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  • 2013⁄02⁄26(Tue)
  • 22:42

狙われた体育祭 ハチ

狙われた体育祭

1.

十月に入り、うちの高校では年中行事のひとつ、体育祭を迎えようとしていた。
運動部系の連中にとっては、数少ない活躍とパフォーマンス、アピールの場である。
スポーツなんてやっていれば誰だって、多少の違いはあれど、そういう気持ちを持っているものだろう。
つまり、勝ちたい、とか、目立ちたい、とか。ある意味ナルシスティックな願望を。
俺だってバスケなんてやっている。そういうものはわからないでもない。
一方、紅輝のように、存在そのものが目立ってしまう奴も居る。
一年でいきなりバスケ部レギュラー。来年は部長に推挙されるかもしれない。
でもそういうことを面白く思わない奴もいて…目立つことなんて、いいことはないかもしれないな。

話は戻るが、体育祭というのは、文化系の連中にとっては概ね憂鬱なものらしい。
その理由を、目の前で項垂れている小さい背中を小突きながら訊いてみる。
小さい背中が顔を起こして振り返り、朝からうざい、とにらみながらも答えてくれた。
「お前らがテスト前に感じるのと同じような気分だ」
「ああ、なーる」
蒼太の喩えは実にわかりやすかった。
「でもさー、テストは年に何回もあるけど、体育祭は一回だろ。そっちのほうが楽じゃね?」
「何回もあるんだから慣れろよ。こっちは年一回だけだから嫌なんだ」
「ああ、なーる」
そう言われればそうかもしれない。蒼太の肩をポンと叩いてやり、
「まあがんがれ。日頃帰宅部なんてしてるお前が悪い」
「そうかー。中間テストは一人で頑張るのかー。偉いなー」
「ぐっ…そ、そこはさぁ、ほら――」

「蒼太ぁ」

「うおっ」
廊下の窓からいきなり顔を出したのは紅輝だった。
「あれ、席替えしたん?」
「そう、よりによってこいつの前」
窓際の席だったのが廊下側に移った。が、蒼太と近いのは変わらなかった。むしろもっと近づいた。
「つくづく縁あるなぁお前ら」
「だよなー」
「どこがっ」
蒼太とハモってしまった。勿論、前者が俺で、後者が蒼太。
「で、何か用か」
「ああ、うん。今日の昼飯だけどさ、」
「また委員会か」
「じゃなくて。ちょっと、友達誘ってもいいかな」
「うん? 友達?」
「そ。同じクラスで、委員会も一緒なんだ」
「まあ、別にいいけど」
「やった。じゃ、また後でなー」
紅輝は嬉しそうに自分のクラスへ帰っていった。
っていうか、蒼太にだけきいて、俺には確認なしなわけね。ま、いいけど。
「同じ委員会って、体育祭実行委員だろ。そいつも体育会系だろうな」
「そうだな」
「あれ、もしかして、妬いてる?」
「は?」
「ただの友達だろ。妬くこと無いじゃん」
「別に妬いてない」
「あ、そう。それならいいけど」
強がりが丸見えなんだよ、バーカ。とは言わずにいてやった。


昼休み、紅輝が屋上に連れてきたのは、あまり見覚えのない奴だった。
どこがどうという特徴も無いが、まあ整った顔だと思う。銀の上半分フレームの眼鏡をかけている。
体育会系というよりは、どこからどう見ても文系野郎だが。
髪型にも髪色にも顔の作りにも体格にも、どうといって特徴の無い、捉えどころの無いというか、地味というか。
「こいつ、サクっていうんだ。体育祭実行委員で仲良くなってさ」
「サクです。よろしく」
俺達とは初対面だが、特に緊張している風もなく、柔和な笑みを浮かべている。
「下の名前は? 何てーの?」
何の気なしに俺が尋ねると、紅輝の頬がぴくっとひきつったような気がした。
等の本人は特にどうということもない様子で、
「さくたろう」
と短く答えた。
「ん? さく、太郎?」
「じゃなくて。苗字は佐久。名前が朔太郎」
「ああ、なる…」
納得しかけて、ん?と頭を捻った。つまり、
「サクサク太郎?」
「そう」
自分で確認してから、俺は噴き出した。いや、笑い転げた。
「おい、龍二、失礼だろ」
蒼太が笑いを堪えながら横からたしなめてくるのも構わずに、俺は笑い続けた。しかしサクは怒るでもなく、
「笑うのはいいんだけど、できればそのアクセントはやめてほしいな」
「駄菓子みたいだな。ナントカ太郎ってあったよな」
「そう、そうなんだ。だから僕のことはサクでいいから」
「ああ、わかったわかった」
言いながら、ようやく笑いがおさまってきた
「いや、悪かった。わらったりして」
「いい、慣れてるし。それに、変に我慢されるより、笑い飛ばされた方がきもちいい」
そう言って、サクは蒼太の方を見た。蒼太はちょっとバツが悪そうに顔をそらした。
「あ、別に国嶋君をせめてるわけじゃないからね。ただ、あんまり反応が予想通りだったんで」
予想通り?
「あれ、俺ら、自己紹介まだだったよな?」
なんで蒼太の名前を?
「ああ、吾妻から聞いてたから」
「なんて?」
「二人とも似た者同士だけど、品のあるのが国嶋君で、品のないのが雫木だって」
俺はぎろりと紅輝を睨んだが、紅輝は面白そうに笑っている。
今の言葉、突っ込みどころが多すぎて何から言えばいいのかわからない。
俺と蒼太が似た者同士だ? 品がないだ? いや、それよりも、
「なんでこいつが君付けで、俺は呼び捨てなんだよ」
「それはほら、フィーリングというか。語感というか」
「なんだそれ」
「あの、俺も呼び捨てでいいから。何か、君、とかあんまり言われないし」
蒼太が慌てて口を挟んだ。
「そう? まあとにかく、よろしく、雫木、国嶋」

そうして奇妙なランチタイムが始まった。
サクのことを聞きながら、話題は自然と体育祭の話になった。
「お前、なんで実行委員なん? 何か部活やってんの?」
「うん、弓道部」
「へぇ、弓道部」
と頷きながら、弓道部なんてこの学校にあったのかと驚いた。
「そうだ国嶋、部活やってないんだって?」
「え、ああ、うん」
「だったら一度見にこない? 試射させてあげるよ」
「いや、俺は別に」
まあ蒼太を口説こうってのは無理だろうな。こいつには団体行動なんて無理だろうし、運動音痴だし。
(弓道部、人が足りないんだって)
紅輝が俺に耳打ちしてきた。
(そうなのか?)
(あいつの他に一年が二人、あと二年が一人だけ)
(四人かぁ。そりゃきついな。でも、あの蒼太が入るとも思えないけどな)
(どうかな?)
(うん?)
「よし、じゃ決まりな!」
小声で話す俺達を余所に話は続いていたらしく、サクが蒼太の肩をポンと叩いた。
「ん? どう決まったんだ」
「今度試射に来てくれることになった」
「嘘だろ!?」
思わずでかい声がでるほど驚いた。まさかこの蒼太が。俺の疑問を読み取ったらしく、蒼太は言い訳っぽく、
「ま、いいかなって。とりあえず見てみるくらいは」
驚きのあまり言葉が出てこない俺に、紅輝が説明してくれた。
「サクはさぁ、すっごい弁が立つんだ。委員会でも先輩たちを差し置いて意見通しちゃうくらいに」
「それ、聞こえが悪いなぁ」
「別に説得されたわけじゃ…」
「まあとにかく、今度来てみてよ」
な? と念押しされて、蒼太は頷いていた。
「でもさぁ、楽しみだよね、体育祭」
話題を変えようとするようなサクの言い方だったが、俺も頷いた。
「だなー」
「もえるイベントだよね」
なんだ、案外熱い奴なのか? 結構気が合いそうかも。
「応援合戦とか、いいよね」
「だな!」
「応援団とか、もえるよね」
「うんうん」
「長ランで白鉢巻きとか、もえるよね」
「うん…うん?」
「でさ、やっぱ花形はリレーだよ。汗飛ばして走る姿とかさぁ、」
「うんうん」
「しゃぶりつきたくなるよね」
「…うん?」
紅輝はどうということもない顔をしているが、俺と蒼太は互いに顔を見合わせて眉を寄せた。
「あの、さっきからちょいちょいおかしな感じするんですけどー」
「言い忘れてたけど、サク、ちょっと変わってるんだ」
「変わってる、というか――」
「僕、エロいんだ」
いきなりの発言に俺と蒼太は揃って箸を落とした
「えっと、あの――」
「でさ、やっぱさ、日に焼けて小麦色の肌が汗を弾いてるのが一番旨そうだと思うんだ。
あーでも、普段陽に当たらないバレー部とかの肌もキラッキラしてていいよね。
けど一番はやっぱり応援団かなー。真面目ぶってるくせに本当は頭の中エロエロに違いないよ。
そういうのが悶える姿見てみたいよねー。でさー、」
ダメだ、止まりそうにない。
確かに、変わったやつみたいだ。

部活の時に紅輝に聞くと、本当にあれがサクの「素」らしい。
普段から教室でも、あの手の発言を連発し、ムッツリ助平ならぬ、ガッツリエロを自負しているとか。
「自負するなそんなもん」
「まあまあ。あれで結構いいやつなんだ。それに成績もクラスじゃトップで、運動神経バツグン」
「待て待て。運動神経抜群で成績優秀であの言動か。どんなキャラだ」
「そんなキャラだよ」
「くそぅ」
何故か悔しい。が、目の当たりにした以上、納得せざるを得ない。
「龍二と気が合いそうな気がしたんだ」
「なんでだ!?」
確かに初めは合うかもしれんと思った。でも違った。
あいつの言うもえるは、俺の思うそれとは大きくかけ離れている!
「でも、ヤなやつだとは思わなかったろう?」
「まあ、面白いとは思ったが」
「ほら。龍二はそういうところ寛容だからさ」
「誉めてるのか?」
「勿論。サク、あんなだから、あんまりクラスで馴染めてないんだ」
「だろうな」
「俺は好きなんだけどね。龍二も慣れてくればわかると思うよ」
まあしばらくは、昼飯食うくらいなら構わんか。
そう自分に言い聞かせて、様子を見てみようと決めた。

***

そうして、体育祭当日がやってきた。

『えー、皆さんには、くれぐれも事故、怪我のないように、楽しみながら競いあっていただきたいと…』

校長の長い長い訓示が漸く終わりの兆しを見せた頃、事件が起きた。
ドサッという音と共に、端の列、一年A組の先頭の生徒が倒れた。
俄に校庭全体がざわつき、近くにいた生徒と教員が駆け寄った。
長過ぎる訓示のおかげで早速熱中症にでもなったのだろうと、きっと誰もが考えただろう。
近くに立っていた実行委員の紅輝とサクがゆっくり抱き起こし、彼を保健室へと運んでいった。

最初の短距離走が始まって間もなく紅輝達が戻ってきた。
クラスが隣なので、応援席も隣同士だった。
「大丈夫だったか?」
なんとなく訊いただけだったが、二人の表情は暗い。
「大丈夫っちゃあ大丈夫なんだけど」
「けど?」
二人は顔を見合わせて口ごもった。
「運ぶとき、お前らに見えてなかったよな」
「何が?」
「倒れた彼、ビンビンになってた」
ここしばらくの付き合いで、慣れてきてはいたものの、この状況でもそういうことを言うサクに、流石に呆れた。
「またお前は、そういう言い方を」
「いや、マジなんだ」
「は?」
紅輝までそんなことを言う。
「何だったら、見てみる?」
サクが悪戯っぽく言った。
2.

「おい、いいのかよ、俺ら完全に部外者だぞ」
蒼太がもっともなことを言った。
「いいんじゃないかな。本人、意識ないし。それに君ら、専門なんだろ」
サクが答えて言った。専門ってなんだ?
ガラッとドアを開けて保健室に入ると、微かな喘ぎ声が聞こえてきた。
切なげというか、聞いている方を(男好き相手限定で)むらむらとさせるような、そういう…そういう声だ。
だがそれは勿論、男の声だ。
「これは…」
サクの案内でベッドに近付くと、そこに先程の生徒が寝ていた。いや眠ってはいないのだろう。
そいつの股間は確かに半パンを突き破る勢いで勃起していて、染みまでできている。臭いからすると、既に何度か達しているようだ。
「運んでる最中から喘ぎっぱなしで。ベッドに寝かせてもこの有り様」
「あんまり近づかない方がいいよ」
背後からそう声をかけたのは、校医の新倉先生だった。イケメンと名高く、校内にファンも多い。(男子校なのになぜだ)
「さっき近付いたら、危うく襲われそうになった」
「なっ」
「僕の新倉ちゃんになんてことを!」
と喚いたのはサクだ。ここにもファンが居たか。
「とにかく、ずっとそういう状態だよ。吾妻君、この子らが?」
「ああ、はいまあ、専門っていうとあれですけど」
「さっきからその『専門』って何だよ」
「吾妻君に聞いたよ。君ら三人、エロくて妙な事件にしょっちゅう巻き込まれてるって?」
はぁ?
「僕の新倉ちゃんの口からエロなんて単語を聞けるなんて!」
「うるさいお前」
サクを一発殴ってから、弁解した。
「確かに数度巻き込まれてはいますけど、解決した訳じゃないです。俺なんかむしろ加害者側に近いんですけど」
「構わないんだよ。こういうのに慣れていれば」
「こういうの、って」
目の前のこれか。
「誰が見ても普通じゃない。少なくとも熱中症じゃないね」
「そんなの医者じゃなくても分かります」
「だったら何だと思う?」
「んなもん、わかるわけないでしょ」
「そう。僕にもわけがわからない。だったら医者じゃなくたっていい。
君らの方が慣れてるんなら、君らに何とかしてもらおうと、そういうことだよ」
「だから、別に慣れてるわけじゃ――」
「いいだろ雫木、僕の新倉ちゃんが困ってるんだ、助けてやろうよ」
「だからぁ…」
もう突っ込む気力も無いわ。
「なとかするって言っても…何が起こってるのかもわからないし」
蒼太のその言葉で、俺達はなんとなく寝ている彼を見つめた。
虚空に居る誰かと睦事でもするように、つまりは夢でも見ているように、彼は喘いでいた。
だがよく見ていると、何やら時折苦しそうにしている風でもある。
「これってさ、セックスしてるっていうよりは、」
あくまで明け透けな物言いのサクだが、口調は真面目だった。
「あちこち虐められてる感じだよね」
「えっと…どういう意味だ?」
「だから…ほら、たとえば、」
サクが指差したのは彼の股間だ。一瞬注目してしまってから、思わず目をそらす。
「内股になってもじもじしてるでしょ。随分ウブな反応だけど、誰かに弄られてる感じだよね」
だよね、って言われても。
「それにほら、時々身体捩るでしょ。脇腹とか胸とか、触られてるみたいに。ね?」
ね、って言われても!
「吾妻ならわかるんじゃないの?」
突然指名された紅輝は、照れながらも頷いた。そしてなぜか蒼太まで赤くなっている。アホカップルが。
「つまり、見えない誰かに愛撫されてる感じなんだね」
「僕の新倉ちゃんの口から愛ぶッ――!」
もう問答無用でサクを殴った。
「で、それがわかったらなんだって言うんだよ」
「彼を今も撫で回している見えない誰か。そいつが犯人だろう」
言われて俺は、彼の前の空間に手を伸ばした。当然、空を切ったが。
「ここに見えない誰かが居るんじゃない。どこかに居るんだ。遠くから彼のことを弄び続けている不埒な奴が」
どこか遠くから、いいように弄んでいるというのか。そんな馬鹿なこと――
と、笑い飛ばしてしまえないくらいには、俺達はここのところ、確かに妙な事件に巻き込まれている。
美術部の件、そしてつい先日の、俺の件。
「腹立ちますね、やり方が。やるなら正々堂々やれってんだ」
俺が言うと紅輝が笑った。
「好きだねぇ、正々堂々」
「うるせ」
吐き捨てて、とにかく手がかりを見つけなければと俺達はグラウンドへ戻った。
そこでは既に新たな事件が起こっていた。


次に倒れたのは、応援団員だった。同じく医務室へは俺達が運ぶこととなった。
熱中症に注意するよう呼び掛けるアナウンスが繰返し流されたが、彼もまた熱中症などではなかった。
「はぁ…ハァン…」
聞いているこっちが熱を出しそうなほど、ウブ丸出しの声、というより吐息だった。
「やっぱ応援団ってウブなんだね。ひょっとして童貞かなぁ? ねえ雫木」
「うるっさい俺に振るな!」
「被害者に共通点は?」
俺達の掛け合いを無視して、蒼太が冷静に言った。サクもちょっと真面目な顔に戻る。
「共通点って言っても、特に…」
クラスも学年も部活も違う。倒れた状況もまるで違う。今度の彼は応援中に倒れた。
「まあ、ウブっぽいところ、かな。あと、ふたりともかなりイケメン」
「そんなの主観的すぎるだろ」
「いや」
俺の言葉を新倉先生が遮った。
「ウブっぽい、はともかく。イケメンっていうのは、ある程度面相的に規定できる尺度じゃないかな」
「というと?」
「誰が見てもイケメンっていう人間が世の中には居るってことさ。吾妻君とかね」
「あと僕とかね!」
ふざけたことを抜かすサクを殴ってから、俺は少し納得した。紅輝が、誰もが認めるイケメンというのは確かにそうだろう。
そう考えて見てみれば、なるほど二人とも、酷い喘ぎ顔ではあるが、割と整った面相ではある。
「だからって、犯人探しの手がかりにはならない」
「そう、手がかりにはならない。でも餌にはなると思わないかい?」
新倉先生が言い、紅輝の方を見た。つられて俺達も見る。
3.

新倉先生の提案は無茶な話だったが、他に手もないと思われた。
それに、大会のプログラム的にも、問題はなかった。
だが保健室で打ち合わせしていると、ドアがいきなり開かれて、生徒が一人息を切らせて駆け込んできた。
「すみません、また一人倒れました! 誰か来てください!」
またかぁ、とサクが呟いた。

運ばれてきた生徒は、これまでの二人と違い、意識があった。
荒い息ながらも、状況を聞くことができた。
「2年の200mの、最終組でした。スタート直後に、なんか、ピカッて目の前が光って、
気にせず走って、たんですが、急に、その、あっ、」
生徒は急に恥ずかしそうに顔を伏せた、
「な、んだ、これ…変だ…」
もぞもぞと身をよじり始めた。
「んぁっ、そこはぁ…!」
俺達の見ているのも構わずに、喘ぎ始め、そして、
「だめ…お、れ…ケツは…あっ!?」
最後に腰を突き上げて、というよりは後ろから何かに突かれたようにして、ガクッと力なく崩れた。
それからはもう、他の二人と同じように、精悍な顔を歪めて喘ぎまくるだけだった。
「バックで入れられちゃったのかな?」
サクはあくまで面白そうに言う。
「お前、ちょっとは慎め」
「ツツシム? なにそれ美味しいの?」
だめだこいつ。呆れる俺に、サクは声の調子も変えずに続けた。
「でも、犯人の狙いも実に的確だよねー」
「? どういう意味だよ」
「応援団に、短距離。僕がもえるところを狙ってきてるね」
「最初の一人は? 競技が始まる前だったぞ」
「そうだね。でもそれは、たまたま近くに居たとか、試し撮りしたとか、たぶんその程度の理由だよ」
「待て。『試し撮り』ってなんだ。それに、近くに居たって、犯人がか?」
サクは真面目な顔に戻って解説を始めた。
「ピカッて光ったってのは何だと思う?」
「雷…じゃないな。ライトか、鏡か…」
「昼間にライトなんてつけてたら不審に思われる。鏡なんて、男子校で体育祭の真っ最中に持ってる奴も居ない」
じゃあ…。
「カメラか」
俺の代わりに紅輝が答えた。そうか、カメラ。それなら持っていても不思議じゃない。
「フラッシュが光ったのは偶然か?」
「そうは思えないな。なるべく目立たないようにしたいはずだろ。フラッシュを焚かないと効果がない、とか」
「だとすると、カメラ持ってて、昼間なのにフラッシュ焚いてる奴が怪しいってことか!」
そう言って俺は立ち上がりかけたが、サクが腕を引いた。
「まだ。もっと絞り込める。最初の彼がヒントだ」
「最初の…校長の挨拶中に倒れた奴か」
「あの時、生徒全員が前を向いて立っていただろう? それじゃ先頭にいた彼の写真を取るなんて無理だ」
「じゃあ犯人は…」
「教員にカメラ持ってるのが何人か居た。あと、男子校だから少ないけど父兄や部外者も何人か」
「生徒以外でカメラ持っててフラッシュ焚いてる奴が、犯人」
「そう。たぶん、ね」
サクの状況分析は大したものだ。紅輝の言っていた通り、こんなだけど頭はいいらしい。こんなだけど。
「でも残念なことに、どの被害者の時も、僕らは間近に居なかった」
「犯人の目星がつかないってことか」
「それに向こうも、そう簡単にバレるようなことはしないだろうし。そう何度も繰り返すとも思えない」
「思えない、って既に三人も…」
「まだ三人だ。昼休みを挟んでプログラムは終盤に近付く。このプログラム、僕なら、もう数回しかもえるポイントは無いよ」
「っていうと、」
サクはプログラムの終わりの方を指で示した。
「400m走」
「で、作戦通り、俺の出番か」
紅輝が鼻息荒く言った。



作戦と言うのは実に単純だ。
ラストから2番目の種目。400m走。誰が見てもイケメンの紅輝が、最終組で走る。
鉢巻きを締めた紅輝が入場門から入ってきた。
その姿は凛々しく惚れ惚れするほどだ。だけど見とれている訳にはいかない。
紅輝の順番が近付く。
「いいかい、国嶋、雫木。吾妻が走り出したら、カメラ構えてる大人に注視するんだ」
「だけどさぁ、」
俺は愚痴っぽく言った。
「こうしてみると結構居るんだな、カメラ男。どこを見てればいいか」
「仕方ないだろ、他に手がないんだ。レンズは吾妻を追うだろうし、少しは挙動がおかしくなるはずだから、ある程度絞れる」
「そうは言っても…」
「しっかりしろよ、龍二」
蒼太に言われて、はいはい、と返事をした。
紅輝の番が来た。スタートラインについた紅輝は、手足をぶらぶらさせながら周りを見渡し、
フィールドの中に居る俺達を見つけると、グッと拳をつき出して笑った。
ああカッコいい。腹が立つほど。おめでとう、お前、間違いなく狙われるわ。
『位置について…ヨーイ…』
パァンというピストルと同時に全員が走り出した。俺達も周りに目を走らせる。
最初のカーブに差し掛かった時、ドンドンと威勢のいい太鼓の音と共に、応援団が大声を張り上げた。

ほんの一瞬、そちらに気をとられ、視線をそらしてしまった。
同時に、ピカァッと眩しいくらいの光が横顔に当たった。

慌てて目を戻した先にはカメラなんて構えてる奴は既に居なくて、
目の前を通りすぎようとしていた一団のなかで、どさっと一人が転んだ。
「紅輝っ!?」
蒼太が慌てて駆け出すが、俺は動けなかった。
失敗、した。
「おい、雫木、ちゃんと見たのか」
サクが肩を揺すってくる。
「見逃した」
「な…」
「わからなかった」
サクは苛立った様子で、俺を突き飛ばすようにして紅輝の方へ走った。


保健室へ連れていくと、紅輝は存外平気そうに、それでもやはり時折身を強ばらせた。
「大丈夫なのか?」
蒼太が訊くと苦笑いして、
「割と…慣れてるからじゃね?」
蒼太まで赤い顔になる。まあ他のウブそうな連中よりは慣れているのだろう。
紅輝の冗談にも、俺は少しも笑えなかったが。
「そっか、見つけられなかったか…」
紅輝が残念そうに言う。俺は思わず頭を下げた。
「ごめん、俺が…」
「僕達がちゃんと見てなかった。ごめん」
サクが代わりに謝ってしまった。そういうかばい方をされると、ますます俺の立場が無い。
「でも、尻拭いはちゃんとするから。次は見逃さない」
「次、って」
改めてプログラムに目を落とす。
「次が本当のラストチャンスだ」
サクが言うのと同時に、ぴんぽんぱんぽん、と校内放送が流れた。

『最終種目のリレー出場選手は、至急、入場門前に集合してください。繰り返します――』

プログラム最後は、200×4mリレー。
「お前、出るの?」
俺が訊くと、サクはニヤリと笑った。
「紅輝から僕のこと、どういう風に聞いてる?」
「え…成績優秀、運動神経抜群…でもクラスで浮いてる」
ふっ、とサクは笑った。
「ずっとそう。小学校中学校でもそう言われてきた。
でも紅輝は昼飯に誘ってくれた。お前は当たり前みたいにツッコミ入れてくれる。
そういうのが楽しいって、生まれて初めて思った」
「お前…」
「僕、運動神経抜群なんだよ。リレー選手に選ばれないわけないよね」
腹の立つ言い方なのに、なぜか、今は頼もしく思えた。
「滅多にない活躍の場だ。しっかり見てろよ」
やっぱり、こいつもそういうところがあるんだなぁと、少し感心していた俺に、
サクは銀フレームの眼鏡を外して、ポンと手渡して、にっこりと笑った。
ハッとした。時間が止まったかとも思った。
眼鏡の下にあったのは、紅輝どころじゃない、とんでもなく整った顔立ちだった。
モデルか俳優だとでも言われれば納得してしまいそうなレベルだ。
ビックリした。眼鏡を取るだけでこんなに――
「僕に見とれてるんじゃなくて、犯人を見てろよ」
「だ、誰が、お前なんかに、」
「今見とれてたじゃん、僕に。ねぇ?」
「確かに」
「うん」
蒼太や紅輝まで頷いた。俺は腹が立って、先に立ち上がった。
「おらっ、さっさと行くぞ」
今度こそ犯人を捕まえてやる。
サクにまで手を出させて堪るか。
4.

最終種目のリレー、最終組がスタートしようとしていた。
サクはなんとアンカーだ。鉢巻きを締めた顔はいつになくキリッとしている。
俺達を見つけると、少しの緊張も感じさせない笑顔で、拳をつき出してきた。紅輝の真似か。
「おい、見とれてんなよ」
蒼太に言われてハッとした。確かに見とれていた。
「だ、誰が――」

『位置について…』

掛け声とともに、軽口を閉じて周囲を睨んだ。
ピストルと同時に、第一走者がトラックを駆けた。フラッシュは光らない。
そりゃそうだろう。サクに狙いを絞ってくるに決まっている。

そして最終走者にバトンが渡る。サク達の1-Cは三位でアンカーのサクに回った。
受け取ったサクは、ぐんぐんと追い上げ、二位のクラスを抜き、トップに迫る勢いだ。
周りの歓声も高まる。応援団も熱が入る。サクに注目が集まる。
でも俺は目を向けない。あくまで観衆に目を凝らす。
そうしていると、一人の男に目が止まった。
男の構えているカメラは、一見普通のデジカメだが、形状がちょっと変わっていた。
本体の下に箱状の異物がくっついた奇妙な形――
「っ…!」
俺の見つめていたそのカメラが、眩しいくらいにピカッと光った。
と同時に、トップに立とうとしていたサクの足が目に見えて速度を落とした。
それでもサクは止まることなく、再びぐっと足を踏み出し、そのまま隣を抜き去ると、トップでゴールテープを切った。
劇的な展開に歓声が湧く。サクは歓声に応えることなく、ゴールの先で蹲った。
こちらへ駆け寄ってきた蒼太に頷き、
「見た。あいつだ。間違いない」
「じゃあ早く…で、でも、サクが――」
「大丈夫。奴は逃げない」
俺は犯人じゃなく、サクへ駆け寄った。肩に手を置くと、上気した顔を上げた。
「見てた? 僕の一等賞」
「ああ見た見た」
適当に答えて、サクの前に背を向けてしゃがんだ。
サクは、よっこらせっくす、と小さく呟いて、大人しく俺の背に乗った。
俺も、よいしょ、と言いながら立ち上がり、ざわつく観衆の見守る中、保健室へ運んだ。
「ごめんねー」
「いい。それより、」
俺は苛立って、背中のサクを揺すった。
「硬いのぐりぐり押し付けてんじゃねぇ!」
「だってー、立つんだもん」
なんでこいつはこんなに平気そうにしていられるのだろう。紅輝が言っていたみたいに、慣れているから、だろうか。
「なー、雫木ー」
「なんだ」
「ズブッてしていい?」
「いいわけねーだろ!?」
妙なことをされる前にと、俺は足を早めた。
「犯人、見つけたんだろうね」
「当たり前だ」
そう、とだけ言って、サクは大人しくなった。

先に立って保健室のドアを開けた蒼太が、そのまま凍りついた。
かと思ったら思いっきり中へ突撃していった。
なんだと思って遅れて中を覗くと、そこではなんと、紅輝が新倉先生の上に跨がっていた。
「な――」
「紅輝! なにやってんだ!?」
蒼太に突き飛ばされて床に倒れた紅輝は、みっともなく前を晒したまま、虚ろな顔で俺達を見た。
その目は意思が感じられないのに、血走っていて、獲物を見つめる獣のようだ。身の危険を感じるくらいに。
「いてて…油断した」
新倉先生が腰を擦りながら立ち上がった。
「いててじゃねーよ、センセ。犯されてないだろうな」
「大丈夫。危なかったけどね」
おいおい、冗談じゃないぞ。
「面目無い。いや、本当に突然、何かに呼ばれたれたみたいに、ふらふら立ち上がって、
慌てて止めようとしたらこの有り様さ。ひょっとしたら犯人が、遠くから彼を操っているのかもしれない」
「んなことまでできるのかよ」
反則みたいな話だ。

獣の唸りを上げる紅輝を、仕方なく椅子に拘束した。
「とにかく先生、他の奴等の様子にも気を付けてください。特にサクはナチュラルにケダモノなんで」
「え、なにそれひどい」
「うるせぇ黙れ」
「それで、犯人はわかったのかい」
「勿論」
「だったらこんなにゆっくりしていていいのかい。逃げられ――」
「大丈夫、逃げられないよ」
「え?」
「大会が終わるまでは帰るわけにいかない。公務員なんだから、きっちり定時まで働かないと」
「それは――」
状況を説明すると先生も納得してくれた。
「それが本当なら、僕としてもなるべく穏便に済ませて欲しい」
「わかってる。だから、大会が終わって奴も油断している頃に戻る」

グラウンドに戻ると、既に後夜祭のファイアストームの準備が終わろうとしていた。
中央に薪でやぐらが組まれ、生徒もそわそわとしているのがわかった。
その中で、輪の中心から離れて、グラウンドの隅の方に佇むそいつに、俺と蒼太はゆっくり近づいていった。
「お疲れ様でした」
そいつは手元のカメラから顔を上げ、俺達を見た。
「ああ、お疲れ様。君達、すまなかったね。何度も保健室へ行ってもらって、ろくに観戦できなかったろう」
「ああ。先生のせいでね」
俺がそう言うと、地学教師・寺田の表情が一瞬、凍りついた。しかしまたすぐに、何事もなかったみたいに、
「どういう意味だ?」
「まあとぼけるなら別にそれでいいよ。でも、そのカメラはぶっ壊させてもらうけど」
「カメラ? これがいったいなんだって言うんだ? これは、大会の記念写真を――」
「じゃあデータ見せてくれ。それで全部わかるから」
「ああ、いいよ」
思いの外あっさりと寺田は頷いた。ハズレか?いや、そんなはずはない。
俺がゆっくり前に出ようとすると、横から蒼太が手を伸ばして制した。
「先生、俺が見ます」
「どっちでもいい。早くしてくれ」
苛立った様子で寺田はこちらへカメラを差し出してきた。
俺の代わりに蒼太が前へ出た。ゆっくり近付いていき、カメラに手を伸ばした時、

パシャッ

寺田がシャッターを切った。眩い光に蒼太は腕で顔を覆ったが、その腕はすぐに下ろされた。
「うぁっ…」
手で股間を押さえながら、みっともなくうずくまる蒼太。
「くく…」
笑いをこらえながら、寺田がカメラをこちらへ向けて構え直した。
「…先生。それ、どこで手に入れたんですか」
「今更お前に説明する必要は無いだろう」
「そりゃそうなんですけどね。俺もう、絶体絶命なんで。ただそれ、誰かから貰いませんでしたか?」
「…どうしてそれを」
寺田は少なからず驚いたようだった。やっぱりこいつも、か。
「それ、誰にもらったんですか」
「誰でもいいだろう!」
「教えてくださいよ。それとも、覚えていないんじゃないですか?」
「は? 何を馬鹿な…これは…」
寺田は何か言いかけて、急に言葉を切った。その顔が怪訝そうにひそめられた。
その隙を見逃さず、俺は全力ダッシュした。
5.

あれは、先週末の、日が落ちかけようとしている頃だった。

「写真がお好きなんですか?」

地学準備室でコレクションを整理していた私は、背後からかけられた声に驚いて立ち上がった。
振り向くとすぐ鼻先にそいつが立っていた。
「なんだ君か…何か用か」
訊きながら、後ろ手にコレクションを片付けていく。見られていないだろうか――
「盗撮は良くないですよ」
っ…ちくしょう、見られた! どうすれば…。
「皆びっくりしますよ。先生がそんなことしてるって知ったら…先生、生徒に人気あるのに」
そいつは、淡々と話ながらも、じろじろと見下すような視線を決して外さなかった。
「先生ってゲイだったんですね。しかも、趣味がいい」
「なんなんだ。私を脅す気か」
堪えきれずに喚くと、そいつは不思議そうな顔をした。
「脅す? どうして。俺は仲間が増えて喜んでるんです」
「なに?」
「俺も男が好きってことです」
その告白に私は驚いた。なんだ、そうだったのか…だったら、見逃してもらえるかも…。
「特に、馬鹿で可哀想な、先生みたいな惨めな男が大好きなんです」
「なんだと?」
「さあ、そんな先生に、これを上げましょう」
そいつがポケットから取り出したのは、見たところ何の変哲もないデジカメだった。
「これで、先生の思う存分、写真を撮りまくってください」
そう言って私に押し付けるように渡してきた。
「これは――」
「1、先生の考えた通りに、ズームもフォーカスもフルオートです。
 2、写真に収めたモデルのことを、先生の思いのままにいじり倒せます。
 3、効果は『半永久的』に持続します」
「待て…何を言ってるんだ?」
馬鹿馬鹿しい。そんな魔法みたいなもの…。
「本当に魔法のカメラだったら、どうします?」
そいつは、俺の心を見透かしたように言った。
「どうにしろ、貰ってください。使いたくなければそれでいいです」
話は終わりだとでも言うように、そいつは背を向けて準備室を出ていこうとした。
「でも先生は、きっと使いたくなりますよ」
最後ににっこりと笑って出ていき、ドアが静かに閉まった。

最初は信じてなどいなかった。だが、今朝、準備室に置きっぱなしにしていたカメラに目が留まった。
それを手にした時、ほんの試しに、使ってみようと思った。本当に、悪意は無かった。
校長の挨拶の最中に欠伸していた先頭の生徒が、私好みのかわいらしい子だったので、撮ってみた。
設定を何も変えていないのに、眩しいフラッシュが光ってしまい、驚いた。
しかしもっと驚いたのは、その撮った写真は、あいつが言っていた通り、
私が頭に思い描いたとおりの構図で、肌の質感がわかるほどズームした彼を写していた。
それを眺めていると、ついいつもの癖で淫らな妄想をしてしまった。
その途端だった。
被写体となった彼が、身を捩って悶えながら蹲ってしまった。私が本当に彼を犯しているように錯覚した。
運ばれていく彼を見ながら、私の全身には鳥肌が立っていた。悪意が芽生えた。

***

「そうだ、あれは…一体…誰だった…?」
呆けている寺田に体当たりするようにしてカメラを奪い、そのまま地面へ叩きつけ、とどめに踏みつけた。
ガシャン、と控えめな音を立ててカメラはバラバラに壊れた。よし、これで…。
「りゅ、じ…」
え…。
カメラを木っ端微塵に壊したというのに、地面に蹲る蒼太はまだ変わらず苦しそうに悶えていた。
「なんで…」
駆け寄った俺に、蒼太は首を振って、辛そうにしながらも腕を持ち上げ、俺の背後を指差した。
寺田が這うようにしながら逃げ出そうとしていた。
そのズボンのポケットから紙片が何枚かこぼれ、慌てて拾い上げようとしている。
「それか――!」
俺は再び寺田へと駆け寄り、拾おうとしていた写真の数々を奪った。
「か、返せ…私のコレクション――!」
「っざけんな! 盗撮野郎が!」
写真を見ると、最初に倒れた生徒をはじめ、紅輝やサク達全員の姿があった。
どれもこれも、間近からモデルを捉え、飛び散る汗まで写り、息遣いまで聞こえそうなほどの躍動感があった。
この人のカメラの腕は確かなものらしい。正直、『一枚』は欲しくなった。が、許せるもんじゃない。
ちょうどその時、暗くなりかけていた空が赤く照らされた。燃え上がったファイアストームに歓声が上がる。
俺は写真をまとめてぐしゃっと丸めてやると、思いっきり振りかぶった。
「あぁっ!?」
寺田の切ない悲鳴とともに、投げた写真は見事、火柱に吸い込まれて見えなくなった。

大急ぎで保健室へ戻ると、案の定、サクが新倉先生にのしかかっていた。
「あ、おかえりー」
「おい」
「あー、うん。ほら、カメラのせいでね」
「カメラは壊した。写真も燃やした。もう解決したはずなんだが」
「あ…そうなの? …ちっ」
思いっきり殴り飛ばしてやったのに、サクは何故だか笑っていた。


「まさかポラだったとはな」
「だね。最近あんまり見ないしね」
サクと並んでファイアストームを眺めながら、寺田と対峙した時の話をしていた。
火の傍では紅輝がチームメイトとはしゃいでおり、少し離れてそれを蒼太が見つめて(見とれて?)いる。
「国嶋は雫木を庇ったんだね」
「ああ…なんでだろ」
「最後は雫木が上手くやってくれるって、思ったんだろうね」
「なんで」
「だって雫木はリーダーって感じだし」
「はぁ!? どこがだよ」
俺なんかより、蒼太の方が頭がいい。紅輝の方がかっこいい。サクの方が面白い。からかわれているのだろうか。
「だって、好きだろ、『正々堂々』とか。戦隊モノで言うならレッドって感じ」
「わかんねー喩えだな」
「でもレッドは危なっかしくて頼りないってのが定説だから」
サクは楽しそうにそう言って、俺の方を見て笑った。
「しっかりサポートしてやらないとね」

(了)
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