- 2010⁄08⁄25(Wed)
- 23:42
健太が叫ぶと
「そこまでだっ」
健太が叫ぶと、中学生達は振り返った。
小中一貫の健太の学校。その人の気配のない、体育館裏である。
体育の授業が終わって教室に戻ると、健太の机の中に脅迫状が放り込まれていた。クラスメイトの理恵をさらったというもので、返してほしければ一人で体育館裏へ来いと書かれていた。
すぐに組織の奴らだと健太は検討をつけた。世界征服を目論む悪の組織イービル。校舎内の者が奴らに通じているということは、調べがついていた。
体操服姿の上下。薄手のシャツに短パンの姿のまま、健太は駆け出していた。
使命のためとはいえ転校の多さに、健太はいつも寂しい思いを感じていた。地球を守るヒーローとはいえ、健太もまだ小学6年生の子供なのだ。転校のたびに離れていく友だち。もう友だちなんて作らないと決めたこともあった。
だが理恵はそんな彼に優しく接してくれた。理恵の身に危険が迫っていると知り、健太は矢も盾もたまらなくなってしまったのだった。
「理恵ちゃんを……離せっ!!」
健太は中学生達に飛び掛かった。
同学年の中でさえ、背の順では前から数えた方が早い健太だ。中学生達との体格差は二回り以上あった。だがその素早さと力は、大人でも太刀打ちできるものではない。いや、人外の力を持った魔獣でさえ太刀打ちできるものではないのだ。
「理恵ちゃん!」
健太は瞬く間に中学生達を沈めると、理恵に駆け寄った。理恵は泣きはらしながら健太に抱きついてきた。健太は頬を染め、一瞬、どうしていいか迷った。その一瞬の隙をつかれていた。
「うっ!!」
下腹部に強烈な衝撃を感じた。
下を見やると、健太の股の下をくぐって後ろから伸びた手が、彼の股間を鷲掴みにしていた。
「うあっ!」
「ケンタくん!?」
「理、理恵ちゃ――うああっ!」
がっしりした中学生の手が、獲物に食い込むように健太の股間を掴んでいる。身体をよじって逃れようとしたが、がっちりと掴んだ手は離れることなく、逆に逸物が強烈にねじり上げられただけだった。
「うわああああ!!」
得体の知れない感覚が全身を走り、力があっという間に身体から抜け落ちていった。
今までも、魔獣との戦いで何度もやられそうになったことはある。全身の骨が折られたことも、バラバラに砕け散りそうなパンチを食らったことだって何度もある。それでもずっとなんとか耐えてきた。痛さや苦しさに対するケンタの耐性は、常人のそれの比ではなかった。
だが、今下腹部から這い上がってくる感覚は、そういったものとは違っていた。健太の防御力を素通りして、直接内部を攻撃してくるような……。
「く、はなせ……あ、ああああっ」
眼前の理恵が、何が起こったのかわからないというように、見開いた目で健太を見つめている。圧倒的な力で上級生達を倒した健太が、何故身体の一部を掴まれただけのことで身動きが取れなくなっているか、わからないのだ。
(理恵ちゃんを……守らなきゃ……)
三度、下腹部に刺激が走った。むぎゅ、と掴み上げられる。
「うああああっ! あっ……」
「どうしたの、ケンタくん」
突然、女の声が聞こえた。理恵の向こう、物陰から姿を現した。
白衣をまとった、ロングヘアの……
「吉永先生……」
振り返り、理恵が言った。
後ろから股間を掴まれ、半ば倒れ込みそうになりながら、健太も見た。
保健の吉永先生だ。反イービル組織の一員であり、健太も何度も世話になったことがある。心の中で、健太は安堵の吐息をついた。
「せ、先生……ぐうっ」
「何をやっているの、ケンタくん」
「た、助けて……。か、身体が……あ、うあぁぁ」
「あなたの力なら、それくらい振り解けるでしょう?」
「ち、力が……入ら……があっ」
「そう……。いくら強いといっても、やっぱり男の子なんだ。計算通りだわ」
「え……?」
逸物をねじり上げられ、苦悶の声をあげながら、健太は吉永を見やった。彼女は口元に酷薄な笑みを浮かべていた。
「反乱組織に潜伏して、君の身体を研究した成果はあったってわけね」
「せ、先生……」
「キミの身体能力は想像以上だった。どんなに強力な魔獣をぶつけても、シミュレーションの結果、こちらの勝率は限りなく低かった。……でもキミの身体を調べるうち、ふと気づいたのよ。〝ここ〟はどうなんだろう。ヒーローといえども所詮は子供。外からの攻撃への耐性は高くても、〝ここ〟への刺激の耐性はどうなのかなって」
「先生……。う、嘘でしょ……」
頭の中ではもうわかっていたが、健太の心は事実を受け止めることを拒んだ。理恵の次にこの学校で信頼していた人物が、まさか裏切り者だなんて信じられない。健太はふるふると首を振った。
「これでも……そんなこと言ってられる?」
吉永は微笑を浮かべると、理恵を押しのけ、健太の前へ立った。股間で蠢く手にすっかり力を奪われた彼の胸へ、そっと自分の手のひらを押し付ける。
「ぐはあっ!」
衝撃とともに、健太の身体は吹き飛ばされていた。体育館の外壁に背中から激突し、壁に亀裂が走る。視界が真っ白に弾けた。
「……が、ぁっ」
頭が揺れ、健太の身体はそのまま前のめりに崩れた。地面に倒れ伏す。
「あっはっは、よわーい。ケンタくん、よわすぎー」
「う……うう……」
歯を食いしばる。なんとか上体を起こし、健太は立ち上がった。
足元がふらつく。普段なら、こんな攻撃でこれほどのダメージは受けなかったはずだ。力を奪われ、防御も受け身もままならなかった。
「先生……本当に……」
「本当に、よ! さあかかってきなさい。……理恵ちゃんを守りたいならね」
「くっ!」
健太は地を蹴った。理恵の名を出された瞬間に、迷いは消し飛んでいた。彼女を傷つけることだけは許さない。
目にも止まらぬ早さで瞬間的に距離を詰め、拳を振り上げ――
吉永がすっと左手を差し出した。
刹那、五本の指が導線の束のように分離し、無数の触手となってケンタを襲った。振り上げたケンタの右腕、左腕、右脚、左脚。
がんじがらめに絡みつく。
「うわあっ!」
ピンと貼った触手に、小柄な健太の身体は宙に大の字に固定された。
「ふふふ、自ら魔獣の改造手術を受けた私に、勝てるかしら?」
「くそ、こんなものっ」
健太は右腕に力をこめた。縛り上げられていた触手がみしみしと音を立て、やがてブツッと大きな音を立てて千切れる。
「こんなもので、負けるかっ」
続いて左腕に力をこめた。圧倒的な力で触手を引きちぎる寸前――
「……!」
触手が、健太の股間を撫でていた。短パンの柔らかい生地の上から、さわさわと。
下腹部から這い寄る感覚に、健太の左腕の力が緩んだ。
すぐさま、触手にぎゅうっと締め付けられる。再生した触手がまた右腕に絡みついた。
股間からの刺激に全身が弛緩し、振り解けない。
「く……くそぉ。な、なんなんだよ……。撫でられただけで……力が……」
「あっはっは。ウブな子供には経験の無い刺激みたいね。いくら強い精神力を持っていても、耐性のない攻撃にはひとたまりもない。ケンタくん、こんなの全然序の口なのよ」
吉永が言うと、触手は動きを変えた。ただ撫でていただけだったものが、尻の方へと移動した。そこからゆっくりと急所の方に、なぞるように移動した。
「あ……あ、はぁっ! な、なん――う、ぁぁぁっ……ぉ」
短パンの上から、竿の裏を通り、亀頭の部分を這う。
未知の刺激に、健太は為す術がなかった。身体をびくびくと震わせながら、なすがままになっているしかなかった。
「ぅ……くぁ……」
「どうしたの? ケンタくん。これしきのことで手も足も出ないの? あーあー、大きくしちゃって。理恵ちゃんが見てるのに恥ずかしいわよ?」
顔を上げると、吉永の後ろから理恵がこちらを見やっていた。起きあがった中学生達に拘束されながら、目を見開いて健太を見やっている。
健太は自分の下腹部を見下ろした。短パンの上から、股間が盛り上がっていた。
よくわからない羞恥と屈辱に、顔が真っ赤になった。
「な、なんだ……これ」
「あっはっは、何、自分のモノが勃つってことすらもわかってなかったの。お話にならないわね。そら、気持ちいいだけじゃないわよ!」
「うぁぁぁっ!」
股間への〝攻撃〟が止むと同時に、触手は掴んでいた健太を放り投げた。健太の身体が放物線を描き、体育館の窓へ頭から飛び込んでいく。受け身を取ることもできず、窓ガラスを破り、健太は体育館の床に転がった。
「う、うう……。み、みんな、逃げ、て……!」
昼休み、体育館でバスケットやバレーボールを楽しんでいた生徒達は、誰も健太の必死の叫びに反応できなかった。短パン姿の小等部の子供が、魔獣と戦っているだなどと、想像もつかなかったのだ。
「み、みん――わあああ!」
裏口から体育館に入ってきていた吉永。再びその触手に片足を掴まれ、健太は宙に逆さ吊りにされた。シャツがまくれ、小さな半裸の上半身が露わになる。
そのままぶるんと振り回され、バスケットのゴールに叩きつけられた。
「ぎゃっ!」
さらにもう一度。
「っぎゃああ!!」
勢いをつけて。
「あっぎゃぁぁぁぁっっ!!! ……わ……ぁぁぅ」
体育館で昼休みを楽しんでいた生徒達は、何度もバスケットゴールに叩きつけられる健太を見ながら、誰一人として動かなかった。動けなかったのだ。突然目の前に現われた魔獣が少年を嬲るのを見ながらも、自分が標的になるのを恐れ、誰もが黙ったまま立ち尽くしていた。体育館には健太の悲鳴だけが響いた。
――どさ。
足を解放され、健太は床の上に落下した。うつ伏せに倒れ伏したまま、ぴくとも動かない。
「どうしたのケンタくん。痛いの?」
吉永が、こつんと爪先で健太を小突く。足で無造作に仰向けにさせられる。
ケンタは大の字に倒れたまま、力ない目で吉永を見上げた。
いつもどおりの白衣と、柔和な声。ケンタが魔獣との闘いで酷い怪我を負ったときは、いつも心配そうに包帯を巻いてくれていた。服を脱いで恥ずかしさにぶっきらぼうになりながら、怪我をした部分を見せるケンタを、いつもおかしそうに笑っていた吉永。
「酷いダメージね。立てる? もう無理かしら?」
「う、う」
「立てる?」
触手がケンタの両脇に絡み、強引に立ち上がらせた。
「せ、先生……」
「情けないなあケンタくん。負けちゃうの?」
吉永が言い、強引に健太のシャツを掴み、引き裂いた。半裸に晒されるが、健太は呻くことしかできない。
「……ま、負け、ない……よ」
「ほんとう?」
「!!」
健太は大きく目を見開いた。
吉永の拳がハンマーのような硬度と化し、健太の腹に下からめりこんでいた。
「お……ぉぁ…!! ぁ……っ」
腕一本で宙に吊り上げられる健太。半開きになった口から苦鳴が漏れる。
健太の腹を抉った拳を、さらにぐりぐりと捻ってみせる吉永。
「うぁっぁぁっ!! ぉぁぁぁぁぁぁぁっ…!」
「ほんとうに負けない?」
ぶん、と吹っ飛ばされ、跳び箱に頭から激突する。
「ぅ、、ぅぅ、、、」
跳び箱の枠にもたれるように倒れた健太。その片足を、無造作に掴む吉永。乱暴にずりずりと少年の身体を引きずって歩く。少年は股を開いた格好で、なすがままに引きずられる。
バスケットボールが山と入ったカゴへ向けて、吉永は健太を一直線に放った。
どっごぉぉぉぉぉんん…………
「ケンタくん、大丈夫?」
ボールが崩れ、ばらばらに転がった中に、健太はうつ伏せに倒れていた。鼻血が垂れ、床を汚している。
両手を伸ばし、這いつくばるような姿勢で、短パン一枚の少年の身体は、ひくひくと震えている。ぎりぎりと床に立てられていた爪が、あまりの強さに音を立てて割れた。
そんな健太を見下ろしながら、吉永は艶然と笑んでみせる。
倒れ伏した健太の傍らに立つと、無防備に屈み込んで、伏せられた少年の顔を覗き込む。
「ほんとうに負けない?」
なんとか視線を上げようとする健太。
睨みつけてやろうとした。闘志を見せてやろうとした。
だが幼いヒーローの無垢な精神は、既に十分すぎるほどに痛めつけられていた。
「あら……泣いちゃうの。かっこわるいな」
健太はしゃくりあげた。
ぼくは負けたんだ、と思った。
少年は楽には殺されなかった。
校舎から逃げ出した生徒や教師、近隣の住民たちは、校舎を取り囲むフェンスの外で、少年がなぶられる声を聞いた。あちこちに据えられた拡声器が、少年のやられる音を、逐一大音量で流していた。
悲鳴。苦鳴。殴る音。
コンクリートの砕ける音。血を吐く音。
(かわいそうに。もうこの左腕、使いものにならないわねぇ)
何か堅いものがぽきんと折れる音。
絶叫。
布の破れる音。甘く囁く声。
噛みしめられる歯の音。何かを揺する音。布の擦れる音。
か細い呻き。嘲笑。
(…………ぁ、ぁぁ……)
びちゃ、と何か液体の滴る音。
惨いことを……と誰かが言った。
誰も何も言えなかった。
夕暮れになり、日が沈んでいく。
人々は立ち尽くしたまま、その凄惨な処刑を聞き届けた。健太の絶叫がいつまでも響いていた。
夜が更け、朝日とともに、徹底的に辱められた少年が、見せしめとして、校舎の時計搭に磔にされた。
変わり果てたその姿を、正視できるものは誰もいなかった。
健太が叫ぶと、中学生達は振り返った。
小中一貫の健太の学校。その人の気配のない、体育館裏である。
体育の授業が終わって教室に戻ると、健太の机の中に脅迫状が放り込まれていた。クラスメイトの理恵をさらったというもので、返してほしければ一人で体育館裏へ来いと書かれていた。
すぐに組織の奴らだと健太は検討をつけた。世界征服を目論む悪の組織イービル。校舎内の者が奴らに通じているということは、調べがついていた。
体操服姿の上下。薄手のシャツに短パンの姿のまま、健太は駆け出していた。
使命のためとはいえ転校の多さに、健太はいつも寂しい思いを感じていた。地球を守るヒーローとはいえ、健太もまだ小学6年生の子供なのだ。転校のたびに離れていく友だち。もう友だちなんて作らないと決めたこともあった。
だが理恵はそんな彼に優しく接してくれた。理恵の身に危険が迫っていると知り、健太は矢も盾もたまらなくなってしまったのだった。
「理恵ちゃんを……離せっ!!」
健太は中学生達に飛び掛かった。
同学年の中でさえ、背の順では前から数えた方が早い健太だ。中学生達との体格差は二回り以上あった。だがその素早さと力は、大人でも太刀打ちできるものではない。いや、人外の力を持った魔獣でさえ太刀打ちできるものではないのだ。
「理恵ちゃん!」
健太は瞬く間に中学生達を沈めると、理恵に駆け寄った。理恵は泣きはらしながら健太に抱きついてきた。健太は頬を染め、一瞬、どうしていいか迷った。その一瞬の隙をつかれていた。
「うっ!!」
下腹部に強烈な衝撃を感じた。
下を見やると、健太の股の下をくぐって後ろから伸びた手が、彼の股間を鷲掴みにしていた。
「うあっ!」
「ケンタくん!?」
「理、理恵ちゃ――うああっ!」
がっしりした中学生の手が、獲物に食い込むように健太の股間を掴んでいる。身体をよじって逃れようとしたが、がっちりと掴んだ手は離れることなく、逆に逸物が強烈にねじり上げられただけだった。
「うわああああ!!」
得体の知れない感覚が全身を走り、力があっという間に身体から抜け落ちていった。
今までも、魔獣との戦いで何度もやられそうになったことはある。全身の骨が折られたことも、バラバラに砕け散りそうなパンチを食らったことだって何度もある。それでもずっとなんとか耐えてきた。痛さや苦しさに対するケンタの耐性は、常人のそれの比ではなかった。
だが、今下腹部から這い上がってくる感覚は、そういったものとは違っていた。健太の防御力を素通りして、直接内部を攻撃してくるような……。
「く、はなせ……あ、ああああっ」
眼前の理恵が、何が起こったのかわからないというように、見開いた目で健太を見つめている。圧倒的な力で上級生達を倒した健太が、何故身体の一部を掴まれただけのことで身動きが取れなくなっているか、わからないのだ。
(理恵ちゃんを……守らなきゃ……)
三度、下腹部に刺激が走った。むぎゅ、と掴み上げられる。
「うああああっ! あっ……」
「どうしたの、ケンタくん」
突然、女の声が聞こえた。理恵の向こう、物陰から姿を現した。
白衣をまとった、ロングヘアの……
「吉永先生……」
振り返り、理恵が言った。
後ろから股間を掴まれ、半ば倒れ込みそうになりながら、健太も見た。
保健の吉永先生だ。反イービル組織の一員であり、健太も何度も世話になったことがある。心の中で、健太は安堵の吐息をついた。
「せ、先生……ぐうっ」
「何をやっているの、ケンタくん」
「た、助けて……。か、身体が……あ、うあぁぁ」
「あなたの力なら、それくらい振り解けるでしょう?」
「ち、力が……入ら……があっ」
「そう……。いくら強いといっても、やっぱり男の子なんだ。計算通りだわ」
「え……?」
逸物をねじり上げられ、苦悶の声をあげながら、健太は吉永を見やった。彼女は口元に酷薄な笑みを浮かべていた。
「反乱組織に潜伏して、君の身体を研究した成果はあったってわけね」
「せ、先生……」
「キミの身体能力は想像以上だった。どんなに強力な魔獣をぶつけても、シミュレーションの結果、こちらの勝率は限りなく低かった。……でもキミの身体を調べるうち、ふと気づいたのよ。〝ここ〟はどうなんだろう。ヒーローといえども所詮は子供。外からの攻撃への耐性は高くても、〝ここ〟への刺激の耐性はどうなのかなって」
「先生……。う、嘘でしょ……」
頭の中ではもうわかっていたが、健太の心は事実を受け止めることを拒んだ。理恵の次にこの学校で信頼していた人物が、まさか裏切り者だなんて信じられない。健太はふるふると首を振った。
「これでも……そんなこと言ってられる?」
吉永は微笑を浮かべると、理恵を押しのけ、健太の前へ立った。股間で蠢く手にすっかり力を奪われた彼の胸へ、そっと自分の手のひらを押し付ける。
「ぐはあっ!」
衝撃とともに、健太の身体は吹き飛ばされていた。体育館の外壁に背中から激突し、壁に亀裂が走る。視界が真っ白に弾けた。
「……が、ぁっ」
頭が揺れ、健太の身体はそのまま前のめりに崩れた。地面に倒れ伏す。
「あっはっは、よわーい。ケンタくん、よわすぎー」
「う……うう……」
歯を食いしばる。なんとか上体を起こし、健太は立ち上がった。
足元がふらつく。普段なら、こんな攻撃でこれほどのダメージは受けなかったはずだ。力を奪われ、防御も受け身もままならなかった。
「先生……本当に……」
「本当に、よ! さあかかってきなさい。……理恵ちゃんを守りたいならね」
「くっ!」
健太は地を蹴った。理恵の名を出された瞬間に、迷いは消し飛んでいた。彼女を傷つけることだけは許さない。
目にも止まらぬ早さで瞬間的に距離を詰め、拳を振り上げ――
吉永がすっと左手を差し出した。
刹那、五本の指が導線の束のように分離し、無数の触手となってケンタを襲った。振り上げたケンタの右腕、左腕、右脚、左脚。
がんじがらめに絡みつく。
「うわあっ!」
ピンと貼った触手に、小柄な健太の身体は宙に大の字に固定された。
「ふふふ、自ら魔獣の改造手術を受けた私に、勝てるかしら?」
「くそ、こんなものっ」
健太は右腕に力をこめた。縛り上げられていた触手がみしみしと音を立て、やがてブツッと大きな音を立てて千切れる。
「こんなもので、負けるかっ」
続いて左腕に力をこめた。圧倒的な力で触手を引きちぎる寸前――
「……!」
触手が、健太の股間を撫でていた。短パンの柔らかい生地の上から、さわさわと。
下腹部から這い寄る感覚に、健太の左腕の力が緩んだ。
すぐさま、触手にぎゅうっと締め付けられる。再生した触手がまた右腕に絡みついた。
股間からの刺激に全身が弛緩し、振り解けない。
「く……くそぉ。な、なんなんだよ……。撫でられただけで……力が……」
「あっはっは。ウブな子供には経験の無い刺激みたいね。いくら強い精神力を持っていても、耐性のない攻撃にはひとたまりもない。ケンタくん、こんなの全然序の口なのよ」
吉永が言うと、触手は動きを変えた。ただ撫でていただけだったものが、尻の方へと移動した。そこからゆっくりと急所の方に、なぞるように移動した。
「あ……あ、はぁっ! な、なん――う、ぁぁぁっ……ぉ」
短パンの上から、竿の裏を通り、亀頭の部分を這う。
未知の刺激に、健太は為す術がなかった。身体をびくびくと震わせながら、なすがままになっているしかなかった。
「ぅ……くぁ……」
「どうしたの? ケンタくん。これしきのことで手も足も出ないの? あーあー、大きくしちゃって。理恵ちゃんが見てるのに恥ずかしいわよ?」
顔を上げると、吉永の後ろから理恵がこちらを見やっていた。起きあがった中学生達に拘束されながら、目を見開いて健太を見やっている。
健太は自分の下腹部を見下ろした。短パンの上から、股間が盛り上がっていた。
よくわからない羞恥と屈辱に、顔が真っ赤になった。
「な、なんだ……これ」
「あっはっは、何、自分のモノが勃つってことすらもわかってなかったの。お話にならないわね。そら、気持ちいいだけじゃないわよ!」
「うぁぁぁっ!」
股間への〝攻撃〟が止むと同時に、触手は掴んでいた健太を放り投げた。健太の身体が放物線を描き、体育館の窓へ頭から飛び込んでいく。受け身を取ることもできず、窓ガラスを破り、健太は体育館の床に転がった。
「う、うう……。み、みんな、逃げ、て……!」
昼休み、体育館でバスケットやバレーボールを楽しんでいた生徒達は、誰も健太の必死の叫びに反応できなかった。短パン姿の小等部の子供が、魔獣と戦っているだなどと、想像もつかなかったのだ。
「み、みん――わあああ!」
裏口から体育館に入ってきていた吉永。再びその触手に片足を掴まれ、健太は宙に逆さ吊りにされた。シャツがまくれ、小さな半裸の上半身が露わになる。
そのままぶるんと振り回され、バスケットのゴールに叩きつけられた。
「ぎゃっ!」
さらにもう一度。
「っぎゃああ!!」
勢いをつけて。
「あっぎゃぁぁぁぁっっ!!! ……わ……ぁぁぅ」
体育館で昼休みを楽しんでいた生徒達は、何度もバスケットゴールに叩きつけられる健太を見ながら、誰一人として動かなかった。動けなかったのだ。突然目の前に現われた魔獣が少年を嬲るのを見ながらも、自分が標的になるのを恐れ、誰もが黙ったまま立ち尽くしていた。体育館には健太の悲鳴だけが響いた。
――どさ。
足を解放され、健太は床の上に落下した。うつ伏せに倒れ伏したまま、ぴくとも動かない。
「どうしたのケンタくん。痛いの?」
吉永が、こつんと爪先で健太を小突く。足で無造作に仰向けにさせられる。
ケンタは大の字に倒れたまま、力ない目で吉永を見上げた。
いつもどおりの白衣と、柔和な声。ケンタが魔獣との闘いで酷い怪我を負ったときは、いつも心配そうに包帯を巻いてくれていた。服を脱いで恥ずかしさにぶっきらぼうになりながら、怪我をした部分を見せるケンタを、いつもおかしそうに笑っていた吉永。
「酷いダメージね。立てる? もう無理かしら?」
「う、う」
「立てる?」
触手がケンタの両脇に絡み、強引に立ち上がらせた。
「せ、先生……」
「情けないなあケンタくん。負けちゃうの?」
吉永が言い、強引に健太のシャツを掴み、引き裂いた。半裸に晒されるが、健太は呻くことしかできない。
「……ま、負け、ない……よ」
「ほんとう?」
「!!」
健太は大きく目を見開いた。
吉永の拳がハンマーのような硬度と化し、健太の腹に下からめりこんでいた。
「お……ぉぁ…!! ぁ……っ」
腕一本で宙に吊り上げられる健太。半開きになった口から苦鳴が漏れる。
健太の腹を抉った拳を、さらにぐりぐりと捻ってみせる吉永。
「うぁっぁぁっ!! ぉぁぁぁぁぁぁぁっ…!」
「ほんとうに負けない?」
ぶん、と吹っ飛ばされ、跳び箱に頭から激突する。
「ぅ、、ぅぅ、、、」
跳び箱の枠にもたれるように倒れた健太。その片足を、無造作に掴む吉永。乱暴にずりずりと少年の身体を引きずって歩く。少年は股を開いた格好で、なすがままに引きずられる。
バスケットボールが山と入ったカゴへ向けて、吉永は健太を一直線に放った。
どっごぉぉぉぉぉんん…………
「ケンタくん、大丈夫?」
ボールが崩れ、ばらばらに転がった中に、健太はうつ伏せに倒れていた。鼻血が垂れ、床を汚している。
両手を伸ばし、這いつくばるような姿勢で、短パン一枚の少年の身体は、ひくひくと震えている。ぎりぎりと床に立てられていた爪が、あまりの強さに音を立てて割れた。
そんな健太を見下ろしながら、吉永は艶然と笑んでみせる。
倒れ伏した健太の傍らに立つと、無防備に屈み込んで、伏せられた少年の顔を覗き込む。
「ほんとうに負けない?」
なんとか視線を上げようとする健太。
睨みつけてやろうとした。闘志を見せてやろうとした。
だが幼いヒーローの無垢な精神は、既に十分すぎるほどに痛めつけられていた。
「あら……泣いちゃうの。かっこわるいな」
健太はしゃくりあげた。
ぼくは負けたんだ、と思った。
少年は楽には殺されなかった。
校舎から逃げ出した生徒や教師、近隣の住民たちは、校舎を取り囲むフェンスの外で、少年がなぶられる声を聞いた。あちこちに据えられた拡声器が、少年のやられる音を、逐一大音量で流していた。
悲鳴。苦鳴。殴る音。
コンクリートの砕ける音。血を吐く音。
(かわいそうに。もうこの左腕、使いものにならないわねぇ)
何か堅いものがぽきんと折れる音。
絶叫。
布の破れる音。甘く囁く声。
噛みしめられる歯の音。何かを揺する音。布の擦れる音。
か細い呻き。嘲笑。
(…………ぁ、ぁぁ……)
びちゃ、と何か液体の滴る音。
惨いことを……と誰かが言った。
誰も何も言えなかった。
夕暮れになり、日が沈んでいく。
人々は立ち尽くしたまま、その凄惨な処刑を聞き届けた。健太の絶叫がいつまでも響いていた。
夜が更け、朝日とともに、徹底的に辱められた少年が、見せしめとして、校舎の時計搭に磔にされた。
変わり果てたその姿を、正視できるものは誰もいなかった。
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