら昨晩は、着替えずに寝て(日焼けで、寝られたか分からないが。)、今日もそのままらしかった。I先輩:「よっ、昨日は寝られたか?」俺:「はい、一応。」I先輩:「さすがに眠そうだな、よし、飯行こうぜ。」 俺たちの学校で、高校生と中学生が親しいという事は稀だ。なので、すぐ近くに居た俺の同級生は不思議そうだった。恐らく、「何であの内気気味のYが高校の先輩と仲よさそうにしてるんだろ。」とでも思っていたろう。朝食では学年ごとに席が決まっていたので、I先輩とは離れた。しかし離れていても、時折こちらを、ちらりと見ているようだった。微かな笑みを込めて。  さて、今日からは、午前・午後二時間ずつの下級生の水泳訓練の正に監督をする。俺たちは、中学の寮棟(言いそびれていたが、中学と高校は、寮棟が違い、双方が十メートルほど離れている。)でふんどしに水泳帽(水球帽型と言った方がいいかも知れない。)、ゴーグルといういでたちに着替え、例のごとく広場に行った。そこに列を成して並んでいる生徒たちの中の、自分の担当班のところにいくと、I先輩ももちろんいた。昨晩熱く抱き合い、かつキスを交わした後でI先輩の肉体を見ると、どうしても、下半身が激しく反応しかけてしまうのだった。今日の先輩の水着は、紺の競泳用スパッツ水着だった。(結構俺の好み。)俺達中3の助手見習いは、先輩助手達が出席を取っている間、下級生のふんどしをちゃんと締まっているかチェックしていった。しかしなかなか下級生にはふんどしが難しいらしく、俺達だと笑ってしまうようなとんでもない結び方をしている奴も居た。そんなのには、俺達が結びなおしてやった。
班全体で準備体操をして、浜に出る。浜で下級生を泳ぐ隊列に並ばせ、その列の横に、俺たちもつく。ランダムに並ぶが、俺の下級生を挟んで横には、I先輩が来た。泳いでいるとき、俺たちは常に自分の横の生徒を担当し、泳ぎのアドバイスをしたり、列の均整をとらせたりする。 いよいよ、入水する。が、今日は一段と冷たい。気象予報で今年は冷夏だと言っていたが、やはりそのせいだった。年寄りなら心臓発作を起こしそうだと思えるぐらいで、下級生は寒い冷たいと騒ぐから、だまらせるのが大変だったが、注意する俺らも歯をがたつかせた。下級生は、4日目午前中にある遠泳に参加するのが恒例だ。それに備えて、これから今日明日泳ぎ込むのだ。俺たちは、時々横に居る下級生に注意しながら泳いだ。しばしば横のI先輩とめがあったが、その都度ウィンクしてくれた。体力が余り無くて正直寒くてしんどかった俺には、何か励みになっていたような気がする。また、真面目に泳いでいる時の先輩の横顔は、きりっとしていて何とも格好が良いものだった。 2時間みっちり泳いで、浜に上がった。これで午前は終わりで、2時過ぎまでお休み。整理体操をして、寮棟に引き上げた。ふと大便に行きたくなったので、敷地内にある木造のトイレに入った。遊泳施設の敷地は広いから何箇所か便所があるが、このぼろの木造のは人気が無かった。便器に座って、用を足す。足している間個室内を見渡すと、「まんこ!」だとか「ゲリッ」などと他愛のない落書きが目に付いたのだが、ふと床を見ると、妙なしみがあった。なにか液がかかったしみらしかったが、それはしみの付き方からしてザーメンのだった。そう、ここで誰かがせんずりを掻いた証拠だった。 俺は、他人のせんずりの明白な痕跡を見て、途端に勃起した。そして無心にしごいた。実直なところ、体力の要るこの合宿中にせんずりなど掻いては、体が持たなくなるかもしれなかった。けれど、抑止が利かなかった。 やがて、射精の快感がやってくると、俺は便器と便所の扉の微妙な隙間にしゃがみこみ、そのしみの上に射精した。合宿前夜〜今まで溜めていたので、ドピュッドピュッと大量に飛び出た。他人の精液跡に自分のをかけ、その誰とも知れぬ人と結合しているような幻想を抱くことが出来たのである。 射精した後始末はせず放って置いて、直接風呂場に向かい、汗を流した。その後すぐ着替えて、昼食を取った。 そして昼の午睡の時間になった。 先生が見回って、ちゃんと寝ているかチェックしに来るのだが、それをかいくぐって俺はI先輩のもとに行った。向こうも同じ魂胆らしく、途中でばったり出くわした。「ようY、しゃーないから林の方で話してようぜ。」俺とI先輩は、一緒に寮棟とかのある辺りから離れた林の中に進んで行き、座れる様な気の幹のある辺りに身を潜めた。そこで二人して、部活の話をする。I先輩:「なあ、お前も筋肉質な体になりたいだろ?」俺:「はい、もちろんその方がいいとは思っています。」I先輩:「だろう、そうなら来年から高校の水泳部に入れよ。俺も今年の2学期から、水泳部に入るつもりだからさ。」俺:「本当ですか? 先輩と一緒なら、運動部の練習とかでも頑張れそうです!」I先輩:「そっか、そいつぁ良かった。」
その後は、お互い部活動でどんなことをやっているかを話していた。野球を知らない俺に、細かいことを教えてくれた。普段の練習の様子なども。俺は俺で、普段史学はどんな研究をしているとか、俺自身は太平洋戦争あたりに一番興味があるとかそういった事を話した。そうしている内に一時間近くが過ぎ、後30分ほどで広場に集合する時間だった。 するとまた、先輩が俺を抱きかかえて来た。先輩は、上にTシャツ、下はスパッツ水着を着たまま。俺はそのスパッツがふんどしになっただけという格好だった。なのでお互い、下半身の方の変化がくっきり見えた。I先輩:「おい、俺ら勃ってんじゃねぇか。やるか?」俺:「ああ、もうやばい、我慢できない・・・。」と言って、スパッツのはかれている太もも辺りを愛撫し始めた。I先輩は、俺のふんどし胸筋の辺りをさすってきた。御互い、もう止まらないところに入っていた。が、ここで先輩がわざわざ遮った。「やっぱり今やると、午後の2時間と片付けまで持たねぇだろ?我慢しとこーぜ。」俺:「えーっ、やめちゃうんですか?」I先輩:「お前、そこまで体力あるのか?」俺:「あ、いいえ。  さ、寮棟に戻りましょ。」 俺達は立ち上がり、林を抜けてそのまま広場の方に行った。既に何人か人が集まり始めていた。時間が経つに連れて、下級生も集まって来て、また点呼やら何やらをやった。 ひと段落した後、I先輩が声をかけてきた。「おい、今あっちの木造の便所の方行ったんだけどさ。個室入ったら足元にザー汁があってマジビビったよ。」俺:「あの・・・実はそれ俺のなんですけど・・・。」I先輩:「良かったぁ。俺さ、思わず他人の精液だと思ってすくって舐めたんだよ。案外苦味が少なくて良かったぜ。」俺:「いやぁ、俺が最初あの個室入った時、足元に微妙なザーメンのシミがあったんですよ。そこに俺が興奮して射精して・・・。」I先輩:「あ、それな。それはあそこのH先輩がシコったやつらしいぞ。あいつがさっき、せんずりかいちまったぜって言ってたからな。」 そのHという先輩は、どエロいと噂のチビの先輩だった。筋肉は隆々としていたが、もう大学生で、顔つきもいかにも大人だった。俺は正直落胆してしまった。 午後もまた冷たい中泳いだが、その後の片付けが長引いて忙しく、その後の夕食等の時間が詰めてしまい、I先輩とは結局話せなかった。夜は夜で、高校生は会議等が長くあるらしく、会えなかった。 仕方なく俺は、就寝時間に皆と同じく布団に入った。 しかし、興奮して寝られる訳などない。なぜなら、夜に延ばした先輩とのセックスが待ち遠しかったからだ。けれど結局かなりの時間、まちぼうけかと思わされるほどI先輩は来なかった。
第五章 「白きに染まる」
昨晩に同じく、I先輩が俺の所に来てくれた。ただ時刻は、もう夜中の二時半だった。俺は布団を抜け出す。すると、級友の一人が声をかけた。「トイレ行くのか?」俺:「うん。」級友:「電気が真っ暗でめっちゃ怖いぞ。ま、せいぜいがんばりな。」俺:「(便所じゃないんだよなーこれが。)そんなの余裕だって。」と言い、障子を開けて戸口に出、サンダルを履いてI先輩の前に行った。何と、先輩はまた昼間の格好だった。俺:「先輩、何でまたそんな格好で!(いいよいいよ!普通の格好なんかより水着のほうがずっといいや。)」I先輩:「俺らやるんだろ。」俺:「(遂に来た!)もうやりたくて昼間約束してからムラムラしっ放しなんですよ。」I先輩:「お前、スパッツフェチだろ?」俺:「何でそんなことが分かるんですか?」I先輩:「だってお前!ハッハッハ!俺ら助手の中でスパッツ着てるのばっかりじろじろと目の色変えて見てたんだぜ。」俺:「まあいいや。それよりほら・・・。早くしましょうよ。」I先輩が俺の指差した所を見ると、先輩の目の色が変わった。俺のチンコは、ふんどし(ちなみに俺も水泳系のものを着て先輩とやりたかったから、ふんどしを着て寝た。)の中で苦しそうなまでにビンビンになっていて、亀頭が飛び出さんばかりだった。もちろん、我慢汁が出て丸くシミをつくっていた。I先輩:「うっし、どこでやる?」俺:「外とかは絶対嫌ですよ。ムカデとかヤスデとか出るから・・・。」I先輩:「じゃあそうだなぁ。 そうだ!俺らの全体人数が少なくて使ってない寮棟が一つあるな。そこなら、派手にやれるぜ。」と言うなり、有無を言わさず俺の手を引っ張ってそこへ行った。施設内だから鍵が開いていた。それなりの大きさがある寮棟の中で、かなり奥まった、広くて音の漏れにくい部屋の前で先輩は止まった。障子を閉めて、いよいよ俺達のセックスの始まりだ。
先輩と俺で布団を何枚か出してつなげた。その上に立った。I先輩が、俺の頭部から胸筋、腹筋にかけてをなでさすった。だが俺は、いざこうなると先輩に対して愛撫できなかった。すると、「おい、お前も俺のこと撫で回してくれよ。」と言う。俺も、先輩が俺に対してやったのと同じ感じで、先輩の上半身を撫でていた。先輩の体が、筋肉が引き締まって余分な肉が無いという事が、こうするとありありと分かった。先輩の腹筋は、普段はっきり割れて目に見えるあたりは、正に六つにボコボコに割れていて硬かった。胸の筋肉は結構発達していて、将来はもっと厚くなる事受け合いという感じだった。こうして何分も、触っていると、気づかぬうちに俺の手が、うっかり先輩のチンコの所をズルッと撫でた。すると、「ああっ!」と先輩は、可愛らしくも高校1年生相応の声変わりの混ざった声で会館の叫びを上げた。先輩のチンコは、俺どころでは無い固さと太さだった。先輩はまだスパッツを穿いていたが、そのチンコは「早く出してくれ!」と言わんばかりに激しく勃起していたのだった。俺は、I先輩のスパッツを、俺からスパッツが見える範囲で、即ち太もも中部あたりまで下ろした。(もちろん、俺のスパッツフェチにより、スパッツはセックスの大事な要素だったからだ。)先輩は、俺のふんどしをすべてほどいたてたので、俺は素っ裸になった。 これを以って、俺と先輩二人は、斜め上にギンギンにチンコをそり返らせて先端の亀頭から我慢汁をせんせんと滴らせるという体勢になった。既に下に敷いた布団には、我慢汁の垂れたシミが点々とあった。I先輩:「ああ、Y、愛してる!もう、やべぇ、興奮する・・・。チンコ入れたいぜ!」俺:「(えー、チンコを入れる?あれかなり痛いんじゃないかな。勘弁してよ・・・。)えっ、そんな!」I先輩:「もう我慢できねぇ!」先輩はそう叫ぶと、我慢汁をなるたけチンコ全体に塗り(意味無いんではないか?)一気に俺のアナルに打ち込んでしまった。俺:「ぎゃぁぁぁ、ぐぁあ!!」I先輩:「あー。温かいぜ。Y、大丈夫だろうな?」俺:「はい、何とか・・・。」 先輩がなんどか腰を動かしてピストンする内、ようやく俺も楽になってきたのだった。それを窺い知った途端、先輩は一回チンコを抜き、俺と共に布団の上で体位を取った。先輩が俺の股の間、上になった。そして再びチンコを入れ、今度は一気に、激しくピストンを開始した。いつしかアナルへの挿入は、快感になっていた。俺は、弱い腰の力でも、精一杯腰を動かした。また、自分でチンコをしごいた。気持ちよさで御互い、「ああ、あっ、はぁ。」と喘ぎ唸っていた。I先輩:「やばい、俺もうイキそう。」 俺も、だんだん射精する気配になって来た。「俺もです!」先輩も俺も、一段と振りを激しくした。また俺は併せて、しごきのテンポが早くなった。  イクのは、二人同時だった。I先輩・俺:「あーー、出るっっ!!!」先輩は突如チンコを抜き、腹の上に出した。俺も、小便の穴が喉仏あたりに向いた感じで出した。先輩は、5回ぐらい精液が勢いの良い弧を描いた。俺も、合宿前々日からせんずりを掻いていなかったので、驚くぐらい胸にぶちまけてしまった。  「はぁ、はぁ、はぁ・・・。」と暫くは御互い息を抑えるのに気が言っていた。一息ついて、I先輩が発した。「めっちゃたくさん出たじゃん!お前、運動部じゃないのに“下の方”も結構やるな。」俺:「俺にとって、先輩の射精を見たのが他人の射精を見た第一回です。先輩は野球部で鍛えて来ただけに絶倫ですね!」I先輩:「おう。 さて、二発やると明日ばてるから体拭いて引こうぜ。」
俺:「はい、そうしましょう。」I先輩は自分の水着で拭いていた。「その方が興奮するじゃん。」と。俺はといえば、自分のと先輩のとを全て混ぜて飲み込んでしまった。布団は、先輩が元あった押入れの奥に突っ込んだ。  仄かに「栗の花の様な匂い」を漂わせつつ、俺達は相互の寮棟に引き上げていった。汗が、気持ち悪いぐらいだくだくだった。身体は火照りきっていた。これはきっと、俺にある無駄な肉が、かなり燃焼されたな。 盛夏の先輩とのセックスは、「一石二鳥」と呼ぶにふさわしいようだった。 東の空が白み始めている。部屋の時計は、午前4時48分を指していた。「明日果たして持つだろうか。先輩は体力あるから大丈夫だろうにな・・・。」

第六章 「睡眠した方が良かった」

結局、部屋に戻って一時間数十分、身体が興奮していた事からずっと起きていた。そして朝を迎えた。今日は、昨日までとは打って変わって、旭日が輝いていた。 暑くなりそうだった。布団を片付けなければならないが、どうも力が入らなかった。無理も無い、昨日セックスをしてその後一睡もしなかったからである。
 朝食の時間となり、食堂棟に赴いた。席に着くと、高校生のテーブルにI先輩の姿があった。目の先に居る人と、早中学生にして遂に「セックス」をしたかと思うと、ませた気分になった。あちらは矢鱈とテンションが高かった。昨日の疲れなど、無い様だった。昨晩眠ったのだろうか。 否、かのセックスでの消耗体力は、I先輩の持つエネルギー中半分にも満たなかっただろうという事である。さすが、野球青年I先輩! けれどそれに対して、くたくたになって今日の水泳訓練をこなせるかと不安すら抱いている自分自身に、俺は引け目を感じた。
 その日の午前と午後、占めて4時間半に渡って明日の長距離泳の準備と称して延々平泳ぎで泳ぎ込んだ。これに俺の身体が持ったのは、燦然と降り注ぐ陽光が海水を温めていためだろう。午後、明日に備えてと中3は早く午後の練習からあげてもらえた。I先輩達は、高校生〜だけの助手練があるからまだ1、2時間泳ぐと言う話だった。俺が引き上げる時、I先輩達が次の練習に備えて休んでいた。
I先輩:「うらやましいぜ。俺達はこんな時に限って泳ぎこみだよ。ま、自慢じゃないけど体力あるから。ぎゃははは。」
俺:「そうすか。そこまでおっしゃるなら一つ掻いて下さいよ。」
I先輩は近くに友人が居るから、いつもの様な調子で俺に愛欲を示すことは出来ない。けれど、かすかに股間が半勃ちになってきているのが見受けられた。
I先輩:「うっし。よし、T、森の中でこれ(手をせんずりの格好で振って見せた。)やろうぜ。お前は掻いてねーから溜まってんだろ?」
T先輩とは、I先輩と同じ高校の野球部1年で、I先輩よりは肩幅が広くかったが、筋肉がさほど目立たず顔もお坊ちゃん顔だったので、さして俺の好みではなかったのである。
T先輩:「いいぜ。俺もう溜まってたんだけど、なかなかそっちに気が行かなくてさ。」
俺達は、浜辺の防潮堤から立ち上がって、門をくぐって学校の敷地内に入り、更にその中にある昼でも暗い森に入って行った。(実は、第四章辺りで記した俺達が事に及びそうになった森の地は、かなり寮棟に近い方。)
 スパッツを穿いた、日焼けした筋肉質の青年二人のせんずり。 俺が普段見ている、水泳部であったエロネタのインターネットのスレッドにある立ったままのせんずりにあまりにも似ていた。俺達は、3人並んで各々のチンコを出した。I先輩のは、昼見てみるとかなり「使い込まれた」結構黒いものだった。T先輩は、結構せんずりを掻いていそうな浅黒さで、細長かった。俺のはMAXに勃っていたが、意外とT先輩のより太くて長かった。
I先輩:「おい、T、お前よりYの方が立派なの持ってるじゃないか!」
T先輩:「しょーがねーだろうが!おい、とっとと抜くぞ!早いとこ気持ちよくなりてぇ。」
俺達は、無心にチンコをしごいた。俺とI先輩は、T先輩に気づかれないように、お互いがせんずりを掻くところを見ながらせんずりを掻いた。ゲイのお互いにとっては、絶好のおかずだった。
ただT先輩は、そうではないらしかった。T先輩は俺たちより抜いていないから、あっというまに「ああ、亜○、亜○、出るぜぇぇ!!」と言って若々しく大量にぶっ放していた。亜○といえば、有名な水泳選手である。残念ながら、俺とI先輩がせんずりを共にしたのは、ただの思春期の男だったらしい。  
俺達は、隣り合ってせんずりを掻いていた。「ああ、イクぅぅ!」I先輩が射精する。いまや真っ黒の二日焼けした先輩の腹の、下方についている反りあがったチンコから、白い液が昨日射精しておきながら結構出た。俺もそれとほぼ同時に出た。ドピュッと一回出た後、ドロドロと垂れた。 I先輩の方が精力があるのに違いは無い。 俺達は、草原の上に白い精液をそこかしこにぶちまいたのを放ったらかしにしたまま森を出た。
 俺は、森を出たところで寮棟方向へ、先輩達は浜辺に戻っていった。その夜は、友達とトランプやら話やらをしていて、結局I先輩と会う事はしなかった。
 しかしこの夜に、一大騒動になるのだった。私にとっては特に・・・。
第七章 「わだつみにいざなわれ」

ここで予め述べておくと、俺は先輩にあるプレゼントをしていた。と言っても、直接ではなくI先輩が浜辺に置いた、タオルの上に置いて来たまでだが。 俺は、暇な時間を見つけては、これを作っていた。というのは、いにしえは螺鈿とも呼ばれたヤコウガイのとがった部分を削り、穴を開け糸に通して、簡単なネックレスにしたものである。 神秘的な光を出すこの「代物」は、むしろ飾り物に向いている様だった。
 俺は、級友達と過ごして、就寝時間を迎えた。明日はいよいよ長距離泳、皆は早々に眠りについた。俺も、複数回射精している上に、昨晩寝ていなかったから即刻眠りに落ちた。

 俺は、夢を見ていた。周りは一面真っ白、その中に、水着姿の、浅黒い肌をした紛れも無いI先輩が居た。俺とは、50m位離れているだろうか。先輩は、素敵な笑みを浮かべつつ走り始めた。俺は、先輩のことを追っかけた。しかし、さすがI先輩は足が速く、俺はちっとも距離を縮められない。 やがてI先輩は、その白い空間から忽然と姿を消した。通り抜けるような壁がどこにあるともなく、霞が消え去るようだった。
「おい、ここに高校のIは来なかったか?」 どうも、先生の声だった。俺はじめ皆は、その先生の声と室内灯の明るさに、目をはれぼったくしながら起き出した。
俺:「何事ですか、一体?」
先生:「いや、Iが高校の寮棟にいまだに戻ってこないそうだ。まさかこっちにはいまいかと思って。」
級友:「ほかの色んな場所は探したんですか?」
先生:「いや、食堂棟やら便所やらみんなな。」
俺:「森とかはどうなんですか、助手・助手見習いでそこら中探しましょう!」
先生:「そうしよう。他の先生方にもお願いしてくる。懐中電灯も先生達で出してくるから。」
よりによって、夜を共にしたI先輩が失踪!なにゆえに、なにゆえ・・・。
ともあれ、俺達は寝巻きからTシャツやハーフパンツなどに着替えてサンダルを履き、教官棟のあたりに行った。そこで電灯を受け取り、助手・見習い総出で敷地中に散った。
俺は、そこら中を探した。あの森の中を、恐怖を押し殺して探し、使っていない寮棟や押入れに至るまで探した。しかし結局、4、50分経っても誰も見つけることは出来なかった。
先生:「校長先生、警察と消防に連絡を。」
校長先生:「そうだな、そうしてもっと広い範囲を。海難事故の可能性もあるな。」
先生:「そうであってはほしくないです・・・。」
警察が数名、事情を聞きに来、さらに巡査らも複数敷地内を改めて探した。また、海上も、艦艇がサーチライトやら何やらを使って探していた。俺達生徒は、ひとまず引き上げた。
級友:「一体どうしたんだろうな、Iさん。」
級友:「いなくなるなんて、前代未聞だろ・・・。」
俺は、背筋が寒くなるものを感じた。そして、思い立った。 もう、いてもたっても居られなかった。
俺は、生乾きのふんどしを引っ掴み、ゴーグルを取って、着替え始めた。
級友:「おいY!お前が何でこんな闇夜に一人で海に入るか!!」
俺には、級友達の言うことなど耳に入らなかった。着替えたら直ちに、俺は脱兎の如く寮棟を出、広場を通り抜けて門を自力で飛び越え、浜辺に入った。浜から一気に海に走り込んだ。海は、やはり夜ともなれば冷たかった。しかも、波が大きく、潮の流れがきつい。立っているような事は困難なぐらいであった。このような海に、一人で、ましてや夜に居ては、一つ間違えば死ぬ。俺は、無いに等しい月夜の明かりを頼りに、狂った様に水中をまさぐった。「Iさん、I先輩!」そう叫び続けながら、効率も何も無いのに訳も無く水中をまさぐった。 必死になって、I先輩を俺は探していた。 そうする内に俺は、I先輩を本当に心から愛している自分に気が付いたのだった。  捜索の艦艇は、潮の流れからか、俺より少々沖合いに行っていた。
 どれだけ塩水を飲み込んだろうかという頃合になって、俺は吐き気と、疲労の限界を感じて、海にある脚立(水上の木造で、監視が出来るようになっている。)のたもとに腰をかけた。思わず、俺の眼から涙が、一粒、二粒と落ちていった。もう、どうしようもないのかと諦めが感じられてきていた。  と、そのとき、腰掛けている俺の尻に、なにか異様な感触のものが当たった。俺は、驚いて飛び退いた。  紛れも無い、人間の手であった。
ゴーグルをして水中に顔を突っ込んで見て、全てが分かった。I先輩、その愛すべき人は、水中で既に息絶えていた。引き上げようと、俺は先輩を肩から抱えてみた。その身体に、俺を幾度と無く抱擁してくれていた時にあった、「安心」を与えてくれる様な温かさはもう、無い。 その健康的な艶の良い肌は、しんしんとした冷たさしか与えてくれなかった。 俺は、脚立の底方からI先輩を引き上げ、俺が先程まで腰をかけていた板の上に先輩を横たえた。心臓に耳を当てても、脈をとっても、一切の動は感じられなかったのだった。「I先輩、I先輩、死ぬなんて嫌です。俺を置いていかないで下さい。ああ、どうか神様・・・。」  何を言っても、先輩は反応しなかった。 月光に仄かに照らし出された先輩の死に顔は、苦しみにもだえて死んだという印象を与えるようなものではなく、そのまま魂だけを持っていかれた、という様相であった。そしてその頭部に付随する上・下半身には、麗しい筋肉が、そう、俺が興奮を覚えた理想肉体が、ぼこぼことしていた。
死してもなお、朽ちていない限り、先輩の「美しさ」は変わらなかったのだ。
 しかし何より驚愕したのは、先輩の手の一方に、あの俺がひそかに置いていった螺鈿のネックレスが握られていた事であった。明確な事はいえない。しかし、恐らく先輩は、俺が置いていったネックレスをつけて泳ぎ、それを何らかの拍子に海中に没させてしまったのであろう。俺に、純粋な「愛」を持っていた先輩は、無くした事を知った俺の顔を見たくなかった、そして、意地でも俺に呆れられたくなかったが為に、それを必死になって探したに違いない。そして、それが脚立の底の部分に幸いにも引っかかっているのを見つけた。そして、ここで息絶えたのだろう・・・。
俺は、わざわざ先輩の死を招いたことになる。何故かって? 先輩にプレゼントしたあの螺鈿のネックレス。あれさえなければ、夕方から、水温が低くなるにもかかわらずやみくもに先輩が海中を探し回るようなことは、無かったからである。
先輩の亡骸の傍らに座ってどれだけになったろうか、東の空に旭日が昇らんとする頃、間手のサーチライトが俺を照らした。
船員:「おい君、いったい何をしている?   おい!!横たわってるのがI君じゃないか?」
艦艇は、近づいてきた。船員達の目が俺に向けられている。 俺を、人殺しと疑ってみているのだろう。ああ、それに違いは無い。煮るなり焼くなり好きにするがいい・・・。
俺は、呆然としたまま艦艇に運び込まれ、先輩の亡骸も担架に移されて船に移った。やはり、先輩は死亡していると確認された。 俺たちを乗せた船は、座礁しない限り浜に近づき、そこからは小船に移って浜に着いた。そこから、I先輩は担架にのせられたまま、警察の車に運ばれていった。浜辺の上を、先輩の亡骸が、警官が一歩進むごと遠ざかっていった。 さようなら、I先輩。もうあなたの姿を見るのはこれが最後だろう。これからあるであろう司法解剖にはどうかお耐えになって。 あの世できっと会いますからね・・・。
心の中でそう祈って、俺は先輩を見送った。上がり始めた朝日が、あたり一面を美しく、バーミリオンに染めた。
俺は、警察に事情を聞かれたが、すぐに寮棟に返された。時刻は六時少し前、寮棟に戻ると皆は寝静まっていた。そう、今日は長距離泳があると思って。しかし、皆よ、それはない。死人が出た以上、遊泳学校は即刻中止で即時帰京は間違いなかったのである。

その後は語るまでも無い。翌朝の朝食の席で、ある高校の先輩が水死し、昼にはわれわれはここを立つ旨が伝えられた。高校生の先輩たちの中には、ないている人もある。その内に、例のT先輩もあった。 
大急ぎで荷造りをし、電車に乗ってSを立った。 列車の海から、蒼穹の洋が見えた。
もう二度と、このS地方の海には来るまい。俺が人を死なせる間接、いや直接の原因をつくった地なのだから。
都市部らしい、建物の密集した辺りになると、我らの故郷である。列車を降り、ホームで流れ解散になった。俺は、自宅へ向かう路線のホームに移動した。 待て、死ねばあの世でI先輩に会える。最愛の人、I先輩に。 俺の足は、ホームの端へ端へと自然に動いた。列車が来るレールの軋みが聞こえる。「今だ、飛び込めっ!」そう俺は自分に言って、線路の上に転がり落ちた。駅員が気づき、非常停止ボタンを押した。警報音が響き渡る。一斉に衆目が俺の辺りに集まる。ある者は目を覆い、ある者は愕然としていた。けたたましい警笛と、電車の轟音も近づいて来た。バシューンとエアーの抜ける音もした。非常ブレーキをかけたのだろう。しかし止まられてたまるか、とっとと俺を轢殺しろ!!  どんどん列車が近づく、そして遂に、俺はその鋼鉄の巨体の下に飲み込まれた。程なく、俺の視界は真っ暗になった。
幸いなるかな、俺は気づくと天国と思わしき所に居た。スカイブルーの空の上に浮かぶ雲海の上で、I先輩の前に立っていた。
先輩は、涙を流しながら言った。「わざわざ死んでまで・・・。俺の為なんかに。でも、それだけ愛してくれていたんだな、Y。」  俺は、途端に泣き崩れて言葉にならぬ声を発していた。すると先輩は俺を抱きかかえ、そっと唇を重ねた。 深く、長いキスだった。
そして、今まで感じたことの無いほど居心地のいい雲海の上で、俺たちは二度目の「契り」をした。肉欲だけではない、愛の儀式としての「契り」を。 寮でやるような、だれかに見つかる恐怖など有り得ない。 遮るものは何も無し。 俺たち、二人だけの世界だ・・・。

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