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  • 2010⁄12⁄05(Sun)
  • 01:05

罪を背負う覚悟

後ろ手に施錠した頃には、もう罪を背負う覚悟は決まっていた。
これから何年生きていくかは知らないけれど、兎に角俺は目の前の欲望に耐えられなかったんだと思う。
「先輩?用って何ですか?」
これから自分の身に降りかかる悲劇など知りよう筈もない瞳は、初めて知り合ったあの時みたいに
無邪気に輝いている。それだけでもう、沸騰しそうなくらい股座がいきり立つ。
思春期の頃は有り余る性欲に悩む、なんて耳にするけれど、きっとこんなになっちまうのは俺だけだ。
何しろ相手は男で、俺も男で、同性愛には人並みの嫌悪感がある筈なのに、俺は今日、決行しようとしている。
「これの、礼をしようと思ってさ」
小さな紙袋を取り出す。流行っているらしい、小さな熊のキャラクターがプリントされたそれは、
今朝コイツに貰ったものだった。
「あ、どうでした?何分母が作ったものなんで、味は保障できなかったんですけど…」
その台詞は今朝も聞いた。味に保障は出来ない、なんて言ってたが、入っていた焼き菓子は相当の出来だった。
「うまかったよ、ごちそうさん。一食を切り詰める貧乏学生の俺としては、助かったよ」
男の後輩に、可愛らしい紙袋に丁寧に包装されたお菓子を貰って喜んでいる俺。
それは十分、変な光景と言えた。――だが、今から始まる事に比べれば、大したことじゃないのかもしれない。
「本当ですか?……よかった、先輩が甘い物好きで。……僕、お菓子作るの得意ですから」
言ってしまってから、慌てて口を押さえる。なるほど、これはこいつが作ったものだったのか――なんて考えながらも、
そろそろ我慢の限界が近い事を感じていた。

多分、次にこいつが口を開いた時が、悲劇の始まり――安穏の終わり。

遠くで蝉が鳴いている。
夏の日の放課後、練習中の事故だかで早めに切り上げられた部活動。
何より水泳部は昨日から合宿に行っているので、この更衣室に近づく奴はいない。
都合がいい。見落としなんてない。どうにかなるさ――楽観癖は治らない。
猛る身体を戒める様に、アイツに無理矢理の笑顔を作ってみせる。
どう受け取ったのかは知らないが、組んだ指先を忙しなく動かしながら、アイツは応える様にはにかんだ。

――だからさ、お前が悪いんだよ。お前が――そんな顔で、笑うから。

「……先輩?」
箍の外れた頭が、言葉なんて切り捨てる。それはいらない、と。
今必要なのは、アイツを組み伏せる暴力と、身の丈を遥かに越える欲望だけ。
もう我慢する必要なんてない。何時から我慢していたのかも思い出せない。
アイツの動作、その全てが酷く煽情的に見える。
アイツが俺に歩み寄ろうと半歩進んだ時には、俺はもう、どうしようもなく獣じみた荒い息を吐きながら
アイツに掴みかかっていた。

「…ど、どうしたんですか、先輩?」
至近距離で見つめる怯えた瞳が、劣情を倍速で増加させる。
アイツの細い両腕の、手首を掴んで片手で拘束する。
「せ、先輩!何してるんですか……!」
その声も堪らない。意識が爆ぜそうだ。
開襟シャツのボタンが邪魔だから引き千切る。
ベルトのバックルが邪魔だから力任せに引っ張って、
制服のズボンが邪魔だから引き剥がす。
下着も邪魔。無造作に掴んで、一気に下へ擦り下ろす。
「やめてください…!やめて…!」
その声は邪魔じゃない。もっと泣け、七色の声で鳴け、気が触れるくらいに啼き喚け。
軽い身体を突き飛ばすと、ズボンと下着に足を絡め取られて転んだ。
アイツは股間を両手で押さえて俺を見上げている。はは、何て美しい。
これが罪だと言うのなら、神様アンタはバカだ。

「誰か…!誰か助けて下さい、誰か!」
ああ、まるでBGMの様に響き渡る声。悲劇には悲鳴がよく似合う。
見せ付ける様にズボンのジッパーに手をやると、その瞬間、悲鳴は止んだ。
恐怖か、諦観か。知ったことじゃない。俺はもう、爆発しそうなんだ。
トランクスの隙間を突き破る様に、それはまるでばね仕掛けの様に。
俺の醜悪なソレがアイツの視線に曝される。
「やめて下さい……助けて下さい…何でもしますから…お願いします……」
何でもするのなら、何を止めろというのか。
今更になって俺が心変わりをするとでも思っているのか?……くだらない。
立ち上がることもままならぬ状態で、這いずる様に更衣室の隅へ逃げてゆくアイツ。
それでも片手は股間を隠し、もう片方の手でコンクリートの床を掴むように
少しずつ後退る。――気分がいい。歌でも唄いたいくらいだ。
「嫌だ……嫌だ!来るな来るな来るな、来るな……!」
絶望しなよ、後輩君。
きっと今の俺は、誰にも止められない。――それを願うのがお前なら、尚更だ。

射程距離。腕を伸ばせば簡単に、お前に届く。
もう邪魔をするものは何一つない。お前の抵抗なんて、数のうちに入らない。
必死に身を硬くしても、ホラ、俺がこうやって腕を掴んで、力任せに引っ張れば。
首根っこを押さえつけて、うつ伏せに這い蹲らせる。
白い白い双丘と、それを分かつ窪みが白日の下に曝される。
「黙ってろ、舌噛むぞ」
今更の気遣いを吐き捨てて、左手で其処を押し広げるように――右手を自分のソレに宛がって。
「は……っ、ああっ、あああああああ……っ!!」
一息に、捻じり込んだ。アイツの末端、手や足が、小さく痙攣する。
筆舌に尽くしがたい痛みと、筆舌に尽くしがたい快感が綯交ぜになったこの部屋で、
俺はその天秤を揺さ振る。
俺が快感を貪ればその度、アイツの痛みは増すだろう。だが、知ったことか。どうして止められようか。
アイツの防衛本能が、俺を外へ押し出そうと直腸を収縮させる。
千切れてしまいそうなくらいきつく狭められた其処の温かさに、俺の身体が反応する。
アイツはもう悲鳴もあげないで、左手の人差し指を噛んで耐えている。
そのいじらしい様で、俺の頭の中は今度こそ真っ白になった。

きっと今、この瞬間、ここに愛なんてない。
一切の人間らしいものなんてない。
力任せの抽送、直腸の襞を暴く俺の欲望。
口の端から垂れる涎も汗もそのままに、憑かれたように突く。
時折アイツが声を漏らす。
アイツの左手の人差し指はきっと、内出血するくらい強く噛まれている。
アイツの右手は――知らない。そんな事関係ない。
考えたくない、何も。何も。何も。
一秒でも長く味わう為に舌を噛んで我慢して来たが、もう限界だ。
覆い被さるようにアイツの上に倒れこみ、一層深い所へ、俺は渦を巻く白濁を放出した。
眩暈がする程の快感が、脊髄を舐めて往く。
栗の花に似た不快な臭いが鼻に届く頃、俺は深く息を吐いて、硬度を無くした欲望を抜き取った。
拡張されたアイツの其処から、白いものと赤いものが混ざった液体が零れ落ちる。
冷静になる為には、もう少し時間が必要だと思った。

打ち付けた後頭部の、沁みる様な痛みで意識が戻って来た。
冷静になる為には、もう少し時間が必要だと思った。
時間が経った今、俺は自らの行いをどう受け止めている?
床には被害者。涙や汗や涎や体液で汚れ、両手で覆われた表情は窺えない。
此方は加害者。粘液で汚れた欲望の塊をだらしなく弛緩させたまま、壁に背を預けて座っている。
熱の引いた静寂が重苦しい。
罪悪感が霧の様に立ち込める。――終わった。俺は、俺一人の欲望で、他人の人生を終わらせてしまった。
胸の中で渦巻く、粘着質のどす黒い靄は言葉に出来ない。
今更何を口にしようと、何を思おうと、それは瑣末事、事実は変えられないし、変えるつもりもない。
それでも――それでも、最後に一つだけ、我侭を聞いて欲しかった。
最後に一言だけ、言わせて欲しかった。
「……ごめんな」
何という身勝手。何という蒙昧さ。愚かで浅ましい、許しを請う言葉。
口に出した途端、自己嫌悪で死にたくなる。いや、いっそ死んでしまおうか、と腰を上げた時、
顔を押さえて臥せっていたアイツが、震える体のまま上体を起こした。
そうだ、お前が俺を殺せばいい。それでお前の気が済むのなら、八つ裂きにされても構わない。
そう思って半歩、アイツの元へ歩み寄ったとき――
「先輩、えっちの時は怖いです。……でも、よかった。これでやっと、伝えられる」

「先輩、好きです」
――世界の色が、一変した。

ああ、これは絶対に夢だ。
「夢でも嘘でもまやかしでも幻聴でもないです。…ほら、僕の手、こんなに暖かい」
飛びのきたくなる衝動を抑えて、そっと指を重ねる。
それは確かに、質量として存在する重さ。体温。しかし――
「僕は先輩に気持ちよくなってもらいたかったんです。人形みたいに動かない僕より、
嫌だ嫌だと抵抗している僕の方が燃えるでしょう?」
そう言ってコノヤロウ、物凄く淫蕩な笑みを浮かべやがった。
「まあ、多少は怖かったですけど……初めてですし」
ああもう黙れ。混乱した頭の中でさっきの獰猛な行為と今が繋がらない。
「実は、今日先輩に渡したモノにちょっと細工をしたんです。
もう僕としたくてしたくてたまらないーってなる、ちょっとした魔法を。
見事成功、見事性交。先輩は気持ちよくなってハッピー、僕も念願叶えてハッピー。
誰も傷ついてないし、誰も損してないでしょ?」
何だこれ、無理矢理だ。おい造物主、出て来い。お前明らかに帳尻あわせだろ。
「……先輩?何黙って――――泣いて、るんですか」
泣いていたのか。気付かなかった。そういえばさっきから視界がぼやけるし、目頭が熱い。
「安心して泣いちゃうなんて、子供みたいですね。……よしよし、僕が慰めてあげますよ」
そう言ってアイツは俺の頭を撫でた。途端に、俺は自分が泣いていることを自覚した。
畜生、何だこいつ。何て奴だ。何でこんなやり方なんだ。何でこんなに、こいつの事が好きになっちまってるんだ。

季節は巡る。
あの夏が終わって、今は冬。
通学路に一本だけ立っている常緑樹の下で、俺は寒さに震えていた。
半年前の事を思い出して、何だか少し、目頭が熱くなる。
結局あの日アイツが俺に掛けた“魔法”とかいう奴の正体は教えてもらえないままだ。
せがんでみても「だから魔法ですよ。一生の内一回、使えるか使えないかわからない魔法です」なんて
わけのわからない事を吐いて、にこにこ微笑むだけだった。

まあ、それでもいいかな、なんて思ってる。
詮索するのは疚しい気持ちがあるからだ。後悔や好奇心なんて、今の俺たちの間にある感情に比べれば
路傍の小石みたいなもんだ。
今、その結果として、俺はこういう風に生活している。
好きなヤツと一緒に居られる事ほど素晴らしい事はない。
もうすぐ俺は卒業してしまうけど、まあそれなりにうまくやっていけるだろう。

「おはようございます、先輩。今日も寒いですねー」
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