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  • 2013⁄04⁄18(Thu)
  • 00:26

娼婦少年

父親が一億一千五百万円の借金を残して自殺したのは僕が七歳の時だった。
 どのような約定が交わされていたのか、今でも僕には分からないのだが、僕の身柄は某広域暴力団の預かりということになった。
 初めてお客さんをとったのは十一歳の時。
 今日、十三才と一ヶ月の僕は、やはりお客さんに抱かれている。
「はぁ……、あっ……あぁ……、あうぅッ!!」
 ローションをたっぷり入れられたオナホールで、僕は陰茎を強制的にしごき上げられる。両手をベッドの端に赤い紐で縛られているから、抵抗することもままならない。天井の白熱灯がやけにまぶしい。
 柔らかすぎるくらいのグニャグニャなシリコンが僕の幼い勃起肉に絡みつく。ネチョネチョとイヤらしい粘着音が非貫通型の玩具から響く。僕はたまらず嬌声を上げる。
「ひああぁッ……! い、いやぁ……、こんなのぉ、こんなのでイきたくない……。やあぁ、ひやあぁッ!!」
 女の子みたいな喘ぎ声がホテルの壁に反響する。内藤さんは面白がって、さらに手の動きを速めていく。
「こんなのは非道いなぁ、せっかく君の為に買ってきたのにさぁ。結構高いんだよ、コレ。さぁ、もっともっと感じてよ」
 内藤さんはお客様の中では優しい方なのだけれど、それでもかなりの変態さんだ。怪しげな玩具を買ってきては、すぐ僕に試したがる。そのたびに僕は新たな性感を開発されてしまう。
「ほーら、グチュグチュになっちゃうねー。真咲くん、気持ちいい? ねえ、気持ちいいー?」
「はひいぃッ! き、きもひいいれすうぅ。……と、溶けちゃうぅ、僕、ぼく、溶けちゃうよおぉっ!」
 厚手のシリコン生地で作られたオナホールはどんなに強く握っても圧力をあまり感じさせない。ただ、複雑に施された中の加工が、もの凄い変化をしながら僕のペニスを刺激しまくる。それはテコキとも女性の膣内とも違う、圧倒的な甘美だ。
「ひッ! ひいぃッ! あひいぃッ!」
 僕はどんどん登り詰めていく。たまらず手首に縛られたロープを握りしめる。
 しかし、オナホールの使用では、どんなに気持ち良くても強烈な一撃が生じない。射精寸前のビクビク感が延々と引き延ばされる。女性が感じるオルガスムスに近い感覚なのだろうか、普段では感じることの出来ない悦楽に僕はガクガクと震える。
「はは、いい感じみたいだねー。さー、まずは射精しちゃおうか。その後は、お兄さんも楽しませてよ」
 クライマックスの際を感じ取り、内藤さんの手つきはより一層乱暴なものになっていく。僕は熱いとろみがどんどんペニスの先からあふれ出すのを感じる。全身が硬直し、腰がガクガクと震えはじめる。
 千々に乱れた呼吸の先、絶頂の光が目の前に広がる。
「ひっ! ひぐうっ! い、イっちゃうぅッ! イくぅ、イくぅ、イくうぅッ! イぐううぅッ!!」
 ドビュウウゥッ! ビュルルウゥッ! ビュルウゥッ! ビュウゥッ! ビュッ! ドビュウウゥッ!
 僕は今日の一番搾りの精液を、円筒状をしたシリコンの内に噴き出した。
 大量の放出で、半透明のオナホールは中が一辺に白濁に染まる。僕の精子が潤滑剤と混ざり、トロトロと下から垂れる。薄い陰毛が濡れ、下腹部に張り付く。
「はは、ヒクヒクしちゃってる。やっぱ真咲くんは可愛いねぇ。お兄さんもいろいろ用意のしがいがあるってもんだ」
「……あ、あうぅ、……はうぅ」
 僕は全身を痙攣させながら、遠くに内藤さんの声を聴いている。まだ意識がはっきりしない。呼吸が引きつる。
 しかし、そんな僕の状態を意にも介さず、内藤さんは次のプレイの準備を進める。
 僕のペニスからオナホールが外される。それを内藤さんは両手に持ち、クルリと表裏をひっくり返す。
 柔らかいシリコン製の玩具はクルクルとその表皮を返し、円筒は複雑に入り組んだネトネトの面が表になる。ローションと精液の混合物が、トロロのように糸を引いている。
 ベチャリ。僕の頬にオナホールの表面が当てられる。
「うぅ……」
 僕は思わず顔をそらす。しかし、まだ手首が縛られているから、この状況から逃れることはできない。
「ほら、真咲くんの出したモノだよ。美味しそうだ……」
 内藤さんはオナホールの穴に指を差し入れ、僕の頬を丁寧に撫で回す。粘度の高い液体が、顔にネトネトと塗りたくられる。
 それはやがて、僕の口にも近づいてくる。
 放心状態で半開きだった僕の唇に、濡れたオナホールが強引にねじ込まれていく。
「……ふ、ふぐうううぅぅッ!!」
 突然の玩具の進入に僕はたまらず呻き声を上げる。アゴをのけぞらし、首をよじる。
「いいねぇ、いい声を出す……。そそるよ、真咲くん……。やっぱ君は最高だ」
 違う、この声は演技なんかじゃない。僕は本当に苦しいんだ。
 タダでさえ息苦しい所へ、強引に突っ込まれたシリコンの塊。僕の体は薄まる酸素にビクビク震える。
 ……ブジュウウゥッ! グジュジュウゥッ! ブジュッ! ブジュッ!
 口の中がデタラメに掻き回される。
 それは、どんなキスだってこんなにはならないだろう異様な感触だった。まるで、怪物の舌で強引に口内の垢ををこそぎ落とされているみたいだ。ローションと精液の味が喉の奥にまで入ってくる。
 オナホールの中の指が、僕の舌を摘んでくる。舌はヌルヌルと滑り、捕まえることは出来ないが、それでも絡みつくシリコンの感触に僕はくぐもった悲鳴を上げる。
「あぐううぅ……! う、うぶうぅっ……! ふぶううぅっ……!」
 ヨダレを飲み込むことが出来ない。僕の口からは大量の液体があふれ出し、アゴがベタベタに汚れていく。跳ねた雫は僕の胸やら額やら、あるいはベッドの上に落ちていく。
 あまりの苦痛に僕は身をひねる。しかし、内藤さんの指はしっかり僕の口に差し込まれたままだ。僕には逃げるコトなんて出来やしない。
「自分のモノの味はどうだい……? とってもエロいだろ。お兄さんの大好きな味、やっぱり真咲くんにも味あわせて上げたくてさ……」
 徹底的に口内を陵辱された僕はもう限界だった。頭の中がピンク色に霞んで、何も考えられない。勃起の収まらないおちんちんだけがとても熱く感じる。全身が上気し、瞳は涙で濡れている。
 ようやくオナホールが口から抜かれた時には、僕はもう身体に少しも力が入らなかった。クテッと身体をベッドに投げ出し、虚ろな目で天井を見上げていた。
 内藤さんのローションまみれの指が、僕のお尻に近づく。指の先端が、僕の窄まりにあてがわれる。
 僕の体は反射的に縮こまる。
 グッ! ググゥッ……、ズズッ!!
「ひううぅっ!」
 僕のアナルには、一気に二本の指が差し込まれた。下半身から伝わる強烈な圧迫感に僕は呻く。
 内藤さんの指が肉環を激しく出入りする。ローションが塗られていても、そこには猛烈な熱が生じてくる。
 熱い。僕の身体からはイヤな汗が滲み始める。
 お尻から広がる悦楽のパルス。僕の開発された性感帯はこんな乱暴な愛撫も快感として受け止めてしまう。
 中に入った指がねじられながら、広げられる。僕の菊座は楕円形に広がりながらゆっくりと回っていく。
「うぐぅ……、うっ、ううぅッ! ふぐうぅ……」
「真咲くんはいいねー。まるで女の子みたいな反応だ……。ほら、こんなところがいいのかい?」
 内藤さんの指が奥まで押し込まれていく。そして、少し伸びた爪が僕の敏感な前立腺に当たる。
 カリッ、カリ、カリカリ……。
「ひやあああぁッ!! や、それやあッ! いやあぁッ!」
 強烈な刺激に僕は発作的にのけぞる。しかし両腕を縛られた僕の体はただベッドの上でのたうち、シーツにシワをよらせるだけだ。
 内藤さんの指先の動きは緩急をつけた絶妙なものになっていく。鋭敏な場所を掻き、少し立ったら優しく撫で、快感が散った直後にまた強く押す。
 身体の奥から熱い液体があふれ出すのが分かる。凶悪な愛撫に導かれ、腸液がS字結腸を越えて来たのだ。
「あはははは、大変だ真咲くん。こんなにエロエロになっちゃって……。発情真咲きゅん、可愛いなぁ……」
 内藤さんは残った手を僕のお腹に這わす。体液で濡れたおへそを撫で、中指の先を柔らかい肉に突き立てる。
 指先が、僕の体を這い上がってくる。
 ツウゥと中指は僕のみぞおちを通過し、胸元にまで寄ってくる。何かを転がされているかのような感触に、僕の背筋は反り返っていく。
 まっすぐに上がってきた内藤さんの指は、そこで大きく右にカーブする。
 狙いは僕の乳首だ。内藤さんの指は僕の乳輪の周囲をクルクル回り、先端の勃起を誘っていく。
「はあっ……、はうあぁ……、あぁ……、あはぁ……」
 イヤらしい指使いに、僕の官能は高まっていく。血液が僕のオッパイの先に集まり始め、乳首はまるでアポロチョコのような形に変形していく。
 イヤらしい三角錐の乳頭が、僕の胸に屹立する。
 オッパイの勃起を確認すると、内藤さんはその逆方向にも狙いを定めてくる。指先が再び滑り、こんどは左の乳首を回り始める。
 しかも、この刺激の合間も、僕のお尻に入った指は動きを休めない。いよいよ高く粘着音を響かせながら、僕のお尻をとろけさせていく。
「あっ……、ひやあぁッ! あっ、あっ、あっ……、あぐうぅッ!」
 ついに僕の胸は小高いピンクの山が二つも立つことになった。先端が心臓の鼓動にあわせてビクビクと揺れる。
「ほーら、真咲くん完全形態だ……。じゃあ、そろそろ頂こうかな……?」
 内藤さんはそう言うと、僕のお尻から指を引き抜いた。
「ひゃぐッ!」
 開いた穴から、腸液と混ざったローションが垂れ落ちるのを感じる。僕は消失した圧迫感に安堵し、少し深く息を吸い込む。
 でも、すぐにそんな状態も終わる。内藤さんはベッドに膝をつき、僕の太ももを掴む。
 腰が持ち上げられていく。痛いくらい勃起したペニスが縦に揺れ、先から雫が落ちる。
 そして、お尻がガッチリと内藤さんの両手で固定される。彼の柔らかい亀頭の先が僕のお尻にあてがわれる。
「いくよ……、いいね?」
「は、はい……」
 僕の同意を確認すると、内藤さんは再び僕の腰を持ち直し、ペニスを中に突き立て始める。
「ひうッ!」
 ズウゥッ! ……ズッ、ズッ! ……ズウウウッ!
 内藤さんの長く熱い逸物が、僕の直腸を進み始める。指とは比べモノにならない野太い肉塊が、肛門を押し広げていく。
 僕は少し息み、菊門を自分で広げる。ジュブジュブとイヤな音をたてながら、挿入は続く。
 ついに、内藤さんのペニスが根本まで埋め込まれる。ガツンと身体の奥を押す圧力に、僕の背筋がゾワゾワと震える。
「顔、凄く赤いよ。……そんなに今日は感じちゃってるの? そんなにいい?」
「はい……、気持ちいいです。おちんちん、入れられるのって……好きなんです。繋がってるって……カンジぃ」
 ハァハァと口で息をしながら、僕はお客様の問いに正直に答える。気持ちいい……。やっぱセックスって、気持ちいい……。
 心とは関係なく、気持ちいい……。
 頬に涙が一筋伝う。僕はそれを拭こうと反射的に手を伸ばそうとする。しかし、腕は縛られている。そこまで伸ばすコトなんて出来やしない。身体はガクンと後ろに引っぱられ、僕は体勢を崩す。
「おっと、危ない」
 内藤さんが僕の背中に手を回し、身体を支える。
 彼の顔が近づいてくる。そして、舌が伸ばされる。
 涙を、舐められる。
「うぅ……ッ」
 赤い粘膜が頬を這う。そこはローションと精液と涙でコテコテのハズだ。いったいどんな味がするんだろう。
 そして、内藤さんの腰が動き始める。
 深く埋め込んだペニスの包容感を楽しむように、内藤さんはゆったりとしたリズムで腰を揺らす。
「はあっ…………、はぁ……、あぁ……ッ、あ……ぁ……、はぁ……」
 僕の呼吸も合わせて大きいモノになっていく。内藤さんはさらにそのリズムに合わせて、ピストンを繰り返す。
 前立腺への大きなな圧力が僕のカウパーを押し出していく。ピュルピュルと溢れる透明な液体が、水滴となって僕のお腹を濡らしていく。
 内藤さんの舌が、頬から首筋に降りてくる。彼は唇で動脈の感触を楽しむ。
 さらに舌は僕の鎖骨にまでやってくる。窪みを舌で舐め回され、骨に歯が立てられる。僕は顔を歪ませる。思わず首がつってしまいそうなくらいの力が入ってしまう。
「あうぅ……、そこ……やぁ、きもひいいの……やらぁ」
「はは、真咲くんはとっても敏感だ。そんなんじゃ、ここなんて舐めたらどうなっちゃうの?」
「ふあ……?」
 内藤さんの舌は僕の胸元に這ってくる。そこには、僕の勃起した乳首がある。
 プチュウゥッ……。
「ひゃう……ッ! きゅ、きゅうぅッん!」
 充血して敏感になった乳首を口に含まれ、僕は絞り出すような悲鳴を上げる。全身が固まり、縛られたロープがピンと伸びきる。お尻にも力が入り、キュンと内藤さんのペニスを締め上げる。
「うわ……、すごいよ。今、お尻で吸われた。真咲くんのお尻に……。こんなの女の子にもあり得ない、名器ってヤツだ……」
「ひうぅ……、う、うぅぅ……」
 内藤さんの大きな口の中に、僕のオッパイが含まれていく。反対の乳首も、指がプルプルと震えている。腰の揺れだって止まっていない。僕は鋭敏な三点を同時に刺激される衝撃に眩暈を起こす。
 チロチロと内藤さんの舌が僕の乳首のさらに先端を弾く。甘い快感が電気になって全身を走る。体中の細胞が歓喜に震える。
 僕は何も考えられない。ただだらしなく、様々なテクニックを駆使されたプレイに酔いしれる。絶妙な舌使い、丁寧な指使い、そして心得た腰使いに、僕は息を荒げることしかできない。
「あうぅ……うぅ……、うあッ! ひうぅ……ッ! うぐぅッ!」
 緩急をつけて続けられる愛撫に、僕の官能が押し上がられていく。ついには奥歯までカタカタと鳴りだし、ときどき発作的に身がよじれる。
 お尻には勝手に力が入る。波打つように伸縮する括約筋が、ピストンするペニスの動きを更に複雑なモノにする。内臓を掻き回される異様な感触……、僕は腰を8の字にくねらせ、発生する快感の波を享受する。
 しかし、この心地よさを絶頂にまで押し上げる一撃はまだ発生していない。……僕のおちんちんに、まだ直接の刺激がない。
 トクトクと壊れた蛇口のように先走りが漏れている。しかし、まだそこには指一本も触れていない。失神しそうなくらいの愉悦なのに、射精にまではどうしても至らない。この手が自由なら、僕は自分でガシガシと陰茎をこすり上げているだろう。
 そんな僕の心を察したのか、内藤さんは口をオッパイから外した。
「あ……、あぁ……」
 少しだけ快感の水位が下がっていく。
「真咲くん……、もうトロトロだね……。うん、お兄さんも気持ちいいよぉ……。凄く、気持ちいい」
 内藤さんはそう言うと、ベッドの端に手を伸ばした。
 彼の掴んだモノ、それはさっきまで僕を苦しめていたあの大人のオモチャだった。
 僕は戦慄する。
「ちょっと……、ウソですよね……? またそれ……使うなんて、しませんよね……」
 僕は思わずベッドを背中であとざする。しかし、そんなことをしたって距離を取ることなんてできない。内藤さんも一緒に腰を前に動かす。
「お兄さんは、可愛い君をもっともっと可愛くしたいと思うんだ……。使うよ……。そして、真咲くんをドロドロに溶かして上げる」
 真咲さんがシリコンの穴を僕のペニスにあてがう。
「ひッ!」
 僕の鋭い悲鳴が響く。
 しかし、内藤さんの手は止まらない。器用な手つきで僕のおちんちんはオナホールの内に飲み込まれてしまう。
「ひあぁ……、いやだよぉ……。それ、気持ち良すぎる……、僕、変になっちゃうよぉ……。変になるぅ……ッ!!」
 シリコンのヒダが硬くなった肉茎に絡みつく。
「うん、変にしてあげる……。イヤらしい真咲くんを、もっとエロくしてあげる……」
 ブジュウウゥッ!!
「ひぎぃッ!!」
 オナホールが一気にきつく握られる。中からは空気が抜けて、強烈な吸引と、締めつけが発生する。
 柔らかい繊毛が生き物のように絡みつく。そのままゆっくりと動かされると、身体の芯が抜けてしまいそうな錯覚まで起こる。
 やだ……、これ、やっぱヤダぁ……ッ!
「ひあぁ……、あッ、あッ、あッ……! あぐぅッ! ふ、ふわあぁ……ッ!」
「お鼻、ヒクヒクさせちゃって……。あー、すごい汗だ……。ベトベトだねぇ……」
 内藤さんの腰が動く。
 手でも僕のペニスをこすりながらの形になるが、その速度はさっきまでのピストンなんかよりずっと速く、一撃一撃がとても重い。僕は身体を引きつらせながら、その圧力に耐える。
 夢見心地な快感を与え続ける陰茎部に対し、目が覚めるような鈍痛を与え続ける前立腺。二つの異なる快感が混ざり合い、僕の理性は壊れていく。
 絶え間ない快感の嵐に全身が暴れる。しかし、腕と腰を固定されたこの状態では、僕の体は床に落ちた金魚のように、虚しくベッドの上で跳ねるだけだ。
 僕は眉根に深いシワを寄せながら、だらしなく口を開いている。唾液が口の端からダラダラと垂れ、シーツを汚す。
 クッションに頭が押しつけられ、髪が乱れる。
「あああぁッ、やらぁ……、わ、分からなくなるぅ……、分からなくなるぅ……」
 もう自分が何を言ってるのかさえ理解できない。僕の口からはデタラメな譫言が発せられている。
 そんな声を聴いて、内藤さんはさらに興奮しだしたのか、腰の衝撃はさらに強くなってくる。
 お尻の穴ではブジュブジュと泡沫が弾ける。潤滑剤がいくら効いていても、そこは燃えるような熱を発することになる。
「あぁ……、お兄さんも溶けるよ……。一緒に、ドロドロになろう……?」
「はあぁ……、あぁ、あはあぁ…………」
 その時バチンと、頭の中で何かが切れる。僕は大きくアゴをのけぞらせる。
 限界だ。僕はもう射精してしまう。あと一秒も耐えられない。
「ひぃッ! ひぐッ! ひぐうぅッ! で、出ひゃいますうぅ……ッ!」
「うん、いいよ……。真咲くん、出しちゃいな」
「は、はひぃ……、い、……イぐうぅッ! イぎますうぅッ!」
 ドビュウウウゥゥッ! ドビュルウゥッ! ビュルウゥッ! ビュクン! ビュルッ! ビュッ! ビュウウゥッ!
 煮溶けた精液が僕の精輸管を灼きながら登りつめ、一気に鈴口から噴き出した。
 欲望の樹液がダクダクとシリコンに注ぎ込まれる。圧倒的快感に導かれた射精は延々と続き、僕の意識は遠くなる。
「あ…………、あ…………」
 しかし、
「よし、次はお兄さんの番だね、一気にいくよ……ッ!」
 ズンッ! グジュッ、グジュッ、グジュウゥッ!! ブジュウウゥッ!
「……ひ、ひいいぃッ! ひぎッ! ぎいいぃッ!!」
 射精直後、まだ全身がビクビクと痙攣を続けているそんな時、内藤さんは再び腰を振り始めた。
 バチバチと内藤さんの腰に、僕のお尻の肉があたる。拷問のような悦楽に、僕は死さえ覚悟する。
 僕はとてつもない衝撃に目は大きく見開き、口は窒息寸前の魚みたいにパクパクと虚しく開閉する。
 内藤さんは腰と同時にまだオナホールも動かしている。ローションの泡が卑猥な音をたてて破裂し、粘度の高い液体がお互いの恥毛まで濡らす。
 気持ちいいなんてモノを飛び越えた、苦痛しか伴わない快感。焼きごてで脳を直接灼かれているような感覚が俺をさいなむ。
「あ……、真咲くん……。いい……、君の中……さいこぉ…………ッ!!」
「……あ、あひ………………ひ…………、ひぎ…………ッ!」
 全身の筋肉が硬直し、ブルブルと小刻みに震える。お尻の中も収縮し、僕は内藤さんの逸物を強く締め上げる。
「おぉッ! う……、うあぁ……ま、真咲くん…………、い、いぃ……」
 内藤さんが歓喜の呻きをあげる。しかし、その声は僕の耳に届いても、意味のある言葉に思えない。
 僕は強すぎる快感に我を失っている。ただただ、この法悦の地獄が早く終わることを一心に天へ祈る。
(終わって……、もうダメだから…………死んじゃうから…………、もう僕死んじゃうからあぁッ!)
 内藤さんの腰がターボがかかったかのように猛烈に動く。ラストスパートだ。もう、お互い理性の紐が切れる限界だ。
 イく……、僕はまたイく…………ッ。イきながらイっちゃううぅッ!!
「……ッ! う、うおおぉッ! イくぞぉッ!!」
「…………うッ……うぐうッッ!!」
 心臓が縮む。背骨に電撃が走る。そして、大量の白濁液が登ってくる。
 ドビュウウウウウゥゥッ!!
 ビュルウゥッ! ビュルウゥッ! ビュクンッ! ビュルルウゥッ! ビュルウゥッ! ビュッ! ビュウゥッ!
 ビュウゥッ! ビュクン! ビュクンッ! ブビュウウウゥッ! ブビュッ! ビュウウゥッ! ビュルンッ!
 お互いが、一気に、精巣に溜まった欲望の証左を全て噴き出した。
「あ…………あぁ…………、凄いよ…………」
 内藤さんの感極まったセリフ。しかし、僕には言葉もない。失神寸前の快感に、ただ、わななくことしかできない。
 そのまま、僕達は時間が止まったように固まる。もう、動くことなんて出来やしない。
 内藤さんが、僕の隣に崩れ落ちる。ベッドのスプリングが大きく揺れる。
 同時にアナルの圧迫感も消え、僕はようやく解放される。
 開ききった穴から、トロリと精液が漏れる。


 西池袋のラブホテルを出て、内藤さんと別れた。時間はもう二十三時、普通の店のシャッターは全部降り、普通じゃない店のドアの鍵が開く。ピンクや紫の照明が、アスファルトを行き交う人々の髪に反射する。
「ふう……」
 疲れた。
 内藤さんは常連さんの中でも少し変な人で、僕を気持ち良くさせることに執心する。まあ、痛くされるよりはいいんだけど、やりすぎは困る。
 でも、追加料金はしっかり出してくれるしなぁ……。
 まあいいや。今日はこのまま直帰の予定なので、僕はそのまま駅前へ移動する。
 アパートは椎名町だし歩いていってもいいんだけど、激しいプレイで腰がガクガクしてしまってる。おまけにもの凄くだるい。今日はもうダメだ。電車で帰ろ。
 しかし、池袋駅西口の前で 携帯が鳴る。メロディーは「どぉなっちゃってんだよ(岡村靖幸)」。……お店からだ。僕は嫌々ながらも携帯を開くしかない。
「もしもし~、もう終わってるよね、おつかれさま~」
 店長のオブラートのように軽薄ペラペラな声が電話から聞こえてくる。
「お疲れ様です……」
 僕の声は本当に疲れてる。
「えっと、僕は今日、このまま直帰ですから。それじゃ、お疲れ様でした」
「あ~ッと! ちょっと待って真咲くん。まだ切らないで、切らないで~ッ!」
 僕は押しかけていた通話切りボタンから指を離す。
「なんですか、まったく……。今日はもう無理ですってば」
「いや、今回はちょっと特殊。真咲くんをご指名なんだけど……断ってもいいよ」
「は?」
 珍しい。というより、そんな言葉初めて聞いた。
「なんですか、それ。なんなら、そっちで断ってくれても……」
「でも、真咲くんの方から断った方がいいと思ってさ」
 僕はストラップを人差し指で回す。
「誰ですか、それ」
「『雪広』って名乗ってる。まえに真咲くんが話してくれた例の彼でしょ。……はは、やるね~」
「雪広ぉッ?!」
 同級生だ。1年C組出席番号2番、井上雪広。
 よりによって、二ヶ月前に俺に告白したヤツ。
「うん、そういうわけなんだよ~。まあ、素性をバラした真咲くんの責任もあるでしょ。お金は用意したみたいだし、仕事をしてもいいけどね。……まあまかすよ。なにせ未成年だし」
「僕だってそうですよ……」
「ウチの子たちはみんなそうだってば。そういうわけで、お願いね~、場所は……」


 西池袋公園。
 歓楽街を少し離れたところにあるそこは明かりも少なく、植え込みの影がとても濃く見えた。バラ園があったりするんだけど、花はもう全部落ちてしまっている。
 夜中には止められている噴水の脇に、雪広は座っていた。
 シンプルなジーパン、薄手のTシャツ、安物のデジタル腕時計。背丈も顔も、今時の平均的中学生男子といったカンジだった。ただ、名が体を表すのか、肌の色だけがとても白い。それだけで、どこか華奢な印象を与えるヤツだった。
「雪広……」
「尾道。本当に来たんだ。なんか、信じられないよ……」
「まあ、金払ってくれるなら来るよ、僕は」
 仕事だし。僕はなんか気恥ずかしくなって痒くもない頭をポリポリ掻く。
「……払うよ。用意してきた。二ヶ月、家を手伝って、稼いだ」
「ふーん……」
 雪広は僕の顔をまっすぐ見つめてくる。一方、僕は雪広の目なんて見られない。
 なんというか、あんな熱い目されちゃったら、誰だって照れてしまうと思う。僕は少し下に視線を外し、爪先を立てて足首を回す。
「……あのさ、雪広。一応確認するけど、本気? クラスメイトを金で買うの?」
 雪広がゆっくりと噴水から立ち上がる。
「うん……。でも、尾道が言ったんだよ。僕のことが好きなら、お金を払えって……。それが、一番助かるって……」
「そ、そうだけど……」
 まさかあの時は本当に用意してくるとは思っていなかった。自分の正体をバラせば、もう近づいてこないと考えただけだった。
 でも、雪広は告白から二ヶ月経った今、こうして大金を持って僕の前に立っている。おそらく、あの日とまったく同じ気持ちのままで。
 バカだ……。こいつ、大バカだ。
「あ、でも別に俺は……ヤる必要もないとは……思うんだ。金で買うなんて、やっぱ変だし」
 雪広は自分の言った「ヤる」という言葉一つで顔を赤くする。やっぱこいつ、全然経験なんて無いらしい。
「だからさ、……このお金は尾道にあげる」
「……え?」
「それでいいと思うんだ。俺は尾道が好きだから、お金を稼いできた。ヤるとかヤらないとかじゃなくて、気持ちを伝えたいだけだったんだ……」
「………………」
 俺は雪広の言ってることが理解できなかった。
 お金をあげる。それは自分の短い人生でも、まず考えられない言葉だった。
 雪広の勝手な言葉は続く。
「だから、それでいいんだ……。受け取ってくれればいい……。別に、俺のことを好きになってくれなくったって……」
「…………ふ」
「……え?」
「ふッざけるなあぁッ!!」
 僕は怒鳴っていた。つんざくような叫びは静かな夜を裂き、少し離れた雑居ビルまで響いた。
 雪広はビクンと全身をすくませ、驚愕の表情で僕を見ていた。
 僕は一歩前に出て、雪広の正面に向かい合った。背の低い僕が雪広を見上げる形になるが、僕の怒りはおさまらない。
「なにが、金はいらないだッ! 自分で稼いだ金に、どれほどの価値があるのか本当に分かってんのかッ! そんなことしたって僕は喜ばないぞッ! そうさ、絶対に、絶対にだッ!」
「尾道……」
「名字で呼ぶなッ! 今は真咲だッ! 男娼としての僕に名字はいらないッ! 僕は真咲だッ!」
 僕は雪広の襟首を掴み、顔を引き寄せる。
「金はもらう。でも、それは『気持ち』を売るからじゃない。『体』を売るからだ。ああ、ヤろうぜ。すっげー気持ち良くしてやるよ。今まで感じたこと無いくらい、気持ちいいことしてやるよッ!」
 僕は一気に言葉を吐き出す。いま感じている感情の全てを、雪広にぶつける。
「尾……い、いや、真咲……」
「なんだよ……、イヤなら帰れよッ!」
「違う、そうじゃない……。そうじゃなくてさ……」
「?」
「泣くほど……悔しかったの……?」
 そう言われて、僕はようやく気づいた。
 僕の頬には、一滴の涙が伝っていた。
「……え?」
 泣いていることを実感すると、まるで傷口を見た子供が改めて泣き喚くように、僕の目からは涙がボロボロとこぼれ落ちてきた。目頭がもの凄く熱くて、胸の奥からどんどんせつない感情がこみ上げてきた。
 僕は慌てて目を手でこすった。でも、涙は手の甲をどんどん濡らすだけで、止まることはなかった。
「ひ……、や……。 な、なんで……? なんでこんな……」
 いくら拭いても涙は止まらない。僕の背中は丸まっていき、嗚咽で胸がヒクヒク震える。
 ふと、暖かい腕が、僕を包む。
 雪広が、俺を抱いている。
「あ…………、ちょっと……、や、やだ……」
 僕はその優しさを拒否する。でも、体はただ震えるばかりで抵抗できない。善意のぬくもりを、ふりほどけない。
「いいよ、行こう……」
 雪広は言う。
「ホテル行こう……。ヤろうよ……。セックス、しよう……」
 思えば、雪広は初めから、僕に何かを求めてなんかいなかった。
「どう思われてもいい。おかしいのは俺だから……」
 僕は雪広が言ったセリフを思い出す。
「尾道が好きだ……」
 放課後、学校からの帰り道。僕達は並んで帰宅していた。校門から出てすぐ向こうの交差点までの短い距離を、僕達は一緒に歩いていた。
 夕日が西に傾き、空が深い茜色に染まる時間帯。雪広は不意に切り出した。
「ごめん……。どうしても我慢が出来なかったんだ。嫌いになってもいいよ。別に変態だって思われても構わない……」
「ふーん」
 僕は表情を変えない。
 好きなんて言葉は、今まで仕事中にいくらでも言われてきた。同級生から言われるのだって初めてじゃない。こういうことには比較的慣れっこだった。
 だから、僕は彼を撃退することに決めた。
「僕、カラダ売ってるんだ。ヤりたいなら、ヤらせてあげる。……お金を払ってくれるならね」
 雪広の足が止まった。
 その表情も複雑なモノだった。痛みの原因が分からなくて、泣くに泣けない赤ん坊みたいな顔をしていた。
 僕は雪広に自分の詳細を話した。父親の借金と自殺、暴力団の存在。売春行為。全部、正直に話してしまった。
 コイツとはこれで終わったと思った。現に、それ以降の二ヶ月間、僕は雪広とろくすっぽ言葉を交わさなかった。

 しかし、僕は今日、こうして雪広と並んで歩いている。一歩一歩、ホテルへと近づいている。
 僕は自分が言い出したこととはいえ、今ひとつ納得がいっていない。本当に、お金を貰ったからといって、このまま雪広に抱かれていいものなのかどうか……。
 こんなの、……なんだか、初めての気分だ。今、僕は自分がどうしたいのかよく分からない。本当に、自分自身が分からない。
 なんでこんなに胸が疼くんだろう。……分からない。
 その時、僕はまだ雪広に言っていなかったことを思い出す
「……そうだ。ルール説明をしてなかったっけ」
「ルール?」
 そう、ルールだ。いくら男娼相手のセックスだからって、そこには決まり事がある。いや、こういう仕事だからこそ、明確な規則が必要だ。……まあそんなの、払う金額でいくらでもねじ曲がる代物ではあるんだけど。
「まず、今日やるのは普通のセックス。コスプレもナシ。縛りもナシ。クスリなんかも絶対にナシ。ただ、裸で抱き合って、挿入するだけ」
「うん……」
「フェラチオなんかも、するのもされるのも基本的には別料金。まあ、少しくらいはサービスするけど、それでも調子にのったプレイは厳禁」
「破ったら?」
「恐いお兄さんが飛んでくる」
 僕は頬に指を当てて下に引っぱる。顔についた傷のゼスチャーだ。雪広にも意味は通じたのだろう。彼はゴクンと唾を飲み込む。
「まあ、そんなものは金さえもらえれば、どうにでもなることなんだけどね。でも、これだけは絶対ダメということもある」
「なに……?」
「キス」
 僕は上唇に人差し指の先を押し当てる。
「ここだけは、絶対にダメ。何があってもダメ」
「キスしちゃ……いけないんだ……」
「うん。それだけは、ダメだよ……。こんな仕事をしてる人間にも、守るべきモノはあるんだ……」
 僕はうつむく。
 雪広も目を反らす。
 街並みを少し外れ、ほどよく人通りも少なくなった脇道。ラブホテルっていうのはこんな所に建っている。


 手持ちの金額のこともあり、僕達のとった一室はとてもシンプルな部屋になった。
 部屋の真ん中にこれ見よがしのダブルベッドがある以外は、まるでそこらへんのビジネスホテルだ。
 シャワールームがガラス張りになっているなんてこともないし、天井に鏡が貼ってあるわけでもない。サードボードにコンドームの入った小さな籐のカゴがあるくらいか。まさにヤるためだけの部屋ってカンジだ。
「はあぁ…………」
 雪広はこんなところにはいるのは、もちろん初めてらしい。こんななんにも無い部屋でも、目につくモノ全部が珍しいのか、上を見たり下を見たりキョロキョロしている。
「おっけー。それじゃ、雪広、脱いでよ」
「え、脱いでって……、もう?」
「もうもなにも……」
 僕は雪広の 後ろに回り、Tシャツの裾に手をかける。
「え……っ?! 真咲、ちょっと……」
「うるさいッ!」
 僕は雪広のシャツを一気に上へ持ち上げる。雪広は勢いで上に腕を上げさせられる。そのままTシャツを引っぺがす
「真咲ぃ……?!」
「ほら、そのままベッドに寝るっ!」
 僕は雪広の尻を蹴飛ばす。
「わッ!」
 雪広は体勢を崩し、ベッドのスプリングに倒れ込む。
 俺は自分のシャツのボタンを外す。床に脱ぎ捨て、ズボンのベルトも外す。
「わ、わわ……ッ! なんで真咲まで脱ぐの? シャワーとか浴びるんじゃないの、こう言う時って……」
「めんどい」
 僕はズボンを脱ぎ、いっしょにブリーフも引き下ろす。雪広の前で、僕はいきなり一糸まとわぬ全裸になる。
「…………あ……あぁ」
 雪広は言葉を失う。視線は僕の肌に釘つけになっている。……顔も真っ赤だ。
「ほら、雪広も全部脱いで。……それとも、僕に脱がせてもらいたい?」
「……ぬ、脱ぐよ」
 雪広は慌ててカチャカチャとバックルを外す。そのままジーパンを下ろし、ようやくトランクス一枚の姿になる。
 そこには、布きれ一枚では隠しきれないくらい大きくなったペニスがある。
(そうだよな……。どんなに口ではカッコイイこと言ったって、こうなるよな……)
 雪広だって、あいつらと同じだ。僕は少しだけ安心し、少しだけ悔しくなる。
 僕はゆっくり、ベッドの前にひざまつく。視線の高さに雪広の股間がある。その上には、呼吸を荒くした雪広の顔が見える。
 そっと、張りつめた陰茎に手を乗せる。
「……ひゃッ!!」
 パンツの上から少し触られただけで、雪広は一際高い声を出す。腰がビクンと跳ね上がり、快感に眉根が歪む。
「なんだよ、女の子みたいな声上げて……。まさかオナニーもしたことないの?」
「あ、あるよ……。あるけど……、全然違うよ……。なんか、変……」
 僕はまだ何もしていないのに、雪広は他人に触られたという実感だけで、興奮をつのらせている。
 布越しに触るペニスはとても熱く、ビクビクと大きく震えている。なんだかいきなり射精してしまいそうな勢いだ。
 僕はまだ直接それに触れない。ただ布越しにジワジワと竿を撫で上げ、もう一方の手で、精巣をタプタプと揉む。
「ひ……ッ、ひいッ!」
 雪広の悲鳴。白い肌は薄紅色に上気している。手はシーツを無意識に握りしめ、アゴを強く引いている。
 なんだろう、雪広は普通にはあり得ないくらい敏感だ。少なくとも、僕は今までこんな反応をする人にあったことがない。年配の方が多い普段のお客様は、こんな可愛い反応をしてはくれない。
 これで、僕の持っているテクニックを全て使ったらどうなってしまうのだろうか。
 僕は股間から手を離し、雪広のトランクスを下ろす。雪広も合わせてお尻を不器用に持ち上げる。そして、僕のよりも若干大きいくらいのペニスが、部屋の空気に晒される。
 心臓の鼓動に合わせてか、雪広のペニスは縦に激しく揺れている。太い血管が浮かび上がり、先っぽには小さく液溜まりが出来ている
 まだまっさらの、幼いペニス。
 僕はそそり立つ肉柱に指を這わせる。握力はあまり入れず、そっと包み込むように敏感な皮膚の表面を刺激していく。
「あ……、あぁ…………、うあぁ…………」
 丁寧にしごいていくと、雪広の全身が小刻みに震えだす。足の指は丸まり、目が硬く閉じられていく。
 もっと強く握れば、あっという間に雪広は果てるだろう。でも、僕はそんなことしない。ただ優しく、そっと静かに、雪広の性感神経をなぞっていく。
 男性の場合、多くの人はオナニーの仕方が間違っている。たいてい、ただ単純に射精しようと強引に陰茎をしごく。
 しかし、そこを我慢し、快感曲線の傾きを低くに押さえれば、射精寸前の絶頂感が延々と続くことになる。大切なのは時間をかけること、それがコツだ。
 今、雪広が感じている快感は、おそらく彼にとっては未知の、信じられないくらいの大きさだろう。
 トロトロとカウパーが漏れる。これだけでも、精輸管を通る感触は射精の疑似体験のように感じられるハズだ。雪広はいま、止まらない精液の放出と同等の快感に苦しんでいる。
 僕はさらに、雪広の快感をとろ火で煮込むように、やんわりと性器周辺を刺激する。陰嚢、会陰部、内股、アヌス周辺。どれも指先で触れるだけの、優しい愛撫をほどこす。
 雪広はガクガクと感染症のように全身を震わせる。時々、発作的にベッドの上で腰が跳ねる。鈴口が、精液を出したい出したいと、懇願するようにピクピク開閉する。
「ひ……ひぃ…………」
 雪広の声に、嗚咽が混じり始める。どうやら、泣くほど苦しいらしい。
「なんだよ、雪広……、まだ、触ってるだけなんだよ? 舐めてもいない、入れてもいないのに……」
「ひうぅ……、だ、だって、こ、こ、こん……なッ! ひうぅッ! うッ!」
 雪広がは歯を食いしばる。ギリリという骨を食(は)むイヤな音が聞こえる。シーツを掴んでいた指には、さらに力が入り、ベッドには深い山折り谷折りが出来る。
 快感に耐えきれないのか、雪広の腰はカクカクとピストン運動の様な動きを始める。射精に至る強烈な一撃を得ようと、僕の手に肉の杭を打ち込もうとする。
 僕は手から力を抜き、その動作を無効にする。雪広の腰が虚しく宙をもがく。
(大丈夫。そんなことをしなくても、すぐにイかせてあげるから……)
 僕は雪広の会陰部に手を添える。ここは前立腺の下にあたり、強く押し上げることで、強制的な射精を促すことも出来る。
 同時に陰茎を強く握りしめる。そして、一気にこする。
 ……シュッ! シュッ! シュッ! シュッ! シュッ!
「あ、あひいぃッ!!」
 限界まで引き延ばされた射精の際。僕はその絶頂の先まで、雪広の官能を引き上げる。
 グイグイとマッサージされるように揉まれる会陰部。本来のオナニーよりずっと乱暴なペニスの刺激。
 雪広の背筋が、ギュンと反り返る。さらにアゴを突き上げ、声を甲高くして、絶叫する。
「ひぎッ! ま、真咲……ッ! ま、まさき、まさきぃッ! や、やあぁッ! まさきいぃッ!!」
 部屋に僕の名前がこだまする。会わせて、僕も手にも力が入る。
「ま、まさき……ッ! い、イく……、イ……イぃッ! ……ま、まさッ! あ、ああぁぁッ!!」
 ドビュルウウウゥゥッ! ビュルウゥゥッ! ドビュウゥッ! ドビュウゥッ! ビュルゥゥッ! ビュッ! ビクンッ! ビクンッ!
 雪広は、射精した。
 まるでゼリーのように濃い精液が、一本に繋がりながら放出された。駆け上がったその量は果たして何十センチなのか、圧倒的な熱をはらみながら、大量の白濁液が雪広のカラダに降り注いだ。
「あ…………、あぁ…………、ま……さきぃ……」
 雪広は僕の名前を呼びながら、まだ体を硬直させている。射精も今だ収まらず、まるで間歇泉のようにピュルピュルと鈴口から精液が噴き出している。お腹の上に、白い液体が広がっていく。
 青臭い匂いが、部屋に広がる。
(雪広……すごい……。なんか、すごいよ……)
 同級生が泣きながら喘ぎ、射精しながら震えている。僕の名前を叫んで……。
 胸が疼く。
「雪広……」
 僕はベッドの上に上がり、雪広の顔をのぞき込む。まだイきっぱなしの雪広は、目の焦点があっていない。光の失われた瞳が、涙でトロンと溶けている。
「雪広……、聞こえる……?」
「あ……、まさき……、まさきぃ…………」
 引きつる呼吸を強引に押さえ、雪広が僕の名前を呼ぶ。
「どうして、僕のことが好きになったの……? お互い、クラスメイトで、ほんの少し喋っただけだよ。ねえ、どうして……?」
 僕は突然、聞いてみたくなった。
 なぜ、人は人を好きになるのか。
 いままで、僕のコトを好きだと言ってくれた人は大勢いた。善意、詐称、その場しのぎ、いろいろな「好き」を僕は聞いてきた。
 でも、その中に、一つでも僕の心を震わすモノなんてなかった。だから僕は、愛とか恋とかは、なんだかとても卑屈なモノだと思ってきた。
 しかし、それなら、この胸の疼きはなんだろう? 僕はどうして、こんなヤツのことがこんなに気になるんだろう?
 だから、その答えを、直接聞いてみようと思った。
「まさきぃ……」
「ねえ、雪ひ……キャッ?!」
 突然だった。僕の腕は雪広に掴まれ、体を強引に引っぱられた。そのまま胸に腕を回され、僕は雪広の上に乗りながら、強く抱きしめられた。
「ゆ、雪広ッ! な、なに……?! 雪広ぉッ!」
 雪広の体にかかった精液が、僕達の間で潰れる。発熱した体を全身の皮膚で感じる。
 顔と顔の距離が凄く近い……。ドクドクというバスドラムみたいな心臓の鼓動が、僕の方にまで響いてくる。
 そのまま、雪広は僕のことを抱き続ける。
「雪広……?」
「…………好き」
 そっと、耳元で囁かれる。
 ゾクンと、首の産毛が逆立つ。
「好きだよ……、真咲のことが好きなんだよ。いつの間にか、真咲のことをずっと見ていて……、そのことに気づいたら、真咲のことしか考えられなくなって……、そして、なんか胸の奥がジンジンして……」
「ゆ、きひろぉ……」
「気持ちいい……、真咲の体……、とっても気持ちいい……。さっき、精液だしたときより、気持ちいい……」
「え……?」
 その言葉を、僕にはにわかに信じられなかった。あれだけの痴態を見せつけられて、それより今の方が気持ちいいなんて、僕には到底思えなかった。
「そんなわけないじゃん……。じゃあ、今、射精しちゃうの? 雪広は」
「そうじゃ……ないよ……。伝わらないかな……、俺の、気持ちよさ……」
「………………」
 僕には分からなかった。
 確かに、雪広の体は温かい。とても落ち着く。でも、これは気持ちいいということなのだろうか? 僕が知っている快楽とは、全然違う。
「ごめん、雪広。伝わらないよ……、雪広がなに言ってるのか、分からない……。もしかしたら、大切なことなのかも知れないけど、僕は習ったことがない」
 僕は、雪広の首に手を回す。そのまま、体をさらに雪広に寄せていく。二人の鼓動が、重なっていく。
 雪広の耳に唇を寄せて、僕は囁く。
「やっぱ、僕が間違えてるのかな……? こんなことを今までしてきたから、分からないのかな……?」
 雪広が、僕の耳元で囁く。
「ううん……、俺だって、習ったことはないもん。そう感じてるってだけで……」
 囁く。
「僕も、そう感じたいな……」
 囁く。
「うん、感じさせてあげたい……」
 僕達は、そのまま抱き合う。時間が少しずつ過ぎていく。
 でも、夜明けまでに、僕は仕事をしなければいけない。


 お尻を少し手持ちのローションで濡らしただけで、窄まりは開いていく。僕の体は、とてもイヤらしいものになってしまっている。
 ベッドにうつぶせに寝そべり、腰を高く上げる。顔をクッションに埋め、両手でお尻の割れ目を開く。
 今日、すでに内藤さんとのプレイがあったため、アナル周辺は少し赤く腫れている。そんなこと、雪広には言わなきゃ分からないだろうけど、僕は少しだけ恥ずかしい。
 やっぱ、同級生だからだろうか、僕の心には小さな恥じらいのシコリが生じる。雪広に、お尻の穴を見られることが、とてもイケナイことのように思われてくる。
「雪広……、いいよ。入れて……」
 僕は背後で膝立ちする雪広に声をかける。
 雪広は自分の屹立したペニスにローションを塗りながら、息を荒げている。やはり視点は僕のお尻に集中しているようだ。
 また僕の胸がズクズクと疼き始める……。少しせつない……。
「ちょっと、早く入れてよ……。雪広ぉ、何してんのぉ……ッ!」
「う、うん……。ちょっと待って……」
 雪広が僕の腰を掴む。そのまま前に寄り、ペニスの先端を僕にあてがう。敏感な部分に、きめ細かい触感の亀頭粘膜が張り付く。灼けそうな程、熱い。
「いい……? いくよ……。中、入れるよ……?」
「うん……。少しくらい乱暴にしてもいいから……、一気に、押し込んで……。多分、平気だから……」
 僕の言葉に、雪広は頷く。
 改めて、両手で腰が持ち上げられる。そして、次の瞬間、
 ズウウウゥゥッ……ッ!!
「ふうぅ……ッ!」
 入ってくる灼熱の肉棒に、僕は呻く。
 熱い……ッ! なんで……、なんで雪広の体はこんなに熱いんだろう。こればかりは、僕が今まで体感したことのない感覚だった。
 ガツンと、僕の尾てい骨に衝撃が走る。雪広のペニスが根本まで入れられる。
「は、入った……。真咲の中に……、入った……」
「うん……、そうだね……」
 はぁはぁと、僕は口で息をする。雪広の感触は、そんなに大きいわけではないけど、ひどく充実感がある。お尻の穴を隙間なくぴったり埋められたような不思議な感じ。僕は顔をベッドに押し当て、シーツを握りしめる。
「……動くの……かな? 真咲……動いていいの?」
「いいよ。雪広の気持ちいいように、動いて……」
「うん……」
 僕の言葉に雪広はうなずく。そして、僕のウエストを改めて掴み、自分の腰を大きく引く。
 ズルンと、ペニスが直腸を滑る。張ったカリクビが粘膜の壁を擦り上げる。
「ひゃ……ッ!」
 亀頭付近まで引き出された陰茎が再び力強く打ち込まれる。尻肉がバチンと音を立てる。
 そして、再び長めのストロークで注挿が繰り返される。
 リズムはゆったりめ。タップリ塗られたローションと、開いた括約筋がこの動きを可能にする。雪広は本能的な衝動に導かれ、腰を動かしていく。
「真咲……、はぁ……はぁ……、ま、真咲……」
「うん……いいよ。そのまま……突いて……」
 僕も雪広のペースに合わせて体を揺らす。お尻が自然とリズム合わせて締まり、僕は雪広の形を感じ取る。
 それにしても、雪広のセックスは優しい。もっとガツガツ腰を振ったっておかしくないのに、まるで腫れ物にでも触るかのような感じで、僕を犯す。
 ジンジンと体がせつなくなっていく。なんか、焦らされているみたいだ。雪広に、こんなテクニックがあるはずないのに……。
「ゆ、雪広……、もっと強くしてもいいよ……」
 しかし、雪広は答えない。何か迷いがあるのか、動きが止まる。
「雪広……?」
「…………なんか、違う」
 ついに雪広は僕の中からペニスを抜いてしまう。
「……ちょ、ちょっと雪広ッ?! なんだよそれ! 違うって……ッ!」
 僕は体勢を起こし、雪広の方に向き直る。
 その刹那、僕は押し倒される。
 ドスンと、体がベッドに沈む。いつのまにか僕は両肩を押さえられている。雪広は両腕を立てながら、じっと僕の顔を見つめている。
「……ッ! なんだよ、雪広」
「俺、真咲の顔を見ていたい……」
 雪広の目は真剣だ。彼はどうやら、僕を正常位で犯したいらしい。
 そう言われれば、僕には断ることはできない。
「いいよ……、じゃあ、このまま入れてよ」
 僕は股間を大きく開く。そのままブリッジのような体勢でお尻を上げ、雪広のペニスを導く。
 雪広が自分のものをつかみ、亀頭をふたたび窄まりにあてがう。
 雪広はその間も僕のことを見続けている。股間の様子を確認したりもしない。ずっと、僕の顔、いや目を見つめ続けている。
 僕も彼の視線を外すことが出来ない。僕達はベッドの上で、延々と見つめ合っている。
 やがて、雪広のペニスが入ってくる。それはやはり、とても硬くて、熱い。ゆっくりと根本まで入れられる。
「雪広……、いいよ……、う、動いてぇ……」
 僕は雪広に懇願する。正直、こんなに焦らされるなんて思っていなかった。同年代の少年だし、もっと激しくされるモノだと思っていた。でも、雪広の動きは緩慢で、性器への刺激もない。ただ、僕の官能ばかりがつのっていく。
 僕の言葉に、雪広は首を横に振る。
「動かなくて、いいよ……」
「え……っ?」
「動かなくても、いいと思う。真咲の中は気持ちいいし、俺はこうしてるだけでも射精しちゃうと思う……。それなら、俺はもっと、真咲のことを見ていたい」
 ……なんか信じられない言葉だった。動かない。そんなの、僕の知っているセックスにはない。そんなプレイ、見たことも聞いたこともない。
「ダメだよ……。たぶんそんなの、気持ち良くない……」
「お願い、こうさせて……。真咲が気持ち良くないなら、僕が真咲のおちんちんをいじるよ……。だから、もう少しだけ、こうさせて……」
 そこまで言われたら、もう押し黙るしかない。僕はこの奇妙なプレイを了承する。
 雪広は僕の顔をじっと見続けている。顔こそ真っ赤だけど、その表情は真剣そのものだ。僕は力強い視線に射すくめられる。
 僕はそんな雪広を、どんな顔で見たらいいのかわからない。ボンヤリと薄目を開けながら、雪広の濡れた瞳を見ている。
 お尻の中のペニスはドクンドクンと脈を打っている。亀頭はちょう前立腺を押し上げるような位置に当たり、ひどく圧迫感がある。カウパーが押し出されてしまいそうな圧力だ。
 自然と僕のお尻にも力が入る。括約筋やPC筋がピクピクと震えはじめ、雪広の逸物を締め上げる。
 お尻に、雪広の体温を感じる。僕は雪広の腰に足を絡ませ、せめて、密着感だけでも高めようと苦心する。
(やだ……、これ、エロい……。なんか、凄く恥ずかしい……)
 僕にも羞恥プレイの経験はある。裸のまま立たされたり、バイブを入れられたまま、そのまま放置されたり。
 でも、僕はずっと人の前で裸を晒すことを商売にしていたわけだから、特に羞恥心を感じたことはない。僕の行う反応は、お客さんを喜ばすための演技以上のものではない。
 でも、今日は違う。今、僕は恥ずかしい。じっと、雪広に見られているのが、もの凄く恥ずかしい。
 僕はたまらず手で顔を隠そうとする。
 しかしその時、肩を押さえていた雪広の手が一瞬離れ、パッと僕の二の腕を押さえつける。手のひらは、顔まで届かない。
「な……ッ?! なんだよ雪広! ちょっと、離して……!」
「ダメ……。俺は真咲の顔を見たいんだ……。隠しちゃダメ……」
「…………っ?!」
 雪広はじっと僕の顔を見ている。とろけそうな快感に耐えながら、眉をひそめて、フルフルと震えて……。
 その目は、とても真摯だ。
「や、やあぁッ!!」
 僕はたまらず目をつぶる。アゴをそり上げ、少しでも顔を雪広から離す。
 でも、雪広は視線を外さない。直接見なくても分かる。雪広は恥ずかしがっている僕の表情まで、頭に焼き付けるようにジッと見つめている。
「あ……あぁ…………」
 恥ずかしいッ!! 圧倒的な羞恥心に、僕は脳が茹だってしまいそうだ。……熱い。頭の中がとても熱い。
 僕は雪広の下で身もだえる。どうにかこの視線の拷問から抜け出そうと、身体が勝手に暴れ出す。
 しかし、両手を固定され、腰を押さえられているこの状況では、脱出なんて出来やしない。僕の体はピンクのシーツの上で虚しくのたうつ。
 全身の筋肉が硬直しはじめる。お尻にもキュンと力が入り、僕は雪広のモノを激しく強く締め上げる。
「あうッ! あ、……あぁ、……真咲ぃ」
「ゆ、雪広ぉ……」
 僕は少し目を開けて、雪広の顔を確認する。やはり、雪広は僕の上から、ジッと顔を見続けている。その呼吸は深く、荒い。湿った息が、頬にかかる。
 僕はもう耐えきれず、目をギュッとつぶる。……ダメだ、恥ずかしすぎる。僕は雪広と目を合わせることさえ出来ない。
 感じる。雪広の視線がザクザクと突き刺さる。まるで、頭の中を直接見えない光で犯されているみたいだ。思考がグチャグチャになり、理性が消えていく。
「ひあ……、や、やらぁ…………。み、見ないで……。見ないでぇ…………」
 僕は哀願する。もう、限界だ。これ以上恥ずかしい顔を見られたら、僕は死んでしまう。羞恥心に潰されて、息が止まってしまう。
 しかし、こんな息も絶え絶えの僕を、雪広は許してくれない。
「ううん……。僕は真咲を見てるよ……。ずっと、見てる。目を反らされても、閉じられても、ずっと見てる。嫌われたって、僕はずっと見てる……」
「ひあ……、あ……あぁ…………っ」
 僕の背筋が反り返っていく。こみ上げてくる快感に、身体がガクガク震える。
「好きだよ……。真咲のこと、好きだよ……。どんなに好きって言っても追いつかないくらい、好き……。どうしたらいいか分からないくらい……。死んじゃいたいくらい、好き……」
「や、やめてぇ……、もう、言わないでぇ…………、らめぇ……、は、恥ずかしいのぉ…………恥ずかしくって、し、死んじゃうのぉ…………」
「俺は、もっと見たい。かわいい真咲の顔を、もっと見ていたい……。ねえ、見せて……。恥ずかしい真咲を……もっと、見せてよ……」
「だ、ダメぇッ!! ひ、ひあッ! あッ! ああぁッ! ダメ、ダメ、ダメえぇッ!」
 僕は泣き出す。顔を真っ赤にして、涙をボロボロとこぼし始める。身体がこわばって、奥歯がカタカタ鳴りだす。
 腰にに力がかかり、雪広のペニスが前立腺をグイグイ押し上げる。トロトロと流れるカウパーが、僕のお腹に糸を引いて落ちる。
(な、なんで……。なんでこんなに気持ちいいの……ッ! おかしい、こんなのおかしいッ!)
 僕にはこの快感がとても信じられなかった。雪広はさっきから少しも動いていない。ただ、僕の顔を見続けいているだけだ。なのに、僕はもう射精寸前まで登り詰めてしまっている。
 いや、このままでは僕は放出してしまう。ペニスに触れてもいないのに、頂点に達してしまう。
「ひやあぁ……、あぁ……、あ…………、あうぅ…………」
 ダメだ。もう、何も考えられない。頭の中が真っ白になっていく。強大な快感に、意識が掻き消されてしまう。
 引き延ばされた快感は、僕により深い法悦を運んでくる。さっき僕が雪広にしたことが、こんどはこの身に返される。
「ゆ、ゆきひろぉ……、しん……じゃう…………、はず……かしぃ………………、し、しぬぅ…………」
「うん、見てるよ。真咲がイっちゃうとこ、見ててあげる……。この目に、一生焼き付けるよ」
「ひ、ひいぃッ! ゆ、ゆきひろおぉッ!!」
 その瞬間、熱い奔流が駆け上がってくる。精液が、ペニスへの刺激なしに、一気に噴き上がる。
「やあああぁッ!! ひ、ひんらうぅッ!! ……ひぃ、ひやあぁぁあぁぁッッ!!」
 ブビュウウウウウゥゥッ! ビュルウウゥッ! ビュウウウゥッ! ビュルウゥッ! ビュウゥッ! ビュッ! ビュウウゥッ!
 僕の全身が硬直する。直腸が蠕動し、雪広のペニスを絞り上げる。そして、雪広が達する。
「ま、まさきぃッ! ……まさきいいぃぃッ!!」
 ビュクンッ! ブビュウウウゥッ! ビュルウウゥゥッ! ビュウゥッ! ビュッ! ビュクンッ! ドビュウウゥッ!
 下腹部に広がっていく大量の熱。身体の中が爛れてしまう錯覚。
 僕は、このまま死ぬと本気で思った。気絶しそうなほどの快感にさらわれ、全身が痙攣した。
 雪広の顔が霞む。とても優しい笑顔が遠い。
「ゆ……き……ひろぉ……」
 僕の切望に、雪広は二の腕から手を離す。そして、優しく僕の背中に手を回し、僕を抱きしめる。
 絶頂と同時に何かが決定的に欠けた心に、また新しい何かが染み渡っていく。
 伝わる体温と重なる脈拍。そして、とても近くにある雪広の笑顔。
 そのまま浮いてしそうなくらいの多幸感が、全身を駆け回る。
(……あぁ、これだ。…………雪広の言っていた、気持ちいいのって、……このことだ)
 僕は理解する。セックスより気持ちいい充実感を。わき上がってくる幸福を。……恋心を。
 僕達は、今、繋がっている。


 朝。
 僕達は何事も無かったかのように別れ、何事もなかったかのように登校する。
 何事もなかったかのように、授業を受ける。
 僕はノートにシャーペンの先を走らせながら、チラリと雪広を見る。
 彼は、何事も無かったかのように黒板を見続けている。
 それなら、僕も先生の言うことに耳を傾ける。

 朝がすぐ来るように、夜もすぐ来る。放課後、僕は帰宅の途につく。今日もこれから仕事だし、事務所の方に顔を出さなければならない。僕は西武池袋線椎名町駅に向かう。
 僕は校門を出て、雪広がそれに追いついてくる。後ろからそっと歩速を合わせ、やがて僕の隣に並ぶ。
「………………」
「………………」
 お互い会話も交わさないで幾数歩。家並みは少しずつ流れていき、僕達は駅に近づいていく。
「……真咲」
 雪広がついに口を開く。
「昨日のこと、夢じゃないよな……。俺達、セックスしたんだよな……?」
「…………あれは、……セックスだったのかなぁ?」
 僕は正直、自信がない。昨夜のプレイは、やっぱりかなり特殊なものだったと思う。
「俺、真咲のこと、抱いたんだよな」
「お金を払ってね」
 僕は雪広をちょっと冷たくあしらってみる。
「……あ、……うん、そうだね。俺は真咲を買ったんだ。……それで、気持ちが伝わるならって、買ったんだ」
「……ははッ」
 思わず、笑ってしまう。
 だって、そんなことは言わなくていいことだから。気持ちが伝わるからなんて、そんなこと今更ってカンジだ。
 僕は雪広の前に回り込む。そのまま雪広と向かい合いながら、バックで歩を進める。まあ裏道だし危なくはないだろう。
「雪広、もうそんなことどうでもいいよ。雪広の心は全部伝わったから。うん、理解出来たよ。……あの時ね」
「あの時……」
 そう言うと、雪広の顔がカアァーッと赤くなっていく。なんでこいつは言葉一つでこんなに分かりやすい反応をするんだろう。見てて飽きない。
「だからさ、僕の考えていることだって、少しくらいは伝わってるんじゃないの? 当ててよ。僕が今、何を考えているのか……」
「え……?」
 雪広の歩きが止まる。その表情は硬く、眉毛が八の字の形に寄っている。
(……ってなんで困ってるんだよ、雪広。……まさか本当に分からないわけ?!)
 いや、コイツの場合、分かってるから押し黙っちゃうこともありそうだ。もしそうなら、僕は直接的な行動にでるしかない。
 僕は雪広の肩をつかむ。そして、一歩前に出る。顔を上に向け、口を前に突き出す。
 唇に、唇を押し当てる。
 キョトンとした雪広の目が見える。彼は脈拍が停止したかのように、ピクリとも動かない。
 でも、これで僕は伝わったと思う。だから、雪広から離れる。
「ま、真咲……、今の……」
「あー、サービスだってば、サービス。今後ともご贔屓にってさ」
 それは嘘。僕は今までムリヤリ奪われたことはあっても、自分からキスしにいったことはない。だから、これはある意味僕のファーストキスだ。
 僕の唯一残った初めて。雪広にあげる。
「真咲……あ、あのさ……」
「な、なんだよ……?」
「顔、真っ赤だよ……。そんなに、恥ずかしかった?」
「え?」
 僕は自分の頬に手を押し当ててみる。確かに、もの凄く熱い。
「え…………? や……、なんで?  ちょっと……、嘘ぉ?」
 そう思うと、僕はますます恥ずかしくなってしまう。なんだよ、もっと恥ずかしいコトなんて今までたくさんしてきたじゃん! なんでキスだけで、……こんな!
 僕はもうたまらなくなって、引けた腰つきで雪広と距離をとる。そして、そのまま駆け出してしまう。
「ま、真咲?!」
「ま、待ってるからね! 僕、ずっと雪広のこと、待ってるから」
 僕は雪広から逃げながら、大声で叫ぶ。
「待ってるって……。俺、もうお金なんてないし! それにもうあんなこと……ッ!」
「いつまでだって、待ってるから! ……僕、あの街でずっと、待ってるからぁッ!」
 僕達に距離はグングン開いていく。僕は全力で走り、雪広の足はすくんでいる。
 僕の頭の中は、嬉しいやら、悲しいやら、恥ずかしいやらでグルグルだ。自分が何を言ってるのかさえよく分からない。

 僕は池袋から逃げられない。事務所の人達は怒ると恐いし、母さんにだって時々は会いたい。
 だから、僕は待っている。雪広が二ヶ月に一度、いや半年に一度でも来てくれるのを、待っている。
(すごい変な気分……、気持ちいいのに泣き出しそう……。でも、顔は緩んじゃうし……)
 僕はすごい変な顔をしながら、夕刻の茜色に染まった街を走る。
 ありがとう、雪広。こんな気持ちを教えてくれて、本当にありがとう。
 僕は雪広のこと、ずっと待ってるよ。
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