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  • 2015⁄11⁄21(Sat)
  • 00:31

クリスマスは我がチで

0. metaphor

アメリカ合衆国ケンタッキー州の名前は、一説にはチェロキー族の言葉「暗い血まみれの大地」に由来するという。(参考:Wikipedia日本語版)
この地は新たな種族の聖地となり、その名もまた新たな意味を持つこととなるだろう。
その日は、もう間近に迫っている。
1. propagation #1

「はい、午後三時ですね。その頃に集荷にうかがいます!」
愛想の良い声で通話を締め括ると、その男は携帯電話の終話ボタンを押した。パタン、と折り畳んだ携帯電話を握ったまま、彼の左腕はダラリと垂れた。僕は彼の携帯電話を横目で一瞥すると、咥えていたものから口を離した。見上げると、発達した腹筋と胸筋が彼のやや荒い呼吸に合わせて動いていた。
「仕事?」
僕が尋ねると、彼は僕のことを見下ろしてきた。電話の応対時に浮かべていたであろう笑顔は、完全に削げ落ちていた。
「はい。わたしのルーラー。仕事の電話が入りました」
無表情な顔で、彼が答えてくる。
「クリスマス・イブで忙しい時に悪かったね」
「いえ。わたしはあなたのルールド。あなたに従うことが最優先です」
僕は彼の太い腕に掴まりながら立ち上がった。彼の固くなった乳首を摘み、彼の喉元の二つの傷痕、二つの赤い斑点をペロリと舐めた。
「あぁ…」
僕よりも頭一つ背が高い彼は、天井を仰ぎながら熱い息を吐いた。
「今日はもういいよ。仕事に戻って。兄さんの体液、雄味(おすあじ)強くてすっげぇ美味かったよ」
「はい。わたしのルーラー。ありがとうございます。もっと、もっと飲んでください」
「また呼んであげるよ。だから、今日はこれ穿いて、元に戻るんだ。そろそろ車に戻らないと怪しまれるよ」
僕は背後に手を伸ばし、洗濯機の上の棚から下着を一枚取り出した。
「はい。分かりました。わたしのルーラー」
彼の顔に表情が戻った。それまで真紅に輝いていた瞳の色が、黒く落ちていく。その瞳は、僕が差し出した下着を前にして困惑に彩られた。
「これは…」
「ケツワレ。兄さんみたく体鍛えてる人にはよく似合うから。試しに穿いてみてよ」
僕は自分のチンポを固くしながら、彼の手から業務用の携帯電話を奪い取り、代わりにジョックストラップを握らせた。
「は…、はい、分かりました」
全裸の彼は、一度盛大に射精したにも関わらず大きく勃起したままのチンポを、窮屈そうにジョックストラップの前部に押し込んだ。僕は再度膝を突いて中腰になると、携帯電話を足許に置き、彼の尻に両手を回した。尻を支えるストラップの下に指を入れ、位置を調整してやる。指を抜くと、パチン、と肉が小さく音を立てる。
「あ」
「ごめん。痛かった?」
「あ、いえ…」
僕は彼の尻を揉んだ。
「あっ…」
「どう?下着穿いてるのに、ケツは丸見え。すっげぇエロくない?」
「あっ、は、はいっ、エロいっすっ、こんなの初めてっ」
局部を覆う前布には、我慢汁による染みができていた。
「通販で買えるからさ、これから兄さんはずっとケツワレ穿くようにしてね」
「はっ、はいっ」
「彼女とはちゃんと仲直りしなよ。大切な生殖器なんだから」
「はい、すぐ仲直りします」
「そして、確実に仲間を増やすこと」
「はい、営業所は俺が支配します」
「うん。今度は兄さんがルーラーになる番なんだからね。兄さんの会社の男達は、みんな兄さんのルールドとして、兄さんに仕えることになる」
「はい。みんな俺のルールドになります」
一層固くなったチンポの先端が、ジョックストラップの腰ベルトを押し退けて顔を見せた。いい素材だ。
「ありがとうございます」
謝意の言葉を受けて彼の顔を見上げると、そこには昏い笑みを浮かべた新たな仲間がいた。
先程までワンルームマンションの狭い廊下で全裸で腰を振っていた若い男は、宅配便のユニフォームを着込み玄関の叩きで一礼した。
「ありがとうございました。また何かありましたらご連絡くださいっ」
通販の配荷に訪れた先で、まさか全裸の大学生に迎えられるとは、そしてその牙にかかり新たな種族として生まれ変わることができるとは、彼は予想だにしなかっただろう。クリスマスを前に彼女と大喧嘩してしまい寂しいイブイブを過ごした彼に、僕はそれ以上の快感と幸福を与えられたと信じている。その快感と幸福は、彼を中心にしてすぐに広まっていくことだろう。僕は彼が身に付けていたボクサーブリーフを顔に押し当てた。雄の臭いが心地良い。
「シュン?もういいんだろ?」
宅配便の彼が去った玄関の扉を見詰めながら余韻に浸っていると、背後で部屋の扉が開けられた。僕は慌てて振り返る。
「あ、ごめん。もう済んだよ」
「よくやったな」
「いや、当然のことだから…」
「じゃ、こっちも済まそうか」
「うん、分かった」
僕は、ふと洗面台の鏡を見遣った。鏡の中で、僕の瞳は真っ赤な輝きを湛えていた。自然と笑みが湧いてくる。唇を軽く開けると、牙のように一際長く発達した犬歯が覗く。
「早くルールドにしてやろうぜコイツら。サッカー少年、我慢汁でサカパンどろどろになってんぞ」
その言葉を聞いて、僕の口の中に涎が溢れた。
「シュンはどっちにする?」
「さっきも言ったのに。サカユニの方っ」
僕は思わず即答していた。
「好きだねぇ」
部屋の中で待つ親友は苦笑いを浮かべた。
「いいんだろ?それとも、サッカー少年の方にしたい?」
僕は、僕同様に全裸姿の親友に抱き付きながら、尋ねた。
「いや、いいよ。お前の好みに任すよ」
僕は自分よりも背の低い親友の顔を見下ろし、視線を交わす。真紅の瞳同士が見詰め合う。相手の言葉が直接頭の中に流れ込んでくる。
「ありがと」
僕は笑顔を返す。親友であり、僕のルーラーである浦戸剛士(うらと・つよし)に向かって。
2. separation and reunion

結構な大荷物になってしまった。駅前のファストフード店でチキンやポテトを、駅ビルの高級らしいスーパーで赤ワインとチーズ詰め合わせとパンとサラダを、そしてエキナカのケーキ屋ではイチゴをたっぷり乗せたナポレオンパイを、なんてことをしていたら、両手が荷物で埋まってしまった。おまけに結構重い。一度に済まそうと思ったのが良くなかった。でも自分の部屋に戻っている暇は無かった。あと数分で、成田からの直通の特急が到着する。
大学生が住むような安いワンルームマンションが徒歩十分程度の距離にあるような田舎の駅ではあるが、新幹線や空港特急が停車するし、周辺にはデパートが立ち並び、エキナカも発展している。都内の大学の近くには電気街があるものの、最近はそこそこの大きさで大型量販店や有名雑貨屋の支店がオープンしたものだから、殆ど駅周辺だけで生活が済むようになってしまった。
クリスマスの浮かれた装飾が施された駅構内で、僕は時計を見上げた。いかにもクリスマス用の買い物をしてきました、と言わんばかりの自分の姿を思い、浮かれているのはどっちだよ、と少々恥ずかしくなる。
駅ビルの出入口からは、引っ切り無しにクリスマスソングが聞こえ続けている。その音がふっと静かになる。「クリスマスは我が家で」だったか、ジャズ風にアレンジされたバラードに曲が変わったのだった。
クリスマスは我が家で、いや、クリスマスは我が国?土地?で、だな、剛士にとっては。
僕、つまり垂野瞬(たれの・しゅん)が剛士と出会ったのは、大学入学直後の教室だった。僕よりも小柄で童顔のくせに、格闘技でもやっているのか筋肉質で、自分がいわゆるガッちび好きだと気付かされたのは、明らかに剛士がきっかけだった。それまでは特定の男で抜いたことは無かったのに、以降は専ら剛士が僕のおかずになった。
僕の何を気に入ったのか、大学生活では幸せなことに剛士の方から僕につるんでくることが多かった。剛士の顔や腕を眺めながら何食わぬ顔でチンポを固くしている僕に対して、何も知らない剛士は屈託の無い笑みを振り撒いてくれた。
剛士を初めとする学科の友人を中心にフットサルのサークルを作って、ユニフォームの手配まで引き受けたのは、自分好みのサカユニを剛士に着させたかったからに他ならない。「フルコートでサッカーするかも知れないし」と言い訳めいたことを言いながら、フットサル用のジャージ風の生地ではなく、敢えてサッカー用の光沢感の強い生地のシャツとパンツを選んだのも、単純に僕の好みだ。
マイクロビキニでチンポを固定し、その上にスパッツとサカパンを重ね穿きし、携帯電話の中に収めた幾つもの剛士の姿を見ながらオナニーする、それが僕の快楽となった。
そうやって剛士のことを汚し続けたしっぺ返しを、僕は翌年の初夏に味わうことになった。
「語学留学…???」
昼時の学食の喧騒の中に、僕の枯れかけた声は吸い込まれていくようだった。
「うん。九月から一年行ってくる」
「なんで…」
愚問だった。理由も無く留学に出る人間なんかいない。剛士は少し不機嫌な様子を見せながら、本気で英語を仕込みたいこと、だからこそ日本人がいない場所を選んだこと、既にアパートを引き払う準備を始めていること、など僕の絶望を深める情報ばかり口にし続けた。
「敢えてアメリカの田舎町でホームステイするワケだし。メールとかはしないと思う」
量だけが取り柄の定食が乗っていた盆を手に、剛士は立ち上がりすぐに背を向けた。その背中が異様に冷たく感じられたのは、剛士の決心のためか、それとも僕自身の罪のためか、僕には分からなかった。
宣言通り、成田から発った剛士は「今トランジットでアトランタ空港。これからルイビルに飛ぶので、また来年」という経由地からのメールを最後に、連絡を寄越さなくなった。その一方で僕は、剛士の記憶に追いすがることを、どうしても止められなかった。もっと好みに合致する筈の男を見掛けても、剛士がノンケに違いないとどんなに唱えても、僕の中から剛士は姿を消してくれなかった。
そうして迎えたクリスマスシーズンは、僕にとってこれまでに無く痛いものとなった。街中のきらびやかなイルミネーションは、光の刃のように僕の胸に突き刺さる。剛士はただの友人であったのに、別れたわけでもないのに、そもそも恋人として付き合うことを許される仲でもないのに、僕は夏に味わった胸の痛みに再び襲われていた。
僕を取り巻く世界が急に変わったのは、十二月も中旬に差し掛かった頃だった。
「クリスマスイブイブに急に帰国することになったんだけど。もし予定が無ければその晩だけ泊めてくれないかな」
およそ四ヶ月ぶりの剛士のメールに、僕の気持ちは小躍りした。けれど、できるだけ冷静に、しかし友人としての喜びを最大限表現できるよう、言葉を選びながらメールを返信した。
「構わないよ予定なんて無いし。ソファーベッドあるし暫くいても大丈夫。クリスマス間近だしフットサルの連中呼んで飲んだくれる?アメリカのクリスマス体験できないの残念だったね」
「アメリカのホリデーシーズンはもう腹一杯。あいつらエキサイトし過ぎ。それにホストファミリーから クリスマスは我が家で とか言われちゃったからね。瞬が良ければ2人でサシで飲もうよ」
剛士の返信を読んで、僕は授業中にも関わらずニヤニヤと笑みを浮かべてしまった。向こうは夕食後くらいの時間だろうか。剛士が僕宛にメールを送ってくれている。その上、僕と二人きりの時間を望んでいる。僕は教授の目を盗みながら急いで返信した。
「了解。駅で待つよ。時間決まったら教えて」
そうして迎えたクリスマスイブイブの夕方。率直に言って、浮かれないでいられるわけがない。例えノンケであったとしても、惚れた男が近くに来てくれるというのは嬉しいことだった。駅前のペデストリアンデッキの青と白のイルミネーションも、今日だけは暖かく感じるくらいだった。
ダウンジャケットの裾に隠れた僕の股間は、剛士との再会を想像して固く盛り上がっていた。ガンメタリックの光沢を放つビキニパンツには、我慢汁の染みが広がっていることだろう。このビキニは下着フェチの僕にとっては勝負下着だった。そういう考えと行動が酷く滑稽なことは、分かっている。そして、まだ剛士を汚し続けるつもりなのかと、自己嫌悪で悲しくなったりもする。でも、衝動を抑えることはできなかった。
「や。出迎えご苦労」
「ぉわっ」
僕は背後から声を掛けられ、思わず飛び退いていた。スーツケースを引っ張りメッセンジャーバッグを斜めにかけた剛士だった。ここ数ヶ月間、夢と妄想の中にしかいなかった剛士が、髪を短く刈り上げ野性味を増した姿で、実物となって僕の前に現われた。
「な…、なんだ、もう着いてたんだ」
「一本前の特急乗って、途中で乗り換えた方が早くてさ。でも、駅ん中で迷った。ここ、中途半端に広くて複雑なんだよ」
口を尖らせた剛士の顔は、やっぱり可愛くて、僕は笑った。
剛士はボアコートのポケットからニット帽を引っ張り出すと、頭に被った。
「急に悪かったな。本当に大丈夫だったのかよ。デートとかねぇの?」
「無い無い。暇持て余してたから、丁度良かったよ。腹減ってるでしょ?」
僕は手にした袋を軽く持ち上げてみせた。
「減ってる減ってる。へぇ、マジにクリスマスパーティみたいだな」
剛士は僕が左右に提げた荷物を代わる代わる見遣りながら、なんだか嬉しそうだった。
「たいしたもの無いけどね」
「いやいや、悪いな。あ、それワインだったりしね?」
「そだよ。赤」
「すげー、嬉しいよ。帰りの機内でワイン頼んだら、あなた歳幾つ?とか訊かれてさぁ。もう二十超えてるっての」
「まー、剛士童顔だもんなぁ」
「言うなよ、それ」
「じゃ、結局ワイン飲めなかったんだ」
「いや、パスポート見せて奪い取った。赤と白両方飲んで、ビールももらった」
「なんだよそれ」
僕は笑い出した。連られて、剛士もクックッと笑い始めた。良かった。剛士は剛士だった。そっか、僕は怖かったんだ。遠くに離れた剛士が変わってしまうことを。僕のことを忘れてしまうことを。
「チキン冷めちゃうから、早く帰ろ。十分くらい歩くけど、だいじょぶ?」
「へーきへーき」
丁度「クリスマスは我が家で」をBGMにしながら、僕と剛士は僕の部屋に向かって歩き始めた。クリスマスのイルミネーションと装飾はまるで僕達のことを祝福してくれているようだと、この時は感じていた。
3. Baptism of Blood

やや早めの夕食は、赤ワインを少し残してすぐに終わってしまった。
「ケーキもあるけど、どうする?」
「うは、すげぇな…。結構腹一杯になったからなぁ、後でいいか?」
「分かった。腹がこなれたらコーヒーでも淹れるよ」
「悪いな」
僕と剛士はテーブルを挟んで向かい合い、お互い少し酔いながら談笑していた。話題の殆どは、アメリカでの生活を尋ねる僕の質問で占められていたけれど。
「ケンタッキー州って、やっぱりチキン食べまくってるわけ?」
僕はフライドチキンの残骸を放り込んだ箱を指差した。
「あー、確かにルイビルに本社あるんだよな。広告と店は良く見たけど、特にたくさん食ってるって感じじゃなかったな。かと言って特別な料理ってわけでもないし。日常のメニューの一つで、思い出したように食ってる、って感じ」
剛士がホームステイしている街、僕は名前すら聞いたことも無い場所だったが、そこにも一店舗だけその店があるらしい。
「クリスマスの料理は、七面鳥含めて殆ど自宅のオーブンで仕込むしね」
酒と食事と暖房で暑くなってきたのか、剛士はセーターを脱いでTシャツの長袖を肘までまくり上げた。自分の記憶に残る剛士の腕よりも、筋張って見えた。
「やっぱり、ますます筋肉付いてきてない?」
「あぁ、かもね」
剛士は力こぶを作ってみせた。
「あいつら、筋肉至上主義だもん、いまだに。俺、背ぇ低いし、あいつらにしてみたら中学生くらいに見えるらしくてさ、大学の廊下とかでよくチョッカイ出されるんよ」
「ちょっかい…って何されんの?」
「肩を軽く小突かれたりとか、足を引っ掛けてきたり」
「へぇ…。寧ろ相手の方がガキっぽいね…」
「そうそう。そんな程度の話。けど、俺もムカつくワケで、何度目かに我慢ならなくなって、伸ばしてきた腕を掴んで廊下に引っくり返してやったんよ」
「合気道やってたもんね」
「まぁね。師範達にバレたらメチャクチャ怒られるけど」
「で、どうだったの?」
「特に狙ったワケじゃないけど、リア充集団で一番背が高くて偉そうにしてるヤツを偶々倒したらしくて、その日以来ニンジャだのジュージュツだのクロオビだのナルトだのってヒーロー扱い。柔道じゃねぇっての。ナルトってなんだナルトって。あいつらバカだよ」
「へぇ…」
僕は苦笑して、でも少し心配になった。
「仕返しとか無かったの?」
「あ、そういうことしないんだよな、あいつら。俺に倒されたヤツなんて、自分から俺をアメフトのチームに誘ってきてさ」
「へぇ、アメフト?」
「そ。日本だとサッカーだとか野球だったりするけど、アメリカの地方都市だとアメフトとバスケが圧倒的。女にモテるかどうかはそこに掛かってる」
「はは…」
「でも俺、球技あんまり得意じゃないからさ、ほら、フットサルでも気合のみっ、って感じだろ。で、日本に滞在経験あるオヤジが小さな柔道教室やってるから、そこに通って体だけは鍛えてた」
「アメフトできそうなのに」
「いやいや無理無理。俺、吹き飛ばされるよ。寧ろ、忍者の末裔ってことにして柔道教室通ってた方が面白がられるし」
「なんだよそれ」
僕は吹き出した。
「いやほんと、あいつら極端でさ、リア充とオタクとに完全に集団が分かれてんの。アメフトやってる連中と話してたら、アニメでもナルトやポケモンならcoolとか言うくせに、マクロスやグレンラガンは肩をすくめてgeek向けのjapanimationは理解できない、とか言いやがる」
「あ、はぁ…」
剛士ってアニメ見てたっけ。
「まぁ、俺もよく分かんないし、グレンラガンとか知ってる時点でお前らもオタクだろとか思ったんだけど、なんかムカついたからオタク集団とも仲良くしてたらさ、クロオビでニンジャのくせにオタクだなんて不思議なヤツだ、だとさ」
「へぇ…。なんかよく分からないね、アメリカ人って」
「ま、向こうも俺達のことそう思ってるんだろうけど。だから答えてやったの。それが日本人だ、って」
「何それ」
「そしたら、Oh!とか言いながら妙に納得してんだよ、あいつら!」
剛士と僕は、大口を開けて笑い出した。
「ってな生活」
「へぇー」
僕は笑い過ぎて流れ出た涙を、手の甲で拭った。
「そんなこんなで、三ヶ月ちょいだけど、結構筋肉増えたかな」
そう言いながら、剛士はTシャツを脱ぎ始めた。
「ちょっ、なっ、何やってんだよ」
「ん?筋肉見てもらおうかな、って」
「え…」
僕はどう反応すれば良いのか、戸惑った。一時落ち着いていた股間に、僕の意志とは関係無く血が集まり始めた。
「ほら、な」
「あ…、うん…」
久し振りに生で見る剛士の裸体。僕は思わずゴクリと生唾を飲み込んでしまい、そのことを剛士に悟られないように慌てて咳き込んでみせた。
「どうなの、瞬?」
「えっ?あっ、んとっ、確かに付いてる。筋肉付いてるよ!」
僕は慌てて答えるが、剛士は首を横に振った。
「違うって。瞬はどうなんだ?」
「え?」
剛士の質問の意味が分からない。剛士は真っ直ぐに僕のことを見詰めてくる。顔が火照る。マズい。
「瞬は、男の体、好きなのか?」
「え…」
僕の全身から冷や汗が吹き出した。ヤバい、バレた。剛士との関係が完全に終わってしまう。
「な、何…」
どうやって誤魔化そう。そうだ、笑うしか無い。笑い飛ばそう。何バカ言ってんだよ、そう言おうとした僕は、次の瞬間我が目を疑った。
僕を見詰める剛士の瞳が血のような赤に彩られ、そして、僕の全身は一瞬の内に強張り、動かなくなった。自分の体である筈なのに、全く自由が利かない。
「答えろよ。瞬は男が好きなのか?」
剛士の冷徹な言葉が頭の中に響き渡る。
「は…はい…、好きです」
僕の口は、僕の意志とは無関係に、真実を語った。何故。どうして。止めたくても、止められない。
「俺のことは?」
「はい、好きです。愛しています」
自分の言葉に、僕は眩暈を感じた。こんなこと、言ってはいけない。
「俺でオナニーしてる?」
「はい、剛士は僕のおかずです。剛士の裸、剛士のサカユニ、剛士の写真、いつも剛士で抜いています」
もう取り返しがつかない。どうしようどうしようどうしよう。困惑する僕の前で、剛士は目を細めてニタリと笑った。どういうことだ?どうしてこうなった?剛士はどうなってしまったんだ?僕はどうなっているんだ?
「嬉しいよ、瞬」
「はい、僕も嬉しいです」
嬉しいのか、僕は?この事態が?剛士に嬉しいと言ってもらえた。嬉しい。僕も嬉しい。僕は、自分のチンポが固く勃起していることに気付いた。こんな事態なのに?これが僕が望んだことなのか?分からない。分からない。考えられない。剛士の赤い瞳を見詰める内に、考えることができなくなってきた。剛士?どうしたんだ?剛士はどうしちゃったんだ?
「いいんだ、瞬、もう考えるな」
「はい。もう考えません」
ふと頭が軽く、気分が楽になる。考えなくていい。どうして?いや、考えなくていいんだ。僕は、考えない。
「俺もお前のことが好きだった。お前もそう思ってくれていたんなら、俺、アメリカに逃げること無かったな」
嬉しい嬉しい嬉しい。濡れてる。僕のビキニ、僕の我慢汁で濡れてる。気持ちいい。なんでこんなに気持ちいいんだろう。
「ま、アメリカに行ったからこそ、新しい種族に加われたんだけどな」
剛士が見詰めてくれてる。嬉しい濡れてる嬉しい気持ちいい嬉しい、あぁ、剛士、気持ちいいっ。
「これから、お前を俺のルールドにしてやる」
「あっ」
ルールドという言葉を聞いて、僕の全身が一瞬痙攣した。何のことだか知らないけれど、やたら気持ちいいものだということは、分かった。
「さぁ、立つんだ。立って、服を脱げ」
「はい」
僕の体はその場に立ち上がった。自分で力を入れていないのに、体が勝手に動く。初めての感覚は、とても気持ちが良かった。僕の腕は僕のスウェットとTシャツを脱がし、ジーンズを下ろした。僕の脚は両手で押さえられたジーンズから抜け、お互いの靴下を脱ぎ捨てさせた。僕は何も考えていないのに。僕は服を脱ごうと思ってもいないのに。僕の体は剛士の命令通りに動く。脱力しているのに動いている感触。なんて気持ちいいんだろう。僕の体は剛士のものになった。それはとても気持ちいいことだ。そう感じた。
僕の両手がビキニに掛かったところで、剛士が命じた。
「ちょっと待て」
「はい」
僕の手が止まる。
「そのビキニ、瞬の趣味?」
「はい。僕の趣味です。僕はビキニやケツワレが大好きです。ビキニを穿くと気持ちいいです。ビキニにサカパンを重ね穿きしてオナニーします。通販でやらしい下着をたくさん買っています。剛士にも穿いてもらいたいです。今日は剛士と会うから、このビキニを穿きました。僕のビキニを見てください。剛士に見られて、僕はとても興奮しています。僕は勃起しています。我慢汁を漏らしています」
僕の口は、剛士に知ってもらいたいこと、聞いてもらいたいことを次々と勝手に明かしていった。口が動けば動く程、チンポも固くなり、僕はますます気持ち良くなっていく。
「だったら、ビキニを穿いたまま儀式に入ろうか」
「はい。お願いします」
儀式って何のことだろう。しかしそんな疑問は、剛士がカーゴパンツと下着を脱いで全裸となったことで、吹き飛んだ。剛士の全裸、剛士の筋肉、剛士のチンポ。剛士のチンポは力強く上を向いている。勃起している。剛士の勃起勃起勃起勃起勃起…。僕の頭は沸騰していた。
剛士がテーブルを脇に寄せ、近付いてくる。
「さぁ、瞬、俺のルールドになるんだ。俺はお前のルーラーになる」
剛士が口を開いた。剛士の上の犬歯は長く伸び、そして鋭く尖っていた。しかし、僕の意識は僕の太股に触れた剛士の勃起の熱さにばかり向いていた。熱いよ、剛士のチンポ。気持ちいい。
剛士が僕に抱き付いてきた。気持ちいい。僕より背が低い剛士の頭が、僕の鼻先に迫る。剛士の髪の毛の臭い。男の臭い。気持ちいい。剛士の息が喉元にかかる。温かい。熱い。気持ちいい。喉元に何かが触れ…
「あっ」
僕の喉元に激痛が走った。
「ああっ」
痛みが全身に広がり、頭が痺れる。指先が硬直する。腕や脚が脱力する。視界がぼやける。
「ああ…あ…あはぁ…」
激痛はやがて疼痛となり、そして拡散し鈍痛へと変化する。
「あっ、ああっ、あっ、あっ…」
全身が痙攣し始めるのが分かる。足先から脳天まで、痙攣の波が幾重にも走る。気持ちいい。震えているのに、なんて気持ちいいんだろう。
「あぁ…あ…んあぁ…あはぁ…」
やがて、全身を包んだ痛みは心地良い脱力感に取って代わった。最高に気持ちいい。
「あっ」
腰が勝手に前後に動く。僕のチンポは勝手に射精したらしい。こんな気持ち良さは初めてだ。高校時代に夢精した時の比じゃない。もう死んでもいいくらいの快感。
「そう、瞬、お前は一旦死ぬんだ。新たな種族の一員となるために」
耳許に剛士の声を聞いて、僕はその意味を理解できないままに、気を失った。
4. New Tribes

僕は目を開いた。
最初はぼんやりしていた視界が、徐々に明瞭になっていく。ここは?…どこだ?
…PCのディスプレイ兼用の液晶テレビに、ゲームの本体とコントローラー、DVDのケースが幾つか。あ、そうか、僕の部屋だ。僕はソファーに座ってるんだ。いや、違う。テレビを見下ろしているから、きっと立ってるんだと思う。体の感覚が無くて、まるで目だけが部屋の中に浮いている、と言った方が印象に近いけれど。
僕はどうなってるんだろう。僕は何をしているんだろう。
直前のことは、楽しかったような、辛かったような、大切な何かがあったような気はするのに、思い出せない。
あれ…、そもそも僕は誰なんだろう。
「いいんだよ、シュン、何も考えなくて」
どこかから声が聞こえる。その声は、絶対的な意味を持ち、圧倒的な安心を与えてくれる。そうか、僕の名前はシュンというんだ。そして、僕は何も考えない。それが声の命令だから。
「はい、僕はシュンです。僕は何も考えません」
どこかで僕の声がする。
「これを見るんだ」
僕の前に板が差し出される。その板の中には…、中には…、まるで悪魔のような、瞳を赤く光らせ、けれど全くの無表情で、死人のように全ての感情を失ったモノが、一人、まるで実物であるかのように、描かれていた。
「口を開いてみろ、シュン」
声が命じた。僕への命令なのに、板の中の顔も、口を開いた。それは、まるで吸血鬼のような、長く尖った牙を生やし、赤い瞳で僕を見詰める、なんだこれ、吸血鬼、血を吸われる、吸血鬼にっ、あっ、ああっ、吸血鬼の顔が歪む。怒り?恐れ?こわい、こわいっ、助けてツヨシっ、誰だツヨシって、ツヨシはツヨシでっ、誰だっけっ、そうだ、僕の支配者、僕が従う者、僕の主、僕の、僕のっ、垂野瞬のっ、支配者はっ、
「剛士ぃっ!」
「落ち着けよ、瞬。これは鏡だよ。お前の顔を写した鏡」
「剛士っ、たっ、助けてっ」
恐怖に歪む吸血鬼の顔が、僕の前から消えた。そして、温かい手が僕の頭を両側から押さえてくる。あぁ、僕の頭はここにあったんだ。首が、肩が、腕が、胸が、腹が、尻が、脚が、僕の体に戻ってくる。温かい手が、僕の頭部にゆっくり力をかけてくる。僕は、僕の腰と、僕の膝を、ゆっくり曲げて、僕は、僕の部屋のソファに、僕の体で、僕が座って、そして剛士が、僕の脚の上に、剛士の尻が触れて、座ってきて、剛士の体温を、僕の体が感じる。温かい。剛士の真っ赤な瞳と、僕の瞳が、向き合って、いる。
「安心しろ。瞬は俺と同じ、新たな種族として生まれ変わったんだから」
剛士は、牙の間から真っ赤な舌を突き出し、僕の喉元を舐めてきた。
「ああっ」
全身に快感が駆け巡る。チンポが一気に勃起する。チンポの先が、剛士の体に触れて、きっと剛士のチンポに触れて、剛士のチンポは勃起していて、僕の勃起と剛士の勃起が触れ合って、あぁっ、快感が、増幅される。僕は裸。剛士も裸。僕と剛士は全裸。なんで?なんで裸?すっごく嬉しい、気持ちいい。
「変わったばかりだと、活性状態で肉体と精神をコントロールできない。もうちょっとだからな」
「あ…あぁ…」
剛士の声が聞こえるだけで、その意味は全く分からないのに、僕は快感と多幸感に包まれる。口からは涎が流れ落ちた。心地良く痺れた体は、指一本自分の思いのままにならない。筋肉の痙攣も、指先の硬直も、溢れ出る涎と我慢汁も、もう僕にはどうしようもない。
それは、とてもとても気持ちの良いことだった。僕の体なのに、僕のものではない。支配者に捧げられた僕の体は、支配者が命ずるままに動く生き人形。僕の心も感情も、全ては支配者の意志の許にある。僕を形作るあらゆるものが、支配者の手の内に握られた。
「あああああぁ…」
気持ちいい気持ちいい気持ちいいっ。
「新しく仲間になった瞬に、色々と教えてやるよ」
僕を見詰める剛士の瞳が、一際輝いたように見え…
新たな種族は、アメリカの田舎町の片隅で、ハロウィンの夜に生まれた。
最初に新たな人間に生まれ変わったのは、剛士のホストファミリーの次男、十二歳の少年だった。母と姉に作ってもらってもらったドラキュラ伯爵の衣装に身を包んだ彼は、たくさんの菓子を抱え友人達と家路を急いでいたその時に、前触れも無く覚醒した。
最初の少年が目覚めた時、周囲には思い思いに仮装した友人達がいた。それが生まれ変わって初めての獲物だった。彼は瞬く間に友人達を仲間に変えた。
「おいおい、ドラキュラ伯爵、もうハロウィンも終わりだぜ」
彼の行動をジョークとしか捉えていなかったフランケンシュタインは、狼男の牙を喉元に穿たれた。
「なんだよこれ…っ」
異常を察知して逃げ出そうとしたゾンビは、死神の毒牙にかけられた。
「僕は絶対的支配者(Absolute Ruler)だ」
最初の少年の言葉を耳にして、少年達は新たな種族としての自我に目覚めた。
「はい。私達はあなたの被支配者(ruled)です」
彼等はAbsolute Rulerに宿った使命を受け継ぎ、それぞれの家庭へと帰っていった。
Absolute Rulerに変貌した少年が家族の中で最初にruledに選んだのは、剛士だった。
遠くの島国からやってきた東洋人で、兄や姉よりも年上なのに、チビで若く見えて、でも実際には凄く強いらしい。そんな印象から最初は物珍しさだけでつきまとっていたのに、家中の誰よりも丁寧に掃除ができて、美味しいラーメンを作れて、発音は下手なのに文法だけは正確で時折兄でも知らない単語を使う剛士は、いつしか彼にとって大好きな兄貴の一人になっていた。彼は、玄関に迎えに出た剛士に飛び付き、そして喉元に噛み付いた。
最初の少年の思惑通り、剛士はすぐに優秀なruledとして目覚め、行動した。少年が祖母と母を相手にしていた間に、剛士は父と兄と姉への処置を終えていた。
翌週、学校や職場を介して、新たな種族は一気に数を増やした。スポーツ仲間ともオタク仲間とも親しかった剛士が果たした役割は、当然ながら小さくはなかった。
およそ一月後、新たな種族は政治行政を含め地方都市を一つ掌握していた。その頂点に立つのは、Absolute Ruler、最初の少年だった。彼は全てのruledから蓄積された叡智を集約し、正に絶対的な支配者としての立場を確立した。そして、Absolute RulerはTop Rulersと呼ぶ数名の若い男達で周囲を固めた。剛士もまた、Top Rulersの一人に数えられていた。
ホリデー・シーズンに入って間も無く、Absolute RulerとTop Rulersは、剛士を尖兵として日本に帰国させることを決めた。新たな種族の力によって、アクセントがやや強めの訛りが混じってはいるものの、剛士はアメリカ英語を不自由無く使えるようになっていた。剛士がアメリカに留まる理由は、Absolute Rulerによって性具として使われることの他には、無かった。剛士はその役割に満足していたし、Absolute Rulerも剛士との別れは望まなかったが、日本を早々に配下に置くことの重要性に、彼等は着目していた。帰国直前Absolute Rulerは、剛士が望む者を直属のruledすなわちTop Rulersの一角に据えることを約束した。剛士は喜び、Top Rulerの候補を先ず第一に生まれ変わらせることを誓った。
新たな種族(New Tribes)は、不活性(inert)状態では素体(basic pieces)である旧来の人類と変わらぬ姿をしており、活性(active)状態で真の姿を現す。活性状態では、素体の遺伝的特性とは無関係に瞳が真紅(ruby pupils)に染まり、上顎犬歯二本が他の歯の二倍程度の長さに変形・成長し牙(fangs)と化す。
新たな種族は、血の儀式(Baptism of Blood)により素体から作り出される。血の儀式に於いて、新たな種族は素体の右総頸動脈への干渉を目的とし、その近傍に対して鋭利に伸びた上顎犬歯を突き立てる。素体からは大量に出血し、その血は新たな種族によって摂取され体内で変性処理(evolving)を受けた後、再び素体の体内へと還元される。新たな種族から新たな血(evolved blood)を受け入れた素体は、この上無い快感と幸福の中で新たな種族へと生まれ変わる(evolutionary baptism)。目覚めたばかりの新たな種族は必ず活性状態となり、rulerによって制御されなければ本能のみで野獣のように粗野に行動し、制御を受ければ人形のように全ての行動を抑制されることとなる。暫く後に、新たな種族は活性状態でも自我を獲得し、素体の時点の記憶と人格に基いて行動を開始する。自我獲得前であっても、不活性状態に戻せば素体時同様の行動が可能となる。
新たな種族は素体の雌雄を継承し、同性同士での性行動の欲求を強く有する。また素体同様の摂食行動の他、同性が分泌する体液の摂取を必要とする。例えば血液・唾液・汗の他、雄であれば精液を飲用することが、食欲と性欲を共に満足させるための必須行為となる。新たな種族は、生殖行動によって直接新たな種族を生み出すことができない。集団内で異性間の性交渉を調整・実施し、雌の固体内に幼生体を発生させた後、一定期間体内で飼育した後に体外に取り出す。取り出された少年体に対しては引き続き飼育が必要となり、新たな素体に対する血の儀式は、肉体が生殖能力を獲得してから実施しなければならない。
新たな種族には、厳然たる支配・被支配関係が存在する。新たな種族の始祖、すなわち絶対的支配者(Absolute Ruler)を頂点とし、血の儀式を施した者を支配者(ruler)、血の儀式を受け新たな種族として生まれ変わった者をrulerに対する被支配者(ruled)とする。つまり、Absolute Rulerを除く全ての新たな種族は、必ずruledであり、自身を新たな種族に導いたrulerを持つ。ruledはrulerの支配を受け、rulerに叛逆することは有り得ない。またAbsolute RulerとAbsolute Rulerから権限移譲を受けた者は、下位のruler/ruledの関係を血の儀式に関わらず変更する力を有する。つまり、Absolute Rulerまたはその権限を持つ者が変更を施さない限り、ruledがrulerに対して血の儀式同様の行為を実行したとしても、ruler/ruledの関係は変わらない。このことは、rulerとruledとが互いに体液に摂取し合える関係であることを示している。
新たな種族は、活性状態で視線を交わすことで、情報を送受信・共有することができる(exchanging ruby glances)。またruledはrulerからの情報公開要求を拒むことができない。新たな種族が活性状態の瞳から送出する情報量は巨大であり、相手が旧来の人類のままの素体である場合、素体の自我は情報量の多さによって作用を阻害され、性欲のみが顕在化する。このような場合、素体は性的興奮を得ながら新たな種族の命令のままに行動する。素体は新たな種族としての覚醒を無意味に忌避する傾向が強いため、先ずこのようにして自我を抑制しつつ性欲を刺激した上で、血の儀式を施すことが望ましい。
最初の少年の覚醒、そして新たな種族の拡大、それが何かによる感染や寄生という外発的なものか、それとも人類種に潜在していた何かによる内発的なものか、それは分からない。それを客観的に注視することを、社会はまだ行なっていない。行なう余地を与えられていない。だが、新たな種族は存在する。人類は新たな種族へと置き換わり、それは歴史の必然となりつつある。必然の理由を検討する必要は、無い。
剛士つまりルーラーの瞳の輝きが落ち着く。何秒くらいのことだったろうか。僕は、新たな種族の短くも圧倒的な勢いを持つ歴史を知り、新たな種族の力と特性を学んだ。
僕は凄い存在に生まれ変わることができたんだ。自然と笑みが溢れてくる。そして何より、僕に血の儀式を施してくれ、僕を目覚めさせてくれたルーラーに感謝しなければならない。
僕はソファから立ち上がると、ルーラーの足許に跪いた。
「わたしはあなたのルールドです。わたしのルーラー。わたしを目覚めさせてくださり、ありがとうございます」
そして、僕はルーラーの太くて固いチンポを握った。
「わたしのルーラー。わたしにザーメンを飲ませてください。わたしはルーラーを気持ち良くして差し上げます」
「いいぞ。やれ」
「はい、ありがとうございます」
ルーラーからの命令が下るだけで、僕の興奮は高まる。僕は自分のチンポをますます固くしながら、ルーラーのチンポにしゃぶり付いた。雄の臭いと味が、僕の口と鼻の中に、そして頭蓋骨の中に、充満する。美味しい。美味い。すっげぇ美味い。僕の唇と舌と頭の動きが、自然と早くなる。既に我慢汁をダラダラ垂らしていたからか、ルーラーは程なく射精してくれた。ルーラーが僕の口の中にたくさんの精液を出してくれた。美味いよ。こんなに美味いものは飲んだことが無い。あぁ、美味い美味い美味い気持ちいいっ。
「もういいよ。立てよ、瞬」
チンポの汚れをくまなく拭き取ろうと舌を這わせる僕の頭を、ルーラーが軽く押した。
「はい。わたしのルーラー」
「俺のルールドである瞬に、命令する」
「はい。わたしのルーラー」
命令されることは、とても気持ちいい。
「これからは、俺に敬語を使うことを禁じる。俺のことはルーラーではなく名前で呼べ。つまり、素体だった頃と同じように行動するんだ」
「はい。わたしのルーラー。これからは剛士、って今まで通りタメ口で話すよ」
僕は、素晴しいルーラーに巡り会えたと、強く感じていた。僕は剛士に向かってにっこり笑いかけた。
「うん、それでいいよ。それでいいんだ」
剛士もまた、笑ってくれた。
5. red and white

「あっ、出るっ」
僕は剛士の口の中に思い切り射精した。ビクビクと震える僕のチンポを、僕の体を、剛士はしっかり捕まえて離さない。
剛士は、血の儀式を終えるとすぐに、僕の喉元に噛み付いてかなりの量の血を飲んだ。そして僕のチンポをフェラチオし、僕を三度も射精させてそのザーメンを飲み干した。血を吸われた時には眩暈を感じたものの、そして射精の度に気絶しそうになるけれど、僕の体は次々と血と精液を作り続けているのか、貧血になることも無ければ射精の勢いが衰えることも無かった。
剛士は立ち上がると、ガンメタリックの光沢を持つビキニパンツを手に取り、ペロペロと舐め始めた。
「あっ、それ…」
剛士は舌の動きを止め、ニヤリと笑った。
「うん。瞬が血の儀式で射精した時、穿いてたやつ。瞬が人間じゃなくなった瞬間のザーメン。これも美味いよ」
「あ、あー…、そうなんだ…」
僕はこの時きっと、恥ずかしさと嬉しさが入り交じった変な表情をしていたと思う。
「あっ、ちょっと、何してんだよっ」
僕は剛士の行動を見て、声を上げた。剛士は僕の精液と剛士の唾液に塗れたビキニを、自分で穿き始めた。
「何、って、ザーメンまみれ涎まみれのエロエロ下着を穿いてるわけだが?」
「汚ないだろっ」
「でも、エロい。好きだろ、こういうの」
剛士はニタァと笑い、そして、僕のチンポはまた固さを取り戻した。剛士の言う通り、そう、凄くエロい。
「瞬、俺の血も吸ってみろ。俺の喉元に赤い斑点見えるだろ。これが俺のルーラーが付けてくれた俺の証。ここを目印に、噛み付いてみろ。血がドバドバ出て、美味いから」
そう誘われた僕は、返事もせずに剛士の体に手を伸ばし、剛士の背中に手を回し、剛士の喉元を見詰め、口を開け、そして、
「んっ」
鼻にかかった剛士の声が聞こえる。肉に自分の牙が刺さり込んでいく快感。口の中に血が吹き出してくる快感。鉄の味の濃い熱い液体が、凄く、美味しい。僕の喉はゴクゴクと音を立てながら、剛士の血を飲み下した。腹だけではなく、気持ちが満足で満たされる。血って、こんなに美味かったんだ。
結構な量の血を剛士からもらい、僕は牙を引き抜いた。頚動脈を破っている筈なのに、その傷はすぐに閉じ赤い斑点に戻る。僕は斑点をペロリと舐めてみた。
「んぁっ」
剛士が身を捩った。
「ちょっ、そこ、すっげぇ感じるんだから…」
「ご、ごめん…」
「いいよ、次はザーメン、飲みたいだろ?」
剛士の言葉を受けて、僕の中に強い欲求が湧き上がった。
「どうする?俺、ビキニ穿いたままでいようか?それとも脱ごうか?」
「最初は穿いてて。上からフェラしてイかせてあげるから。その後は生で咥えたい」
自分でも驚くくらいにはっきりと即答して、僕は膝を突いた。苦笑する剛士の顔も可愛くてずっと眺めていたかったけれど、今はまるで喉が乾いたように、ザーメンを飲みたくて仕方が無い。既に勃起しビキニから亀頭を出していた剛士のチンポを、舌で強く押してビキニで包み込む。
「ひゃっ」
僕の舌先が剛士の尿道を割った瞬間、剛士は情無い声を上げた。やばっ、そんな声もすっごく可愛い。
僕は改めて、剛士がそばにいる幸せを実感していた。剛士が僕のことを愛してくれて、僕のことを抱いてくれて、僕のことをフェラしてくれて、僕の血を吸ってくれて、僕を新たな種族に迎え入れてくれて、僕のルーラーとなってくれて。ほんの少し前まで、絶対に有り得ないことであったのに、僕は究極的な幸福の真っ只中にいる。
何より、自分自身が剛士の意のままに動く被支配者になったということ、自分の全てが剛士の支配下にあるということが、僕を興奮の絶頂へと引き揚げた。剛士にだったら、ケツの穴でも脳味噌でも、ぐちゃぐちゃにしてもらって構わない。いや寧ろ、そうしてもらいたい。剛士のことしか見ない、剛士の声しか聞こえない、剛士のことしか考えない、自分が何であるかも忘れて剛士に全身を染め上げられた剛士の操り人形。そんな存在に自分はなりたい。剛士の操り人形。なんてエロい響きだろう。剛士が操る生き人形。剛士が命じるまま、意志を持たず自我を持たず、何も考えられずにただ快感の中で動く自分。なんて素敵な姿だろう。チンポがビクリと動いて、我慢汁がドロリと流れ出すのが分かる。僕のチンポも剛士のもの。僕は操り人形。僕はルールド。僕の全ては剛士のもの。
僕の舌はビキニの滑らかな生地の上から、剛士の裏筋を勢い良くこすり上げていた。ビクンと一際大きく剛士のチンポが震え、ジワッと白い粘液が染み出してくる。やった、美味そう!僕は唇と舌を這わせ、剛士のザーメンをすくい取る。ビキニに染み込んだものを吸い上げる。
僕は両手で一気にビキニを下ろした。剛士の大きなチンポが跳ね上がり、僕の顔にザーメンの雫が飛んでくる。僕は指で雫を拭き取り舐めた。一滴たりとも、剛士のザーメンを無駄にしたくない。僕は剛士のチンポを咥え込んだ。
「んあっ」
頭上から剛士の声が聞こえてくる。可愛いいよ、なんて可愛いいんだ。もっと剛士のザーメンを。僕の全身を、脳味噌を血管を筋肉を骨髄を、全てを剛士のザーメンで満たされたい。剛士のザーメンの中に、溶けてしまいたい。何度も何度もイッてもらおう。僕の中に吐いてもらおう。
「あぁっ、おいっ、ちょっ」
剛士のチンポ剛士のチンポ剛士のチンポ…。僕の意識は、次第に雪原のように、剛士のザーメンに染められたように、真っ白に、飛び始めた。
僕はまるで狂った機械のように、剛士の腰に取り付いてフェラチオを続けていたらしい。五回目の射精の後、剛士はたまりかね、ルーラーとして僕に活動停止を命じたらしい。気付くと僕は、床に転がっていた。全身に触覚が戻ってくる。フローリングの床が冷たい。けれど、自分で体を起こせない。
「興奮し過ぎだよお前」
二の腕と背中に温度を感じる。剛士が僕を抱き起こしてくれた。剛士の赤い瞳から、情報が飛び込んでくる。絶え間無い射精は勘弁してくれ、と。ルーラーはいつでもルールドに完全な活動停止を命じることができる、と。活動停止を命じられた僕は、動きを止め全身を硬直させ、床に倒れ込んだ、と。でも、こんなに気持ちの良いフェラチオは初めてであった、と。
「もう動いていいよ」
「あ…、ごめん…」
僕は剛士に謝り、そして抱き付いた。剛士の顔を見詰めて、視線を交わす。剛士、可愛いいよ。かっこいいよ。垂れていたチンポがまた固くなる。どうしよう、もっと射精したい。剛士とセックスしたいよ。ケツ掘ってよ。かき混ぜてよ。
「俺、コンドームとローション忘れてきちゃった。瞬、持ってんのか?」
僕は首を横に振った。
「じゃあセックスはお預けだな」
「えー、いいよ中出ししてよ。ローションなんか要らないよ」
「ばっか。エロ瞬。そういうところはちゃんと守れよ」
「ザーメン飲んでる時点で、変わんないよ」
「あほ。あれは俺達にとって食い物だからだろが。ケツの穴でザーメン飲むわけじゃないだろ」
意外と堅物なんだな、と僕は少し不満を覚えた。そう思ったことが瞳を通じてバレてしまったのか、剛士はパコンと僕の頭を叩いてきた。やっばい、叩かれることすら嬉しい。
「お前がエロ過ぎんだよ。瞬のエロさ加減の方が意外だっつーの」
セックスできない分、剛士はサカユニでさかりあってくれることになった。僕は、ローションとコンドームをネット通販で注文してから、クローゼットの中の衣装ケースを開けた。
「剛士は、チームのユニ持ってる?」
「一応」
そう答えながら、剛士はスーツケースを開いた。
「アメリカに持っていってたんだ」
「まぁ、なんとなく。…いや、瞬が揃えてくれたもんだし、結構な値段したし…」
剛士は、赤いゲームシャツと白いゲームパンツ、そして黒いサッカーストッキングをを取り出した。
「レガースは?」
「あるよ」
剛士はまたスーツケースの中を漁り出した。その背中に向かって、僕は衣装ケースから引っ張り出したインナーを差し出した。
「ユニの中にはこのインナー着てね」
「ん」
剛士は振り返ってインナーを手に取り、自分の荷物の上に広げた。
「スパッツにインナーシャツに…あ?なんだ?これ」
剛士は、幅広のゴムバンドが組み合わされたものを取り上げた。
「いわゆるケツワレ。ジョックストラップ。その上にスパッツ穿いてね」
剛士はやや顔を歪ませながら、僕のことを見上げてきた。
「こんなものまで持ってんのかよ」
「スポーツ用のサポーターは全部ケツワレになればいいと思う」
「そこまで言うか」
「アメリカだったら、アメフトでこれ穿いてる人いたんじゃない?」
剛士は少し首を傾げ、そして小さく声を上げた。
「ケツの下に斜めに筋が入って見えたの、これか」
「うん、そうだと思う。とにかく穿いてみなよ。すっげぇエロいから」
「うー…、んー…、…分かった…」
最初はケツワレに対して躊躇を見せていたくせに、剛士の手はケツワレのストラップの上に乗った僕の尻を掴んだり揉んだりしながら、固い股間を僕にこすり付けてきた。
「すげぇよ、なんかケツワレって、エロ過ぎる」
僕と剛士は完全に揃いのサカユニ姿で、抱き合い撫で合いキスし合い、互いの存在を感じ合っていた。
ジョックストラップの上に伸縮性の高い生地の白いスパッツを穿き、白いインナーシャツの上に光沢感のある赤いゲームシャツを重ね着した。やはり光沢感の強い白いサッカーパンツを穿き、ちゃんとシャツの裾を入れて腰紐を締め、黒いストッキングは膝下まで上げて脛にはレガースを入れた。
ジョックストラップに支えられ、スパッツによって引き締められた尻の弾力性は、滑らかな触り心地のサカパンによってますます強調されていた。尻と太腿の境目に走るジョックストラップの段差すら、男の下半身の力強さとエロさを増幅しているようだった。
「生で触るのもいいけど、こうやってツルツルのユニ越しに触るのも」
「あー、結構いいかも。瞬がユニフェチな理由が分かってきたかも…」
「でしょ」
自分の顔がにんまりしてしまうのが、僕には分かった。
「どうしよ、俺、このまま射精しちゃいそう。ユニ汚しちまうよ」
剛士の腰はずっと動き続けている。
「大丈夫だよ。ザーメン落ち易い洗剤見付けてあるから。このサカパン、何度も穿いて抜いてるし、ぶっかけてもいるけど、染み残ってないでしょ」
「おま…そんな研究してんのかよ…」
剛士が僕の体から手を離し、呆れ顔で見詰めてくる。うわ、剛士からそんな顔で見られるのもまた、気持ちがいい。
ややあって、剛士がニタリと笑った。
「だったら、思う存分抜くわ俺。俺もサカユニオナニー、ハマりそー」
「やった」
剛士もサカユニフェチになってくれるのだとしたら、僕にとってこれ以上のクリスマスプレゼントは無い。僕は剛士の体を抱き締めようと、手を伸ばした。が、剛士は僕の手から逃げ出した。
「その前に、腹減ってきた。ケーキあるんだろ?それ食ってからにしね?あ、ワインも飲んじゃうか」
「えー…。ま、いっか。そだね。ケーキ出すよ」
僕は廊下の冷蔵庫からナポレオンパイの箱を取り出し、剛士はグラスに赤ワインの残りを注いだ。
「あ、なんかクリスマスみたいだな」
剛士は素頓狂なことを言い出した。
「みたい、って、クリスマスイブイブでしょうが」
「あ、いや、色がさ。俺達のサカユニ、赤と白だし、ワインもケーキも赤いし」
「あ、そういうことか」
僕は自分達の姿と、テーブルの上を見回した。確かに、剛士が言う通りだった。でも僕には寧ろ、赤は血液、白は精液の象徴のように見えていた。ワインの赤、苺の赤、上半身を覆うゲームシャツの赤、クリームの白、男性器と尻をその中に秘めたゲームパンツの白、それは喉元から吹き出す血液、陰茎から飛び散る精液に呼応するかのような色だった。
血液と精液。剛士の血液と精液。クリスマス直前の今夜、僕はまだまだ飲み足りないらしい。
6. propagation #2

クリスマス・イブの日から、僕と剛士の同棲生活が始まった。メールの文面とは裏腹に、剛士も元々僕の部屋に居候するつもりでいたらしい。帰国のことは実家にすら伝えていないそうだ。狭い部屋ではあるけれど、剛士さえ良ければ僕には不都合は全く無い。
「タイミング悪かったなぁ。23日に帰国したんじゃ、大学の冬休みに丸々ぶつかるよな」
遅い朝食を牛丼屋でとった帰り道、剛士がぼやいた。
「年が明けてから一気に増やせばいいじゃない。それに、僕みたく帰省しない連中も結構いるし、冬休み中もチームの何人かは集められるよ」
「そだなー。冬休み中はボチボチで我慢すっか」
「バイト先とか、僕もできるだけ頑張るよ」
「あ、そだ」
剛士が思い出したように僕の顔を見詰めてくる。
「なに?」
「春休みになったらさ、俺と一緒にアメリカ行こう」
「は?」
僕は突然の誘いに面喰らった。
「瞬を会わせたいんだよ、俺のルーラーに。Absolute Rulerに」
僕の中には、面倒だなという思いと、光栄に感じる気持ちとが、同居した。
「会えるの?」
「うん。約束してくれたんだ。俺が選んだルールドをTop Rulersに加えてくれるって」
誇らしい気持ちが勝る。Top Rulersがどんな存在であるのか、あまり理解はしていないのだけれど。
「でも、僕英語全然だしなぁ」
「んなもん、俺が直接瞬の頭ん中に叩き込んでやるよ」
剛士の瞳が赤みを帯びた。
「あっ、ちょっと待って」
僕達のワンルームマンションが目の前に見えてきたところで、僕は剛士を制した。
「どうした?」
僕は真紅の瞳を活性化させる。剛士の瞳も真っ赤になった。僕は剛士の中に一気に情報を送り込む。
僕達のマンションの駐車場で、ボアコートを着たままサッカーボールでフェイントの練習を一人続ける少年。斜向かいの家族向けマンションに住む中学生で学年は不詳。ユニフォームやクラブジャージから判断すると、地元のプロサッカーチームのジュニアユースに所属している。チームにも学校にも友人は多い模様。毎週末駐車場でリフティングやフェイント練習をしており、マンションの住人には軽く会釈をするくらいの挨拶はしている。僕も顔は覚えられているらしい。でもって、とっても美味そう。いつも見掛けると視姦対象。中学はもう冬休みだろうし、丁度良かった。
血の儀式を?
勿論。瞳の力を使い、あの子の今日の予定をしゃべらせる。軽く拉致れる状況なら、部屋に呼び込み、新たな種族に変えてやる。今日が無理でも、次の機会に自ら僕達のところへ来るよう、暗示をかけておく。
分かった。やり方は任せる。
三歩進む間に、僕達は視線での会話を終えた。
「や、こんにちは」
「え?あっ、はい、こんに…」
赤く染まった僕の瞳と視線を合わせ、サッカー少年は足でボールを押さえたまま、自我を手放した。
「今日は一人?練習は?」
「はい、今日の練習はインフルエンザで中止になりました」
サッカー少年は無表情に答えてきた。
「学校は冬休みだよね」
「はい、昨日から冬休みです」
「じゃ、今日の予定は無し?」
「はい、予定はありません」
「まだ家に帰らなくていいの?」
「はい、家族は出掛けていて、今は誰もいないので」
少年は何の躊躇も無く僕の質問に答えてくる。
「そっか。じゃ、僕達の後に付いといで」
「はい、分かりました」
そう答えると、サッカー少年はボールを抱え、近くに放り投げてあったエナメルバッグを肩に掛けた。僕と剛士がマンションの入口に向かって歩き出すと、少年は素直に、無言で後に付いてきた。
凄いな、新たな種族の力は。順調な事の成り行きに、僕は少し慢心した。
剛士と少年を引き連れた僕が自室の鍵を開けていると、隣室のドアが勢い良く開けられ、少し年上と思われる若い男が飛び出してきた。
「あ、ども、こんちは」
相手はそう挨拶し、直後に剛士と少年のことを訝しげに見遣った。今日は平日なのに、なんで部屋にいるんだろう。隣室の住人は確か社会人、引越業者のユニフォームが洗濯物としてかかっているのを何度も見たことがある。剛士ならば自然と友人と解釈されるだろうが、中学生くらいの子供をワンルームマンションの住人が連れているというのは、その上、その少年が一点を見詰めたまま表情を何一つ動かさない異様な状況に陥っているというのは、不自然以外の何物でもないだろう。
「あっ、こ、こんにちは…」
僕の声は明らかに狼狽えていた。どうしよう、どうやってこの状況をやり過ごせば良いのだろう。
ガチャリ。金属片がぶつかる音がした。隣人が、手に持っていた鍵束を通路の床に落とした音だった。
「え…」
僕が隣人の顔を窺うと、彼は既に自我を失っていた。
「どこに行くとこだったんだ?」
「はい。昼飯を食いに。ついでにスロットに行こうと思ってました」
僕が咄嗟の対応をとることができなかった一方で、剛士の瞳が素早く隣人を捕えていたのだった。
「今日は誰かと会うのか?」
「はい。六時に彼女と待ち合わせてます」
「今日は休み?彼女の仕事は?」
「はい。俺は仕事を休んで、彼女は仕事が終わってから、会います」
剛士は素早く小声で質問を繰り返していく。
「セックスすんの?」
「はい。そのつもりです」
普通ならば絶対に有り得ない会話だった。
「分かった。お前は自分の部屋の鍵を締めて、俺達の部屋に来るんだ。凄くいいことしてやるから」
「はい。分かりました」
隣人は床に落ちた鍵を拾おうと腰を屈めた。剛士は僕の部屋の扉を開け、僕とサッカー少年を玄関に押し込んだ。
「女とセックスすんなら、その前にもっと気持ちいいこと教えてやろうな」
剛士は笑って牙を見せながら、言った。
「さっきはごめん、ってか、ありがとう。どうしていいんだか、分かんなくなった」
「気にすんなよ。俺の方がこういう処理に慣れてる、ってだけなんだから」
全裸となった僕と剛士の前に、隣人とサッカー少年が立ち尽くしていた。隣人は全裸にさせられ、長いチンポを勃たせていた。サッカー少年は、ボアコートとその下に着ていたピステを脱がされ、ユニフォーム姿で直立していた。赤いゲームシャツと白いゲームパンツ、そして黒いサッカーストッキングを身に付け、パンツの股間は勃起したチンポによって微かに盛り上がっていた。
プロのサッカー選手と同じユニフォームを、中学生の子供が着込んでいる。その姿はまるで、普通の子供が何か別の存在に変質してしまったようで、僕にとってはひどく魅惑的な光景だった。自分のサッカー経験を思い起こすと、中学でも高校でも、部活のレギュラーの末席に何とかしがみつく程度のものだった。当時から自分達のユニフォームはオナペットとなっていたが、プロチームのジュニアユースチームに所属していたり、セレクションに選ばれた少年のユニフォーム姿というのは、格別にエロさを感じさせるものだった。恐らく僕の目には、彼等が自分とは異なる集団に強制的に均質化された存在と映っていたのだと思う。異質さのエロティシズム、とでも言えるだろうか。彼等のユニフォームは彼等を支配する蠱惑的な呪具であると、そんな妄想を無意識的に抱きながら、僕は彼等のことを羨んでいたのだろう。新たな種族に加えられ、Top Rulersの一人から直接支配を受ける存在へと変質した僕は、自分をそう解釈するようになっていた。
僕は、サッカー少年の全身に舐めるように視線を這わした。こんなにじっくり眺められる機会は、これまでは有り得なかったし、考えることすらできなかった。ユニフォームによって支配されていた少年は、今新たな種族の支配下へと置かれ、そして新たな種族へと変えられようとしている。僕はゴクリと唾を飲み込んだ。
「あれ、もしかして」
隣に立つ剛士の呟きが、僕の妄執と興奮を中断させた。
「ん?」
「俺達のチームのユニって、これ、モデルにしてる?色の組み合わせ一緒だよな」
剛士はサッカー少年を指差しながら訊いてきた。
「そだよ。元々好きなチームだったし、今じゃ地元だし」
僕は少し苦笑した。誰でも気付いていると思っていたのだけれど。
その時、インターフォンのチャイム音が室内に響き渡った。
「え。来客?どうすんだよこの状況で」
剛士が顔をしかめた。玄関の方からは、「お届けものでーす」という声が聞こえてきた。
「あ。コンドームとローションだ、きっと」
僕は昨晩の注文を思い出した。
「早いな、来るの」
「特急便のオプション付けてるから。すぐにセックスしたかったからね!」
剛士は肩をすくめて笑った。
「エロ瞬だな。で、どうすんだ。そのまま出てく気か?」
僕は剛士への答えを保留し、インターフォンを上げた。
「今行きます。ちょっと待っててください」
そして、剛士の方を振り向いた。
「あの声だと、この地域のいつもの担当者なんだよな。これが結構筋肉付いてるいい男でね」
「血の儀式、やるのか?」
「うん。しちゃう。さっきの名誉挽回も含めて。とっとと済ましてくるから、扉閉めて、ちょっと待ってて。あ、いや、先やっちゃってもいいけど。サッカー少年の方とっといてくれれば」
僕は後ろ手に部屋の扉を閉めると、勃起したチンポを更に固く屹立させながら玄関に向かった。僕の最初の獲物、僕の最初のルールドとなる男が待つ玄関へ。
剛士と僕が、この国を新たな種族が治める国へと変える。クリスマス・イブの今日は、正にその前夜祭だ。
(おわり)
《 クリスマスは我がチで01 《 》 FrontPage 》
7. trick

ども。主人公役の垂野瞬(偽名)です。ここからは僕が書きます。
今回の話、楽しめました?読みにくかったり、つまらなかったら、ごめんなさい。僕のルールドの責任です。情報を与えたのは僕ですけどね。
大学のOBの先輩達をルールドに変えたら、偶々その中にネットでゲイ向けのエロ小説を書いてる人がいましてね、面白そうだから僕と剛士(偽名)の話をexchanging ruby glancesで頭の中に流し込んでやったんです。で、細かい設定とか内容は任せるから、Baptism of Bloodを扱った小説を書いて、自分のサイトで公開してくれ、って。
因みに、時系列は事実とは異なってますね。剛士(偽名)の帰国も、宅配便の兄さんやOB達をルールドに変えたのも、実際にはクリスマスよりも前のことだし。クリスマスというシーズンイベントに併せた内容に改変したのは、先輩の「作家性(笑)」故のものだと思います。あと、僕の性格もなぁ、こんなんじゃないって、自分では思ってますけど。まぁ、剛士(偽名)への愛情と肉欲(^^;が表現されてるから、一応許してます。
冒頭の駅は大宮駅をモデルにしていますが、これも少し嘘。僕はちょっと違うところに住んでいます。
そうそう、登場人物の名前ですが、浦戸剛士(うらと・つよし)はドラキュラ公ブラド・ツェペシュから、垂野瞬(たれの・しゅん)はダレン・シャンから、それぞれ発想してみるみたいですよ。
さて、どうして僕がわざわざこんな小説を書かせて公開させたか、ですが、素体の皆さんにBaptism of Bloodを怖がってほしくないなぁ、自ら進んでNew Tribesに加わってほしいなぁ、という思いがあるからです。とても気持ちが良いこと、素晴しいことなのに、一旦自我を吹き飛ばさないと皆さん怖がるんですよね。
不況のために大学の先輩達は就活で酷い目に遭ってますし、政権交代してますます世の中グチャグチャになってきてる感じですし、New Tribesが社会を再構築しないと駄目だと思うんですよね。
まぁ、New Tribesは毎日凄い勢いで増えていますから、これを読んでくれてる皆さんの近くでも、もうすぐNew Tribesが現れると思います。もしかしたら、もう潜んでいるかも知れませんね。そうしたら、次はあなたの番です。喜んでBaptism of Bloodを受け入れてください。ってか、逃げることはできません。New Tribesとなったら、僕や剛士(偽名)の、そしてAbsolute Rulerの支配下に入れますよ。僕達の本当の名前も教えてあげます。
あなたはAbsolute RulerとTop Rulersのruledに生まれ変わります。それが、New Tribesからのちょっと遅めのクリスマス・プレゼントです。その日をお楽しみに。
では。
(ほんとにおわり)
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