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  • 2014⁄01⁄11(Sat)
  • 22:10

小さい水泳部キャプテン

オレが拓也先輩と出会ったのは、中学校に入ってすぐに行われた部活動紹介の時だった。
体育館に集められた新入生に対して、ステージの上には各部が順番に登ってデモンストレーションや部の紹介をする。
オレは特に入りたい部も無かったから、それらにあまり関心を持てず、ぼんやりと時が過ぎるのを待っていた。
別に運動が苦手なわけじゃない。むしろ得意だ。
勉強に関してもできないわけじゃない。勉強しなくてもそこそこに点数は取れる。
しかしそれを余暇活動でやれと言われると、あまりやりたくないのが正直な気持ちだ。
頭の中でウダウダと考えていると、壇上に一人の男子生徒が登ってきた。
背丈は低く、同い年かと思うほどであったが、体格は意外としっかりしている。
顔も飛び抜けてカッコいいというわけでもないが、均整がとれて、幼さを残しながらも凛々しさを持った顔つきだ。
今までやる気なく部活動紹介を見ていたオレは、気が付けば真面目に壇上の男子生徒を見ていた。
小5くらいから気付いていたけど、オレはどうやら女子よりも男子の方が好きらしい。
それを考えると、壇上の先輩は自分の直球ど真ん中ストライクだったのだろう。
 「僕たちは水泳部です―――」
彼が口を開き、部活の紹介を始める。
僕という一人称に慣れていないのか、どこかぎこちない声で言っていた。
大会の実績、夏季以外の練習場所や練習方法、どんな人を求めているか――。
いろいろと言っているが、正直そんなことはどうでもよかった。
俺はもう、水泳部に入ることを心の中で決めたから。内容がどうあれ、俺は入部する。
そして一番知りたかった情報は、どうやら集会が始まる前に配られた紙にしっかりと書かれていたらしい。
 ――水泳部紹介 水泳部部長 土浦拓也(3-2)――
オレはその名前をしっかりと覚えると、ステージを降りる先輩の姿を、見えなくなるまで目で追った。
「なあ、部活どこにする?」
学校帰りに親友の和弘がオレに聞いてきた。
和弘は幼稚園から一緒。いわゆる幼馴染って存在だ。
オレは和弘のことは大体知っているつもりだし、
和弘もオレのことを大体知っているとオレは思っている。
そんな和弘にはオレの気持ちをさっさと言ってしまった方が良い。
「オレは水泳部がいいかなって思ってるけど」
すると和弘はオレの顔を見て「え!?」と驚いた。
そりゃあそうだ。和弘は俺と同じで特に入りたい部も無かった。
入学式の日に、思い切って帰宅部もありだよなと二人揃って言っていたくらいだ。
だから俺の水泳部がいいかな発言はあまりにも意外だったのだろう。

「す、水泳部?いったいなんでだよ?」
ここは素直に「水泳部の部長が自分の直球ど真ん中ストライクだった」と言うわけにはいかない。
でも何か上手い理由を言わないと、和弘に変に思われる。
「ほら、水泳部って夏は気持ちいいだろうし、冬は割と楽な感じするじゃん。
それに何だかんだ言ってもやっぱ運動部にいた方がいいだろうし」
とっさに喋ったから上手い理由にはなっていない気がする。
しかし和弘は案外納得したらしい。
「なるほどなー確かに野球部とかサッカー部とかよりは楽そうだよなあ。
………でも俺、泳ぐのは苦手だしなあ」
そうだ。確かに和弘はオレと同じくらい運動は得意だ。しかし水泳は苦手だった。
「…なあ、本当に水泳部に入るのか?」
再び和弘が俺に聞いてくる。やっぱりオレと同じ部に入りたいのだろう。
オレも最初はどの部に入るにせよ和弘と同じ部に入るつもりだった。
でもオレはあの―――拓也先輩のいる水泳部に入部したい。
悪いな和弘。俺はお前のことが嫌いではない―――
むしろ好きなのかもって思う時があるくらいだけど、ここは譲れない。
「ああ。オレは水泳部に入部するよ」
オレはきっぱりと答えた。
次の日の放課後。
今日から一週間は体験入部期間となる。
和弘は「俺は帰宅部にするかも」と言って帰って行った。
少し寂しそうな感じもしたし、お互い中学に入学してからまだ一週間も経っていない。
「やっぱり少し悪いことをしちゃったかな…」
そんな思いを抱きつつ、オレは入部届を持ってプールに向かった。

この学校にはプールがある。(水泳部があるから当たり前なのだが)
しかし水泳部には部室が無いらしい。
というのも、入学式で配られた校内の地図を見ても水泳部の部室は載っていなかったのだ。
野球部やサッカー部、バレー部などの部室は載っていたのだが。
そのため水泳部に入部したいオレはプールに向かうしか思いつかなかった。

そしてプールの入り口というのだろうか。扉に『男子更衣室』と書かれたドアの前まで来た。
隣にはもちろん女子更衣室があり、その先にはプールに入る前に浴びせられるシュワーがある。
さらにその先にプールがあった。

さて、まずは拓也先輩や他の人でも良いから水泳部の人を見つけないといけない。
そこでプールの方を見たが誰もいない。
(うーん…来たはいいけどどうしようかな…)
更衣室のドアノブに手をかけようとした、その時。

「あ、もしかして入部希望の1年生?」
あっその声は―――
後ろを振り返ると、そこには昨日の部活動紹介で見たあの先輩が立っていた。
「はっはい!」
思わず声が裏返る。まさかもう会えるなんて思ってもいなかった。
昨日と同じ、背丈は低いが体格は意外としっかりしていて、
顔は均整がとれて、幼さを残しながらも凛々しさを持った顔つきの先輩。
ああ、間近で見ると本当に魅力的だ。

「もう新入部員が来てくれるなんて嬉しいなあ。
あ、まずは自己紹介をしないとね。俺の名前は土浦―――」
「拓也先輩…」
「え?」

あっ思わず先輩の名前が出てしまった…。
「どうして俺の名前を?」
拓也先輩が不思議そうに尋ねてくる。
「き、昨日の集会の前に部長の名前が書いてある紙が配られて…それで知ったんです…」
何だろう。先輩とか年上の人とか、そういうこととは違った意味で緊張する。
額から汗が出てきた気がするし、何だか心臓がドキドキしてるし…。

「あーなるほど。覚えていてくれたなんて嬉しいなあ。
じゃあ君の名前は?」
「オ、オレの名前は…」
そしてあの時は本当に頭の中がプチパニック状態だったのだろう。
自分の名前を言うよりも先に、入部届を持った手が出てしまった。
「あ、入部届ね。えーと…1年2組、村上勇介くんだね」
「はっはい!」

この時、拓也先輩に名前を呼んでもらってはっきり分かった。
俺は、この先輩のことが、本当に、好きなのだと―――

「じゃあとりあえず更衣室の中に入ろうか。
ここが水泳部の部室みたいなものだし、もう他のみんなも来てるだろうしね」
そう言って拓也先輩は更衣室のドアを開けた。
すると中にはメガネを掛けた賢そうな背の高い男の人と
オレと同じくらいの身長のさわやかな顔をした人が喋っていた。

「おお、拓也」
「あ、先輩!」
二人の男の人が拓也先輩の方を向いて話しかける。
それに対し先輩も軽く返事を返す。

「突然だけどみんなに嬉しい知らせが…」
「と言っても後ろに見えてるぞ、拓也」
「え?」
「お前の後ろ。新入部員だろ?」

思わずオレは自分のことだと思いドキッ!としてしまった。
何事も第一印象が大事なのは分かっている。
でも今は拓也先輩の後ろにいるだけでドキドキして…。

「あ、バレちゃったか。
じゃあ紹介しないとね。1年2組、村上勇介くんー!」
すると先輩は『ジャーン!』という効果音でも出そうな勢いで
本当にオレを歓迎しているかのようにパチパチと拍手をした。

「あ、1年2組、村上勇介です!よろしくお願いします!」
オレの少しクールなキャラ(だと自分では思っている)にも似合わず、
元気いっぱいのキャラっぽい挨拶をしてしまった。
しかしこれが後に先輩たちからの印象を良くすることになる。
「おー!元気いっぱいだねー!
僕は2年の吉村健太。よろしくねー!」
先にオレと同じくらいの身長のさわやかな顔をした人が
オレの手を勝手に握って自己紹介をしてきた。
オレは緊張してああいう感じになってしまったわけで。
この先輩こそ元気いっぱいキャラって感じがする。

「ほら、かみやん先輩も自己紹介、自己紹介!」
「吉村、その言い方やめろ」
「あっすみませーん」
でも顔は全然反省していないように見える。
「…まあいい。
俺は3年の神山龍。副部長だ。
この水泳部は創部から3年目ということもあって部員数は少ないが―――」
「はいはーい!ストップー!
先輩はすぐそういう話をしたがるけど、いきなりの新入部員にそういうことはナシー!
あ、かみやん先輩は普段クールだけど根は悪い人じゃないから安心してね。勇介くん」
「は、はい」
本当になんて元気な人だろう。でも不思議と悪い感じがしない。

「まあ確かにこんな感じで人は少ないけど、」
「っていうかこれで全員だしな」
「はあ…かみやん先輩はすぐにそういう事を…」
「それが事実だろ」
すると吉村先輩は唇を左右に動かし、
いかにも悔しそうな表情をした。この先輩は面白いなあ。
それに神山先輩は冷静沈着な感じがして、頼れる先輩という感じがする。

「はいはーいー終了ー!
全く入りたての1年生にそんなとこ見せるんじゃないよー」
拓也先輩はそんなことを言いつつも顔は全然起こっていない。
「何だか楽しいですね」
ついオレがそう漏らすと、
拓也先輩は「あ、そう?それならよかった」と笑顔で答えた。
そしてオレがその笑顔にやられたのは言うまでもない。
(ああ、楽しい部活になりそうだなー!)

それからオレは水泳部について色々教えてもらった。
ここの水泳部は創部から3年目のためか知名度が低く、
部員がオレも含めて4人しかいないこと。
体育の授業で女子は女子更衣室で着替えるが、
男子は体育館の裏で着替えるため、この男子更衣室は
事実上水泳部の部室となっていること。
それから明日からプールの掃除を行って、
5月のゴールデンウイーク明けから泳ぐこと。

「とりあえずこんな感じかな。
何か聞きたいことはあるかな?」
拓也先輩がオレに聞いてくる。
と言われても特に聞きたいことは…ってあ!
「あの、水着ってどうすればいいんですか?
オレ、小学校のときに穿いていたボックス型のやつしかないんですけど…」
すると拓也先輩はオレを嬉しくさせる事を言ってくれた。
「とりあえず少しの間はそれでいいかもしれないけど、
水泳部に入ったことだし、新しい水着を買わないとね。
そうだ!今度の休みに一緒に見に行こうか!」

え?一緒に??
拓也先輩とオレが一緒に?
男同士とはいえ二人っきりで??
もしやこれはデー…


「じゃあ僕も行くー!」

あ………。
そんなオレの妄想も満面の笑みをした吉村先輩の一言であっという間に崩れ去った。
それにしてもこんな妄想をしてしまうオレって―――

「あ、龍も行く?」
「…俺は別にいい」

というわけで、
オレと拓也先輩と吉村先輩の三人は日曜日に
拓也先輩お勧めの駅前のスポーツショップに行くことになった。
まさかこんな光景を目にするなんて
思ってもいなかった―――


中学に入学してから最初の日曜日。
これといって特にすることもない。
適当に勇介とゲームでもしようかなと思い、
勇介の家に電話をかけたが本人は留守だった。
あーあ、暇だ、暇だ、暇だ。
家でゴロゴロするのも退屈だなあ。
…とりあえず駅前のゲーセンに行くか。
そんな適当な感じで駅に着き、
駅前のスクランブル交差点を渡うとしたら。


「勇介?」

俺の目の前を勇介が通り過ぎた。
しかも俺の知らない男二人と一緒に。
(本当に勇介なのか?)
一瞬だから見間違いだったかもしれない。
確かに顔はそっくりだったけど、襟付きのシャツなんか着ていたし。
(俺と遊ぶ時はいつもTシャツかトレーナーなのになぁ)

とりあえず俺は勇介と男二人の後を追いかける。
そして後ろから見て分かったことがある。
勇介は俺と遊ぶ時には
いつもゲームを入れる用の黒のリュックサックを持って来ていた。
そのリュックサックには去年の修学旅行で
俺とお揃いで買った赤のストラップが付いている。
で、俺が追いかけている男はそれと全く同じリュックサックを背負っている。

(ああ、間違いなく勇介だ)

俺の知らない男と一緒に
俺に知らせないで出掛けた勇介。
しかも楽しそうに会話なんかしてやがる。
何だか無性に腹が立ち始めたその時、
勇介たちは自動ドアの奥へと入って行った。

俺は上を見上げる。看板を見ると書いてあった文字は『スポーツショップ タカイ』

(ああ、そういうことか)
俺は勇介と一緒にいる男が誰なのか察しがついた。


やっぱり俺の予想通りだった。
俺が勇介たちに気がつかれないように
店内の商品を選んでいるふりをしている間、
勇介たちは水着コーナーであれこれ水着を水着を選んでいた。
だから勇介と一緒にいる男二人は水泳部の先輩。
そのうち一人はこの間の部活動紹介で見覚えがあった。
(背丈が低くて、同い年かよって思ったけど、
 顔つきや体格が意外と良かったから記憶に残っていた)

というわけで片方は部長。もう一人は2年生だな。
(この男は勇介にはタメ口だけど、部長には敬語だ。
 まあ敬語っていっても「○○だと思うんですけどー」みたいな軽い感じ)


さて、ここで俺は勇介に会いに行っても良かっただろう。
今の俺はストーカーと言われても仕方がないし、
勇介が他の男と一緒にいる状態を見るのが苦痛になっていた。

しかし、俺は勇介に会いに行こうとしても足を踏み出せなかった。
俺が近くにいるなんて知らないで
水泳部の男たちとこれがいいかなあ、あれもいいかなあ、
なんて会話を繰り広げている(ように見える)勇介。
その顔が―――俺が今まで見てきた勇介の中で一番の笑顔だったのだ―――

「ああ、何なんだよ…」

勇介たちはまだ店内に残っていたが、
俺はあの光景を見ていたくなくて店から出てしまった。
もうゲーセンにも行く気にもなれない。
俺はトボトボと家に帰るしかなかった。


家に着き、小学校の卒業アルバムを開く。
適当に入った野球クラブの写真も、
意外と楽しかった遠足や修学旅行の写真も、
俺が誰かと一緒に写っている写真の「誰か」はどれも勇介だった。
そう、俺の傍にはいつも勇介がいた。
俺たちは何かがあれば絶対お互いを信じ、頼っていた。
それなのに、ずっと一緒だったのに、中学に入学した途端に。

「オレは水泳部がいいかなって思ってるけど」

全てはあの一言から始まったんだ。
水泳部の、あの男たち―――いや、あの部長だ。
勇介が水泳部に入りたいと言ったのは部活動紹介の後だ。
だからあの部長が勇介を変えたんだ。俺の勇介を。

『中学に行ってもずっと一緒だからな! 勇介』

卒業アルバムのフリースペースに書かれた勇介の言葉。
買い物も終わり、今は三人で駅前のハンバーガー屋にいる。
吉村先輩のはしゃぎっぷりは多少うるさかったけど、
拓也先輩と一緒にいるだけで嬉しくなった。
(「勇介くんにはこういう水着が似合うと思うよ」
 って言われただけで心臓がドキドキした)

だから先輩と過ごした楽しかった…ただ一つを除いては。


「やっぱりVパンは恥ずかしいですよ…」

そう。今日まで俺が思っていた『水泳部の水着=スパッツ型』の法則が敗れたのだ。
なぜかと言うと、普段の部活ではスパッツ型の水着を穿くが、
「ある時」はVパン(ブーメランパンツ)を穿くと拓也先輩に言われたのだ。
そのため、オレはスパッツ型とVパンの2種類を買わざるを得なかった。

「え~今更そんなこと言うの~?
 うちの部活のルールなんだからさあ。先輩も言ってくださいよー」
「まあ恥ずかしいのも分かるけどね。
 さっきの買い物の時も言ったけど、
 うちの水泳部ではプール開きとか、試合の前日とか
 引き締めないと!って時の部活ではVパンを穿くよう
 顧問の先生に言われてて」
「まあその顧問は体調不良でずっと休んでいるけどー」

確かにさっきも同じことを言われた。
まあ、みんなでVパンを穿くなら恥ずかしくな…くはない…。
だって、俺は……デカチンだから、モッコリがまる分かりなわけで。
小学校の時の水着はサーフパンツだったから、モッコリも目立たなかったけど。
水泳部はてっきり水着はスパッツ型だけだと思っていたから
モッコリも大して目立たないなって思っていたのに。

「でもVパンって水の抵抗が少ないから結構良かったりするよ。
 それに勇介君は結構Vパンが似合うと思うな」
「え…」
「だって見た感じ体系がいいし、細身で足が長いから似合いそうだよ。
 それに勇介君の水着は俺が選んだんだし、絶対かっこよく穿けるって!」

そんな…そんなこと言われたら、
穿かないわけにはいかないじゃん!
モッコリが…モッコリがなんだ!
拓也先輩のVパン穿かなきゃ男が廃る!

「そうです…そうですよね!俺、Vパン穿きます!
 もう恥ずかしいなんて言いません!」
「よーし、その意気だ!」
その後、オレは先輩たちと別れ、家に帰った。
時刻は午後5時。うちの父親は仕事の関係で県外にいるし、
母親は看護師のため、土日でも家にいないことが多い。

(さて、どうしようかな…)

夕ご飯の支度をするのには早いし、
中一になったばかりだから宿題もない。
やることといえば…。

(やっぱり、買ったからには一度穿いてみた方がいいよな)

スパッツ型の水着とVパン。
拓也先輩がサイズは大丈夫って言っていたけど、
穿いてみないことには分からない。

とりあえず部屋にある鏡の前で服やズボンを脱ぎ、全裸になる。
鏡の前で立派に垂れ下がるオレの象徴。
まだ少ししか剥けてはいないが、人前に見せるには恥ずかしい大きさ。
実際に修学旅行の大浴場でも必死に隠していた。
隠していた理由は、単にアソコが大きいというだけではない。
クラスの気になる男子を見ては元気になるオレのアソコ。
そんなアソコを見られたら、オレのキャラは一気に崩壊。
ゲイだのホモだの言われることには耐えられないからだ。

そのため、オレのアソコの大きさは親友の和弘も知らないと思う。
逆に、和弘のアソコの大きさをオレは知らない。
お互いにそういう話は不思議と避けてきた。

(さて、穿いてみるか)

「それでサイズは大丈夫だった?」
「は、はい。サイズは大丈夫でした。だけど…」
「だけど?」
「…あ、いえいえ!何でもありません!」

次の日の放課後。
今日も先輩たちと一緒にプールの掃除。
オレがブラシでプールを洗っていたら、
拓也先輩が俺に話しかけてきたのだ。

(さすがに、言えないよなあ。
『結構モッコリしちゃいました。やっぱり恥ずかしいです。
  そしてオレは先輩の―――で抜きました』なんて…)


遡ること昨日の夕方。
とりあえずオレはスパッツ型の水着から穿いてみた。
そして鏡を見て思わず一言。

「思っていたより目立つなあ…モッコリ…」

スパッツ型は大丈夫だと思っていたオレには想定外。
俺のアソコが完全に上を向いて、股間を強調している。
さすがにはみ出ることはないが、(っていうかはみ出たらヤバイ)
肌の露出が少ないのでまだ良い方だ。だって問題は次のVパンだから。

オレは買ったばかりのVパンを手に取り、じっくり眺める。
拓也先輩が選んでくれた、白のラインが入った水色のVパン。

(やっぱり恥ずかしいけど…先輩が選んでくれたんだ。よし、穿くか!
部屋の鏡に映っている姿。
それは股間付近をブーメラン型の水着が覆っているだけの体。
あとは全てを露出した姿。少し毛深い足。割と筋肉がついた胸。
そして―――まっすぐ立派にその大きさを主張するアソコ。

「これは恥ずかしい…こんな姿、先輩たちに見せられない…」

こんなモッコリを拓也先輩に見られたら…。
さすがにからかう様なことはしなそうだけど(あ、でも吉村先輩はからかいそう)
それに…アソコからの毛も少しはみ出ている…。
これは剃るべきなのか…?先輩たちに聞いてみた方がいいよなあ…。
だって先輩たちもVパンを穿くのだから―――ってあれ?

ということは、もちろん拓也先輩もVパンを穿くってことだよな?
拓也先輩のVパン姿…。あの凛々しい顔でVパンを穿く拓也先輩…。
それに拓也先輩だってきっとモッコリするはず…。

(ってあれ?)
オレは思わずアソコを触る。

(オレのアソコが…アソコが元気になり始めたぞ…!)
まさか拓也先輩のVパン姿を想像したからか?
そんなことを思っていたら、オレのアソコがどんどんデカくなる。
そしてついにVパンの上からアソコの頭が“こんにちは”してしまった。
オレは思わず自分のアソコをVパン越しで触る。

「か、硬い…」


水着穿いてアソコが元気になっちまうなんて、傍から見たら変態だよな。
っていうか、まずはアソコを落ち着かせないと。
でもオカズは……今までは“アイツ”だった。
でも今の気持ちは―――



「あ…ああ!たく、拓也先輩! ああ!」

オレは『大好きな拓也先輩の競パン姿』を想像しながら抜いてしまった―――

※今回は拓也目線の話です。
 ただし勇介は出てきませんし、長い話です(汗)。

「じゃあ今日もお疲れさまでしたー」

現在午後6時。今日の部活も無事終了。
勇介くんは仮入部期間中だから先に帰り、
(なぜだか今日はずっと恥ずかしそうにしていた)
健太は用事があるらしくさっさと帰ってしまった。
部室に残っているのは俺と龍の二人。

「龍、そろそろ帰る?」

「ああ。帰るか」


俺と龍はこの中学で知り合った。
1年生の時にお互い同じクラスだったけど、
龍は俺と違って休み時間に誰かと喋るわけでもなく、
いつも一人で席に座って、小説を読んでいるか寝ているかのどちらかだった。
初めはクラスの男子が龍に話しかけていたけど、龍は「ああ」とか「だから?」とか
素気ない返事しか返さないから、次第に誰も龍に話しかけなくなった。…俺以外は。
そんな俺と龍が関わるようになったのは、顧問となる神谷先生が
「今年から水泳部を立ち上げる!入部したい奴はどんどん来い!待ってるぞ!」
と部活動紹介で言ったことが始まりだった。
俺は野球部に入るつもりだったけど、創部1年目の部活に入れる機会なんてめったにないはず。
せっかくだから入部しよう!と思ったら、同じ考えの人がもう一人いたらしい。それが龍だった。
入学式から間もない頃だったし、部室で初めて龍と会話をしたあの日のことは今でも覚えている。


「あの、」
「…なに?」
「確か同じクラスだよね」
「…そうだな」
「えーと、名前は確か、神山…龍くんだっけ?」
「…ああ」
「………」
「………」
「…背、高いよね?何センチ?」
「…165センチ」
「うわ、高い…。俺なんて148センチだよ」
「…あっそう」
「……」
「……」

「えーと、俺の名前は知ってる?」
「…出席番号13番 土浦拓也。好きな食べ物はカレーとハンバーグ。嫌いな食べ物はトマト。好きな教科は数学。嫌いな教科は―――」
「えっ、ちょ、ちょっと待って」
「…なに?」
「えっと、ど、どうしてそんなこと知ってるの?」
「…この間の自己紹介の時にクラスのみんなの前で話していただろ」
「あ…確かにそうだけど…でもよく覚えているね」
「…別に。これくらい」
「別にじゃないよ!凄いよ!俺、嬉しいよ!」
「…そうか?」
「そうだよ!だって普通あんな自己紹介すぐに忘れちゃうよ」
「…そういうもんか?」
「そうだよ!俺、嬉しいよ!」
「………」
「(あれ?もしかして照れてる?)」
「…なあ」
「?」
「…名前、なんて呼んだらいい?」
「俺の名前?俺は普通に『拓也』でいいよ!」
「拓也…」
「そう!あ、龍くんのことは何て呼んだらいいかな?」
「…呼び捨てでいい」
「じゃあ『龍』だね。これからよろしくね、龍!」
「…ああ、よろしくな」
あれからもう2年。
帰り道、龍と一緒に帰りながらふと思う。
あの日から俺と龍はよく一緒に帰る。
お互いの家は決して近くはないが、途中まで帰る道が同じなのだ。
龍は運動神経もいいし、頭もいい。ただ、周りとうまく溶け込むのが少し苦手。
幼稚園、小学校と仲が良い友達はいなかったらしい。
龍は無理して友達を作らない。誰かと一緒でないといられない人とは違う。
以前『周りとつるむのが嫌い』と龍は言った。それは龍の良さなのだ。
そういえば、1年半くらい前にはこんな話もした。
だいぶ俺と龍が打ち解けてきた頃で、運動会が終わった後の帰り道の話。

「あー、運動会終わったなあー」
「そうだな」
「疲れたけど楽しかったなあ」
「………」
「…龍、どうかした?」
「俺、運動会は好きじゃない」
「え?」
「運動会なんてつまらない。
 みんなで仲良くやりましょう、とか先生は言って。
 だいたい運動会のリレーで一番になったからって何になるんだ。
 みんなはみんなで大して仲良くない奴らと必死に仲のいいふりしてさ」
「…え、そんな…」
「でも」
「…でも?」
「今年は楽しかった」
「え?」
「今年は、何だかよかった」
「そ、それなら良かったな、龍」
「ありがと、拓也」
「へ?」
「ってわけで…えい!」
「ってええー!(なんで乳首をくすぐるのー!)」

これは龍なりの『感謝の気持ち』だったらしいのだが、
未だに俺は龍に感謝されるようなことをした自覚がない。
(運動会だって龍と二人で二人三脚リレーに出たくらいだし。
 龍にとってそんなにも楽しかった競技なのかはよく分からないけど…)
ただ、一つ言えることは、その後から俺と龍はさらに仲良くなった。
俺にくすぐり攻撃をするなんて、出会ったころの龍からは考えられないよな。



「―――でさあ、拓也」
「へ?」
「…もしかして話、聞いていなかった?」
「あ、悪い悪い!つい思い出に浸っていて…」
「思い出?意味が全く分からないな。そんな拓也には…えい!」
「わー!くすぐらないでー!」

帰り道、学校から10分ほどの所に目の前に公園がある。
この公園を境に俺と龍の帰る道は分かれる。
公園の東側の道が俺の家の方面で、西側が龍の家の方面。
だからここで分かれるのだけど、時々俺と龍は部活の後この公園で一息ついている。
この公園はブランコ、すべり台、鉄棒、ベンチ、自販機くらいしかない小さな公園。
だけど一息つくにはぴったりの公園なのだ。、
で、今日もお互いそんな気分なわけで。


「「かんぱーい!」」
俺と龍はベンチに座り、自販機で買った飲み物で乾杯をした。
これは毎回恒例でやる。
「龍は今日も缶コーヒー?」
「ああ。美味いからな」
「しかも無糖!」
「俺は甘いのが苦手だし。
 それにしても拓也、お前はまた…」
「べ、別にいいだろ!美味いんだから」
「美味いというより身長を伸ばしたいだけだろ」
「う、うるさいな、もう!
 俺は牛乳はカルシウムが大好きなの!」
「あーはいはい。分かりました分かりました。
 それに大好きなカルシウムのおかげで実身長は伸びてるしな」
「そうだろー!俺、カルシウムが好きでよかった」
「(やっぱり身長を伸ばしたいじゃんか)」
「でも龍には敵わないよ。身長いくつだっけ?」
「172センチ」
「じゃあ俺の今の身長は?」
「153センチ」
「さっすが龍!見たものの長さがすぐに分かるその才能、俺も欲しいよ」
「そうか?こんなの才能って言うほどのものじゃない」
「いやいや、そんなことないよ」

俺と龍はこの公園で他愛のない話をする。
でも俺はこの時間が大好きだ。
龍とこうやって過ごすのは悪くないな、と思う。
「それでさあ、新入部員が入ってよかったなあ」
「まあな」
「でもやっぱり一人だけかなあ」
「仮入部期間で一人だけだからな。去年に続いて一人か」
「ああ。去年の仮入部の時はもう2~3人はいたけどな」
「そういえばそうだよな。あれ?どうしてだ?」
「吉村のテンションの高さに他の1年生が引いたんだよ。
 それで本入部の時に残ったのは吉村本人だけだった」
「あー!そういえばそうだった!」

思えば一年前。
仮入部期間中にやるプール掃除の休憩時間に健太は
俺たちや他の1年生の前で突然踊りだしたのだ。しかも歌いながら。
本人曰く『これからの中学校生活が~楽しく~なりますように~ダンス♪』らしいのだが、
よく分からない創作ダンス(?)をプールサイドで10分もやられては
他の入学したばかりの1年生が引くのも無理はない気がする。
俺は楽しそうな人だなー程度しか思わなかったけど。
「正直言って、あの吉村のテンションは俺も最初は引いたからな。
 今でもそれなりに引いてはいるが」
「龍は『かみやん先輩』って言われているしね」
「あの呼び名はどうにかしてほしいな…悪い奴じゃないことは分かるが…」
「まあね。俺は健太のこと好きだよ」
「え?」
「だって人懐っこいし、素直だからさー」
「…ああ、そういう意味」
「うん?何か言った?」
「別に。何でもない」
「あ、そうだ。健太のことで思い出したんだけど、
 どうして今月になってからあいつは部活が終わるとさっさと帰るんだろ?」
「ああ。何かあいつ、春休みに彼女ができたらしい」
「え!」
「あ、拓也は知らなかった?」
「全然知らなかった!それ、ホント?」
「ホント。相手はバレー部の2年で、彼女と一緒に帰りたいだとさ」
「でもそれならそうと俺に言ってほしいよなあ」
「過去2回好きな子に告白して失敗している拓也の前では言いにくいんじゃないか?」
「あ…」

そう。俺は中1の冬と中2の秋に好きな女子(相手は別々)に告白して見事にふられている。
今となっては過去の思い出になっているけど。そういえば、その時もこの公園で龍に失恋の痛みを慰めてもらったっけ。

「でもこの間の日曜日は勇介くんの水着を買いに一緒に出掛けたよ」
「バレー部は日曜日は朝から夕方まで部活だからな。暇だったんだろ」
「あ、なるほど…」
「で、多分明日もさっさと帰るんじゃないか」
「え?でも明日の部活の後は…」
「まあな。でも付き合い始めのカップルだし大目に見てやろうか」
「え?何だか龍にしては優しい」
「そうか?俺はいつでも優しいぞ」
「えー、いつも冷たいのにー」
「あ、言ったなこのやろ!」
「わー、一日2回はやめてー!くすぐったーい!」


こんなだけど俺と龍は仲良し。俺は龍のことを親友だと思っている。
龍も同じ様に思っていてくれたら嬉しいなあ。
それに明日は部活の正式登録日。
これで勇介くんも水泳部員になるし、楽しみだなー。
中学に入学してから2週間が過ぎた。
今日は部活の正式な登録日とあってか、
教室はいつもより騒々しい。

「和弘はやっぱり帰宅部にする?」

朝、教室に入ってからホームルームが始まるまでの微妙な時間、
オレは和弘の席に行って聞いてみた。
当の和弘は机の上に肘を置き、
右手をぼっぺに付けてボーっとしながら、一言呟いた。

「ああ」
「…なんだか暗いな。何かあった?」
「………」

オレが水泳部に入部すると決めてからだろうか。
明らかに和弘の元気がない。
確かにオレだけ部活に入ったことを
和弘は抜け駆けだと思ったかもしれないけど。
オレが水泳部に入りたいって思ってしまったのは、
その…まあ、言ってみれば『恋』のせいだから仕方ないわけで。
水泳が苦手な和弘を無理やり入部させるわけにもいかないし。

「まあ帰宅部なら自分の時間が自由に使えるしな!」
「………」

オレは小学校の時から思っていることがある。
和弘は結構かっこいい顔しているから
サッカーとかをやっていたら絶対モテそうだと。
でも和弘はオレと同じで基本的に色々なことに『やる気』がない。
だからオレと気が合っていたし、
小5くらいから、女子よりも男子の方が好きだと気づいても、和弘に惚れることはなかった。
ただ、その整った顔立ちから、オレの夜のオカズには使っていた。
和弘を思う夜は気持ちよかったのだ。他の男子ではダメなのだ。
でも、和弘はあと一歩が足りなかった。それが『やる気』だと思う。
『やる気』がないからいまいち輝いていない。だからオレは和弘には恋心を抱けなかった。
こうしてオレは和弘に惚れる一歩手前の友人関係のまま、中学まで来たのだ。

そんなことを和弘のボーっと顔を見ながら久々に思っていると、
さすがに和弘も気づいたらしい。

「…オレの顔に何かついてる?」
「べ、別に…」
「あ、そう」

すると和弘は再びボーっとし始めた。
和弘の顔はまるで今まで思ってきた何かが崩れたかのようだ。

「なあ、」

和弘が小さな声で呟いた。

「勇介は本当に水泳部に入るのか?」
「うん」
「本当に?ホントの本当に?」
「…そうだよ」
「………分かった。そうだよな…」

和弘はやっぱりオレが水泳部に入って欲しくないのだろうか。
それにしても、和弘って今までオレのやることに口を出してきたっけ。

「なあ、やっぱり和弘って―――」
「おーい、席に着けー!ホームルーム始めるぞー!」
先生が教室に入ってきたので、和弘との会話は打ち切られてしまった。


その後も和弘と話す機会はなく、
(先週あたりから休み時間になると、和弘はすぐに教室からいなくなってしまう。
 最初の頃は学校中を探したけど見つからなかったし、本人に聞いても答えてくれない。
 だからオレはもう気にしないようにしている)
何だかんだでしていたら帰りのホームルームになってしまった。
ここで入部届が配られた。俺は迷わず『水泳部』と記入する。

日直当番の「さようならー」の合図と共にクラスメイトが一斉に散らばる。
和弘は本当に帰宅部にするのだろうか。
聞こうと思っても、もう和弘は教室にはいなかった。
…もう、和弘のことなんて知るもんか。
オレはオレだ。いよいよ正式に水泳部に入るんだ。拓也先輩と同じ部活で一緒になるんだ。
そう思うといてもたってもいられなくて、オレは入部届を持って早足で水泳部の部室に向かった。
部室のドアノブを握る。手には入部届。
仮入部の時に何度も来たのに今日は初めてここに来た時と同じくらい緊張している。

「こんにちはー」
オレは挨拶をして部室に入る。中にいたのは―――拓也先輩!

「おお、水泳部に入るんだな!」
「はい!こちら入部届です」
「確かに『水泳部』って書いてあるな。
 それにしても新入部員が入って良かったー…っ考えたらもう水着も買ったもんな」
「そ、そうですよね」

二人して一緒に笑う。
拓也先輩が「これからよろしくな、勇介」と手を伸ばして頭を撫でてきた。
あ、勇介くんから勇介になった。オレ、拓也先輩に水泳部員として認められたんだ。

「あ、今、勇介って言っちゃったけど、大丈夫か?」
「え?」
「ほら、たまに呼び捨ては嫌な人っているから」
「いえいえオレは大丈夫です!むしろ大歓迎です!」
「そっか、大歓迎か。それは嬉しいなあ、勇介」

ズッキーン!
ああ。恋をしてる感じってまさにこうなんだな。
拓也先輩に出会えてよかった。こんなにドキドキするのは初めてだ。
「改めまして村上勇介です。よろしくお願いします!」
今日から正式に水泳部員として、先輩たちの前で挨拶。
「よろしくねー、ゆーちゃんー」と吉村先輩。
(『ゆーちゃん』って…。まあ吉村先輩だしな)
「ああ、よろしくな」と神山先輩。
(相変わらず大人っぽいなあ)
そして「これから頑張っていこうね!」と拓也先輩。
(ああ…やっぱりかわいい!)
結局、新入部員はオレ一人だけだったけど全然気にならないし、
仮入部の時からの流れでいられるから居心地がいい。
それに拓也先輩がいるし。それだけでオレの気持ちは高ぶるばかり。


「というわけで今日の部活は終わりです。みんな、お疲れさまでした」
「「「お疲れさまでしたー」」」
今日から本入部だから、オレも先輩たちと同じ時間に部活が終わる。
そういえば、先輩達って部活が終わった後はそのまま帰るのだろうか。
すると拓也先輩が話を続けた。

「じゃあ今日は予定通り―――」
「あ、部長、僕はちょっと」
吉村先輩が話を遮る。
「ああ。健太は彼女と帰るんだったな」
「え?」

俺も同時に「え?」と言ってしまいそうになった。
吉村先輩に彼女?それに今日の予定って?
いったい何の話だろう?

「昨日龍に聞いたんだ。吉村に彼女が出来たって。だから彼女と早く帰りたいだろ?」
「せ、先輩…。すみません、何だか僕ばっかり…」

あれ?いつも軽い感じの吉村先輩の顔が申し訳ない感じになっている。
そっか、吉村先輩には彼女がいたのか。(失礼だけど少し意外だな)

「あー健太が俺に気を使う必要なんてないのに。ほら、早く行けって!」
「はい!」
「彼女、大事にするんだぞ」
「も、もちろんですよ!」

そう言うと吉村先輩は荷物を持って颯爽と部室を出て行った。
その時、拓也先輩が「上手くいくといいな…」と呟いていたのをオレは聞き逃さなかった。
その顔は寂しげな感じがして、もしかして拓也先輩は前に…。
(でもこういうことは触れない方がいい話だよな)
「それじゃあ龍、勇介。俺たちも行くか」

そうだ。今日の予定って何だ?

「あ、あの。今日の予定って何ですか?」
「え?勇介、聞いてないの?」
「は、はい」
「ったく、健太にちゃんと伝えておくように言ったのに。なあ、龍?」
「ああ。あいつは彼女のことで頭がいっぱいだったようだな」
「そうみたいだな…。で、今日の予定っていうのは、この後銭湯に行くって話でね」
「せ、銭湯!?」
「そう。去年から新入生の歓迎の意味でやっているんだ。『男同士の裸の付き合い』って意味を込めてね」
「お、男同士の…裸の…付き合い…」
「結構そういうのって大事だからね。それじゃあ龍、勇介、行こう!」
「ああ」
「は、はい!(銭湯ってことはオレのアソコが見られないようにしないと…)
 それにこれって先輩の裸を見ることに…。こ、心の準備があ!」
学校から銭湯は歩いて20分ほどの所にあった。
拓也先輩と神山先輩と話しながら向かったのだが、
オレはこの後のことを考えることに精一杯で話の内容をほとんど覚えていない。
だだ、唯一覚えていたことがある。それは拓也先輩は昔、好きな人にふられたということ。
だから今、拓也先輩はフリーだと言っていた。
その話を聞いた時、何だかオレは嬉しくなった。


「拓也くん、また来たね」
「はい。今日は新入部員の歓迎で来ました!」

銭湯に着くと、拓也先輩はこの銭湯のご主人に自己紹介するよう促した。
「初めまして。水泳部に入部した、む、村上、勇介です」
「ほー、村上くんだね。こちらこそよろしく。緊張しているのかな」
「は、はい…(それはこの後のことを想像しているからで…)」

この後のこと。
それはもちろん、銭湯に来たということは風呂に入るわけで、
風呂に入るということは全裸になるわけで、それはオレの…デカチンが見られ、しかも、拓也先輩の裸を見ること…。
「まあそんな緊張しないで。今は他にお客さんもいないからゆっくりしていきなよ」
「は、はい…」
ご主人は某有名フライドチキンのお店のおじさんに似ていて、
優しくオレに声をかけてくれるのだが、オレの緊張は止まらない。
いよいよこの後、拓也先輩と着替えるんだ…。


「あ、そうだ。龍、先に勇介と一緒に風呂に入っていて」
「ああ。どうせいつもの話だろ?」
「さすが龍!分かってるね」

え?
と思っている間に神山先輩が「こっち来い」とオレを手招きする。
オレはそれに答え、神山先輩に付いて行く。
「どういうことですか?」
「拓也はこの銭湯に来ると、いつもご主人とさもない話をするんだ」
「さもない話?」
「最近はあのアイドルがいいとか女優がいいとかそういう話だ」
「へー…ってことは拓也先輩はアイドルとか好きなんですか?」
「ああ。拓也もそういう年頃だからな」
「神山先輩は好きじゃないんですか?」
「俺は興味ない。ほら、先に風呂入るぞ」

気づいたらもう脱衣所にいた。
神山先輩がドアを閉め、二人っきりになる。
考えてみたら、神山先輩と二人の状態って初めてだな…。
神山先輩ってクールでよく分からない感じがするけど、実際はどうなんだろう…。

「何考えてるんだ?」
「え、あ、いや、何でも…」
「…さっさと着替えるぞ」
「は、はい!」

い、いよいよだ…。
学ランのボタンを外し、Yシャツのボタンを外す。
隣の神山先輩の方をチラチラ見るが、オレと着替える速さはほぼ同じ。
お互いシャツを脱ぎ、上半身裸になる。
(うわ、筋肉あるなあ)
思わずオレは神山先輩を見て思ってしまった。
細身な体型に似合わず、筋肉がついていて、これがいわゆる『逆三角形』なんだろうな。

そんな中、神山先輩は黙々とズボンと靴下を脱ぎ、トランクスだけの状態になった。
一方、オレもパンツだけの状態に。オレもトランクスだからモッコリ具合は分からない。
けれど、このパンツを脱いだらオレのアソコを見せることになるんだ。
もう、覚悟を決めるしかないか…。



と思ったら。
自分が荷物入れに使っている脱衣所のロッカーの上にタオルが置いてあるじゃないか!
オレはジャンプしてタオルを手に取る。
(よし、この長さなら腰に巻いて着替えられる!)

「お前、何してるんだ?」
「え?」

さっきまで黙々と着替えていた神山先輩がオレに話しかけてきた。
まだパンツだけの状態で。

「まさかそのタオルを腰に巻いて着替えるとかじゃないよな?」
「あ、いや、その…」

タオルで隠すのはマズイだろうか。
でもオレのデカチンを見せるのは恥ずかしくて…。

「お前さあ、もしかしてチンコ見せるのが恥ずかしいのか?」
「あ、いや、」
「…やっぱりな。どうりでさっきから緊張しているわけだ」
「………」

バレた。完全にバレた。

「お前、男だろ?何恥ずかしがってるんだ?」
「………」

言葉が出ない。
…もうここは正直に言うべきだろう。相手は先輩だし。

「オレ、」
「うん?」
「オレ、アソコがデカイから…その…恥ずかしくて…」
「…ふーん」
「か、神山先輩は分からないかも知れないですけど、デカイって恥ずかしいんですよ!」
「でもオレよりは小さいだろ?」
「え?」

すると神山先輩は一気にトランクスを下ろした。
そこから現れたのは―――チン毛が全く無く、先が剥けて立派に垂れ下がるアソコ。
色は黒くて太さもある。パッと見て10センチはある。

「13、7センチ」
「え!…もしかして、神山先輩の…ソコの大きさですか?」
オレは神山先輩のアソコを指さして質問した。
「そうだ。13、7センチ。もちろん勃ってはいないぞ。
 …さっきお前は自分でデカイと言っていたが、これよりは小さいだろ?」
「は、はい…(何センチかなんて知らないけど…)」
「じゃあタオルなんて使わないでさっさとパンツを脱げ」
何だ…オレは怒られた…のか?
でも不思議と嫌な気はしないし、むしろ先輩の優しさ…のようなものを感じる。
それに先輩は『アソコは堂々と見せろ!』言いたかったのだろう…。

オレはパンツを脱ぐ前に少し神山先輩の方を見た。
身長170センチくらいの高身長に、メガネを掛けた細身の体。
体毛はほとんど無く、一層その大きさと黒さを目立たせているアソコ。
それなのに全然恥ずかしそうにしていなくて、
腕を組みながら脱衣所のロッカーにもたれかかっている姿。
その姿に、オレは思わずかっこいいと思ってしまった―――

「お前、俺に見とれているのか?」
「い、いえ、そんな!」
「…さっさと脱げ、パンツを」
「は、はい!」
オレは今、神山先輩の前で自分のアソコを晒している。

「11、8センチ。デカイって思うのも無理ないか」
「はあ…」

普段のオレなら両手なりタオルで股間を隠したいだろが、
目の前に自分より大きいアソコを見せられているこの状況で隠したいとは思えない。
むしろ堂々としていられる。それはある意味ありがたいことなのだが…。

(どうして神山先輩は見ただけで長さが分かるんだ?)

「オレは昔から見ただけで長さが分かるんだ」
「えっ!」

(今、オレの心を読んだ!?)

神山先輩は少しニヤニヤしながら言葉を続ける。

「お前、『オレの心を読まれた!』とか思っただろ」
「は、はい…。でも、どうして…」
「顔に書いてある。それだけだ」

そう言われて、オレは思わず両手を頬に当ててしまう。
もちろん本当に顔に文字が書いてあるとは思っていないけど。

「でも良かったな」
「え?」
「お前の顔、今は緊張がほぐれている」
「そ、そうですか?」
「ああ。人前でチンコを見せるのがよっぽど嫌だったんだな」
「は、はい。でも、先輩はアソコも大きいのに堂々としていて…」
「…俺は色々とあったからな」
「色々…ですか?」
「ああ。…それより風呂に入るか」
「そ、そうですね」


風呂場を背にしていた神山先輩は振り返り、風呂場のドアを開ける。
そうなるとオレは神山先輩の背中と尻、特に尻が自然と目に入ってしまう。

(引き締まってる…。これが『プリケツ』ってやつだろうか…)

こんなことまで神山先輩に読まれたら変態扱いされるだろうから
気をつけないと…と思いつつ、オレは神山先輩に続いて風呂場に入った。
オレと神山先輩は一人分間を空けて風呂イスに座り、体を洗う。
いつもなら股間にタオルを置いて洗うのだが、今はもうそんな気持ちにはなれない。
堂々と体を洗うという言い方も変だけど。例えて言うなら、家の風呂と同じような感覚でいる。
そういえば、オレは神山先輩に聞きたいことはあるのだが、
(さっき言っていた『色々』って何ですか?とか、
 風呂に入る時も何でメガネを掛けているんですか?とか)
神山先輩は黙々と体を洗うので何も声を掛けることはできなかった。

そんな事を考えていたら体を洗い終わったのだろう。
神山先輩はシャワーを止め、浴槽に向かったので、
オレもシャワーで体に付いた泡を洗い流し、浴槽に向かう。
すると神山先輩は浴槽に入る直前でオレの方を向いて声を掛けてきた。

「何だ、後輩だからって俺の後に付いてこなくてもいいんだぞ」
「いえ、ただ先輩が風呂に入っているのに
 オレだけ体を洗っているのもちょっとアレかな…と思って」
「ちょっとアレ?…まあいい。どうせ俺に聞きたいことがあるんだろ?」
「え?」
「さっき言っていた『色々』って何ですか?とか、
 風呂に入る時も何でメガネを掛けているんですか?とか」
「………!」

この先輩は本当によく分かるんだな。またオレに顔に書いてあったのだろうか…。

「お前、拓也と同じで分かりやすいな」
「え…」
「あ、今、拓也がいつ来るか気になっただろ?」
「………!」

もう、オレの心は完全に読まれているに違いない。
もしかするとオレが拓也先輩に抱いている思いも…。

「いつもと同じなら、拓也は来るまであと5分くらいかかるな。
 それまで風呂に入ってるか。お前だって俺に聞きたいことがあるしな」
「は、はい…」

為されるがまま、とはこういう状況のことを言うのかもしれない。
風呂でのんびりとはとても思えない心境の中で、
オレは神山先輩に続いて風呂に入った。
のんびりとは言えない入浴ではあったが、意外な収穫もあった。
神山先輩が風呂でもメガネを掛けているのは単に視力が悪いからで、
泳ぐ時も度が入ったゴーグルを使っているらしい。
もちろん収穫とはその話ではなく、もう一つの『色々』の話。

「それで、先輩がさっき言ってた『色々』って何なんですか?」
「ああ。それは俺も昔はお前と同じだったってことだ」
「え?どういうことですか?」
「俺、昔からチンコがデカくてな。
 お前と同じで昔はタオル巻いて着替えてたりしたんだよ。やっぱり恥ずかしくてな」
「先輩がですか?」
「ああ。俺は小学3年生頃から自分のチンコが他人よりデカいことが気になりだしてな。
 水泳の授業の着替えの時、クラスの奴が俺が腰に巻いていたタオルを取ったんだ。
 そいつからすれば軽いいたずらだったらしいが、その時俺はちょうど下に何も穿いていないくてな。
 俺はチンコを晒してしまった。もちろんすぐに両手で隠したが、周りの奴らはしっかり見てたらしい。
 それで俺は『デカチン男』ってあだ名がついたんだ」

デカチン男…。小学3年生とはいえ、神山先輩がそんな風に呼ばれていた時期があるなんて想像できない…。
「ただ、それは夏休み直前の事だったから、夏休み明けにはみんなすっかり忘れてた。
 それが救いだったんだが、それ以来俺は他人の前でチンコを晒すのは絶対に嫌になった。
 さっきお前に『チンコ見せるのが恥ずかしいのか?』とか言ってた俺がな」
「そうだったんですか…。それならなんで今は堂々と着替えられるんですか?」
「ああ。それはな、今の一年は無いみたいだが、
 俺の頃は入学してすぐにどっかの山小屋で一泊二日のオリエンテーションがあってな。
 そこで友達を作りましょうみたいなくだらない行事だ」
「くだらないって…」
「そこはどうでもいい。で、その夜、風呂の時間があってな。
 大浴場でクラスの男子が一斉に同じ風呂に入るわけだ」
「………!」
「な、お前も分かるだろ?デカチンの奴ってのはそういうのが凄く嫌だよな。
 クラスの中心で盛り上げ役みたいな奴がデカチンならみんなに晒しても平気だろうが、
 俺みたいな奴がデカチンだとバレたら馬鹿にされる。それは絶対に避けたかった」
「ということは、その時の風呂も…」
「と思うだろ?でも違った」
「え?」
「クラスで一人堂々と着替えた奴がいてな。しかもそいつのチンコは―――」

その瞬間、風呂場のドアが開いた。
そこから現れたオレと同じ位の背の―――拓也先輩!

「龍、勇介、お待たせ!」

拓也先輩がオレと神山先輩が入っている湯船に近づいてくる。

「お、その本人のお出ましだ」
「え?」

その本人?と思っていたら、拓也先輩とオレの距離がどんどん近くなる。
拓也先輩の裸がどんどんオレの近くに…!と同時に自然に目が行く拓也先輩のアソコ。
近づいてくるから拓也先輩のアソコは…こういう言い方は恥ずかしいけど…ブラブラしているわけで。
始めは遠くにいたから大きさなんて分からなかったけど、近づいてきたら必然的に分かるわけで。

(デ、デカい…!これは神山先輩よりデカチンじゃないか…!)


「待たせて悪かったね」
「そ、そんな…」
(拓也先輩のアソコがオレの目の前に…!こ、こう、興奮する…!)
「拓也、さっさと体洗ってこい」
「はーい」
オレの目線の先で拓也先輩が体を洗っている。

「で、そいつのチンコは俺よりデカかったわけだ」
「………」
「…おい、聞いているのか?」
「は!す、すみません…何の話でしたっけ…」
「…さっきの話の続きだ」

ヤバイヤバイ…。体を洗う拓也先輩に見とれていて、
隣に神山先輩がいることをすっかり忘れていた…。

「あ、クラスで一人だけ堂々と着替えていた人がいたって話でしたよね」
「そうだ。そいつのチンコが俺よりデカくてな。
 そいつが今、お前が見とれてた拓也だったってわけだ」
「!」
「な、正直びっくりしただろ?あいつのチンコのデカさに」
「ま、まあ…」(それもそうだけど拓也先輩を見とれてたことも気づかれた…)
「それでな、拓也のチンコの長さはなあ、じゅう…」
「スト―――プ!」

神山先輩が拓也先輩のアソコの長さを言おうとしたその時。
拓也先輩が風呂イスから立ち上がって話を中断させた。
体が泡まみれの状態で。
(でも股間辺りは既に洗ったのか泡が付いていない)

「どうした拓也?」
「どうしたはこっちのセリフだよ!さっきから俺のアソコの話して!」
「アソコ?…ああ、チンコのことか」
「チン……龍はどうしてストレートに言えちゃうんだよ…」
「何だ?拓也は相変わらずこの手の話には弱いな」
「べ、別にいいだろ!」
「まったく、そんなデカイチンコをぶら下げておきながら―――」
「だからそういうことは言うなよ…」

オレはただ呆然と二人の会話を聞くことしかできない。
顔が真っ赤しながら話す拓也先輩と
それを相変わらずクールな顔で返す神山先輩。
これはどう見たって神山先輩の方が上手だ。

「あ、勇介だって拓也のチンコのデカさにビックリしたってよ、なあ勇介?」

(え!いきなりオレに話を振らないで下さいよ!)

「勇介、やっぱりデカイと思うか?」
拓也先輩が湯船に浸かっているオレのを向いて聞いてくる。
だからオレは拓也先輩のアソコを直視できるようになって…

(ヤバイ!ついにアソコが元気になってきちゃった!)

「そ、そうですね……大きいな、とは思いました…」

とりあえず正直に返答する。
アソコが勃ってもここが湯船の中で助かったと思いながら。
「やっぱりデカイか…」

落ち込む拓也先輩。隣にいる神山先輩は何となく勝ち誇ったように見える。
それを見てオレは少し悔しくなってしまった。
だって、神山先輩は良い先輩だけど、拓也先輩が落ち込む姿を見るのは嫌だ。
オレだって先輩たちほどではないけどデカチンなんだし。

「でも、大きいのは立派だと思いますよ…」

すると拓也先輩と神山先輩は同時に「え!?」と言った。
特に隣にいる神山先輩は
『お前、さっきまで恥ずかしそうにしてたのによくそんな事言えるな』とでも言いたそうだ。
だからオレは今神山先輩の方を向くのが怖い。
でも目の前の拓也先輩の顔は明るくなった。

「勇介、ホントにそう思うか?」
「は、はい…やっぱり…男が大きい方がいいですよね!」

もちろん正直に言うとそんな事は思っていない。
アソコが大きいのはそれだけ恥ずかしい事だと思うから。
でも今は神山先輩に何を言っても敵わない拓也先輩を助けたかった。
(オレだって神山先輩に色んな事を見透かされて悔しかったし)

だからこそ、隣にいる神山先輩が無言な事が怖い。非常に怖い。

「男が大きい方がいいかあー 
 よーし、俺も体洗って風呂に入るか!」
オレの右手に拓也先輩。左手に神山先輩。
今オレたちは三人揃って湯船の中にいる。

拓也先輩が体を洗って湯船に入るまでの時間。
数分だったとは思うが、その間のオレと神山先輩の間に流れる時間は
神山先輩の『色々』を聞いていた時とは一転して重かった。非常に重かった。
今は今で、拓也先輩がオレの隣に来たせいもあって、オレのアソコは元気になりっぱなしだし。
(拓也先輩が隣にいるのは嬉しい事だけど、反対側にいる神山先輩が黙ったままなのが怖い)
そのため、せっかく拓也先輩があれこれ話題を振ってくれるのに上手く会話が出来ない。

「勇介はどの辺に住んでるの?」
「え、えーと…学校から15分くらいの西町のアパートに住んでいます…」
「西町かあー。俺は東町だから反対側だな。今度遊びに行こうかな」
「え!?オレん家に…ですか?」
「ああ。嫌か?」
「べ、別に嫌ではないですけど…」

むしろ大歓迎だ。好きな先輩がオレん家に来てくれるなんて嬉しいに決まっている。
だけど何というか…隣にいる神山先輩の沈黙のオーラ…みたいなものが凄くて…。

「…あ、もしかして他人を家に入れちゃいけないとか?」
「そ、そういうわけじゃないですけど…」
「なあ」

オレがどう返事をすれば良いか困っている中、神山先輩が口を開いた。
「勇介」
「は、はい!(え!オレ!?)」
「出ろ」
「え?」
「風呂から出ろ」

風呂から出ろ…いったいどうして?

「龍、どうしたんだ?」
拓也先輩が神山先輩に訪ねる。
「…少し拓也と二人で話したいことがあってな」
「今じゃないとダメなのか?」
「…ああ」

すると拓也先輩は申し訳なさそうに「勇介、悪いな」と言ったので、
オレは「はい、分かりました」と返して風呂から出た。
(スタスタ出て行ったせいか、股間をタオルで隠しながら出て行っても
 神山先輩には特に何か言われたりはしなかった)

こうして、緊張で始まったオレと拓也先輩と神山先輩との銭湯は
何だかんだであっけなく終わってしまった………と思たのだが。
「どうだった?お風呂は」
「とても気持ちよかったです」
「そう。それなら良かった」

脱衣所から出て学ラン姿のオレを出迎えてくれたのは
某有名フライドチキンのお店のおじさんに似ているご主人だった。
(精神的には気持ちよかったわけではなかったけど、それはこの銭湯が悪いわけではないし)

「でも一人だけ?拓也くんと龍くんは?」
「実は拓也先輩と神山先輩は二人だけの話があるみたいで…」
「それで追い出されちゃったんだ?」
「そうですね。追い出されちゃいました」

さっきまで緊張していたせいか、このご主人の話し方にとても癒される。
それからオレは、拓也先輩と神山先輩が風呂から出るまで
近くのイスに座って待っていようかとご主人促されたのでイスに座わった。

「でも拓也くんは優しいでしょ?」
「はい。優しい先輩です」
「それなら龍くんは?」
「…正直に言っていいですか?」
「いいよ」
「優しくないわけではないですけど、
 クールというか、人の気持ちを読むのが上手いというか…」
「なるほどね。分かるよ。龍くんは中学生とは思えないくらい大人だから」

やっぱりそうなんだ。決してオレだけが神山先輩のことをそう思っていたわけじゃないのか。

「でも龍くん自信も人の心を読まれるのを恐れている節があるからね」
「え?」
「彼は決して周りに知られなくない秘密がある」
「秘密…ですか?」
「そう。知りたい?」
「え…」
「大丈夫。交換条件とかではないから」

秘密…オレの気持ちを散々読んできた神山先輩の…秘密…。
何だか人の弱みを握るみたいで嫌と言えば嫌だけど、オレの中の好奇心がウズウズしている。

「それなら、教えて下さい」
「そうこなくちゃね。それじゃあ言うよ。
 ………実はね、龍くんは、拓也くんのことが好きなんだよ」
「………え?」
「好きって言っても友達関係の好きではなくてね。
 友達関係という一線を踏み越えた好き…意味は分かるよね?」
「は、はい……でも、え、ちょ、ちょっと待って下さい、」

神山先輩が拓也先輩の事が好き…え?。
神山先輩は拓也先輩と同じ3年生で、同じ水泳部で、え?そんな、そんなまさか。
「まさかじゃないよ。
 龍くんは拓也くんと一緒に2年前から時々この銭湯に来るけど、
 初めて見たときから分かったよ。『ああ、この子は拓也くんのことが好きなんだな』って」
「で、でもそれは、ご主人の、勘違いではないですか?」
「そんなわけはないよ。
 誰が誰を好きなんて目を見ていれば分かるものだし…。
 それに勇介くん、君もね」
「え?」
「大丈夫。君の思いは他の人に言ったりはしないから」

オレの思い…え、もしかしてオレが拓也先輩のことを…好きってこともご主人は…。

「相手が相手だけど、頑張ってね、勇介くん」

ご主人がオレの肩をポンポンと叩く。
すると後ろからドアがガラッと開く音がした。
振り向くと拓也先輩と神山先輩がタオルを片手に学ラン姿で脱衣所から出てきたところだった。
帰り道。
銭湯から帰る際に、ご主人はまた来てねと笑顔で言ってくれた。
ただ、その笑顔が少し怖いと思ってしまったのはやはりさっきの話のせいだろうか。

「せっかくの新入部員の歓迎なのに、あまり一緒にいられなかったね」
「は、はい…」

ご主人の時とは一変して緊張してしまうオレ。
やっぱりオレは拓也先輩のことが好き…なんだな…。
一方で、オレの隣に無言でいる神山先輩も拓也先輩のことが好き…。
まだ信じられないけど、あのご主人が嘘をつくとは思えないし。
それに目を見れば分かると言っても、正直オレにはよく分からない。

「そういえばもうすぐゴールデンウィークだね」
「そ、そうですね」
オレがそんな想いを抱いているなんて拓也先輩は気付く訳もなく、
話は今週末から始まる4連休のゴールデンウィークの話になった。

「何か予定ある?」

何か予定…そういえば、いつもゴールデンウィークは和弘と遊んでたなあ。
和弘っていえば最近様子が変だし、明日声掛けてみようか。

「友達と遊ぼうかな、なんて思っています」
「そっかあ。今のうちに遊んでいたほうがいいもんね」
「え?」
「ほら、3年生になると受験に向けて補講とかあるから。なあ、龍?」
「ああ」

そっか…拓也先輩も神山先輩も3年生だから受験生なんだよな。
あ、そうえいば先輩たちはさっき二人で何を話していたのだろうか。
聞こうと思ったけど、気が付いたら学校に着いてしまい、
結局、先輩たちと離れてしまったので聞けなくなってしまった。

さあ、今週末はゴールデンウィークだ。
『事故Ⅰ』

4連休前日の午後8時。
神山龍は自室のノートパソコンで日記を作成していた。
その日記のタイトルは『土浦拓也の記録日記』。
日記には、土浦拓也が休み時間に話していた人物や内容や、
授業中に発言した内容、給食でおかわりをしたメニュー等が事細かに書かれている。
2年前の4月から始まっているこの日記は、今日が今年4月最後の日記となっていた。

彼は両親と3人で住宅街の一軒家に暮らしている。
基本的に彼は食事や風呂以外は二階の自室にいることがほとんどであり、
両親も彼の自室に入る事はほとんどなかった。
なぜなら、彼は自分の服も布団も全て自分で掃除をし、
自分以外が自室に入る必要が無い状態を作っているからである。
いや、正確に言うと彼の自室は『誰も入れられない』状態であった。
彼は自室の壁に100枚以上の写真を貼っており、それら全てに土浦拓也が写っていた。

(もう少しで今年もお前の競パン姿を見られるよ、拓也)
『事故Ⅱ』

日記の作成が終わった後は、土浦拓也の写真を鑑賞するのが彼の習慣となっている。
特に部活で撮影した、競パン姿の土浦拓也の写真はお気に入りであった。
彼はVパンを『競パン』と呼ぶ。口に出して他人に言うことはないが、
つまりそれは、彼がそっちの方面の知識を持っている証拠なのである。



キキ―――!ドン!

窓の外から普段聞かないような音がした。
彼はカーテンを開き、窓を開けた。
彼は窓から下を見下ろすと、自宅の前の道で自動車が止まっており、その前で人が倒れていた。
それと同時に次から次へと人が集まってきて、事故現場を野次馬のように囲む。
誰がどう見てもこれは事故である。下の方からザワザワとした声が聞こえる。
「違う!俺は悪くない!この子供が勝手に飛び出してきたんだ!本当だ!」
車の運転手だと思われる人間が叫ぶ。その一方で、彼は顔色一つ変えずに二階からその様子を眺めていた。


数分後に救急車が到着すると、次第に近所の人たちは自宅へ戻っていき、彼も窓を閉めた。
何となくだが、これから始まる何かのきっかけの事故になる、そんな気分に浸りながら。
『事故Ⅲ』

4連休前日の午後8時30分。
村上勇介は右手に弁当が入った袋を持ちながら、
コンビニから自宅へと向かっている所だった。

彼は両親と3人で暮らしている。
ただし、父親は仕事の都合で県外のおり、
母親は看護師のため、夜勤などで自宅にいないことが多い。
そのため、朝食も夕食も一人で食べることは珍しくなかった。

(結局、和弘と話す機会がなかったなあ。明日からゴールデンウィークなのに…)

水泳部の先輩たちと銭湯に行った翌日から今日まで、和弘は学校を休んだ。
勇介は心配になり登校前や下校後に彼の自宅に行ってはみたものの、応答は無かった。
電話もしているのだが、ずっと留守電になっている。
勇介が和弘と何日も音信不通になることなんてこれまで無かった。

(大丈夫かな。明日の朝も和弘の家に行ってみるか)

そんなことを思いながら自宅に向かう勇介であったが、
この帰り道ですれ違った救急車の中に和弘がいるとは思いもいなかった―――

『先生の趣味Ⅰ』

4連休2日目の午前10時30分。
神谷明己仁は病室のベッドで本を読んでいた。
本にはブックカバーがしてあるため何の本かは分からないが、
活字の多さと本の大きさからみて、おそらく文庫本であった。

「お、ようやく来たな」

今日、彼は待ち合わせをしていた。
その相手は自分が担当している部活の部長である土浦拓也である。
拓也が到着すると明己仁は本を閉じ、床に置いてある紙袋の中に読んでいた本を入れた。

「お久しぶりです。すみません、道に迷ってしまって…」

拓也は右手に数本の花を持ってやって来た。
顔が少し疲れており、呼吸が少し速い。急いでやって来たことが一目で分かる。

「はい、神谷先生。少ないですけど花束です」
「おお、ありがと。って、俺のことは名前で呼んでくれていいのに」
「そういうわけにはいきません。先生ですから」
「相変わらず優等生だねー」

明己仁は生徒との距離を少しでも縮めるために、
生徒たちに自分のことを『明己仁先生』と呼ぶように言っている。
また、学校ではスーツではなくカジュアルなシャツを着たりする等、
基本的にラフな恰好でいる。これも生徒との距離を少しでも縮めるためである。
『先生の趣味Ⅱ』

「そういえばもうすぐ退院なんですよね?」
「ああ。3日後には退院できるらしい。入院生活2ヶ月長かったなあー」
「まあ先生も…」
「年って言いたいのか?」
「あ、いえ、そんな…」
「俺はまだ33だからこれからですよー」

明己仁の相変わらずの親しみやすさに拓也は安心した。
特に面白いこともないであろう病室では、明己仁は凄く退屈だっただろう。

「ところで、どうして今日は俺を呼んだんですか?」
「ああ。着替えとかを職員室まででいいから持って行ってほしくてな。
 退院日だと拓也は学校だろから、今日来てもらったわけ」

俺は物運びの為に呼ばれたのか、と拓也は思った。
それと同時に、明己仁は優しいけれど人使いが少し荒い事を思い出した。
床を見ると服や下着などの着替えが入った紙袋が3つあり、
その内の1つはブックカバーがしている本がたくさん入っている。
『先生の趣味Ⅲ』

「じゃあこの3つを持って行けばいいんですね」
「あ、その本が入っているのはいいや。俺が退院したら持って帰る」
「そうですか。じゃあこの2つを持って帰りますね」
「ああ。よろしく頼む…ってもう帰るの?」
「午後から補講がありますから」
「相変わらず優等生だねー」

そんなことないです、と言って拓也は病室を出て行った。
一方、明己仁は水泳部に新入部員が入ったのか、
もし入ったならちゃんとVパンは買わせたのか等、
聞きたいことは色々あったのに聞きそびれてしまったことを悔んでいた。

(まあ退院したら分かる事だしな。さっきの本の続きを読もう)

あまりクヨクヨ考えないのも明己仁の良いところである。
彼は床に置いてある紙袋から先ほどまで読んでいた本を取りだした。
そして、ちょうどこの本の醍醐味ともいえる場面を読み始めた。


『あの、もしかしたら引いちゃうかもしれないけど、僕は、先輩のことが、す、す、好きです』
『………』
『あ、やっぱり引きますよね。すみません。無かったことにして下さい…』
『……俺もだよ』
『…え』
『俺もお前のことが好きだ。いつも一生懸命で、かわいいお前が大好きなんだ』
『え、そんな…本当…ですか?僕、男ですよ…?』
『俺も男だ。恋愛に性別なんて関係ない。好きになっちまったんだから仕方ないだろ』
『……!』
『告白ありがとう、勇助』
『写真Ⅰ』

拓也を呼んでから3日後。
退院の手続きを済ませた神谷明己仁は、右手に紙袋を持って病院の屋上に向かっていた。
紙袋の中には、彼が大好きな本が10冊程度、ブックカバーをしている状態で入っている。

明己仁は2ヶ月の入院生活中、よく屋上にあるベンチに座って読書をしていた。
入院当初の屋上はまだ寒かったが、4月に入ると次第に暖かくなり、読書をするのは気持ちよかった。
退院当日である今日、最後の別れというほどのことではないが、明己仁は何となく屋上に来たくなっていた。

(いつ行っても屋上は人がいないからなあ。それもまたいいんだよな)

そんなことを思いながら屋上に着いた明己仁であった。
すると彼の目線の先に、白いベンチに座っている一人の少年が目に入ってきた。

(お?珍しい…)

青のチェックのパジャマを着た少年は、ベンチに座りながら右手に持った一枚の写真を見ている。
隣には松葉杖が置いてあり、足を怪我したために入院していることが一目で分かる。
松葉杖を使っているのにわざわざ屋上に来るなんて変わった奴もいるものだな思った明己仁は、
足元に本の入った紙袋を置き、少年の隣に座って話しかけた。

「足、怪我しているのか?」
「………」
「あ、俺は別に怪しい奴じゃないからな。今日この病院を退院する神谷明己仁っていうんだ。君は?」
「………」

少年は返事をせず、ずっと手元にある写真を見ている。
明己仁はその写真を覗き込んだ。
写真はおそらく運動会に撮られたものだろう。運動場をバックに、
今ここにいる少年と、もう一人、彼の友達だと思われる少年が、肩で腕を組んでいる。
二人の男が仲良さそうに密着している写真。こういう写真に明己仁は弱かった。

「とりゃ!」
「…!」

明己仁は少年から写真を奪い取った。
『写真Ⅱ』

「写真ばっか見てー。知らない人は無視するってか?」
「…あなた、誰なんですか」

少年はようやく返事をし、明己仁の顔を見た。
きれいな顔をしているけれど、顔の表情や声のトーンから、寂しそうな雰囲気をしているなと明己仁は思った。

「だからさっき言ったじゃん。今日退院する人だって」
「…俺に何か用ですか?」
「用?用ってわけではないけど、君は面白そうだなーって思ってな」
「…俺が面白そう?」
「そう。だって、松葉杖を使っている人が屋上にくるなんてなかなかいないよね。君こそ何でわざわざ屋上に?」
「…あなたには関係ありません。それより、写真を返して下さい」

明己仁にとって写真を返すことなんて構わなかった。
しかし彼は、不思議と目の前にいる少年をいじってみたいという衝動に駆られた。
どうしていじってみたくなったのか。それは少年が持っていた写真から『何か』を感じたためである。

「俺の質問に答えたら返してもいいよ?」
教師として自分と生徒との距離を少しでも縮めるよう心がけている明己仁にとって、
子供、しかも初めて会った少年に上から目線で話しかけることはそうそうあることではない。

「質問…ですか?」
「ああ。この写真に写っているもう一人の男は誰かな?」

明己仁は右手で写真を少年に見せながら、左手で写真に写っている少年を指差した。

「それは…俺の友達です」

少年は静かに答えた。頬を赤く染めながら。

「………」
「答えたから、写真、返して下さい」
『写真Ⅲ』


写真を返した後も明己仁は少年の隣に座っていた。
怪しまれない程度にこの少年のことをもう少し知りたい。
そんな明己仁の思いが、彼をまだ屋上に残していた。

「君は何年生?」
「…どうしてそんなこと、あなたに言わなければならないんですか?」

先ほど少年が答えた「それは…俺の友達です」という返事に明己仁は疑問があった。
確かに答えとしては変ではない。
しかし、本人は気付いてはいないだろうが、「俺の友達です」と言うのに普通、頬を赤く染めるだろうか。
この少年はもしかして、いや、間違いないと明己仁は思っていた。


「まあ、今時の若者は初対面の相手にほいほい自分のことを言わないからなあ」
「…そうですね」
「でもな、俺は違うぞ」

そう言うと明己仁は足元に置いてある紙袋から一冊の本を取り出した。
ブックカバーがしてあるその本から紙製のしおりを取り出し、
ポケットに入っていたボールペンでそのしおりに何かを書き出した。
その様子を少年は不思議そうに見る。

「…何しているんですか?」
「俺の連絡先を書いているんだ」
「え?」

少年が驚いている間に、明己仁は自分の連絡先を書いたしおりを本に挟んで少年に差し出した。
『写真Ⅳ』

「この本、やる」
「え?どうして…ですか?」
「これも何かの縁だ。この本は今の君が読むのに丁度いい」
「でも、知らない人からもらうわけには…」
「知らない人って。俺の名前は神谷明己仁、今日退院する人ってさっき言ったろ」
「あ、いや、そういうことじゃなくて…」
「じゃあ聞くけど、俺が怪しそうな奴に見える?」

この時、少年は戸惑った。
正直なところ、少年は目の前にいる男性がずっと怪しく見えて仕方がなかった。
しかし、男性の妙な親しみやすさと最近の自分自身の孤独さが重なり合って、
そんなことないです、と返事をし、差し出された本を受け取ってしまった。
最後には、さすがに本をもらうのは悪いから、本を読み終えたら明己仁に連絡して返すという話で落ち着いた。

「じゃあ俺は帰るわ」
「え?」
「俺、こう見えて先生をやっててな。さっさと帰らないといけないんだよ」
「あ、そうなんですか…」
「じゃあな。早く足、良くなるといいな」
「は、はい」

何だか寂しいです、と言いそうになった少年を背を向けて、明己仁は屋上を去って行った。
一方で、少年は神谷明己仁という男性への警戒心が薄れ、入院6日目にして孤独を感じ始めていた入院生活の中、
仲の悪い両親や、自分以外の男と仲良くしている友達がいる状況で、連絡すればまた出会える人の存在に少し安心していた。
『写真Ⅴ』

男同士の恋愛なんて現実には滅多にない。そんなこと、明己仁は百も承知だった。
しかし、絶対に無いとは言い切れない。世間一般には許されないであろう、アブノーマルな恋愛。
小説でも映画でもドラマでもない、友達の一線を越えた恋愛を一度は見てみたいと明己仁はずっと思っていた。
そのために、自分が勤めている中学校に水泳部を創部したとは、土浦拓也たちを始めとする水泳部員たちは思っていもいないだろう。
明己仁にとって、部活、裸、競パンは若い男の恋愛に欠かせない要素であった。


病院から出た明己仁は、先ほど出会った少年のことで頭がいっぱいであった。
名前は聞いてはいないが、写真に写っていた体操服の名札を明己仁は見逃してはいなかった。
少年、つまり先ほど出会った足を怪我している者の名前は『佐野和弘』。
そしてもう一人、佐野和弘と一緒に写っていた者の名前は『村上勇介』。

明己仁が和弘に小説を貸したことには理由があった。
先ほど和弘に渡した小説は、明己仁が入院中に呼んでいた同性愛小説の主人公であり、
『ゆうすけ』という中学一年生が、同じ部活の先輩に恋をしてしまう物語である。

明己仁が思うに、和弘は勇介のことを想っていながらも、友達関係を超えるアプローチはしていない。
だからこそ、和弘が小説の中の『ゆうすけ』を実在する『村上勇介』を重ね合わせ、
このままでは自分の大切な人が誰かに奪われてしまう、その前にアプローチをしないと、と思うことを望んでいた。
和弘が小説を読むことで『何か』が起こることを信じて。

(あの『超奥手男』の恋愛は期待できそうにないからなあ………。今度こそ男同士の恋愛が見られるといいなあ)

明己仁の願いが叶うかどうかは、まだ誰にも分からない。
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