- 2015⁄12⁄02(Wed)
- 00:37
正義の味方
1
午前中の部活動の練習を終えて、久々に下校が一緒になった僕達五人は色々おしゃべりしながら歩いていた。
五人というのは、サッカー部の秀士(しゅうじ)と、陸上部の陸(りく)と、バスケ部の悟(さとる)と、柔道部の和道(かずみち)、そして水泳部に属している僕。市立の中学校だけど屋内プールを備えたうちの中学校では、一年を通して水泳の練習をすることができる。生乾きでまだ塩素の臭いがする髪の毛が、春の暖かい風に吹かれて少し気持ちがいい。
五人は小学校時代からの友達同士で、家もお互いに近い。中学校も二年生になる頃だと、新しい友達もできて行き来が減ってくるけれど、それでも登下校のタイミングが合えば固まって動くのがこの五人だった。
「英太(えいた)、何ニヤニヤしてんだよー」
ノリが一番軽くて、すぐに人にちょっかいを出してくる秀士が、僕の濡れた頭をちょんちょんと指先で突いてくる。
「な…なんでもないよ」
「きめー」
秀士が笑う。勿論、本気でキモいなんて思っているワケではないことは分かる。実際は、ちょっとキモい想像をしていたのではあるけれど。
日曜の朝のテレビ番組で、特撮の戦隊ものってのがある。五人くらいの選ばれた戦士が色とりどりの全身タイツのヒーローに変身して戦う、ってヤツ。今じゃ女の子向けの似たような発想のアニメもあるくらいで、うん、今でもまだ結構好きだったりする。小学校時代は、この五人で戦隊ヒーローをやる、なんていう妄想もよく働かせていた。小学校の地下に実は基地があって、なんてね。実際の子供になんて大した力は無い。だから、変身して悪いヤツらを倒す力を手に入れられるなんて夢みたいな妄想、ちょっとは持ってもいいんじゃないか、って思う。
久々に五人が揃ったものだから、そんな妄想を思い出してちょっと笑ってしまった、というのが実際のところ。まさか正直に告白できる筈が無い。
「今日さー、これからうちに来てみんなで昼飯食わん?」
みんなより頭一つ大きい悟が前触れ無く持ち掛けてきた。
「マジ?助かる、今日は親二人ともいないし。あ、でも他の人は?家にお昼用意してもらってんじゃないの?」
すぐにニコニコと笑顔で応じたのは陸。周りへの気遣いも忘れない。
「俺んとこは店やってっから。勿論行くよ」
小柄な僕の横に立つと、兄弟か下手すれば親子か、って感じにガッシリした体格の和道が、モソッと答えた。
「んじゃ俺も行くー。ちょっと待ってメールしとっから」
秀士はジャージのポケットから携帯電話を取り出すと、あっという間にメールを送った。恐らく一言二言くらいしか打っていないんだろうけど。
「で、英太はどうすんだ?」
秀士が僕の肩に腕を回してきた。どうすんだ、じゃなくて、来るだろ?だよねその態度は。
「うん…、悟んちが迷惑じゃなければ」
「迷惑だったら最初から誘ってないって」
って、なんで悟じゃなくて秀士が答えるんだよ。
「秀士の言う通り、気にすんな」
悟が穏やかに苦笑しながら口を挟んできた。悟は昔から何となく大人びていて、五人の中でもお兄さんキャラだった。五人のリーダーやるならやっぱり悟かなぁ。秀士っていう大穴もあるかもだけど。いや、そんな妄想働かせてる場合じゃなかった。
「あー、うん、じゃあ、ちょっと家に電話してみる」
僕は秀士の腕を振りほどくと、スクールバッグに突っ込んだPHSを探し始めた。
「うちの兄貴がさ、急に料理に凝り始めちゃって、色んなカレー作り過ぎたんだよ」
肩をすくめながら言う悟のお兄さんとは、数回だけ会ったことがある。結構歳が離れていて、どこかの研究所に勤めてる、って紹介されたことがある。顔立ちは悟とそっくりで、髪が短めの悟を長髪気味にさせて眼鏡をかけさせた感じ。
俺カレーすっげぇ好き!と騒ぐ秀士は、確かに泊まりがけの移動教室でも真っ先にカレーのおかわりに行ってたな。でも一々うるさい、こっちは電話かけてるのに、と思っていたら親が出た。
「あ、…お母さん…?あのさ、」
街なかのサラリーマンがよくやるように、口許を手で押さえて、みんなには少し背を向けて小声で話す。お互い家族同士知り合いだけど、親との会話を聞かれるのはちょっと照れ臭い。
「悟がさ、お昼呼んでくれたから…、うん、お昼いらない…。帰り?うん…夕方…かな…」
お昼を食べたら、きっとそのまま悟の部屋でウダウダ過ごすことになると思う。
「まぁ、晩ご飯までには、帰るよ。んじゃ」
そう言って電話を切ると、僕は悟に向かって言った。
「悟んちでお昼食べさせてもらうね」
「ありがとな。良かった」
ニッコリ笑いかけてくる悟に顔を見て、僕も笑って見せたけれど、この時僕はちょっとした違和感を抱いていた。お礼?気にすんな、とは悟がよく言う言葉だけれど、わざわざお礼を言い合う仲だっけ?
結局、作り過ぎたカレーの始末にお礼を言われたのだと解釈したのだけれど、後から思えばこの違和感は間違ってはいなかった。悟は別の目的のために、僕達を自宅に誘っていたのだった。
2
悟のお兄さんが作ったというカレーは四種類くらいあって、なんでも本場のインドカレーに凝っているらしく、豆と野菜のカレーとか、チキンカレーとか、バターを使って甘めにしたバターチキンカレーとか、羊肉の挽肉のキーマカレーとか、そういうのを真っ黄色なサフランライスにかけたり、ホットプレートで焼いた偽物ナンにつけたりして、食べさせてもらった。ナンのことを偽物ナンと呼んだのはお兄さん自身だったけれど、僕は本物のナンを食べたことが無かったし、とてもモチモチしていて美味しかったので、それはそれでいいかな、と。秀士と和道は相当気に入ったのか、僕や陸の二倍は食べていたような気がする。
食後、悟の部屋でゲームをしたりマンガを読んだりしている内、秀士は悟のベッドを占領してスースーと寝始めてしまった。和道は「食い過ぎた。うんこ。トイレ貸してくれ」と、カレーを食べた直後としてはちょっと声に出してほしくないことをストレートに言いながら部屋を出ていって、僕は悟とゲームの対戦を続けていた。
ふと声を上げたのは陸だった。読んでいたマンガから顔を上げて、
「カズちゃん、なんか時間長くないかな。まさか腹壊したのかな」
と訊いてきた。ゲームに没頭していた僕は時間の感覚が分からなくなっていたけれど、陸によれば三十分は帰ってきていないとのことだった。
ちょっと見てくる、と言いながら、陸は悟の部屋を出て階段を駆け下りていった。僕もゲームを中断して立とうとしたところを、悟に止められた。
「何人もで行ってもしょうがないし。なんかあったら兄貴もいるから」
僕はまた少し違和感を感じた。いつもはのんびりしているのに、こういう時に一番最初に動くのは悟じゃなかったっけ。ただ、悟の制止は間違っていなかった。数分して陸が苦笑しながら部屋に戻ってきた。
「カズちゃん、ったらさ、用足して、眠いって…まんま…ソファーれ…寝れ…ら…」
和道についてはホッとしたけれど、今度は陸の様子がおかしかった。ろれつが回らなくなっていて、おまけに立っていることができなくなったのか、部屋の入り口の柱にしがみついている。
「は…れ…、俺…目…まわれる…ろ…」
僕は驚いて、ゲーム機を放り出すと立ち上がって陸に駆け寄った。つもりだった。僕の視界は急に暗くなっていった。立ちくらみだ。そう感じた次の瞬間、僕は床に転がっていた。
「り…りっくん…?」
腹と胸に重みを感じて瞬きすると、視界に光が戻ってきた。どうやら、倒れ込んできた陸の体をなんとか受け止めて、僕は床に倒れたらしい。陸の頭が僕の胸に乗っていて、陸は少し荒い寝息を立てていた。
「ら…らいろ…ぶ…?」
おかしい。大丈夫、と言ったつもりだったのに、僕もろれつが回らなくなっていた。僕の顔を覗き込んでくる顔があった。悟だった。
「ら…らろ…る…?」
悟、と呼び掛けられない。
「体動かしたから、薬が回り易くなったんだな」
何を言ってる?僕は悟の言葉の意味を理解できていなかった。理解したくなかったのかも知れない。
「ぁ…ら…る…」
助けて、と言いたかったのに、唇や喉が痺れて動かなくなってきた。
「そろそろだよ、兄貴」
悟のそんな言葉を聞きながら、僕の視界は完全に真っ暗になった。
3
「…いた!…えいた!」
僕は自分の名前を呼ばれて目を覚ました。そして、全身が拘束されていて動かないことに気付いた。
「こっ、これはっ!?」
混乱する頭でなんとか記憶を辿り、自分が、そして友達が悟の家で倒れたことを思い出した。
「りっくんっ、カズちゃんっ、秀士っ、悟はっ?」
僕は思わず友達の名前を呼んでいた。特に、様子が際立っておかしくなっていた陸のことが心配だった。
「悟の兄貴だよっ、あいつが俺達に変な薬飲ませたんだっ」
首を横に向けると、そこには歯医者にあるような斜めのベッドに縛り付けられた和道がいた。和道は何故か柔道着の上下を着ており、また柔道着の下には黒いインナーが見えていた。ハイネックで長袖のインナーシャツによって、和道の太い首や厚い胸板、そして手首までが黒く光沢感のある生地で覆われていた。それは下半身についても同様で、柔道着のズボンの裾からは足首までを覆う黒いタイツが見えていた。
「カズちゃん、そのかっこ…」
「知らねーよ。それにお前だって、よく見てみろ自分のかっこを」
和道に怒ったように言われて、僕もまた和道と同様の状態に置かれていることに気付いた。首や手足や胴体をベルトでベッドに固定された僕は、ピッチリと肌に張り付く黒い全身タイツのようなものを着せられ、その上に水泳部で使っているスパッツ型の競泳パンツを穿かされていた。この格好の意味が、全く分からなかった。
「っざけんなっ、離せっ、このヤロっ、ちっくしょ、戻せっ、悟と陸を元に戻せっ」
秀士の怒鳴り声が聞こえてきた。なんとか頭を持ち上げて和道の向こう側を見ると、そこには僕や和道同様に拘束された秀士の姿があった。秀士もまた、黒い生地で頭や手の先以外を覆われ、その上に青いサッカーシャツやサッカーパンツを着させられていた。裸足の僕や和道と違うのは、足にスパイクやストッキングを履かされていたことで、またストッキングの膨らみを見るとシンガードまで着けさせられているようだった。
そして秀士の向こう側には、自分の目を疑ってしまったのだけれど、頭や足の先までスッポリと黒く光る生地に覆われ、身動きしない人の姿が一つ、あった。
「悟や陸をどうするつもりだっ」
秀士の言葉にハッとする。
「まさかあれっ」
「陸だよ」
怒気を含んだ和道の言葉に、僕は息を飲み、そして叫んでいた。
「そんな…っ、りっくん、まさか死んでっ…」
「死んでるワケじゃねーよ。でも、ああなるらしい」
和道が顎を微かに動かした先を見ると、そこには奇妙な人影が一つ、直立していた。こんな時におかしな発想だけれど、僕はその姿を見た時、特撮のメタルヒーローものを思い出していた。胸や腕や足を甲冑のように覆う黒光りする防具、そしてフルフェイスヘルメットのようなもので覆われた頭部。その喉元は首にぴったりはまり、普通のヘルメットのように脱げるような状態にはなっていない。全体が樹脂のような光沢を持っていて、ゴーグル部分がどこか分からないのっぺりとした外観。そして、ヘルメットや防具の間で全身を覆う黒光りする革のようなビニールのような生地。今僕達が着せられている全身タイツが、もっと厚ぼったくなったような。これで、ヘルメットなどにもっと装飾があって黒一色ではなく色でも付いていたら、正に特撮に出てくる正義の味方だった。だが、視線の先で直立したまま微動すらしない人影は、正義の味方には思えなかった。まるで、悪役の戦闘員だった。その中に入っているのは、まさか。
「あれは悟が改造されちまった姿なんだってよ」
和道が吐き捨てるように言う。
「悟を戻せっ、陸を戻せっ」
秀士の怒鳴り声が響き続ける。
「かい…ぞう…?」
現実味の無い言葉を、僕はオウム返しに聞き返していた。
「あぁ、悟の兄貴にな」
「えぇっ」
僕は素っ頓狂な声を上げるしかなかった。
「少年戦闘員一号だってよ。ダメだ、俺頭狂ってきたかも。ワッケわっかんねぇ。悟は兄貴に改造されて洗脳されて、今日は俺達四人を誘拐して改造するために昼飯に誘ったんだってよ、兄貴の命令でっ。俺夢でも見てんじゃねーのか。言ってて笑えてきた」
「やれやれ、目が覚めたらうるさいねぇ」
室内に細いけれどよく通る声が現れた。悟のお兄さんだった。秀士も、和道も、僕も、拘束ベルトが首に食い込むのもお構いなしに頭を上げ、怒鳴って、喚いて、叫んだ。だけれど、耳許でカチリという音が聞こえて、僕達は声を失った。声を出そうとするのに、喉が全く動かなくなった。室内が一気に静かになる。
「秀士くん、和道くん、英太くん、君達の神経ももう僕の手の内にあるんだよ?そろそろ新しい人生を喜んで受け入れる準備をしてほしいもんだね。ほら、陸くんがそろそろ完成だ」
声は出せないけれど、頭や指はまだ動く。僕達は一斉に陸の方へ目を向ける。僕はこの時恐らく目を丸くしていたと思う。頭まで黒いものに覆われていた陸の体は、徐々に元に戻っていっていた。いや、戻っている筈が無い。黒いものが陸の体に吸収されていっているのだから。やがて、陸は全裸になった。全裸になった陸の股間では、その、えと、ち…、チンコが、大きく、ぼ…勃起して、下腹部に付く勢いで突き立っていた。
陸が寝ていたベッドの拘束ベルトが外される。陸は目を開けるとゆっくりと起き上がりベッドから降りた。意識を取り戻した陸は、でも、陸ではなかった。無表情でガランと空っぽのような瞳で悟のお兄さんの姿を見付けると、その方向へスタスタと歩き出した。なんとか声を掛けようと身悶えする僕達三人のことなんて全く視界に入っていないような雰囲気で。陸は全裸で勃起していたけれど、もう一つ普通でなかったのは、陸の胸だった。胸の中央にはまるで刺青されたかのような印が黒々と刻み込まれていた。細い円を二つ同心円状に重ねたマーク。まるで陸の改造終了を示す印であるかのようなそのマークは、和道の柔道着の下のアンダーシャツにも、同じ場所に白く印刷されていた。サッカーシャツに隠れて見えない秀士にも、そして僕にも、同じところに同じ印があるんだろう。そしてそれが体に転写された時、僕達はもう僕達ではなくなっているんだろう。僕の目は涙を流し始めていた。
陸は悟のお兄さんの前に立つと、ゆっくり頭を下げた。
「いい子だ」
悟のお兄さんはそう言いながら悟の頭に手を置いた。そして、
「変身してごらん」
「はい」
陸の声は、ゾッとする程に平坦で、まるで機械が棒読みしたようなものだった。陸が返事した直後、陸の体に変化が生じた。全裸だった体は、染み出すように現れたランニングシャツとランニングパンツを身に付けた。足には短めのソックスとランニングシューズが現れる。シューズと赤いユニフォームは、陸が部活動の時にいつも着ているものだった。続いて、陸の体からは黒いものが染み出してきた。それが、一旦陸の中に染み込んでいった黒い全身タイツであることはすぐに分かった。全身タイツは陸上部のユニフォームを溶かすように飲み込み、陸を再び頭から手足の先まで包んでしまった。更に、頭部や胸部を初めとしてあちこちの部位がどんどん厚みを増し、最終的には鎧のように固い素材に変化した。その姿は、既に改造を終え戦闘員と化した悟と全く同じだった。
「陸くんはまだ洗脳が完了していないからね、暫く頭の中を綺麗にして教育を続けよう。教育プログラムはユニカバーが実行してくれるから、そこに並んで待機しておくように」
ユニカバーとはなんだろう。陸や悟の体を覆っている黒いもののことだろうか。
「はい」
マイクとスピーカーを通したような陸の声は、ますます人間離れしていた。陸は戦闘員の姿でゆっくり歩くと、悟の横に並んで気を付けの姿勢で固まった。陸は、完全に陸ではなくなってしまった。
「じゃ、次は秀士くんの番だ。うるさい子から先に改造しておけば良かったかな」
悟のお兄さんは、さっきカレーをよそってくれた時と変わらない笑顔で、恐ろしいことを言い放った。秀士は声を出せないまま身をよじり、抵抗の意志を示そうとしていた。
「ちょっとローテクなんだけど、僕はこれが好きなんだよな」
そう言いながら、悟のお兄さんは一つの機械を手に取った。それはただの電気マッサージ器だった。モーターによって卵型の頭の部分が振動し、肩凝りを治すという普通に売られているマッサージ器。一体何に使うのか、僕には想像できなかった。
「気持良くしてあげるよ」
悟のお兄さんはマッサージ器のスイッチを入れる。ブーンという振動音が静かな室内に響く。お兄さんは、その振動部分を秀士のサッカーパンツに、秀士の股間に、押し当てた。秀士は目を見開き、首を横に勢い良く振りながらなんとか逃げようとする。でも、しっかり固定された体がマッサージ器から逃げられる筈が無かった。秀士は声の出ない口をパクパクと動かし、鼻水や涙を流しながら首を振り続けたけれど、限界はすぐに来た。秀士は見開いた目を天井に向けながら一旦固まり、そして今度は腰を小刻みに上下に動かし始めた。射精だ。僕も何度もマスターベーションをしたことがある。だけれど、他人から強制的に振動を与えられて射精するというのは…。気持いいんだろうな。僕はそう考えてしまった自分に、競泳パンツと全身タイツの下でチンコを固くしている自分に、驚愕して自己嫌悪を覚えた。僕はバカな想像を振り捨てて、秀士の様子をうかがった。悟のお兄さんは、射精を一通り終えたらしい秀士の体からマッサージ器を離すと、手で秀士の股間を掴んだり、撫で回し始めた。光沢感があって滑らかな生地のサッカーパンツ越しに秀士の膨らみを触るお兄さんの手に、僕はどうしようもない羨ましさを感じていた。
「気持ち良かったろ。君達少年の精液を吸収したユニカバーは、すぐに君達の体を改造し、洗脳してくれる。秀士くん、君もすぐに立派な戦闘員に生まれ変われるからね」
秀士は天井を見詰めたまま、全く身動きをしなくなっていた。その一方で、黒い生地の表面は泡立ったように激しく動き始め、ユニフォームを同化し、秀士の頭や手足に触手のように伸びて秀士の全身を包み込んでいった。
暫くして秀士の全身は真っ黒に覆われてしまい、そして、後は陸と同じだった。全裸で目覚めてベッドから降り立った秀士は、胸に黒い印を入れられ、悟のお兄さんが命じるままに動いた。笑ったり怒ったり表情豊かだった秀士は、陸や悟の姿に憤って怒鳴り散らしていた秀士は、今はただの人形のようになって、勃起したチンコを晒しながら悟のお兄さんの前に立っていた。
「いい子だ」
陸の時と同じように、秀士の頭に手を置く。
「はい。ありがとうございます。司令」
秀士の言葉に、僕はまた驚愕した。悟のお兄さんはクククと笑いを漏らしていた。
「反抗的だった分、洗脳が進んでいるようだね」
「はい。司令。俺は司令に忠誠を誓います」
僕は耳を疑った。洗脳が進むとこんなになってしまうのか。
「じゃあ、秀士くんも変身してあそこに整列しなさい」
「はい。司令。変身して整列します」
秀士の姿はまたたく間に戦闘員に変わり、三人目として悟や陸の列に加わった。
「さて、声を出すことを許してあげようか」
「あ…」
また耳許で小さな音がして、僕は声を取り戻した。
「な、なんでこんなことっ」
僕は悟のお兄さんに食って掛かった。
「なんで?それはこの世の中をより良くするためだよ。僕が思い描く通りにね」
「それと僕達がどう関係あるんだよっ」
「大有りだよ。この世の中を変えていくのは若い力だ。でも、若い子達には力が無い。腕力も権力もね。だから、僕が君達を改造して力を与えてあげる。そして僕の思うがままに動くように、力を使って間違いを犯さないように、教育してあげる。君達は悟の友達だからね、最初に僕の部下となる栄誉を与えてあげたんだよ。喜びなよ。君達は僕の忠実なしもべとなり、この世の中を直していく正義の味方として超常的な力を与えられたんだから」
「ワケ分かんないよっ」
「君達の世代はもうテレビは見ないかなぁ。正義の変身ヒーローになって活躍する、なんて想像を働かせたことは無いかなぁ」
僕は言葉を失った。僕の妄想と似ている。でも、僕のとは、違う。違う筈だった。
「僕の頭の中には理想郷の姿がある。その理想郷を実現していくことがこれからの正義なんだ。その正義のために働く。君達はこれから正に正義の味方の変身ヒーローになるんだよ」
「変だよ、それなんか変…」
僕の言葉に、悟のお兄さんは憐れみの表情を浮かべた。
「そう、僕の教育を受けないと、そう思っちゃうだろうね。悟だってそうだったよ。悟の場合は先ず洗脳を優先したから、喜んでユニカバーを着て改造を受け入れてくれたけどね」
僕は背筋に寒いものを感じた。
「さ、君はどうだい、和道くん?」
僕はハッとして隣の和道の様子をうかがった。声を出せる筈なのに、和道は静かなままだった。
「…」
和道の口が微かに動いた。
「なんだい?聞こえないよ」
悟のお兄さんが面白そうに訊き返す。
「…だ…」
「だから、聞こえないって」
悟のお兄さんはニヤニヤ笑いながら、いたぶるように和道を問い詰めた。和道は急に大声を上げた。
「もうやだっ、もう、やめてくれっ、こんなおかしなことっ、もうたくさんだっ」
そして、和道はボロボロと大粒の涙を流し始めた。
「もう…やだ…よ…おれ…」
「カズちゃんっ」
僕は思わず叫んでいた。小学生時代から体格が良くて、上級生や中学生から売られた喧嘩は必ず買ってお釣りを付けて返していた和道が、泣いている。そのこと自体が信じられなかった。和道の嗚咽は止まなかった。
「うっ、うぅ…、悟も…っ、陸もっ、秀士もっ…俺、もう、もう…」
「カズちゃんっ、こんなベッド壊してさっ、逃げよっ」
どうせできないことは分かっていたが、気休めの言葉でもかけたくなるくらいに和道の横顔は情けない表情に変わっていた。その和道が、次の瞬間、信じられない言葉を吐いた。
「もう、俺、いいよ…、早く、一緒になりたい…」
「…え?…えぇっ?」
「俺も改造される。俺も戦闘員になる」
「ちょっ、カズちゃんっ」
気が付くと、和道の瞳はただ虚ろに天井を見上げていた。もう涙を流してはいなかった。
「俺も司令のしもべになりたいですっ」
今度ははっきりと、和道は宣言した。悟のお兄さんはクックックッと嬉しそうに笑った。
「精神に負荷かかり過ぎちゃったかな。洗脳が先行していたようだね。いいかい、英太くん」
悟のお兄さんは僕の顔を覗き込んできた。
「ユニカバーは着用の瞬間から、徐々に人体に浸透し始める。和道くんは肉体より先に精神をユニカバーに委ねてしまったみたいだよ」
和道をベッドに押さえ付けていたベルトが全て外れた。和道はゆっくり上体を起こした。僕は最後の望みをかけて怒鳴った。
「カズちゃんしっかりしてっ。早く逃げてっ」
けれど、和道は僕の声には耳を貸さず、逃げ出そうともせず、悟のお兄さんが手渡してきたマッサージ器を素直に受け取った。
「さぁ、気持ち良くなろう。ユニカバーの中に射精したら、君もすぐに秀士くん達と一緒になれる」
和道は返事もせずにマッサージ器のスイッチを入れ、それを自分で自分の股間に押し当てた。
「あ、あ、あ、あ、あぁ、ああぁ、あああぁ、ああっ、あっ、あっ、ああっ、ああああああああっ!」
吼えるような声を上げて和道は全身をビクッ、ビクッ、と揺らし、それが収まると、ガクリと首を垂らして気を失ってしまった。マッサージ器がゴンと音を立てて床に落ちる。和道の口からツーッと涎が糸を引いて落ち、そしてユニカバーという名のアンダーウェアは、すぐに和道の全身を侵食していった。
改造された四人の戦闘員が整列した様子を見せ付けながら、悟のお兄さんは僕に尋ねてきた。
「さて、と。英太くんが最後だね。君はどうしたい?」
僕はあらん限りの怒鳴り声を上げた。
「四人を元に戻せ!僕はあんな風になりたくない!みんなを元に戻して家に帰せよっ」
すると悟のお兄さんは不思議そうに首を傾げ、僕に近付いてきた。
「おかしいね、君も洗脳が先行して進んでいたのかと思ったけど」
そして、突然僕のチンコを競泳パンツの上から掴んできた。
「ひゃっ、やっ、やめろっ」
「ほら、こんなにしっかり勃起してるのに」
そう言われて、僕もやっと自分のチンコが勃っていることに気付いた。なんでこんな時に。僕は一気に顔が赤くなるのを自覚していた。
「もしかして、元々こういうのが好きだったのかな?」
悟のお兄さんは僕のチンコを握ったまま、話を続けた。
「友達五人で選ばれし戦士になるとか、変身ヒーローになる力を授けられるとか、ピッチリした揃いのヒーロースーツを着るとか、でも仲間が敵に捕まって洗脳されて敵に回っちゃうとか、敵の戦闘員や怪人として改造されて敵の首領の命じるままに味方を苦しめるとか、最後に自分まで敵に洗脳されてしまって、喜んで敵の首領の足許に跪くとか…」
何を子供じみた話を。と話を聞きながら僕は思っていた。思おうとしていた。でも、悟のお兄さんには見透かされていた。
「ほら、やっぱり好きだったんだね。英太くんのおちんちん、ますます固くなってきちゃったね」
そう言って、悟のお兄さんはアッハッハと声を上げて笑い出した。
「元から素質のある英太くんには、ご褒美をあげよう。英太くんはどんなエッチなことをしたい?」
意味の分からない質問に対して、僕は無視を決め込んだ。悟のお兄さんの視線から逃げるように、僕は目を逸らした。けれど、僕の頭の中には急に性的な欲望が具体的に溢れ出した。おかしい。なんでだろう。フェラチオ?アナルセックス?変だよ、僕はそんな言葉は知らない。どんな風にやるのかも分からない。裏筋を舐め上げてほしい。パンパンパンパンと壊れるくらいに肛門に出し入れしてほしい。奥の奥を突き上げてほしい。なんで?なんで僕はこんなことを知っているんだ?乳首を吸い上げてほしい。耳の穴をベロベロ舐めまくってほしい。キスしてほしい舌を思い切り絡めて舌と舌をザリザリこすり合わせてくれたら凄く気持ちいい。いや、そんなことは僕は知らない。悟に乳首を胸を掴んで揉んでもらいたいバスケットボールを掴み慣れたその手で僕の胸を鷲掴みにしてよ乳首摘んでコリコリしてよ。何考えてんだ僕はそんな筈無い。陸とキスしたい陸と舌絡み合わせたいニコニコ笑顔が似合う陸のその口を犯すのは僕だし僕の口を犯すのは陸であってほしいそうでなきゃダメだ。おかしいよ僕はそんなこと望んでない。和道にはその大きな手で僕の頭をがっしり掴んで耳の穴の奥まで舌で犯してほしいいつも僕の頭をポンポンって撫でてくれるように手と舌で僕の頭を愛しまくってよ。ダメだよ僕は変になってる変態になってる。秀士には、あぁ、秀士、セックスしたいよ秀士、いつもバカみたいなスキンシップしてさ、いっそのこと僕の肛門を犯してよ秀士にガバガバにしてもらいたいんだ秀士になら全部あげたい全身グチャグチャにされたい秀士のザーメンなら上の口でも下の口でもいっぱいいっぱい飲み干したいんだ犯して犯して犯して犯して…っ。
「そうなんだ」
僕はハッとしていつの間にか目の前に迫っていた悟のお兄さんの顔を見詰めた。まさか、僕のおかしな妄想を見抜かれていた?
「見抜かれたも何も、君は全部話してくれたよ。英太くんのエッチな願望」
「えっ…」
まさか。
「英太くんは友達みんなのことを愛しちゃってたんだね。友達みんなから全身を犯されたいんだ」
「う、うそだっ」
僕が怒りの抗議をしても、悟のお兄さんはニヤニヤといやらしい笑みを深くするばかりだった。
「ユニカバーを着せられた君は、まだ僕のしもべとしては洗脳されてはいないけれど、ユニカバーの侵食は確実に受けているんだよ。君の頭の中にはエッチな知識がたくさん流れ込み、君の潜在的な願望を抉り出した。そして妄想に駆られた君は全てを口に出して、いや、叫びながらそのエッチな妄想を僕達に教えてくれたよ」
「そんなっ」
「悟には胸を、和道くんには耳を、それぞれ攻められたいんだね。陸くんとはキスしたくてしょうがない。そして、秀士くんのことが一番好きなのかな。お尻の穴を犯されたくて、秀士くんの精液を飲みたくて、たまらないんだね。英太くんって、見た目と違ってかなりエッチだねぇ」
「…!」
僕は声にならない叫び声を上げていた。
「いいよ。かなえてあげる君の願いを。でも、秀士くんとのセックスは改造完了後だね。まだ君の体はユニカバーと同化していないから、先ずは競泳パンツの上から秀士くんにフェラチオしてもらおう」
僕の頭は沸騰していた。怒りによってではなく、興奮によって。その興奮は、友達四人に囲まれた時、その姿を見た時に絶頂に達した。秀士は、陸は、和道は、悟は、闘員用に強化されたユニカバースーツを着せられつつ、顎から上のヘルメット部分だけは装備を解除していた。いつもの友達の顔が、戦闘スーツと共にある。それはとても、
「かっこいいっ、みんなかっこいいっ、僕も改造されたいっ」
僕はこの時はまだ洗脳されたわけではなかったと思う。僕の本心だったのだと思う。それくらいに、戦闘員として、悪のヒーローとして、改造された友達の姿は魅力的だった。
主な性感帯の全てを同時に刺激され、僕はこれまでにない量の精液をユニカバーに捧げることができた。僕は至福に包まれながら、自分の体が変えられていく感覚を楽しんでいた。
4
司令のしもべとしての改造と教育を終えた僕達五人は、毎日のように司令から与えられた任務を遂行し続けている。
例えば、クラスメートや部員達にユニカバーでできた洗脳用のチップを埋め込み、いつでも司令の忠実な兵士として行動するように準備を進めている。対外試合のように他校と交流を持てる場合には、洗脳チップの施術を行ないつつ、僕達のような戦闘員にスカウトするに値する候補者を探しリスト化している。学校の範囲を出ると、警察が取り締まらない犯罪者に私刑を加えたり、警察が捜査に行き詰まっている事件については当事者を洗脳して全てを自白させたり、汚職警官を見付けたら司令のしもべとして洗脳して更生させると共に、警察内部の情報を流させる使命を与えるようにしている。報道機関や芸能界も相当に腐っているから、目ぼしい関係者を見付けると洗脳を施し、情報源にしたり具体的な行動を起こさせたりしている。実効性の高い連中の中にしもべを増やしつつあるので次は永田町や霞が関だ、というのが司令の今後の作戦だ。
これらの任務を実行できているのは、やはりユニカバーという素晴らしい素材によって強化された僕達の体、そして戦闘スーツのお陰だった。また、ユニカバーは僕達に任務のための力を与えてくれるだけじゃない。ユニカバーは僕達に悦楽も与えてくれる。僕達五人はいつも悟の家に集まってお互いにセックスしたり精液を飲み合ったりしているのだけれど、ユニカバーと一体化した僕達は、戦闘スーツを着ながら、或いは部活動のユニフォーム姿で、フェラチオやアナルセックスを行なうことができる。僕が一番好きなのは、サカユニ姿の秀士に競パンを穿いたままの僕を犯してもらうこと、あとはお互い戦闘スーツ姿で兜合わせをすること。和道や陸も、それぞれ好きな性戯を持っている。
また、僕達は週に一回は司令が詰める研究所に行き、地下の秘密基地で司令に奉仕し精液を飲ませてもらいながら、司令の戦略や戦術を脳に記録して帰ってくる。
改造していただく直前、僕は自分が悪のヒーローに変えられる様を想像して興奮していた。でも、実際には違っていた。僕は悪のヒーローに悪堕ちしたわけではなかった。僕達は司令が描く理想世界を現実のものとするために、司令から与えられた使命に従って行動している。これは正義のために行動するヒーローそのものだ。仲の良い友達五人で正義の変身ヒーローになれたら、などという妄想を楽しんでいた時期もあったけれど、もう妄想じゃない。これは紛れもない現実だ。
僕は誇らしい気持ちを胸に抱きながら、隣の市の代表選手の首筋から細長い端子を引き抜いた。うっ、と呻き声を上げながら、新たなしもべは小さく痙攣した。これで君も僕達の仲間だ。ユニカバーの繊維が寄り集まって形成された洗脳用の端子は、素早く僕の腕の中に吸収されていく。県大会が行なわれた県営プールの更衣室で、僕は出場選手全員への洗脳チップ埋め込みを終え、無線通信で仲間達にそのことを報告した。
「グッ、ジョーブ。さすが英太。仕事早いなー」
頭の中に秀士の声が響く。僕の報告に一番に反応してくれるのはいつも秀士だった。
更衣室の中では、意識を取り戻した選手達がノロノロと立ち上がっていた。
みんな今日から、正義の味方の一員だよ。僕の言葉に、全員が無表情だけれど素直な返事を返してくる。いい子達だな。正義の味方はこうでないとね。僕の胸は嬉しい気持ちでいっぱいになり、またチンコも元気に勃起し始めた。司令に直接紹介したい選手については、後日研究所に自ら赴くように行動プログラムを刷り込んでおく必要がある。僕は良さそうな子に近付くと、再度洗脳用の端子を腕から伸ばした。
(おわり)
午前中の部活動の練習を終えて、久々に下校が一緒になった僕達五人は色々おしゃべりしながら歩いていた。
五人というのは、サッカー部の秀士(しゅうじ)と、陸上部の陸(りく)と、バスケ部の悟(さとる)と、柔道部の和道(かずみち)、そして水泳部に属している僕。市立の中学校だけど屋内プールを備えたうちの中学校では、一年を通して水泳の練習をすることができる。生乾きでまだ塩素の臭いがする髪の毛が、春の暖かい風に吹かれて少し気持ちがいい。
五人は小学校時代からの友達同士で、家もお互いに近い。中学校も二年生になる頃だと、新しい友達もできて行き来が減ってくるけれど、それでも登下校のタイミングが合えば固まって動くのがこの五人だった。
「英太(えいた)、何ニヤニヤしてんだよー」
ノリが一番軽くて、すぐに人にちょっかいを出してくる秀士が、僕の濡れた頭をちょんちょんと指先で突いてくる。
「な…なんでもないよ」
「きめー」
秀士が笑う。勿論、本気でキモいなんて思っているワケではないことは分かる。実際は、ちょっとキモい想像をしていたのではあるけれど。
日曜の朝のテレビ番組で、特撮の戦隊ものってのがある。五人くらいの選ばれた戦士が色とりどりの全身タイツのヒーローに変身して戦う、ってヤツ。今じゃ女の子向けの似たような発想のアニメもあるくらいで、うん、今でもまだ結構好きだったりする。小学校時代は、この五人で戦隊ヒーローをやる、なんていう妄想もよく働かせていた。小学校の地下に実は基地があって、なんてね。実際の子供になんて大した力は無い。だから、変身して悪いヤツらを倒す力を手に入れられるなんて夢みたいな妄想、ちょっとは持ってもいいんじゃないか、って思う。
久々に五人が揃ったものだから、そんな妄想を思い出してちょっと笑ってしまった、というのが実際のところ。まさか正直に告白できる筈が無い。
「今日さー、これからうちに来てみんなで昼飯食わん?」
みんなより頭一つ大きい悟が前触れ無く持ち掛けてきた。
「マジ?助かる、今日は親二人ともいないし。あ、でも他の人は?家にお昼用意してもらってんじゃないの?」
すぐにニコニコと笑顔で応じたのは陸。周りへの気遣いも忘れない。
「俺んとこは店やってっから。勿論行くよ」
小柄な僕の横に立つと、兄弟か下手すれば親子か、って感じにガッシリした体格の和道が、モソッと答えた。
「んじゃ俺も行くー。ちょっと待ってメールしとっから」
秀士はジャージのポケットから携帯電話を取り出すと、あっという間にメールを送った。恐らく一言二言くらいしか打っていないんだろうけど。
「で、英太はどうすんだ?」
秀士が僕の肩に腕を回してきた。どうすんだ、じゃなくて、来るだろ?だよねその態度は。
「うん…、悟んちが迷惑じゃなければ」
「迷惑だったら最初から誘ってないって」
って、なんで悟じゃなくて秀士が答えるんだよ。
「秀士の言う通り、気にすんな」
悟が穏やかに苦笑しながら口を挟んできた。悟は昔から何となく大人びていて、五人の中でもお兄さんキャラだった。五人のリーダーやるならやっぱり悟かなぁ。秀士っていう大穴もあるかもだけど。いや、そんな妄想働かせてる場合じゃなかった。
「あー、うん、じゃあ、ちょっと家に電話してみる」
僕は秀士の腕を振りほどくと、スクールバッグに突っ込んだPHSを探し始めた。
「うちの兄貴がさ、急に料理に凝り始めちゃって、色んなカレー作り過ぎたんだよ」
肩をすくめながら言う悟のお兄さんとは、数回だけ会ったことがある。結構歳が離れていて、どこかの研究所に勤めてる、って紹介されたことがある。顔立ちは悟とそっくりで、髪が短めの悟を長髪気味にさせて眼鏡をかけさせた感じ。
俺カレーすっげぇ好き!と騒ぐ秀士は、確かに泊まりがけの移動教室でも真っ先にカレーのおかわりに行ってたな。でも一々うるさい、こっちは電話かけてるのに、と思っていたら親が出た。
「あ、…お母さん…?あのさ、」
街なかのサラリーマンがよくやるように、口許を手で押さえて、みんなには少し背を向けて小声で話す。お互い家族同士知り合いだけど、親との会話を聞かれるのはちょっと照れ臭い。
「悟がさ、お昼呼んでくれたから…、うん、お昼いらない…。帰り?うん…夕方…かな…」
お昼を食べたら、きっとそのまま悟の部屋でウダウダ過ごすことになると思う。
「まぁ、晩ご飯までには、帰るよ。んじゃ」
そう言って電話を切ると、僕は悟に向かって言った。
「悟んちでお昼食べさせてもらうね」
「ありがとな。良かった」
ニッコリ笑いかけてくる悟に顔を見て、僕も笑って見せたけれど、この時僕はちょっとした違和感を抱いていた。お礼?気にすんな、とは悟がよく言う言葉だけれど、わざわざお礼を言い合う仲だっけ?
結局、作り過ぎたカレーの始末にお礼を言われたのだと解釈したのだけれど、後から思えばこの違和感は間違ってはいなかった。悟は別の目的のために、僕達を自宅に誘っていたのだった。
2
悟のお兄さんが作ったというカレーは四種類くらいあって、なんでも本場のインドカレーに凝っているらしく、豆と野菜のカレーとか、チキンカレーとか、バターを使って甘めにしたバターチキンカレーとか、羊肉の挽肉のキーマカレーとか、そういうのを真っ黄色なサフランライスにかけたり、ホットプレートで焼いた偽物ナンにつけたりして、食べさせてもらった。ナンのことを偽物ナンと呼んだのはお兄さん自身だったけれど、僕は本物のナンを食べたことが無かったし、とてもモチモチしていて美味しかったので、それはそれでいいかな、と。秀士と和道は相当気に入ったのか、僕や陸の二倍は食べていたような気がする。
食後、悟の部屋でゲームをしたりマンガを読んだりしている内、秀士は悟のベッドを占領してスースーと寝始めてしまった。和道は「食い過ぎた。うんこ。トイレ貸してくれ」と、カレーを食べた直後としてはちょっと声に出してほしくないことをストレートに言いながら部屋を出ていって、僕は悟とゲームの対戦を続けていた。
ふと声を上げたのは陸だった。読んでいたマンガから顔を上げて、
「カズちゃん、なんか時間長くないかな。まさか腹壊したのかな」
と訊いてきた。ゲームに没頭していた僕は時間の感覚が分からなくなっていたけれど、陸によれば三十分は帰ってきていないとのことだった。
ちょっと見てくる、と言いながら、陸は悟の部屋を出て階段を駆け下りていった。僕もゲームを中断して立とうとしたところを、悟に止められた。
「何人もで行ってもしょうがないし。なんかあったら兄貴もいるから」
僕はまた少し違和感を感じた。いつもはのんびりしているのに、こういう時に一番最初に動くのは悟じゃなかったっけ。ただ、悟の制止は間違っていなかった。数分して陸が苦笑しながら部屋に戻ってきた。
「カズちゃん、ったらさ、用足して、眠いって…まんま…ソファーれ…寝れ…ら…」
和道についてはホッとしたけれど、今度は陸の様子がおかしかった。ろれつが回らなくなっていて、おまけに立っていることができなくなったのか、部屋の入り口の柱にしがみついている。
「は…れ…、俺…目…まわれる…ろ…」
僕は驚いて、ゲーム機を放り出すと立ち上がって陸に駆け寄った。つもりだった。僕の視界は急に暗くなっていった。立ちくらみだ。そう感じた次の瞬間、僕は床に転がっていた。
「り…りっくん…?」
腹と胸に重みを感じて瞬きすると、視界に光が戻ってきた。どうやら、倒れ込んできた陸の体をなんとか受け止めて、僕は床に倒れたらしい。陸の頭が僕の胸に乗っていて、陸は少し荒い寝息を立てていた。
「ら…らいろ…ぶ…?」
おかしい。大丈夫、と言ったつもりだったのに、僕もろれつが回らなくなっていた。僕の顔を覗き込んでくる顔があった。悟だった。
「ら…らろ…る…?」
悟、と呼び掛けられない。
「体動かしたから、薬が回り易くなったんだな」
何を言ってる?僕は悟の言葉の意味を理解できていなかった。理解したくなかったのかも知れない。
「ぁ…ら…る…」
助けて、と言いたかったのに、唇や喉が痺れて動かなくなってきた。
「そろそろだよ、兄貴」
悟のそんな言葉を聞きながら、僕の視界は完全に真っ暗になった。
3
「…いた!…えいた!」
僕は自分の名前を呼ばれて目を覚ました。そして、全身が拘束されていて動かないことに気付いた。
「こっ、これはっ!?」
混乱する頭でなんとか記憶を辿り、自分が、そして友達が悟の家で倒れたことを思い出した。
「りっくんっ、カズちゃんっ、秀士っ、悟はっ?」
僕は思わず友達の名前を呼んでいた。特に、様子が際立っておかしくなっていた陸のことが心配だった。
「悟の兄貴だよっ、あいつが俺達に変な薬飲ませたんだっ」
首を横に向けると、そこには歯医者にあるような斜めのベッドに縛り付けられた和道がいた。和道は何故か柔道着の上下を着ており、また柔道着の下には黒いインナーが見えていた。ハイネックで長袖のインナーシャツによって、和道の太い首や厚い胸板、そして手首までが黒く光沢感のある生地で覆われていた。それは下半身についても同様で、柔道着のズボンの裾からは足首までを覆う黒いタイツが見えていた。
「カズちゃん、そのかっこ…」
「知らねーよ。それにお前だって、よく見てみろ自分のかっこを」
和道に怒ったように言われて、僕もまた和道と同様の状態に置かれていることに気付いた。首や手足や胴体をベルトでベッドに固定された僕は、ピッチリと肌に張り付く黒い全身タイツのようなものを着せられ、その上に水泳部で使っているスパッツ型の競泳パンツを穿かされていた。この格好の意味が、全く分からなかった。
「っざけんなっ、離せっ、このヤロっ、ちっくしょ、戻せっ、悟と陸を元に戻せっ」
秀士の怒鳴り声が聞こえてきた。なんとか頭を持ち上げて和道の向こう側を見ると、そこには僕や和道同様に拘束された秀士の姿があった。秀士もまた、黒い生地で頭や手の先以外を覆われ、その上に青いサッカーシャツやサッカーパンツを着させられていた。裸足の僕や和道と違うのは、足にスパイクやストッキングを履かされていたことで、またストッキングの膨らみを見るとシンガードまで着けさせられているようだった。
そして秀士の向こう側には、自分の目を疑ってしまったのだけれど、頭や足の先までスッポリと黒く光る生地に覆われ、身動きしない人の姿が一つ、あった。
「悟や陸をどうするつもりだっ」
秀士の言葉にハッとする。
「まさかあれっ」
「陸だよ」
怒気を含んだ和道の言葉に、僕は息を飲み、そして叫んでいた。
「そんな…っ、りっくん、まさか死んでっ…」
「死んでるワケじゃねーよ。でも、ああなるらしい」
和道が顎を微かに動かした先を見ると、そこには奇妙な人影が一つ、直立していた。こんな時におかしな発想だけれど、僕はその姿を見た時、特撮のメタルヒーローものを思い出していた。胸や腕や足を甲冑のように覆う黒光りする防具、そしてフルフェイスヘルメットのようなもので覆われた頭部。その喉元は首にぴったりはまり、普通のヘルメットのように脱げるような状態にはなっていない。全体が樹脂のような光沢を持っていて、ゴーグル部分がどこか分からないのっぺりとした外観。そして、ヘルメットや防具の間で全身を覆う黒光りする革のようなビニールのような生地。今僕達が着せられている全身タイツが、もっと厚ぼったくなったような。これで、ヘルメットなどにもっと装飾があって黒一色ではなく色でも付いていたら、正に特撮に出てくる正義の味方だった。だが、視線の先で直立したまま微動すらしない人影は、正義の味方には思えなかった。まるで、悪役の戦闘員だった。その中に入っているのは、まさか。
「あれは悟が改造されちまった姿なんだってよ」
和道が吐き捨てるように言う。
「悟を戻せっ、陸を戻せっ」
秀士の怒鳴り声が響き続ける。
「かい…ぞう…?」
現実味の無い言葉を、僕はオウム返しに聞き返していた。
「あぁ、悟の兄貴にな」
「えぇっ」
僕は素っ頓狂な声を上げるしかなかった。
「少年戦闘員一号だってよ。ダメだ、俺頭狂ってきたかも。ワッケわっかんねぇ。悟は兄貴に改造されて洗脳されて、今日は俺達四人を誘拐して改造するために昼飯に誘ったんだってよ、兄貴の命令でっ。俺夢でも見てんじゃねーのか。言ってて笑えてきた」
「やれやれ、目が覚めたらうるさいねぇ」
室内に細いけれどよく通る声が現れた。悟のお兄さんだった。秀士も、和道も、僕も、拘束ベルトが首に食い込むのもお構いなしに頭を上げ、怒鳴って、喚いて、叫んだ。だけれど、耳許でカチリという音が聞こえて、僕達は声を失った。声を出そうとするのに、喉が全く動かなくなった。室内が一気に静かになる。
「秀士くん、和道くん、英太くん、君達の神経ももう僕の手の内にあるんだよ?そろそろ新しい人生を喜んで受け入れる準備をしてほしいもんだね。ほら、陸くんがそろそろ完成だ」
声は出せないけれど、頭や指はまだ動く。僕達は一斉に陸の方へ目を向ける。僕はこの時恐らく目を丸くしていたと思う。頭まで黒いものに覆われていた陸の体は、徐々に元に戻っていっていた。いや、戻っている筈が無い。黒いものが陸の体に吸収されていっているのだから。やがて、陸は全裸になった。全裸になった陸の股間では、その、えと、ち…、チンコが、大きく、ぼ…勃起して、下腹部に付く勢いで突き立っていた。
陸が寝ていたベッドの拘束ベルトが外される。陸は目を開けるとゆっくりと起き上がりベッドから降りた。意識を取り戻した陸は、でも、陸ではなかった。無表情でガランと空っぽのような瞳で悟のお兄さんの姿を見付けると、その方向へスタスタと歩き出した。なんとか声を掛けようと身悶えする僕達三人のことなんて全く視界に入っていないような雰囲気で。陸は全裸で勃起していたけれど、もう一つ普通でなかったのは、陸の胸だった。胸の中央にはまるで刺青されたかのような印が黒々と刻み込まれていた。細い円を二つ同心円状に重ねたマーク。まるで陸の改造終了を示す印であるかのようなそのマークは、和道の柔道着の下のアンダーシャツにも、同じ場所に白く印刷されていた。サッカーシャツに隠れて見えない秀士にも、そして僕にも、同じところに同じ印があるんだろう。そしてそれが体に転写された時、僕達はもう僕達ではなくなっているんだろう。僕の目は涙を流し始めていた。
陸は悟のお兄さんの前に立つと、ゆっくり頭を下げた。
「いい子だ」
悟のお兄さんはそう言いながら悟の頭に手を置いた。そして、
「変身してごらん」
「はい」
陸の声は、ゾッとする程に平坦で、まるで機械が棒読みしたようなものだった。陸が返事した直後、陸の体に変化が生じた。全裸だった体は、染み出すように現れたランニングシャツとランニングパンツを身に付けた。足には短めのソックスとランニングシューズが現れる。シューズと赤いユニフォームは、陸が部活動の時にいつも着ているものだった。続いて、陸の体からは黒いものが染み出してきた。それが、一旦陸の中に染み込んでいった黒い全身タイツであることはすぐに分かった。全身タイツは陸上部のユニフォームを溶かすように飲み込み、陸を再び頭から手足の先まで包んでしまった。更に、頭部や胸部を初めとしてあちこちの部位がどんどん厚みを増し、最終的には鎧のように固い素材に変化した。その姿は、既に改造を終え戦闘員と化した悟と全く同じだった。
「陸くんはまだ洗脳が完了していないからね、暫く頭の中を綺麗にして教育を続けよう。教育プログラムはユニカバーが実行してくれるから、そこに並んで待機しておくように」
ユニカバーとはなんだろう。陸や悟の体を覆っている黒いもののことだろうか。
「はい」
マイクとスピーカーを通したような陸の声は、ますます人間離れしていた。陸は戦闘員の姿でゆっくり歩くと、悟の横に並んで気を付けの姿勢で固まった。陸は、完全に陸ではなくなってしまった。
「じゃ、次は秀士くんの番だ。うるさい子から先に改造しておけば良かったかな」
悟のお兄さんは、さっきカレーをよそってくれた時と変わらない笑顔で、恐ろしいことを言い放った。秀士は声を出せないまま身をよじり、抵抗の意志を示そうとしていた。
「ちょっとローテクなんだけど、僕はこれが好きなんだよな」
そう言いながら、悟のお兄さんは一つの機械を手に取った。それはただの電気マッサージ器だった。モーターによって卵型の頭の部分が振動し、肩凝りを治すという普通に売られているマッサージ器。一体何に使うのか、僕には想像できなかった。
「気持良くしてあげるよ」
悟のお兄さんはマッサージ器のスイッチを入れる。ブーンという振動音が静かな室内に響く。お兄さんは、その振動部分を秀士のサッカーパンツに、秀士の股間に、押し当てた。秀士は目を見開き、首を横に勢い良く振りながらなんとか逃げようとする。でも、しっかり固定された体がマッサージ器から逃げられる筈が無かった。秀士は声の出ない口をパクパクと動かし、鼻水や涙を流しながら首を振り続けたけれど、限界はすぐに来た。秀士は見開いた目を天井に向けながら一旦固まり、そして今度は腰を小刻みに上下に動かし始めた。射精だ。僕も何度もマスターベーションをしたことがある。だけれど、他人から強制的に振動を与えられて射精するというのは…。気持いいんだろうな。僕はそう考えてしまった自分に、競泳パンツと全身タイツの下でチンコを固くしている自分に、驚愕して自己嫌悪を覚えた。僕はバカな想像を振り捨てて、秀士の様子をうかがった。悟のお兄さんは、射精を一通り終えたらしい秀士の体からマッサージ器を離すと、手で秀士の股間を掴んだり、撫で回し始めた。光沢感があって滑らかな生地のサッカーパンツ越しに秀士の膨らみを触るお兄さんの手に、僕はどうしようもない羨ましさを感じていた。
「気持ち良かったろ。君達少年の精液を吸収したユニカバーは、すぐに君達の体を改造し、洗脳してくれる。秀士くん、君もすぐに立派な戦闘員に生まれ変われるからね」
秀士は天井を見詰めたまま、全く身動きをしなくなっていた。その一方で、黒い生地の表面は泡立ったように激しく動き始め、ユニフォームを同化し、秀士の頭や手足に触手のように伸びて秀士の全身を包み込んでいった。
暫くして秀士の全身は真っ黒に覆われてしまい、そして、後は陸と同じだった。全裸で目覚めてベッドから降り立った秀士は、胸に黒い印を入れられ、悟のお兄さんが命じるままに動いた。笑ったり怒ったり表情豊かだった秀士は、陸や悟の姿に憤って怒鳴り散らしていた秀士は、今はただの人形のようになって、勃起したチンコを晒しながら悟のお兄さんの前に立っていた。
「いい子だ」
陸の時と同じように、秀士の頭に手を置く。
「はい。ありがとうございます。司令」
秀士の言葉に、僕はまた驚愕した。悟のお兄さんはクククと笑いを漏らしていた。
「反抗的だった分、洗脳が進んでいるようだね」
「はい。司令。俺は司令に忠誠を誓います」
僕は耳を疑った。洗脳が進むとこんなになってしまうのか。
「じゃあ、秀士くんも変身してあそこに整列しなさい」
「はい。司令。変身して整列します」
秀士の姿はまたたく間に戦闘員に変わり、三人目として悟や陸の列に加わった。
「さて、声を出すことを許してあげようか」
「あ…」
また耳許で小さな音がして、僕は声を取り戻した。
「な、なんでこんなことっ」
僕は悟のお兄さんに食って掛かった。
「なんで?それはこの世の中をより良くするためだよ。僕が思い描く通りにね」
「それと僕達がどう関係あるんだよっ」
「大有りだよ。この世の中を変えていくのは若い力だ。でも、若い子達には力が無い。腕力も権力もね。だから、僕が君達を改造して力を与えてあげる。そして僕の思うがままに動くように、力を使って間違いを犯さないように、教育してあげる。君達は悟の友達だからね、最初に僕の部下となる栄誉を与えてあげたんだよ。喜びなよ。君達は僕の忠実なしもべとなり、この世の中を直していく正義の味方として超常的な力を与えられたんだから」
「ワケ分かんないよっ」
「君達の世代はもうテレビは見ないかなぁ。正義の変身ヒーローになって活躍する、なんて想像を働かせたことは無いかなぁ」
僕は言葉を失った。僕の妄想と似ている。でも、僕のとは、違う。違う筈だった。
「僕の頭の中には理想郷の姿がある。その理想郷を実現していくことがこれからの正義なんだ。その正義のために働く。君達はこれから正に正義の味方の変身ヒーローになるんだよ」
「変だよ、それなんか変…」
僕の言葉に、悟のお兄さんは憐れみの表情を浮かべた。
「そう、僕の教育を受けないと、そう思っちゃうだろうね。悟だってそうだったよ。悟の場合は先ず洗脳を優先したから、喜んでユニカバーを着て改造を受け入れてくれたけどね」
僕は背筋に寒いものを感じた。
「さ、君はどうだい、和道くん?」
僕はハッとして隣の和道の様子をうかがった。声を出せる筈なのに、和道は静かなままだった。
「…」
和道の口が微かに動いた。
「なんだい?聞こえないよ」
悟のお兄さんが面白そうに訊き返す。
「…だ…」
「だから、聞こえないって」
悟のお兄さんはニヤニヤ笑いながら、いたぶるように和道を問い詰めた。和道は急に大声を上げた。
「もうやだっ、もう、やめてくれっ、こんなおかしなことっ、もうたくさんだっ」
そして、和道はボロボロと大粒の涙を流し始めた。
「もう…やだ…よ…おれ…」
「カズちゃんっ」
僕は思わず叫んでいた。小学生時代から体格が良くて、上級生や中学生から売られた喧嘩は必ず買ってお釣りを付けて返していた和道が、泣いている。そのこと自体が信じられなかった。和道の嗚咽は止まなかった。
「うっ、うぅ…、悟も…っ、陸もっ、秀士もっ…俺、もう、もう…」
「カズちゃんっ、こんなベッド壊してさっ、逃げよっ」
どうせできないことは分かっていたが、気休めの言葉でもかけたくなるくらいに和道の横顔は情けない表情に変わっていた。その和道が、次の瞬間、信じられない言葉を吐いた。
「もう、俺、いいよ…、早く、一緒になりたい…」
「…え?…えぇっ?」
「俺も改造される。俺も戦闘員になる」
「ちょっ、カズちゃんっ」
気が付くと、和道の瞳はただ虚ろに天井を見上げていた。もう涙を流してはいなかった。
「俺も司令のしもべになりたいですっ」
今度ははっきりと、和道は宣言した。悟のお兄さんはクックックッと嬉しそうに笑った。
「精神に負荷かかり過ぎちゃったかな。洗脳が先行していたようだね。いいかい、英太くん」
悟のお兄さんは僕の顔を覗き込んできた。
「ユニカバーは着用の瞬間から、徐々に人体に浸透し始める。和道くんは肉体より先に精神をユニカバーに委ねてしまったみたいだよ」
和道をベッドに押さえ付けていたベルトが全て外れた。和道はゆっくり上体を起こした。僕は最後の望みをかけて怒鳴った。
「カズちゃんしっかりしてっ。早く逃げてっ」
けれど、和道は僕の声には耳を貸さず、逃げ出そうともせず、悟のお兄さんが手渡してきたマッサージ器を素直に受け取った。
「さぁ、気持ち良くなろう。ユニカバーの中に射精したら、君もすぐに秀士くん達と一緒になれる」
和道は返事もせずにマッサージ器のスイッチを入れ、それを自分で自分の股間に押し当てた。
「あ、あ、あ、あ、あぁ、ああぁ、あああぁ、ああっ、あっ、あっ、ああっ、ああああああああっ!」
吼えるような声を上げて和道は全身をビクッ、ビクッ、と揺らし、それが収まると、ガクリと首を垂らして気を失ってしまった。マッサージ器がゴンと音を立てて床に落ちる。和道の口からツーッと涎が糸を引いて落ち、そしてユニカバーという名のアンダーウェアは、すぐに和道の全身を侵食していった。
改造された四人の戦闘員が整列した様子を見せ付けながら、悟のお兄さんは僕に尋ねてきた。
「さて、と。英太くんが最後だね。君はどうしたい?」
僕はあらん限りの怒鳴り声を上げた。
「四人を元に戻せ!僕はあんな風になりたくない!みんなを元に戻して家に帰せよっ」
すると悟のお兄さんは不思議そうに首を傾げ、僕に近付いてきた。
「おかしいね、君も洗脳が先行して進んでいたのかと思ったけど」
そして、突然僕のチンコを競泳パンツの上から掴んできた。
「ひゃっ、やっ、やめろっ」
「ほら、こんなにしっかり勃起してるのに」
そう言われて、僕もやっと自分のチンコが勃っていることに気付いた。なんでこんな時に。僕は一気に顔が赤くなるのを自覚していた。
「もしかして、元々こういうのが好きだったのかな?」
悟のお兄さんは僕のチンコを握ったまま、話を続けた。
「友達五人で選ばれし戦士になるとか、変身ヒーローになる力を授けられるとか、ピッチリした揃いのヒーロースーツを着るとか、でも仲間が敵に捕まって洗脳されて敵に回っちゃうとか、敵の戦闘員や怪人として改造されて敵の首領の命じるままに味方を苦しめるとか、最後に自分まで敵に洗脳されてしまって、喜んで敵の首領の足許に跪くとか…」
何を子供じみた話を。と話を聞きながら僕は思っていた。思おうとしていた。でも、悟のお兄さんには見透かされていた。
「ほら、やっぱり好きだったんだね。英太くんのおちんちん、ますます固くなってきちゃったね」
そう言って、悟のお兄さんはアッハッハと声を上げて笑い出した。
「元から素質のある英太くんには、ご褒美をあげよう。英太くんはどんなエッチなことをしたい?」
意味の分からない質問に対して、僕は無視を決め込んだ。悟のお兄さんの視線から逃げるように、僕は目を逸らした。けれど、僕の頭の中には急に性的な欲望が具体的に溢れ出した。おかしい。なんでだろう。フェラチオ?アナルセックス?変だよ、僕はそんな言葉は知らない。どんな風にやるのかも分からない。裏筋を舐め上げてほしい。パンパンパンパンと壊れるくらいに肛門に出し入れしてほしい。奥の奥を突き上げてほしい。なんで?なんで僕はこんなことを知っているんだ?乳首を吸い上げてほしい。耳の穴をベロベロ舐めまくってほしい。キスしてほしい舌を思い切り絡めて舌と舌をザリザリこすり合わせてくれたら凄く気持ちいい。いや、そんなことは僕は知らない。悟に乳首を胸を掴んで揉んでもらいたいバスケットボールを掴み慣れたその手で僕の胸を鷲掴みにしてよ乳首摘んでコリコリしてよ。何考えてんだ僕はそんな筈無い。陸とキスしたい陸と舌絡み合わせたいニコニコ笑顔が似合う陸のその口を犯すのは僕だし僕の口を犯すのは陸であってほしいそうでなきゃダメだ。おかしいよ僕はそんなこと望んでない。和道にはその大きな手で僕の頭をがっしり掴んで耳の穴の奥まで舌で犯してほしいいつも僕の頭をポンポンって撫でてくれるように手と舌で僕の頭を愛しまくってよ。ダメだよ僕は変になってる変態になってる。秀士には、あぁ、秀士、セックスしたいよ秀士、いつもバカみたいなスキンシップしてさ、いっそのこと僕の肛門を犯してよ秀士にガバガバにしてもらいたいんだ秀士になら全部あげたい全身グチャグチャにされたい秀士のザーメンなら上の口でも下の口でもいっぱいいっぱい飲み干したいんだ犯して犯して犯して犯して…っ。
「そうなんだ」
僕はハッとしていつの間にか目の前に迫っていた悟のお兄さんの顔を見詰めた。まさか、僕のおかしな妄想を見抜かれていた?
「見抜かれたも何も、君は全部話してくれたよ。英太くんのエッチな願望」
「えっ…」
まさか。
「英太くんは友達みんなのことを愛しちゃってたんだね。友達みんなから全身を犯されたいんだ」
「う、うそだっ」
僕が怒りの抗議をしても、悟のお兄さんはニヤニヤといやらしい笑みを深くするばかりだった。
「ユニカバーを着せられた君は、まだ僕のしもべとしては洗脳されてはいないけれど、ユニカバーの侵食は確実に受けているんだよ。君の頭の中にはエッチな知識がたくさん流れ込み、君の潜在的な願望を抉り出した。そして妄想に駆られた君は全てを口に出して、いや、叫びながらそのエッチな妄想を僕達に教えてくれたよ」
「そんなっ」
「悟には胸を、和道くんには耳を、それぞれ攻められたいんだね。陸くんとはキスしたくてしょうがない。そして、秀士くんのことが一番好きなのかな。お尻の穴を犯されたくて、秀士くんの精液を飲みたくて、たまらないんだね。英太くんって、見た目と違ってかなりエッチだねぇ」
「…!」
僕は声にならない叫び声を上げていた。
「いいよ。かなえてあげる君の願いを。でも、秀士くんとのセックスは改造完了後だね。まだ君の体はユニカバーと同化していないから、先ずは競泳パンツの上から秀士くんにフェラチオしてもらおう」
僕の頭は沸騰していた。怒りによってではなく、興奮によって。その興奮は、友達四人に囲まれた時、その姿を見た時に絶頂に達した。秀士は、陸は、和道は、悟は、闘員用に強化されたユニカバースーツを着せられつつ、顎から上のヘルメット部分だけは装備を解除していた。いつもの友達の顔が、戦闘スーツと共にある。それはとても、
「かっこいいっ、みんなかっこいいっ、僕も改造されたいっ」
僕はこの時はまだ洗脳されたわけではなかったと思う。僕の本心だったのだと思う。それくらいに、戦闘員として、悪のヒーローとして、改造された友達の姿は魅力的だった。
主な性感帯の全てを同時に刺激され、僕はこれまでにない量の精液をユニカバーに捧げることができた。僕は至福に包まれながら、自分の体が変えられていく感覚を楽しんでいた。
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司令のしもべとしての改造と教育を終えた僕達五人は、毎日のように司令から与えられた任務を遂行し続けている。
例えば、クラスメートや部員達にユニカバーでできた洗脳用のチップを埋め込み、いつでも司令の忠実な兵士として行動するように準備を進めている。対外試合のように他校と交流を持てる場合には、洗脳チップの施術を行ないつつ、僕達のような戦闘員にスカウトするに値する候補者を探しリスト化している。学校の範囲を出ると、警察が取り締まらない犯罪者に私刑を加えたり、警察が捜査に行き詰まっている事件については当事者を洗脳して全てを自白させたり、汚職警官を見付けたら司令のしもべとして洗脳して更生させると共に、警察内部の情報を流させる使命を与えるようにしている。報道機関や芸能界も相当に腐っているから、目ぼしい関係者を見付けると洗脳を施し、情報源にしたり具体的な行動を起こさせたりしている。実効性の高い連中の中にしもべを増やしつつあるので次は永田町や霞が関だ、というのが司令の今後の作戦だ。
これらの任務を実行できているのは、やはりユニカバーという素晴らしい素材によって強化された僕達の体、そして戦闘スーツのお陰だった。また、ユニカバーは僕達に任務のための力を与えてくれるだけじゃない。ユニカバーは僕達に悦楽も与えてくれる。僕達五人はいつも悟の家に集まってお互いにセックスしたり精液を飲み合ったりしているのだけれど、ユニカバーと一体化した僕達は、戦闘スーツを着ながら、或いは部活動のユニフォーム姿で、フェラチオやアナルセックスを行なうことができる。僕が一番好きなのは、サカユニ姿の秀士に競パンを穿いたままの僕を犯してもらうこと、あとはお互い戦闘スーツ姿で兜合わせをすること。和道や陸も、それぞれ好きな性戯を持っている。
また、僕達は週に一回は司令が詰める研究所に行き、地下の秘密基地で司令に奉仕し精液を飲ませてもらいながら、司令の戦略や戦術を脳に記録して帰ってくる。
改造していただく直前、僕は自分が悪のヒーローに変えられる様を想像して興奮していた。でも、実際には違っていた。僕は悪のヒーローに悪堕ちしたわけではなかった。僕達は司令が描く理想世界を現実のものとするために、司令から与えられた使命に従って行動している。これは正義のために行動するヒーローそのものだ。仲の良い友達五人で正義の変身ヒーローになれたら、などという妄想を楽しんでいた時期もあったけれど、もう妄想じゃない。これは紛れもない現実だ。
僕は誇らしい気持ちを胸に抱きながら、隣の市の代表選手の首筋から細長い端子を引き抜いた。うっ、と呻き声を上げながら、新たなしもべは小さく痙攣した。これで君も僕達の仲間だ。ユニカバーの繊維が寄り集まって形成された洗脳用の端子は、素早く僕の腕の中に吸収されていく。県大会が行なわれた県営プールの更衣室で、僕は出場選手全員への洗脳チップ埋め込みを終え、無線通信で仲間達にそのことを報告した。
「グッ、ジョーブ。さすが英太。仕事早いなー」
頭の中に秀士の声が響く。僕の報告に一番に反応してくれるのはいつも秀士だった。
更衣室の中では、意識を取り戻した選手達がノロノロと立ち上がっていた。
みんな今日から、正義の味方の一員だよ。僕の言葉に、全員が無表情だけれど素直な返事を返してくる。いい子達だな。正義の味方はこうでないとね。僕の胸は嬉しい気持ちでいっぱいになり、またチンコも元気に勃起し始めた。司令に直接紹介したい選手については、後日研究所に自ら赴くように行動プログラムを刷り込んでおく必要がある。僕は良さそうな子に近付くと、再度洗脳用の端子を腕から伸ばした。
(おわり)
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