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  • 2014⁄02⁄21(Fri)
  • 00:16

タイムマシン

「タイムマシンがあったら未来に行く?それとも過去に行く?」
 いつか見たドラマの中で、ヒロインが主人公に言ったのをオレは思い出していた。
「僕は過去に行くよ」
 そのドラマで主人公がそう言ったのを憶えてる。
子供のオレは、主人公のそんな気持ちはまったくわからず、
「過去をやり直すなんてつまんないジャン、やっぱり行くなら未来だよ!」
と大声で言って、お母さんを笑わせたのを憶えている。
ついこの間の話だ。
だけど、今、オレはその主人公の気持ちがやっとわかった。
もし、今、オレの目の前にタイムマシンがあったら………うん、オレもやっぱり過去に行くよ。そうして二時間前の自分に言ってやるんだ。
「今日はどこにも行かないで一日中家の中にいろ!!」って………
 四二度の温泉の中、オレは顔半分までお湯に浸かってそんなことを思っていた。
 
 間違いは二時間前までさかのぼる。
「カオルくーん何やってんのー」
 お向かいに住んでいる同じ年の従姉が、ケラケラと笑いながら俺の家にやって来た。
こいつの名前は一ノ瀬さつき。肩まで掛かった髪の毛を一つに束ねていつも横に垂らしている。
本人はサイドポニーとかカッコつけて言っているが、そんなのオレの知ったこっちゃ無い。
「べつにー………なんもー」
 オレはそう言うと、リビングで横になりながらテレビを見ていた。
本当なら、今日はサッカークラブの練習なんだけれど、昨日から振っている雨のせいで、
練習が中止になっちゃって、せっかくの日曜日の午後をやることもなくダラダラとテレビを見ながら過ごしていたんだ。
「カオルちゃん……じゃあ、ヒマなの?」
 するとさつきの後から、同じ従姉で八歳年上のみさき姉ちゃんが声を掛けてきた。
 今年短大に入ったばかりだというのに、いつもオレんちに来てお母さんとおしゃべりをしている。
短大生ってみんなこんなヒマなのかな………
「うーん、ヒマー」
 オレはそう言うと、炊き枕を抱えながらゴロゴロと体を反転させた。
子供っぽいっていうんじゃないよ。結構コレきもちいいんだ。
すると、みさき姉ちゃんはニッコリと笑いながらオレに言ったんだ。
「ねえ、カオルちゃん………よかったら、ドライブがてら温泉にいかない?」
「いく!!!」
 オレはガバって起きあがると、直ぐに返事をした。だってそうだろ、今日はとってもヒマだったんだもん………
 この前、免許を取ったばっかしのみさき姉ちゃんは、最近ちょくちょくオレとさつきをドライブに誘ってくる。
オレも最初はおっかなびっくり乗ったんだけれど、メンキョトリタテのくせに(あ、これ、お母さんが言ってたんだ)
それがなかなか運転がうまくって………結構乗り物酔いするオレも、みさき姉ちゃんの車だとなんでか調子がいいんだ。
 そんなわけで、オレたちはみさき姉ちゃんの運転する車で、ドライブしながら、その隣町にある温泉に行ったんだ。
 するとその最中にみさき姉ちゃんがオレに話し掛けてきた。
「ねえ、カオル君、温泉どっちはいる?」
「はい?」
 オレはみさき姉ちゃんの言っている意味がよくわからなかった。
「だから、カオルちゃん、男湯と女湯どっち入る?」
 みさき姉ちゃんはハンドルを握って前をしっかり見ながら、話し掛けてきた。
「はぁ?」
 オレは頭の上に大きなはてなマークが浮かんだ。なにいってんだろみさき姉ちゃん………
 すると、横に座っていたさつきがいきなりケタケタと笑い出した。
「何いってんのお姉ちゃん、そりゃ、カオルちゃん、女の子によく間違われるけれど、一応小学四年生の男の子よ」
 そういうと僕の肩をばんばんと叩きながらみさき姉ちゃんに言った。
……いや、みさき、肩痛いし、大体、それ、オレのせりふじゃん。
オレはそんなことを思いながら、みさきをじーっと睨み付ける。
『女の子によく間違われる』って、そんなの大きなお世話じゃ!!!
 そりゃ、生まれながらの女顔で小学生に上がる前まで男の子って言われたことは一度も無いけれど、オレだって、一応立派な男だ!!
 大体にしてカオルなんて名前が良くない!!名前を聞いただけじゃ男か女かわかんないだろ!!
 それにお母さんだっていけないんだ。オレが生まれる前から、女の子がいい、きっとこの子は女の子だからって、散々周りに言いふらしたお陰で、
お祝いでもらったベビー服はみんな女物。それが妙に似合ってたのが気に入ったみたいで、それからオレが物心付くまでずーっと女物の洋服を着せてやがったんだ。
 そこのおまえ、わらってんじゃないよ!!
 おまけに情けないかな、幼稚園の年長さんでプール教室があるまで男の水着って奴をちゃんと理解してなかった。
 そう、オレの水着ってのは赤い水玉のビキニ………ビキニっていってもあの細い水泳パンツのビキニじゃなくってブラジャーが付いている例の奴。
 そこのおまえ、もういいや、かってに笑ってろ!!……ちくひょー………
 そう、オレは両親に騙されて、そんな女物の水着を着せられて無邪気に泳いでいたんだ。
 どうりでみんな、オレが海でおしっこすると、驚いた顔をすると思っていた。そりゃ、今、オレが見たって驚くさ。
 それにオレのお母さんったら、その様子が気に入ったみたいで、何にもわからないオレをだまくらかして、あっちこっちで、わざわざ沢山人のいる前でおしっこさせてたんだ。
 今思い出しても情けないやら悲しいやらで一日中ユウウツって奴になってしまう。ってか、それをわざわざ写真に撮ってたお父さん………あんた、いったいなにやってんだ!
 男が生まれたら、もっと男らしく育てなくちゃダメだろ!
 そういう訳で、オレの家のアルバムは一枚めくると何でかカワイイピンクのスカートやら、赤い水玉のビキニやら、白のブラウスに紺のワンピースを着た
………ああ、もうたくさんだ!!!そう、女装をしたオレの写真が盛りだくさんだ!!ちきちょー友達なんかに絶対見せられねえ、
ってか、男の子の洋服ってなかったのかよ………おやじ!!!
 だからオレは小学校に上がってから一度だって自分のことを‘僕’なんて言ったことがない。
 だって、そうだろ‘僕’って言うと、みんながみんな、オレのことを女だと間違えやがるんだ。………ちきひょー。
 今だってそうだ、本当ならスポーツ刈りかなんかにして、ビシっと男らしくしたいのに……美容師をやっているお母さんのせいで、
なんでか、男か女かわからないような髪型に無理やりさせられている。
 一応、いつも、もっと短く!!ってお母さんには言ってるんだけれど、
「だめよカオルちゃん!!そんな綺麗なサラサラの髪、ボウズになんかしたら美容師としての沽券にかかわるわ」
ってなんだか難しい理由を付けて一回だってオレの言う通りにしてくれたことなんか無い。それに着る洋服だって、
さすがに女物は買わなくなったが、女が着たって可笑しくないような洋服しか買ってくれない。
もうこの際○○レンジャーとかの幼稚園児が着る戦隊もののTシャツでもいいから、そういう、どっからみても男だって間違いないような洋服を買ってくれ!お母さん!!
 ちなみに、今の恰好は、白のパーカーにのハーフパンツ………微妙だ!
 ごめんな、話がちょっと長くなって、とりあえず、そういう人生をオレは今まで送ってきたんだ。………ちきちょー
 ………そんなわけで、話を戻すよ。
 そしたら、みさき姉ちゃんは残念そうにいったんだ。
「やっぱりそうよねー、カオルちゃんもう四年生なんだもんねー」
 そう、このみさき姉ちゃんこそがお母さんと手を組んでオレにいろいろ女物の洋服を着させていた張本人だ。
 小さい頃から優しい言葉でオレにいつも言ってくるんだ。
「カオルちゃん、カワイイー。とっても似合うー」そういってオレを騙して、オレの写真の隣には必ずと言っていいほど、
このみさき姉ちゃんが写っていた。つーか、あの水玉のビキニ………みさき姉ちゃんのお古だし………
 それに、ほら、まあ、オレもみさき姉ちゃんのこと……きらいじゃないし………
なんてったって、一緒に町を歩いているとすれ違う男共はみんな振り向いてくるって程のちょー美人。
まあそんな綺麗なお姉ちゃんにそんなこといわれたら……勘違いしたっていいだろ!!!なんか文句あんのかよ!!!
 そんなわけでオレは当然のように言った。
「あたりまえじゃん、オレは男湯、一人ではいってるから」
 そう、もう一人でお風呂に入れる年齢だ。何が悲しくって一緒に女湯なんかにはいらなくっちゃならないんだ!!
 オレはちょっと大人っぽく言ったんだ。
「………ざんねん」
 すると、みさき姉ちゃんはとってもがっかりした感じで言った。
 おい、まさか、オレと一緒に女湯でも入るつもりでいたのかよ。
 すると、となりに座っているさつきの奴がケラケラと笑いながら話してくる。
「別にいいじゃない、カオルちゃん、去年まで一緒にお風呂にはいってたんだから!」
 そう言いながらまた、オレの肩をばんばんと叩いてくる。……いや、痛いよさつき。
「去年は去年、今年は今年!!」
 オレは大声を出しながらそう言ったんだ。
 なんてったって、さつきの奴、今年からオレと一緒のクラスになりやがったんだ。そんな、従姉とはいえクラスメイト同士、
男と女で一緒に風呂なんか入ってられるか!!オレはもう一度きっぱりと言ってやった。
「温泉は一人で男湯に入ります!!」
 オレは男らしくたからかに宣言した。………‘たからかに’ってこの使い方であってるんだよな。まあいいや。
「まあ、カオルちゃんがそういうんなら、いいんじゃないの」
 そう言いながら、あいかわらずさつきの奴はケラケラと笑いながらオレの肩をばんばんと叩いてくる。……いや、ほんとに痛いんで止めて下さいさつきさん。
そう言いながら、あいかわらずさつきの奴はケラケラと笑いながらオレの肩をばんばんと叩いてくる。
 ……いや、ほんとに痛いんで止めて下さいさつきさん。
 するとその時、バックミラー越しにみさき姉ちゃんの顔がニヤリと笑ったような気が………うん、気のせいだ。
 そうそう、まあでも、さつきの奴、こんなしょっちゅう笑っていて口が軽そうに見えるけれど、
オレの秘密は今の今までクラスのみんなには黙っててくれているんだ……正直、結構感謝してる。
 こういうのを友情を感じるっていうのかな?男同士なら結構いい仲になってたかも………。
「ってか、カオルちゃんのチンチンなんて見飽きちゃったから今更どうでもいいわよ。あんなちっこいの」
 そう言いながら、さつきの奴はケラケラと笑いながらまたオレの肩をばんばんと叩き始めた。
 さっきの言葉、全部取り消し!つーか死ね!!!
 それに何てったって、四年生になった途端、どういうわけだか学級委員にされちゃったオレ。
………そんな学級委員のオレが女湯なんかに入ってられるか!!
 そんなことを思いながら車は温泉に向かってゆく。
 しばらくすると、なんだかガラス張りの、どうみても温泉とは見えないような感じの建物に到着した。
 オレが生まれた年に出来たこの温泉は、オレの町でも結構有名で今まで何度か家族で一緒に来たことがあった。
……まあ、みさき姉ちゃん達と来たのははじめてだけれど。
オレ達は玄関で靴を脱いで、みさき姉ちゃんから百円玉を借りてコインロッカーに入れる。
 ここではどういう訳だか、大人も子供の一人に一つ靴箱に靴を入れる決まりになっている。
 それから、みさき姉ちゃんに自動販売機でチケットを買ってもらって、それをフロントのお姉さんに靴のロッカーの鍵と一緒に渡すと 
ほら、綺麗なお姉さんがニッコリ微笑んでロッカーの鍵を渡してくれた。
 このくらい一人だってできるんだぜー!!
 すると、渡してくれた鍵は、いつも見慣れた水色の鍵じゃなくって何でかピンク鍵………
 オレは今まで見たことのないピンクの鍵を見つめながら、頭の上には大きな?を浮べていた。
オレは思わず振り返ってみると、みさき姉ちゃんな、ニヤニヤと笑っている。
何でか分かんないけれど背中に冷や汗が出てきた。とりあえずオレは隣も見てみる。
すると、なんとさつきもニヤニヤと笑っていた!………あ、いや、コレはいつものことか。
 オレはとりあえず、フロントのお姉さんに鍵を前に差し出して聞いてみた。
「あのー……これ?」
 すると、フロントのお姉さんは、こんなことを言いやがったんだ。
「あら、お姉さん達と一緒にきて、よかったわねー。三人姉妹?みんなとっても美人で………」
 一瞬言葉を失うオレ………まあ、いままで散々言われ続けたことだったが、最近はさすがに言われなくなったこともあり、ちょっとショック。
それに散々いわれ続けてきたけれど、何度言われたって頭に来るもんは頭に来るんだ。
オレは顔を真っ赤にしながら大声で叫んでやった。
「オレは男だぁぁぁぁーー女ではないぞぉぉぉぉー!!」
 そう言って地団駄をおもいっきし踏む。正直、コレをやるのは二年ぶりくらいだ。
 すると、周りにいた客が一斉に俺たちの方を向いた。一気に注目を浴びるオレ達、コレはちょっと気持ちがいい。
 すると、フロントのお姉さんは、とってもすまなさそうに謝ってくれた。
「ごめんなさい……ぼく」
 いや、そこまですまなさそうに謝ってくれなくてもいいし………オレはちょっと、言い過ぎたかなと後悔した。
相変わらず周りのお客達から‘なんだ?なんだ?’といった感じで注目を浴びている。
「もう、カオルちゃん、言い過ぎだよ」
 すると、みさき姉ちゃんがフロントのお姉さんとの間に入ってきた。正直オレも悪いと思ってたんで、助かった。
「でも、やっぱし、ごめんなさいね……僕」
 そういって、フロントのお姉さんはもう一回謝ってくれた。いや、そんな、オレもそこまで怒ってないし
……そんなことを思いながら……こういうのなんて言うんだっけ……気まずいであってんだっけか……まあ、‘気まずい’雰囲気ってやつになっちゃったんだ。
 そしたら、突然、フロントのお姉さんが申し訳なさそうにオレに質問してきたんだ。
「ところで、僕、いくつ?」
 いきなり'年'?
何でかよく分かんないけれど、とりあえずオレは胸を張って大声で答えてやった。
「小学四年生だ!!」
「いや、あの、そうじゃなくって、僕……いくつですか」
 そしてら、なんでか待ってましたとばかりに、みさき姉ちゃんが割って入って、話してきた。
「あ、この子、九歳ですけれど……」
 なんでか口元が笑っている。………ねえ、みさき姉ちゃん、なんでわらっているんですか?
 オレはそんなことを思いながらも、背中に寒気って奴を感じていた。
すると、そのフロントのお姉さんは本当に……本当にすまなさそうに、オレに言ってくれた。
「ゴメンなさいね、僕。うちの温泉十歳以下のお子さんは一人では入っちゃ行けない決まりになってるの?」
「………………………………はい?」
「いや、あの、以前にね、小学生の男の子が一人で入ってて怪我したことがあって……十歳以下のお子さんは一人では入れないの?」
「……………………………もういっかい」
「あの…………」
 すると、みさき姉ちゃんが困っているフロントのお姉さんを助けるようにオレにゆっくりと話し掛けてきた。
「カオルちゃんの年じゃ、一人じゃ男湯入れないんですって」
「…………………ふーん………って、ちょっと待った、なにソレー!!!!」
 周りの客さんがさっきと同じくらいの勢いで驚いている。そんなにオレ大声出したのか!?
 オレは口をぱくぱくさせながらフロントのお姉さんを見てみた。申し訳なさそうに頭を下げているのに、なんで笑いを堪えているように見えてしかたがない。
オレは正直、泣きそうな顔でみさき姉ちゃんの顔を見てみたら………どう見ても笑ってやがる。
 ……やっとわかった、さっきからみさき姉ちゃんがニヤニヤしていたわけが………おまえ、知ってたろ!!!
 とりあえず、隣を見てみると、ああ、さつきの奴もわらってやがった……あ、いや、これはいつものことか。
 すると、なんとさつきの奴がオレの肩をポンポンと叩きながら慰めてくれたのだ。
「大丈夫よ、カオルちゃん、私、気にしないから……」
ああ、やっぱし、味方はお前だけか。今度の給食で好物のプリンが出たら、さつき、お前にやるよ。オレはそんなことを思いながらさつきに言った。
「………ありがとう」
「いいの、いいのカオルちゃん、それにカオルちゃんのチンチンちっちゃいから、みんなに男の子だってわからないでしょ」
 そう言ってケタケタ笑いながらオレの肩をバシバシ叩いてくる。
「シネ!!!」
 オレは今度はちゃんと言葉にして言ってやった………けれども、フロントのお姉さんも、周りのお客さん達もみんなゲラゲラわらってやがる。
 ………お母さん、オレもう、おうちに帰りたいよ………
オレはあたまん中真っ白になりながら、フロントの前で突っ立っていると、みさき姉ちゃんが話し掛けてきた。
「で、どうするの、カオルちゃん」
「ど、どうするって………」
 気が付くとオレはちょっと泣声になっている。
「お風呂入るの?それともここで一人で待ってる?」
 ………ああ、ここで一人で待ってることもアリなの。オレはそんなことを思いながら、ほっとため息を付いた。
「でも、私たち、温泉入ってるの長いわよ。一時間以上ここで一人っきりで待ってるの?」
「………う」
 オレは一瞬言葉に詰まった。一人で一時間以上………正直にいうと………退屈だ。
オレは答えに困って、一瞬辺りを見回してみると………なんてこったい。なんと周りの客がみんなオレのことを見てやがる。
どういうこと、これ?オレは思わず、みさき姉ちゃんに助けを求める。
「どうするって………」
 すると、みさき姉ちゃんも周りのお客さんの様子に気が付いたみたいだ。
「カオルちゃん、あんだけ大声あげれば、そりゃ、誰だって気になるって」
…………そりゃ、そうですね。オレはガックリと頭を下げた。
「で、どうするの?」
 みさき姉ちゃんが、また尋ねてきた。
……そりゃ、女湯には入れないでしょ………と今にも言おうとしたら、後の方で、酔っぱらいの親父が声を掛けてきた。
「なっさけねーなー、男のくせに、はずかしがりやがって」
 オレは思わず振り返る。なんてこと言うんだこのクソ親父!!
 見ると、身長2mくらいの酒に酔ったおっさんがそこにいた。正直、びびるオレ。
「そうだ、そうだ、ボウズ!恥ずかしがってんじゃねーぞ!!」
 すると、その横には体重百キロくらいの完全に酔っぱらったおっさんもいた。正直、マジ怖い。
 周囲のお客さんもなんか、好き勝手に言ってくる。
「そんな、ませたこという年じゃないだろ」……とか、
「男だか女だかわかんねーから安心しな、あんちゃん」……とか、
 みると、隣にあった食堂で宴会をやっていたおっさん達に一部始終見られていたらしい。
「そんな、にいちゃんが、嫌だってんなら、おじさんが代わりに女湯はいっちゃおうかな」
「ぎゃはははははは!!!」
 正直、あまりの怖さに涙がちょこっと出てしまった。
 すると、みさき姉ちゃんが、ものすごく冷静な声でオレに話し掛けた。
「ねえ、カオルちゃん………あのおじさん達と、一時間以上ここでまってるの?」
「……………いやです」
「だよね………はい、きまり」
 みさき姉ちゃんはそういうと、右手で三人分のロッカーの鍵を一掴み、左手でオレの右手を握り締めると、ずかずかと女湯に入っていった。
 すると、後の方から「いいぞーボウズ、うらやましい!!」とか「オレも、小学生にもどりたーい」とか、
今まで聞いたことのないような太い声でおやじ達が声援をおくってきた。
 オレは心の中でそのおやじ達の声援に応える。
………おまえら、みんな、シネ!!!
右見ると、オッパイ………左を見ると、オッパイ………前を見ても、オッパイ………後ろを見ても、オッパイ………ここは多分オッパイ地獄だ。
オレは地蔵の様に固まりながら、みさき姉ちゃんに尋ねてみた。
「なんで、オレ達の周りだけ、こんなに人が多いの?」
 するとみさき姉ちゃんはため息付きながら言った。
「そりゃ、あんだけ大騒ぎすりゃ、誰だって気になるでしょ……ってか、カオルちゃんさっさと脱ぎなさいよ。往生際悪い」
「だって、だって、みんな見てるジャン」
 ごめん、ちょっと泣声になっちゃったかも………
「気にしすぎ………ってか、ついこないだまで平気だったでしょ」
 みさき姉ちゃんちゃんはヤレヤレといった感じでそう答える。
「カオルちゃん、さっさと脱ぎなよ、男でしょ」
 そう言うと、さつきがスッポンポンで俺の前に立ちはだかる。
 なあ、さつき、従兄弟として……いや、学級委員として一言言っておきたい。お前は少しは隠せ!!!
 とりあえず心の中で言っておいた。
 そんなわけでオレは決心して、パーカーを脱ぐ。
 するとパーカーを頭から抜こうとモゴモゴともがいていると、背後に嫌な気配を感じた。
 ………まさかな。……いや、そのまさかだった。
「カオルちゃんスキアリ!!」
 さつきの大馬鹿野郎は、そう言うと、オレの………オレの………オレのズボンとパンツを………ゴメンちょっと涙が出てきた。
 ………さつきのアンポンタンはオレのズボンとパンツを一気に足首までひきずり下ろしやがっんだ。
 更衣室が笑い声でイッパイになる。
 オレは脱ぎかけのパーカーをそのままに固まってしまった。 ってか、周りが怖くてパーカーを頭から脱げないでいる。
 おまけに笑い声はクスクスとずーっと続いているし……
 そりゃ、そうだよな、チンチン丸出しにして顔だけすっぽりと隠してるんだもん。
 こういうのなんて言うんだったっけ………そうだ巾着みたいだ……とかいうんだよな。
 そりゃオレだって見たら笑うさ…………アハハハハハハ
 って、そこのお前、笑ってんじゃないよ!!!
オレがしばらくそのままで固まっていると、みさき姉ちゃんがパーカーを脱がしてくれた。
 小学四年生になったというのに、オレは正直、頭の中が真っ白になって一人で着替えが出来なくなっていたんだ。
 情けないとか言わないでくれよ、多分そう思っているお前だって、オレと同じ立場になったらきっと一人じゃ何も出来ないに決まってる。
 オレはみさき姉ちゃんにされるがままに脱がされてゆく。
 ………ああ、なんか昔やった着せ替え人形ごっこを思い出しちゃった。
 すると、なんか、鼻歌が聞こえてくるんだ。ふと気が付くと、みさき姉ちゃんがもの凄く嬉しそうな顔でオレの着替えをしていたのだ。
「も、も、もう、一人でするから!!」
 オレはなんとか、そう叫ぶとみさき姉ちゃんから回れ右をする。
「何をいまさらはずかしがってんのか」
 みさき姉ちゃんはそういうと、
「ま、私、先行っているから、早く来なさいねー」といってオレのお尻をペシペシと叩いてお風呂場に向かっていった。
 オレは正直、ほっとため息を付くと、そそくさと着替えを再開する………
と、なんか、こう、下半身に気配を感じるというか………オレは恐る恐る振り返ってみると、
さつきのアホタレが、しゃがんでオレの………オレの………もういわなくっていいだろ。わかるでしょ。
 とにかくしゃがんでまじまじと観察してやがったんだよ!!!そしたらさ………
「なーんだ、恥ずかしがってるから、少しは成長してるかと思ったら、全然成長してないのね………まあ、そりゃ恥ずかしいか」
 そういうと、ケラケラと笑いやがった。
 おまけにオレが固まっているのをいいことに、人差し指でオレの………オレの………オレの…………ってもういわなくっていいでしょ。
 とにかくオレを弾きやがったんだ。さつき、さつき、もう一回いや、何度だって言ってやるよ。
 シネ!シネ!!シネ!!!
と、とにかくさ、何とかオレは着ているものを全部抜いて、腰にはしっかりタオルを巻いてお風呂場に入っていったんだ。
 まあ、見ると、辺りは、おばあちゃんに、おばちゃんに、おねえちゃんに、おじょうちゃんに、おんなのこ………
そりゃ、ここは女湯だもん、女しかいないでやんの、アハハハハハハ。
で、オレ女湯で今、男一人。アハハハハハ。一人でいると………マジ心細い。
 気が付くと、オレは、さっきはあんなに邪魔者扱いしていたさつきとみさきお姉ちゃんを捜していた。
この前見た『母を訪ねて三千里のマルコ』みたいだ。
ってかさ、マルコっていいよね、オレマジカンドーしたもん。うん、って何いってんだろオレ………。
まあともかくさ、オレは必死で、ホントに必死でさつきとみさきお姉ちゃんを捜していたんだ。
っていっても声なんか上げられないし、ここのお風呂場はめちゃくちゃ広い上に、なんか湯気がもうもう立ってて、
ちょっと先は全然見えない.
まあそのせいで目立たないってのもあるんだけれど、こんなに心細い気持ちって、
幼稚園の時にデパートで迷子になった時以来だ………あのときは泣けばどうにかなったけれど
………今泣いたら…………この先何を言われるかわかったもんじゃない。
マジ、オレ、ピンチ!!!
すると、やっとお風呂の中を一回りして、見つけたんだ。
さつきとみさき姉ちゃん。そしたらさ、どこにいたと思う?
 さつきとみさき姉ちゃんは露天風呂にいました。
よかった、よかった………って全然よくねーよ!!!
 あのね、露天風呂ってお外でしょ。お外だとね湯気がもわもわしてないの
………つーか、すっげー遠くまでよく見えるの………ってか丸見えじゃん。
オレそこ行ったら、丸見えじゃん。すごい遠くから、あ、あそこに男の子がいるねーとか言われちゃうじゃん。
オレは考えた。めちゃくちゃ考えた。こんなに考えたのは、二年前にオネショしてどうしようか布団の前で考えた時以来だ。
……なに、そこのお前笑ってんだよ。オレはとっても真剣なんだよ!!!
 ちなみに、二年前の答えは、とにかく素直になったもん勝ち。
 オレは素直にお父さんとお母さんに謝ったら、意外とあっさり許してくれた。
 そう、素直に………素直に………素直に………オレは素直に二人の前に歩いていった。
「あら、カオルちゃん遅かったわねー」
 みさき姉ちゃんがのんびりと気持ちよさそうに言った。
 人の気持ちもわからないくせに。
「カオルちゃん、はやく入ろ、入ろ」
 さつきが手を振って誘ってくる。とにかく、ここでずーっと立ってるわけにもいかないし、
オレは二人に誘われて露天風呂に入ってみた………って、なんかいいな、これ。お湯がじんわり温かくってさ、
体がなんかトロトロになってきて………。
 するといきなり、みさき姉ちゃんがオレの腰に巻いていたタオルをむんずとはぎ取った。
「な、なにすんだよ!」オレは言った。
 すると、みさき姉ちゃんははぎ取ったタオルをオレの頭に乗っけた。
「なにすんだじゃないでしょ。お風呂に入った時はタオルちゃんとはずしなさいよ!!」
「あ、そ、そうだよね………ごめんなさい………」
 オレはそんな当たり前のこともわからなくなっていた。それはそれで、ちょっと恥ずかしい。
 まあ、とにかくお風呂に入っていると、意外とみんなオレのことなんて誰も見ていなくって
………一人で空回りしてなんか馬鹿みたいだ。ちょっと反省。
しばらくのんびり入っていると、みさき姉ちゃんが話し掛けてきた。
「ねえ、カオルちゃん、私たちこれから体洗うんだけれど、一緒に来る?」
「はい、いきます」
 だってそうだろ、こんな露天風呂で一人っきりになれないじゃん。
とにかくオレはここにいる間は何があってもこの二人から離れないと決めたんだ。
 オレ達は洗い場に来ると、仲良く三人並んでシャワーの前に座った。
右からみさき姉ちゃん、オレ、さつきっていう順番だ。とりあえずオレ達は頭を洗い始めた。
正直オレは自分の家以外では頭を洗うってのはちょっと苦手だ。
だってそうじゃん、全然知らない場所で目をつむるんだぜ、ちょっとこわいよね。
ともかくオレはソッコーで頭を洗い終えると、タオルにボディーソープを付けて体を洗い始めたんだ。
そしたらさ、みさき姉ちゃんが声を掛けてきた。
「ねえ、カオルちゃん。タオル貸しなさいよ、背中洗ってあげるから」
 オレは素直に頷く。もう、ここでは素直になることが一番だと思う。
 すると、さつきも声を掛けてきた。
「あ、じゃあ、カオルちゃん、私の背中も洗ってよ」
………ずうずうしい、まあいいか。オレはさっさと、さつきからタオルを取ると、ボディーソープを沢山付けて背中をゴシゴシ洗ってやった。
すると同時にみさき姉ちゃんがオレの背中を洗ってくれる。
なんかテレビでこんなシーンをみたことあったなー。
って、やっぱしみんなでお風呂にはいって良かったのかも………そんなことをオレは思い始めた。
すると、みさき姉ちゃんからリクエストが来た。
「じゃあ、カオルちゃん、私の背中も洗ってよ」
「うん、わかった」
 オレは素直に返事をした。そうしてみさき姉ちゃんからタオルを借りると、みんな同時に回れ右。
 オレは両手を使ってみさき姉ちゃんの背中をゴシゴシ洗う。
 すると、今度はさつきがオレの背中を洗って来た。
 ………んーもしかして、オレの位置ってお得なのかな。オレはそんなことを思いながらみさき姉ちゃんの背中をゴシゴシ洗う。
 そういや、以前は一緒にお風呂に入ったときは、オレがみさき姉ちゃんの背中あらったんだよなー。
 オレはそんなことを考える。ってか、それ以外のことは考えないことにする。
 だってさ、みさき姉ちゃんの背中って、なんか、妙にやわらかいんだもん…………。
 オレは集中して背中を洗うことを考え続ける………と、二ヶ月前の生活の授業を思い出してしまった。
「卵子と精子がほにゃららで…………」
 担任の間抜けな声が聞こえてくる。なんでこんなところで、あの授業のこと思い出すんだよ、オレ!
 そうだよ、正直に言うよ。この前やった、『性教育』とか言う授業を聞いてから、ソレまで全然気にしてなかったのに………その………あの………まあ、わかるでしょ。
 とにかく、それが気になるようになっちゃったんだよ!!!文句あるかよ!!!だから、みさき姉ちゃんとかと一緒にお風呂に入り無くなかったんだよ!!!
 オレは集中して、ホントに余計なことは考えずに、純粋な気持ちで、みさき姉ちゃんの背中を洗うことに集中する。
 と、なんでか、さつきの顔が、オレの顔の横にあった。で何でか、オレのお腹の下あたりをまじまじと見てみる。
 オレもとりあえず、オレのをまじまじと見てみる………と………あっ!
 すると、大馬鹿野郎のさつき様は、みんなに聞こえるように言ってくれました。
「みてみて、みさきちゃん。カオルちゃんのおちんちん、おっきくなってるぅー!!」
さつきのアンポンタンが男湯まで聞こえそうな大声で叫んだくれたお陰で、オレはそのまま固まっちゃった。
 ………えーっとこういうのを……そうそう、フリーズって言うんだよね。
オレの家にもパソコンがやって来たんで、そう言う言葉知るようになったんだ。
で、そういう時って、………たしか、【こんとろーる】と【あると】と【でりーと】っていうのを押すといいんだよ。
結構物知りだろオレって。だからさ、オレもフリーズしたからオレの体の【コントロール】と【あると】と【でりーと】を………
ってあるわけねーだろ!!!さつきのバカ!!!
 オレは情けないことに、そのままホントに動けなくなっちゃったんだ。おまけに周りの人からもジロジロ見られているみたいで何だかヒソヒソと話し声が聞こえてくる。
もう、穴があったら入りたい………
 するとみさき姉ちゃんがオレの方を振り向いたんだ。
 オレは唇と噛み締めてもう覚悟した。
きっとみさき姉ちゃんはおれに向かって「やらしいわね」とか、「なに子供のくせに」とか「ちんちんたててバカじゃない」とかそう言うこと行ってくるもんだと思ってたんだ。
だって、そうだろ、それ以外かんがえられないじゃないか。
背中を洗って………その、あ、あそこを大きくしてるなんて………情けない。
そしたらさ、みさき姉ちゃんはオレの頭をポンポンと叩いてさ、「男の子なんだから、気にしない、気にしない」
って言ってくれたんだ。その上、「背中洗ってくれてありがとうね」って………
 オレ、どんなにマシでも、笑われる事ぐらいは覚悟してたのに、そんな風に言ってくるだなんて
………反則だよ、みさき姉ちゃん。
もういいや、正直言うよ。オレ情けないけど、泣いちゃったんだ。
だってそうだろ、絶対に怒られると思ってたときにさ、優しい言葉掛けられちゃうと泣いちゃう時ってあるじゃん
……ちょっと間抜けな場所だけど。
 そしたらさ、みさき姉ちゃん……いきなりさ、「じゃあ、今度は私がカオルちゃんのお顔洗ってあげるね」
って言ってオレの持っていたタオルを手にとって、オレの顔を洗ってくれたんだ。
オレは俯いたままみさき姉ちゃんの顔は見てなかったんだけれど、絶対オレが泣いているのに気付いてそうやってくれたんだと思う。
だって、オレ、その時、肩も震えてたんだもん。オレはうんうんと頷きながら、みさき姉ちゃんに顔を洗ってもらってさ
………で、直ぐにシャワーで洗い流してもらった。そこまでされたら、オレだって男だもん、「うんありがとうね」ってちゃんといったさ
………それなのに、さつきのバカは………
「アレーっかしいな……カオルちゃんのおちんちん、またちっちゃくなっちゃったよ?ヘンなの?」
っていいながら、人差し指で突っついてきたんだ。
 なあ、さつきさ、オレ、この前、新しく憶えた言葉があるんだよ。それをさ、そっくりそのままお前に言ってあげるよ。

みさき姉ちゃんの爪の垢でも煎じて飲め!!!このバカ!!
あたりからまたクスクスとした笑い声が聞こえてくる。
オレはやっと立ち直り掛けたってのに、また固まっちゃったんだ。
そしたらさ、さすがにみさき姉ちゃんも、さつきのアホタレに言ってくれて………
「さつき、アンタそういうこというんじゃないの!カオルちゃんが可哀相でしょ!」って。
すると、さつきの奴、ホントにキョトンとした顔してさ、みさき姉ちゃんに質問してきたんだ。
「なんで、なんで、なんで?なんでカオルちゃんに悪いの?だってさ、みんな体がおっきくなると、
ほめるじゃん。だから私もかおるちゃん褒めたのに………なんか感じわるーい」だって………
「いや、だってさ、さつき」
 みさき姉ちゃんが、もごもごと言い辛そうにしていると、さらにみさきの奴は、
「だいたい、そんな、へんちくりんなシッポみたいな奴、おっきくなろうがちっちゃくなろうが関係ないじゃん、なんかみんな気にしてバッカじゃないの!」
ってプリプリしながらほっぺたを膨らませたんだ。
 オレとみさき姉ちゃんは、顔を見合わせながら二人で?マークを浮べていた。
……おい、さつき、だってオレ達、学校でちゃんと教わったじゃん。男のここって………
ほら、しっぽじゃないし………大切なとこじゃん………って思ったところでオレは思い出した。
そういや、こいつ、春先に季節外れのインフルエンザにかかったことあったっけ………
で、………たしか、その時に例の授業したんだっけか………オレはそんなことを思いながら、さつきに質問をした。
「なあ、さつき、おまえさ、赤ちゃんってどうやって出来るか知ってる」
ふとみると、みさき姉ちゃんも興味しんしんって感じでさつきの奴を見ていた。
そうしたらさ、さつきのやつ、おもいっきり胸を張って大いばり。相変わらず、タオルでどこも隠していない。
いくら幼なじみっていっても、さすがに目のやり場にって奴に困ってしまう。
「コウノトリが運んでくるにきまってんじゃん」
うわっ、思いっきり言い切ったよ、このアホタレ。
正直、ドンビキのオレとみさき姉ちゃん。
すると、二人の顔をみてさつきの奴はケラケラと笑い始めた。
「冗談よ、冗談、なに本気にしてんのよ」
そう言って、またオレの肩をばんばんと叩いてくる。
………いや、裸なんだからホントに痛いよさつき。
と、その反動でオレの左手首にはめていたロッカーの鍵がスポッと抜けた。
どうもさっきから、ゆるゆるだったと思ったんだけれど………
オレはしゃがんでその鍵を拾うと、みさき姉ちゃんが心配そうに言った。
「ねえ、カオルちゃん、それなくしちゃうと大変だから、私あずかってよっか?」
オレはこの鍵をなくしたことを考えてみた
………すっぽんぽんで家に帰るのか???
一気に背筋に寒気がゾワソワってきた。すぐにオレはみさき姉ちゃんに鍵を渡す。
「う、うん、あずかっといて」
「わかった」そういって鍵を預かるみさき姉ちゃん。
と、相変わらず、ニコニコと無邪気に笑っているさつきに目をやりもう一回話し掛ける。
「じょ、冗談だったんだよな……さっきの」
「あたりまえよー」とすっごい笑顔でさつきは言った。
「だ、だよなー」とオレ。「だ、だよねー」とみさき姉ちゃん。
すると、さつきは大股開きで胸を張って………いや、だからさ、少しは隠せよ、おまえ………
「赤ちゃんってのはね、赤ちゃんポストに入ってくるの!!この前テレビでみたもん!!」
「赤ちゃんポスト!!!」
声を上げるオレとみさき姉ちゃん。
「そう、赤ちゃんポスト。病院にあるのよ。でね、結婚して真面目に夫婦生活をすると
国から赤ちゃん引き取ってもいいですよっていう許可が出て、で『里子の家』ってところ
から赤ちゃんをもらうの。この前見ていたテレビで知ったのよ!!カオルちゃんも知ってるの?」
目が点のオレとみさき姉ちゃん。こいつ、ものすごく器用に勘違いしてやがったよ………
すると、みさき姉ちゃんがこわごわって感じでさつきに尋ねた。
「ねえ、さつき、そのテレビって最初からみたの?」
「いや、途中から……だってアニメ見終わってチャンネル回したらやってたんだもん」
そういうと、テレテレと頭を掻いている、このおばかさん。
思わず、顔を見合わせて苦笑いするオレとみさき姉ちゃん。……ってか、みさき姉ちゃんも、苦笑いしてないで、そう言うことはちゃんと教えてやんなきゃだめじゃん。
ってことは、あれかな……さっきから、さつきに言われたことや、いじられたことってのは、何にも知らない
赤ちゃんにされたと思えばいいことか………ま、そうおもえば、どうってことないや、正直そんなことで
いちいち怒ったり落ち込んだりしてたのがバカみたいだ。
オレは、ため息をついたあと、あははははと苦笑い。そうして、ポンポンとさつきの頭を撫でてやった。
「うん、ありがとうな、さつき、さっきはほめてくれてさ」
「うん」
思いっきり嬉しそうに頷くさつき。肩の力がガクーーって抜けた。みると、みさき姉ちゃんも半笑い。
そうしてオレ達はまた体を洗い始めたんだ。
すると、みんなで体を洗い終えるとみさき姉ちゃんはオレに話し掛けてきた。
「ねえ、カオルちゃん。この後どうするの?」
「どうするって………」
オレは辺りをキョロキョロ見渡す。
なんだか、周りのお客さんがオレ達のことを、また見ていた。
「な、な、なんで?」
オレは驚きながらみさき姉ちゃんに尋ねた。
「いや、ほら、だって………さつきがさ」
そういうと、気まずそうにさつきを見る。
………ああ、また、こいつのせいか。
まったく、自分のせいだと思ってなさそうに笑いかけてくるさつき。
「なんか、私たち人気者だね………アハハハハハ」
オレはもう、諦めもついたのか、怒る気持ちもなくしてため息を付いた。
「で、どうするの?」
みさき姉ちゃんが、また尋ねてきた。
「んー、みさき姉ちゃん達は?」
「私たちは、やっぱしせっかくなんでサウナに入りたいし………」
そういうと、気まずそうにオレの方を見た。すると………
「サウナーサウナーサウナー!!!あのね、カオルちゃん、サウナ入って水風呂入って、サウナ入って水風呂入って、
もう一回サウナ入って、水風呂はいると、お肌がツルツルになるのよー!!!」
とすっごい嬉しそうに話し掛けてくるさつき。こういうところはやっぱし女の子なのかなー……とか思ってしまった。
多分、オレがもうお風呂から出たいって言ったら、みさき姉ちゃんのことだ。きっと一緒に上がってくれるんだろう。
……でも、もういいや、なんか、そんなこと気にしてんの馬鹿馬鹿しく思ってきた。
「みさき姉ちゃん達はサウナ言ってくればいいじゃん。オレは………」
そういうと、再び辺りをキョロキョロ見回す………相変わらず見てるな………オレ達を、やっぱりちょっと
強がりだったかな。ほんの少し後悔しながら答えに詰まってしまった。
「じゃ、じゃあ、カオルちゃん、あのさ、露天風呂の後の方にさ、休憩所と足湯のコーナーがあるんだけれど……」
「………そんな場所あったっけ?」
「うん、露天風呂の岩に隠れてよく見えないから、誰もいないんだけれど、そこだったら、誰にも見られないで
ゆっくり出来るかなー………なんて」
そういうと、みさき姉ちゃんは申し訳なさそうにオレに言った。
「そ、そうなんだ、じゃあ、オレ、そこ行ってようかな………」
すると、さつきが不満そうに言ってきた。
「えー、カオルちゃんも一緒にサウナに入ろうよーつるっつるになるのにー」
本当に残念そうに言ってくる。オレさつきのそんな顔を見ていたら、おもわず笑ってしまった。
ほんとにコイツ悪気はなかったんだなーって、なんかさ、同じ年なんだけれど、妹を見ているような気になってきちゃったよ。オレ。
「いいじゃん、ゆっくり入ってこいよ、オレはさ、みさき姉ちゃんが言ってたところに行くから」
「ちぇー」とつまらなさそうにさつきは言った。
「じゃあ、かおるちゃん………」
「うん、オレ、そっちに言ってくるから、サウナ終わったら教えてよ、多分ずーっとそこにいるから」
そういうと、ニッコリ笑うオレ、うん、なかなかの大人じゃん。
「じゃ、じゃあ、カオルちゃん。サウナ終わったら呼びに行くから、あそこで待っててね」
そういうとみさき姉ちゃんはすまなさそうに頭を下げた。
「いいよ、いいよ、ゆっくりしてきなよ」
オレはそんなことをいいながら、早足で露天風呂の裏にある足湯のコーナーに行った。
オレは、ちょこっとは周りの視線を気にしながら、早足で足湯のコーナーに着いた。
たしかにここはお客さんは誰もいない………ってかこんな場所あったんだ……いや、ほら、男湯と女湯、
同じ作りだったんで、男湯にもきっとあるんだろうなーって思ってさ……
ほんとに、驚くくらい誰もいない。オレはのんびりと足湯に浸かりながらパチャパチャ、体が冷たくなったら、
露天風呂の様子を覗いて、目立たないように隅っこの方でお湯に浸かっていた。
まだ、当分みさき姉ちゃんとさつきはこなさそうにないなー………ってわけで、ちょっと暇なんで
オレの町の紹介なんかをしてみたいと思う。

オレの住んでいる町は’武蔵多摩市’って言うんだ。
場所は東京のど真ん中!!!って言っても、あのビルがたくさんある東京のど真ん中じゃなくって
あくまでも地理的にど真ん中なのね…………東京以外の人は知らないかも知れないけれど、東京って
結構細長いんだぜ。まあ、そんなわけで、東京以外の人がオレの町に来ると大体びっくりする。
「えーっ、東京のど真ん中って聞いたのに、どこ、ここ!?」ってさ。
そりゃまあ、いまだに、狸もウサギもイタチも出るような場所だし………ビルなんか駅前にチョロチョロだし……
この前はじめて家に来た、遠い親戚のおじさんなんて
「なーんだ、オレの町より田舎だな、ここは」だってさ………まったく失礼な話だぜ!!
ま、そんなことはともかくさ、オレの住んでいる町にはど真ん中に多摩川が流れてるんだ。
で、その北側が’北多摩地区’って言ってわりかし新しい町なの。なんでも今から30年くらい前にさ
東京で新しい住宅地を作ろうってんで出来た町なんだってさ。たしか………なんとかニュータウン計画
とか言ってたな。………ごめん、まだそこ社会科でならってないんだ。
で、オレが住んでいる場所ってのは、多摩川の南側で’南多摩地区’っていうんだ。なんでも江戸時代から
ある、町で昔のお侍さんとか有名な人が結構いたみたい………ごめん、そこもまだ、社会科でならってないんだ。
でね、その30年くらい前に、北多摩村と南多摩町ってのが合体して、今の武蔵多摩市ってのになったんだよ。
ここは、この前ちゃんと社会科でならったから、はっきり言える。………エッヘン!!
で、なんでか、オレの町、昔っからスッゲーサッカーが盛んで、ほとんどの奴がサッカークラブに入っているんだ。
そんな訳で、オレが入っているチームは’AC南多摩!!’格好いいだろ。
正式な名前は、た、た、たしか………あそしえーしょん、かるちょ、南多摩………良し、言えた!
いや、ちゃんと言えないと先輩にスッゲー怒られるんだよ。マジマジ。ちなみに’かるちょ’ってサッカーのことな!
なんでも、その昔………昔っていっても、この町が市になるちょっと前、35年前なんだけれどね。……いや、ちゃんと
出来た年を言えないと、監督とか先輩が怒るんだよ………マジマジってなんかへんなの。
まあいいや、で、35年前にイタリア人神父さんの’あんちぇろってぃー’さんってのが、ボランティアで少年サッカーチームを作ったんだよ。
で、なんか、その神父さんの生まれた町にあるチームからとって、あそしえーしょん、かるちょ……なんだってさ、
まあ、なんとなく格好いいからいいや。
で、ほんとなら、今日練習試合で戦う予定だったチームってのが、先輩や監督が言っている、なんか、しゅくてきのらいばる
って言うチームで、正式な名前が、いんたーなしょなる北多摩ふっとぼーるくらぶっていうの………なんかずいぶんと
大袈裟な名前だけれど、これも普通の町のサッカーチームだよ。
で、このインター北多摩ってのはもともとはオレ達のチームだったんだけれど、30年くらい前に川の向こうに団地が沢山
出来てさ、で、いきなり子供が沢山増えちゃったんだよ。で、オレのチームだけだと、人数が増え過ぎちゃったってことで
川の向こうに、オレのチームから別れてできたんだってさ………とこれが一応、えーっと、なんていうんだっけ……・……
確か………おもてむき……?でいいんだよな。うん。そう表向きの理由。………で、ホントのところは、その当時の監督さん
で、たしか………かぺっろ神父さんっていったっけな、あ、これもイタリア人ね。うん、かぺっろ神父がさ南多摩の子供だけ
えこひいきしてレギュラーにして北多摩の子を試合に全然出さなかったんだって、で、向こうの子供の親が怒って、作った
ってのが、ホントの理由らしい。で、向こうのお父さん達がチームを作るときに、みんなに分け隔て無く平等にってんで
いんたーなしょなる………国際的っていうんだってね。で、いんたーなしょなる北多摩ふっとぼーるクラブって付けたらしい。
まあ、みんなは、インター北多摩、もしくは北多摩FCって言ってる。そんなわけで、この二チーム、想像通りめちゃくちゃ仲が悪いの………そりゃ、そうだよね、出来た理由が仲間割れ何だもん。
……仲が良かったら逆にヘンだよ。で、このインター北多摩とAC南多摩……あ、俺たちはえーしーなんたまって
読んでるんだけれどね、この2チームの試合を’多摩川デルビー’っていうんだってさ。
……ん?’多摩川ダービー’の間違いじゃないかって………いや、同じ町同士のチームで戦うことをダービーっていうのは
知ってるんだね………いや、なんでか、その名付けおやってのが、かぺっろ神父のあとに来た、サッキ神父……なんでも
オレの町にある教会、本家がイタリアにあるらしくって、何年かに一度かわるんだよね……そんなもんなんだ、おれよく分かんない
けれど………まあ、ともかく、そのサッキ神父ってのが、「ダービーはイタリア語でデルビーです。皆さんもそう言いましょう」
とかいったんで、そう言う風になっちゃった。……まあどうでもいいや。
ま、そんなことよりさ、聞いてよ、オレさ、この前監督からさ
「今度の練習試合。先発で行くからな」って言われたんだ。
ちょーうれしい!!!
そりゃ、4年生だからさ、Aチームって訳じゃないけれど、その下3.4年生が中心のBチーム……でも先発は先発さ。
なんてったって、ここまでくるのに2年もかかったんだよ。
オレの自慢話もうちょっと聞いてくれよ。
オレさ、最初はリフティング5回しか出来なかったのに、練習終わったあともずーっと残って、今ではオレのチームで
一番リフティングがうまくなったんだぜ。それだけじゃないんだ。ドリブルだって、ときたまでもAチームの先輩達を
抜けることだってあるんだよ。マジデ練習スッゲーたくさんしたんだよ!!
でさ、本当なら今日やる予定の試合で活躍したら、夏の大会のレギュラーだった夢じゃなかったんだ………まあちょっと
のびちゃったけれどな。

………あ、なんか、さつきの奴がキョロキョロしながらこっちにやって来た。もうサウナ終わったのかな。
オレが手を挙げて、さつきに声を掛けようとした瞬間…………逆の方から声が聞こえた
「おおーさつきじゃーん」
………なにっ!!!!
オレは反射的に体を隠す。
……って誰だ!さつきの名前の呼んだのは………見ると、さつきの後から、女の子が何人かやって来た。
その先頭にいるのは………間違いない………「アニキ」だ!!!
その瞬間オレの体の血が一気に引くのを感じた。
いや、’アニキ’っていってもオレのアニキじゃないぞ。オレは一人っ子だからな。
「アニキ」っていうあだ名の奴だ。……いや、奴だなんて失礼にあたる。「アニキ」っていうあだ名の方です。
’アニキ’の本名は西園寺貴子……我がAC南多摩の女子Bチームのキャプテン。またの名を「鉄の女」
女子だけじゃなく男子からもアニキってしたわれている。すっげープレイヤーだ。
とくに、試合を最後まで諦めない根性は、女にしておくのがもったいないくらい。伝説はたくさんあるけれど、
その中でもとびっきりなのは、この前の春の大会で、すっげー卑怯なスライディングを喰らって、足怪我したのよ。
で、審判が「治療の為にピッチの外に出なさい」っていったの。そしてらアニキったら、「ゴン中山はな、足が折れたって
サッカーしたんだよ!!」って審判に食ってかかって、腰抜かさせちゃいやんの………まあ、審判は結構なおじいちゃん
だったんだけれどね。で、逆にスライディングした奴を、睨み付けて泣かしちゃいやんの………マジありえねー。
なんでも、有名なLリーグの下部チームからスカウトが来たらしいんだけれど、それを………
「私には、このガールズとボーイズに教えることがたくさんある!!!」とか言って断っちゃいやんの………まじかっこいいっす。
おれもいつかはアニキみたいな立派な男に………やばい、冗談ですから……
ってかさ、男子の酷い奴は、
「あいつ、絶対チンコ持ってるよ、それもとびきりでかくて太い奴をな……」
って言ってげらげら笑っていた奴がいたんだけれど………そのあと、アニキのファンにチクられて、ぼこぼこにされてたな………ご愁傷様っと。
で…………んー、ちょっと気になる。………なにがって…………まあ、言われなくてもわかるじゃん。
ってわけで、オレは、アニキには済まないと思いつつ、岩の陰から覗いてみたら。
………あはははは、やっぱしチンコなんて付いているわけねーじゃん………ばれたら殺されるな……オレ
つーか、その隣にいるのが、よく見たら………早坂さくら!!!!!
ゴメン、ホントに気分悪くなってきた。
つーか妙に背の高いスタイルのいい奴だと思ったら、髪の毛ほどいてたんでわからなかった。
早坂さくら、………わがAC南多摩女子部のフォワード………オレと同じ4年生でAチームの試合に出たこともある
とんでもない奴………ついたあだ名が、ラ・ボンバ・サクラ。またの名を爆弾娘……つーかオレらの仲では血染めのツインテールのほうが有名かな。
得意な技は、後先考えないダイビングヘッド………シャレになってないっす。
ってかさ、前月の話なんだけれど、女子部と試合やったんですよ………で、俺たち市内でもそこそこ強いんですよ。毎回優勝候補にあげられるんだもん。
でもね、試合の結果は5-0いわゆつ……チンチンにされちゃった……ってやつ。
そこのお前、笑うなよ。よく思い出してみろよ。俺たちの年の頃って、女子のほうが腕力も体力もつえーじゃん。……っだろ、っだろ。
でね、あの、さくらにハットトリック決められちゃった………
ってかさ、練習なのに、試合開始早々ポストに頭ぶつけて血が出てるんだから、止めろよ、ってか周りも止めさせろよ。
それなのに、あいつ、血流しながらダイビングヘッド決めてくるんだもん。うちのチームのDFもGKもびびってなんにも
出来なかったんだぜ………ってか、ボール見ると見境無いんだよ。あれ………。おまけにトレードマークのツインテールから
血がとびちってんだぜ………ちょっと、トラ………虎………そう、とらうまになっちゃったよ。
ん………ちょっと待てよ、あの二人がいるってことは………オレはみたび恐る恐る岩場から覗いてみると……………
やっぱしいた………葉月ちゃん………ってか、なんでいるのよ。……かんべんしてよ。
山瀬葉月ちゃん………アニキの幼なじみでしょっちゅう一緒にいる。
まあ、サッカーチームには入ってないけれど、よくオレのチームの応援に来てくれてさ……
あ、そうそう、アニキも葉月ちゃんもオレと同じクラスね。言い忘れてたけれど。
ちなみに早坂は隣のクラスです。
でね、葉月ちゃん、よくオレのチームに応援に来てくれるんだけれど………はい、正直に言います。一目惚れでした。
なに、そこのお前、ニヤニヤしてるんだよ。そりゃ、オレだって、好きな奴くらいはいるさ。
……だって、男の子なんだもん。
わりいかよ!!!あ、別に悪くない………ま、まあそんならいいんだけれどね。
オレはそんなことを思いながら、本当に悪いとおもいつつ、もう一回岩場から覗いてみる。………ごめんなさい。
「……………………………………………………………………………」
まあ、何も言わないでくれ。
さ、どうしよっかなーーー、冷静に考えてみて今おれ、ピンチじゃん。オレは岩場の陰に隠れて、耳を澄ませている。するとアニキが………
「なあ、さつき、おまえ誰ときてるんだよ」
「………んー、お姉ちゃんと従兄弟」
オレは温泉に入っているのに、背中に冷や汗が流れてきた。バカ、バカ、バカ、何正直にいってんだよ!!!
このアンポンタン。オレは今にでもさつきの前に出て行って頭を叩いてやりたかったけれど、ぐっと我慢……ってか
でてったら死ぬって………アハハハハ。
「へー、ねえちゃんと、いとこか」
「貴子ちゃんは?」
「私はさくらと葉月。母さんがいま、中にいるけれどね」
………あれ、アニキが突っ込んでこない。………?
「へー、あいかわらず、貴子ちゃん達、仲がいいのねー」
「うん、昨日の試合で活躍したんで、お母さんがご褒美に温泉に連れてきてくれたんだ」
………あれは、活躍なんてもんじゃないだろ、アニキ…………
試合を支配するっていうか、征服するっていうか……相手チームが可哀相になってきたぞ。………まあそんな感じだ。
「へー、女子の試合って昨日だったの?」
「うん、だって、全部で8試合あるんだもん。女子のA,B,Cと男子のA,B,Cあと一般男子と一般女子
そりゃ一日で出来ないって」
「へー、そうなんだ」
「ところで、一ノ瀬おまえ、知ってたか」
爆弾娘がなんか言い出した。
「………なに?」
「今、女湯に男がいるらしいぞ」
………血の気がさーっと引く俺。
「…………へ、へーー、そうなんだ」
オレは心の中で願った。頼むさつき、うまく誤魔化してくれ。
「ぜんぜん気が付かなかったよ」
さつきは言った。オレは岩の陰でガッツポーズ。なあ、さつき、やっぱしプリン山ほどやるぞ。マジ感謝。
「ああ、間違いない。なんか、チンコがでっかくなったとか、男の子なんだから………とかそんな声が聞こえたんだ」
鳥肌が立つような声で話すアニキ。やべー、チンコがちじこまってるよオレ。
「へ、へーーーー、知らなかった」
オレは今、岩場の陰で祈ってます。
「ってかさ、さっき、後ろ姿なんだけれど、こう、腰にタオル巻いた子があるいてた」
葉月ちゃんがおどおどしながら言った。
ごめん葉月ちゃん、キミを怖がらせるつもりなんて、ホントまったく無かったんだ。
オレは岩場の陰から頭を下げた。
ってか、そうだよな、女の子って腰にタオル巻かないで胸から垂らしてるんだもんな。
腰にタオル巻いたら、遠くから直ぐにわかるじゃん。
「………こわいね」と早坂が、
「うん、ちょっと……いや、かなりヤダな」とアニキが、
「…………もう、出ようかな」と葉月ちゃんが
……………ずるいオレは正直思った。できたら、このままでてって下さい。
「やだよ、はづき、、さっき来たばっかじゃん。ってかさ、ここの足湯って筋肉痛にはスッゲー効くんだよ」
…………………なんだってー!!!!!!!オレは声を上げるのを必死で我慢した。
なに、みなさん、ここに来るの、ちょっとまってよ。
さつきお前どうにかしろ!!!
「あ、あのさ、貴子ちゃん、おねえちゃんにあってみない?ほら、みんなのこと紹介したいし」
さつきーーーー、マジエライ、ゴメン、ちょっと、天使に見えちゃってるよ。
ゴメンなー、さっきまで、あんなひどいこといってさ、わかった、今度給食でゼリーが出たら……
いや。お前が欲しいものがあったら、何でもやるよ。ほんとすまないねー。
オレは岩場の陰から覗いてみると、さつきがアニキの手を引っ張って、お風呂場の中に行こうとしている。オレはタオルを
胸から垂らし………まあ、ちんちんはちょっと見えちゃってるけれど気にしない!!!!
そそくさと露天風呂にうまくはいった。よし!!!
で、気が付かないように顔まで半分までしっかり浸かって、アニキ達の動きを見ている。ちょっとでも陰に隠れたら。
駆け足で温泉からでてってやる。オレは頭の中で、その時の予測をしてみる。まず、更衣室に出たら、着替えを全部持って
トイレに駆け込んでそこで着替えて………着替えて………着替えるには………鍵が……………あああああああああ!!
オレは露天風呂に顔半分まで浸かって、ふと、前に見たドラマのことを思い出していた。
「タイムマシンがあったら未来に行く?それとも過去に行く?」
ヒロインが主人公に言ったんだ。
「僕は過去に行くよ」
 そのドラマで主人公がそう言ったのを憶えてる。
子供のオレは、主人公のそんな気持ちはまったくわからず、
「過去をやり直すなんてつまんないジャン、やっぱり行くなら未来だよ!」
と大声で言って、お母さんを笑わせたのを憶えている。
ついこの間の話だ。
だけど、今、オレはその主人公の気持ちがやっとわかった。
もし、今、オレの目の前にタイムマシンがあったら………うん、オレもやっぱり過去に行くよ。そうして二時間前の自分に言ってやるんだ。
「今日はどこにも行かないで一日中家の中にいろ!!」って………
 四二度の温泉の中、オレは顔半分までお湯に浸かってそんなことを思っていた。
やべーちょっと、頭がくらくらしてきた。
すると、さつきが駆け足で露天風呂にやって来た。
「かおるちゃん、ちょっと何やってんの、早くでなさいよ」
ああ、そうか、さつき、やっぱりお前は、オレを助けようとしてくれてたんだ。
正直、さっきとは別の意味で涙が出ていた。
オレはべそをかきながら正直に言った。
「か、鍵が…………」
その一言で直ぐにわかったみたいだ。さつきは普段ケラケラしている顔からは想像付かないくらいの
ガックリとした顔でおちこんだ。
「………ばか」
「……………」
何も言えない。
やばい、ホントに頭がくらくらしてきた、なにか、さつきに話さないと。
「そう言えば、さつき、さっき従兄弟ときているっていったじゃん。おれスゲービビったよ」
なんか、口がうまくまわんない。
「大丈夫よ、ふつうイトコっていったら、女の子だとおもうから」
こう見えてもコイツ意外と漢字に強いんだ。結構、本とか読んでいるみたいで…………
もう、何考えてるんだよ、
「ごめん、さつき、もうのぼせそう、とにかくいったん出る」
「わかったわ、なんとかお姉ちゃんから鍵もらってくるから」
「…………ありがとう」
オレはこれ以上ないくらいに素直に頭を下げた。
「じゃあ、さっきの場所で待っててね」
そういうと、さつきはまた、早足で、お風呂場に向かっていった。
オレはフラフラになりながら、なんとか、足湯の場所にたどり着く。
そうして、足湯のベンチに腰掛けると、目の前が暗くなって………………
「…………るちゃん」
「…………ん?」
「………おるちゃん」
「………なに?」
「かおるちゃん!!!」
「………あ」
気付くと同時にさつきのビンタが飛んできた。
「イタイ!!」
「何ねてんのよ、あんたバカ?!!!」
「い、いや、寝てたんじゃなくって、のぼせて……」
「まあ、いいわ、ほら、カオルちゃん、鍵」
「あ……」
オレはそういうと念願のピンクの鍵がやっと手の中に戻ってきた。
最初に渡されたときは、ふざけんな、バッキャーローなんて思ってたのに、
今では、涙を流すくらいにありがたがるだなんて………………
ともかくオレはさつきから渡された鍵をしっかりとにぎりしめる。
すると………
「ねえ、かおるちゃん、お姉ちゃんがまだ、貴子ちゃん達を引き留めているから、洗い場を通って
更衣室に行ってね」
「…………う、うん」
オレはちょっと、頭の上に?が浮かんだような顔をした。
まだはっきりと頭が起ききってないらしい。
「だから、おねえちゃん、洗い場から離れたところで、貴子ちゃん達とはなしてるの!!!」
「あ…………わ、わかった」
オレはそういうと、一目散に走り出した。
オレは露天風呂との仕切りのドアをくぐると、早足で建物の中にはいる。相変わらず、中は湯気でもうもうだ。
オレは、周りの人達を真似るように、タオルを胸から垂らしている。もう、ちんちんが見えたって気にしない。
ああ、そうだよ、よっぽど注意してみなければわからないんだからな!!………ちくしょう。
そして、大浴場の前を早歩きで横切ると、三列に並んだ洗い場がある。コレを通り過ぎて右手に曲がればゴールの
更衣室だ。更衣室に入りさえすれば、まだアニキ達は温泉にいるって言ってたんだから、もう見つかる心配はない。
心臓はバクバクと凄い音を立てている。この、洗い場さえ通り過ぎれば………通り過ぎれば………通り過ぎれば………
すると、洗い場の半分まで来たところで、向こう側の角から、二人の女の子のが現れた。
見間違うはずはない。一人は腰の近くまで髪を伸ばした。ラ・ボンバさくら。そしてもう一人はアニキ。
なぜ!!!!オレは思わず大声をあげるのを必死にこらえる。そして直ぐさま回れ右。
まだ大丈夫。まだ気付かれてはいない。オレはそう祈りながら泣きそうな思いで走り出し、隣の通路に急いで向かう。
……………と、今度は、角からいきなり正面に葉月ちゃんが現れた。
オレは直ぐさま急ブレーキ!!でも濡れたタイルの上でそんなことしたって、直ぐに止まるわけはなく、つつつーっと
葉月ちゃんに向かって滑ってゆく。
オレはなんとかあがきながら、どうにか反転する。頭の中ではまだ、空いているシャワー前に座れば気付かれないかもし
れないと、そんな、都合のいい希望に全てをたくす。でも、でも、でも、止まらない。オレは後ろ向きになりながら、葉月
ちゃんに向かって滑ってゆく。このままだったらぶつかってしまう。それだけは、それだけはなんとしてでも、やっては
ならない。オレは必死に踏ん張った。これ以上ないくらいに踏ん張った。そして踏ん張りすぎてバランスを崩した………
オレはなんとかバランスを取るために酔っぱらいみたいに手を振り舞わず。
なんとか、掴むもの。シャワーの先っぽでもなんでもいい。なにか、なにか、なにか、………
すると、、なにか布のようなものの端っこを掴んだ。オレは必死でその布のようなもの握り込む。
なんとか踏みとどまれ…………そんな願いはまったく通用しなく、あっさりと、その布らしきものと一緒に後頭部からひっくり返った。
目の前に火花が飛んだ。………うん、火花ってホントに飛ぶんだね。勉強になったよ。
オレは反射的におもいっきし打った頭を押さえて転げ回る。イタイ、イタイ、マジイタイ、もしかしたら死んじゃうかも……
すると、誰かがオレの名前を呼んだ。
「カオル君…………?」
オレは打ちつけた頭を押さえながら、反射的に返事をする。
「はい?」
………カオル君………オレを君付けで呼ぶような子って………オレは頭が痛いのを我慢してなんとか目を開けると、
視線の先には葉月ちゃん…………で、なんでかすっぽんぽん……………オレは恐る恐る右手に掴んだ布みたいなものを
見てみると…………これって葉月ちゃんのタオル??????????
今の恰好ってさ、…………葉月ちゃん足下で大の字になって仰向けになってんだよね……………うらやましい?
うらやましいわけねーだろ、バカ!!!!!!!!!!!
とりあえず、オレは挨拶をした。
「こ、こんにちは」
直後、葉月ちゃんの悲鳴が聞こえる。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーー」
ショックを受けた葉月ちゃんは、そのまま、オレの上にしゃがみ込んじゃった。身動きとれないオレ!!!
………………うらやましいって、…………そんなわけねーだろシネ!!!
直後、アニキの叫び声が聞こえた。
「このヘンタイが!!!!!!」
オレは必死で葉月ちゃんをどかして起きあがろうとした瞬間、ラ・ボンバさくらがスライディングで突っ込んできた。
「シネ!」
たしかそんなような口の動きをしたように見える。ほら、人ってさ、交通事故とかあう瞬間、スローモーションに
見えることがあるっていうじゃん。あんな感じ…………………
その直後、おれのお腹にサクラの右足がめり込んだ。
’ゴフッ’
今まで聞いたことのないような音が聞こえる。
反射的にエビのように丸まるオレ!!!
一瞬おいて、今度はアニキが赤鬼のような顔で突っ込んできた。
「てめー葉月に何やったー!!!」
最後に聞いた言葉はソレ。うん、間違いない。
直後、アニキの右足がオレの顔面にめり込んだ。
で、真っ暗。うん、真っ暗。
「チョコレートパフェのお客様はどちら様ですかー?」
ウエイトレスのお姉さんの優しい声が聞こえてくる。
’コトリッ’
パフェのはいったグラスが置かれる音がした。
………しばらくすると、
「クリームソーダのお客様はどちら様ですかー?」
また、ウエイトレスのお姉さんの優しい声が聞こえてきた。
’コトリッ’
オレの頭の近くでクリームソーダのはいったグラスが置かれる音がした。
………それから、また、しばらくすると、
「イタリアンハンバーグとエビグラタンのお客様はどちらさまですかー」
またまた、ウエイトレスのお姉さんの………ちょっと困ったような優しい声が聞こえてきた。
’コトリッ’’コトリッ’
二枚のお皿が置かれる音が聞こえてきた。
頭の上ではじゅーじゅーとした音が聞こえてくる。
きっとコレは、ハンバーグが鉄板の上で焼ける音に違いない。
………え、なんで、そう思うかって?
だってオレ、見てねーもん。
さっきからおれ、机の上でうつぶせになってまったく動いてないんだもん。
オレは机の上に両手を組んでその上にうつぶせになってべそかいてました。………なにか可笑しいかよ!!!
すると、みさき姉ちゃんが声を掛けてきた。
「ほら、カオルちゃん、機嫌直して。カオルちゃんの大好物頼んであげたから、さ、食べよ」
確かにコレは全部オレの大好物だ。普段なら、涙流して喜ぶかも知れないけれど、今は涙流して悲しんでんだよ。ほっとけ!!!
「いい、いらない」
オレは何とかそれだけいうと、うつぶせのまま、組んだ腕の上で頭を左右に振った。
ほら、よく幼稚園児がいじけてやるような仕草だよ。
………なに、子供っぽいって、
…………おれは子供だぁぁぁぁぁぁ、文句があるかぁぁぁぁぁぁ!!!!!
ここは温泉の直ぐ近くのファミレスの中。
オレはあの後、温泉で1時間くらい気を失っていたらしく、目を覚ましたら
アニキもさくらも葉月ちゃんもいなくなっていた。
で、ロビーのソファーで心配そうにみさき姉ちゃんとさつきが看病してくれてた。
オレは直ぐに起きあがり、あの後の様子を聞いてみたら、なんだかさつきの機嫌は悪くなってるし、
みさき姉ちゃんは気まずそう、さつきの様子を伺ってるし…………。
そうして、しばらくぼけーっとしていると、あの最後の光景を思い出した。
………ああ、おれ、葉月ちゃんに嫌われちゃったなー
そう思うと、自然に涙がポロポロをこぼれてきちゃった。
もう、恥ずかしいとか恥ずかしくないとか、そんなことどうでもよくなっちゃって。
………でも、不思議なんだよ。たしか、サクラにお腹をおもいっきし蹴られてのは憶えてるんだ。
でもさ……アニキに蹴られたはずの顔がなんともなってないんだよね。………ははは、へんなの。
でも、そんなことをしっかり考えている余裕はまったくなく。オレはみさき姉ちゃんに手を取られたまま、その温泉から出ていった。
すると、みさきねえちゃんがさ、
「カオルちゃん、ゴハンおごってあげるから、今からファミレス行こ」って。
オレは、「別にお腹減ってないからいい」って言ったんだけれど、
「男の子なんだからしっかり食べなきゃだめでしょ」って言われて、無理やりファミレスに連れてこられちゃった。
でも、ファミレスの椅子に座った途端、葉月ちゃんのあの声………思い出しちゃってさ、また涙がでてきちゃって……
そしたらさ、いつもケラケラ笑っているさつきの奴がいきなり、
「だったら、何時までもないてりゃいいじゃん、この根性無し」
っていいやがって、………普段だったら「なにおー!!」って言い返すんだけれど……情けないことにそのまま机に
顔を埋めてしまいました。………で、それが今!!しばらくすると、みさき姉ちゃんがオレに話し掛けてきた。
「あのさ、カオルちゃん、カオルちゃんのお友達のあの子達に、私ちゃんといっといたから心配しなくてもいいわよ」って
オレは思わず伏せていた顔をあげて、みさき姉ちゃんをまじまじと見ちゃったよ。
「な、なんていったの?」で、反射的にそんなことを言った。
「あ、あのね、カオルちゃんを無理やり女湯に連れ込んだのは私で………ここの温泉、10歳以下は一人でお風呂に
入っちゃいけない決まりになってて………で、それを知らないでカオルちゃんを連れてきちゃった……って」
「………うん」
「で、あの子達に、私がちゃんとあやまっといたから………それから、カオルちゃん………言うのが遅れて悪いんだけど……ゴメンなさいね」
みさき姉ちゃんはそう言うと頭を深々と下げた。
「………いいよ、もう」
オレはなんとかそう言うのが精一杯だった。だってそうだろ、オレだってそんな人のこと気にしているほど余裕なんて無かったんだ。
そしたらさ、なんか、さつきの奴がいきなりつっかかってきて………
「なによ、カオルちゃん、おねえちゃんがちゃんとあやまってんのに、その態度!!男らしくないわね!!」だって
そんな普段のさつきからは想像もできない言葉をもらって、オレは思わず、呆気にとられてしまった。
「も、もう、さつきもやめなさい」
みさき姉ちゃんは何とかさつきを宥めている。
「なによ、まったく、それにお姉ちゃんが気を利かせて、カオルちゃんの大好物とってあげたのに、その態度」
「…………だって」
情けないかな、オレはそんなことしか言えなかったんだ。そしたらさつきの奴………
「じゃあ、もう、いい、コレ全部私が食べるから」
そういうと、オレの目の前にあった料理を片っ端から食べ始めた。
オレとみさき姉ちゃんはさつきのその様子を、目をまんまるにしたまま見続けていた。
………なんなんだよ、さつき。おれ、訳わかんないよ。
すると、その後に注文していた、多分さつきと、みさき姉ちゃんが食べるはずだった、たらこスパゲティーも
さつきの奴はキレイに食べきった。
………こいつ、こんなに大食いだったんだ………はじめて知った。
オレはそのあと、気を利かせてみさき姉ちゃんが追加注文した、ナポリタンをどうにか食べると、その日はそのまま家に
帰ったんだ。………翌朝、

オレは正直学校に行きたくなかった。
だって、そうじゃん、みさき姉ちゃんが説明してくれたけど、どういう顔して葉月ちゃんやアニキやさくらにあっていいか分かんないじゃん。
オレはなんとか、理由つけてズル休み出来ないもんかとベッド中に居続けていたら………さつきの奴がオレの部屋にかってに入ってきやがった。
「おっはよーカオルちゃん、グットモーニングー!!!」
そう言うと、元気いっぱいの声でオレに挨拶をする。
………昨日の不機嫌はもう治ったんだ。オレはそう思いながら、おずおずと布団から顔を出すと………ちょっと驚いた。
なんと、さつきの髪型が変わっている…………っていつ以来だ……正直ぜんぜん思い出せない。
オレはまん丸な目でさつきの顔をまじまじと見る。
「ど、ど、どうしたんだよ」
すると、さつきの奴は意外そうな顔でオレを見た。
「あれ、気付いたんだ」
「そりゃ、気付くさ!」
みると、さつきの髪型は、トレードマークだったサイドテールだかサイドポニーだかを止めてしまい、普通の肩までかかる
セミロングの髪型になっていた。
「んー、気分転換よ、だってもう、ずーっとだもん、あきちゃった」
そういうと、さつきはいつものようにケラケラと笑い出した。
あ、いつものさつきだ、オレはちょっとホットする。
「じゃあ、カオルちゃん、憶えてた」
いきなりさつきがそんな質問をしてきた。
「な、なにが」さつきの意味不明な質問にオレはちょっと、戸惑った顔をみせると、さつきの奴はまたケタケタと笑い出した。
「なんでもない、なんでもない」そういうと、モデルよろしく、オレの目の前でクルッと一回まわってみせた。
「うん、なかなか似合ってる」
「そう、ありがと」
さつきはそう言った。でもその顔がちょっと悲しそうに見えたのは………うん、気のせいだ。オレはさつきに連れられて、無理やり学校に来る羽目になった。
正直、ほんとに今日は学校を休みたかったんだ。
すると、教室に入るところでいきなり、葉月ちゃんに会った。
オレは顔を硬直させたまま、おはようの挨拶をすると、葉月ちゃんはオレの顔を見た途端、顔を真っ赤にして
そのまま黙って、教室の中に入っていった。
………死にたい。
すると、さつきの奴がポンポンと背中を叩いてくれたんだ。
オレは泣きそうな顔で振り返ると、さつきの奴「大丈夫、大丈夫」だって………
オレ、涙ぬぐっちゃったよ。
オレはなんとか、深呼吸して心を落ち着かせて教室に入ると………アニキがオレを睨み付けていた。……まじ、びびる。
お、おれは、とりあえず、アニキに挨拶に行く。
「あ、あ、あのオハヨウございます。西園寺さん」
ん?’アニキ’って言わないのかって?言うわけねーだろ。バカ!!!
こういうときはちゃんと敬語を使うんだよ。学校で習ったろ学校で!!!
「ああ、オハヨウ」
アニキはそれはそれは嫌そうにオハヨウの挨拶をしてくれました。メデタシーメデタシーって全然めでたくねーよ!!!
すると、さつきがアニキに話し掛ける。なんかオレに聞こえないようにひそひそとだ………なんかやな感じ。
それが終わると’チッ’って舌打ちしてきやんの、マジびびるオレ!!
すると、さつきはオレの手を引いて、オレの席まで付いてきた。
「なんか、あとで貴子ちゃん、カオルちゃんに話があるんだってー」
そういうとケラケラと笑うさつき。
ああ、もう、覚悟は出来てるから好きにしてよ。って感じで頷くオレ………マジオレカワイソウ。
オレは自分の机に座ると、あらためて葉月ちゃんの方を見る………と、なんでか、腕に包帯が巻かれていた。
頭の上に?を浮べるオレ………あんな包帯してたっけ………って昨日会ったのってお風呂場じゃん………抜けてるなオレ。
そんなことを思いながら葉月ちゃんを見ていたら、葉月ちゃんもオレのことに気付いたらしく、顔を赤くして俯いてしまった。
オレも俯いた………もんくあるかよ!!オレは自分の机で落ち込んでいると、オレ背中をトントンと叩いてくる奴がいた。まあ、大体想像はつくけどな。

「よう、カオル、オハヨウ、………って、しけた顔してんなー」
そういうと、キラっと白い歯を覗かせて最高のスマイルで挨拶をしてくるキザな奴。
「おはよう………相変わらず、幸せそうだな、西里」
オレはそう言うと、オレの後の席に座っている、西里(にしざと)司(つかさ)に声を掛けた。
「ああ、オレはいつだって幸せだよ。お前はそうじゃないのかい?カオル」
そういうと、芝居がかったセリフでニッコリと微笑みかけてくる。うーん、なんか軽くムカツク。
コイツの名前は西里司。まあ、わかりやすく言うと、幼なじみだ。んー………さつきと一緒で親戚か?って
いや、違う。でも、付き合いは奴とどっこいどっこいだ。
西里はオレとは幼稚園の年少さんときからの付き合いで…………で、はじめてあった日にオレにプロポーズをしてきた
大馬鹿野郎だ!!まあ、そこらへんも、さつきの奴とどっこいどっこいだ。
「あら、司君、相変わらず、美男子で」
さつきはそういうとケラケラと笑い出す。
「うん、そうだよ、あいかわらずの美男子さ」
そういうと、西里もニッコリと微笑み返す。………っておまえら、二人ともシネ!!
まあ、そう言いつつも、コイツもコイツの家も顔立ちのよさで売っている家だ。
コイツの顔のよさも商売道具って言えば腹も立たない……かな?
っていっても、コイツの家はいかがわしい商売をしているってわけじゃねーぞ。
それどころか、ここらヘンでは、名家って呼ばれているすっげー家に住んでいる。
何度行ってもマジビビル!!!俺の家いったい何個入るんだって感じ。
………で、コイツの家の商売は何かって?
………えーっと、よく分かんないけれど、歌舞伎だっけか、日舞だっけか、まあ、なんだか豪勢な着物を着て踊っているんだよ。
チン・トン・シャンってさ………あれなんていうんだっけ。まあいいや、で、こいつ自身も、化粧して舞台に立ってる。
………えーっと女形っていうんだっけか、女装してるんだよ。マジデ
普通そんなこと、絶対他人に知られたくねーのに、こいつ、クラスのみんなに発表してしかもチケット打ってやがんだ。
商売してんだよ。ちょっと、へんだろ!!!
で、以前にそのことを突っ込んだら、
「カオル、お前は芸術ってものを理解できない可哀相な人間なんだなー」ってほんとに可哀相な顔でオレのことを見たがった。
………シネ!!このオカマ!!!
………でも、一回こいつの舞台を見に行ったら………マジスゲーの………うっとり見とれちゃったよ。
うん、オレがコイツだったら………やっぱしみんなに大々的に発表して、チケットうってたかもしんない。
で、コイツとはじめてあったのは幼稚園の年少さんのときに近所にあるプールでさ……たまたま一緒に遊んだの。
……で、プロポーズされちゃいました。……テヘッ。………しかも、それ、受けちゃいました………テヘッ。
………マジ、死にたい。
つーかさ、その頃のオレ………あ、当時4歳ね。「ねえ、キミ、僕と結婚してよ」って言われたって、結婚なんて意味しらねーもん。
てっきに、仲好しさんになってね。って意味で言われたのかと思ってさ、「うんいいよ」ってほんとに軽い気持ちで答えたんだ。
で、そのあと、一緒に連れションしたら…………こいつ泣いちゃいやの…………あはははは、ザマーミロ。
「この子、男の子だよ、おかーさーん」だって。………マジうける!!!。
………んー?それってもしかしてって?
…………………ああ、そうだよ、オレはその時、赤い水玉のビキニ着てましたがなにか?
………それって、オレのほうが悪いんじゃないのかって……………そんなこたぁ、オメーに言われなくってもわかってるよ!!!。シネ!!!!!
まあ、いいや、それがオレの相棒ってか親友の西里だ。
で、こいつもオレと同じAC南多摩に所属している。
………んー、そんな、舞台に立つ人間が、サッカーやっててもいいのかだって?
ああ、オレもそう思って聞いたことがあったんだけれど、奴いわく
「うん、中学に上がったら多分出来ないと思うからさ………今のうちに好きなことをするんだ」だって………
なんか、大変なんだなー名家って奴も。
そんなわけで、コイツは舞台とサッカーで大忙し、その上ファンクラブまであるっていう、ある意味カリスマ小学生なんだけれど。
あ、ちなみに、ファンクラブに入るには、定期的にコイツの舞台のチケット買わないといけないんだってってか、両親が運営
してるし、そのファンクラブ………あはははは。
すると、西里が声を掛けてきた。
「そういや、カオル、聞いたか?」
「なに?」
「昨日の雨で流れた練習試合、今日振り替えでやるんだってさ」
「………マジデ!!ってふつう、翌週になるんじゃないのかよ」
「いや、なんか、翌週はグランド塞がっちゃって、そのあとも予定がつまってて今日くらいしか無いんだって
さっき監督からケータイにかかってきた」
そういうと、西里は自慢のケータイを見せびらかせる。
まあ、小四でケータイ持っている奴は、今では珍しくないけれど、コイツは幼稚園の時から持っていた。
ってか、これも商売道具なんだってさ。まあ、たしかに俺なんかよりはずーっと忙しいしな。
すると、西里の奴、急にニヤニヤと笑い出した。
「そうそう、カオル、オレ、いい待ち受け画面に変えたんだ、見てみろよ」
「んー………」オレは興味なさげに返事する。だって、ケータイなんて今のオレには関係ないじゃん。
で、興味なさげに奴のケータイの待ち受け画面見てみたら…………赤い水玉ビキニを来ているオレ。
一気に血の気がひいちゃった。
「お、お、おま、おま……これ」うん、うまく言葉が出ない。
「いや、昨日暇なんで写真の整理してたら、出てきちゃってさ、記念にケータイで取り直して待ち受け画面に
しちゃったよ」
そういうと、ニッコリと最高のスマイルをする。
オレは口をパクパクさせながら奴の顔を見る。するとニッコリとうんうん頷いていやがる。ほんとに嬉しそうだ。
オレは直ぐに気持ちを取り直すと、西里のケータイを取り上げようとしたのだが………
それをわかっていたのだろう、ひらりとオレの攻撃をかわす。そしてオレの首に手を回して耳元で話し掛けてきた。
「大丈夫だよ、カオル。コレがおまえだなんて、絶対に気がつかないよ」
おもわず、首筋がぞくっとする。こういう仕草は普通の女よりも全然女らしい。まじちょっと怖いかも………「そ、そ、そんなこといったって」
すると、西里は続けて話し掛けてくる。………あのー、耳がくすぐったいんです。……ほんとに。
「あのな、カオル、お前はオレのプロポーズ一回受けてるんだぞ、わかってんのか」
「だ、だ、だって、アレは!!!」
「ふざけんなよ、カオル。この西里様のプロポーズをあんな形で愚弄しやがって、馬鹿にしてんのか」
さすがに舞台をやっているだけあって難しい日本語がポンポン出てくる。正直あんまし意味わかんね。
「ど、ど、どういうことだよ。オレとほんとに結婚する気か」
オレは半泣きでそう答えた。
「ふざけんな、シネ!!!!」
西里の奴はオレのキメ台詞をかってにつかった。
「じゃあ、どうすれば………」
「なあ、カオル、オレはあん時、本当にショックだったんだよ」
「な、なにが」
「おまえと連れションしたときだよ!!!!」
「…………あ」言葉を失うオレ。
「そりゃ、あのときのお前は可愛かったさ。オレだって幼稚園のときからもててもてて、そりゃすごかったんだよ。
あ、いまでもすごいけれどね」
………もしもし、それって自慢ですか?
西里の自慢は延々と続く。
「そりゃ、そのころから、いろんな女の子からプロポーズの申し込み殺到だよ。『西里君結婚して』『西里君お嫁さんにして』
ってさ………」
「う、うん」
「でも、そのころから、いつかきっとオレのお嫁さんにふさわしい人が来ると待ち望んでいたら、やっと目の前に現れたんだよ」
「………それって」
「ああ、貴様だよ!!」
そういうと、心の底から震え上がるようなコエー声を出す、オレの親友。
………もしもし、これって、演技ですか?それとも本気??正直びびるオレ。
「オレはそのあと、女性不信に陥っちゃってな。……ああ、あの子ももしかして、チンチンがついてんじゃないのか、
この子ももしかして男の子なんじゃないのかって……正直女の子とお話するのが怖い時期すらあった………この僕がだよ」
「で、おれになにをしろと………」オレはちょっと泣き顔になりながらそう言った。だってほんとにこわいんだもん。
「まあ、そのときの僕の苦悩の何十分の一でも味わってくれと」
「どういう意味?」
すると、西里の奴はフッと鼻でわらった。ちょっとムカ!!!
「まあ、オレが一言、『これってカオルのちっちゃい頃の写真なんだぜー』っていったら、お前が常日頃から
男は常に男らしくなんて寝言、いつだってぶっとばされるんだぜってのを、覚悟していろってことだよ、香坂カオル!!」
そういうと、すんごい目つきで睨み付けてきた、やべー、こいつ、まじ怖い!!!
「まあ、僕だって、男の子にプロポーズしたなんて、口が裂けても言えないけれどさ、カオル………でもな、オレをもう一回
でも、裏切ったら、いつだって覚悟はあるんだよ」そういうと、ニヤリと笑った、ほんとマジ怖い。
「ま、そんなことだよ、カオル、時間取らせたな………で、ま、そう言うことだから」
「ど、ど、どういうことだよ」
すると西里は眉を顰めてオレを見た。
「だから、今日午後、試合があるってことだよ!!!」
ゴメン、途中の話が長すぎでぜんぜんわかんないよ。西里。
そんなわけで、こいつ、俺たちの連絡係を兼ねてるんだけれど、残念なことに、時たまおっちょこちょいなところが
あってさ、あんまし信用できねーの。
まあ、監督もほんとに信頼してるわけじゃないしね、都合がいいだけだろ、多分。
「じゃ、じゃあ、今日しあいなのかよ」
「ああ、一般は今週の土曜だけれど、少なくともCチームとBチームは絶対やるみたいだぜ」
「ふーん………で、何時から」
「まあ学校が終わったらさっさと来いって連絡だったけれど、試合開始は三時半だって。ほら、今日って職員会議かなんか
あって、授業が午前中で終わりだろ。まあ、なにがあっても大丈夫だろ」
「まあ、なー」
オレはそんときはそんなのんきに返事をしたんだ。でも直後にあんなことになるだなんて………結局その後も、葉月ちゃんともアニキとも………あ、さくらもね………その三人とも話すことなく帰りの会になってさ。
そしたら、アニキがオレの方をみて手招きするの………前にお寺で見た、仁王様みたいな顔。
もし、おしっこ我慢してたら、間違いなく洩らしてたなオレ。
オレは直立不動でアニキの前で気を付け。
「な、な、なんですか、西園寺さん」
「なあ、香坂……おまえ、この後ヒマか?」
すっげーこええ目つきで睨んでくるアニキ。シャレになってないっす。
「あ、あ、あのこの後………」
「ああん!!!」なんか、そこらへんのヤクザよりも全然こえーんだけれど。
「………いや、なんでもないです」
「じゃあ、このあと、さつきの家に来い!!!」
「さつきの家に?」
オレはそういうと、さつきのほうを振り返る。見た瞬間、なぜか目を逸らすさつき………おーい、なんでだよーー。
「わかったのか?」
まあ、オレにはいやですなんて言う権利も根性もありません。
「はい、わかりました」
「じゃあ、待ってるからな」
「はい、わかりました」
「さっさと、来いよな」
「はい、わかりました」
「覚悟してろよ」
「…………はい、わかりました」
そういうと、アニキはズカズカと教室から出て行った。
………なあ、そこのおまえ、海外に高飛びするってどうやったらいいんだっけ、よかったら教えてくれないか?
オレは家でさっさと昼飯を取ると、まるで死刑囚のような足取りでさつきの家に向かっていった。
チャイムを鳴らす。
’ピンポーン’
するとみさき姉ちゃんが出てきた。
「あ、みさき姉ちゃん、今日は………学校は?」
「んー、休んじゃった」
「なんで?」
「ま、まあ、ちょっとねーー」
そういうと、ニヤニヤと笑っている、なんかやな予感。
「あ、さつきたちが部屋で待ってるから」
そういうと、みさき姉ちゃんはオレの肩を押してさつきの部屋に入れる。
………と、部屋に中には、さつきとアニキはともかく、サクラと葉月ちゃんまでいた。
…………あ、みなさん勢揃いで。
「よう、遅かったな」
アニキの声。まるで、ほんとに仁王様みたい。アハハハハ
「す、すいません」
とりあえず、謝ります。だってこわいんだもん。
すると、頭を下げた視線の先には………なんでかオレの小さい頃の写真が沢山………ってなんでオレのアルバムが!!!???
オレは反射的にそのアルバムを体で隠す。
「さ、さ、さ、さつき、オレの写真どっから持ってきたんだよ」
正直これ以上ないくらいに怒るオレ、アニキがいたって関係ないね。だって、コレはオレの最大の秘密だもん。絶対に許さない!!!
すると、みんなキョトンとした顔になる。………あのアニキでさえもキョトン顔だ。
オレはもしかしてとんでもない勘違いを………体全体に冷や汗が出てくると、さつきがいつものニッコリとしたスマイルでとっても冷たく言い放った。
「バカッ!!!」
すると、葉月ちゃんが口を開く。
「だって、これ、さつきちゃんとあとお友達の女の子しか………」
ああ、葉月ちゃん、やっと話してくれたんだね………でもその質問はノーだ!!!
オレは折角の葉月ちゃんの質問を口を噤んで黙りこくる。
すると、妙に勘のいい、生まれながらのストライカーのサクラが気が付きやがった。
こういうのって、アレかな、やっぱしゴールの嗅覚と同じなのかな………
「この女の子って、もしかして、お前か、カオル???」
オレはなんにも言ってないぞ。亀のように固まっている。
すると、みさき姉ちゃんとさつきが、とっても悲しそうな顔で首を横に振っている。
………もう、だめですか?………はいそうですか。
とたんに、津波のような笑い声が押し寄せてきた。
「アハハハハハハハハハハハ」とアニキが
「ウハハハハハハハハハハハ」とさくらが
「クックククククククククク」と葉月ちゃんまで
もう、完全降伏のオレ、ハイもう何してもいいっすよーー………ちくひょーとりあえず、三分ほどでみんなの笑いが一段落した。
………ってなげーよ!!!
すると、アニキが言った。
「なあ、カオル、まあ、私もこのみさきさんから事情を聞いたから、それほど怒っちゃねーんだよ」
「………うす」
「………たしかに、事故みたいなもんだしね………」とさくら。
「でも…………」と葉月ちゃん。
「………でも?」とオレは聞き返す。
「お前は私たちの裸を見たけれど、私たちはお前の裸を見てないんだよ!!!」
アニキ叫ぶ、マジ怖い。
「…………えええええええ」とりあえず、みさき姉ちゃんをみる。なんか、首を横に振っている。
さつきをみる。なんかケラケラ笑っている。葉月ちゃんを見る。あ、ちょっと怒ってる。
「じゃあ、そういうことで」さつきは言った。おい、お前なに勝手に仕切ってんだよ。
すると、そそくさとさつきは布団をひき始める。
「な、な、な、なにするの?」
するとアニキは言った。
「なにするって、床の上じゃヤだろ?」
いや、布団の上でもいやです。……ウス!
すると、布団弾き終わり。………さつき、ずいぶんと早いねー。
ってか、なんで、みさき姉ちゃんもいるの?
オレはみさき姉ちゃんの顔をまじまじと見る。
「なんで、みさき姉ちゃんまで?」
「ほ、ほら、だって、保護者がいないとマズイでしょ」
……いや、いてもいなくてもどっちもマズイっす。
オレは泣きそうな目でみさき姉ちゃんに訴えかける。
「じゃ、じゃあ、私は席をはずそうか?」
んー、………みさき姉ちゃんがいなくなったところを冷静に予想する。
アニキを誰もとめられねーや………あははははは
オレは今にも消えそうな声でみさき姉ちゃんに言った。
「お願いです、いて下さい」
「はい、わかりました」
「ってか、なんでさつきもいるんだよ」
「だって、ここ、私の部屋だもん」
そういうと、ぷーっほっぺをぷくらます。
「おまえの部屋って………」
すると、さくらが言い出した。
「なあ、かおるちゃん、さつきの奴、赤ちゃんの出来方、知らないんだってな?」
「はい??」
「かおるちゃん、きのう聞いたんだろ、さつきから」
なあ、さつき、いくらさくらと仲がいいからってそう言う話はするなよなー、しかも今日!!!
「ってわけで、まあ、カオルちゃんで性教育ってやつだよ。一石二鳥だろ」ってアニキ。
「なにが一石二鳥じゃ、ふざけんな!!!!!」…………よし、心の中で言ってやった。ウシ!
すると、葉月ちゃんが恨めしそうにオレを見る………やめてくださいその目で見るのは。
「だって、かおる君、………その、……あの、私の見たのに…………ずるい」
そういうと、顔を真っ赤にして俯いてしまった。正直悪い気持ちでイッパイになっちゃったよ。うん、こういうのって
罪悪感っていうんだな。
オレは、男らしく……………男らしく……………男らしく…………なあ、やっぱし男女って言われてもいいよ、やだよ、トホホオレは負け犬のようにトボトボと立ち上がると布団の中央に寝た。
するとさつきが枕をわたしてくれた。
「はい、かおるちゃん」
「………やっぱりやんなきゃだめー?」
最後の望みを託して聞いてみる。
’うん、ダメ’って全員同時にいいやがった。
オレはオレは………オレは男らしく一気にズボンとパンツを脱いだ!!!もんくあるか!!!!
すると、あたりから声が湧き起こる
「おおおおおおおお」
そしてオレはこの時間が一瞬でも早く終わってくれることを祈りつつ両手で顔を覆い、歯を食いしばる。
「へー、男の子のアレってこうなってんだー」とさくら。
「………はじめて見た」と葉月ちゃん。
「まあ、弟のと一緒だな」とアニキが………ってちょっとまてオイだったらいいだろ別にみなくっても!!!
でもオレは何も出来ずに顔を覆ったままだ。
すると、さつきが聞いてきた。貴子ちゃんの弟っていくつだっけ?
「あ、幼稚園の年中さんだよ」
あたりにクスクスとした笑い声がおこる。
そこらへんで、オレの脳みそはフリーズ。後はとりあえず、憶えているセリフをかいてくぞ
………もう、かってにしろ。「で、結局赤ちゃんってどうやって出来るのよ」
「だから、このチンチンを女のあそこに入れるんだよ」
「……………………………………うぞ!!!」
ああ、さつきの驚く声がよく聞こえる、まあオレもそうだった。
すると、おれの……を触ってきやがった。だれだかわかんねーよだって目をつむってんだもん。
相変わらずクスクスと笑い声が止まらない。
「でな、これをこうやっていじくると堅くなるの、コレを’ボッキ’」
ああ、アニキか…………いじってるの…………もうやだ。
「………ぼ、ぼ、ボキ」
「ボキじゃねーよ、ボッキだよ」
「………ボッキ」
「よし」
「で、精子ってのがこっから出てくるの」
「だって、そこ、おしっこが…………」
「一緒のとこから出てくるの」
「…………………うぞ!!」
「で、この。玉から精子が出来るの!!」
そういうと、多分アニキがオレの………ぐりぐりしてる……もうやだ。
「い、い、いまも?」
「いや、あと、………かおるちゃんだったら、あと三年後くらいかな」
「…………へえぇぇぇぇぇぇぇえぇぇぇぇぇ」
「ってか、女だってセーリがくるぞ」
「…………ああ、それは知ってる」
「それとセーシが体の中でくっつくと」
「ちょっとまって、ナニソレ!!!」
「だから、体の中で」
「………どういうこと」
「だから、コレを女のあそこに入れるんだよ!!!!」
「……………………うぞ!!!」
「いや、さっき言ったろ」
「………そうだっけ……ってか、こんなあかちゃんみたいのが?体に入るの?」
「ああ、ちょっとまってろ」
「あ、なんか、すこしずつ………」
「ちょっと形が……………」
「ってかさ、これむかないといけないんだよ」
’むく’みんな一斉に声をあげる?ってか、オレも声をあげちゃった。
「なんだよ、かおるちゃん、コレむいてないの」
「な、な、なーに?」
オレは涙声でそう言った。
「ちょっとまってろ、弟のいつもやってるからさ」
そういうと、アニキはオレの…………オレの…………
…………イタイ……………イタイ……………イタイ、イタイ、イタイ、イタイイタイタタタタタタタタタタ
…………もうヤダ。
…………もうヤダ。
…………もうヤダ。
…………もうヤダ。
…………もうやだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ

オレが何やったんだよ、おれ、なんか悪いことしたか?
女湯はいっただって?知るかボケ!!!おれが女湯入りたいなんていったことあったか、たったの一回だって
それをみんなよってたかって、ふざけんなよ、ふざけんなよ、ふざけんなよ、ふざけんなよ、ふざけんなよ、
ふざけんなよ、ふざけんなよ、ふざけんなよ、ふざけんなよ、ふざけんなよ、ふざけんなよ、ふざけんなよ、
ふざけんなよ、ふざけんなよ、ふざけんなよ、ふざけんなよ、ふざけんなよ、ふざけんなよ、ふざけんなよ、

やってられっか、なんだ、この本、『強い男になるための十の方法』って

第一章、強い男になるためには、今までの自分の最も辛い思い出を文書にして乗り越えましょう

ふ、ふ、っふ、ふざけんなぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!
やってられっかぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!
こんな辛いこと思い出してまでも、強い男なんかになりたかないわぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁx!!

もうヤダ、もうヤダ、もうヤダ、もうヤダ、もうヤダ、もうヤダ、もうヤダ、もうヤダ、もうヤダ、
もうヤダ、もうヤダ、もうヤダ、もうヤダ、もうヤダ、もうヤダ、もうヤダ、もうヤダ、もうヤダ、

こんなくだらないことやーめた!!!やってられるかぁぁぁぁぁぁ

お前らみんな、シネ!シネ!シネ!シネ!シネ!シネ!シネ!シネ!シネ!シネ!シネ!シネ!シネ!
シネ!シネ!シネ!シネ!シネ!シネ!シネ!シネ!シネ!シネ!シネ!シネ!シネ!シネ!シネ!シネ!
シネ!シネ!シネ!シネ!シネ!シネ!シネ!シネ!シネ!シネ!シネ!シネ!シネ!シネ!シネ!シネ!

………………う、う、う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんー!!!!!!!
ばっかやろーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!



                                   かおるボーイ  完………ん?

:-)ねぇ、あんたら、さっきさ、カオルちゃんが泣きながら飛び出してきたんだけれど
なんか知らない?………………
あ、知らない。あっそう?いや、ここんところさ、カオルちゃん、なんか部屋に籠ってやってたんだけれど

んーーー( ̄  ̄)

…………なにこれ?
『強い男になるための十の方法』
………アハハハハハハ( ̄∇ ̄;)
なんだ、最近カオルちゃん真面目になんか本を読んでるかと思ったら
、『強い男になるための十の方法』………やだ、まじウケルwんーーー
なんか、パソコン立ち上がってるし………

…………『かおるボーイ』?????
なに、カオルちゃん、こんなの書いてたの………?
ひまねー…………
で、第一章、………んーーーっと
強い男になるためには、今までの自分の最も辛い思い出を文書にして乗り越えましょう
………アハハハハ、なるほどね………で、これ、愛読書がジャンプとコロコロのクセして
小説っすか…………へーーー「タイムマシンがあったら未来に行く?それとも過去に行く?」

なんか洒落たことかいてるわね…………


ちょっと面白いかも………?


さつきはけらけらと………さつきはけらけらと………さつきはけらけらと……

って私がまるでバカみたいじゃない!!!

誰のせいでそうなったと思ってるのよ!!!

カオルちゃん、あなた、なんにも知らないのね。

私がバカみたいに笑うようになったのも、私がなんにも知らない振りするように素振りする

ようになったのも……

で、ふーん、ここで止まっちゃった訳か………
なるほどねー…………………
まあいいわ、カオルちゃん、あなたがこれ以上書けないっていうなら、その続き
私が書いてあげるわ。
何も知らないあなたの為に、
でも、カオルちゃん、アナタほんとに後悔しないわよね

題名は………そうね、『かおるボーイ』に対抗して『さつきガール』ってのは
どう?
………ひねりがない?まあいいじゃない、お互い様で…………
「オレ、葉月ちゃんのことが好きなんだ」

新学期そうそう、その男の子は私の机の前に座ると、とっても真剣な顔で言ってきた。
私は、その子のそんな真剣な顔は今まで見たことがなくって、思わず、「そう」とだけしか、言えなかった。
ホントのところ、今まで見たことのない、その子のそんな表情を見てしまい、
私は思わず頭がパニくってしてしまったのだ。
すると、その男の子は、ほっぺたをぷーっと膨らませて、「なんだよ、それ」と、ぶっきらぼうに言ってきた。


私は混乱した頭で、その男の子が誰だったのか必死で思い出す。

そうだ、思い出した。その男の子は私のクラスメイトだったけ………

そうだ、思い出した。その男の子は私のいとこだったんだ。

そうだ、思い出した。その男の子は私の幼なじみでさ……


うん、そうだ、思い出した!!その男の子は私の………大好きな、大好きな、男の子だった。

その子の名前は、香坂カオル。

だからカオルちゃん、私は今からキミの物語を書こうと思うんだ。

…………私がはじめて大好きになった男の子の物語を「なあ、さつき、オレ今度サッカーの試合、先発で出られるかもしれないんだ!!」

私がリビングでテレビを見てると、サラサラの鳶色の髪の毛を振り乱して、息せき切って私の目の前にやって来た。
まん丸でクッキリとした二重の瞳を爛々に輝かせて、頬をうっすらとピンク色に染めている。
私はいつものようにケラケラと笑いながら、その男の子に話し掛けた。
「先発?なになに、カオルちゃん、ピッチャーやってるの?」
途端に、その男の子はほっぺたをぷーっと膨らませる。
「ふざけんなよ、さつき!オレがいつ野球やってたんだよ!!サッカーだよ、サッカーにきまってんじゃん。
監督がさ、いつも真面目に練習してるってんで、今度の試合、最初から出てみろって言われたんだ。すげーー嬉しい
オレさ、ほんとはすっげー頑張ってたんだよ、やっぱし、見てる人は見てるんだよなー………おまえ知らなかったろ」
その少年はそういうと、満面の笑みで私に微笑みかけた。
私はその少年に笑いかけると心の中で話し掛けた。
知ってるよ。そんなこと。カオルちゃんの監督が知る前からもっと、ずーっと前から知ってるよ。
キミがリフティングが5回しか出来ないって言って、悔し涙ながしながら、誰もいない校舎の裏で必死に練習してたこと
私知ってるんだ。キミと一緒に入った同級生が先に試合に出させてもらって、悔しくって、悔しくって、泣きながら
ドリブルの練習をしてたのも知ってるよ。それから、キミが先輩達から「チビ、チビ」って言われるのが悔しくって
毎朝必死に牛乳を飲んでいることも私は知ってるよ。
でも、カオルちゃん、私がそのこと知ってることを、キミは知らないでしょ。
ねえカオルちゃん、『嫉妬』って言う字知ってる?
「しっと」ってね、もうね、凄いのよ、女がやまいになって、石になるの………なんかこわいよね。
でさ、漢字もさ、もう、なんか、ぐにょぐにょした感じで、見てるだけでなんか嫌な気持ちになるのよ……知ってた?
カオルちゃん、嫉妬したことなんかないでしょ、アレね、とっても嫌な気持ちになるの。うん知らないほうがいいよ。
私も、つい、この前まで知らなかったんだ。
いつ知ったかって?……ほら、カオルちゃん知ってるかな。四年生になってすぐにさ、カオルちゃん練習試合で途中から
試合に出たじゃない。で、その試合わたしとみさき姉ちゃん見に行ったんだよ。カオルちゃんにはナイショだったけれど。
………だってさ、キミ、その前に、ずーっと補欠で一度も試合に出れなかったときさ、すっごい悲しい顔してたでしょ。
で、たまたまわたしとみさき姉ちゃんが挨拶したら、もう、顔をゆがめちゃってさ、見てるのが辛くなるくらいの作り笑い
したの………かおるちゃん、憶えてるかな。それからは、キミの試合を見に行くときはキミにはナイショで見に行ったんだよ。
知らなかったでしょ。そしたらさ、後半になったら、監督さんに呼ばれて試合に出ることになってさ、一回アシスト決めたよね
私、そのシーンきっと一生忘れないんだ。左サイドでフリーになって得意のドリブルで切れ込んでゴール前にクロスあげたでしょ
私何回だって言えるよ。家でね私のお父さんとお母さんにもう、いいからって言われるまで話し続けたの。で試合が終わってさ
みんなから褒められてすっごいうれしそうにしてたよね。で、カオルちゃん一番最初に葉月ちゃんのところに言ったでしょ。
ゴメンね、こんな変なこと憶えてて………そりゃ、そうだよね、だって、私がきてるってこと、言ってないもん、
気付くわけ無いじゃん……バッカみたい………アハハハハハ。
そしたらさ、みさき姉ちゃんが言ったの「ねえ、さつき、あんた今、すっごい怖い顔してるよ」って………
私すぐにそんなことないもん!!って言ったんだけれどね……家に帰ってそのこと思い出してさ、鏡を見てみたの。
そしてらさ、すっごい怖いの。私自分でこんな怖い顔してるだなんだ思わなかったよ………かおるちゃん。
私、鏡の前で泣いちゃった。だってそうでしょ、こんな顔カオルちゃんになんか見せられるわけないじゃない。
だからさ、その日から私、笑う練習したの、どんな辛いときでも笑ってられるようにね。だからさ、かおるちゃん、
私がそんな怖い顔出来ること知らないでしょ。うん、知らなくっていいよ。知られたくないから………
そうそう、この前さ、放課後の校庭でキミが練習をしてるところ、教室で隠れてみてたらさ………
西里君に見つかっちゃった。
バカだね、西里君なんか机にケータイ忘れてたんだってさ、私気がつかなくって、窓からキミのことずーっと見てたの。
そしたらさ、西里君いきなり、「なあ、さつき、お前、カオルのこと好きなんだろ」って
私ね、「そんなことないよ、何いってんの、西里君」って言ってさいつものように笑いかけたのよ。カオルちゃんを
騙すように。だっていままでそれでうまくいってたんだもん。
私、いつものように言ったの。いままで何人かに言われてことがあったけれど、そのたんびに
「やだ、違うわよ、だって、カオルちゃん従兄なんだし、ちっちゃい頃から一緒で兄弟みたいなもんよ、ほら、双子の
片割れ………みたいな」そう言うとさ、みんな大体納得してくれんの。だから私、いつものように言ったのに………
西里君さ、「さつき、おれさ、一応役者なんだぜ、演技と本音くらい見分けが付かなきゃ、舞台でなんて踊れないよ」
だって、私がんばったのに、気が付いたら泣いてた………ごめんなさい。………ごめんなさい。ばれちゃってごめんなさい。
そしたらさ、西里君こういうの、
「だったら、さつきさ、おまえ、ちゃんとカオルに言えばいいじゃないか」って
ばかだよね、西里君。あんなにキミと一緒にいて、キミのこと全然わかってないの。だからさ、私言ってやったの。
「そんなの、ダメだよ、西里君。だってさ、カオルちゃんってとっても優しいの……知らないの?」
「じゃ、じゃあ、いいじゃないか」
あの人アレでほんとに女形出来るのかなー。私言ってやったの。
「バカだね。とっても優しいから、私が好きっていったら『あ、実はオレもお前のこと好きだったんだ』っていうに決まってるじゃない」って。
そうでしょ、カオルちゃん。キミ、葉月ちゃんのことが好きでも私のこと好きって言ってくれるでしょ。
だって、キミ、とってもやさしいんだもん。
そしたらさ、西里君なんにもいわなくなっちゃって、二人でキミの練習ずーっと見てた。
そしたら、最後に「じゃあ、さつき。あのさ、もしカオルに愛想が尽きたら、いつでも僕のところにおいでよ」だって
………アハハハハバッカみたい。さすがに我が小学校……いや、我が町を代表するプレイボーイだ。
私はわらって「うん、そうね」っていっといてあげた。西里君もやさしいよね。カオルちゃんいいお友達もってよかったね。
今日はカオルちゃんと温泉に行った。

ゴメンなさい、ゴメンなさい、ゴメンなさい、ゴメンなさい、ゴメンなさい、ゴメンなさい、ゴメンなさい。

ゴメンなさい、カオルちゃん………私、あの温泉の決まり知ってたの。
………で、そのことおねーちゃんに言ったの。あれ、私が言い出したことなの。
ゴメンなさい、ゴメンなさい、ゴメンなさい、ゴメンなさい、ゴメンなさい。
だってさ、カオルちゃん、わたしともう、お風呂一緒に入ってくれなくなっちゃったじゃない。
いきなり「もう、女となんか入らない」って。
そういったとき、わたし、「別にいいわよ、どーでも」っていったけれど、ゴメンなさい全部嘘だったの。
ゴメンなさい、ゴメンなさいゴメンなさい。嘘付いてゴメンなさい。
もう、葉月ちゃんに勝てることがなんにもなくなって、………それで、カオルちゃんが嫌がるの承知で無理やりお姉ちゃんに
お願いしたの。ゴメンなさい、ゴメンなさい、あんなことになって、ほんとにゴメンなさい。
わたしね、カオルちゃんの前でわざと恥ずかしくない真似してたの。だってそうでしょ、私がもし恥ずかしがったら
もう、一緒にお風呂入ってくれないでしょ、私が女の子にみられちゃったら、もう、カオルちゃん私から離れてくでしょ。
バカみたいに子供の振りしてれば、ああ、コイツはこういう奴なんだって思ってくれるでしょ。少しでも一緒にいてくれるでしょ。
でもね、もう、だめみたい。もう、葉月ちゃんに勝てるところなんにもなくなっちゃったよ。
カオルちゃん、キミ知ってた?さくらちゃんにお腹蹴られて蹲っててさ、貴子ちゃんがキミを蹴飛ばそうとしてたでしょ。
そしたらね、葉月ちゃん、その瞬間、キミを庇って貴子ちゃんに蹴られたの。
絶対にカオルちゃんよりも酷い怪我してたのに、自分のことよりカオルちゃんのこと心配してたの。
なんで知ってるかって?私もカオルちゃん助けようとして、追っかけてったの。カオルちゃんを守ろうとしたの。
でも、でも、全然間に合わなかった。バカみたいに見てるだけだった。
よかったね、カオルちゃん、葉月ちゃんもキミのこと好きだったみたい。もう私かなわないから、キミのこと諦めるね。

そのあとさ、ファミレスでバカみたいに焼け食いしたらさ、お腹がいたくなっちゃて、ベッドで寝てたの。
そしたらさ、私がベッドでうつぶせになって寝ていると、ノックが聞こえの。
「だーれ?」っていったらさ、
「………わたしよ」ってお姉ちゃんだった。
すると、お姉ちゃんが心配そうに、ベッドの脇に腰掛けるてさ「ねえ、さつき、大丈夫」って言ってきたくれたの。
私は、「大丈夫、大丈夫、ちょっと食べ過ぎちゃっただけなんだもん。カオルちゃん全然食べないからさ……アハハハハ」
っていつものように笑って誤魔化したらさ、おねえちゃんまったく乗ってくれなくって普通に「そう………お薬もってきたけれど、飲む」
って言ってきた。
私は「ううん」っていって枕に顔を埋めたまま首を振ったら、お姉ちゃんは「………そう」
っていって、お姉ちゃんは何も言わずに私の髪の毛を撫ででくれた。
それは、昔から私が泣いたり落ち込んだりしてる時にお姉ちゃんがしてくれる仕草でさ。
でもね、そんときは私、別に泣いても落ち込んでもないんだけれどなー……アハハハハハハ。
しばらくお姉ちゃんは黙って髪をなで続けてくれていた………そして、私はふと思いついたの。
で、私はベッドにうつぶせになりながら、お姉ちゃんに言ったんだ。
「ねぇ、おねえちゃん、お願いがあるんだけれど」って…………
そしたらさ、お姉ちゃんとっても優しく「なあにさつき」答えてくれの。
私はお姉ちゃんの顔を見ないように、「あのさ、髪型変えたいんだけれど、手伝ってくれないかな」
って早口で一気に言ったの………心変わりがしないように………
「………髪型を……だって、それあんた」
お姉ちゃんはそういうと、もうそれ以上言わなくなった。
「だって、幼稚園の時からずーっと一緒なのよ、もう、飽きちゃった、アハハハハ」
うん、大丈夫、ちゃんと笑える。私はいつものように笑いながら言った。
「………そう、みさきがそういうんなら、手伝ってあげるけど………」
「まったくもう、ヤになっちゃうの、この髪型だとさ、変なクセがついちゃって、アハハハハ」
私はそう言うと、ベッドから起きあがって鏡台の前にすわった。
するとお姉ちゃんは何も言わずに私の後に座ってさ、「そう、このサイドポニー、幼稚園のときからだったよね」
っていってたの。
私は、「そう、そう年中さんの時からだから、もう5年も同じ髪型で………バッカみたい、アハハハハ」って言った。
「うん」ってお姉ちゃんはそう言ったの。
それから私は一気に捲し立てたの。
「あのね、カオルちゃんがさ。はじめてカワイイって言ってくれたの」
「そう」
「私、すっごくうれしくってさ………」
「そう」
「あのね、お姉ちゃん、今日、葉月ちゃんって見たでしょ」
「うん」
「一番小さな子」
「うん」
お姉ちゃんはそう言いながら、私の髪をブラシで梳かしてくれる。
5年間も同じ髪型にしていたせいで、髪の止めゴムを外すと、頭の変なところに分け目が出来ていた。
私は鏡台に写った自分の頭の分け目をしげしげと眺めながら、手櫛でいじる。
「カオルちゃんね、あの子のこと好きなんだ。知ってた?」
「うん」
「それでさ、葉月ちゃんも、カオルちゃんのこと好きなの。知ってた。……アハハハハ」
「うん」
「ソレなのにカオルちゃんったらさ、嫌われちゃったとか言って、泣いちゃってるの……バッカみたいね」
「うん」
「そんでさ………そんでさ………」
「うん」
「私、意地悪だからさ、そのこと、絶対二人に教えてあげないんだ……ホントに意地悪だね、私って……アハハハ」
「うん」
「いやだ、お姉ちゃん、そう言うときはさ、そんなことないよっていってよ……アハハ」
あれ、うまく笑えないや。
「うん、………でも、さつきはさ、一生懸命カオルちゃん助けようとしたよね」
「気まぐれ、気まぐれ……………………」
私の口からはもう、笑い声が出なくなっていた。
「うん」
「ほんと、カオルちゃんってバカだよね………」
「うん」
「ほんとに、ほんとに、バッカよねー」
「うん」
「わたしさ、絶対なにがあっても、あの二人になんか教えてあげないんだ」
「うん」
「自分で気付け!カオルのバーカ………アハハハハハッハハハハハ」
私はそう言うと、無理やりに大声をあげて、おもいっきし笑ってやった。
でも、その時、鏡の中に写った私の顔は………泣いていたんだ。
カオルちゃん、ごめんなさい、今日はこれからキミに酷いことをします。
私のことを嫌いになってもらうように、とっても酷いことをします。
ごめんなさい。だってそうしないといつまでもキミのこと見ちゃうから
ごめんなさい。だって今でも私が好きって言ったら、葉月ちゃんより私の方を選ぶんでしょ。
同情で………。
だから、今日、私はキミに嫌われようと思ってます。
でも、大丈夫。葉月ちゃんはカオルちゃんのことが好きだし、カオルちゃんも葉月ちゃんのことが
好きだし………私がキミにきらわれるだけのことだから、気にしないで下さい。
きっと、その時はキミは泣いちゃうと思うけれど………そして、わたしのことを嫌いになると思うけれど
ごめんなさい。そうしないと、私、キミのこともっと困らしちゃうから………ごめんなさい。
だから私は、今日、キミに嫌われようと、酷いことをします。ゴメンなさいね、カオルちゃん。準備は整った。
カメラも設置した。
お姉ちゃんは「あんた、それ、いくら何でもやり過ぎよ」って言ってたけれど、だってしょうがないじゃない。
もうカオルちゃんのこと見ることが出来なくなっちゃうんだから。
これは私の一生の宝物にするの。
私が大好きだった男の子に私がどれだか酷いことをするか、ちゃんと記録しておくの。私がどれだけ卑怯な人間か忘れないために。

貴子ちゃんにもお願いが済んだ。
さくらちゃんにもお願いが済んだ
葉月ちゃんにもおねえちゃんにもお願いが終わった。
ねえ、カオルちゃん私は今からキミにとっても酷いことするから……ごめんなさい。恨んでもいいよ。
カオルちゃんは私のひいた布団の上で大の字になった。話は少し前に戻ります。
ごめんなさい、カオルちゃん。先に謝っておきます。
今朝ね、貴子ちゃんと私、内緒話したでしょ。その時の話なんだけれど…………
貴子ちゃんね、最初はね別に何するつもりもなかったの。
最初に私が話し掛けた時ね、「………っちぇ、しょうがないよ。香坂だって、わざとやって訳じゃないし」って。
別に、もう、どうでも良かったみたい。
ごめんなさい、私がけしかけたの。
「でもさ、貴子ちゃんの裸見られたんだよ。カオルちゃんだけしってるなんて、そんなのずるいじゃん」って。
ずるいのは私なのにね………ごめんなさい。
その後さ、貴子ちゃんに言ったの。
「そういえば、昨日赤ちゃんってどうやって出来るのってカオルちゃんに聞かれたんだけれど、私知らないから貴子ちゃん後で教えて」って。
ごめんなさい、アレも嘘でした。知ってたわよ……そんなこと、カオルちゃんなんかよりもずっと前から。
だって、私、お姉ちゃんがいるのよ。せーりのことだって、ずーっと前から知ってたんだもん。知らないわけないじゃん。
ばっかねー………ゴメン、バカは私だよね。
それからさ、葉月ちゃんにもお願いして、葉月ちゃんも別に怒ってなかったの。でもね私がけしかけたの。
「カオルちゃんが葉月ちゃんの体見て、葉月ちゃんがカオルちゃんの見てないなんて、ずるいよね、だからさ、今日見せてもらおうよ」って。
それ言ったから、葉月ちゃん、照れちゃって、その日学校でキミと話せなかったんだよ。サイテーだね、私って…………アハハハハ。
それから、さくらちゃんにも同じこと言ってさ、おねえちゃんにお願いして…………そうして、キミに酷いことしたんだ。
ゴメンなさいね。多分きっと私が死んだら、地獄に落ちるかもね…………あはははは、なーんてね……………………
カオルちゃんは布団の上に大の字になった。
私はカオルちゃんに枕を渡した。
カオルちゃんは枕を引くと、今度はカチンコチンに顔を強張らせて、お布団の上で気を付けの恰好になったの。
私たちは興味津々にカオルちゃんの顔を見る。
すると、カオルちゃんは「………やっぱりやんなきゃだめー?」って聞いてきた。
私は一瞬躊躇した。この期に及んで、「やっぱいいや」って思っちゃった。
そしたらさ、もしかしたらさ、私のこと好きになってくれるかなって…………もう、やだ。そんなこと思ったりして……
私、とっても……こういうの女々しいっていうの、知ってた。
すると、カオルちゃんは一気にズボンとパンツを脱いだ。
みんな同時に声を上げる。………みんなサイテー、………でも私が一番サイテー。そうしたらさ、カオルちゃん手で顔を覆ったよね。………ごめんね、そんなことさせちゃって。
そしたらさ、みんながみんな、いろんなこと言ってきて………。
貴子ちゃんが「弟と一緒だな」って
私思わず聞いちゃった。カオルちゃんが、チンチンちっちゃくって悩んでいるの知ってて……貴子ちゃんの弟が幼稚園児だってこと知ってて。
だから、私が一番大きな声で笑ったの。……………サイテーだよねほんと。
それから、私、貴子ちゃんに赤ちゃんの作り方、聞いたの。
「だから、このチンチンを女のあそこに入れるんだよ」
貴子ちゃんはそう言うと、カオルちゃんのちっちゃくなって縮こまったおチンチンを指でさした。
うん、きっと、カオルちゃんは今とっても怖いんだよね。
男の人のあそこって、怖かったり嫌なことがあったりすると縮んじゃうって、以前パパから聞いたことあるし。
カオルちゃんのおちんちん、昨日見たときよりも全然ちっちゃくなってた………ごめん、そうさせたのは私だね。「………………………………うぞ!!!」
うん、ちゃんと練習したとおりに言えた。
「へー、これがねー」私はそう言うと、大好きな男の子のおちんちんを触ったの。うん、もう、この先一生さわる事なんてないんだもんね。
いいでしょ、これくらい………かおるちゃん。………私のこと嫌いになってもいいからさ。
すると、貴子ちゃんもカオルちゃんのおちんちんをさわりはじめてこう言ったの。
「でな、これをこうやっていじくると堅くなるの、コレを’ボッキ’」
うん知ってる。でも、私は練習どおりにわざと間違える。
「………ぼ、ぼ、ボキ」
「ボキじゃねーよ、ボッキだよ」
「………ボッキ」
私はわざと言い直す。そして貴子ちゃんが触っていた、かおるちゃんのおちんちんを私は取り上げるように触り始める。
だってさ、私が大好きな男の子とおちんちんだもん。誰にも触らせたくなんかなかったの………ごめん、私おかしいね。
それから、どうでもいい話が続いてゆく。
「で、精子ってのがこっから出てくるの」
「だって、そこ、おしっこが…………」
「一緒のとこから出てくるの」
「…………………うぞ!!」
うん、練習とおりの受け答えだ。
「で、この。玉から精子が出来るの!!」
すると、貴子ちゃんはカオルちゃんの、……その、タマを指さした。
「へへーーーー」
ちょっとわざとらしかったかな。私はそういうと、貴子ちゃんの手を制するように大好きな男の子のその……タマをいじくる。
うん、今日は私以外だれにも触らせないからね。
みると、カオルちゃんは顔を手で覆ったままガタガタ震えている。そうだよね、怖いよね、ゴメンねカオルちゃん……ほんとゴメンなさい。
それから、私は必死になって、大好きな男の子とおちんちんを誰にも触らせないように、一人でいじくったの。
おねえちゃんが呆れた顔して私を見てる。多分きっと今、私すごい怖い顔してるんだろうな………よかった、カオルちゃんが目を閉じていてくれて。
それから後はどうでもいい話が続いていった。
「で、この。玉から精子が出来るの!!」
「い、い、いまも?」
「いや、あと、………かおるちゃんだったら、あと三年後くらいかな」
「…………へえぇぇぇぇぇぇぇえぇぇぇぇぇ」
「ってか、女だってセーリがくるぞ」
「…………ああ、それは知ってる」
「それとセーシが体の中でくっつくと」
「ちょっとまって、ナニソレ!!!」
「だから、体の中で」
「………どういうこと」
「だから、コレを女のあそこに入れるんだよ!!!!」
「……………………うぞ!!!」
「いや、さっき言ったろ」
「………そうだっけ……ってか、こんなあかちゃんみたいのが?体に入るの?」
うん、みんな私が知ってること。なんかお芝居しているみたい………サイテーのお芝居だけれどね。
すると、貴子ちゃんが私の手をのけて、きみのおちんちんを触りだした。
やめてよ、貴子ちゃん……私は心の中でそう叫ぶ。顔は笑ったまま。すると、貴子ちゃんがいじっていたおちんちんが、段々とおっきくなってきて。
そしたらさ、貴子ちゃんが、「ってかさ、これむかないといけないんだよ」
’むく’私は思わず声をあげた。
カオルちゃんも覆っていた手を離して驚いた顔をしている。
多分貴子ちゃん以外誰も知らないんだろう。
すると、貴子ちゃんは、私の大好きな男の子のおちんちんを無理やり掴むと、一気に、貴子ちゃんが言ったように
本当に’剥き’はじめた。
すると、それまでまったく反応が無かったカオルちゃんが抵抗を始めた。
貴子ちゃんがカオルちゃんのおちんちんを、こう………おもいっきり下に引っ張るたんびに、ひっしに内股になって
本能的に逃れようとしている。
「………イタイ、イタイ………もう、やめてよ」
カオルちゃんの声が泣声に変わっていった。
私はその瞬間、今までに味わったことが無いような、どす黒い感情に襲われた。
もう、だれにも、私の大好きな男の子を触らせたくないと思ったの。
私は貴子ちゃんを無理やりどかし、カオルちゃんのおちんちんをムンズとつかむ。
「こう、貴子ちゃん、こうかな」
私はそう言いながら、必死に抵抗しているカオルちゃんの………だいすきな男の子のおちんちんをむりやりに引っ張る。
カオルちゃんはもう、うわごとのように「もう、やめてよ………もう、やだよ」としか言わない。
そうして私は、そんなに嫌がっている、大好きな男の子の両足をしっかりと押さえつける………きっと私は地獄におちるんだろう。
そうして、さくらちゃんにお願いした。
「さくらちゃん、そっちの足、持ってよ……おねがい」
そう、西里君とも仲のいいさくらちゃんは、この中では、お姉ちゃん以外、唯一私の本心を知っている子だった。
私は必死にお願いする。
「さくらちゃん、お願い」
きっと私は凄い顔でお願いしてたんだろう。よかった、その時の顔がビデオに写ってなくって。多分きっと鬼のような顔
になってたと思う。………さいてーだ、私って。
正直、引いた顔をしていたさくらちゃんは、私の必死のお願いで、私が押さえつけられなかった、カオルちゃんの左足を
ほんとうに嫌そうに押さえつけた。………ごめんね、さくらちゃん。おねえちゃんのため息が聞こえた。
そうして、私は、私が大好きな男の子を、まるで蛙の解剖でもするかのような恰好にして、まるで蛙の解剖みたいなことをした。
気が付くと、カオルちゃんはかなり大きな声でしゃくり上げていた。………ごめんなさい。
そうして、私は貴子ちゃんに聞きながら、カオルちゃんのおちんちんを剥き始めた。
「こう、こうかな、貴子ちゃん」
貴子ちゃんはちょっと顔を引きつらせながら私を見てる。
「う、うん、そんな……感じかな」
私は必死にカオルちゃんのおちんちんを剥く。もう、そのときの私は多分人ではなくって悪魔か鬼にでもなっていたんだろう。
醜いね私って………すると、葉月ちゃんは目を背けて、顔を覆っているかおるちゃんの手を励ますように一生懸命にさすっている。
その様子が、さらに私に嫉妬の炎を燃やさせた。そして、絶望的な気分が私に襲いかかる。
もう、絶対に勝てない。そうだよね、大好きな子にこんなことするような人間は死んだほうがいいんだよね。私は一瞬、ふっと笑うと、大好きな、本当に大好きな男の子のおちんちんを、無理やりに剥き下ろした。
「いたーーーーーーい!!!!!!」これまでどうにか我慢してたんだろう。
けれども、遂にカオルちゃんは恐怖と痛みで我慢できなくなり、あらん限りの叫び声を出した。
部屋の中に大好きな男の子の悲鳴がこだまする。
「ちょ、ちょっとさつき、あんた……」さすがに、お姉ちゃんが声を掛けてきた。
「ほっといて、お願いだから」私も叫び声をあげる。………醜いよね私って。
遂にカオルちゃんが泣き出した。他人に泣いているところを見られるのが、とっても嫌いな男の子を、みんなのいる前で
まるで、赤ちゃんの様に泣かさせた。私も泣きたかった。
そうして、カオルちゃんのおちんちんの皮が、根本まで剥けて、今まで見たことのないような形になった。
ピンク色した、なんか、ぷにぷにしたゴムのような感じだ。
「た、貴子ちゃん、これで、いいの」私は恐る恐る聞いた。だって今までみたことないし、もし怪我をさせたりなんかしたら……
私は怖かった。多分声も震えていた。
「う、うん、いいんだよ」
「そ、そう………よかった」何が良かったんだろう……いいことなんて一つもないのに。相変わらず、カオルちゃんは顔を覆ったまま泣いている。
私は今まで見たことのない、かおるちゃんの皮の剥けたおちんちんを間近で見つめる。ああ、もう、これは一生見ることが
ないものなんだな。私は本能的にそう思った。
私はそのおちんちんの先っぽを怖々と人差し指で突っついた。
「イタイ!!!」カオルちゃんの針のように尖った悲鳴が聞こえる。私は驚いて、貴子ちゃんの方を見た。
「ああ、剥いたおちんちんってのは、さわるとイタイらしいぞ」弟がいってたから………
貴子ちゃんが気まずそうにそう言った。
「へ、へーー」私は声を震わせながら答える。
「じゃ、じゃあ、いたいんなら、なんで剥くの」私はふと素直に貴子ちゃんに質問した。
「ああ、ほら、ここんところにゴミが溜まるとな、へたすると、かぶれちゃうことがあるんだよ。それなんで、私は弟と
一緒にお風呂にはいると、剥いてあらってあげるんだ」
「へ、へーー」正直わたし、そんなこと全然知らなかった。
よく見ると、はじめて剥かれて心細そうにヒクヒクしているカオルちゃんのおちんちんのところどころに白いカスみたいのが
付いている。
「こ、これなのかな」私が思わずそれを指さしてみる。
「ああ、それだよ、それ、’チンカス’っていうんだってさ」
「へー、チンカス………かあ」
私はそう言うと思わず、カオルちゃんのおちんちんの表面に付いていた白いそれを触ってみる。すると、べとっとくっついた。
私はそれをまじまじと眺める。
すると、貴子ちゃんが言った。
「それ、汚いし臭いからからティッシュで拭いたほうがいいぞ。……イタイから出来たら濡れたティッシュな」
その瞬間、私は悪魔のような考えが閃いた。うん、私はきっと悪魔なんだね……かおるちゃん。
私はそう言われて、わざと白いそれを嗅いでみた。臭いなんて嘘……ほんとは全然匂わなかったよ。
でもね、その様子を涙で煮詰まった赤い目でカオルちゃんが恐る恐る、見ていたのを知っていたの。
私はさらにカオルちゃんに恥をかかせるために、大声で嘘を付いた。
「くっさーい、コレなに!!」
周囲からクスクスといった笑い声が漏れた。
「だから言ったろ、ばーか」貴子ちゃんはそういうと、苦笑いする。
すると、また一段と高い声でカオルちゃんが泣き始めた。周囲に気まずい空気が流れる。うん予想通り。
だってさ、知ってた?カオルちゃんってほんとにバカみたいに優しいの。このくらいじゃまだ私のこと嫌いになって
くれないかもしれないじゃない。さすがにもう、誰も何も言わなくなってきた。
うん、私一人が悪者だ。いいのそうなりたかったんだから。そうして、私は、さらに酷いことを思いついた。さっきから、カオルちゃんの手を撫でている葉月ちゃんに酷いお願いをする。
だって、いいでしょ、それくらい。いいとこ全部独り占めなんてずるいじゃん。………わたしって醜いね。
「ねえ、葉月ちゃん、そこのティッシュ取って」
「………え?」
「足下にあるでしょ、そこのティッシュ取ってよ」
思いも掛けない、私の強い言い方に葉月ちゃんはおどおどとした感じで、私にティッシュをよこした。
「なあ、せめてウェットティッシュかなんか、ないのかよ」
貴子ちゃんが心配そうな声をだす。
うん、ある。でも私は言った。
「ないよ、そんなもの」
「じゃあ、せめて、つばかなんかで濡らしてあげても」
「やだよ、汚いじゃん!!」私は強い口調で言い切った。カオルちゃんの泣声が一際大きくなったような気がする。
そうして、私はティッシュを取り出すと、むんずと掴んだ、まるで赤ちゃんの肌のような、痛々しそうなカオルちゃんの
おちんちんを乱暴にティッシュで拭いてあげた。
「い、い、いたいよーさつきー!!!!」
やっと、私の名前を呼んでくれたのねカオルちゃん。でも、だめ。私は大声で叱りつける。
「あんた、男でしょ、我慢なさい!!!」「うっ………」そういうと、カオルちゃんは押し黙る。うん酷いよね私って。かおるちゃんがその言葉になによりも弱いの
知ってて言ったんだから。私ね、知ってるの、カオルちゃんが二年前に転んで、あんまりイタイイタイって泣いてたから、
かおるちゃんのお母さんが「あんた、男でしょ、我慢なさい!!!」って言ったら黙ったってことを………ひどいよね、
後でお医者さんいったら、骨折れてたんだもんね。ホントひどいよね私…………だから私はそれを知った上でその言葉を言ったの。
思った通りカオルちゃんは唇をぎゅーっと噛み締めて我慢したよね。………ごめんなさい。
そうして私は乱暴にティッシュで拭いてあげた。ふきあがったおちんちんはさっきよりもあきらかに赤く晴れ上がって
見るからに痛そうで…………
そうして私は震える声で貴子ちゃんに聞いたの。
「あ、あとはどうするの?」って
そしたら、貴子ちゃんはおどろいた顔をして言ったの。
「も、もう終わりだよ、さつき。あとはさっさと皮をもどすんだよ」
私は名残惜しそうにかおるちゃんのおちんちんの皮を戻した。
泣き続けていたカオルちゃんの声が静かになる。辺りにはやっと、安堵したかのような空気が流れてきた。
でも、まだ、足りない………わたしはまだ食い足りなかった。
もっと、徹底的に、もっと汚らしく、もっと醜く、私はあなたに嫌われたかった。
そう、もう、二度と顔なんて見たくないって思えるくらいに。………………ほんとに私、醜くなっちゃった。
私はまるで、蛙の解剖のようにな恰好をしているカオルちゃんの両足を、さらにこれ以上広がらないくらいに左右に押し広げる。
心持ちお尻をあげてやると、カオルちゃんのお尻の穴が見えた。私はみんなに………とくにカオルちゃんによく聞こえるように
提案した。
「ねえ、みんな、お尻の皺っていったいいくつあるのかな。勘定してみようよ」
みんなはあきらかに、困った顔をしている。もう、誰もがそれ以上のことを望んでは無さそうだった。
私はそんな気まずい空気を充分に感じながらも、まったく気がつかないといった様子で、大声をあげて勘定し始めた。
「一本、二本、三本、四本、五本………」
みると、カオルちゃんは耳の先まで真っ赤にしている。
きっとおちんちんを見られるのも恥ずかしいけれど、だれにも見られたことのないお尻の穴を見られるのも恥ずかしいのだろう。
すると、お尻の穴を十本まで数え終えたところで、私の部屋に置いてある壁掛け時計から三時の鐘が鳴ってきた。
「ボーン、ボーン、ボーン」
一瞬みんなは、その時計に目を奪われる。
すると、一旦、押し黙っていたかおるちゃんがまた大きな声で泣き始めた。
私は首を捻りながら、かおるちゃんに尋ねてみた。
「ねえ、かおるちゃん、お尻の穴をみんなに見られるのが、そんなに恥ずかしいの」
意地悪な質問だ。私は死ねばいいと思う。
するとカオルちゃんは激しく首を左右に振った。
「………ちがう」
私はさらに問い詰める。
「じゃあ、どうしたのよ!」
すると、カオルちゃんはしゃくり上げながらどうにかこうにか言葉を出す。
「も、も、もう、間に合わない」
「………なにが???」
私達はみんな、かおるちゃんの答えに、顔をきょとんとさせて、お互いの顔を見つめ合った。
すると、その時、私の携帯のベルが鳴った。
見ると西里君からの着信だった。「お母さーん、さつきのやつどこにいるの」
 階下からカオル君の声が聞こえた。背筋に一瞬寒気が走る。
………今、何時?私は慌てて時計を見る。
もう、6時!!!あれから三時間も文章を書いてたの?
まずい、カオル君のPC勝手に使ってることがばれたら。もう、嫌われるだけじゃすまない。
私は急いで私の書いていた文章を選択すると、Deleteを押す。
………Deleteを押そうとする
………Deleteを………だめ、出来ない、だってコレ私なんだもん。
私は祈る想いで【Ctrl】と【A】ボタンを押す。そしてそのまま【Ctrl】と【C】
そうして心の中でカオル君に謝って、勝手にメールソフトを立ち上げた。
連絡先を見てみると、ああ、やっぱり、私の連絡先もあった。
そうだよね、従兄同士だもんね、お父さんとかに頼まれて連絡すること私もあるし………
私は私のアドレスをクリックすると直ぐに【Ctrl】と【V】………すると、カオル君の文章も一緒に貼り付ける。
そして、送信ボタンをクリックした。直ぐさま私の携帯がけたたましく鳴り始める。
いったい何通分のメールになるんだろう。そんなことはどうでもいい。
私は直ぐに携帯をマナーモードにすると、ポケットの中にしまった。
そうして、直ぐにメールを削除して、ゴミ箱も空っぽにする。
…………ああ、階段から足音が聞こえてくる。
私は泣きそうな顔でウインドウに立ち上がっていたワードから、私の書き足した文章を選択するとDeleteキーを押した。
その直後、がちゃりと後のドアが開いた。「なあ、さつき、おまえなに人の部屋勝手にはいってんだよ」
久しぶりに見る私の大好きな男の子は、もう、ずいぶん前に私よりも背が頭一つ分高くなっていた。
「あ、鍵が開いてたからはいっちゃった……アハハハハ」
私は昔取った杵柄でケタケタと愛想笑いをみせる。うん、ぎこちない。
「テメー泥棒かよ?鍵が開いてたらどこでもはいんのかよ!!」
突っ慳貪に敵意剥き出しって感じで私に話してくる。
「あ、あははは、ご、ごめんね、かおるちゃん」
もう、こういう風に笑うことはここ最近ぜんぜんなかったんで………うまく笑えないよカオル君。
「って、てめえ、なに人のパソコンみてんだよ!!!」
かおるちゃんが血相を変えて私をパソコンから引き離した。
「な、なんにもみてないよ、かおるちゃん」
………ごめんなさい、又嘘付いた。
「………出てけよ、さつき」
「………うん」
「さっさと出てけよ」
「………ごめんね」
「なあ、さつき、おまえふざけんなよ!!」
これ以上ないってくらいの敵意で私を睨み付ける私の大好きな男の子。はガックリと項垂れて階段を降りると、おばさんに挨拶してかおる君の家を出た。
向かいの家に帰るとみさき姉ちゃんが出迎えてくれた。
「ねえ、さつき、カオル君とお話しできた」
「うん」
私は泣きそうな顔でそう答える。そうだよね、カオル君あんなんでも一応はお話だよね。
「そう」
お姉ちゃんはもう、それ以上のことは言わなかった。
私は自分の部屋に戻ってくると、自分のパソコンを立ち上げる。
その間に私は私のケータイからカオル君のパソコンから転送したメールを私のPCのアドレスに転送する。
そして、見慣れたデスクトップのメールソフトをクリックするとキミと私の文章をメモ帳に貼り付けた。
ほら、カオル君、こうやって、一緒に何かするのって、5年ぶりだね。
ねえ、時間が経つのってどうしてこんなに早いんだろうね。私知らなかった。
あの日からもう5年も経っちゃった。
キミから嫌われて5年間も経っちゃったよ。
私さ、馬鹿だから気が付かなかったよ。キミに嫌われても時間がたったら、どうにかなるかと思ってたのに………
…………どうしよう、カオル君。あれからずーっと辛いんだ。
…………どうしよう、カオル君。あれから一歩も前に進めない。
…………どうしよう、カオル君。
…………どうしよう。ねえ、カオル君、あれからさ、5年が経ったのに、私たちの間だけあの日からまったく変わってないんだよ。
葉月ちゃんは、中学に上がるときに、お父さんの転勤で大阪にいっちゃったし………
ねえ、カオル君は葉月ちゃんとまだ付き合ってるのかな………ごめん、私には全然関係ないんだもんね。忘れて。
そうそう、西里君とはちゃんとあってるの?だって、幼稚園の時からの腐れ縁で親友だってよくみんなに自慢してたじゃん。
西里君、私立中学にはいって、とっても忙しそうだけれど、今でもカオル君とは会ってるんでしょ。
なんで、知ってるかって?実は今でも、ときたまメールを交換するんだ。
西里君ね、未だに言ってくるの。「ねえ、さつき、カオルに愛想いい加減ついた?」って。
ほんとにマメだねー、感心しちゃう。アハハハハ、あ、今うまく笑えた。
5年も経つと、みんな、みんな、離ればなれになっちゃうけれど、相変わらず、カオル君と私の距離だけは変わらないね。
そうだよね、だって私たち親戚でいとこなんだもん。いやでも顔をあわせちゃうんだもんね。ゴメンねカオル君私がここにいて。
だからさ、私もキミからやっとさよならしようと思うの。ほら、先週進路指導があったでしょ。私ね、そのとき先生に県外の全寮制の学校に行きたいって行っちゃった。
先生はちょっと、……いや、かなり驚いていたけれど、その学校さ、留学制度も兼ね備えてて、語学に興味がある私にも都合がいいの
それに、とっても空気のいいとこにあってね………ほら、わたし小さい頃から喘息もってたでしょ。
私の小さいころの夢はね、たった一度でいいからキミとサッカーの試合を一緒にしたかったってこと。いつも外から眺めてたけれど。
うん、それだけが心残りかな。
ねえ、カオル君、もうちょっとの辛抱だからさ、わたし、君の前からキレイに消えるね。
安心して、自殺とかそんなんじゃないし、そうでしょ、そんなことしたら、一生キミの重荷になっちゃうじゃん。見損なわないでよね。
キレイに、ああ、あいつ、遠くで元気にやってんだなーって、そう思われるように頑張るからさ。
ごめんね、カオル君。今更だけど。君に会うたんびに私は心の中であやまってんの。
そう言えばさ、かおる君、かおる君は以前、タイムマシンがあったら未来に行く?それとも過去に行く?って
私に質問してきたこと、憶えているかな。
あの時はさ、二人して、「行くなら一緒に未来だよねー」ていったよね。
でもさ、やっぱり訂正。
私、いくんなら、過去に行くよ。それでさ、あの日の私に言ってやるんだ。そんな馬鹿なことは止めなさいって。
私バカだから、全然わからなかったよ。キミに嫌われることがこんなに辛いだなんて…………あははははは
ごめん、かおるちゃん…………ほんとにごめんなさい。


さつきガール 完「いいかーお前ら、今から、この香坂先輩のドリブルを止めた奴には、オレがジュース一本おごってやる」
矢沢祥平はそういうと、人差し指を一本高々と天にあげた。
「おおおおおーーー」
一年坊主たちの喚声が聞こえる。
「ただーし、3回連続で抜かれた奴は、グランド5周」
「ええええええええーーーー」
一年坊坊主達の悲鳴が聞こえる。
「お、おい、大丈夫か、翔平、そんなこと言っちゃって」
「大丈夫っすよ、カオル先輩、こんな奴らにカオル先輩が負けるわけないじゃないっすか」
そういうと、翔平は熱く、熱く、オレに語り掛ける。
「い、いや、でも、オレ、マジで1ヶ月ブランクあるよ?」
オレは心配そうにそう言った。
「なにいってんすか、カオル先輩、こんな奴ら、100回やって100回勝てますよ」
「いや、それほどでは」
「大丈夫っす、オレが太鼓判押しますから」
なんか、後輩から太鼓判押されちゃったよ、オレ。
オレは先程、自分の部屋から後先考えないで飛び出した後、気が付いたら、この、小学校2年生から所属していたAC南多摩の
ピッチに立っていた。
さっきから熱くオレに話し掛けているのは、今度の新キャプテンの矢沢祥平。熱さが売りのナイスガイだ………まあ、今時ナイスガイもないけれどね………でも、結構好きよ、こういう熱い奴。
オレは、ほぼ1ヶ月ぶりに味わうボールの感触を確かめながら後輩とのボール遊びに戯れる。
30分後、完璧に息が上がったオレは、ピッチの横の芝生の上に寝ころんだ。
「わりい、翔平、二回ボール取られちゃった」
横を見ると何だか申し訳なさそうに、スポーツ飲料を飲んでいる後輩が二人いる。
「なにいってんすか、カオル先輩。オレマジカンドーしました。先輩のマタギ。全然鈍ってないじゃないっすか。今すぐにでもバリバリ全開にいけますって」
熱く熱く熱弁を振るう、愛すべき後輩。うん、オレ、こういう奴結構スキヨ。
「あー、でも、攻撃は大丈夫かもしんないけれど、守備には戻れそうにないよ」
そういうと、オレはへらへらと笑う。
「じゃあ、大丈夫っすよ、カオル先輩、オレが守備全部やりますから、カオル先輩は攻撃だけしてくれればいいっすよ。オレ、カオル先輩と又一緒にサッカーできるんだったら、なんだってしますから」
そういうと、愛すべき後輩は、暑苦しいほどオレに迫ってくる。………うーん、ここに来たのはちょっと失敗だったかな。
すると、翔平はグランドの周りを走っている一年坊主達に檄を飛ばす。
「オーイ、一年、もっとしっかり走れー、そんなんじゃ、今度の多摩川デルビー、また負けちまうぞー」
我が誇、ロッソネロのユニフォームに身を包んだ幼き勇者達は‘ウッス’と答える。うーん、ホントに熱い奴らだ。
すると、翔平はオレの横に座ると、自分のスポーツ飲料を飲み始めた。多摩川の初秋の風が心地よく俺たちを包んだ。
「なあ、翔平。実際、今度の多摩川デルビーってどうよ」オレは翔平に尋ねる。
「勝ちます。ウス。マジ勝ちます。やつらギッタギタにしてやります。ウス。任して下さい」
そういうと、オレの顔5センチのところまで来て、熱心に語り掛ける。オイオイつばが飛んでんよ、翔平。
「じゃあ、頼んだぞー翔平」
「任して下さい。オレ、カオル先輩の為に絶対に奴らぶちのめしてやりますよ」
「いや、いいよ、そんなに気負わなくってもさ」
「なにいってんすか、オレ、マジ悔しいっすよ、先月の先輩の試合、あんなのやってらんないっすよ」
そういうと、オレは先月の中学最後の試合を思い出した。
「………まあ、あれもサッカーってやつだ」
そういうとオレは翔平の背中をポンポンと叩いた。
「なにいってんすか、先輩、奴ら汚いっすよ。大体カオル先輩が完璧に2点取ったのに、奴ら、わけ分かんないPKとハンドでの二点とって、おまけにPK戦で敗退なんて、納得できないっすよ、マジやってらんねーって感じっすよ。絶対やつら、審判に金渡してますよ」そういうと、今にも泣きそうな顔でオレに迫ってくる、カワイイ後輩。うん、やっぱしスキヨ。こういう奴。女だったらマジ惚れてる。
「まあ、オレが、もう一点とってりゃ、負けなかったんだから。ワリーな、翔平」
「す、すいません、オレ、そう言う意味で言ったんじゃなくって………」
途端に狼狽する翔平………うーんカワイイ奴だ。
「まあ、いいって、いいって、そのお陰で受験勉強さっさと切り替えられるんだから」
すると、翔平はなにか言い辛そうにモゴモゴと覚束ない。
「そ、そ、その、カオル先輩。どこのセレクションも受けないって………本当っすか」
ああ、もう、そんな噂が出ちゃってるんだ。
「ああ、そうだよ。一般入試一本だ」
そう言うとオレはグッと腕を上げて力こぶのポーズ。
「さ、先にいっときます。すいません、勝手言っちゃって申し訳ないっすけれど………」
「なんだよ、翔平」
大体コイツの言いたいことはわかってる。もう、他の奴にも何度も言われたんだ。
「自分納得いかないっす。カオル先輩ならどこのセレクションだって受かるじゃないっすか。で、国立だってどこだってねらえるじゃないっすか」
「………そんなことねーよ。大体おれ、ナショナルにも呼ばれて無いんだぜ、評価しすぎ、おまえオレのこと」
そういうと、オレはケラケラと笑った。ああ、どっかの誰かみたいだ。
「で、でも………」
翔平はそれでもまだなんかいい足りなさそうだった。
オレはそんな翔平無視してそのままゴローンと横になった。
多摩川の草の匂いと川の音。見上げるとどこまでも青い夏の空が残っていた。

そうしてオレはあの日のことを思い出すんだ。
………7年前
小学二年生のオレは、クラスのみんなから馬鹿にされていた。
「へーん、カオルの男女が変なこといいやがったぞーー」
偏差値の引くそうなガキがオレのことを馬鹿にしてる。
「な、な、なんだよ」
オレはちょっとビビリながらも反論する。まあ、ビビッているのはちょっとだけだよ。マジマジ。
「あのなー、いとこ同士は結婚なんか出来ないんだよバーカ!!!」
「………………うぞ!!!」
オレは開いた口が塞がらなかった。
原因は些細なことだった。
その偏差値が限りなく底辺に近そうなガキがオレに向かって言ってきやがったんだ。
「なあ、そこの、男女!今度おまえんちの隣にすんでいる、あの子紹介しろよ」
その、鼻を垂らした、限りなく品位の欠片の欠片さえないクソガキがオレに向かって命令してきた。どうやら、さつきに一目惚れでもしたらしい。挙句にこのオレ様を男女だって………ぶっころーっす!!!
オレはまあ、小学二年生なりの頭脳をフル回転させて、このクソガキになんとかカウンターパンチを叩き込もうと画策する。
すると、頭の上にピカーンと豆電球がともったんだ。表現が古いって………ほっとけ。
まあ、コレは今まで誰にも言ったことはないし、二人だけの秘密だったんだけれど。そのサルよりも知能指数が低くそうなクソガキに言ってやった。
「ああ、残念だったな。さつきとオレは婚約してるんだよ」
そう、オレは西里にプロポーズされた後、男にプロポーズを迫られたままでは気色が悪いので、その次の日にさつきにプロポーズしたんだ。まあ、当の本人は、その次の日に風邪で熱出して、治ったときには忘れてたけれど………ちょっとショック!!
すると、クラスの中が一瞬静まり返る。まあ、そりゃ、そうだよな。小学二年生で婚約だなんて………でも、事実だし、それにさつき相手なら、みんなから囃し立てられてもバッチコーイだ!!
そしたら、冒頭の話にもどるんだよ。
その、犬よりも知能指数が低そうなそのオスガキは、「いとこ同士で結婚なんてできないんだぜー!!バッカでーい」ってまるで鬼の首でも取ったようにはしゃぎだしやがった。………クソ、シネ!!!
すると、直ぐにクラス全体に広がって、さつきとの中を囃し立てられるどころか、それ以前の段階でみんなから馬鹿にされる始末。
純真無垢だったオレは、それをそっくりそのまま信じちまいやんの………うーん、おれって素直!!!
けっこうトラウマだったのよね、それって。まあその日はそれで終わったしさ、それに、風邪引いて休んでいたさつきにも負担掛けたくなかったから………ああ、さつきのやつさ、今はそうじゃないけれど、小さい頃から病弱で………喘息ってやつだよな。あれ、すっげー苦しそうでさ……一回オレ、そんときの発作みちゃったら、オレのほうが泣いちゃって「さつきちゃんが死んじゃうよー」っておばちゃんを呼びに行ったんだよ」まあ、そんときはたいしたこと無かったんだけれどね。
………で、なんだっけ、あ、そうそう、で、そのことをさつきになんかいえなくって……そのまま、婚約したしないの話は出なくなったんだけれど………オレの心の中にはその時に、ああ、オレはさつきとは結婚出来ない関係なんだ……って漠然と思ったんだ。
ってかさ、自分で犬より知能指数の少ない奴って言ってるのに信じるなよ……オレ……犬より下ってネズミ並みかな……まあいいや。
ともかく、そう言う風に勝手に信じちゃったんだよ。で、それが間違いだって気付いたのは、中一の時に葉月ちゃんとメールのやり取りをしてるときに「ねえ、カオルちゃん、いとこ同士だって結婚できるよのって」………うーん、今ではなんの話でそうなったか思いだせないや。思いでのマイスウィートハニー………葉月ちゃん………
え、今、葉月ちゃんと、どうなったかだって………まあ、そりゃ、若い者同士、遠距離ってのはさ………東京と大阪ってのはさ、俺たち中学生にとっては、地球と月よりも離れてるんですよ!!!察しろよ、このバカヤロウ!!!!古傷をえぐるな……シネ!!!
えーっと、なんだっけ、……あ、そうそう、そんなわけで、オレは気が付いたらさつきのやつはその……小学生の2年生以降は、完全に恋愛の対象から、無理やりにはずしてたんだ。うん、完全なるオレの早とちりでさ………まあ、若かったんだ。かんべんな。
そう、最近そんなことをしょっちゅう思い出す……ってか、思い出さざるえない状況になっちまったんだよ、コレが……ちぇ。
そんな感じでオレが完璧に自分の世界に入っていると、愛しの後輩が……ってもオレはホモじゃありませんよ、ざーんねん……あはははは。まあ、いいや、その翔平が話し掛けてきたのよ。
「カオル先輩……カオル先輩って学校どこねらってんすか?バリバリの進学校?それとも、地元に進学してJのユース」
オレは正直に言ってやった。
「さぁ?」
すると、翔平の奴も頭の上にははてなマーク
「ど、どういう意味っすか!!!」
ちょっとムッとした顔をする、我が後輩。
「い、いや、ほんと、まだ決まってないんだ……アハハハハ」
「わ、わけわかんないっすよ、カオル先輩」
「でもな、翔平……オレさ……強くなろうと思ってんだ」
「………はぁ?」
そういうと、再び頭の上にはてなマークを浮べる愛しの後輩。
「強く……っすか」
「ああ、強くだ!!」
すると、また俺たちの背後から、多摩川の秋風が吹いてきた……それでも、まだ、あたりには夏の欠片は残っていてさ………
……なあ、そうだろ、西里、さつき……オレはもっと強くならないといけないんだよな。

オレは、汗まみれの体で玄関のドアを開ける。見ると、さつきの靴だけがまだあった。
………あいつ、まだいたんだ
オレはそんなことを考えながら、そのままバスルームに行ってシャワーを浴びる。
汗をかいて火照った体に、冷たいシャワーが心地いい。
オレはシャワーを浴びながら目の前にある鏡を睨み付ける。
ああ、この顔は負け犬の顔だ………と思った。
こんなんじゃ、強い男なんかになれないな………とも思った。
こんな顔している男じゃ、あいつを守ってやれないな……と強く思った。
オレはシャワーを浴びたままおでこを鏡にぶっつける。
’ゴツン’という心地よい音が頭のシンまで響いてきた。
こんなんじゃ、だめだよな……オレ
うん、こんなんじゃ、ぜんぜん、だめだよな……オレ
オレはそのままシャワーを浴び続ける。
すると、いつかみた、お母さんの大好きなアニメの一シーンを思い出した。
「お母さんは、あのアニメがとっても好きで、もしかしたら、そこからお前の名前取ったかもしれないぞ」
っていつかお父さんがニヤニヤしながら言ってたっけ。
なんだよ、母さん、オレの名前、ロボットアニメから取ったのかよ。ひでーなー、オイ。
まあ、でも、弱気になったときにさ、あの主人公と同じセリフいうとさ、なんか勇気が湧いてくるんだよね。
ははは、単純ジャン、オレ!!!
オレはいつものように儀式を始める。
頭をゴッツリと鏡に付けて、両方の掌も鏡にくっつけると。自分自身に言い聞かせた。

逃げちゃダメだ!逃げちゃダメだ!逃げちゃダメだ!逃げちゃダメだ!逃げちゃダメだ!
逃げちゃダメだ!逃げちゃダメだ!逃げちゃダメだ!逃げちゃダメだ!逃げちゃダメだ!

一息でそう一気に言い切る。
息が続かなくなって、ハアハアと呼吸を繰り返すと再び自分に言い聞かせる。

逃げちゃダメだ!!逃げちゃダメだ!!逃げちゃダメだ!!逃げちゃダメだ!!逃げちゃダメだ!!
逃げちゃダメだ!!逃げちゃダメだ!!逃げちゃダメだ!!逃げちゃダメだ!!逃げちゃダメだ!!
逃げちゃダメだ!!逃げちゃダメだ!!逃げちゃダメだ!!逃げちゃダメだ!!逃げちゃダメだ!!
逃げちゃダメだ!!逃げちゃダメだ!!逃げちゃダメだ!!逃げちゃダメだ!!逃げちゃダメだ!!

また息が途切れる。さらにもう一度呼吸を整えて、オレは一気に言い放った。

逃げちゃダメだ!!!逃げちゃダメだ!!!逃げちゃダメだ!!!逃げちゃダメだ!!!逃げちゃダメだ!!!
逃げちゃダメだ!!!逃げちゃダメだ!!!逃げちゃダメだ!!!逃げちゃダメだ!!!逃げちゃダメだ!!!
逃げちゃダメだ!!!逃げちゃダメだ!!!逃げちゃダメだ!!!逃げちゃダメだ!!!逃げちゃダメだ!!!
逃げちゃダメだ!!!逃げちゃダメだ!!!逃げちゃダメだ!!!逃げちゃダメだ!!!逃げちゃダメだ!!!
逃げちゃダメだ!!!逃げちゃダメだ!!!逃げちゃダメだ!!!逃げちゃダメだ!!!逃げちゃダメだ!!!

プハァーッ、オレは息止まりそうになりそのまま膝を付いた。
苦しい、息がとっても苦しい。でも、体に降り注ぐシャワーがとても心地いい。
うん、さっきよりも勇気が湧いてきた。うん、よかったら、おまえもやってみな。もしかしたら、今よりは少し
勇気が出るかもしれないし………あ、でも、人前ではやるなよな、以前それやって、大恥かいたんだ………オレ


オレはシャワーを浴び終えると、リビングに戻ってきた。
みると、さつきの姿が見えない。………っかしーな、あいつの靴、玄関にまだあったのに。
オレはお母さんに聞いてみる。
「お母さーん、さつきのやつどこにいるの」
ふと、嫌な予感が頭をよぎった。まさかな………まさかだろ、さつき。
オレは階段を駆け上がる。よくよく考えたら、さっきPCを付けたまま部屋をとびだしたんだっけ
あんなもん………さつきにだけは見られてたまるか。
オレは息せき切ってドアを開ける。
みると、涙をためたさつきが振り向いていた。
さつき………まさかおまえ………
オレは怒鳴りつけたくなる衝動をどうにか抑えながら、冷静に極めて冷静にさつきに問い掛けた。
「なあ、さつき、おまえなに人の部屋勝手にはいってんだよ」
久しぶりに見る幼なじみは、予想以上に小さく見えた。
……なあ、さつき、それって、オレがでっかくなっただけだよな。お前がちっちゃくなったわけじゃあないんだろ。オレは願った。
「あ、鍵が開いてたからはいっちゃった……アハハハハ」
見ていて痛々しくなるような笑い方だ。昔のあの無邪気そうな笑みはどこかに消えてしまった。オレは何でか心の奥底からフツフツと怒りがこみ上げてくる。………どうしちゃったんだろうな、俺たち。
「テメー泥棒かよ?鍵が開いてたらどこでもはいんのかよ!!」
………じぶんの思っている以上にキツイ言葉が出てくる。………つらいよ。
「あ、あははは、ご、ごめんね、かおるちゃん」
………もう、その痛々しい作り笑いは止めてくれよ、さつき、お願いだ。
すると、さつきの目の前にはパソコンのディスプレイが点灯していた。瞬時にオレの頭の中になにも触ってなかったらスクリーンセイバーになってなきゃいけないのに………との思いが浮かび上がる。
「って、てめえ、なに人のパソコンみてんだよ!!!」
あれだけはさつきには見られたくなかったんだ。だってそうだろ、あれはオレなんだから。
「な、なんにもみてないよ、かおるちゃん」
さつきのその必死さにオレは確信した……ああ、見られてしまったんだ……と。
「………出てけよ、さつき」
さつきが今にも泣きそうな顔になっている………ああ、こんなことは言うつもりはなかったのに……口が止まらない。
「………うん」
「さっさと出てけよ」
「………ごめんね」
オレはさつきの顔を見る。久しぶりに見るオレの幼なじみは、悲しいくらいに小さくなってしまったのだ。
おれは………おれは、いままでの、全ての思いを叩きつける。
「なあ、さつき、おまえふざけんなよ!!」
なあ、わかっているのか、さつき、オレの気持ちがわかっているのか。どういうつもりで今あの話をかきあげているか、わかっているのか?なんで、オレがサッカーの推薦の話全部けっ飛ばして、受験勉強しているのかわかっているか?全部お前の為なんだぞ!わかっているのか!!お前の学力に合わせて、お前が行く学校どこにだっていけるようにしているのをお前はわかってるのか!!
………なあ、さつき、オレしってんだぞ、おまえ、西里に相談したろ、もうオレの前から消えようと思うって………なあ、さつきふざけんなよ、オレから逃げられるなんて思うなよ。お前が地の果てまでってんなら、オレも地の果てまで追いかけてやる。お前が空のかなたまでってんなら、オレも空のかなたまで追いかけてやる。お前一人にならないように最後まで一緒にいてやるから…………なあ、さつき、だからオレいま強くなろうとおもってんだよ。
頼むから、もう少し、後もう少しだけまっててくれ。たのむよ…………おねがいだから………さ。
さつきは逃げるようにオレの前から消えていった。母さんに簡単な挨拶を済ませると、正面のさつきの家に逃げ込むように入っていった。オレはその様子を窓の隙間から眺めてみてる。なあ、さつき、俺たち、どこでまちがっちゃったんだろうな………

オレはパソコンのディスプレイを睨み付ける
………なあ、西里、この本ちゃんと役に立つのかよ

オレはパソコンのディスプレイを睨み付ける
………なあ、西里、この本ちゃんと役に立つのかよ。なあ、もう、俺たち時間が無いんだよ。わかっているのか。今度の三者面談でささつきの奴、進路確定する気らしいんだよ。なあどうするよ。おれ、普通に入れる学校だったら、世界中のどこだって無理やりに付いていくつもりだったのに、さつきのやつ、全寮制の女子校を希望してるんだってさ、おまけに留学希望まで志願しているらしい。
そりゃさ、自分の夢のためならってんなら、オレだって応援してやるけれど………違うだろ。あいつ、オレから逃げ出したいだけだろ。オレが未だにあの日のことを受け入れられないからあいつは苦しんでんだろ。………そうだよな、西里。くやしいけどさ、もう、さつきの本心受け止めてくれる奴ってお前しかいないんだよな………ちくしょー。
そりゃ、さつきがお前のとこにいくんなら、オレだって諸手を上げて応援するけれど………消えるつもりなんだろ、あいつ、俺たちの前から消えるつもりなんだろ………ふざけんなよ、オレを舐めるな、一ノ瀬さつき!!
何度だって潜ってやるよ、俺たちが離ればなれになったあの日な。
なあ、さつき、まってろよ、直ぐだ。直ぐに迎えに行ってやるからな!!首根っこ洗って待ってやがれ!!!

オレは歯を食いしばって思い出す。俺たちが離ればなれになったあの日、俺たちがバラバラになったあの日を
さっきは辛くなりすぎて逃げ出したけれど、もう、逃げないから安心しろ、オレ!!!!

オレは思い出す。
そうだ、さくらとさつきがオレを羽交い締めにしたんだよな……うん、大丈夫だ。
オレは必死で足をくねらせて逃げようとしたんだ。だってすっげーいたかったんだもん。
さつきがさ、オレの……ああ、そうだよ、オレのチンコを握ってさ、無理やり剥こうとしてるんだよ。
こういうのをおもちゃにされるっていうんだな………オレ思い出したよ。こういうのを嬲られるっていんだよな……でもな、嬲るって男 女 男 って書くんだぜ。そこのお前どう思う?
オレは、泣いたよ、怖えーもん、痛かったのがこわかったんじゃないぜ、………まあちょっと強がりだ、気にするな。ホントに怖かったのは、さつきの顔がこわかったんだよ。なあ、さつき、おまえ、オレのことおもちゃにしてたのに、どうしてそんなに悲しい顔してたんだよ。どうして、そんなに辛そうな顔してたんだよ。なあ、いつかオレにも教えてくれよ。あんときのお前の顔って、この前美術の教科書でみたお釈迦様に帰依するまえの鬼子母神の顔そっくりだったぞ……鬼子母神って知ってるか?あれ、すっげーツライお話なのな……さつき……おまえ知ってるかな。
うん、俺が言いたいのはとにかくお前が辛そうにしてたってことだよな……うん、あんときは気が付かなかったけれど………それでお前はその、オレのを剥いたんだよな……ああ、スッゲー痛かったよ、だってオレも知らなかったんだもん。あんなんなるなんてさ。
お前はオレの剥いたチンコをいじってたな、でもさ、なんであんな泣きそうな顔してたんだよ……でも、今なら何となくわかる。
ゴメンな、さつき、オレずーっと無神経だったんだ。一番最初に葉月ちゃんのこと相談したのが、プロポーズした女の子なんだもん。そりゃバチがあたるわけだ………あはははは。それから、チンカスって……あれ、人から言われるとスッゲー恥ずかしいんだよな。なんてったって、チンカスじゃん、語幹がもう、ダメダメって感じだよ。マジへこむし……あははは。ああ、大丈夫だどうにかここまでやって来た。そうだ、葉月ちゃんがずーっとオレの顔を見て、手を握ってくれてたんだよな………ああ、あのときのお前の悔しそうな顔はもう忘れないよ……ごめんな、あんな顔させちゃって。
そしたらさ、おまえ……おれのちんこスッゲー勢いで拭き始めて………おれ、スッゲー抵抗したらさ………「あんた、男でしょ、我慢なさい!!!!」ってお母さんみたいなこと言われちゃった………あははは。そうそう、一応感謝してるんだぜ、ほら、今までお風呂でも剥いて洗ったことなんてなかったんで、キレイになるジャンちんこがさ………アハハハハ。なあ、さつき、そう言うことにしとこうよ………もう………
で、やっと終わったとおもったら、今度はお尻の穴って………さつきさん、マジッすかーって感じ。そんときのお前の顔ったら、なかったぜ、なんか、おもちゃを取り上げられた子供がさ取られまいと必死にしがみつこうとしている顔で………なんだか見てて、すっげー悲しくなっちゃったんだよね………なんでだろ、だからオレも、もう、なにも言わなかったんだ。でもさ、ケツの穴見られるのってスッゲー恥ずかしいのな、もう、頭のてっぺんから湯気がでそうになるくらい………そうそう、あれ以降、お前以外に見られたことなんて誰にもないんだぜ………まあ、当たり前か
………うーん、でも、まあ、いま思い出しても、それほど、もう、ダメダー!!!って感じじゃないな……けっこう冷静に思い出せるし………こんなのがトラウマ?まあ、好きな女の子にいじわるされるだなんて………まあ、よく聞く話ジャン………そう、よく聞くよく聞く、うんうん………無理やり納得しれるけれどな……あはははは。
そう、今では笑い話だろ。そうだろ、さつき。笑い話にしようよ、もうさ………
おれさ、まあ、正直言うさ、ほら、けっこうショックだったんだよ。まあ、そうだよな、女の子に囲まれて解剖だもんな!普段‘男は男らしく’がモットーのオレが女の子の前で赤ん坊みたいに泣いちゃってんだもんしかも、チンコ丸出しにしてさ………あ、自分でいってて、ちょっとおちこんだ………あはは、ウソウソ。
でさ、そういうの、トラウマっていうんだってな。でさ、オレ、本屋さんとかに行ってそう言う関係の本、何度か立ち読みしたんだよ。‘心の傷’とか‘トラウマ’とか‘虐待’とかの単語が載ってる本………あ、おまえ、オレのことジャンプとコロコロしかみてないって思ってるだろ…………ん、中三にもなって‘コロコロ’って……なに笑ってんだよ、そこのおまえ!!コロコロはオレのライフワークで、アレには夢と希望がたくさん詰まってるんだよ。オレの勝手だ、ほっとけ!!!
………って、まあいいや、話が横道にそれちゃったな………まあ、オレが言いたいのは、オレだって、いろいろ本くらい読んでいるんだよ。読書家のお前にはかなわないけれどさ………
で、ああいう本みたら、なんか、もう、スゲーのな、見てるだけで落ち込んじゃうんだ、実の両親に殺させ掛かったり、飢え死にさせられそうになったり………もう生き死にの問題なのよ……で、性的虐待………ってやつ……そう言うのも読んできたんだけれどな、あれ……きついな、読むとすげーウツになるのな………ヤバイよ、あれ、正直おれ、臆病だからさ、世の中には知らなくていいことがあるってよくわかった。
………なにが言いたいかって?だから、俺が言いたいのは、ああいう人達の経験に比べておれのあんな経験は犬にかまれたどころか、アリンコにかまれたよりもちっちぇーんだよな。だってそうだろ、オレと同じとくくらいでレイプとかって………おれその人の立場になったら、………どうだろ、ごめんな、ぜんぜん想像つかないや………こういうところがよわいんだな………あはははは。
まあ、はっきり言ってさ、女に囲まれて解剖されたって、その女の子ってのも、好きな女の子三人に囲まれて解剖されたんだから、ある意味ハーレムじゃん。な、そうだろ!!ハーレム、ハーレム。そういうことにしよう、な!!………ん?どういう内訳かって?……そりゃ、まあ…………って、興味があるとこそこかよ………まあいいさ。えーっと、葉月ちゃんと、みさき姉ちゃんとさつき、お前だよ!!三人とも好きな女の子だよ、文句あるかよ!!え、気が多いってか?ほっとけ!!だからバチがあたったんだ……ってか………シネ!!!
……じゃあ、アニキはとさくらは……いやに突っかかるね、そこのお前……わかったよ、一人一人全部言うよ、ったくしっつけーなー。
アニキは尊敬している人物、で、さくらは………ごめん、正直ちょっと苦手なんだ。正直だねオレも……ってかさ、さくらとは4年生になる前は、クラブでもそこそこ仲がよかったんだよ。まあ、男と女とはいえ、二人ともサッカーでは一緒にプレーすることがあるからな!!オレはどちらかって言うと、サイドから駆け上がってクロスあげたり、ドリブルで突っかかったりするタイプなんだけれど、さくらってアレじゃん、ラインの裏取るの専門で………あと、ご自慢のダイビングヘッド………ってかさ、さくら、お前も女の子なんだから、ポストがあるのに、平気で突っ込むのやめなさいよ、顔怪我したらマズイでしょ……あはははは。でさ、まあ、4年になる前はカオルちゃんココ、ココ、って練習でサイド駆け上がると必ずニアにはいって、ボールを要求してくるの。いちおう、AC南多摩のホットラインって言われたこともあったんだぜ。オレがサイドでクロスあげてさくらにアシストしたり、上がったボールをポストプレイでオレの足下におとしたり……ほら、練習試合とかでは男女混合でやったりするじゃん、ってか、さくらはそこらへんの男子よりも全然うまいしな………あ、ゴメン今思い出したよ、そういや、さつき、おまえさ、さくらと仲良くって、いつかオレに、私もさくらちゃんみたく、かおるちゃんのクロスを‘バチーンッ’ってゴール決めたいんだよねーってスッゲー羨ましそうな顔していってたっけかなー。その頃、病弱なお前は、学校の体育の授業でさえも欠席が多かったんで、ガキだったオレは、デリカシーの欠片もなく、アハハハハ、ムリムリってお前に言っちゃったんだよな。そんときのお前の悲しそうな顔、いま思い出しちゃったわ……うわ、マジ、へこむ。……バカジャン、オレ。
………そうだな、タイムマシンがあったら、あんときのオレの前に行って、とりあえず、頭引っぱたいておくわ。よし、コレも候補に入れとこう。メモしとかなくっちゃな。いつかタイムマシンができたら、やっておきたいリストつくってさ………

うん、よし、じゃあ息抜きはこのくらいにして………、一気に行くぞ、深く潜るからな。……さつき……直ぐに行くから、待っていてくれよな。
オレは、大股開きの………この前先輩から……その、エロ本を借りてさ………まあオレも年頃の男子ってことで、大目に見ろ。で、そのエロ本で知ったんだけれど、大開帳!!ってポーズな、大股開きでお尻あげて……………………………………………………………うん、だいじょうぶ~~~。ヨシ!!立ち直った。で、その大開帳ポーズしてたらさ、こう、さつきがかぶりつきながら………これも、その先輩から、教えて貰った知識です。はい、なんか文句がありますか。まあ、あっても認めません。次行きましょう。
大開帳ポーズのオレをさつきがかぶりつきながら見られてたら。壁に掛かった時計から、ボーン、ボーン、ボーンって三つ鐘の音がなったのよ………その音を聞いた瞬間、ああもうダメだって思ったんだ。
 なにがダメかって、うん、もう、試合に間に合わないと思った。だってそうだろ。どんなにチャリンコすっ飛ばしても、着替え全部終わらせても、メンバー確認の点呼の時間に間に合わないジャン。せっかく監督から先発事前に言い渡されてたのに………ああ、もうだめだ……ってか、スッゲーみんなから文句言われるし、信頼裏切っちゃったって感じだよな。ここまで、信頼積み重ねたのに、なくすのなんて一瞬だって、そん時思った。で、オレは、大声で泣いちゃった。
そしたらさ、お前がきいてきて、なんで悲しいのって、お前も泣きそうな顔で聞いてきたんだ。なあ、さつき、おまえ知ってたか?お前がそんな顔してただなんて。
「なにが悲しいの?」って
うん、たしかお前、そう言ったよな。うん。
おれ、ショックで何も言えなくって首を振ってた。
そしたらさ、葉月ちゃんが気を効かせてオレにパンツを履かせてくれたんだ………ああ、思い出したけれど……それは、それで、かなり恥ずかしい…………
で、お前がすっげーこええ顔して問い詰めてくるから、言ったさ。
「もう間に合わない」って………
その時、西里からさつきのケータイに連絡が入ったんだ。
そう、さつきの奴は、クラスでも数少ない携帯の持ち主だった。ってのもさ、さつきってさ小さい頃から病弱であんまり外にも出られなくって、で、おばさんが比較的早い時期にケータイを買ってあげてたんだけれど………うちのクラスではケータイ持ってる奴、西里くらいしかいなくってさ、その頃の思い出は、よく一人でケータイのゲームをいじくっていたさつきの姿が記憶にあるんだ………なあ、どうなんだろ、滅多にだれからも掛かってこないケータイって奴は………そりゃ、今ではオレの周りではケータイはみんな持ってるけれどさ、滅多に連絡の来ないケータイを持ち続けるってのは、それはそれで、けっこうツライものがあるかもな………まあ、そんなことは、この年になってわかったわけで………なあ、さつき、オレいつだってお前からメールが来てもいいようにいつだって電源はオンにしてんだぜ、オレのアドレス知ってるよな……ほら、何度かメール送ってるんだからさ………
未だにお前からは一度も来たことがないけれど……
で、さつきが電話に出て何か西里と二言三言はなしたら、顔真っ青にしてオレに電話よこしてきた。オレは必死に泣いていることを悟られないように………まあ、でもべそかきながら電話に出たんだ……で、その途端
「オイ!カオル!!お前、どこにいるんだよ、さっきから監督が探してるぞ!!」って
オレは、正直、泣きながら答えたんだ
「ごめん、今日はいけそうにない」って
「おまえ、何いってんだ、今日は多摩川デルビーだぞ!!」
「ごめん、……ごめんなさい」って
「……わけわかんないよ、今どこにいるんだよ」
「………さつきの家」
「……………………」
うん、お前もわかってくれたよな、もう、メンバー票渡す時間に間に合いそうもないって
「ごめん………」
「なあ、オレがなんとか、いっとくからさ、とりあえず、来い……な」
「……………」
オレは何も言えなかった。だって、大切な試合に遅刻してのこのこいけるわけねージャン。
「……………試合にいけなくって、ごめんなさい」
おれ、正直泣きながらそう言ったんだ。その途端、アニキがスッゲー勢いでオレの持ってたケータイをぶん取りやがった。その反動でオレは布団の上にまた、コテンって………あはははは。
「なあ、西里、今、カオルが言った、試合ってどういう意味だ!!!」
いきなり、アニキがケータイにむかって怒鳴りつけた。電話の向こうで目を白黒させている西里の様子が目に浮かぶ。
「…………………ああああ!!!ふざけんなよ、きーてねーぞオレ!!!!」
うーん、オレって言葉がアナタほど似合う女性を見たことがありません。アニキ!!!
可愛そうにに電話の向こうでベソでもかいてんじゃねーのか………あいつ。
そう、西里の奴は、素敵な顔に似合わず、ときたま素敵なおっきょこちょいなことをやってくれます。本来なら、女子部の連中にも試合のスケジュール教えなきゃならないのに、完璧に忘れてたみたい……ってか、おれも、アニキにちゃんといっとかなかったってのもいけなかったんだけれどね………でもさ、オレも知ってると思ってたんだよ、で、直ぐに終わると思ってたんだよ。
で、相変わらずアニキ、ケータイに向かって怒鳴りつける。
「ああ、メンバー票の提出ってあと、何分だ!!!」
「三時半だって!!!」
うーん、なんか、その様子見てると、刑事ドラマ見てるみたいっすアニキ!!
「ギリギリまで時間稼いどけ、このマヌケ!!!」
そういうと、たちどころにケータイの電源を切ったアニキ。うーん、オットコマエー!!
俺たちはみんな呆然とした顔でその様子を眺めていた。
オレは布団の上でぺたんと女の子すわり。………で、両手でこう、ウエーンって感じで涙ぬぐってた。うん、おれってかっわいー。
そしたらさ、アニキが近づいてくるの……てっきり、「ゴメンなカオル、こんなことに巻き込んで」って……うん、まあそんな感じで慰めてくれるかと思ったんだ。で、オレはアニキの熱い胸板に抱かれて泣き濡れる…………うん、立場が逆だよな、ほんとにさ。
で、アニキが目の前まできたんで、ウエーンっていいながら抱きつこうかと思ったら…………いきなりアニキったら、オレの胸倉掴むんですよ、お客さん!!!マジマジ。オレは激しくキョトン顔。「え、なんで?」こういうときは優しくハグでしょ、ねえアニキ。
その途端、仁王様のような顔、もしくは不動明王みたいな顔、もしくは…………まあ、そんな感じで………睨み付けてるのうん、マジチンコ縮まっちゃった。良かったーパンツ履いてて、葉月ちゃんに履かせてもらってなかったら、縮こまるどころか、なかにめり込んでたのを見られちゃってたよ。大好きな女の子三人に、うん、間違いない!!!
で…………
「デメー、サッカーなめんなよー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
ですって、聞いてくれた?お客さん。私ったら恥ずかしながら、ちびっちゃいました。うーんパンツ履いていたのは失敗か………
「な、な、な、なんで?」
口をパクパクしているオレ。浜辺に打ち上げられた魚みたい………うん、なんか比喩表現までうまくなってきたな。文才あるんじゃん、オレ!!!
えーっと、思いっきり泣きながらアニキに質問。
「テメー、なに試合バックれて、こんなところで油売ってるんだ!!!!」って
もしもし、アニキ、呼び出ししたのはアニキですよ。
「だって、だって、アニキが………」
そう言いながらエグエグしちゃっているオレ。うん、かわいいねー。
「試合以上に大切なものが、この世にあるのか!!!このゲロヤロー!!!」ですって……聞きました?奥さん?オレさ、わるいんだけれど‘ゲロヤロー’なんて言われたこと後にも先にもアレ一回こっきりデスよ………ってか、これからも絶対に呼ばれたくありません。
オレ泣き出しちゃった……うん、正直さつきのアレより全然怖えーよ………ってか、トラウマってもしかしてコレ?………んなわけねーか、アハハハハ。
そしたら、アニキもう、こいつ相手にならないって感じでオレを布団の上に投げつけて、オレはそのままボフンって感じでああ、本当に可愛そうなオレ……で、アニキがさつきに命令した。
「さつきー!!!このバカの家いって、さっさとユニフォームとスパイク持ってこい」って。
呆然としてたさつき………なんか泣いてたけれど………あ、そうだ、おまえ、あんとき泣いてたよな………なんでだよ。
うんうん、って感じで必死に頷いて、涙も拭かずに立ち上がって飛び出そうとしたら、アニキが呼び止めたんだ。
「あ、ちょっと、まって、サツキ、アウェイの方な、今日はいつもの赤と黒じゃなくって、白と赤のユニフォームな!!!」
「ハイ!!」って行って、疾風のように走り去ってゆくオレの幼なじみ。ちなみにオレは布団の上でまたぺたんと女の子すわり。
ってか、直ぐにユニのホーム、アウェイまで気が回るだなんて、さすがアニキ………体の中に赤と黒の血か流れてるんだぜとか周りの選手から伊達に言われてないっすね、マジ、リスペクトっす。
そしたら、アニキがやっとオレを慰めてくれた。
「ごめんな、カオルちゃん、オレ、てっきり来週に延期されたと思ってたんだ、ゴメン」そういって頭を下げてくれるアニキ。
アニキー、アニキー、マジ、オレ、アニキに一生付いていきます!!!
オレは首を振って、そんなこと無いですってアニキに言った。
すると、アニキは直ぐに、みさき姉ちゃんに詰め寄った。
「すいません、みさきさん……コイツの為に車……出して貰えませんか」
それまでの展開を鳩が豆鉄砲くらったようなかおで眺めていたみさき姉ちゃん。
こくこくとアニキの迫力に押されて頷いていたが……すぐにいつものおてんばぶりを発揮
「ったりまえでしょ!!!カオルちゃんの晴れ舞台、なにがあったも、間に合わせてみせるって」そういうと、自分の胸をバンって叩くみさき姉ちゃん。マジ感謝。
そうこうしている家にさつきが必死の顔でオレのユニとスパイクを持ってきてくれた。オレは直ぐさま着替えようとしたら………アニキからちょっとストップ。
「待て、カオル、オイ」
「な、なんですか、アニキ………」
オレは今、まさにユニのパンツを履こうと片足を入れた体勢。
「テメーは、ションベン、チビったパンツで、ナンタマのユニフォーム着るつもりか」ですって、お客さん。
よくよく見ると、オレのブルーのトランクスは、そのー………チンコの周りに情けないシミが………うーん死にたい。
いや、だって、アニキにさっき首締められたとき、つい、うっかり、ちびっちゃったんですよ、まあ、そんくらい大目に見てよ……ほらなんてったって、まだ9歳のお子様なんですもん………ちぇ。
「………いや、あの、その」
オレはちょっと、顔を赤らめてのつっかえ、つっかえ………すると、
「テメーはナンタマ汚す気かー!!!!!!!!!!」
アニキの再びの怒声、その勢いに気圧されて、そのまま後にコテっと転がる、9歳のオレ。
「じゃ、じゃ、じゃ、じゃ、じゃ、どうすれば」
一応尋ねるオレ……まあ答えはわかってるんだけれどね
「んーな、きたねえパンツさっさとヌギヤガレ!!!!」
「えええーーー」と一応抵抗を見せるオレ
「ユニのパンツにはインナーが付いてるから大丈夫だ!!さっさと脱げ、このバカ!!!」
「は、は、はい」
オレは、周りの目を気にしながらおずおずと……はいそこでまたアニキの激しい怒声が……お決まりですね。
「さっき、散々みせてんだから、ちゃっちゃとぬげ、このノロマ!!!!」
「ハ、ハ、ハイー!!!」
直立不動で、軍隊の上官と部下のようなやり取りをする俺たち………うーんかっこいい!!!
おれは、周りの目をせずにちゃっちゃと着替えを済ませると、荷物を整えてくれてたのかな。さつきがオレにディパックを渡してくれた。
すると、玄関からみさき姉ちゃん声が聞こえた。
「カオルちゃーん準備が出来たから早く来なさい!!!」
「ハ、ハ、ハイー!!!!」
オレは直ぐにさつきの部屋を出ようとする。もちろんアニキもさくらも葉月ちゃんだって一緒だ!!!なのに………ああ、そうだった、さつき、お前一人部屋に残ったんだ。
オレはいったんだ、さつき、おまえもさっさと来いって。
そしたらさ、おまえ、泣きながら首をふったんだよな。
「ごめん、カオルちゃん。わたし行けないよ。ごめんなさい。……ごめんなさい」っていきなり泣きながら謝り始めたんだよ。オレ、そん時何いってんのか、全然わからなかったんだよ。オレは必死にお前にいったんだよ。うん、でも今思えば適当だったよな。
「さつきはやくこいよ!!!」オレは手を差し伸べて声を出す。
「だめだよ、カオルちゃん、あの車、店員5人なんだよ、これ以上のれないって」
そういうと、なきながらもニッコリ笑ってお前はオレに手を振ったんだ。
オレは、オレ達は……時間がなかったオレたちは……お前を連れ出す余裕なんてなくって………ああ、思い出したよ。さつき……
オレはおまえにこう言ったんだ、
「じゃ、じゃあ、あとで叔母さんにつれてもらって来いよな」って
おまえはニッコリ頷いたじゃねーかよ。
なあ、さつき、おまえ、あんとき、「じゃあ、あとでいくね」って、いったじゃねーかよ、嘘つきやがって、コノバカヤロ!!!!気が付かなかったオレはもっとバカヤロだ!!!!!!


なあ、さつき、もしかしてお前はあのときから、ずーっとそこで待っているのか?おれが連れ出すのを待っていたのか?教えてくれよ、さつき、なあ、たのむからさ……………………
なあ、さつき、タイムマシンあったら、過去に行くか未来に行くかってよく俺たち話し合ったよな、オレ、タイムマシンがあったら、真っ先に、あの時にもどって、この部屋で取り残されたお前を連れ出すんだ。決めたよ。真っ先にだぜ!!そしてお前のその手を掴んでこういってやるんだ。「なあ、さつき、おれ、今日試合に出るんだ……やっと試合に出れるんだ。だからさ、オレを応援してくれよ」って………………そう、オレはお前に見てもらいたかったんだ。オレの晴れ姿ってやつを………さ。その途端、橋の下で爆竹が鳴り響いた。
‘バババババババババーン’って
………だって、今日は平日ですよ、お客さん。そりゃ、土日になると、練習試合どころか、普段の練習でも、選手の家族の皆さんとかがピクニックがてら、多摩川にくるけれど………あんたら、みなさん、仕事はどうしたんですか………とオレはいまでも、あの人達に聞いてみたい。ってか、いまだに多摩川デルビーが雨天で平日に延期されると、あの人達くるんだよね。もうちょっとさ、大人になりなさいよアンタらも………
その瞬間、大太鼓が鳴り響くと、我が‘アソシエーション・カルチョ・南多摩’のサポーターズソングが歌われ出した。
みると、俺たちの町の応援団。南多摩ウルトラスがいる。………ってかウルトラスのみなさん。商店街がメインっていったって、わざわざ店締めてまでこなくっていいと思うぞ………ほんとうに。
‘ドン、ドン、ドン、ドン、ドン’
大太鼓がこれでもかと鳴り響くと、遂に地鳴りのような声で歌が始まった。
「戦え~!!オレのナンタマ!!!今日も勝利を信じて!!!!!弾けよう!!!!ミナミタマ!!!負けるわ~けはな~い~さ~!! たたかえ(ヒュウ、ヒュウ、ヒュウ、)~!!オレのナンタマ!!!今日も~勝利を~信じて!!!!!弾けよう~!!!!ミナミタマ~!!!負けるわ~けはな~い~さ~!!ドン、ドン、ドドドン、ドドドドン、レッツゴー!!!」
みると、アニキもさくらも葉月ちゃんでさえも声を合わせて歌っている………ってみさき姉ちゃんもか!!!え、なに、この歌、なんか暗示効果でもあんのか………その当時のオレはそう思ったが、今のオレならはっきり言える。「ハイ、アリマス」って。
すると、我が宿敵の北多摩ウルトラスからも‘インターナショナル・北多摩・フットボールクラブ’の応援歌が流れ出す。
「お~オレの北多摩~誇りを持ち~立ち上がってみんなで歌おう~ランララランラランランラランランララー!!!お~オレの北多摩(ドンドンドドドン)~誇りを持ち~立ち上がってみんなで歌おう~ランララランラランランラランランララー!!!」
ああ、もう、応援合戦が始まってしまった。みると、もう、ピッチではアップをしている選手が何人もいる。
すると、赤い煙が上がり出す。その頃は火事かと思ったけれど、今では直ぐにわかる。ってか、少年サッカーで発煙筒焚くなよ、お前ら!!!
オレはアワアワと狼狽え始める。どうしよう、どうしよう。車から降りて走るのか、それともこのままのほうがいいのか?するとさらに応援歌が続いてゆく。
「赤、黒、しーろの、軍団ー、ららーらららーららららららー、赤、黒、しーろの軍団?ららーら北多摩ブットバセ!!!!!」
すると、それに呼応するように青と黒の軍団からも応援歌が流れ出す。
「ウィーアー北多摩、ウィーアー北多摩、ウィーアー北多摩、ウィーアー北多摩、ウィーアー北多摩、ウィーアー北多摩、ウィーアー北多摩、ウィーアー北多摩、ウィーアー北多摩、ウィーアー北多摩、ウィーアー北多摩、ウィーアー北多摩、ウィーアー北多摩、ウィーアー北多摩、ウィーアー北多摩、ウィーアー北多摩、ウィーアー北多摩、ウィーアー北多摩、ウィーアー北多摩、ウィーアー北多摩」
地響きのように聞こえる声にコレはちょっとびびってしまった。だって不気味なんだもん。まあ今ではその声を聞くと、メラメラと闘志がわきあがってくるけれどな!!!
とにかく、この応援合戦が終わったら、メンバー発表になるのが、この多摩川デルビーのお約束だ……ってことはこの応援合戦がおわったら、もうダメってこと????オレはハラハラとその様子を見ている。みると、まだ渋滞は続いている。
するとね、なんだか、みさき姉ちゃんの目が血走ってるんですよ。で、ギアをニュートラルに入れてなんかエンジンをブォンブォン吹かしてるんですよ。お客さん。ちょっと聞いてくれます?
「ふざけやがって、北多摩のゲロヤローが………」
なんか普段のみさき姉ちゃんの優しい態度からは想像もつかないような、ヤバイ発言が…………あ、さっき言ったけれどゲロヤローって呼ばれたのは一回だけだけど、聞いたことは何度かあるのよ………ゲロヤローってここらへんのスラングかなんか?
そういや、みさき姉ちゃんも昔サッカーやってたっけ。大体みさき姉ちゃんからサッカー教えて貰ってたしね………
後でみさき姉ちゃんに聞いたら、やっぱし元AC南多摩の選手だったよ。
するとね、みさき姉ちゃんがとんでもないことを言い出して………
「なんだ、カオルちゃん、道、がらがらに空いてるじゃん」って
オレは目をパチクリしましたよ。だって、ほら、こっち側も向こう側も車でイッパイなのよ………ったく、変なこというみさき姉ちゃんだ…………うん。
すると、みさき姉ちゃんが徐ろに左の方を指さした。
「ほら、左の道がガラガラぢゃん」ってなんか、目が逆三角形になってて、血走ってるんですよ、いやですねーお客さんったら。
「ね、ねえちゃん、それって………」うん、今だから言えるよみさき姉ちゃん、それは歩道っていうんだ。知ってたかな。歩行者の人が通行する道なんだよ………ってなんで免許の持ってないオレが、免許持ちのみさき姉ちゃんに教えなきゃならないんだよ!!!
なんて、ツッコミ入れる間もなく、みさき姉ちゃんは歩道に乗り上げました。メデタシーメデタシーって全然めでたくねーよ。
なんかアニキもさくらも拳を掲げて煽ってるし。葉月ちゃんとオレだけ顔を真っ青にしてアワアワしている。
すると、みさき姉ちゃんがクラクションを鳴らしながら歩道を突き進む。スゲーーマジ注目浴びてるよ。こえーー!!!!!
すると、ほんとに1分ソコソコで河川敷にでるとそのままグランドに車を乗り上げる。ショートカットで北多摩の応援団を蹴散らしてゆく。もちろのクラクションはそのままだ。凍り付く北多摩ウルトラスの皆さん。本当にごめんなさい。拳を掲げてはしゃぎ出す南多摩ウルトラスの皆さん。もう少し常識を持ちましょうよ。
みさき姉ちゃんはそのまま南多摩ウルトラスの輪の中に出迎えられると。オレは車から飛び降りた。ほら、だって時間無かったし………正直知り合いと思われたくなかったんだ………マジごめんね、でも、いまでもそう思うよ。
すると、西里が呆れた顔してオレを出迎えてくれた。
「なにやってんだ、カオル」
「ゴ、ゴ、ゴメン西里………メンバー発表は」
「ああ、まだだよ、監督はカンカンだけれどな」
オレは直ぐに監督の姿を見つけると一も二もなく頭を下げる。
「おくれてどうもすいません」
そのときのオレは土下座しろって言われたら。喜んで土下座したよ、靴舐めろっていわれたら靴舐めたよ。それくらい反省してたんだ。
そしたらさ、監督いきなり笑い出しちゃって。
「アハハハハハハハ、いや、香坂、笑えるよ、ちょっとスッキリした」だって……どういうこと。
すると、後輩のCチームの奴らがなんかベソをかいていた。
あとで聞いたら、おちびちゃん達、6-0で負けちゃってたんだってさ。まあさすがに監督も年少者達に雷落とすことも出来ずに、腑煮えくりかえってたらしい。それをみさき姉ちゃんが目障りな北多摩ウルトラスを蹴散らしたってんで、溜飲が下がったみたいだ。マジラッキー。
まあ、監督は一頻り笑った後、オレに言った。
「あとで残って、グランド整備な」
ペナルティーはそれだけですか?マジで感謝。監督、おっとこまえー!!!
「カオル、さっさとアップを済ませろ」
そういうと、監督はボールを投げつけてきた。
「ウッス」そういって投げられたボールを足でトラップする。
親指を立ててオレに突き出す監督。ってかさ、この監督って市民クラブチームの監督のクセしてS級ライセンスもってんのよ……ちょっと正体不明の人物だ。S級ライセンスって、Jの監督とか日本代表の監督とかがもっている資格だぜ………なぞだ。
すると、西里と一緒にアップを済ませる。みさき姉ちゃんの乱入のお陰で開始時間も若干遅れたのか、完璧にアップを終了することも出来た。するとアップを済ませたオレと西里監督は呼び出した………もしかして、またお小言を言われるのかな……でも西里もいっしょだなんて………あ、もしかして連絡わすれたこと言われるのかな………まあしかたないさ。
すると、監督はオレと西里の首に腕をかけ、耳元で囁き始めた。ちょっとこえー
「なあ、西里、香坂、奴らをやっちまいな!!」
「はい?」
「はい?」
おれと西里はとりあえず監督に尋ね返す。
すると監督は俺たちの疑問なんか後まわしでどんどんと話し掛ける。
「まず、香坂」
「ウス」
「最初の10分、お前は西里がボールを持ったら、なにも考えずに、左サイドを突っ走れ」
「ウス」
「オフサイドなんてかんけーねー、最終ライン目掛けてつっぱしれ」
「ウス!!」
「なあ、西里」
「ハイ!」
「お前は、ボールを持ったら、まず香坂の位置を確認しろ!」
「ハイ!!」
「そうして、左サイドのDFの裏のスペースにボールを放り込め。お前なら出来るだろ」
「ハイ!!!」
「そうして、最初の10分で、お前ら二人でDFをギタギタにしてやれ」
「なあ、香坂、お前のスピードには奴らついてこれないぞ。ヒーローになるチャンスだ」
「ウス!!!」
ってか監督、オレのことそんなにかってたの?
「それから、西里、10分過ぎたら後は香坂の足下にボールを入れろ」
「ハイ!!!」
「なあ、香坂」
「ウス!!!」
「あとは、お前のご自慢のドリブルで奴らを立ち直れ無くさせてやれ。二度と刃向かわないようにさせてやりな。二度とだ!!!」
「ウス!!!」
って、今思うと少年サッカーの監督としてけっこうあるまじき発言しているような気が……よっぽどさっきの敗戦が頭に来たのだろう。
でそのあと、全員を呼んで全体の簡単な作戦会議。まあ、今まで散々してきたんだけれど、最後のおさらいみたいなもんかな。けっこう本格的だろ。
一応、オレのポジションはトライデントの一角………ん、全然わけわかんないって………サッカーくらい知ってたほうがいいぞ、人生が楽しくなる。じゃあ、簡単な説明な。トライデントってのは三叉槍のことな。いわゆるスリートップっていわれるけっこう攻撃的なフォーメーション。バルサとかチェルシーとかがよく使っている。ん?バルサ?チェルシー?って………分かんなかったら、勝手にググレ。もしくはウィキれ!!!とにかくスリートップのことを言うんだよ!!!で、オレはそのスリートップの左を任されてたんです。いわゆる左のウイングって奴な!!!で、左サイドから駆け上がったりドリブルで突っかけたり、中に切れ込んでシュートうったりって………まあ、シュート精度はあったんだけれど、いかんせん、ほら、そんなに体がでっかくなかったし、中央だと相手のプレスによくつぶされるし……なんてったって高速ドリブルと高速マタギがオレの十八番だったんで、そこのポジションになったのよ。この監督ではずーっとココで使われてた………ってかさ、地域の先発で呼ばれて、よくサイドバック……さっきの位置のちょっと下がり目のところな……をよく任されてたんだけれど……いかんせん、オレ、守備が苦手でさ…………あんまし、先発では活躍できなかったんだよねー………まあ、こんな感じの選手です。
ちなみに、西里の奴はもともとはトップ下だったんだけれど、接触プレイがいやっていう………じゃあ、サッカーやめればいいジャンって感じなんだけれど、パスがすげーの、もうね、ピンポイント、笑っちゃうくらい………でも、足が遅いのとフィジカルがないのとでマークが付くと途端に消えるっていう、つぶし甲斐のある選手で………トップ下失格の烙印を押されたけれど、下がり目のポジションで長短のパスを供給するようになったら。もうね、すっげーのよ。普段はDFのラインの前でふらふらーふらふらーってお前やる気あんのかよっていう感じなんだけれど、気がつくと、空いたスペースにちょこんといて、味方がボールを奪うととりあえず西里………みたいな感じ。で攻撃の組み立ての機転になるの。ってかさ、西里……おれがお前だったらもっと肉食って筋トレして、体を強くするぞ………まあ、日舞のほうが大切なんだろうな…………家業を継ぐってのは大変なんだよな。
そんな二人に監督からの特命があったってわけだよ。
そういや、西里さ………おまえ、なんでサッカーやめちゃったんだよ………そりゃ、家庭の事情ってわけだろうけれど、オレ未だに、お前のパス以上のパスもらったことねーんだぜ、こう、いつもおれの走り込んでいる足下にピタっておさまってさ、ああいうのをエンジェルパスっていうんだってな………それが普通だと思ってたら、そんなパス出せる人間なんてめったにいたいって………お前がいなくなってから気が付いたんだ………なあ、西里、今度遊びでもいいから、あの俺たちのグランドでさ、もう一回サッカーやろうぜ、どうだろ?お前嫌がるかな「もう、そんなことからは卒業したんだ………とか、そんな子供っぽいことできるかよ………とか」いわないよなぁー、だってそうだろ、あのロッソネロ(赤と黒)のユニフォームに袖を通した人間は、一生サッカーから逃れられないんだぜ……うん、これ宿命!!そうして、俺たちは主審から呼ばれ、緊張する間もなく試合が始まった。
そしてチャンスはあっさり訪れた。キックオフ直後からふらふらー、ふらふらー味方のDFラインの前をクラゲのように漂っていた西里。トップ下の……えーっと、あんときのトップ下って誰だっけ………潤ちゃん?それとも、カズちゃん?まあ、そのどっちかが相手DFの前でボールカットすると、途端に後にボールを回すの。普通ならゴールに近いんだからそのまま突っかけて行くはずなのに、激しくキョトン顔の北多摩FCの皆さん。ご自慢のネラッズーロ(黒と青)のユニフォームみたく、その顔色をネラッズーロみたくしてやるぜ!!!オレは西里にボールが届くやいなや、一気に間抜け面した左DFの裏のスペースに飛び込んだ。しかもラインも統率がとれてないらしくセンターバックの選手はゴール前に張り付いている。いわゆるオフサイドラインなんてどっこにもありゃしない状態だ………ついてこれてるか?そこのおまえ??まあ、北多摩の奴らも、そんな攻撃喰らったこと無いらしくぽかーんと西里にボールが戻されるのを見ていたら…………トップスピードに乗ったオレの5メートル先にホントにフンワリとボールが落っこちてきやがった。ちょっとビビルオレ。まあ、あとはトラップなんて上品なもんじゃないよ。とりあえずオレは前にボールをけり出して後は一直線の電車道!!!中をみると、なんとボランチまで上がっている。ってか、あの監督やっぱし、ただもんじゃないよ。きっと選手一人一人に特命を出していたんだろ。見たこともない展開に目を白黒させるネラッズーロの皆様………ご愁傷様でそうそう、俺たちの町ではこの多摩川デルビーで得点すると、男の中の男になれるっていう言い伝えって………って程のものじゃないけれよな………まあ一人前の男と認められるって言われてるのよ……ちょっとロマンがあるでしょ………あ、そうか、だからアニキはあんなに男らしいんだ………ウス、ちょっとした冗談です。
でね、最初の一点アシストしたときにちょっと、そんなこと思い出しちゃってさ、あーあ、アレ、無理したらオレがシュート出来たかなーなんて思ってたんすよ。まあそう思った直後にまたチャンスがきたんだけれどね。激しくキョトン顔の北多摩の皆さん。いまなにが起こったのかよく訳がわかんなかったらしいっす。とりあえず、DFラインでボール回しを始める。うん、セオリーだね。正しいよその選択。で、一旦試合が落ち着いたとおもったのか、DFでキック力だけはありそうな、おでぶちゃんがボールを縦に蹴り出した………うーん、戦略としてはアリなんだけれど、あんまし美しくない。そしてそのこぼれ球を拾ったのは翔平………そうそう、やつ三年生の時からBに出てたんだよなー。なかなかのエリートだね。翔平の奴はバッカみたいに駆けずり回って、こぼれ球のところには必ずいる。チーム一人はいるハードワーカーって奴だ。いわゆる汗かきやさん。憶えておいたほうがいいぞ、こういう言葉。で、その汗かきやさんは忠犬ハチ公のように忠実に西里にボールを渡す。てっきり北多摩の奴ら、同じ風に蹴り返して来るのだろうと思って引いてやんの………プレスがなけりゃ、西里は光り輝くんだよ。つーわけでーオレはまたまた左サイドを駆け上がる。すると今度はトップスピードで走っている3m先に逆回転の掛かったボールがふわり落っこちてきた………………だんだん精度がよくなってきてるな……ちょっと気持ち悪いぞ、オイ!もう、その時は既に敵の左DFは5m後方ってか、追いつくどころか引き離しに掛かるオレ、余裕があってちょっと振り返ってみたら、なんかベソかいてやんの…………まあ、あんまり人のことを言うのはよそう。
つーわけで、まるでさっきと同じ映像を見てるかのような錯覚に陥るオレ、ちょっと違うのは相手のセンターバックがさっきよりももっと絶望的な顔になっているってことかな………まあ、ちゃんとトドメをさしとこーっと。とりあえず、三回またいで、口をあんぐりと開けさせた後、左足を使っての渾身のインサイドフック………ん?なんのことかって、わかりやすく言うと左足の切り返しだよ!ああー、なーんだって言っているそこのおまえ!!少しぐらしかっこつけさせろ!!!
つーわけで、ゴール正面に躍り出たオレ。泣きそうな顔で突っ込んでくるGKを今度は右足を使っての渾身のアウトサイドフックで交わすオレ。なんか後の方で激しい衝突音が聞こえるんですけれど、大方あのDFと正面衝突でもしたんじゃねーの?オレは無人のゴールにむかって渾身のインサイドキック!!!ゴール天上に激しく突き刺さる!!!!!………ってやべー、フカしちゃったよ、あんなに打ち上げるつもりじゃなかったのに………ちょっとチンコが縮こまるオレ。これはずしたら、ぶん殴られること間違い無しだったな………ちょっとびびった。そんな表情をおくびも出さず振り返って諸手を上げてのガッツポーズ!!!あの、めんどくさがり屋の西里が真っ先に祝福に駆けつけてくれた………ってなに、おまえ、オレにパス出したあと、ちゃんと走ってたの!?…………えらいねーー出来れば毎回そうしてくれれば、どれだけ助かったことか………まあ、いいや、オレは親友の祝福を素直に受ける………と後はなにがなんだかで………GKまで来る始末……そのあとカードもらってたけれど……なかなか笑える。
すると、我が南多摩ウルトラスからのスタンディングオベーションを受けるオレ……一応、感謝の意味も込めてサポーターの皆様の前に初得点の報告に行った。あの時の歓声は一生忘れません。マジ感謝です。ありがとう。すると、監督がサポーターの皆様に報告。
「コイツが我々の秘密兵器で救世主の香坂です。みなさん憶えておいて下さい」っていって頭下げた後、振り返って北多摩FCの監督にむかって「ざまーみろ!!コイツがいる限り、お前らの天下はぜったいねーぞ!!!」って中指押っ立てる我が監督。ねえ、ちょっと、あんた、下品だよ……ってかさ、そこまでオレのこと買ってんならなんでさっさと試合につかわなかったの?
あとで聞いたら「オレは美味しいものは最後まで取っておくタイプなんだよ」ってわけわかんね。まあそれは冗談で、そのあと真面目な顔で、まだ体の線が細かったし、フィジカルがなかったんだけれど、そのワリにはスピードが、妙にあったんで、怪我がこわかったんだってさ……それで、練習で徹底的に仕込んでから試合に出したかったんだって言われた。そういや、監督から教えられたテクニックって相手をキレイにスパーンって抜くテクニックばっかし教えてくれたなー………って、いったいあの監督何者なんだ………なぞだ!!!
………というわけで、その後は、サッカーではなく、AC南多摩の北多摩FCに対するなぶり殺しみたいな展開になってきて………試合が終わった時にはさっきのおちびさん達借りを充分に返すことが出来た8-0のスコア。15分ハーフで8点ぶん取れば充分だろ!!さぞかし監督の溜飲が下がったんだろう。選手一同、監督からの諸手を上げてのバグを受けました。まあ、北多摩FC奴らにはご愁傷様としか言えないけれどな………そのあと、この前の試合まで奴らには一度も負けたことがなかったんだけれど………最後の最後にしっぺ返し喰らっちまった………ってかさ、左サイドにマーク二人付けるのってそんなのアリ???見たことも聞いたこともねーぞ、あんなフォーメーション。まあだからこその我が宿敵なんだろう。………二点は取ってやったけれど………ちぇ!!!
まあともかく、その試合で3得点3アシストの大活躍で、その試合のマン・オブ・ザ・マッチに選ばれたオレ!!そうしてオレは長い冬の間の下積みを経て花満開の春を満喫してたんだ。

でもさ、お前はその時、あの部屋で一人、泣いてたんだろ………さつき。
そうしてオレはその日のマン・オブ・ザ・マッチに選ばれたもののお約束として儀式をすることとなった。
っていうか、儀式っていっても、マン・オブ・ザ・マッチに選ばれた奴がトロフィーを掲げての全員での集合写真なんだけれどね。
よく見るじゃん、優勝したチームがトロフィー掲げてやる奴………ってかさ、練習試合でトロフィーって………あんたらもヒマだねぇー。
まあ、そんな感じで、試合先発で浮かれていたオレがマン・オブ・ザ・マッチだなんて、まったく予想してなかったんだよ……ってかさ、一点取るだけでも、想像するだけおこがましいくらいに思ってたのに………いや、ほんとに、コレすっぽかしてたら、間違いなく人生かわってたよ。あらためて背中に冷や汗感じてる。マジ感謝だよ、アニキ、みさき姉ちゃん。
そんなわけで、完璧に舞いあがっちゃったオレはみんなに押し出されるような感じで集団の中央に躍り出る。
みんなはオレの後でリズムを取りながら、掛け声を駆けて飛び跳ねている。すると、監督があこがれの大仏トロフィーを手にオレの前にやってきた。………大仏トロフィーってなんだって?トロフィーにでっかい取ってが付いていてさ、それが大仏の耳に見えるってんで大仏トロフィー……わかる人が見たら……ああ、あれのパクリかってわかるシロモノさ。………ん、全然分かんないだって?ちょっとは調べろ、そこのあんちゃん!!
つーわけで、オレは照れまくりながら、監督からトロフィーを渡されると両手で持ってそれを掲げる。直後、とってもお暇な我がAC南多摩のサポーターの皆様からもフラッシュの雨霰………ちょっとオーバー……えーっと小雨交じり……程度にしておこう……人間謙虚な気持ちが大切だよ。すると、オレはとても大切なことを忘れているようなきがして仕方なかった………あ、ごめん、さつきのことはちょっと置いといてくれよ…………ごめんな。
よし、話をもどすぞ、これもある意味オレにとっては忘れられない事件だったんだよ………ヤベーちょっと涙が出てきた。
………よしっ、
………よしっ、
………よしっ、書くぞ!!!
えーっとさあ、ところで、お前ら、ピッポさんって知ってる?………あ、知らない………あ、そう。
じゃあ、えーっと…………リンギオ・カッドゥーゾさんは………あ、知らない………あ、そう………
それがなんだって………
じゃあ、補足な………えーっと、ピッポさんってのはフィリッポ・インザーキさんっていって、ある意味おれの敬愛するアズーリとACミランの………ある意味に置いては象徴………なんかわかりずらいって?詳しくはウィキれ………もしくはググレ!!!とにかく生粋のゴールハンター……以前にいったさくらを100倍凄くした感じのストライカーだ。もう、ゴールの嗅覚のみでここまで成り上がった有名な選手………で、リンギオさんってのはジェンナロー・ガドゥーゾさんっていって、これもアズーリとACミランのある意味での象徴………ほんとの象徴はマルディーニさんみたいな人のことをいうんだけれどね………まあ気になるんなら調べてくれ。わかりやすくいうと中盤の汗かき屋さんで翔平を1000倍凄くしたような人………ごめんな翔平。ちなみにリンギオって狂犬って意味もしくはうなり声っていみだったような………まあ、そんな単語がニックネームになる人だ……ある意味お好きな人にはたまらないキャラクター。そんな二人が現代サッカーに置いて、ある一つの風習みたいなものを作り上げてしまいました………2003年のチャンピオンリーグの決勝と2006年のドイツワールドカップの決勝で………先にいっとく、この二人のお馬鹿さん(……ごめんね、だってホントにお馬鹿さんですもん)。よりによって、ある意味、世界のクラブチャンピオンを決める決勝の舞台と世界一の国を決める決勝の舞台でともにそのチャンピオントロフィーを授与する表彰式の真っ最中にパンツ一丁ではしゃぎまくるっていう伝説を作ったお二人で……な、バカだろ。ピッポさんに至っては。上はユニフォーム、下はブリーフのパンツ一丁っていう素敵なお姿で、トロフィーを掲げる姿を全世界に放送アンド写真を撮られて配信されてしまったお方なんですよ!!!その姿に激しく感銘を受けた世界中のお馬鹿なサッカー関係者達によってトロフィーの授与の際はパンツ一丁になってトロフィーを掲げるってのが、ある意味一つのスタイルになってしまったんですね。
はい、ここまで言えば勘の鋭い人なら大体わかるよね………俺の言いたいこと。
………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………でさ、まあ、おれ、有頂天になってさ、そのこと完璧に忘れてたんだよ。
でね…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………オレがトロフィーを両手で頭上に掲げたら、記念撮影取る人が、なんか合図をおくってんですよ………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………でさ、オレが笑顔の合図かなーなんて思ってたら、なんか背後に怪しい気配が……………………………………………………で恐る恐る振り返って見ると、西里がオレのお尻のところにしゃがんでピースしてんですよ………………………………………………………………………………で、もう後の祭りオレはちょっと待って!!!!!!!!って言う間もなく西里が「うりゃーーー」って言ってユニフォームのズボンを引きずり下ろして、それと同時にはいポーズ。
「カシャ!!!」
パンツ一丁での記念撮影を取られることになりました………めでたし、めでたし…………
え、おまえ、パンツはいてなかったんじゃなかったって…………………うるせーーーしるかーー!!!!!
ああ、そうだよ、沢山の観客の前でチンコ丸出しにしてトロフィー掲げて写真取られましたけれどなにか?
………おまえ、そこのおまえ、わらってんじゃないよ、こ、っこ、ここは悲しい場面なんだよ。つーか笑った人間みんなシネ!!シネ!!!シネ!!!!シネーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!



はあ、はあ、はあ、ちくしょう、もう逃げ出さねーぞ…………ちっくしょう。
まあ、オレも悪かったんだし、事故だったんだよアレは…………で、写真とってくれたおっさんは、悪いと思ったのか写真を撮り直してくれたんだけれど、おれ泣いちゃってたのよね………はずかしいぃぃぃぃぃ。
まあ、そんなわけで、オレの丸見え写真は市内のあちこちで見るようになりました。メデタシーメデタシーって全然めだたくねーよ!!!
お陰で、この町ではそれ以降一度だって、女と間違われたことはありませんでした。だってみんな知ってんだもん。オレにチンコ付いていること………ってコレか、コレがオレのトラウマなのか………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………うーん、やっぱし違ったな………ってかさ、コレに関しては謝りたいんだよねー、後輩達に。パンツ一丁写真よりもチンコ丸出し写真のほうが受けがいいってんで、その後も何人もの被害者が未だに出続けているんですよ………わりいな、後輩、マジ勘弁。
今でも机の引出しの一番奥にあの写真は眠っているんだ………まあ、ある意味一生忘れられない記念写真だからなー、あのショックであの日のさつきのことは頭からふっとんじゃったんだもん………………ほんとに救いようがないな………オレって。

まあ、大体がコレで終わりだよ………さつき。
こんなんでいいのかな………おれ分かんなくなってきたよ。
かき上げたオレはそのままディスプレイを眺めている。
なあ、これでオレ本当に強くなったのか?
そりゃ、過去の忘れていた記憶は掘り起こすことが出来たけれど………これで本当に強くなれたのか?
なあ、西里教えてくれよ、オレ、本当に時間がないんだよ…………。
すると、オレは、机から立ち上がり、カーテンを開いてみる。窓の外には、さつきの部屋が見て取れる。ああ、まだ明かりがともっている。中学に上がったお前は、バカみたいに勉強をはじめてさ………今では学年でトップを争うまでになっちゃったんだもんな。お前の学力にあわせるって、正直、サッカーやるよりマジ難しいよ。わりい、なに泣き言いってんだよ、オレ、かっこわりいなー。

オレは、一旦、夜食でも食いに下に降りようと立ち上がる。
と、夕方の失敗を思い出した。
そうだよな、こういうときはちゃんと文章を保存して、で、ワードをおとさなくちゃな…………そんなことを思いながら、オレはデーターを保存し、ワードを落とそうとしたら………あれ………なんか画面のイルカちゃんが騒いでるぞ………なんだべ。
なになに…………


クリップボードに大きなデーターがあります。
Wordを終了した後に、このデーターを他のアプリケーションに利用しますか?

???????????はあ?なんだこれ、意味わかんね………
オレは頭に激しい?を浮べながら ハイ を選択すると、イルカちゃんは消えてしまった………なんか、変な感じー。
オレはちょっと気になったので、もう一回ワードを立ち上げて、右クリック………………ん?なんにも切り取って無いのに……データーがのこってる?
………まあ、オレは深く考えずに、そのクリップボードに残されてたというデーターを貼り付けてみた………なーんだ、オレの書いた文章じゃん…………でも、ページ数が違うぞ…………これ。
オレは違和感を憶えながらマウスのホイールをスクロールする。

なんだか嫌な予感がする。

すると、目に映った文章は…………あいつのだった

オレは血の気が引く音が聞こえてきたかと思った。

なんだよ、コレ、なんだよ、コレ

………あ、あいつ、オレのパソコンつかってこんなもんかいてたのか!!!
なんだよ、ふざけんなよ。さつき!!!
そういってこみ上げてきたオレの怒りは………たったの10秒でどっかに消えて無くなった。

なんだよ、この「さつきガール」って………まんまオレのパクリじゃん
ばーか
そういいながら、オレは、あいつの残した文章を読みはじめる。
でも、その時にはオレは既に涙が溢れていた。


なんだよ、これ、ふざけんなよ、おまえ。………おれ、まるでばかじゃん。
オレ、お前のこと少しはわかってると思ったら、なんにもわかってなかったじゃん。
…………なあ、お前、いつオレの練習みてたんだよ。

…………なあ、お前、あんとき、スタンドにいたのかよ。

…………なあ、西里の奴おまえにそんなこといったのか……ホントにキザな

…………アハハハハ、騙されてたよ、さつき、オレ全然気が付かなかった、温泉しくんだのっておまえなのかよ。だっせーな、まんまとひっかかっちゃったよ、オレ……だめだーお前にまったくかなわねーや。

………でもさ、そんなにあやまんなくっていいぞ、別に気にしてないからさ。

…………なあ、さつき、ごめんな、おれ、お前のサイドポニーカワイイって言ったの、完璧に忘れてた……サイテーだ、オレ。

…………なあ、さつき、おまえ、こんなに辛かったのか?おれなんかよりもこんなにつらかったのか?おまえオレになんにもいわなかったじゃんか?いや、ごめん、なんにも言わせなくしちゃったんだよな………このオレが………このオレが………このオレが……
オレはさつきの残した文章を隅々までくまなく読んだ。たったの一言一句でさえも読み落とさないように。

気が付くと時間は0時を過ぎていた。


…………ってか、さ、あいつもまぬけだよな……ってことは、メールか何かに転送?
オレはメールソフトを立ち上げたのだが、とくにメールを転送したそれらしき形跡もなく…………
そうして、オレは真っ暗な部屋の中、鈍い光を宿しているディスプレイの前で腕組みをする。
そうして、どのくらいの時間が過ぎたのだろう…………オレは決心した。
うん、決めた、もう、決めた。
なあ、さつき、タイムマシンがあったら、未来に行こう。だって俺たちずーっと過去ばっか見てるじゃねーか。このまんまだったら、一歩も未来にすすめねーぞ、オイ
そうしてオレはさつきのケータイにメールを入れた。
時計の針はそろそろ、一時を回ろうかというところだった。
私は夕方のあのことを忘れるかのように、ひたすら勉強をしていた。
もう、西里君から大体のことは聞いている。カオル君がどこのセレクションも受けずに一般入試をするってことを………それも私のために………ごめんね、カオル君、そんな思いまでさせちゃって………でもね、私は君の手に届かないところに行こうと思うの。………ごめんなさい。
すると、机の上に置いてあったケータイからショパンの『別れの歌』が流れてきた。私は全身が凍り付いた。
だかだかケータイの着信で大袈裟だと思うかも知れないが、コレはカオル君だけの特別の着信メロディーだった。自分でもあまりにもセンチメンタルすぎると思うけれど、このぐらいいいじゃない。私だって一応は女の子ですもん。バカだね私って笑っていいよ。
私は恐る恐るケータイのディスプレイを見る。ディスプレイには新着メールが一件届いていた。
私は恐る恐るそのメールを開いてみる。
きっとカオル君からのクレームだ、私がアナタのPCを勝手に見たことをまだおこってんだ………当然だよね。ほんとにサイテーだ。
私は覚悟を決めてそのメールを開いてみると、私の予想外のメッセージが書かれていた。
「PCにメールを送っておいた………カオル」
私は首をかしげる。文句だったらケータイのメールで充分なのに、………いや、もう、余計なことは考えないようにしよう、きっといいことなんて何一つ無いんだから。
私は憂鬱な気持ちでPCの電源を入れると、恐る恐るメールを立ち上げる。
やはりカオル君からのメールが来ていた………なにを考えているのだろう。

件名は………「読み終わったら、連絡をくれ………カオル」

みると、メールにはデーターが貼り付けてあった。
私は期待と不安………いや正確に言うと、8割の不安と2割の期待を込めて、震える指先でアナタのメールをクリックした。
………ああ、やはり、
タイトルは「かおるボーイ」

私は急いで窓のカーテンを開ける。みると、視線の先には窓辺に黙って立っている、大好きな男の子の姿があった。わたしの大好きなホントに大好きな男の子は私の姿をみるとニッコリと頷いた。
私も頷く。そうして、私は急いで椅子に座ると、私の大好きな男の子が書いた物語を読み始めた。
半分はさっき見たはずなのに………そう私はアナタのPCから盗んだ文章をいやらしく、何度も何度も読み返していた。読んでいる最中に自分のいやらしさに吐き気を催し、死にたくなった。でも、いいんだよね、カオル君。キミの書いた物語わたしが読んでもいいんだよね………………………………
私は再び窓をあげて、アナタの部屋を見てみると。さっきとまるで変わらない場所に私の大好きな男の子は立っていた。
そうして私は私の大好きな男の子のケータイにはじめてメールを送った。
「読み終わったよ」
彼はニッコリと微笑むと私にむかってこういった。
「さつき、いまから下にいくから」
わたしはだまって頷いた。
もうその時には涙が邪魔して、声を出すことが出来なくなっていた。
オレはオレの家からお前の家までのたった10メートルの距離を5年も掛けてやって来た。ごめんな待たせて。ほんとにごめんな。
そうしてオレは、5年前のオレがそうしたように、窓の下からオレの大好きな大好きな幼なじみに声を掛ける。
「なあ、さつき!!」
「な、なあにカオル君」
俺の大好きな幼なじみは、おずおずとカーテンの陰からオレを見下ろしている。
うん、今はそれで充分だ。
「見てくれたか?」
「………うん」
「なあ、おれ、強い男になれるかな」
「…………うん」
「なあ、おれ、お前を守れるくらいの強い男になれるかな」
「……………うん」
「なあ、ちょっと、ちゃんと顔をみせてくれよ、さつき」
そういうとさつきは恥ずかしそうに俺の前に顔を出した。みると、髪の毛が横に結ってある。うん、サイドポニーだ。
オレがメールの最後にオレの書いた文章を読み終わったらサイドポニーにしておいてくれってお願いしてたんだ。
オレはニッコリとさつきに微笑む。
オレは、幼稚園児だった頃のオレの声色を真似てみる。まあ、あくまでも真似るだけだよ………
咳払いをひとつ。
見上げると、恥ずかしそうに俯いている幼なじみの顔。
オレは十年前のあのセリフを思い出す。
「ねえ、さつきちゃん、その髪型とってもかわいいね」
オレは十年前のあのセリフを思い出す。
「ねえ、さつきちゃん、その髪型とってもかわいいね」
もうさつきは何も言わなかった。ただ、涙をホロホロとこぼすだけでさ………あれ、おかしいな、おれ喜ばせるつもりだったのに……
………ちょっと気まずい沈黙………おれは次の言葉を探していると、さつきはおれにケラケラと笑いかける。ああ、そうだ、お前はその笑顔がよく似合う。
「いいよ、かおるちゃん。さつき、かおるちゃんのおよめさんになってあげるよ」
さつきが幼い頃の口調を真似て、プロポーズの返事をしてくれた。

なーんだ、さつき、憶えてたのかよ…………って、十年前とまったく一緒じゃん。

オレは、笑おうとおもってたのに、何故だか涙がこぼれてた。………おかしいな、俺たち泣き虫だな…………。
しばらくの間、二人でお互いを眺めていた。
そしてオレは、さっきから、心に決めていた質問をさつきにした。

「なあ、さつき、………タイムマシンがあったら過去に行く?未来に行く?」
さつきは答えを探している。
だから、オレはさつきに言ったんだ。
「おれはさ、おまえといっしょに未来に行きたい。なあ、さつき…………一緒に未来に行こうよ」
そうだろ、悲しい過去はもうこりごりだ。一緒に未来をつくるんだよ………俺たちは。
オレはそう言って、窓の手すりにもたれかけ、泣いているさつきに向かって手を差し伸べた。

空にはぽっかりとお月様が浮かんでた。

かおるボーイ2   完
窓の外にはいつの間にか、私より背が大きくなってしまった男の子がいる。
彼はお気に入りの白いパーカーのポケットに無造作に手を突っ込んで見上げている。
「なあ、さつき」
ああ、カオル君がこうして窓越しに話し掛けてくるのって………うん5年ぶりだね。
私はニッコリと微笑みかける。私の大好きな大好きな男の子に………
すると、彼はニッコリと笑ったのだ。彼は微笑みながら自分の髪の毛の横を指さしている。
カオル君のメールに最後に書かれていた「読み終わったらサイドポニーにしてよ、さつきちゃん」のお願いを私は面目もなく守ったのだ。すると私は恥ずかしさのあまり、大好きな男の子の顔を見れなくなってしまった。カーテンの陰に隠れ縮こまっていると、大好きな男の子の咳払いが聞こえてきた。私はふと、何かあったのかと思い、勇気を振り絞って彼の顔を見てみると………
「ねえ、さつきちゃん、その髪型とってもかわいいね」
と、十年前のセリフを私に言ってくれた。
私はありがとうって返そうと思ったんだけれど、涙が邪魔して声が出てこない。
それから私は何とか涙を拭って、その男の子を見てみたら、なんか、決まり悪そうにそわそわとしている。その様子が可愛くって、私は十年前に返してあげた、その時の答えをキミに伝えようと思う。
ねえ、かおる君、ちゃんと憶えている?そのセリフの後に、キミは私にプロポーズしたんだよ。
‘ねえ、さつきちゃん。その髪型とってもかわいいね………だから、ぼくと結婚してよって’
わたしさ、きみがそのこと忘れちゃったと思ったから、ずーっと、ずーっと黙ってたの。だって、ほら、恥ずかしいじゃない。
だって、ほら、みじめじゃない。そんな昔話持ち出して、忘れられてたら………さ。
だから、私は、子供の頃の声を真似てキミにあの時の答えを返してあげた。
「いいよ、かおるちゃん。さつき、かおるちゃんのおよめさんになってあげるよ」
カオル君を喜ばせるつもりでいったのに、なんでか、カオル君は泣いていた………あれ、おかしいよね、泣き虫だね私達って………
ねえ、かおるちゃん、わたしね、アナタにずーっと言いたかったんだ。何度だって、何度だって、言いたかったんだ。でも、かおるちゃんが忘れてたら、迷惑じゃない………かおるちゃんが忘れてたら、惨めじゃない………やっと言えた……ありがとう、カオルちゃん。
私たちは涙が零れるのもそのままに見つめ合っていた。5年ぶりに見つめ合っていた。そうだよね、あの日以来こうしてちゃんと顔をみたことなんてなかったもんね。いいかな、もう少しキミの顔見ててさ………。
すると、カオル君が私に向かって質問をしてきたの。
「なあ、さつき、………タイムマシンがあったら過去に行く?未来に行く?」
不意の質問に私は答えを探してる。
そうしたら、窓の下にいる、私の大好きな男の子が私に向かって手を差し出してくれたら。ああ、そうだ、あの日以来の君の手だ。
私はそんな、私の大好きな男の子を、涙を零しながらも一生懸命見つめ続ける。だって、もう一瞬でも目を離したくは無かったから。
すると、私の大好きな男の子は言った。
「おれはさ、おまえといっしょに未来に行きたい。なあ、さつき…………一緒に未来に行こうよ」
私は頷く。涙を零しながら頷く。歯を食いしばりながら頷く。そうしないと泣声を聞かれてしまいそうだったからだ。
けれども、夜の闇が邪魔してしまい、カオル君にはよく見えなかったらしく、彼は手を差し出したまま私の答えを待っている。
私はなんとか呼吸を整え、大好きな男の子に向かって答えを出した。


「うん、カオル君、一緒に未来へ行こう」



さつきガール2 完
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